風祭文庫・モラン変身の館






「赤い砂塵」
(第2話:砂塵の正体)


作・風祭玲

Vol.978





「そんな…

 舞子が男に…」

娘を名乗る少年の告白にわたしは衝撃を受けると、

少年は上目遣いでわたしを見つめながら、

「ぱっパパぁ、

 まっまっ舞子、どっ土人になっちゃっている?

 もっもぅ誰が見てもどっ土人のおっおっ男の子になっちゃっている?」

と尋ねてきた。

「うっ」

細面の顔つき、

着きだした眼窩、

厚い唇、

漆黒の肌と股間のイチモツ…

自分の娘がアフリカ・ボディ族の少年と見分けがつかない姿になっている事にわたしは絶句してしまっていた。

「どっどうしよう、

 まっ舞子、こっこんな姿ではもっもぅがっ学校に行けないよぉ!」

固まったままのわたしを見上げながら少年は両手で顔を覆い泣き出し始めると、

「まっ舞子…」

ボディ族の少年に向かって愛娘の名前を呼ぶことに抵抗を感じながらもわたしは声を掛け、

「ママは?

 ママはどうしているんだ?」

と妻・光代について尋ねた。

すると、

「まっママは…

 もっもぅすっかりどっ土人よ、

 みっみんなどっ土人になっちゃって…

 そっそれで、どっ土人になったまっママはあっあたしに

 べっ勉強なんかしないで、うっウシの世話をしろ。

 っていっ言って

 こっこの棒をむっ無理矢理渡して

 たったくさんのうっうっウシを連れてきてめっ命令をしてきたの」

そう訴えながら、

少年は皮を剥き使い込んだ木の棒をわたしに見せたのであった。



「これは…

 あの時の」

その棒を見た途端、

わたしはあの霧の中で出合った少年が持っていた棒と同じものであることに気づくと、

声を詰まらせてしまう。

すると、

「あっあふんっ…

 だっだめ、

 だっだめよ、こっこっこんなところで…

 ぱっパパがいるの。

 やっやめて…」

突然少年は喘ぎ始め、

潰れた鼻の穴を横に大きく広げて股間に手を這わせていく、

そして、

「あはんっ

 あんっ
 
 あんっ
 
 だっだめ、かっ感じちゃう。
 
 あぁん、きっ気持ちいいよぉ」

そう訴えながら腰を落とし、

唯一身につけている服であるスカートをたくし上げると、

わたしに向かって股間を大きく開いて見せるなり、

シュッシュッ

シュッシュッシュッ

露わになった漆黒のイチモツを見せ付けるようにして扱き始めだしたのであった。

「まっ舞子ぉ!

 おまえなんて事を!」

衝撃の光景にわたしは声を引きつらせるが、

少年のイチモツは彼の手の中で見る見る長さと膨らみを増し、

プリュ!

とその先端を剥いて見せる。

「はぁん、

 イリガが剥けるこの感触が好きぃ」

ツルリとした亀頭を飛び出させながら少年はそう訴えると、

トロ…

その亀頭の先端より透明な粘液を垂れ流し始めた。

そして、

ネチャネチャ

シュッシュッ

その粘液を手に絡ませながら手の動きを早めさせると、

「はぁはぁ

 ぱっパパぁ、

 まっ舞子はだっだめな子です。

 はぁはぁ

 どっ土人のおっ男の子になってから

 まっ毎日なっ何回もこっこんな事をしているの。

 でっでも、

 でも、こっこうするととっとってもきっ気持ちがよっ良くなっちゃって、

 いっイヤなことをみっみんなわっ忘れられるのよ。

 とっとっても気持ちいいの…

 んはぁ

 ねっねぇ、ぱっパパぁ見てぇ、

 まっ舞子がしっ白いおっオシッコをするところを。

 しっ白いおっオシッコをするとね、

 おっ覚えていたことがみっみんなまっ舞子のあっ頭の中からとっ飛んでいくの。

 あぁんきっ気持ちいいよぉ、

 あぁん

 あぁん

 あぁぁぁ…

 ぱっぱっパパぁ…

 まっ舞子は、まっ舞子のままで…いっいたいの。

 でも、あっあたしの中にいるどっ土人の子があたしをどっ土人にしようとしているの。

 ぱっパパ、おっお願い。

 まっ舞子をもっ元の舞子に戻して、

 どっ土人になんてなりたくない……」

幾度も声を詰まらせ少年はそう訴えるが、

「んっくぅぅぅ!!!」

射精が近くなってきたのか、

体をピクピクと痙攣させさらに厚い唇を尖らせて見せると、

「うっ」

眉間に皺を寄せて身体に力を入れた。

その途端、

プッ!

