風祭文庫・モラン変身の館






「野生勇者・ムオラルンガ」
(第7話:君去りし後)


作・風祭玲

Vol.974





時はUC(宇宙世紀)

旧世紀末、大国の意地の張り合いから始まった世界大戦は

産業革命以降、人類の活動によって傷つけられていた地球環境に壊滅的な打撃を与え、

それによって発生した大災害・南極大溶融より

人類は経済・産業の拠点としていた平地のほとんどを失ってしまったのであった。

さらに陸地の消失に伴って大気の大循環活動が弱まってしまうと、

残った陸地も砂漠化・サバンナ化が急速に進行。

そのため戦後樹立された地球連邦政府は人類の地球での居住を諦め、

宇宙空間に建設したコロニー群への移住を決定したのであった。

しかし、コロニーという閉鎖的な空間は居住する者達の精神を圧迫し、

それによる社会不安によって数々の凶悪犯罪が多発したために、

地球連邦政府・平和維持省は見せしめ効果による治安維持を目的として、

満18歳を迎えた男女から無作為に【選ばれし者】を選び出し、

ナノマシンを用いた肉体並びに精神の改造手術と併せて女性は男性への性転換手術を行うことで、

全員を原始的な野生戦士に仕立て上げたのである。

そして荒廃した地球上に設置されたカメラの前で野生戦士達は槍や弓、石斧を振り上げ

永遠に続く戦いを行うのである。

すべては人類の平和のために…



カッ!!

真上から容赦なく照りつける太陽。

足を進めるごとに湧き上がってくる砂。

そして、気温60℃にもなろうという熱風。

僕はいま地球の大地に立っている。

『ふぅ…

 さすがに応えるな』

焼き殺されそうな暑さにへきへきしながらふと周囲を見ると、

ところどころ黄ばみながらも草は生い茂り、

僅かな葉をつけながらも堂々と空に向かって伸びる木々、

悠然と空を飛んでみせる鳥に地を駆け抜けていく動物達…

100年近く前に人類が壊してしまった地球だが、

しかし、生き物達はそれでも逞しく生きていた。

『まったく…

 散々警告が出ていたのに、

 追い出されるまで気づかなかったんだろう』

そう呟きながら僕は歩き始め、

そして、歴史の授業で習ったことを思い出す。



100年前…

増え続ける人口と大国による資源の争奪などの様々な要因が重なり、

それまで100を越す国家間の調整役をしてきた国連は機能停止に陥ってしまうと、

世界は大陸国家を中心とする”同盟”と海洋国家を中心とする”連合”とに別れ、

鋭く対立するようになっていった。

そして小さな鉱山で発生した暴動事件をきっかけにして

非難合戦を強めていた同盟と連合はついに戦端を開いてしまうと、

交戦状態に陥ってしまったのであった。

無論、早期の戦争終結のための幾度となく調停が行われたが、

だが、双方とも開戦前より自らの正当性と支持を得るため

無闇に振りまいたプロパガンダに煽られた自称・指導者達によってその芽は悉く潰されてしまうと、

戦火は収まるどころか却って広がっていったのである。

広がる戦火は過去の人類の営みによって傷つけられていた地球環境にさらにダメージを与え、

そのダメージは人の手が届かない氷の大陸で顕著になっていく、

そしてついに大陸の一角で放たれた核の火が一つの都市を焼き払ったとき、

巨大な天災が人類に牙を剥いたのであった。

”南極大溶融”

