風祭文庫・モラン変身の館






「魂の器」


原作・カギヤッコ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-088





「雄一くん、何作っているの?」

同じ美術サークル員であり、

一応、わたしの想い人でもある雄一くんが

放課後の美術室で何かを作っているのを見つけたわたしは思わず声をかけた。

「うわっ、

 由佳か。
 
 おどかすなよ。」

雄一くんは不意に声をかけられて驚いたのか思いきりのけぞる。

「うふふっ、ごめん。」

驚く雄一くんにわたしは軽く舌を出してウインクすると、

雄一くんもやれやれと言う顔でため息をついた。

ふと机の上に目をやるとそこには20cm位の妖しげな人物像が立っている。

全身真っ黒な中に赤い帯を体に巻き、

その股間とおぼしき場所にはいかにもと言わんばかりの突起が立っていた。

それが何を意味しているかはわたしにもわかるが、

あいにくわたしはまだ彼の"それ"を直接見るまでの仲にはなっていない。

「それって何の像なの?」

ごくあたり前の質問を投げかける。

それに対して雄一くんは、

「ああ、こいつはアフリカのマサイ族を模した人形なんだって。

 何でもかなり古いものらしいけど」

と答える。

「で、その人形がどうしてこんな所にあるの?」

その問いに対して雄一くんは頭をかきながら、

「いやな、民族研究部の友達が「面白い人形がある」と聞いて借りてきたんだけど、

 見ているうちに何げに興味が湧いてきて…ほら」

そう言うと雄一くんは左手に握っていたものをわたしに見せた。

それはまだ色こそ塗ってはいないが明らかに目の前の像を模したものであった。

しかも股間の突起は元の像以上に大きく見える。

「…雄一くん、あなたそう言う趣味があったの?」

それを見たわたしは思わず呆れながら意味もないツッコミを入れてしまう。

「別に良いだろ」

あたしの突っ込みに雄一くんは少しふてくされてしまうと、

わたしは軽い意地悪心から机の人形を取って思わず高々と上げてみた。

「…こうして見るとなかなかよくできているわね…まるで生きているみたい…」

思わず魅入るわたしだったが、

しかし、その耳に…いや、頭の中にキーンと言う音が響いた。

「キャッ!」

「由佳!大丈夫か!」

人形を手放して耳をふさぎながらうずくまるわたしに雄一くんがかけよると、

「う、うん、大丈夫…」

あたしがそう返事をした瞬間、

手放した事で床に倒れ落ちた人形がひとりでにムクリと起き上がった。

「雄一くん…これって…」

「由佳…おれにもわからないよ…」

突然の現象におびえるわたし達。

その時、わたしの頭の中で再びキーンと言う音が響く。

「きゃっ!」

わたしは再び頭を押さえる。

苦痛をこらえながらふと目を向けるとその"音"はあの人形から出ているみたいだ。

「由佳、大丈夫か!」

「ゆ、雄一くん、その人形を…」

パーンッ!!

捨てて、と言おうとした瞬間、人形は大きな音と共に破裂した。

驚く間もなく、その人形から何か煙、いや、霧のようなものが浮かび上がる。

「な、何?」

驚くわたしの耳に三度目のキーンと言う音がする。

そして、次の瞬間、霧はものすごい勢いでわたしの周りを包んだ。

「いやっ、放して!」

「由佳!」

雄一くんが必死でわたしを霧の中から出そうとするが

霧の壁に阻まれその手は届かない。

さらに霧の流れがまるで竜巻のように動き出すと雄一くんの体は壁に弾き飛ばされる。

「グワッ!」

「雄一くん!」

わたしは涙声で叫ぶ。

幸い雄一くんは無事みたいだが、

何か見えない力に押さえられているのか身動きが取れず必死でもがいている。

わたしも同じ様に霧の中で身動きが取れずにいた。

そんな時、霧の流れが激しさを増した。

そして、わたしの体に変化が起こり始めた。

シュワワワワワ…。

「え?