シュッシュシュシュシュッ!!!

少年の黒い股間から白い筋が一気に伸び、

パタッ

パタパタパタパタ…

赤茶色の砂と石が覆う道路上に一直線に並ぶ黒い斑点を作って見せる。

「舞子…

 お前、なんてことを…」

ボディ族になってしまったとは言え、

父親の目の前で射精をしてみせた娘の姿にわたしは声を失ってしまうと、

ニタァ…

少年は言葉に出来ない笑みを浮かべながらわたしを見上げ、

『くくっ

 くくくっ』

と笑い声を上げはじめた。

そして、

『やぁ、久しぶり』

と口調を替え、ボディ族の言葉で話しかけて来たのである。

『おっお前は!』

聞き覚えのある口調にわたしはボディ族の言葉で怒鳴り声を上げると、

『そうか、

 この身体は君の娘さんのだったのか、

 どうも、すんなりと入れたと思ったよ』

あの砂塵の中で出合ったときのように少年はなれなれしく話しかけてくる。

『お前は、あの時のボディ族の子供!』

少年を指さしわたしは声を上げると、

『あの時はどうも、

 この地はとても住みやすくて良い、

 ちょっと雨が多くて冬が寒いみたいだけど、

 でも、それくらい調整は利く。

 うん、とても良いところだ』

そう言いながら少年は茶褐色に染められた縮れ毛が覆う頭をポリポリと掻いて見せると、

『おいっ、

 舞子の身体からさっさと出て行け!

 そして、舞子やみんなを元の姿に戻せ』

少年に向かってわたしは怒鳴るが、

『やだなぁ…

 約束したじゃないか、

 向こうの山を手放す代わりに厄介になるって』

と少年はあの時の約束を指摘し、

『ん?

 まだこんなのを身体に付けていたのか…

 厄介だなぁ』

ぼろ布同然となっているスカートが腰に付いていることに気づくと、

邪魔なのかその裾を引っ張って見せた。

『やめろ!』

引っ張ることに崩れていくスカートを見たわたしは思わず注意すると、

『こんなのを身体に纏っていたんじゃ邪魔で仕方がないよ、

 まったく、僕が幾ら脱いでもスグにこんなものを着てしまって油断も隙もない。

 君たちはなんで、このようなものを身に纏おうとするんだい?』

と平然と尋ねて見せる。

『うっうるさいっ、

 年中裸で暮らしているお前達と舞子は違うんだよ。

 判ったらさっさと舞子を戻せ!』

少年の口調に苛立ちながらわたしは命令するが、

『あはは、

 何を馬鹿なことを…

 僕たちは出ては行かないよ、

 ここ以外に行くところがないからね』

と少年は言い返す。

『貴様ぁ!

 まさかこんな事になるなんて…

 まっ舞子からさっさと出て行け!

 さぁ!

