風祭文庫・モラン変身の館






「野生勇者・ムオラルンガ」
(第4話:熱砂の体験)


作・風祭玲

Vol.971





時はUC(宇宙世紀)

旧世紀末、大国の意地の張り合いから始まった世界大戦は

産業革命以降、人類の活動によって傷つけられていた地球環境に壊滅的な打撃を与え、

それによって発生した大災害・南極大溶融より

人類は経済・産業の拠点としていた平地のほとんどを失ってしまったのであった。

さらに陸地の消失に伴って大気の大循環活動が弱まってしまうと、

残った陸地も砂漠化・サバンナ化が急速に進行。

そのため戦後樹立された地球連邦政府は人類の地球での居住を諦め、

宇宙空間に建設したコロニー群への移住を決定したのであった。

しかし、コロニーという閉鎖的な空間は居住する者達の精神を圧迫し、

それによる社会不安によって数々の凶悪犯罪が多発したために、

地球連邦政府・平和維持省は見せしめ効果による治安維持を目的として、

満18歳を迎えた男女から無作為に【選ばれし者】を選び出し、

ナノマシンを用いた肉体並びに精神の改造手術と併せて女性は男性への性転換手術を行うことで、

全員を原始的な野生戦士に仕立て上げたのである。

そして荒廃した地球上に設置されたカメラの前で野生戦士達は槍や弓、石斧を振り上げ

永遠に続く戦いを行うのである。

すべては人類の平和のために…



ピッ!

シャッ!

小さな音を立てて閉められていた白い扉が左右に分かれて開くと、

ゴワッ

同時に猛烈な熱気が中から噴出し

容赦なくあたしに襲いかかってきた。

「熱っ!」

肌を保護する衣類は股間から伸びるウルカ以外一切何も身に着けず、

生ける物すべてを焼き焦がしてしまいそうなその熱気を直接浴びたあたしは

悲鳴を上げて2・3歩後ずさりしてしまうと。

「おぃおぃ、

 何をやっているんだ。

 おまえはこの熱気の中で生きていくんだよ。

 逃げ出す奴があるか」

すかさず正井さんが注意をする。

「こっこんな暑い中で暮らすのですか?」

それを聞いたあたしは驚きの声を上げると、

「暑いって?

 常に快適な環境だったコロニー育ちのお前にはショックな気温かもしれないけど、

 清浄だった頃の地球で暮らしていた野生部族たちも、

 この程度の気温の中で暮らしてきたんだ。

 そうだな、これで気温は50℃くらいかな?

 まだ涼しい方だ。

 言っておくが、

 アスメック族が暮らす所では最高気温は60℃にもなる。

 まったく、人類が調子に乗って地球をぶっ壊してしまったから、

 地球全体がかつてのアフリカ・サバンナのような星になってしまった。

 砂漠地帯では80℃越えもあたりまえ。

 かつて氷に覆われていた南極でさえ35℃を超す猛暑日の連続。

 判るだろう、

 こんな狂った環境の星で

 しかもこれ以上環境を傷つけない様に生きていくには、

 くだらない知識を捨て、

 野性化して生きるしかないのさ。

 しかもだ、ただ生きるだけではない。

 アスメック族と同じ野生部族は数百もあり、

 それらの部族が生存をかけて日々殺し合いをしているのさ、

 無論、疫病だってわんさとあるし、

 狂った環境に適合して獰猛化した猛獣も数多く数多く生息している。

 襲われ傷つき血を吐きながら助けを呼んだところで、

 都合よく助けなんて来てはくやしない。

 その場でへたばって死ねば

 翌朝には僅かの血の跡を残してきれいに片付けられているんだよ。

 獣たちの胃袋に収まってな。 

 さぁ中に入るんだ。

 ここはお前がアスメック族としての訓練を受ける訓練室。

 全ての環境をアスメック族が生きていくところと同じに整えてある。

 本来なら戦士としてみっちりとシゴこうと思ったけど、

 ”牛飼い”となるお前は徹底的に仕込まれ、

 地球へと降りるんだ」

と正井さんはあたしに言う。

「うっ」

彼女のその言葉にまたしてもあたしは声を詰まらせてしまうと、

「返事は?」

ツンツン

ツンツン

っとルングの枝先で突きながら彼女は聞き返してきた。

「はい…

 判りました」

その質問にあたしは俯きながら言葉少なめに返事をすると、

ギュっ!

