風祭文庫・モラン変身の館






「尚子」
(第2話:尚子の変身)


作・風祭玲

Vol.747





「あっでるぅぅぅぅ!!」

ビュッ

シュシュシュシュッ!!!

あたしの声と共にオチンチンから噴出した精液は

ビチャ!

ピチャピチャ!

と赤茶けた土の上に黒い染みを作り上げていく。

そして、それと同時に、

ムズッ!

あたしの顔でおきていた違和感は徐々に収まっていくと、

何事もなかったのように消え去ってしまった。

はぁはぁ

はぁはぁ

「終わったの…

 助かったの?

 あたし…」

強烈な虚脱感を味わいながら、

あたしはガックリとその場に跪いてしまうと、

自分の顔をペタペタと触り、

感触を確かめていた。

すると、

『はははっ

 良くぞ”勇者の証”立てた。

 これでお前は一人前のヌバの勇者だ、

 さぁ、ンガニよ、

 これをもって胸を張って戻るがいい』

射精をしてしまったあたしを見下ろしながら、

長は満足そうにそういうと、

手にしていた一本の槍を差し出す。

「勇者?

 あたしが?」

その言葉にあたしは長を見ると、

『さぁ受け取るのだ、

 良いか、

 この槍とその身体でお前はこれから生きてゆくのだ』

と付け加える。

「この槍と

 この身体で生きていく?

 あたし…

 ヌバの勇者?」

ポタポタ

と萎えても未だに精液を流し続けるオチンチンを左右に振りながら

あたしは槍を受け取ると、

「あっ

 あの、みんなは?

 他のみんなは?」

と達志や敦子たちの事を尋ねた。

すると、

『ん?

 あぁ、あの異邦人達のことか?

 彼らは間もなくココを立ち、

 帰るそうだ』

と長はまるで他人事のように返事をした。

「そんなぁ!!

 あたしを置いて日本に帰るの?」

それを聞いたあたしはスグに飛び出すと、

一目散にヌバの集落に向かって走った。

ビュゥゥゥ…

遠くまで見通せる高い視界、

耳元で風が鳴り、

景色が速い速度で飛んでいくのを見ながら、

「…これが、

 ヌバの世界なの…」

とあたしはヌバたちが見ているであろう景色に驚き

そして、興奮をする。

その途端、

ムリッ!

ムクムクムク!