 さぁ!』

その言葉を聞いたわたしは拳を振り上げて少年をはり倒そうとするが、

『そこで言うのなら、

 じゃぁもう一回、娘の舞子さんに出てきて貰おうか』

と少年が呟いた途端、

「ぱっパパ、やめて!」

急に少年の表情が変わり

舞子の口調でわたしの拳を止めさたのであった。

「さっさっき、

 ぱっパパにはどっ土人になりたくない。っていっいっ言ったけど、

 まっ舞子はもぅりっりっ立派などっ土人なんです」

わたしを見つめながら少年はそう訴え始めると、

「舞子、

 お前、何を…」

その言葉にわたしは驚く。

「イリガが生えて、

 そっそれを弄るときっ気持ちが良いことを知ったまっ舞子は

 うっウシのおっオシッコで身体を洗い、

 うっウシのウンチのベッドで寝ています。

 そっその時のまっ舞子はふっ服なんて着ていません。

 まっママやみっみんなとおっ同じ裸で…

 イリガを弄りながらねっ寝ているんです。

 どっ土人のこっ言葉を話し、

 どっ土人のうっ歌を歌い、

 まっ毎日うっウシを追い、

 そっそしてうっウシと一緒になって生きるまっ舞子は…

 舞子は…

 もっもっもぅ土人なんです。

 ぱっパパ…だっ黙ってごめんなさい。

 まっ舞子はもっもぅ字を書けません。

 かっ数も数えられません。

 まっ舞子の頭の中はどっ土人になっなっているんです。

 もっもし、いっいまここで元の舞子に戻っても…

 まっ舞子は頭の中が土人のただのおっお馬鹿さん。なんです。

 だっだから、

 だから、

 おっお願い、まっ舞子をどっ土人として見て、

 どっ土人のおっ男の子として接して欲しいの。

 うっウシを追うことしかでっ出来ないどっ土人の男の子。

 そっそうしてくれれば

 まっ舞子はとってもきっ気が楽になれるし、

 こっ心の底からどっ土人になれるの」

と心の中を暴露したのであった。

「舞子…

 お前は…」

その言葉にわたしは何も言えなくなってしまうと、

ニタァ…

再び少年の表情が変わり、

『あはは、

 聞いての通り。

 君の娘は君からボディとして扱われることを望んでいるのさ、

 そして、君がそれを聞き入れればいんだよ。

 ボディの男としてな』

と告げる。

『お前はぁ!』

不敵に笑って見せる少年を睨み付けてわたしは怒鳴ると、

パンパン!

さらに少年の頬を2・3回叩く、

そして、

「舞子ぉ、

 しっかりするんだ舞子ぉ!」

と声を張り上げるが、

だが、

『あはは、無駄だ無駄。

 自分の気持ちを伝えた娘はお前からボディとして扱われるのを待っているんだ。

 お前が僕の名前であるツンと呼びかけるまでもぅ出てきはしないよ』

そう少年はわたしに告げると、

「くっそぉ!」

わたしは歯ぎしりし、

少年を無理矢理担ぎ上げると山道を降り始めた。

『おいっ

 なにをするんだ、

 離せ、

 ウシを置いてどうする気だ!』

立ちつくすウシをそのままに山道を降り始めたわたしに向かって少年は怒鳴るが、

「うるせーっ!」

少年に向かってわたしは怒鳴り、

パシッ!

「ジタバタするなっ」

足をばたつかせて抵抗する少年の尻を思いっきり叩いて見せる。



長い山道を下り、

土壁の丸い小屋が建ち並ぶボディ族の村となった向日葵台にわたしは到着すると、

「光代ぉ!

 光代はどこだぁ!」

と妻の名前を叫びながら村の中を駆け回り始める。

『何をする気だ?』

自分を抱えたまま妻の名前を呼び続けるわたしに向かって少年は尋ねるが、

「光代ぉ!」

わたしは狂ったかのように妻の名前を叫び続けながら、

漆黒の肌を晒し身体に首と腰に飾り紐を付けただけの村人の中を駆け抜けて行くが、

ついに、

「光代ぉ…

 一体何処にいるんだ…」

疲れ果ててしまったのかわたしはその足を止めると、

担いでいた少年を放り出し、

ドッカ

っと村の中に転がっている岩へ腰を下ろした。

『アイタタタ…

 お前無茶しやがって、

 おいっ、

 ウシをほっぽり出させてどうするんだ。

 あのウシはみんなの生きる糧なんだぞ』

ガックリと項垂れるわたしに向かって少年は怒鳴ると、

『だったらウシのところに戻ればいいだろう』

と項垂れたままのわたしは呟く。

『お前なぁ!』

そんなわたしに少年はくってかかると、

グッ!

