風祭文庫・モラン変身の館






「ボディの条件」
(最終話:求めていたもの)


作・風祭玲

Vol.912





「祐二さんって、

 面白い人…」

蚊帳が掛かるキングサイズのベッドの上で

胸上まで毛布を寄せながら美紀は

ニコッ

と笑って見せると、

「ん?

 なにが?」

バスルームでシャワーを浴び終えた俺は

ミネラルウォーターに口をつけながら聞き返す。

「だって、

 ここで奥さんが行方不明になったんでしょう?

 こんな所に普通、女の人を連れてくる?」

美紀は俺に向かってそのことを指摘すると、

「なんだ、

 またそのことか、

 何度も言わせるなよ、

 俺はこのサバンナが好きなだけだ。

 麗華の失踪とは別にしてだ」

と言いながら窓辺に向かい、

そこから見える月明かりが煌々と照らし出す夜のサバンナを見下ろした。

ここはサバンナを見下ろす丘に上に建つ外国人専用のコテージ、

その一室に俺と美紀は宿泊していたのであった。



「ふーん?

 そう?」

そんな俺の言葉を聞いた美紀は今度は這い蹲りなりながら聞き返すと、

チラリ、

俺は振り返り、

「なんだよ、

 その目は…

 この俺が嘘を言っているというのか?」

と美紀の目を見ながら言い返す。

「うふっ、疑っては居ないわよ。

 祐二がそういうのなら本当でしょう?」

トッ

床に足をつけベッドから降り立った美紀は

白い肌が覆う裸体を俺に見せつけながら傍によってきた。

そして、

「うわぁぁぁ…

 綺麗…

 夜のサバンナってこんななんだ…」

窓辺から身を乗り出して感激した声を出すと、

「そうか、

 じゃぁ、そこから降りていくか?

 その姿でこの下の赤い大地に足をつけた途端、

 お前は一頭の動物になるんだぞ。

 その動物を狙ってそこかしこに隠れている猛獣達が、

 狙い、

 襲い、

 そして、ガツガツと骨まで食べ尽くす…

 後に残るのは動物の姿をした血の跡だけだ」

と俺は両腕を掲げて美紀を襲う素振りをしながら脅してみせる。

すると、

「やっやめてよっ」

それを見た美紀は悲鳴を上げて俺にしがみつき、

「あはは、冗談だよ

 冗談」

そんな美紀を俺はヒョイと抱き上げると、

「あたしを捨てたら承知しないわよ」

と美紀は俺に向かって囁いた。

「何を言っているんだ?」

美紀のその言葉に俺は聞き返すと、

「あたしを奥さんみたいに猛獣のえさにしたら

 承知しないんだからねっ」

キッ!

と俺を睨みつけながら美紀は言う。

その瞬間、

俺の腕に力がこもり、

ピクッ!

と腕の筋肉が動くと、

ギュッ!

美紀もまた腕に力を入れて俺にしがみついてみせる。

つかの間の沈黙が部屋を包み込み、

ウォォォッ

サバンナのどこかで啼き声を上げる獣の声が静かに響き渡った。



無言の時間が過ぎ、

スッ

俺の腕から力が抜けていくと、

「さすがに冷えてきたな」

と優しく美紀に言い、

腕の中の彼女を優しくベッドの上に置く。

すると、

「ごめんね、

 変なことを言って」

安心したのか美紀は俺に向かって謝ると、

「麗華は生きているよ、

 絶対にだ。

 このサバンナのどこかで生きている」

と言葉に力を込めて俺は言う。

それを聞いた美紀は

「本当に奥さんを愛しているんだね」

と呟くが、

少し何かを考えた後、

「だけど、

 その愛した奥さんが行方不明になってそんなに経ってないのに

 こうしてあたしと一緒にサバンナにきている理由はなに?

 これ、プライベートではないんでしょう?

 祐二、出張扱いになっているもの」

俺のその言葉を聞いて

美紀は自分をサバンナに連れてきた理由を尋ねてきた。

「そんな細かいこと、

 どうでも良いじゃないか」

部屋の明かりを消し、

俺は美紀の居るベッドに腰を下ろすと、

その柔らかい肌を抱きしめる。

金崎美紀、

社長付き秘書の肩書きを持つ彼女は男性社員なら必ず足を止め、

その美貌、洗練されたスタイルに魅入ってしまうのであった。

その一方で、

彼女は俺のもう一つの顔を知る唯一の女でもあった。



「あんっ、

 ねぇ、いつになったらあたしと結婚できるの?