後にそう名づけられた大災害は

南極大陸を覆い尽くしていた氷河が温室効果の高温化によって一斉に溶け出したのである。

そしてそれによって生み出された莫大な量の水は世界の海水面を一気に押し上げ、

同盟・連合共に容赦なく都市を、森林を、穀倉地帯をことごとく海の底へと沈めたのであった。

もはや戦争どころではなかったが、

しかし、戦争は収まらなかった。

この大災害により海洋国家の集合体だった連合は大打撃をうけ、

優位に立った同盟はチャンスとばかりに大攻勢をかけると、

残った多くの連合の島々が同盟の軍隊に占領されて行く。

こうして大戦の勝敗は決まったかに見えたそのとき、

今度は同盟の屋台骨であった南北2つの大国が互いに宣戦を布告したのであった。

原因は皮肉にも大溶融による海面上昇。

大溶融といっても大津波が情け容赦無く押し寄せたわけではなく、

大陸沿岸部の大都市群から住民が逃げ出す時間は十分にあった。

だが、十分な時間がさらなる悲劇を生んだのだ。

ウン十億もの住民が一斉に内陸へと移動すればどうなるか、

まして大溶融で平地を失ってしまった大陸である。

たちどころに難民の処遇をめぐっての対立が戦争へとエスカレートし、

多くの人々の命が失われていった。

そして、ようやく行き過ぎた殺戮にブレーキがかかったときは

大国も含めて同盟を構成していた国家はことごとく消滅し、

生き残ったほんの僅かの人々が狭くなった大陸を右往左往していたのであった。

こうして大戦は有耶無耶の形で終結し

人類の団結と災害復興を謳う統一国家・地球連邦政府が樹立されたとき、

100億を越していた総人口は10億を簡単に割ってしまっていたのであった。

だが、これで全てが終わりではなかった。

戦争によって暴走した地球環境はさらに苛酷なものとなり、

人類は瀬戸際に追い詰められていく。

そのとき、折りしも宇宙空間では大戦中に連合の国家同士が資金を出し合い、

建設を進めてきた宇宙コロニーが竣工しようとしていた。

多くの人々収容できるコロニー群の存在はまさに希望の光であり、

地球連邦政府は地球内での復興を一時棚上げにし、

コロニー建設促進と全人類のコロニーへの移住を決断したのであった。



『………本当に人間ってバカだ…』

そのことを思い出した途端、僕は不機嫌になる。

僕の名前は工藤慶介。

地球自然の回復を目的として設立された地球自然回復プロジェクトのメンバーである。

もっともメンバーと言ってもこの春高校を卒業して、

プロジェクトに加わったばかりの新米であるが、

でも、いまこうして地球の大地に立てたことを誇りに思っている。

元々僕は宇宙航海士を目標にしていた。

しかし、あることにより地球に下り自然の回復を目指すことにしたのである。

きっかけを作ってくれたのは幼馴染でもあり、

そして僕のよき理解者であった一人の少女・真波千香。

いま僕が目指しているのと同じ地球環境の回復を将来の仕事として目指していた彼女だったが、

だが、現代の生贄と言うべきか、

コロニーで不用意な対立を生まないようにするため、

彼女は【選ばれし者】として肉体を男性野生戦士に改造されてしまうと、

送り込まれた地球上で槍や石斧を振り回し血飛沫を上げて殺戮を行うのである。

はっきり言って馬鹿げている話である。

でも、【選ばれし者】たちがこのような形で血を流しているお陰で、

コロニー内の平和が保たれているのも事実なのである。

皆、彼らの姿をみて争いを思い留まっているのだから…



ンモー

ンモー

どこからともなく牛の鳴き声が響き渡ってくると、

『んっ来たか』

それを聞きつけた僕はその方向へと首を廻す。

やがて、

ザッ

ザッ

ザッ

足音を立てながら、

黒く輝く漆黒の肌。

野生動物の如く逞しい肉体。

股間から角のようにウルカを突き出し。

そして、剣先光らせる槍を手にしたアスメック族たちが黙々と歩いて来る。

『こちらパトロール101号。