いきなり少年の縮れた髪が鷲づかみにされ、

『わたしは諦めないからな、

 わたしはお前等を追い出して妻と娘を取り戻すからな」

と言い聞かせるが、

『はんっ、

 そんなことが出来るのならやってみろ』

ケンカの口調で少年は返事をしながらわたしの手をふりほどくと、

『まったく、

 余計な手間を取らせやがって』

と捨て台詞を遺してわたしの前から去って行った。



ザワザワ

ザワザワ

それ以降岩に座ったままのわたしを村人達は遠巻きに取り巻き物珍しそうに見るが、

だが、わたしに声を掛けるものはなく、

その村人も向日葵台の住民だった頃の記憶を失ってしまっているのか、

わたしの姿を一目見ると何処となく去って行く。

まるで見せ物のような一日が過ぎ、

西に傾いた日が赤茶けた山の裾に掛かると、

乾燥している村は一気に冷え込んでくる。

「寒い…」

急激に冷えてくる空気を感じながらわたしは顔を上げると、

彼の前の前に黒々とした裸体を晒す筋骨逞しい成人の男が1人立っていた。

「なんだ?」

一日中、どこかで土でも弄っていたのか、

男は土がこびりついている節くれ立った棒を担ぎ、

胸や腰のトンボ玉の飾り紐もとより、

体中に乾いた土を擦り付けている。

そして、ひさしの如く突き出した眼窩のために奥まってしまった目でジッとわたしを見つめていると、

『何か用か?』

男に向かってわたしは投げやりのような口調で話しかけるが、

『………………』

男はしばらくの間黙ったのち、

ゆっくりとわたしを指さすと、

『おまえ…

 知っている。

 でも、判らない』

と唸るような声で話し始める。

「何を言っているんだ、こいつは…

 俺のことを知っている?

 誰だ?」

そう思いながらわたしは男を見ていると、

「なんだ、まだそこにいたのか?」

とあの少年の声が響いたのであった。

「え?」

振り返るとわたしの隣に舞子が変身させられたあの少年が立っていたのであった。

「舞子ぉ…」

戻ってきた少年を見てわたしは驚くが、

さらに驚いたのは

『おいっ、

 ツツ!

 お前の仕事は終わったのか?』

と男に向かって少年は尋ねると、

コクリ

男は黙って頷き、

『その人、

 知っているけど、

 判らない。

 誰?

 誰なの?』

と少年に向かって尋ねる。

『そっか、

 前の奴の記憶が残っていたか、

 往生際が悪い奴だな』

尋ねる男を横目で見ながら少年は舌打ちをすると、

『なにも思い出すな、

 お前はボディのツツとして暮らせばいい』

そう話しかけながら少年は男の背中に手を添える。

すると、

『!!っ

 何をするっ』

急に少年の声が上がると、

男の背中に添えていた手が動いて男の身体を掴み、

「ぱっパパぁ…

 こっこの人はまっママよ。

 まっママはこっこんなどっ土人になってしまったの…」

と訴えながら少年はわたしに話しかけてきたのである。

「舞子?

