風祭文庫・モランの館






「翔子」
(最終話:門が開く日)


原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-051





”門”が開く日を明日に控えたその日、

翔子は自分がこのディンガの村に来たときに着ていた服や持ってきた物を持ち出すと

小屋の近くのブッシュの中でじっと眺めていた。

そして、

『…あれからもう一年、経つんだ…』

翔子はそう呟きながら自分の手を目線の位置にまで持ち上げると、

黒檀色に染まった肌を眺める。

そう1年前、呪術により翔子は裕也と共にこのディンガの村に来た。

しかし、一人ずつしか帰れないことを知らされた翔子は

自分はここに残り、裕也を先に帰すことを選び、

裕也を門の向こう側へと送り出すと、

1年後、帰れる日を楽しみにこの男の村で牛の世話をしていたのだが、

その翔子を病魔が襲った。

猛暑と乾燥、そして強烈な日射、

この過酷な環境の中で生きていくには翔子の肉体はひ弱すぎたのだ。

病に倒れてしまった翔子は日に日に衰弱し、

ついには生死の境を彷徨い始めた頃、

彼女の容態を心配した長・ンピは呪術師に相談し、

翔子にディンガの肉体を与えることで彼女を救おうとした。

その結果、翔子は病を克服することができたのだが、

しかし、それは翔子がディンガに変身したことを意味していた。

漆黒の肌

長い手足

無駄なく盛り上がった筋肉

そして、股間でいきり勃つオトコのペニス…

目を覚ました翔子にはあまりにもショッキングな自分の姿だった。

ンピより、ディンガ族のアピという名前を与えられた翔子は

一度は絶望に襲われたものの、アピとして逞しくこの村で生きぬいてきた。

そして、明日、

翔子にとって待ちに待った待望の”門”が開く…



『あたし…』

視線を再び衣類に落とした翔子はそう呟くと、

1年間…翔子という女性だった頃のことを思い出そうとした。

けど、変身直後の戸惑いや困惑は今でもはっきりと思い出せるのに

なぜかその前のことが…

特にディンガの村に来る前のことはなぜか記憶に霞が掛かったかのようにはっきりと思い出せない。

『あたし…

 知らない間にディンガになりきっていたんだ…』

翔子はディンガの生活に追われ

長らく元の自分の生活を思い返そうとしなかった自分を悔しく思った。

もし毎日自分を失わないように思い返そうとしていれば

元の自分のことも忘れなかったかもしれないのに…

そう思うと歯痒かった。

『これも…呪術のせいなの?

 あたし、いつか元の自分のことなんか忘れて完全なディンガになってしまうの?』

そう呟く翔子は言い知れぬ不安を感じていた。

初めは慣れなかったディンガの体と生活に何時しかそれを当たり前のように感じている自分。

『あたし…あのときの自分とは違うのね…

 変わってしまったのね…』

翔子は、自分の体を見下ろしながら呟いた。

そして、

ふと、かつての自分が着ていた小さな衣服を眺めた。

一応着方は覚えているが

しかし、服の呼び名はなかなか頭に蘇ってこない。

そして、いつの間にか元の自分の垢のついた衣類から漂うその女の匂いに反応していた。

『はぁはぁ…

 これが…

 元の自分の匂い…』

衣類から漂うその匂いを嗅ぎながらそう呟くと、

翔子は久しぶりに嗅ぐ自分の匂いが、甘くたまらなく感じるのであった。

『ああっ…

 興奮しちゃう…』

翔子の股間のペニスは力強く勃起し、

この一年間、数え切れないほど射精してきた逞しいペニスから我慢汁が滲み出す。

『が、我慢できない…』

翔子は男としての興奮に耐え切れずついにペニスを扱き始めた。

シュッシュッシュッ

『はぁはぁはぁ…』

荒い息を吐きながら翔子は汚れたショーツを手に取りアソコが当たっていた辺りを鼻に押し当てる。

変身する直前まで履いていたそれは当然洗われておらず

染み込んでいた女の匂いに翔子は男の性欲に取り付かれていた。

『あたし…

 元の自分に欲情しているの?』

困惑は隠せないもののディンガの男としての性欲は止められない。

翔子は、左手でショーツをすっかり以前の面影を失った顔に押し当てながら

顎を突き上げて、激しくオナニーする。

今まで幾度となく慰めてきたペニスは当に爆発寸前だった。

『はぁはぁっ、くぅっ』

翔子の漆黒の裸体が精液の発射に備えるように震える。

そして、

『で、出るっ』

久しぶりに男の絶頂を女として意識しながら、

翔子は腰を小刻みに震わせると

シュシュッ!!