 アスメック族…Gグループ確認!』

首に着けてある無線機に向かって僕は報告をすると、

おもむろに腰を上げ、

彼らとは距離を置きつつ移動を開始する。



地球自然回復プロジェクトと言っても実に色々な仕事がある。

温室効果ガスの濃度を下げるため

大溶融で大きく傷ついたサンゴ礁の増礁や魚介類の回復に汗を流すものもいれば、

生き残った野生動物や自然環境の保護に汗を流すものもいる。

もっともその中で一番大規模なのは温室効果ガスを強制的に吸収し資源化するプラントの運営だけど、

新米の僕はそっち方面には行かせてはもらえなかった。

僕の仕事…

それは連邦政府・平和維持省から委託されている【選ばれし者】達の監視業務である。

地球に送り込まれた【選ばれし者】達が過度に地球自然の破壊をしないか、

さらに現状への不満から【選ばれし者】達が団結して抗議行動をしないか等、

地球自然の回復と人類平和を乱さないためにしなければならない任務は一杯あるのである。

ただし、守らなくてはならないことがある。

それは”絶対に【選ばれし者】達とは人間同士として接触をしてはならない。”と言うこと、

人間同士として彼らと接触をしてしまうと、

折角、野生戦士としての本能を植え付けられている彼らに余計な知恵を与えてしまい。

これまでの努力が水泡に帰すからである。

そのため、僕はボディアーマーと呼ばれる特殊スーツを身に着けている。

これはジオニクス社が開発したボディスーツの発展型であり、

人型のボディスーツに対してボディアーマーは様々な獣がラインナップとして取り揃えられているのである。

ちなみに僕がいま着ているのはタイプNo5963:豹タイプのボディアーマーで、

装着を完了すると体型から生理・身体能力にいたるまで豹と同格になれるのである。

本当は勇壮な鬣の雄ライオンタイプのボディアーマーを着たかったのだが、

雄ライオンは鬣ゆえの死角が大きく、

同時に極めて目立つために僕の希望は却下され、

代わりに追尾に長けている豹タイプの着させられたのであった。

またボディアーマーは五感を動物と同等に置換してくれるので長時間身に着けていると

つい、自分が動物になってしまったかのような錯覚に陥ってしまうのが難点である。



ササッ

ササッ

誰から見ても豹にしか見えない僕は4本の足を忍ばせつつ漆黒の男達のあとをつけていく、

アスメック族・Gグループならこの中に彼女がいるはずである。

草むらを挟んで僕の横を痩身ながらも筋骨逞しい男達が行進していくと、

モー

モー

と啼き声をあげる牛の群れが続き、

その群れの中で、

シッ

シッシッ

そう声を上げながら牛追い棒を手にする男達の姿があった。

戦士とは異なる存在、牛飼い達である。

戦いに明け暮れる【選ばれし者】達ではあるが、

だが、彼らも生活をしなくてはならないのである。

そして、そんなアスメック族達の生活を支えているもの…

それがこの牛の群れであった。

改造によりアスメック族と化した千香と最後の別れのとき、

彼女、いや彼から、

戦士ではなく、牛飼いとして地球に下りることを告げられた僕は

この任務に就く際に彼女のその後を調べていた。

そして、牛飼いとしてアスメック族のGグループにいることを知った後、

このときが来るのを待っていたのである。

『んーと、

 千香はどこにいる?』

草むらの中から見つからないように首を伸ばして、

僕は牛の群れにいる牛飼いの男達を一人一人チェックしていく、

そして、腰に牛の皮を括り、

オレンジ色に染まり固めている髪を晒して不器用そうに牛の面倒を見ている一人の男を見つけると、

『いた…』

僕はにやりと笑って見せた。



やがて、アスメック族と牛の群れの行く手に無残に朽ちかけた高層ビルの群れが姿を見せる。

シティと呼ばれた大都市の残骸である。

彼らはかつての目抜き通りだった空間へと足を踏み入れていくと、

パキン!