 あたしが口ぞえすれば祐二を社長の椅子に座らせることなんて簡単なのに」

俺に抱きしめられながら、

美紀は麗華との離婚について尋ねてくると、

「おいおい、

 それは判っていることだろう?、

 いくら行方不明なったからと言って、

 それを口実に離婚をしたら

 桑田専務が何を言い出すか判らないだろう」

と俺は困った口調で言う。

すると、

「ふふっ、

 そうだよね。

 祐二、専務の娘さんである奥さんと別れたらあの会社、

 居られなくなっちゃうよね」

俺の事情を知っている美紀は紅潮してきた身体を晒し、

そう言いながら俺の身体に絡みついてきた。

バタンっ

ベッドの上に俺の体が横たわり、

その上に勝ち誇るように股を開いた美紀が

太股で俺を挟むようにして腰を下ろす。

そして、

「でも…

 あたしも結構応援していたこと、

 忘れないでよ、

 いろんな情報を祐二にあげたんだからさ、

 良い情報も、

 悪い情報も、

 そして、祐二の立場を悪くする連中を排除してきたのも、

 社長秘書のあたしのお陰で祐二はいまの立場に居られるのよ、

 祐二はもっともっと伸びるわ、

 このあたしが太鼓判を押す」

と釘を刺すように囁くと、

そっと俺の喉元を撫でた。

「(ちっ、

  俺に恩を売りつける気か)」

心の中で苦々しく思いながら俺は美紀を眺めると、

窓から差し込む月明かりの中で、

獲物を睨みつける雌豹の如く俺を見詰める美紀の姿が浮き上がる。

まさに獣と言っていい彼女の姿を見ながら、

「(やはりコイツも…始末するか)」

と俺は心の中で呟くと、

「そんなに俺が欲しいか、

 じゃぁ、奪って見せろよっ」

そう声を上げながら俺は力づくで起き上がり

美紀を押し倒し、

あらぶる股間のイチモツを、

獲物を待ち受ける彼女の中へと挿入してみせた。



地平線の彼方まで広がる広大なサバンナ…

そのサバンナが尽きるところにボディと呼ばれる野生部族が住む地域がある。

セブと呼ばれる大きな角を持つウシを飼い、

有史以来変わらない生活をかたくなに守り、

女は牛皮を纏うものの、

男はほぼ全裸の姿で荒涼とした台地を闊歩する。

まさに野生の部族である。

しかし、俺はそんなボディ族の生活には何も興味は無い、

興味があるのは彼らが住む地域の一角にあり、

その場所には世界中の金の猛獣達が

虎視眈々と狙っているあるものが眠っているのである。

眠り続けるそのものの名前は…レア・メタル…



「きゃっ!