 そんな、服が…」

わたしの服が霧の中に溶けていく。

ブラウス、

スカート、

靴、

ソックス、

ブラ、

そしてショーツ…

あっと言う間にわたしは裸にされてしまった。

雄一くんの手前、わたしは恥ずかしさから体を隠そうとしたかったが

それもできないまま霧の中で一糸まとわぬ姿をさらしている。

ふとそのとき、

恐怖と羞恥におびえるわたしの耳にまたしてもキーンと言う音と共に何か声が響いてきた。

"器…おれが甦る為の器…。"

「器?

 器ってまさか、わたし?」

そう言うが早いか、霧はさらに速度を増すと

わたしの…わたしの股間、そう"女の子"の中に入り込み始めた。

シュルルルルルルルル!

「ひっ!」

感触こそないが、でも、ものすごい勢いで

わたしの中に入り込む霧の勢いにわたしは思わず声を上げてしまう。

そして霧が全てわたしの中に入り込んだ時、わたしはガクンと膝から倒れ込んでしまった。

「由佳…大丈夫か…?」

ようやく呪縛が解けたのか、よろめきながらも雄一くんがかけよってくる。

痴態を見られてわたしの恥ずかしさは頂点に達していたが、

しかし、まだ体を動かす事はできず、少し目をそらすのがやっとだった。

そして雄一くんが上着を脱いでわたしにかけようとした時、

ビクン!

「あうっ!」

わたしの中で何かが大きく脈打った。

その勢いでわたしは思わず姿勢を崩すが、

直後に両足がしっかりと地面を踏みしめ、

わたしはスクッと仁王立ち状態になる。

「由佳…」

雄一くんは驚きの余り手にしていた上着を落としてしまう。

わたしも何が何やらわからないままおののく。

ビクン!

「あっ!」

またわたしの体が脈を打つ。

それを皮切りにわたしの中で何かがみなぎり始める。

「あ、あっ、熱い…熱いわ…」

全身を駆け巡る熱さと力、そしてそれがもたらす快感に大きく全身で息をするわたし。

ドクッ、

ドクッ、

ドクッ、

ドッ、

ドッ、

ドッ…。

心臓の鼓動がだんだん激しくなってくる。

そして、

"さあ、器よ、おれを受け入れろ!"

さっきの声が頭の中に響いた。

とそのとき、

「由佳、しっかりしろ!」

雄一くんが両肩を掴んだ。

わたしの意識を呼び戻そうとしたのだろうけど、

でもわたしは、

「邪魔しないで!」

と叫んでしまうと、雄一くんを大きく突き飛ばしてしまった。

「はぁ、

 はぁ、
 
 あぁなんだか…いい感じ…アウッ!」

瞬間、わたしの頭の中に何かが入り込むと、

それに合わせるとうに股間に違和感が走った。

「そ、そんな…」

股間に手を伸ばした時、わたしの中に戦慄が走る。

女として生まれた以上確かにあるはずの感触が消えているのだ。

余り味わう事のない性的感触どころか単純な触覚さえも…。

ピクッ!

「アウッ!」

次の瞬間、わたしの体がまた大きくのけぞる。

消えたはずの"女の子"の感触がまとめてくるような感触。

そして、それと同時に再びわたしの体は自分の意志では動かせなくなってしまう。

「あっ、あっ、ああっ…」

ジワジワジワジワ…。

全身が心臓になったかのように激しく脈打つ中、

わたしの肌は白がかった肌色から褐色、そして黒へと変化して行く。

グキッゴキグキッ!

「あううっ!」

同時に全身が激しくきしみ始めたかと思うと両手両足、

そして全身が大きく伸び始める。

ムニュムニュ…

グググ…。

「ああん…ううっ…」

全身の筋肉が急激に膨らみ始め、

大きくはないはそこそこあった胸のふくらみが熱い胸板に消え、

そこそこスマートだったおなかにもたくましい腹筋が刻まれていく。

ぶわぁぁぁぁぁぁっ…。

「あうっ…ヘンな…でも…懐かしい…」

全身から吹き出した土の匂いに思わず恍惚となるが

何とか自分を立て直そうとする。

"いい…いいぞ…どんどんおれの姿になって行く…"