射精をして萎えたはずのオチンチンに血が溜まり、

股間から起立を始めだしていた。

ハァハァハァ

ハァハァハァ

あの夜から何日が過ぎたのかは判らない。

長の話からすれば5日は過ぎていることになる。

解き放たれたあたしは

オチンチンを勃起させながらも

一目散にヌバの集落へと向かっていく、

あの夜、秘祭を覗き見るために着ていた服も、

履いていた靴も今はなく、

黒い肌を晒し

トンボ球の飾り紐を巻いただけの筋肉質の裸体に、

長から授けられた槍を持ち、

股間にオチンチンを生やした姿であたしは走る。

そして、瞬く間に集落に到着すると、

あたしは一馬達の所へと向かおうとした。

すると、まさに荷物を背負った一馬に敦子達が

丁度この集落を出て行こうとしている様子が目に入った。

「待って…」

後姿を見せている彼らにあたしは声をかけようとするが、

「!!っ」

眼下で見える黒い肌の手を見た途端。

あたしの声は止まってしまった。

「ダメっ

 こんな姿をみんなに見せるわけには行かない。

 いまのあたしは…

 もぅ以前の尚子じゃなくなっているんだ」

そう、禁を侵した罰により、

ヌバの勇者にお尻を犯され、

そして精液を吹き上げてしまったあたしは

もぅ以前の女の子ではもぅない。

剥き出しのオチンチン、

長い手足、

厚い胸板、

真っ黒な肌。

どれをとっても元のあたしの姿とは大きくかけ離れてしまている。

「ヌバ…」

黒く輝く自分の体を見ながら

あたしはその場に座り込んでしまうと、

徐々に小さくなっていく仲間達の姿を見送っていた。

「ごめんなさい…

 みんなぁ

 あたし…

 一緒に帰れないよぉ」

去っていく彼らをジッと見詰めながらあたしは涙を流すと、

その場に蹲り泣き叫んでいた。



パチパチ…

その夜、

「うぅっ…

 どうして…

 どうしてこんなになってしまったの…」

身体を男に…

漆黒のヌバ族勇者・ンガニの姿に変えられたあたしは

一馬たちと共に生活をしていた小屋の中で涙を流していた。

ココにいたみんなはもぅこの集落を離れ、

帰国の途に着いた。

恐らく日本に帰ればあたしの失踪について、

いろいろ聞かれることだろう、

「ごめんね、

 みんなごめんね…

 あの時、あたしが断固として断ればよかったのよ」

きっかけを作ってしまった一馬が一番責められると思うと、

あたしは”いい気味だ”と思うよりも罪悪感を感じ、

見えぬ相手にむかって幾度も頭を下げた。

そして、そんなあたしの股間では、

ビクン…

ビクン…

漆黒のオチンチンがまた硬く伸び、

心臓の鼓動を受けるごとに、

痛みを発しながら小さく揺れていた。

「うっ、

 こんな時にまで…

 なんで…

 どうして…

 さっさと小さくなってよ」

太く醜い棍棒を思わせるその姿を見ながらあたしはそう呟くが、

幾ら時間が過ぎても萎えることはなかった。

そして、

ジン…

そのオチンチンの付け根辺りから、

モヤモヤとしたというか、

ムラムラした気持ちが膨らんでくると、

「ううっ

 まただ…」

あたしはオチンチンの付け根辺りを押さえ、

そのまま蹲ってしまった。

この感覚は初めて感じるものではない。

顔の変化をとめる為とはいえ、

長の前であたしは硬く伸びたオチンチンを摩り、

その果てに白く濁った精液を放つ、

男として当たり前のことをしてしまったあたしは

もはや女の子ではなかった。

そして、

そのときと同じことをすれば…

また白い精液を出せば…

このモヤモヤした感覚は消えることも判っているが、

でも、同時に味わうあの快感は病み付きになる。

もし、いまここでそれをすれば2回目、

3回目をしないという確証は無い。



シュッシュッ

シュッシュッ

いつの間にかあたしは固く勃起しているオチンチンを擦り始め、

そして、次第に激しく手を動かし始めた。

「あぁ…

 気持ちいい…

 気持ちいよぉ」

黒い肌から大粒の汗を噴出し、

野生の男の体臭を振りまきながら

あたしは巨大なオチンチンを扱く、

そして、

「オォォォォッ…

 ウォォォッ!」

オスの雄たけびを上げながら、

シュシュッ

シュシュシュッ!!

生臭い精液を吹き上げてしまったのであった。



翌朝、

シュッシュッ

シュッシュッ

小屋の中のいたるところに染みを作ってしまっていたあたしは、

硬く伸びたオチンチンを扱きながら天井を見上げていた。

「あはっ

 止まらないよぉ、

 だって気持ち良いんだもん…」

乾いた笑いを上げながらも手を動かしていると、

『ンガニぃ』

と小屋の外から長の声が響いた。

「え?」

その声にあたしは這い蹲るようにして表に出ると、

『ほぉ、

 食事もせずに”証”を立て続けていたか、

 そうかそうか

 力が有り余ってきているのだな』

小屋の中の惨状を見ながら笑みを見せる。

「なっ何か用ですか?」

そんな長にあたしは尋ねると、

いきなり二人のヌバ族の男があたしに迫ると、

ムンズっ

と捕まるなり、抱え起こした。

「なっなにを…」

男たちの行動にあたしは声を上げると、

『ンガニ…

 お前は昨日、勇者になった。

 今日からは勇者として振舞わなくてならない』

と長は言い、歩き始める。

「どっ何所に連れて行くのですか?」

そのままあたしが連行されていったのは、

屈強の男たちで賑わう小屋の前だった。

「ここは?

