風祭文庫・モラン変身の館






「翔子」
(第1話:翔子の変身)

作・風祭玲

Vol.027





「あれ?、この本…」

僕がその本を見つけたのは、予備校の帰りにふと立ち寄った古本屋の店先だった。

世界各地に住む原住民達の間に伝わっている様々な呪術を集めた

この古びれた1冊の洋書はなぜか僕を惹きつけ、

そしてずっと手元に置きたい欲望に駆られた。

「いくらかな…」

値段を調べてみると予想以上に安く、

それこそ子供の小遣い程度の値段だった。

僕はそれと同額の金額を店の番をしている婆ちゃんに支払うと、

本を大切そうに抱えて店を後にした。


いつもだったら、このまま真っ直ぐ自分の部屋へと帰るのだが、

しかし、なぜかその時は戻らず、

そばの公園のベンチに腰掛けると、

丹念に一枚一枚ページを捲りはじめた。

その内容たるや、見たこともない幾何学的な図形にはじまり、

何の意味なのかよく判らない古い書体のアルファベットの文字列や、

呪術の儀式に使うのであろう器具のイラストなど、

一体どういうヤツがこれを出版したのか見てみたいような気持ちになっていた。


トン

不意に背中をたたかれた。そして、

「なに見てんの?」

と女性の声、

「ん?…あぁ丹羽さん?」

そう返事をしながら僕は振り返ると。

そこには、長い髪をポニーテールにまとめた一人の女性が立っていた。

彼女の名は丹羽翔子、そう1浪している僕に親がつけた家庭教師である。

「勉強…捗っている?」

開口一番、彼女はその台詞を吐くと、

僕が手にしている本を見るなり、

「またぁ、変な本を買ってきてぇ…これで試験受かると思っているの?」

と文句を言った。

「いいじゃないかよぉ…勉強はちゃんとしているんだから…」

僕はそう言い返すが、

「その割にはこの間の模試、全然ダメだったじゃない」

とあっさりと斬り返された。

「はぃはぃ」

と言って僕が本を片づけようとしたとき、

パラ…

ページが一枚、本からはずれて落ちた。

翔子はそれを拾うと、

「なにこれ?」

と言いながら内容を見た。

「あっ返して…」

スグに僕が翔子の手からそれを取り上げようとしたが、

「そんなケチケチしない」

といいながら翔子はそのページに書かれているフレーズを声を出して読み上げた。

すると、

ザワッ

公園の空気が渦巻き出したと思った途端、

パァァァァァァァ!!!

「!!」

光の帯が翔子が手にした紙より吹き出すと、

たちまち光で出来た”門”が僕たちの前に姿を現した。

「なっなんなのよ、これ」

突然のことに腰を抜かした翔子が叫び声をあげた。

「いっ……」

その一方で僕は唖然としながら”門”を眺めていた。

すると、

ギシッギギギギギ…

と門の扉がゆっくり開くと、

ブワッ!!