またあの声だ。もしかするとこの姿って…。

「そう、おれの体だ。

 失われたおれの体だ」

わたしの口から、わたしの声でそいつは言った。

「おれはマサイでも指折りのモランだった。

 指の数に収まらないほどのシンバを仕留め、それ以上に多くの女を抱いた。
 
 しかし、ある狩りの中、おれはあるシンバと戦い深手を負った。
 
 虫の息の中おれは呪術師からおれの魂を封じ、
 
 適応した肉体に宿って甦る術を受けた。
 
 そして遂におれはその時を迎えたのだ」

そんな…わたしは唖然とした。

しかし、既にわたしの体は九分九厘マサイの体になっている。

そしてその精神も少しづつ、確実にマサイに飲まれている。

「いやっ、

 わたし…
 
 マサイなんかに…あんっ!」

快感が走ると同時に喉仏が盛り上がる。

「フフフ…

 口では抵抗しながらもお前は既におれを受け入れている。
 
 もう少しでお前は完全におれになるのだ」

たくましい男の声でわたし…じゃない、マサイは言った。

「そんな事…させるか!」

ふと別の声が耳に入る。

「雄一…くん!」

雄一くんは必死で起き上がると猛然とわたしに殴りかかってきた。

もちろんわたしではなく、わたしを蝕むマサイに目がけて…

「邪魔をするなと言った!」

次の瞬間、わたしは強烈なカウンターを雄一くんのみぞおちに叩きこんでいた。

「ぐ…」

「雄一くん…あんっ!」

「さあ、邪魔者は消えた。

 いよいよおれは甦るのだ!うりゃ!」

「いやーぁぁぁぁぁぁぁぁ…

 あんっ!」

さらに強い勢いでマサイはわたしの中に入り込む。

「いやっ…

 ダメ…
 
 でも…
 
 いい…
 
 溶けちゃう…
 
 わたしが…
 
 何もかも…
 
 消えちゃう…
 
 でも…
 
 いや…
 
 雄一…くん…
 
 助けて…
 
 いや…このままで…」

もはやわたしの意識はドロドロになっている。

由佳として生きてきた全てが既に雪解けあとのぬかるみのようにグジャグジャになり、

その下から新しい何かが現れようとしている。

もはやわたしに抗う術はない。そして…

「あっ、

 あんっ、
 
 あう、
 
 おっ、おうっ、
 
 おおっ、おお…
 
 うおおおおおおおおおおっ!」

ムキブニュウ!

ニョロン…!!

絶叫の瞬間、全身をつきぬける衝撃と共に、

ふさがっていた股間から黒くてたくましい肉の槍と

それを支える二つの玉をさせた肉の袋が股間から吹き出した。



「……」

まだ残るけだるさを感じながらおれは全身を見渡す。

野性の大地に鍛えられたたくましい肉体。

引き締まった手足。

そしてモランの証とも言える黒々としたたくましいモノ。

「ああ…

 おれの…
 
 おれの体だ…」

久しぶりに味わう体の感触におれの心は震える。

さっそくここで"証"を立てたかったが、

こんなみょうちくりんな部屋にいるよりかはサバンナに帰ってからの方がいいだろう。

おれはボソボソと呪文を唱える。

呪術師がおれが甦ったときに唱えろと言った呪文だ。

次の瞬間、おれの身体にシュカが巻きつく。

「うっ…」

懐かしいシュカに包まれていく感触。

おれは確かに甦ったのだ。

そして手をかざすとその中におれが使っていた槍が握られる。

そして、最後の呪文―サバンナに帰る呪文を唱える。

サワ…。

風の流れのない部屋の中からおれの背中を拭きぬけるように風が吹く。

そして、その流れはおれの目の前に集まり渦を作る。

その中には懐かしいサバンナの光景が見える。

早くあそこに帰りたい。

もっと多くのシンバを倒し、もっと多くの女を抱きたい。

俺の中に熱いものがムラムラとたぎってゆく。

おれが一歩足を踏み出そうとした瞬間、足元を何かがつかむ。

「何だ?」

ふと見ると、おれの足元に何度もおれの復活を邪魔しようとした男がしがみついていた。

「この野郎…

 由佳を…
 
 由佳を返せ…」

そいつの頭をおれは何度も踏みつけるが、

そいつは訳のわからない事を言いながらなおもしがみつこうとする。

「しかたねえな…

 こいつも連れて行くか…
 
 あの呪術師が生きていればこいつをおれの嫁にしてやるか…」

おれがそうつぶやいた時、

ドスッ!