 それって…

 まさか、

 この男が光代だというのか!」

それを聞いたわたしは少年に向かって聞き返すと、

「そっそうよ、

 まっ舞子とぱっパパのまっママよ。

 まっママはあっあたしにうっウシ飼いに行かせた後、

 やっ山の近くでこっこの棒一本でつっ土をほっ掘り起こしてはっ畑を作っているのよ」

と事情を話す。

「そうか、

 そうだったのか、

 光代…」

全てを聞かされたわたしは少年が押さえる男に近づくいていくと、

『帰りが遅くなてごめん』

とボディ族の言葉で優しく話しかけたのであった。

すると、

『あっあっあっあぁぁぁぁ…』

男はわたしを指さし、

そして、

『あっあぁぁぁ!』

頭を抱えながらその場に蹲ってしまう。

「光代ぉっ」

「まっママぁ!」

それを見たわたしと少年は慌てて抱きかかえると、

「ぱっパパっ

 あっあっあっちっ!」

少年に指図されながら2人は男をある小屋へと連れ込んでいったのであった。



「ここが僕たちの家か」

かつての面影など全くなく、

アフリカの地でボディ族達がが住む住居とまるで変わらない佇まいの中を見ながらわたしはそうこぼすと、

「そっそうよ、

 いっいつの間にかこっこんな家になっちゃったの」

と答えながら少年は黒く煤けた素焼きの瓶から水を手で掬い、

それを一口飲み干してみせる。

「何もかも忘れてしまっていたんじゃないのか」

部屋の真ん中の炉端から燃え上がる炎の明かりに照らし出される

愛妻の変わり果てた姿を見ながらわたしはそうこぼすと、

「あっあたしもみっみんな忘れてどっ土人になっちゃったと思っていた」

と少年は返事し、

「でも、忘れてはいなかったか」

わたしはそっと男の額に手を乗せる。

すると閉じられていた男の目が開き、

黒い肌の中から浮かび上がるかのようにギョロリとした目がわたしを見つめると、

『・・・・・・』

わたしに向かって何かを話しかけようとする。

『無理をするな』

それを見たわたしはボディ族の言葉で制止させると、

ギュッ

男は土まみれの黒い手でわたしの手を握りしめ、

『オ・カ・エ・リ・ナ・サ・イ…

 タ・カ・ユ・キ・サ・ン…』

そう一言一言選ぶように呟き、

フッ

っと眠りについてしまった。

「まっママぁ!」

それを見た少年は思わず声を上げると、

「大丈夫だよ、舞子。

 ママは寝ただけだ」

わたしは少年をなだめ、

「一日中、土を掘っていたんだろう、

 寝かせてあげよう」

と諭す。



「だっだめ、なっなにもわっ判らないよぉ」

翌朝、

わたしが地面に書いた簡単な公式を見て少年は首を横に振りながらそうこぼすと、

「もっもうだめ、

 あっあたしやっぱりあっ頭の中がどっ土人になっちゃっているよぉ」

と少年は項垂れてみせる。

「心配するな、

 ママだってボディ族になっても僕のことを覚えていたんだ。

 舞子だってなんども思い出そうとすれば思いだすよ」

わたしは漆黒の肌が覆う少年の肩を叩いてみせる。

「ほっ本当?」

顔を上げて少年が聞き返すと、

「あぁ、本当だとも」

わたしは少年を励ましてみせる。

「でっでも、まっママは…」

わたしの言葉に少年は心配そうに振り向くと、

『ダダダダ・ダイジョウブ…

 アアア・アタシ…

 ダイジョウブ…』

その言う声と共に男が少年の背後に立ち、

ニコッ

と笑って見せた。

「ママぁ!」

「光代!」

トンボ玉の飾り紐ののみの裸体を晒す男を見上げながら、

わたしと少年は揃って声を上げると、

「まっママぁ、

 あっあたしよ、

 まっ舞子だけど、わっ判る?」

と少年は自分を指さし男に迫る。

すると、

『マママ・マイコ…

 マイコ…

 マイ…

 マイ…チャン…』

男は自分の娘の名前を幾度も呟いた後、

急に険しい表情になると、

『ツンっ!

 そこで何をしている。

 早くウシを連れて行きなさい』

と指示をしたのであった。

『ママぁ!』

それを聞いた少年は困惑しながら言い返すと、

『ツンッ!』

男の怒鳴る声が辺りに響く。

『光代、

 舞子はツンなんかじゃない。

 舞子は舞子だ』

成り行きを見ていたわたしがスグに割ってはいると、

『あっ

 うっ

 うぅぅっ』

男はわたしを見た途端、

縮れ毛が覆う頭を押さえ、

そして、

『うんんんんんっ』

うなり声を上げながら股間のイチモツを扱き始めた。

「やっやめて、まっママぁ!」

「やっやめろ、

 そんなことはやめるんだ」

刺激を受けてグングン大きさを増していくイチモツを扱く男を、

少年とわたしは制止させようとするが、

『うがぁぁ!』

男は声を張り上げて2人を突き飛ばすと、

『うぉっ』

『うぉっ』

『うぉっ』

声と腰の飾り紐を高らかに響かせながらイチモツを扱き、

そして、

『うおっ!』

一際大きく声を響かせると、

シュシュシュッ!