 確か…」

そう、ヌバの勇者たちは己の身体に好戦的なボディペインティングをし、

レスリング競技を思わせる闘い行いながら、

最も強い勇者を選び出す。

小屋を見たあたしはそのことを思い出すと、

ここがそのボディペインティングをする場所であることに気付いた。

すると、長は屯って居る裸の男たちを押しのけ、

あたしを中へと連れて行った。

そして、

『おぉいっ

 いるかぁ?

 こいつ…

 ンガニにアレをやってやってくれ』

と小屋の中に置かれた粗末な椅子にあたしを座らせると、

長は他の男のペインティングを終えた男にそう話しかけた。

『あぁ、来たのか。

 コイツが例の奴か、

 で、アレと言うのは

 長がしていたという模様のことか?』

長の言葉に男は質問をすると、

『そうだ』

と長は短い返事をした。

『わかったよ、

 へぇ、

 変わった顔をしているな、

 新顔か。

 勇者の仲間入りしたばかりか』

あたしの顔を見ながら男はそういうと、

べチャッ!

あたしの頭の上に赤茶色の粘土を乗せた。

『なっ!』

それにあたしが驚くと、

『おいおいっ

 あまり動くなよ』

男はそういうと、

泥とあたしの髪の毛を巧みに練りこみ、

そして、ある形に仕上げていく、

『うん、

 まぁこんなものかな』

真っ白な鳥の羽を埋め込み、

仕上がった頭の形に満足そうに男はうなづくと、

『じゃぁ、

 次は身体だな、

 ちょっと立ってくれ』

とあたしに指示を出すと、

ぺチャッ

ぺチャッ

今度は黄土色の泥にさらに油を練り込んだものを

あたしの身体に塗りつけると

手でそれを広げ始めた。

ツーッ

ツーッ

男は器用にそれを広げ、

あたしの右半分の身体を黄土色に染め上げていく、

そして、右手・右足までも染め上げると、

今度は顔の左半分にそれを塗り、

さらに、白や黒の色でメイクを施していく。

ここに鏡がないのでどんな姿にされているかは判らないが、

恐らく相当奇抜なメイクをされていると思うと、

ムクッ!

股間のオチンチンが硬くなり始めた。

 

全てか終わって小屋から出てくると、

カッ!

広がっていた雲の合間から陽が覗き、

強烈な日射があたしを照りつけた。

「うっ」

一瞬、目がくらみ、

あたしは手を伸ばして陽の光をさえぎろうとすると、

プォォォン!!!

広場のほうから笛の音が響き渡る。

「これって、

 合図?」

その音にあたしは振り返ると、

『さぁ、

 これから戦いが始まる、

 これを手に巻いて行ってこい』

といつの間にかあたしの後ろにいた長がそういうと、

赤茶けた革のベルトのようなものをあたしの手に持たせ、

そして腕に巻きつける。

周りに流されるまま、

あたしは広場に行くと、

非常に奇抜で、好戦的なメイクを身体全体にした男たちが

集まり身体を動かしていた。

「この人たちと戦うの?」

これまで格闘と名のつくものは一切してこなかったあたしが

思わず引いてしまうが、

広場に集まっていた勇者たちが、

一人、また一人と列を組み、

やがてそれは隊列となって広場の中を練り歩き始めると、

あたしも引き込まれるようにその列に加わり

「オッホッ

 オッホッ」

と掛け声を声を上げる。

そして、掛け声を上げるうちに、

頭に塗られた粘土が乾き、

それと同時に頭を引き締め始めた。

頭全体でそれを感じると、

ムラッ

あたしの心の中に

「暴れてみたい」

「倒したい」

と言う気持ちが湧き上がり始め、

それに呼応するかのように

ムクムクムク!