 もぅ、

 もっとゆっくり走ってよ」

助手席の美紀が悲鳴を上げながら

ハンドルを握る俺にしがみつこうとすると、

「おいっ、

 こっちによるなよ、

 事故っても誰も助けに来ないぞ」

揺れる車内で俺は怒鳴り声を上げる。

「だぁってぇ!」

俺の怒鳴り声を聞いた美紀は泣きべそをかきながら俺に抗議するが、

普段はお高い社長秘書もここでは泣きべそをかくただの女…

そのギャップを見せ付けられた俺は思わず噴出しそうになるが、

うっかり笑い声を上げた途端、

今度はこっちが舌をかんでしまう。

激しく揺れるクルマに鞭打つように俺はさらにアクセルを踏んだ。

そしてアクセルを踏みながら、

ふと、夏子のことを思い出した。

彼女との浮気が妻の麗華にバレて、

縁を切るように迫られた夏子。

俺の良き同僚であり、

そして片腕でもあった彼女に、

どうやって恋愛面での別れ話を切り出そうかと思いながら、

このサファリカーの助手席に乗せ、

一路ボディ族が住む村へと向っていたのであった。

無論、ボディ族の村に行く目的は別にあった。

地球を回る資源探査衛星での調査により、

ボディ族の村を中心にしてレア・メタルの有望な鉱床が散在するあることが判っていた。

しかし、原住民の許可がなければ開発を認めない現地政府の方針に加えて、

その国を巡る国際的なパワーバランス、

さらに自然保護等などの関係もあって、

彼らの住む地域においそれとは手をつけることが出来なく、

様々な勢力はただ黙って指をくわえているに過ぎなかった。

しかし、全く手がつけられないわけではない。

原住民…

そうボディ族からのせめて鉱床が存在する地域への立ち入りの許可さえ取り付ければ、

連中に一歩先んじることが出来るのである。

総合商社でアフリカ担当の俺と夏子はいわば社命を受けてこの地に来たのであった。

サバンナを駆け抜け、

野を越え、

山を越えて俺と夏子はボディ族の村へとたどり着くが、

しかし、外部との接触を拒み、

有史以来のライフスタイルを送るボディ達の壁は厚かった。

何も身に纏わない全裸で生活するボディ族。

しかし、彼らは誇り高く、

決してよそ者を己の土地に踏み入れることを許そうとしない

そんな頑なな彼らの姿勢を見せ付けられ、

俺と夏子は話し合って引き上げを決意したとき、

ある事件がボディ族を襲った。

それは、長の息子が崖から転落して、

瀕死の重傷を負って村に運ばれてきたのであった。

急を知った村人たちはスグに集まり、

祈祷をはじめた呪術師に注目するが、

だが、息子が落ちた際に受けた傷は深く、

また内蔵も傷ついているのか口から血を噴出し、

まさに死を待つばかりの状態であった。

そんな息子の姿を目の当たりにした長はうろたえ、

老齢の呪術師に縋りつくが

しかし、現代医学を持ってしても絶望的に思える彼を

この呪術師が救うなど一目見て無理と俺達は判断していた。

そんなとき、祈祷を中止した呪術師が俺に近寄ってくると、

夏子を指差して、

「彼女を贄にしないか」

と提案してきたのであった。

突然のことに俺は唖然とするが、

「夏子を贄にすれば、

 長の息子を助けることが出来る。

 そうなれば、俺が立ち入りたいところへの許可を長に進言する」

と言う呪術師の言葉を聞いた途端、

妻の言葉に従って彼女と縁切りを申し出たときのことが俺の頭を過ぎっていく、

既に男と女の関係になってしまっている夏子はすんなりとは離別できるはずも無く、

もしここで彼女の存在を消すことができれば…

その邪な思いが俺の心の中で鎌首をもたげ、

そして、呪術師の提案に俺は乗ってしまったのであった。

重体の長の息子が呪術師の小屋に運び込まれたを確認した後、

「長が話があるそうだ、

 先に呪術師の小屋に行ってくれ」

と俺は夏子に言うと、

「うん」

何も疑いも無く彼女は呪術師の小屋へと消えて行った。

そして、それが彼女の姿を見た最後だった。



翌日、

俺の元に黒い肌を見せ付けながら裸のボディ族の男が駆け込んでくるなり、

泣きながら俺に縋ってきた。

そして、必死に自分が夏子であることを俺に向かって訴えるが、

その顔、

その姿は昨日、重傷を負って運び込まれた長の息子と瓜二つであり、

俺は呪術師に言われたとおり、

この男があの長の息子の名前を呼ぶように仕向けた。

そして、男がその名前を言った途端、

男の目つきは急に変わり、

己のチンコを俺に向かって向けると扱き始めたのであった。

”勇者の証”

ボディの男なら成人の証といわれるその行為を男は始めだし、

そして俺に見せ付けるように白濁した精を吐き出した。

”証”を立てた男は立派なボディの男である。


もはや夏子はここにはいない…


ずっと悩ませてきたその悩みが消えただけでも俺の心は軽くなり、

さらに夏子を贄として差し出した礼として、

俺は入りたかったあのレアメタルの鉱床があるところへの

立ち入りを許可されたのであった。

以降、夏子は行方不明扱いとなり、

その一方でレアメタル鉱床の採掘権を現地政府から取り付けた俺を待っていたのは、

出世への階段であった。



それ以降、

俺は付き合った女達が妻にばれるごとにボディ族の村へと連れていき、

あの呪術師の小屋へと送り込んでいく、

無論、彼女達があの小屋からは出てはこない。

あそこから出てくるのは、

チンコを生やし、

黒い肌と強烈な体臭を振りまくボディ族の男であった。

こうした女達の犠牲の下で俺は順調に出世をし、

ついには妻までもあの小屋に送ってしまったのであった。



「どうしたの?」

美紀が俺の顔を覗き込みながら尋ねると、

「うん?」

俺が運転してきたサファリカーはいつも止めているあの場所に停車していた。

ここからは歩きである。

「えーっ、

 泊りがけなのぉ」

リュックサックを背負った俺を見て美紀は驚いた声を上げると、

「あぁそうだ、

 言わなかったか?」

と俺はとぼけてみせる。

「そんなぁ…

 日帰りのつもりだったから何も持ってきて無いわよ」

口を尖らせながら夏子は文句を言うが、

「じゃぁここにいろ」

と俺が言うと、

「もぅっ

 ちゃんと泊まるところはあるんでしょうね」

文句を言いながらも美紀は俺の後についてきてみせる。



「ねぇ知ってる?