ウルカの前で重ねていた手を握り締め、

一歩、

訓練室の中へと足を踏み出した。

ところが、

ジリッ!

踏み出した足が中の土に触れた途端、

あたしの足の裏を焼けた土が焦がしはじめ、

「熱い!!」

火傷をしてしまいそうな熱さを足の裏で感じたあたしは

思わず足を引っ込めてしまうと、

「何ぐずぐずしているんだ。

 さっさと行きなっ」

と怒鳴る正井さんの声が背後から響く否や、

ドンッ!

思いっきり背中を突き押された。

「あっあぁぁぁ…」

その勢いを受けてあたしは訓練室の中へと飛び込んでしまうと、

「熱い!

 熱い!

 熱い!」

必死で訴えながら

あたしは飛び跳ねるようにして足を上下にあげおろし始めた。

「あははは…

 なんあて言うダンスを踊っているんだ?

 アスメック族はそんなダンスは踊らないぞ。

 それと言って置くが、

 牛飼いには靴はおろか、

 履物の類は一切履かせて貰えないからな。

 さっさと足の皮を厚くして慣れる事だな」

そんなあたしの姿を見て正井さんは笑いながら言うと、

「そんな…」

飛び跳ねながらあたしは困惑の表情を見せる。

そして、それからしばらくして足の感覚が麻痺してきたのか、

次第に熱を感じなくなってくると、

散々飛び跳ねていたあたしは肩で息をしながら立ち止まり、

「ハァァァ…」

と息を吐きながらその場に蹲るようにして腰を下ろして見せたのであった。

しかし、

ジリッ

むき出しのお尻が地面についた途端。

「熱い!!」

あたしは悲鳴を上げながら腰を上げてしまうと、

「これが…

 アスメック族が暮らす世界なの?」

と呟いてみせる。

真上から煌々と照りつけてくる人工の太陽の光、

その太陽の熱を受けて赤茶けた熱砂を吹き上げる大地。

その灼熱地獄の中を木や草はじっと堪えている世界。

無論、ここが本物の世界でないことはわかっている。

あくまで人工的に作り上げられた環境ではあるが、

しかし、肉体改造のせいで一滴の汗も流れず、

代わりに脂が浮き出てくる腕で同じ脂汗を流す額を拭きながら、

あたしは野球場のグラウンドほどの広さの訓練室を見渡していると、

本当にこんなところで生きていけるのか自信がなくなってきていた。

とそのとき、

ガチャンッ!

ドアの鍵が掛けられる音が響くと、

「さぁてこれから40日間。

 お前はここで暮らし、

 牛飼いとしての教育を受ける。

 それにしてもさすがに堪えるわねぇ

 これは…」

と裸体にウルカのみをつけているあたしに向かって、

スカートスーツ姿の正井さんはそう指示をすると、

上から照らす人工太陽灯の光を遮る仕草をしてみせた。

「あのぅ…

 大丈夫ですか?」

それを見たあたしはふと彼女に問い尋ねると、

「ん?

 あら、あたしのことを心配してくれているの?