股間のオチンチンが見る見る硬くなって行く。

プォォォォッ!

再び角笛が鳴り響いたとき、

「ウゥオォォッ!」

あたしは雄たけびを上げながら、

ペアになった相手の懐へと飛び込んでいく。

幾度負けたかはわからない、

ただ、負けても負けても

あたしは相手に喰らいついた。

やがて、ついに根負けしたのか、

相手から戦意が消えると、

「ヤァァァ!!」

あたしは雄たけびを上げながら勝ち名乗りをした。

闘いに勝つ!

本気の取っ組み合いに勝てたことが、

あたしの心に勇者としての闘争心を植え付けた。

闘いは残念ながら、

2回戦目でコテンパンに叩きのめされたあたしは

そのままリタイヤするハメになったが、

でも、心の中に点った闘争心はあたしの心を変え始めていた。




『良く戦ったな、

 幾度も負けても立ち向かっていく、

 その闘志こそ勇者に必要なものだ。

 お前は立派なヌバの勇者だ』

闘いの輪から戻ってきたあたしに長はそう話しかける。

「はい…」

確かに長の言葉どおり、

あたしの心は確実に変化をしていた。

『さて、

 お前に仕事を授けよう』

そんなあたしに長はそう告げると、

『槍を持て』

と告げた。

「はい」

長のその言葉にあたしは急いで小屋に戻り、

身体に施されたメイクもそのままで

槍を取ってくると、

『うむ…

 こっちに来い』

と言うと、

村のはずれにあるウシの囲いへと連れて行く、

ンモー

モォォォ…

囲いにはこの集落の命綱である角が反り立っている、

セブウシが数十頭居て、

オスが盛んにその長い角を柵にこすり付けていた。

そして、そのウシの頭をなでながら、

『ンガニ…』

とあたしを呼び、

『お前はこのウシの守りをするのだ、

 良いか、

 一頭たりとも村の外で死なせてはならん、

 それが勇者としての勤めだ』

そう告げると、

柵の上に腰掛けていた男たちを呼んだ。

そして、あたしを男たちに紹介をすると、

『ふんふんっ

 ふんふんっ』

さっきの闘いに参加していたのか、

身体にメイクを施したままの男たちは

次々とあたしの傍により、

そして、臭いをかぐと、

『お前、敗者の臭いがするぞ』

と口々に言う。

「うっ」

その言葉にあたしは声を詰まらせると、

『まぁいい、

 勇者になったばかりの若造だろう?

 イリガばかり大きくても強くはなれないぞ、

 俺達が鍛えてやるよ』

と男たちは告げ去っていった。



『さぁ、

 柵を開けるぞ』

男たちのその言葉と共に、

ギッ!

ウシ達を狭い空間に押し込めていた柵が開き、

ンモォォ…

ンモォォ…

次々とウシが荒野へ向かって歩き始めた。

そして、

『おいっ、

 ンガニっ

 何をしている』

と唖然としているあたしに声をかけると、

『行けっ』

長があたしに声をかけた。

「はっはいっ」

それらの声にあたしは槍を抱きながらウシの群れを追いかけると、

ヌバ・ンガニとして集落を出て行ったのであった。



その日から毎日、

あたしは放牧されるウシの世話と警護をする仕事に就き、

また、時間が出来ると、

強烈な日射の中、

世話係の男たちと闘いの練習をする。

もぅ、後戻りは出来ない。

身体を鍛え、

トンボ球の飾り紐を巻いただけの裸の姿に

1本の槍で身を守る。

そして利用できるものは例えウシの糞でも利用し、

命を繋ぐ…

こうしてあたしは野生の勇者へとなっていったのであった。



ハァハァ

ハァハァ

「うっ」

ビュワッ!!