 ついに亀田さんの奥さんが行方不明になってしまったんだって」

「うん、絶対に殺しているわよ」

妻をボディ族にして帰国してきた俺にそんな噂が立ち始めた。

無理も無い、

俺がボディの村に送り込んだ女は妻の麗華を含めて10人に上るのだから、

「なぁ、亀田。

 お前本当に麗華を殺めては無いんだな」

妻の親でもある専務は疑いの目を向けながら俺に問いただすと、

「申し訳ありません、

 僕がついていながら…」

と俺は泣いて許しを請う。

俺は誰一人殺していない。

暴力すらふるってはいない。

ただ、その姿を変えさせているだけだ。

妻の麗華も今頃は一人前のボディ族の男として、

黒い肌を晒し、

チンコをぶらぶらさせながら元気に闊歩しているのである。

しかし、

ある意味、潮時が来ているのも事実である。

ボディ族の村の近くにある未開発の鉱床は一つ、

その鉱床さえ押さえてしまえば、

俺がボディ族の村に行く必要はなくなるのである。

ボディ族の男に姿を変えさせられた女達を見ないで済むのである。

ボディ族の村で裸の男達を見たとき、

チクっ

っと胸が痛くなる思いをせずに済むのである。

俺の後ろを歩くこの女にチンコを生やし、

黒い肌が覆う男にしてしまえは終わりなのである。



クルマを降りた俺と美紀は予定通り、

夕方のボディ族の村に到着した。

出迎え役の男達によるパフォーマンスもいつもと同じ、

まさにルーチンワークであった。

呪術師の小屋にこの美紀を押し込めば全て終わるんだ。

社内で一番俺の秘密に近い彼女を始末すれば、

この村のことを俺は忘れることが出来る…

スケジュールどおりに淡々と行事が進んでいくなかで、

俺はそう思っていると、

ふと、言いようも無い寂しさを感じ始めたとき、

「(本当にそれでいいのか?)」

と言う声が俺の心に響いた。

「(本当にこの村のことを忘れていいのか?

  一度は愛し、

  そしてボディ族の男にした女達のことを忘れていいのか)」

心の奥から響く問いかけてくるその言葉に俺は頭を振り、

振り切ろうとする。

とそのとき、

ポンッ!

何かが俺の頭を突付いた。

「痛ぇ!」

頭を軽く押さえながら俺は振り返ると、

「ねぇ祐二さん、

 あれ?」

何かに気づいたのか、

美紀は杖代わりに持っていた太い枝である一点を指差すと、

ンモー…

そこには大きな角を振りかざしながら、

セブ・ウシの一群が村に向かってくるのが見える。

「あぁ、

 放牧していたウシが戻ってきたんだよ」

ウシの群れを見ながら美紀の肩に手をのせ、

「あっほら、

 あそこにもボディ族の男が居るぞ、

 牛飼いの男達かな?」

ウシに混じって移動する黒い男の姿を見つけた俺はそう指摘すると、

「あっ、本当だ」

美紀は声を上げ、

「うわぁ

 逞しそう…」

と呟くと、

「なんだよ、

 俺よりも向こうに興味があるのかよ」

それを聞いた俺は茶化す。

「あははは、

 何言っているのよ」

そんな俺に美紀は笑ってみせると、

「向こうに行こう」

俺は美紀の背中を押して、

呪術師の小屋へと向かって行った。

後は手はずどおり…



翌朝、

「ゆっ祐二ぃ!!」

俺の元に黒い肌を光らせながら、

全裸のボディの男が駆け込んでくるなり、

「あっあたし…

 こんな姿にされちゃったぁ!」

と野太い声で泣きながら訴えるが、

「誰だお前?」

俺はあくまで初めて会う素振りを見せると、

「そんなぁ…

 あっあたしよっ

 ミっ

 ミっ

 あれ、なんで言えないの?」

男は自分の名前が言えないのか、

幾度も言いかけ口惜しそうな顔をする。

間違いなくこの男は美紀であることは判るが、

だが、ここでそれを認めるわけにはいかない。

俺は彼に呪術師から聞かされた名前・ンガバを言うように仕向け、

そして、男がその名前を口走った時、

「あっあっあぁぁぁぁぁ!!!」

男は頭を押さえながら声を上げ始めた。

そして、頭の中が急速に書き変わっていくのが快感に感じるのか、

ビンッ!