 ありがとう。

 でも、あたしはこの程度の暑さはなんともないのさ、

 鍛え方が違うからね。

 それより、人の心配よりも自分の心配をすべきじゃない?」

と正井さんは50℃の気温もどこ吹く風で返事してみせ、

「まだ暑く感じるの?」

逆に眉を寄せて聞き返してきた。

「え?」

その言葉にあたしはさっきまで感じていた熱気が

いつのまにか感じられなくなっていることに気づくと、

「本当だ…

 あんなに熱かったはずなのに、

 熱く感じられない…」

と黒く光る自分の肌を眺め、

そして、

「えぇ…

 確かに…感じません。

 これがアスメック族の体なんですね」

あたしは感心した素振りでそう答えると、

「判ったのなら訓練室の真ん中に向かって歩きなさい」

と正井さんは指示をする。

「はい」

彼女のその指示に従いあたしは訓練室の真ん中へと移動すると、

直径5mほどの擂り鉢状になった窪地が見えてきた。

「なにこれ?」

なぜその場所が擂り鉢状になっているのか

理解できないままその中へと降りていくと、

窪地の中はサラサラと崩れる砂が溜まっていて、

また所々に火をおこした跡と、

その周囲に白い灰が広がっていたのであった。

「何かしら…

 この灰は?」

不思議に思いながらあたしは灰を掬ってみると臭いを嗅いで見た。

その途端、

「うっ、

 これって…ウンチの臭い?」

と灰からほのかに漂ってきた肥えの臭いにあたしは顔をそむけて見せ、

手にした灰をスグに放り出してしまった。

その後、窪地の中を歩き回ってみると、

コツンッ

不意にあたしの足に何かが当たる。

「え?」

思いがけないその感触に下を向くと、

様々な大きさの黒く煤けた壷のような素焼き瓶が砂の中から顔を出していて、

さらにその周囲を手で掘ってみると

いくつもの瓶が砂の中から出てきたのであった。

「何かしら?

 なにかを煮炊きするものかな?

 それとも貯めておくためのもの」

素焼き瓶の意味がわからず

あたしは瓶を掘り起こし続けていると、

窪地の淵に生える草の陰に隠されているようにして

蓋をされて置かれている大きな瓶が目に入った。

「あれは?」

掘り起こした素焼き瓶とは

大きさも存在感もまるで違う大瓶に惹かれるようにして近づいてくと、

その口に置かれている重い蓋を取って見た。 

すると、

ピチョン!

なんとそのなかには水が満々と入っていたのであった。

「あぁ、

 水ぅ…」

キラリと光る水面を見た途端、

あたしは喉の渇きを癒すため、

素焼き瓶に顔を突っ込んで水を飲もうとするが、

その途端、

「このっ、

 馬鹿者がぁ!!」

と言う怒鳴り声と共に正井さんが持つルングが高々と持ち上られ、

一気にあたしの脇腹を叩く。

「あぐぅ!」

ほぼ同時にあたしは声を上げて打たれた脇腹を抑えながら蹲ってしまうと、

「なぜ叩かれた判るか?」

と仁王立ちになっている正井さんは質問をする。

その質問に苦痛で顔をゆがめながらもあたしは首を横に振って見せると、

「いいか、よく聞け。

 ここは砂漠ほどでもないが雨はほとんど降らない乾燥したところだ、

 その苛酷な環境の中でアスメック族は牛を飼い、

 その牛に生活の全てを依存している。

 つまり牛が死んでしまったら大問題であり、生きてはいけないんだ。

 故にアスメック族は手に入れた水はまず牛に捧げ、

 牛が残したその余りを飲むのだ」

と正井さんはアスメック族の生き方を説明する。

「はぁ…」

彼女のその指摘にあたしは力なく返事をすると、

ンモー

まるでこのときを見計らっていたかのように

鳴き声とともに見たことも無いほどの大きな角を振りかざして歩く2頭の牛が近寄ってきた。

「牛?」

あまりにもタイミングよく現れた牛をあたしは怪訝そうな目で見ると、

「紹介するわ、

 セブ牛と言う名の牛よ。

 もともとはアフリカに住む牛で、

 高温や乾燥にきわめて強く、

 それ故、いまの地球でも生きていける数少ない家畜」

と正井さんは説明する。

「セブ牛…」

彼女の説明を聞いたあたしは寄ってくる牛のうち左側の一頭を見ると。

モォ…

それに気づいたのか、

その一頭があたしへと近づいてきた。

「ちっ、

 お前のせいで水が飲めなかったじゃないか」

あたしに近寄ってきた牛に向かって愚痴をこぼすと、

ベロリ

牛はあたしの顔を舐めてみせる。

「うわっ

 ぺっぺっ」

いきなり舐められたために

牛の唾液などが口の中に入ってしまったあたしは

慌ててそれを吐き出すと、

「ふふっ、

 さすがはアスメック族の牛飼い。

 早速牛に気に入られたみたいだね」

と正井さんは言う。

「そっそうですか?」

腕で幾度も顔をこすりながらあたしは返事をすると、

「さぁ、

 まずはその牛に水をあげなさい」

と彼女は手にしたルングであたしを指して指示をする。

「はい」

その言葉に従いあたしは瓶の傍から退いて見せると、

バシャッ

バシャッ

バシャッ

と牛は美味しそうに舌を伸ばし牛を飲み始めたのであった。

「あぁぁ…

 水…」

目の前でドンドンと飲まれていく水を見つめながら、

あたしは呆然としていると、

「ほらっ、

 ボケッとしてないで、

 次は牛の糞を集めるんだよ」

と正井さんの声が響いた。

「え?