男たちとの闘いの稽古後、

槍を地面に突き刺し、

人目が届かないブッシュの中で、

あたしは”勇者の証”を立てていた。

既に証は数え切れないほど立ていて、

その代償だろうか、

あたしの身体はさらに男らしく変貌をしていた。

「まっまたしちゃった…」

足元に広がる黒い染みを眺めながら、

あたしは罪悪感にとらわれる。

ヌバに変身してから随分と時間が過ぎていたが、

でも”証”を立てた後は

あたしの心はかつての尚子へと戻ってしまう。

女の子の尚子…

もぅずっと昔に無くしたはずだけど、

でも、証の後はあたしは女の子に戻っていた。

「はぁ…

 あたし、どうなっちゃうのかな…

 このままヌバとして生きていかなければ行けないのかな

 みんな、どうしているのかな…

 達志、

 一馬、

 敦子…

 みんなに会いたいよぉ」

目に涙を浮かべながらあたしはそう呟き、

シクシクと泣いた。

そして、

グッ!

っと腕で顔に流れる涙をふき取り、

「帰らなきゃ…」

と呟きながら腰を上げたとき、

キラッ!

ブッシュの向こうの地面に何か光るものが見えた。

「なにかな?」

陽の光を受けて輝くそれに気付いたあたしは

恐る恐る近づいてみると、

「これって…

 健一のペンダント…」

まさに光るそれは、

あの夜、鎖が引きちぎれ、

何処となく飛んでいった健一のペンダントであった。

「あぁ…

 何でこんなところに…」

何かに踏みつけられたのか、

幾分ゆがみを見せているペンダントを

あたしは震える手で拾い上げると、

ギュッ

っと抱きしめ、

そして、

「健一に…

 健一に会いたい…」

と涙する。

だが、

ンモーォ…

遠くでウシの声が響くと、

「あっ、

 行かなきゃ…」

あたしは我に返りそして立ち上がったとき、

「そうだ…」

胸に下がるトンボ球の紐を一つ取り、

トンボ球の列にペンダントを挟み込んだ。

「これでよし…

 これなら無くさないわ」

胸で輝くペンダントの姿にあたしは満足そうにうなづくと、

あたしは早足で戻っていった。



それからひと月後…

ウシたちと共に集落に戻ったあたしは、

意味もなく川へと続く道を歩いていた。

かつてセミロングだった髪は短く刈られ、

ウェーブが掛かり始めている。

恐らくだんだんとこのウェーブはきつくなり、

やがて他のヌバたちと同じような、

チリチリの縮れ毛になるんだろう、

そのとき、

あたしの顔はどうなってしまうのだろうか…

髪を弄りながらそんなことを思っていると、

チャラッ

ペンダントと共にトンボ球がかすかに鳴った。

「はぁ…」

そのペンダントの下、

漆黒の肌が覆う胸板をあたしは見下ろすと、

「すっかり裸で居ることを感じなくなったなぁ」

と呟く。

確かにヌバとしての生活を送るうちに、

こうして裸で居る事が当たり前になり、

服の感触もすでに昔のものとなっていた。

もぅどんな感覚だったかは忘れかけている。

「あたし…

 女の子だったんだよね、

 綺麗な服を着ていたんだよね…」

腰の周りにつけているトンボ球の飾り紐に

しっかりとくくりつけている

かつて自分が着ていた布の切れ端を触りながら、

あたしはそう呟くと、

村のはずれを流れる川のほとりに出た。

「そうだ、身体を洗おう…

 もぅ、何日洗ってないんだっけ」

川面の光を見ながらあたしは自分の腕を嗅いで見ると、

ムッ!

っと来る匂いと共に、

垢だらけになっている腕が見て取れた。

「はぁ…

 すっかりヌバになっちゃって…」

かつて綺麗好きだった自分の姿とは裏腹に

身体を洗うことすら忘れ、

心までもヌバに染まりつつある自分の姿に、

あたしはため息をついて、

川に入ろうとしたとき、

カシャッ!