っとペニスの先から精液を飛ばしてしまった。



『くはぁはぁはぁはぁ…』

まるで女の体内で射精したかのような…

いつもより激しく興奮したオナニーの余韻に翔子は酔っていた。

そして、朦朧とする意識の中で翔子はいつも感じる自分の中の変化を感じていた。

『ああ…

 やっぱり、オナニーする度にあたしはディンガになっていくんだ…』

翔子は気付いていた。

ディンガの姿になって以降

次第に元の自分を失いつつあることに気づくと、

長・ンピにそのことを相談をした。

すると、

ンピは困惑する翔子を一目見て、

『お前はディンガの男・アピだ、

 いまお前に必要なのはディンガとして生きていくことだ

 それ以外のことは忘れなさい』

と告げた。

『そんな…

 忘れてしまったら、あたし…

 本当にディンガになっちゃうよ』

ンピの言葉に翔子は激しく動揺するが

しかし、オトコの本能は容赦なく翔子をオナニーに駆り立て、

そして、オナニーの直後に訪れる満ち足りた快感が

翔子をディンガに染め、その一方で翔子という人格を消していた。

次第に変わっていく自分に翔子は恐怖を感じる反面、

興奮は今まで以上に強くなったように感じていた。

『ああ、あたし…

 ディンガになっていくのに喜んでいるのかしら?』

翔子は垂れていく精液を手に取って呟いた。

確かに変わっていく自分に興奮する自分がいることは否定できない。

だからこそ、毎日何度もオナニーしているのだ。

『ああっ、駄目。

 また興奮してきちゃう…』

射精し萎えかけたペニスが再び勃起を開始した感覚に翔子はうめいた。

『あたし…

 はぁはぁはぁ…』

そのとき、何を思ったのか翔子は自分が穿いていたショーツに足を通すと引き上げ始めた。

細く引き締まった漆黒の長い足に白いショーツが上っていく。

と同時に翔子の記憶の中に残る女の子だったときの自分の記憶に興奮が更に高ぶっていく。

『あたし…

 女の子だったんだよね?

 なのに、今はこんな体になってるの』

興奮のあまり、震えが止まらないまま翔子はショーツを引き上げた。

伸縮性の高いショーツが翔子のディンガのペニスと睾丸に押され、膨らむ。

絞りきってはいたもののペニスの先にこびり付く精液にショーツは湿り、濡れていく。

一年前は女の子だった股間に聳え立つディンガのペニス。

『ああっ、あたしはディンガの男になっちゃった…

 あたし…

 アピにされちゃったのよぉ』

翔子は興奮を押さえきれず、

パンパンに膨らむショーツの上から濡れたせいで透けて見える漆黒のペニスを擦り出した。

いつもの倍以上翔子の性欲は高まりペニスも最大限勃起する。

『ハァハァハァ…』

懐かしいショーツの感触よりも新たに生えたペニスの感触に興奮する翔子。

ディンガとしての生活は翔子には衣服を着るという感覚を既に失わせていた。

『あっ、あっ、あたし…

 男になってるんだ…

 それもディンガの男にっ』

激しく擦るあまりショーツの脇から飛び出してしまったペニスを掴むように扱き出す。

シュシュシュ

ディンガの言葉で喘ぎ、

ディンガのペニスを扱き、

ディンガの男達と同じ性感を感じている自分。

それに翔子は陶酔していた。

冷静なときは『元に戻りたい』と思っている自分なのに

オナニーしているときはもはや普段の自分ではなかった。

『あたし…

 自分の名前も忘れちゃった…

 数学も英語も忘れちゃった…

 ああっ、頭の中もディンガになりつつあるんだわ。

 ハァハァ!

 気持ちいい。

 嫌だったはずなのに…

 オナニーしてディンガの男の精を吐き出して喜んでるなんて…

 あぁん、もぅでもいいって気持ちになってきちゃう』

翔子は魘されるようにそう呟きながら顎を突き上げ腰を突き出し、

シュシュシュ

と硬く勃起した漆黒のペニスを激しく扱いた。

そして、

『うぐっ』

自分の股間の根元に溜まっていく熱い滾りを思いっきり吐き出すかのように

ブチュッウ…

翔子は各段に濃く、そして粘着質な精液を吐き出した。

『あぁ、また出しちゃった…

 あたしの体から男の精を…』

がっくりと膝をつき自分が吐き出した精を手に取ってその熱さを感じていると、

『あたし…

 言わなくっちゃ…

 裕也にアピになってしまったことを、

 毎日こうしてオチンチンを扱いて生きていくオトコになっちゃったことを、

 あぁ、駄目よ

 あたしは…アピじゃないわ

 ディンガの姿をしているけど、

 でも心はまだ…

 あぁどうしたらいいの』

翔子は頭を抱えながら首を左右に振る。

翔子はまだアピになりきってはなかった。

オトコの欲望に赴くままオナニーを繰り返し、

ディンガの男・アピになってはいっていたが、

しかし、魂はまだ翔子のままだったのだ。

『あぁどうしたら…』

頭を抱え翔子が悩んでいると、

『苦しいのか?

 アピよ』

長・ンピの声が響いた。

『え?』

その声に翔子が顔をあげると、

ブッシュの中を覗き込むようにしてンピが翔子を見つめていた。

『あっ

 いえっ』

ンピの姿に翔子は慌てて衣類などを片付け始めると、

ガサッ

ンピがブッシュの中に入って来るなり、

そっと翔子の肩に手を乗せ、

『アピよ、

 なぜお前が苦しむのが判るか?』

と尋ねた。

『ンピは判るのですか?』

ンピの言葉に翔子は聞き返すと、

『アピよ、

 お前には門をくぐってやらねばならないことがある。

 それを終えたとき、

 アピは一人前のディンガになる。

 判るな』

と告げると、

再び翔子の肩を叩くとブッシュから立ち去っていった。

『あたしがやらなければならないこと…』

一人残された翔子はンピの言葉を復唱すると、

ハッ

あることに気づいた。

そして、

『あたしがしなければならないことは

 それは…』

と呟きながら、

グッ

っと胸に持っていった手をきつく握りしめた。


ディンガの地に再び朝日が昇るとき、

翔子はアピとなるための門が開く…



おわり



この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。