 牛の糞ですか?」

その声に驚きながらあたしは聞き返すと、

「お前にはアレが見えないのか?」

そう言いながら正井さんはルングで指してみせる。

「あっあれ?」

彼女がルングで指した先には、

空中に浮かぶような姿で棒状に黒く蠢くものがあり、

盛んに形を変えていたのであった。

「なにあれ?」

それを見ながらあたしは近寄ろうとすると、

「バカッ、

 何もしないでアレに近づくな」

と正井さんの怒鳴り声が響く。

「でも…」

その声に向かってあたしは呟くと、

「あれは蚊だ。

 体内に病原性のウィルスを宿し、

 しかも、吸血する相手にそのウィルスを注入していく厄介な奴、

 あの蚊にウィルスを注入され、

 命を落としたものは戦いで命を落としたものよりも大勢居るんだよ」

と正井さんは説明する。

「そうなんだ…

 ってそんな物までここに連れてこなくても」

それを聞かされたあたしはスグに回れ右して引き返すと、

「病気になりたくなければ、

 さっさと牛の糞を集める」

と言う。

「もぅ、牛のウンチなんて集めてどうするのよ、

 第一、汚いでしょ」

不服そうにしながらあたしは文句を言うと、

「お前、いまなんて言った?」

っと眼光鋭く正井さんは尋ねた。

「だっだっだから、

 牛のウンチを集めるのって、

 汚いことでしょう。

 それに…

 集めるにしても何も無いし」

やや目をそらせながらあたしはそう返事をすると、

「牛の糞を集め乾燥させて後、

 焼いて灰にする。

 それを体に塗れば蚊などは寄ってはこなくなる。

 窪地の中に白い灰が落ちているところがあるだろう。

 その灰こそが糞を焼いて作った灰だ」

と彼女は言う。

「そうなんですか…

 この灰を作って塗れば蚊は寄ってこなくないのですか」

それを聞いたあたしは驚きつつ頷いて見せるが、

しかし、もぅ一つの問題が残っていたのであった。

「牛のウンチが大切なのは判りました。

 ではどうやって集めるのですか?

 チリトリ一つありませんが」

とあたしは聞き返す。

すると、

「寝ぼけたことを言うな、

 お前の手で一つ一つ掴んで集めて乾燥させるんだよ」

と言う返事が返ってきたのである。

「えぇ!

 あっあたしの手で拾い集めるのですか?」

その言葉にあたしは全身に鳥肌を立てながら聞き返すと、

「当たり前だ。

 さぁ、牛が水を飲んでいるうちに

 お前はあちこちに落ちている牛糞を集めるんだ」

と正井さんは指示をする。

「はい…」

彼女の指示を受けてあたしは立ち上がると、

「あたしの分の水…

 残してね」

と牛に話しかけ、

牛の糞を探しながら歩き始めた。



それにしても本当に誰かが用意しているのか、

牛の糞は窪地の周囲の草むらや裸地にいくつも落ちているのが目に入る。

「いつの間にこんなに…」

蚊柱に注意しつつ、

あたしはそのうちの一つに近寄っていくと、

「本当にこれを手で運ぶのですか?」

糞を見下ろしながら呟くが、

ベチャリ

あたしの足元に落ちている糞は

水気を含み横に広くがっていたのであった。

てっきりコロンとした半固形態を想像していたあたしにとって予想外の展開に
 
「あのぅ…

 ここの牛ってお腹が悪いですか?」

と声を上げて正井さんに聞き返す。

すると、

「お前は牛の糞も見たことが無いのか?」

そう怒鳴り声が響き、

「それが健康な牛の糞だ」

と返事が返ってきた。

「ひっ!