突然、シャッター音が辺りに響き渡った。

「え?」

久々に聞く機械的な音ににあたしは慌てて振り返ると、

「Good!」

の声と共に、

一人の欧米人の男性があたしの前に立った。

「あーっ!」

その姿を見たあたしは思わず声を上げると、

彼はあたしを安心させようとするのか、

「NoNo…」

と身振り手振りで害が無いことを告げようとした。

クスッ

そんな彼の姿を見てあたしは小さく笑うと、

ニッ!

彼もまた安心したのか、

あたしに近寄り、

そして、フランス語で挨拶をする。

「げっ

 フランス語ってあまりよく知らないんだよなぁ…」

彼の言う言葉を聴いてあたしは頭を掻き、

まだ覚えていた英語で返事をすると、

「!!っ」

彼は驚いた顔をしながら、

『きみっ、

 英語大丈夫なの?』

と聞いてきた。

『まぁ…少し…』

驚く彼にあたしは言葉を濁しながら返事をすると、

彼はサンダースと言う名前のアメリカの新聞記者で、

この辺り一帯に住む野生部族の取材をしているとこことだった。

そして、

カシャカシャ

とあたしの姿を写真に収めると、

『君、顔が東洋人みたいな顔をしているけど、

 面白いね』

と話しかけてきた。

『え?

 そうですか、

 確かにそう言われます』

『うん、

 とてもヌバの人間には見えないよ、

 でも、身体は間違いなくヌバだね』

戸惑う私に彼はそういうと、

また写真を撮ろうとした

そのとき、

咄嗟にあたしは腰の飾り紐を少しつまみながら、

髪をたくし上げやや恥ずかしそうに顔をしてみせる。

カシャッ!

シャッター音が周囲に響くと、

『面白い!』

とサンダースさんは褒めてくれた。

そして、撮影をさせてくれたお礼だろうか、

皺くちゃの10$札をあたしに手渡したとき、

『あっあの…』

とあたしは声をかけ、

すばやく飾り紐に結んでいた布切れを取ると、

ササッ

っとそれにある言葉を書き込み、

『いま取った写真と、

 これを東京に住む辰巳健一って人に送ってくれませんか、

 あたしの友人なんです』

と告げた。

『ほぉ、

 君は日本に友人がいるのか、

 ふむーむ』

あたしの願いに彼は驚き、

そして、考え込むと、

『いいよ』

と返事をしてくれた。

それを聞いたあたしは、

『何か書くものを…』

とせがむと、

彼が出してみせた手帳に、

ローマ字で健一の住所を書き記す。

『君は字も書けるのか』

それ見たサンダースは驚くと、

『ケンイチが教えてくれました』

とあたしは返事をする。

「Goodbye!」

片手を挙げ別れの挨拶するサンダースさんと別れたあたしは、

身体を洗うこともそこそこに

集落へと戻ろうとしたとき、

ヌッ!

数人のヌバがあたしの前に姿を見せると、

行く手を塞いだ。

「あっあなた達は?」

そう、いつも共にウシを連れていく彼の登場に、

あたしは困惑すると、

『ンガニ!

 お前、いまそこで他所の人間と会った』

と一人のヌバは怒鳴った。

そして、

『他所の人間、

 災いを連れてくる』

と別のヌバが付け加えると、

『災いって、

 そんなの無いよ、

 現にあたしだって最初は他所の人間だったでしょう

 それを長が迎え入れてくれたのよ』

彼らに向かってあたしは反論をした。

だが、あたしのその言葉がまずかった。

ムッ!

男たちは皆不機嫌な顔になると、

『長は間違っている。

 我々が直す』

と言うなり、

ムクッ

その股間から勢い良くオチンチンが勃起した。

『なっ何をする気?』

それを見たあたしは槍を構えようとするが、

男たちの動きが一瞬早く、

バンッ!