アスメック族達を追いかける僕の足下で骨が割れる音が響き、

『殺しも殺したり…ウン億人かなぁ』

そう呟きながら僕は進んでいく。

遠目では判らなかったが、

シティの中は無数の白骨で埋め尽くされているのである。

住民、避難民、軍隊、ならず者…

国家が崩壊し無数の人間で埋め尽くされたこの街は一子相伝・必殺拳法の使い手が王となり、

絶対的な専制を敷いたそうだが、

人間、食べなければ生けてはいけないのである。

そう思いながら僕はふと横を目をやると

そこには朽ち果てた宮殿があり、

その中にある玉座にはいまも一体のミイラがあるという。

そう絶対的な専制を敷いた王の亡骸である。

屈強の肉体を持ち、

抜群の運動神経と必殺拳法でまさに敵なしの王だったそうだが、

生産と流通手段を失った都市では王の権力など一時の幻、

戦いと飢餓で人々がことごとく死に絶えてしまえば、

王もその後を追うようにして骸を晒すのである。

おそらく亡者で溢れかえっているであろうシティの中を

アスメック族達は何を見る様子もなく黙々と歩いていく。

『ふーん、

 まさに兵どもの夢のあとか』

そう思いながら僕は歩いていくと、

ピー

ピー

ピー

『パトロール101号応答せよ。

 パトロール101号応答せよ』

突然、僕の耳にかけてあるレシーバーに通信が入った。

『はっはいっ』

その声に僕は慌てて返事をすると、

『定時連絡はどうした!』

と教官の声が響く。

『申し訳ありません、教官。

 報告します。

 追跡中のアスメック族Gグループ、

 現在旧シティ・3番通りを北に向かい進行中です。

 会話を傍受したところ、

 旧シティには立ち寄らずそのまま抜けていくとの事です』

そう僕は彼らのリーダー達が交わしていた会話のことも含めて報告をすると、

『うん、ご苦労。

 Gグループは旧シティには寄らずか、

 東からムルク族のCグループが接近中だが、

 ぶつからずに通り過ぎてくれれば戦いはなさそうだな。

 先ほど交代要員を出した。

 その者と交代の後、帰還せよ』

と教官は指示をする。

『了解!』

それに向かって僕は返事をすると、

『それから、

 私のことは教官ではなく、

 先生。

 と呼ぶように』

そう付け加えてきた。

たしかに教官はいつも白い犬のボディアーマーを身に着けているが、

この場でそれは無いだろう…と僕は思う。



アスメック族たちは旧シティの目抜き通りを北上し、

そのまま街から抜けていくと、

放棄された公園の跡へと向きを変えていく。

『どうやら、

 ここで野営か』

リーダーの指示を受けながら裸体の戦士達が散っていくのを見ながら僕はそう判断すると、

『さーて、

 今日の追跡はここまでだな…』

と交代要員との合流を待ち始めた。

そのときだった。

丸く固まる牛達の面倒を見ていた千香の下に槍を手にする2・3人の戦士達が集まり、

「・・・・・・」

何か話しかけているのが目に入った。

『ん?

 打ち合わせか?』

その様子を見ながら僕は小首をひねると、

ピクッ

ピクピクッ

と頭の上の耳を動かし彼らが交わす会話を聞き始める。



『…ルンガ、

 聞いたぞ、

 お前って上では女だったんだって?』

『なんでそんなことを隠しているんだよ』

『どうだよ?

 男になった気分は?』

『牛飼いの癖に随分と立派なウルカをつけているじゃないかよ』

などと戦士達が千香(ムオラルンガ)に向かって話しかけるその言葉を聞いた途端。

『なんだぁ?

 連中、変に知恵をつけているみたいだな…

 それに、この会話はどう聞いても言いがかりをつけているにしか…』

と僕は次第に不機嫌になっていく。

すると、

『えぇ、そうですけど、

 なにか御用で?

 戦士様?