見る見る男は股間から垂れ下がっていたチンコが鎌首をもたげながら伸び始め、

ビクンッ!

巨大な勇姿を見せ付ける。

そして、

男はそのチンコに手を添えると、

シュッ

シュッシュッ

シュッシュッ

と扱き始めた。

「(ふふっ

  さぁ、出せっ

  出すんだ、美紀っ

  その黒くてぶっといチンコから出せば、

  お前はボディだ。

  さぁ出せ)」

自分のチンコを扱いてみせる男の姿を見ながら俺はそう思っていると、

「あっ

 あっあぁぁぁぁ!!」

男は目をまん丸に見開き、

身体を振るわせる。

ボディに飲み込まれ、

消えてゆこうとする女の最後の断末魔である。

そして、

ビュッ!

シュシュシュ!!

天を向くチンコの先から白濁した精液が一直線に伸びて行った時、

男は”勇者の証”を立てたのであった。

全てが終わったのである。



「ああうぅぅぅぅ」

すっかり目つきが変わり、

自分の体を見詰め続ける男を置いて、

俺は呪術師の元に向かうと、

「ユウジ…」

全身皺まみれの呪術師は俺の名を呼び、

「ンガバを蘇らせてくれてありがとう」

と礼を言う。

「なぁに、

 困ったときはお互い様ですよ」

美紀が持っていた木の枝を振り回して俺はそう言うと、

「お前、

 二股の山に行きたがっていたな、

 そして、そこで石を掘ると…」

と呪術師は目的を尋ねる。

「あぁ…

 あの場所で石を掘りたいんだ、

 そして、それ以上はもぅ望まない」

その問いに俺は答えると、

「まぁいいだろう、

 その場所に向かうといい、

 長も認めている」

俺の答えを聞いた呪術師はそう言うと、

ついに俺の立ち入りを認めてくれたのであった。

「よしっ!」

それを聞いた俺は心の底から飛び上がりたい気持ちを抑えながら、

荷物を纏めなおしボディ族の村を立った。

もはや俺を留め立てするものは何も無い。

あの場所へ向かい、

事前調査とサンプルを集め、

東京の本社に送るだけである。

あの場所のレア・メタルの埋蔵量は莫大である。

10年、

いや、20年は採掘できる。

美紀の助けを借りることなく俺は社長の椅子に座ることが出来る。

そうだ、俺が社長の椅子に座ったら、

現地政府に働きかけてあのボディ族の村を特別保護区にしよう。

完全に隔離してあげて近代文明の悪しき習慣から切り離すのだ。

そうすれば、裸の男になった女達は幸せに暮らしていける。

うん、それが良い。

それが良いに決まっている。

俺は奥へ奥へと進み、

ようやく目的のところに到着するのと、

早速いくつかの標本を採取して、

レア・メタルの純度を確かめ始めた。

「おぉ…

 すげー…

 ケタ違いだ、

 これなら高収益は間違い無しだ」

検査器からはじき出される驚きの数値に

俺は思いっきり飛び上がりたくなりそうになりながらも、

必要なサンプルを集めていく、

と、そのとき、

ガサッ

近くで何か物音がすると、

「え?」

それに気づいた俺は徐に顔を上げた。

その途端、

パン!

乾いた音が響き渡り、

ビシッ!

俺の肩に激痛が走った。

「なに?」

何が起きたのか判らなかった。

真っ赤な鮮血が噴出する自分の肩を見ながら、

「なんだこれは?」

と呟いていると、

「◆○△!!!」

何か声を上げながら、

迷彩服を身に付け銃を持った男達が数人押しかけてくるのが見え、

パンパン!