瞬く間に構えていた槍は叩き落されてしまった。

『痛いっ』

あたしは痛む腕を庇うと、

『情けない、

 だからいつまでも勝てないんだ、

 やはりお前を正真正銘のヌバの勇者にする。

 ヌバ以外誰とも話すことができず、

 ヌバのことだけを考える勇者に…』

と男は告げると、

グィッ!

あたしの腕を掴み上げ、

一気に押し倒した。

チャランッ!

地面にトンボ球の飾り紐が当たり、

乾いた音を響き渡る。

ウグッ!

文字通り地面に突っ伏してしまったあたしは、

起き上がろうとするが、

グッ

頭を地面に押し付けられると、

グィッ!

むき出しのお尻が左右に開かれた。

『!!っ

 それって、

 ちょっと待って!』

悲鳴に近いあたしの叫び声が響くのと同時に、

メリッ!

硬く勃起したヌバのオチンチンが肛門を押し破った。

『うがっ!』

初めてのときとは小さいとは言え、

再び味わうオチンチンから生じる激痛に、

あたしは顔をゆがめ、抵抗をするが、

パンパンパン!

ヌバは容赦なく腰を降り始めた。

『うがぁぁっ

 うぐぐぐっ!』

荒れ野にあたしのうめき声が響き渡り、

その声を押しつぶすかのように、

ヌバたちはあたしを犯す。

そして、

『うぉぉぉぉぉっ!』

『うぁぁぁぁ!!』

ヌバの雄たけびと、

あたしの悲鳴が響き渡ると、

ビュルッ!

ブシュブシュブシュ!!

あたしの奥深くにヌバの熱い精液が放たれたのであった。

だが、それで終わりではなかった。

『あぁぁぁ…

 うぐぐぐ…』

あたしの体内に放たれた精液が徐々に染み込んでくると、

あたしを完璧なヌバへと染め始める。

メリメリメリ!!

尚子の面影を残していた顔に眼窩が突き出すと、

プッ!

唇は厚くなり、

鼻が潰れ、

横に広がっていく、

さらに、縮れかけていた髪が全て抜け落ちると、

代わりに小さく縮れる髪が生え頭を小さく見せる。

『ふふっ、

 そうだ、

 その顔だ、

 その顔こそ、

 ヌバの勇者だ』

変化してゆくあたしの顔を見ながらヌバたちは満足そうにうなづくと、

「えぇ!!!」

あたしは痛むお尻を庇うことなく、

急いで川へと向かっていった。

そして、川面に自分の顔を映し出したとき、

「いやぁぁぁぁ!!!」

あたしはヌバと化してしまった自分の顔を見て、

悲鳴を上げていたのあった。



しかし、あたしの変身はそれだけではなかった。

「あぁぁ…
 
 思い出せない…

 名前が…

 あたしの名前…

 あぁ、なんていうの?

 ンガニ…

 違うっ

 それではない名前…

 あたしの…

 あ・あたしの…

 おうっ、

 オ・オォォォ

 オウオウオウ…

 オゴォォ!!」

集落に戻った翌朝、

尚子という名前を忘れてしまったあたしは

頭を抱え転がりまわる。

そしてさらに、

ジワジワとヌバの言葉以外話せなくなると、

ヌバとして必要のない知識を忘れていった。

そして、数も10までしか数えられなくなり、

文字も書くことが出来なくなってしまったあたしは、

ウシの糞尿に塗れながらも、

槍を持ち、

ウシと共に生きていくヌバの勇者になって行ったのであった。


『うう…

 あぁ…
 
 お願い、助けて…健一

 このままじゃああたし…

 ヌバに…

 ヌバ・ンガニ…に…

 なっちゃう…

 うぉぉぉぉっ!』

灼熱の大地に裸体の勇者の叫び声が響いていった。



つづく