 言っておきますけど、

 あたしは色々忙しいんです』

絡む戦士に向かって千香も不機嫌そうに返事をして見せると、

『なんだよぉ、

 俺達に守られているくせに生意気だな』

『あぁ…

 まだ地球に下りて間が無いんだろう?』

『へへ、

 色々教えてやるからよぉ、

 ちょっと付き合え』

千香の態度に腹を立てたらしい戦士は無理やり彼女…

いや、彼の腕を掴み上げるなり、

近くのブッシュの中へと押し込んでいく。

『これは、

 やばい予感が…』

それを見た僕も千香の身にただならぬ危機が迫っていることを感じ取ってすまうと、

彼らの後を追いかけてブッシュの中へともぐっていった。

ザザ

ザザ

連中に気取られないように僕は何時にも増して慎重に足を運んでいくと、

ブッシュの奥、

大きく背を伸ばす大木の下にぽっかりと開いている空間で

『ちょっと、

 あたしをどうしようって言うの?』

『なぁに、

 いつも危険と隣合わせだからな、

 気持ちのすれ違いをなくそうと思ってよ』

などを言われ無理やり連れ込まれ戦士達をにらみつける千香と

彼を連れ込んだ戦士達の姿があった。

そして、千香の体を舐めるように見ながら

グニグニ

と戦士達がウルカが覆う股間を揉み始ると、

『あんたたち、

 言っておきますけど、

 あたしも男よ。

 おっ男同士でなにをする気なの?』

そんな戦士達の様子を見て千香は聞き返すが、

『でもよぉ、

 ついこの間までは女だったんだろう?』

と戦士の一人が囁き、

『どうだい?

 オッパイ凹まされて、

 イリガ生やされた気分は?』

そう尋ねながら千香の胸板に手を触れてみせる。

その途端、

パァン!

胸板に手を触れていた戦士の手が叩かれると、

『おっ男の胸を触ってどこが楽しいっ』

と千香の怒鳴り声が響いた。

だが、

『へへっ、

 ついこの間までそれ、オッパイだったんだろう?

 その名残ぐらい楽しませてくれよ』

そう囁きながら戦士は自分の身を千香に近づけて行き、

ガバッ!

いきなり千香に抱きついたと思った瞬間、

素早く背後に回りこむと

千香の腕を絡め上げ、

『おいっ、

 こいつのウルカを外せ』

と声を上げた。

『なにぃ!』

それを聞いた僕は頭に血が上るが、

『ぐっ、

 だめだ、

 ここで出て行っては…』

と監視員としての警告が頭をよぎるや

グッ!