と続けざまに肩を抑える俺に向かって銃を発砲してきたのであった。

「うぐっ!」

何発かの弾が命中し、

体の各所から血を噴出しながら俺はその場に倒れる。

生暖かいモノが体中から流れ出て、

急速に力が抜けていくが、

だが、頭を打ち抜かれなかったので、

まだ意識はあった。

「ちっ、

 これまで女達を踏みつけてきた罰かよ、

 神様はしっかりと見ているな」

倒れた俺を蹴り転がし、

荷物を物色し始めた男達の姿を見ながら俺はそう思っていると、

「あっそうか」

その時になってようやくこの国の隣国で起きた政変のことが頭をよぎった。

そして、この男達が国境線を越えて入ってきた隣国の兵隊であることに気づくが、

だが、重傷を負っている俺には何も出来なく、

ただ彼らの蛮行を見ているだけであった。

しばらくの間俺の荷物を漁っていた男達は奪うものを奪い、

そして立ち上がると、

一人の男が見晴らしの良いところに立ち、

ボディ族の村がある方向を指差して何かを話し始めた。

あそこは崖があったはずである。

そして、その場所で空に向けて銃を乱射し、

さらに気勢を上げ始めた連中の姿を見たとき、

俺は連中が山を降りてボディ族の村を襲おうとしていることに気づいた。

「あいつらが、ボディ族の村を…

 夏子や美紀や麗華が居る村を…」

ザッ!

薄れ行く意識の中で俺は立ち上がり、

そして、近くに落ちていたあの杖を拾い上げると、

声を張り上げながら男達に飛び掛っていく、

不意を突かれた男達は

一人、

また一人と俺がもつ枝によって崖から突き落されてく、

パン

またしても発砲音が響いた。

だけどそれには怯まずに俺は残った男達に飛びつき、

そして、全員を巻き込んで俺は崖から飛び降りた。



「うっ」

気が付いたとき俺はジッと崖を見上げていた。

「ちっ生きていたか、

 俺もしぶといな…」

どうやら、あの男達の体がクッションになったらしく、

俺の下にはモノを言わない男達の体が折り重なっていた。

だが、そんな俺自身も身体を動かすことが出来ない。

助かったもののこの命が尽きるのも問題である。

「あーぁ、

 何もかもがみんなおじゃんか…

 あはは…

 死んでしまっては意味が無いもんなぁ」

半ば自傷気味に俺は笑みを浮かべると、

「夏子、

 真由美、

 久美子…」

俺は俺の欲望のためにボディ族の男にした女達の名前を一人ずつ呼びはじめ、

「…麗華、美紀…」

と全ての名前を言い終えたとき、

ヌッ

俺の周囲を黒い人影が取り囲んだ。

「え?」

その影に俺は気が付くと、

俺の周囲を槍を手にした裸体のボディ族の男達が取り囲み、

じっと俺を見ていたのであった。

「なっなんだよ、

 お前達…」

そんな男達を俺は見返すと、

「あっ」

一人一人の顔を見て俺は小さな声を上げた。

そう、皆俺が変身させた女達であった。

「そうか、

 記憶をなくしても仕返しは忘れないか、

 いいんだぜ、

 その槍で俺を串刺しにしても」

覚悟を決めていた俺は半ばやけになしながら声を上げると、

「まったく、あの崖から落ちたのか」

と呪術師の声が響いた。

「じいさん?」

その声に俺は男達の後ろを見ると、

コツッ

杖を突きながら、

ボディ族の呪術師が姿を見せたのであった。

そして、俺のそばに来ると、

「おーぉ、

 無茶をしおって、

 他の連中は…

 あぁこっちは皆だめか。

 ん?

 一人、息があるな…

 おいっ、ワシの声が聞こえるか?」

と話しかける。

「あぁ、聞こえるよ」

その問いに俺は答えると、

「お前の命、

 繋いでやっても良いぞ、

 無論、

 ボディになるならば…だがな」

と提案してきた。

「え?

 俺をボディ族に?」

呪術師のその言葉に俺は驚くと、

「いやか?」

と呪術師は尋ねるが、

「…そうだな

 ボディ族として生きるのも悪くは無いか、

 いいぜ、

 俺をボディ族にしてくれよ、

 あっただし女にしてくれ、

 女になってこいつ等の面倒を見てやりたいんだ」

俺はそう答えると目を瞑った。

スーッ

意識が落ちていくのが手に取るようにわかる。

おそらく次に目覚めたとき、

俺は俺でなくなっているだろう。

女の村でプルンとおっぱいを揺らし、

裸の男達に次々とマンコを貫かれて媚声をあげるボディ族の女…

まぁそんな人生も悪くはないか。



おわり