「グオッ!」

股間に激しい痛みを感じた。

見るとおれのモノとタマの真下に深々と白い棒のようなものが刺さっている。

あの男が苦し紛れに突き立てたのだ。

「くそっ!」

おれはそいつを思いきり蹴飛ばす。

それと同時に白い棒はおれの股間から離れ渦の中に消えていく。

おれは忌々しそうにそいつをにらむが、早くしないと呪文の効果が消えてしまう。

さっさと渦に入ろうとした時、

ピクッ!

「おうっ!?」

おれの体を衝撃が走った。

ググッ、

ピクッ、

ムググ…。

「な、何だ、この感じは…

 力が…力が抜けていく…」

棒を突き立てられた所から何かが抜け出していく。

そして渦の中に消えてゆく。

そして同時におれの体が縮み始める。

ググッ、

ムニュッ、

ズズッ…。

「オウッ、体が、しぼんでいく…」

力が抜けると同時におれの体はみるみる小さく、白くしぼんでいく。

手足は細くなり、筋肉も消えていく。

胸板からも妙なふくらみが生えてくる。

ニュウッ、

ニュウッ、

ニュウッ…。

「そんな…

 おれのモノが…」

さらに決定的な事に、

股間のイチモツがジワジワ縮み始める。

そして遂におれの体の中に引っ込んでしまった。

モランとしての全てを奪われた絶望がおれを襲うが、

フワァッと全身から吹き出した甘い匂いがおれの鼻を付く。

「あんっ!」

か細く、高い声がおれの喉から出る。

それと同時におれの体は甦った時同様に大きく脈打ち、しなり始める。

その動きはおれが抱いたどんな女よりも激しい動きだった。

「ああ…

 そんな…
 
 おれが…
 
 おれが…
 
 消える…
 
 でも…なんだか…いい…」

どんなシンバと戦った時も、

今までどんな女を抱いた時も感じた事のない衝撃と感触がおれを襲う。

そして一番大きな波がおれを襲ってきた。

「あっ、

 あっ、
 
 あっ…

 あああああああああぁーんっ!」

全身を衝撃が走り、

絶叫と共に股間から何かを吹き出す感触を覚えながら

おれはドウッと倒れ意識を失った。

「…佳、由佳、しっかりしろ、大丈夫か?」

聞きなれた声が耳に響く。

「ん、んんん…

 雄一くん…?」

「由佳!由佳なんだな?」

目を覚ますやわたしはいきなり抱きしめられる。

「わたし…

 わたしは一体…」

何が何やらわからないまま、わたしは座り込んだ姿勢で全身を見渡す。

いつの間にかけられた上着越しにも見える白く透き通った肌に細眺めの手足。

そこそこの大きさと形の胸に…。

「キャッ!