と歯を食いしばりその場に腰を下ろす。

そして、

『だめだだめだ、

 千香の身に何があっても僕は見るだけなんだ』

そう自分に話しかけながら、

爪が出た前足でしきりに地面を引っかいてみせる。

だが、

『やめてぇ!』

いとも簡単にウルカを外されてしまった千香が、

その中に収めていたチンポを露にされ声を上げた。

『へぇ…

 牛飼い…と言う割りには随分と立派なイリガを持て居るじゃないかよ』

『へへっ、

 ウルカも伊達じゃないってコトかよ、

 元お嬢さん』

と千香のチンポを弄りながら戦士達は持て囃す。

『くっ』

その言葉に千香は悔しそうに顔を背けると、

『ちゃぁんとこっちを見ろよ』

そう言いながら戦士の一人は千香の顔を正面に向けると、

『上じゃこういうのも散々しゃぶってきたんだろう?』

と尋ねながら、

グィッ

戦士は中腰になるとウルカから己のチンポを取り出し、

その勃起した先を千香の頬になすりつけ始めた。

『こ・の・や・ろ・う』

ガルルルルル…

悔しさの余り、

僕は目の前に掘った穴に前足を突っ込み、

腰を上げた体勢で連中を睨みつけるが、

しかし、いま僕が出来るのはこのまま一歩も動かないか、

それとも去ることのみである。

もし、この爪で彼らを傷つけでもしたら、

罰せられるのは僕の方なのである。

『くっそぉ!!』

何も出来ない歯がゆさに怒り心頭していたとき、

ザザッ

ザザッ

背後の木から何かが下りてくると、

僕の背後にすっと腰を下ろした。



『おら、

 俺のイリガを舐めろよ』

『へへっ、

 女だった頃を思い出せてやるよ』

『なあに時間はたっぷりとあるんだ、

 おら、ケツの穴の力を抜け、

 イリガが入らないだろう』

歯止めが無い戦士達の行為はエスカレートし、

千香にフェラチオの強制や肛門への挿入を始めだしていた。

『おいっ、歯を当てるな、

 痛いだろう。

 舌を使え、舌を!』

『うぉっ、

 締まるぜ、

 まるでマンコだよ、こいつのケツ!』

『なんだよどこかの物好きに開発されていたか、

 あはは』

漆黒のチンポを口と肛門にねじ込まれた千香が奏でる隠微な音を聞かされた僕は

ついに我慢も限界に達してしまうと、

ブチッ!

『ぶっ殺す!』

の声をあげて飛び掛ろうとしたとき、

スリスリ

といきなり何かが身を寄せて来たのであった。

『え?』

まるで出鼻を挫かれたみたいにして僕は立ち止まり、

恐る恐る横を見ると、

そこには一頭の豹の姿が…

『あっ、

 交代の人か』

豹の姿を見たとき僕は一瞬そう判断したものの、

しかし、身を寄せてくる豹の顔を見た途端、

『んなっ

 識別標がない…

 ってことは…こいつはボディアーマーを着た人間ではなくて、

 まさか、本物の!?』

と親しそうに摺り寄せる豹の額についているはずの識別標が無いことに気がつくと、

この獣が本物の豹…であり、

しかも、一番危ないメス豹であることにも気づいたのであった。

サァァァァ…

瞬く間に僕の頭から血が下がり、

ガクガクと4本の脚が震え始めると、

『?』

身を摺り寄せる豹は不思議な表情を見せながら僕の顔をじっと見つめてみせる。

『にっ逃げなきゃぁ…』

一刻も早くこの場から立ち去ろうとして、

一歩また一歩と僕が後ずさりし始めると、

『!!っ』

メス豹が気づくなり、

クルッ!

っと前へと顔を動かし、

グルルルルルルル…

と千香を犯す戦士たちに向かって牙をむき出しにして殺気を放ちはじめた。

どうやら僕があの戦士達に怯えている…と勘違いをしたようだ。

そして、

グワォォォゥ!!!!

とメス豹は声を上げるや戦士達に飛び掛って行ったのであった。



まさに阿鼻叫喚とはこのことを言うものだとそのとき僕は思った。

突然メス豹に襲われた戦士たちは瞬く間にパニックに陥ってしまうと、

反撃することも叶わず、

黒く光る裸体を鋭い爪で引き裂かれる者、

牙で喉元を食いちぎられる者、

慌てて逃げようとして自分が持っていた槍で自分を突き刺し動けなくなる者、

幾たびの戦いで生き抜いてきた強者たちが次々と倒されていく、

『あーぁ』

その様子を僕はただ見ていると、

樹の下でガタガタ震わせながら硬直している千香の姿が目に飛び込んできた。

『あのバカ!

 なにボケっとしている。

 さっさと逃げろ!』

それを見た僕は、

ダッ!

咄嗟に駆け出し、

千香に思いっきり体当たりを食らわせようとしたとき、

『!!っ』

千香は鋭い目で僕を見つめると、

戦士たちが持ち込んだ槍を手に取ると、

ザッ!

その槍の切っ先を僕に向けたのであった。

『ぐっ!』

まるで突き抜けてくるその殺気を感じた僕は思わず立ち止まってしまうと、

『千香って…

 こんなすごい殺気を放つ奴だったっけ』

と唖然とする。

すると、

ギャァォ!