 コレが健康な牛の糞!」

それを聞いたあたしはその場にぺたりと座り込んでしまうと、

「これを拾って集めろって言うの…」

と絶望的な表情で糞を眺めていた。

しかし、ずっとこうしているわけには行かず、

正井さんの雷が落ちる前にあたしは腕を差し出すと、

なるべく糞に触れないようにと

遠くから砂をかき寄せながら糞の一部を掬い上げると、

タタタタ…

急いで窪地の中で灰が落ちているところに投げ落とす。

そして、再び引き返すと、

同じようにして2度、3度と往復して

糞を窪地内の灰の場所へと移動させていった。

ところが、

「おぃおぃ、

 一度に抱えて運ばないか、

 無駄に走ると後が大変だぞ」

と正井さんの注意が飛ぶ。

「はいっ」

もぅそのときにはあたしは半ば破れかぶれとなって、

次に見つけた糞を砂にまぶしながら一気にかき寄せてしまうと、

抱きかかえるようにして窪地へと運んで見せた。

しかし、

それによってあたしの腕や胸、さらにはお腹にウルカ…そして足など。

牛の糞を集めていくうちにあたしの体のあちこちに

零れ落ちた牛の糞がべっとりと張り付き、

たちまち放ち始めた臭いがあたしの鼻に入ってきた。

「うー…

 自分がウンチ臭い…」

そう思いながら最後の糞を窪地に投げ落とすと、

そこには牛の糞が小積まれ、

ブンッ

何匹ものハエがそのそばを舞っていた。

「これで、いいですか?」

自分の体にもハエをたからせながらあたしは聞き返すと、

「そうだね、

 まぁ合格かな?」

と正井さんは言う。

「はぁ…」

彼女からの合格の言葉を聞きあたしはほっと一息つくと、

「それが乾燥したら火をつけ、

 灰にするのね」

そういいながらさっき牛が水を飲んでいた瓶を見た。

ところが、

「うそっ

 空っぽ?」

瓶に入っていた水は2頭の牛が全て飲んでしまったらしく、

空っぽになってしまっているのを見てあたしは愕然としてしまうと、

「あーら、

 残念。

 ちょうど無くなっちゃったみたいだね」

と正井さんは涼しい顔で言う。

「そんなぁ…

 お水だって飲みたいし、

 ウンチで汚れた体も洗いたいし、

 正井さん、何とかして下さい」

彼女を見ながらあたしは請うと、

「なに甘えているんだ、

 水ならいくらでもあるだろう」

と彼女は言う。

「え?」

思わぬその言葉にあたしはキョトンとすると、

ジャァァァァ…

水を飲み終えた牛が放尿を始めだした。

その途端、

「何をボケッとしている、

 その小便を瓶に貯めるんだ」

と声が飛んだ。

「はっはいっ」

彼女のその指示にあたしはあわてて空の素焼き瓶を牛の下に持っていくと、

見る見る瓶に牛の尿が溜まり、

ほんおりと瓶が熱を帯びてきた。

「はぁ…

 これが飲み水だったら…」

素焼き瓶に溜まった尿を見ながらあたしは呟くと、

「だったら、それを飲めば良いだろう」

と正井さんは言う。

「えぇ!?

 オシッコを飲めて言うんですか?!」

それを聞いたあたしは思わず怒鳴り声を上げてしまうと、

「ほら、グズグズしていると、

 スグにオシッコが腐ってアンモニアになってしまうぞ、

 アンモニアになってしまったら、

 いくら強靭な内臓をもつお前でも中毒を起こしてしまうぞ」

と正井さんは言う。

「………なんで…こんな目に」

体に何匹ものハエを集らせながらあたしは嘆いてみせるが、

しかし、喉の渇きは既に限界に来ていて、

グッ

あたしは瓶を見据えると、

グビッ!

っと牛のオシッコを喉に流し込んでしまったのであった。

「うーっ、

 ショッパイし

 まずい…」

飲み干した後、

座り込んでしまったあたしはそう感想を言うと、

「塩が取れてよかったな…

 アレが無いと体がへたばってくる。

 それに尿には血中で要らなくなった栄養素も混じっているから、

 それが飲めるようになれれば命をつなぐことが出来るぞ」

と正井さんは指摘する。

「でっでも…

 だからといったって、

 オシッコなんてやっぱり飲めません」

彼女に向かってあたしは訴えると、

「でも、いま飲んでしまっただろう?