 わたし、女の子になってる!」

ふと身に着けていた朱染めのシュカが目に入り、

わたしは思わず股間を手で隠してしまう。

こっそり触ってみるがもちろんそこも"女の子の感触"だ。

「由佳…元に戻ったんだな…」

わたしを知っているのだろうか、目の前の彼は思いきり涙ぐむ。

「由佳…

 それが…わたしの名前…?」

記憶が混乱しているのか彼の事、

そして自分の事が思い出せない。

「そうだよ。お前の名前は由佳。

 そしておれは雄一だ。
 
 お前はマサイのモランから元の女の子の由佳に戻ったんだよ!」

そう言って彼はわたしの両肩を揺さぶる。

そうしているうちに少しずつ記憶が甦る。

彼がモデルにしていたマサイの人形に宿っていた魂に取り付かれ

マサイになってしまった事、

そして彼が必死でわたしを助けようとしていた事が甦る。

そしてわたしが誰だったのかも…。

「雄一くん!」

記憶を取り戻したわたしは思わず彼−雄一君に抱きつき、

そのまま倒れこんでしまった。

「ハァ、ハァ…

 ゆう、いち、くん…」

「由佳…

 お前、こんなに大胆だったのかよ…?」

誰もいない部室。

わたしと雄一くんは生まれたままの姿で抱き合っていた。

今までこんな事したくてもできなかったのに、

今のわたしは自然に彼を求め、受け入れる事ができる。

もしかして一度身も心もモランになっていた事が原因なのだろうか。

実際、いまわたしは体中に今までにない力がみなぎるのを感じながら体を動かしていた。

わたしをヨリシロにしようとしていた―

わたしがなろうとしていたモランもこう言う風に女の人を求めていたのだろうか。

でも、いまのわたしはモランではない。

体にみなぎる力はモランのままだとしても、身も、そして心も女の子の由佳なのだ。

「雄一くん…

 わたし…誰…?」

「由佳…由佳だよ…

 女の子の由佳だよ…」

「由佳…わたし…

 由佳…女…
 
 わたし…由佳…女…」

いつしかわたしは「由佳」と呼ばれるだけで感じ始めていた。

わたしが今まで名乗ってきた名前。

そしてこれからも名乗る名前。

その言葉を聴くだけでわたしの心は締め上げられ突き抜けるような快感に酔える。

「由佳、

 由佳、
 
 由佳…
 
 わたしは…由佳…」

「由佳、

 由佳、
 
 お前は…由佳…」

互いに突き抜ける快感の中、

わたしと雄一くんはともに「ユカーッ!」と叫ぶとばたりと倒れしばらく動けなかった。

「…雄一くん、

 どうやってわたしを助けてくれたの?」

体が動かせるようになったあと、

 わたしはそれとなく聞いて見た。

「ああ、実はあの時…」

雄一くんがそう言いかけた時、わたしの脳裏に何かがひらめいた。

あの時、マサイが眠っていた像を見ながら作っていたあの像。

あの像がわたしを由佳に戻してくれたのだ。

「いやな、

 あの像に宿っていた魂のせいでお前が変身したのならもしかすると、と思ってな」

照れくさそうに雄一くんが説明をすると、

それを聞いたわたしは意地悪心を起こして、

「じゃあ、もしそれでわたしがマサイのままだったら?」

と聞いてみる。

「その時は…その時さ!

 実際お前は由佳としてここにいるんだし」

雄一くんはそう答えてくれた。

今のわたしにはそれだけで嬉しかった。

「雄一くん…わたしのモラン…」

そうつぶやき、もう一度彼を抱きしめようとする。

その時、

キーン…。

ムクッ!

「そんな!」

もうありえないはずの音が頭に響き、感覚が股間を襲う。

「由佳!」

「雄一くん…わたし…」

最悪の事態を脳裏に浮かべながらも必死に抵抗しようとする。

苦痛をこらえながら下腹部を見ると、今度はわたしの下腹部が大きく膨らんでいた。

「え?

 え?
 
 ええっ?」

驚きながら大きくなるおなかを見つめるわたし。

その姿はまるで妊婦である。

さすがにマサイの次はママになるなんて言う展開は予想外である。

ブクブクブクッ!

「ううっ!」

そんな事もお構いなくわたしのおなかはどんどん大きくなる。

そして…。

ポンッ!

「ウッ!」

何かが飛び出す感覚でわたしは大きくのけぞった。

「ふう、ふう、ふうっ…」

苦痛と快感でしばらく動けなかったが、雄一くんの声に我に返り何とか体を起こす。

そこには…。

「そんな…」

おそらくわたしから生まれたであろう人影が見る見る大きくなり、すっくと立ち上がる。

その姿は…マサイになったわたし―じゃない、

わたしを乗っ取ろうとしていたマサイのものだった。

「…器よ、そして"白きモラン"よ。おれはお前達の受胎を受ける事で甦る事ができた。

 この体は実に素晴らしい。器に宿った時以上に力がみなぎる」

そう言ってマサイは深々と頭を下げると、

彼は再び槍を手に取り、

シュカを身につけ、

「さらばだ」

と一事言うや渦の中に消えて行った。

雄一くんは大きく口を上げながら、わたしは静かにおなかをさすりながら。

リアクションこそ違ったがわたし達は呆然とそれを見送る事しかできなかった。



おわり



この作品はカギヤッコさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。