さっきのメス豹がうなり声を上げて千香に向かって飛びかかってきた。

『ちぃ!』

それを見た僕はメス豹に向かって走るとその進路を塞いでみせる。

その途端、

『ひっひぃぃぃ!!!』

千香は悲鳴を上げながら逃げ出して行ったのであった。



ンモー

モー

藪から脱出しリーダーの元に駆け込んだ千香の報告により、

展開していたアスメック族のキャンプはスグにたたまれてしまうと、

彼らはこの公園跡を後にしていく。

『ふぅ…

 どうやら千香は今日も生き残れたな』

去っていく彼らを見送りながら僕はそう呟いていると、

ガサッ

先ほどのブッシュの陰からあのメス豹が意気揚々と何かを咥えて出てきた。

『ん?

 何を咥えているんだお前』

そう思いながらメス豹を見ると、

その口にはダラリと傷だらけの腕を垂れ下げ、

真っ赤な血を滴り落とす肉塊が咥えられていたのであった。

『ひぃぃ!』

それを見た僕は思わず悲鳴を上げてしまうと、

ダッ!

大慌てでその場から逃げ出すが、

メス豹もまた口に咥えた肉塊で僕に呼び寄せようとしているのか、

逃げる僕の後を追いかけ回してくる。

『やめてくれぇ!!

 君と仲良くそれを食べるわけにはいかないんだぁ!』

必死逃げながら僕はそう訴え続け、

そしてやっとの思いでメス豹を捲いた時、

『おーぃ、

 101号!

 そこに居たのか交代だぁ』

と暢気な声とともに交代要員がやってきたのであった。

交代要員と引き継ぎをした後、

僕はさっさとベースへと引き上げ、

ブッシュの中で起きたことの一部始終を教官…いや先生に報告をするが、

『ぼーいず・びー・あんびしゃす。だ』

一言先生は僕に告げると、

『ご苦労であった。

 もどって休め』

と僕に告げるだけであった



それにしても千香が咄嗟に見せたあの殺気…

あれはどう見ても牛飼い…と言うより戦士が見せる殺気だった…

先生への報告後、

男子更衣室でボディアーマーを脱いだくつろぎながら僕はそう思っていると、

シュッ!

軽い音ともにドアが開き、

コッ

コッ

と足音を響かせながら人影が入ってきた。

「ん?」

その足音に僕は顔を動かすと、

「え?」

入ってきたのはスカートスーツ姿の女性であり、

しかも、その顔には見覚えがあったのである。

「あっあなたは確か」

女性を指さしながら僕は声を上げると、

ジロッ!

女性は僕を見つめるなり、

「君とは一度会っていますね」

と僕に言う。

そして、着ていた服を脱いで僕に女性の柔肌を見せるが、

さらにその柔肌に手をかけると、

ズルリッ!

とその肌を脱いで見せたのであった。

そして、肌の下から姿を見せたのは朱泥で結い上げた髪を振り、

痩身ながらも鍛え上げた肉体を漆黒の肌で覆った野生勇者であり、

ブルンッ

と揺れるチンポを朱染の布で覆うと、

首に幾重もトンボ玉の首飾りをかけながら、

『わたしの名前はオレルサン。

 戦士・モランだ』

と僕に向かって彼は改めて自己紹介をし、

『君とわたしはこれからペアを組むことになる。

 それから私のことは”お兄さん”と呼ぶように』

そう付け加える。



…かつて地球の大地をモランと呼ばれる野生勇者達が闊歩していた。

 大溶融以降、彼らもまた宇宙へと移住させられたのだが、

 しかし、彼らが持つ数々の術や考え方は地球環境の回復には必要であるため、

 アドバイザーとして地上に降りることが許され、

 さらに【選ばれし者】たちへの接触も許されているのであった。



一体、これから何が起こるのだろうか、

朱染めの衣を身にまとうモランを眺めつつ、

僕は先のことが非常に不安になっていたのであった。



つづく