 口にしたこ経験があると無いのとでは抵抗感が違うし、

 それにお前は立派に小便を飲んで見せた。

 ふふっ、

 また一つアスメック族になったな」

と指摘したのであった。

「!!っ」

その指摘にあたしは思わず手で口を塞いで見せるが、

手についている糞の臭いが鼻を突くと、

「臭っ!」

と声を上げ、

慌てて手を離すと地面にこすり付けるが、

「体を…

 ウンチまみれの体を洗うことは出来ないんですか?」

そう訴えると、

「さっきも言ったとおり、

 水はない。

 この瓶に水が入るのは明日の朝だ。

 本来なら何キロも歩いた先にある川で水を汲み、

 そして瓶に入れておくのだが、

 ここはそんなに広くは無いからな、

 それだけでもありがたいと思え。

 それでもどうしても体を洗いたいと言うのなら、

 牛の小便で洗うしかないな」

と正井さんは告げる。



夜…

訓練室は夜を演出するために明かりが落とされ、

乾いた牛の糞が焼くために必死で棒をこすり合わせて火を熾した囲炉裏の傍で

ウルカ一本の裸の体を丸めて寝つこうとしていた。

「はぁ…お腹がすいたな…」

口に入れたのがあの牛のオシッコと、

その後僅かに出た牛のミルク以外しかなく、

また結局体を汚している牛のウンチを洗うことは出来きなかったため、

あたしは空腹と自分の体から漂う悪臭に悩まされていた。

すると、

ブブッ

ブンッ

あたしの体に何匹ものハエが集り、

体中を嘗め回していくと羽音を立てて飛んでいく。

「はぁ…

 お腹空いたし、

 あったかいベッドで寝たい…

 おうちに帰りたいな…」

ハエが奏でるその羽音を聞きながら、

あたしはパパやママが待つ自宅への思いが募ってくるが、

しかし体から立ち上る臭いが鼻を突いてくると、

「だめ、

 こんな姿じゃ帰れない…」

とあたしは呟いた。

そのとき、

ムクッ!

これまで萎えていたオチンチン…イリガが急に硬くなってきたのであった。

「なによっ

 こんなときに」

ズクンっ

ズクンッ

と脈打ち始めたイリガに怒鳴りながら、

あたしはイリガにつけているウルカを外して見せると、

ビンッ

硬く太くなったイリガが力強くその存在を誇示してみせる。

「もぅ…

 お前のせいだぞ、

 お前があのとき硬くなってくれないから、

 あたしは戦士ではなくて、

 こんなに臭い牛飼いになってしまったんだから」

そう文句を言いながら、

ギュっ

っとイリガを握り締めると、

ギュゥゥゥゥゥ!!

とお仕置きをするかのごとく強く握り締める。

ところが、

ズクンッ

ズクンッ

握り締める手を弾き返すかのようにイリガは反発してくると、

「あっ、

 んくっ

 あんっ」

あたしは身もだえ、

次第に堪らなくなってくると

シュッ

シュッシュッ

とイリガをしごき始めた。

「はっ

 はっ

 あんっ

 あぐっ」

股間から長く伸びるイリガを扱きつつ、

あたしは背中を土につけてあえぎ声を上げ続ける。

あたし以外誰もいない訓練室。

昼間の熱気も少しだけ収まっているその部屋の中で、

あたしは牛のウンチにまみれ、

そして土にまみれながらイリガを扱き続け、

「あはっ、

 ママ…

 千香は…こんな姿になっちゃったの…

 とっても黒くて、

 とっても臭くて、

 そして、牛のオシッコを飲んでしまう男になったの…」

パパやママの姿を思い浮かべながら、

あたしはイリガを握り締めると、

「あぐっ!」

体を細かく痙攣させると同時に、

シュッ!

シュッシュッ!!

盛大に精液を飛ばしてしまったのであった。

そして、

「はぁはぁ…

 しちゃった…

 こんなところでまた…

 あたし、またアスメック族になってしまったのかな」

イリガから吹き零れ落ちる精液をネチャネチャと弄りつつ、

あたしは静かに眠りにつくと、

モォ…

傍で寝ていた牛が小さく啼き声を上げてみせた。



つづく