漆黒のイチモツの先から生臭い臭いを放つ精液を飛ばしたのであった。

「まっママぁ…」

「光代…」

身体全体を汗で光らせ男の自慰行為を見せた男は大きく息を継ぐと、

カラン…

今日も土を掘るのだろうか、

土まみれの棒を片手に村の中へと消えて行ったのであった。

「光代…」

まるで自分のことは諦めろと言わんばかりの妻の行為を見た後、

わたしは座り込んでしまうと、

「あっあの…

 ぱっパパ…」

と少年は話しかけてくる。

「ん?」

その言葉にわたしは顔を上げると、

「あっあたし、いっ行かないと…

 うっウシ飼いがあっあたしの仕事だから…」

そう少年は呟き、

「ぱっパパはどうするの?」

と質問をしてきた。

「そうだな…

 とにかく会社に戻らないと、

 でも、トンネル崩れちゃったし…」

少年の質問にわたしはトンネルが攻落してしまったことを思い出すと思わず頭を抱えてしまった。

「ぱっパパぁ…

 げっ元気を出して、

 じゃっじゃないと舞子も…」

それを聞いた少年はシュンとしてみせると、

「大丈夫だよ、舞子。

 舞子も舞子で居たいのなら、

 気持ちを強く持つことだ。

 じゃないと、いまは追い出しているけど、

 お前の中に住むボディ族に乗っ取られてしまうぞ」

とわたしは警告をしてみせる。



ンモー…

角を大きく振って歩くウシ達の後について、

少年とわたしが荒れ果てた上り坂を歩いていくと、

「ねっねぇ、ぱっパパぁ」

手にした棒を振りながら少年はわたしに話しかけた。

「なに?」

その言葉にわたしは返事をすると、

「あっあたしやまっママってどっ土人じゃなくてボディ族っていうの?」

と少年は自分を指さして尋ねる。

「あぁ、そうだ。

 本来はアフリカの奥地で太古の生活スタイルのままで暮らしているはずなんだけどな」

その問いにわたしは答えると、

2人はトンネルの崩落現場に差し掛かる。

そして、

「そっそっかぁ、

 ボディ族…

 うっどっどこかできっ聞いたことがある。

 ボディ族…

 そっそして、あっあたしはボディ族のツン…」

そう少年は呟いたとき、

「うっ!」

急に少年は頭を押さえながらその場に蹲ってしまったのであった。

「どうした。

 舞子ぉ!」

少年の急変にわたしは慌てると、

「あっ頭が痛い…

 あっあたしは…

 あっあたしはツン…

 ちっ違うっ

 あっあたしは…まっまい…

 うっ思い出せない…

 どうしちゃったの?

 ツンっ違うっ

 あたしはま・ま・まい…まい…

 ぱっパパぁ、

 あっあたし自分のなっ名前が思い出せなくなっちゃったぁ!」

と少年は深刻そうな顔でわたしを見つめる。

「しっかりしろ、

 お前は舞子、

 いいか、ま・い・こ・だ。

 言って見ろ」

少年の肩を揺すりわたしは声を張り上げて怒鳴ると、

「まっまいこ…

 あっあたしはまいこ…

 まっまいこ

 まいこ…」

そう少年は名前を呟き続け、

「大丈夫か?」

心配するわたしに向かって笑みを浮かべると、

「うん、頭が痛いのがなくなったよ、

 あっあたしは”まいこ”

 いっいいよね、こっこれで」

と聞き返す。

「そうだ…

 お前は舞子、パパの娘の加悦舞子だ。

 決してボディ族なんかじゃない」

一安心しながらわたしは言い聞かせると、

「あっあたしは”まいこ”…」

自分に言い聞かせるようにして少年は立ち上がると、

「あっぱっパパぁ、

 みっ見て、

 いっ岩に隙間があるよぉ」

と昨日崩落したトンネルがあったところでひと1人通れるだけの隙間が開いているのを見つけたのであった。

「本当だ。

 よしっ、

 パパはここから行ってくるけど、

 舞子はちゃんとウシ飼いをするんだぞ」

トンネルに入れることに気づいたわたしは少年にそう指示を出すと、

「いいか、

 お前は舞子だ、

 それを絶対に忘れるな」

と言い残してわたしは岩の隙間からトンネルに入って行く。



「なんだ、

 中は無事じゃないか」

トンネルは出口周りだけが崩落しているだけで、

崩れた岩を除けながら少し歩くと

霧に包まれながらも堂々とした姿をわたしに見せていた。

そして、トンネルの中を歩きながら、

「タクシーは帰っちゃっただろうな…

 どうやって降りるか」

そう思案しながら通行止めの回転灯があるところまで来ると、

ゴォォォォ…

エンジン音と共にクルマのヘッドライトが上ってくるのが見えてきたのであった。

「クルマだ…」

それを見たわたしは大きく手を振り、

そして声を張り上げると、

キッ!

わたしの前で昨日来る時に乗ってきたタクシーが停車したのである。

「昨日の運転手さん…」

それを見たわたしは驚いてみせると、

「いやぁ、あなたのことが気になりましてね、

 ちょっと登ってきたんですよ」

と運転手は笑顔を見せる。

「そうか、

 ありがとう、助かったよ」

その言葉を聞いてわたしは安心すると、

「駅まで乗せて貰えるか?」

と運転手に話す。

「お客さん、

 まさか一晩中あそこにいらっしゃったので?」

坂道を下る車中で運転手は話しかけると、

「いやぁ、

 ちゃぁんと帰宅しましたよ

 自宅にね」

とわたしは答える。

「向日葵トンネルを抜けられたんですか?

 ご家族はご無事でしたか?」

それを聞いて運転手は驚きながら聞き返すと、

「えぇ、家族はみな元気でしたよ」

とわたしは笑って答えるが、

しかし、自分の妻や娘がボディ族となってしまっていることは言うことができなかったのであった。



そして、その日以降、

この道を1台のクルマが往復するようになり、

たくさんの荷物を抱えながら立ちこめる赤い霧の中へと男が入っていく様子が

しばしば目撃されるようになったのである。



おわり