一陣の風が吹き出すとたちまち僕たちを取り込み、

そして、そのまま”門”の中へと吸い込んで行ってしまった。



どれくらい経っただろうか、

「うっ…ここは…」

強烈な日差しに僕は気がつくと起きあがって辺りを見回した。

しかし、僕の周りに広がっていたのは

さっきまで居た公園ではなく見渡す限りの荒れ地だった。

「ココ…どこ?…」

僕は自分の身に何が起きたのか、

そして自分がいま置かれている状況を必死になって把握しようとした。

「丹羽さんがあれを読んだとき…光の門が現れて…それに吸い込まれて…」

とそこまで思い出すと…

「あっ、丹羽さん!!」

僕は彼女のことを思い出すと、

スグに彼女の姿を探し始めた。

幸い翔子は僕のスグ近くで倒れていて、

彼女の姿を見つけた僕は抱き起こした途端、

「う〜ん、あれ?、智也クン?、あたしどうしたんだっけ?」

翔子はそう言いながらキョロキョロと周囲を眺め始めた。

「はぁ〜っ、良かったぁ〜っ」

彼女の様子に僕はひとまず安心したものの、

しかし、周りの景色を見た彼女は

「うわぁぁなによコレ!!」

と叫び声を出した。

「と、智也クン、これは一体のどーなってんの?」

僕の手をはね除け起きあがった翔子は僕にそう尋ねてきたけど、

「僕にも判らない、気がついたらココにいたんだ」

と答えるのが精一杯だった。

「気がついらたって…そんな…」

荒野を眺めながら呆然とする翔子に対して、

僕は強烈に降り注ぐ日差しを気にしながら、

「とにかくどこでもいいから、

 どこか日陰を探さないと

 このままだと、僕達日干しになっちゃうぞ」

と僕は指摘した。

僕と翔子は道無き荒れ地を歩き始めた。

どれくらい歩いただろうか、

僕たちは照りつける日差しにすっかり脱水症状を起こしていた。

「ココで、私が死んだら、智也クン…君のせいだからね」

と翔子は文句を言うが、しかし僕には既にそれを言い返す体力はなかった。

「もぅ…ダメ…」

と翔子が倒れると、僕もそれに続いて倒れてしまった。

「ハァ…このまま死ぬのかなぁ…」

と目を瞑りながら考えていると

突然、人影らしきものが僕の視界を覆った。

…死神?

と思ったところで僕の記憶はとぎれた。



気づくと、僕の目の前で小さな火が燃えていた。

…誰かに助けられたのか?

そう思うって周囲を見回すと、

火を挟んで反対側に翔子の姿があった。

「……」

僕は起きあがると背後から人の声がした。

振り返ると、炎の明かりに照らし出されて一人の老人が座っていた。

そして、その老人の身なりを見て驚いた。

彼は衣服と呼べるものはほとんど身につけていない全裸で、

唯一身につけているのは首と腰に巻いた飾りひも程度だった。

とりあえず通じそうな英語で助けてもらったお礼を言うと、

老人は

『村人が集落はずれで倒れている僕たちを見つけてココにつれてきた』

と身振り手振りを交えて僕に説明した。

そしてさらに会話を続けていくうちに、

老人の名は、

「ンピ」

と言い、この集落の”長”をしていることや、

この集落はディンガと言う民の村であることも教えてもらった。

僕はンピにあの本で起きた不思議な現象といきさつを説明すると、

しばらく考えたあとンピは、

『それは、かつてディンガにあった古い魔術ではないか?』

と答えた。

『魔術?』

僕が聞き返すと、ンピは大きく頷き、

そして日が昇ったら呪術者のところに行き相談してみようと言った。



そして、翌日は翔子の悲鳴から始まった。

僕が飛び起きると、小屋の前で翔子がキャーキャー騒いでいた。

彼女のそばに行き訳を聞くと、

どうやら、ほぼ裸状態の人々の身なりを見て騒いでいたのであった。

その一方で日中初めてみる部落の中は

何故か男ばかりで女性の姿は見あたらないのが不思議だった。

僕は騒いでいる彼女を取りあえず小屋の中に押し込むと、

昨夜のンピとの会話を説明した。

「じゃぁ…あたしがここに来たのはその魔術のせいなの?」

と翔子は言うと、僕は頷き、

「今日、その”長・ンピ”と共に呪術師の所に行って相談してみる」

と言った。

やがて、僕と翔子そしてンピを加えた3人で

集落から少し離れたところに住んでいると言うディンガの呪術師の所へ向かった。

僕はンピと同じように呪術師にいきさつを説明すると。

呪術師は突然立ち上がり、表に出るとなにやら呪文を詠唱した。

すると、あの時と同じ光の束が呪術士の掌から出現すると、

僕たちの目前にあの”門”現れた。

「これは…」

驚いている僕と翔子の様子をみた呪術師は、

『この門は本来は1年に一度しか開かない。

 これは、私の力で無理矢理開いたものだ。

 よって残念だが一人しか通せない。

 さぁ、おまえ達のうちどちらが通る?

 通るの者は名乗れ』

と僕たちを指さして尋ねてきた。

僕はスグに翔子を指さして、

『それだったら先に彼女を通してくれ』

と頼むと翔子が

『いいえ、私の隣にいる彼を元の世界に連れ戻してください』

と懇願した。

僕は彼女の意外なセリフに驚いて思わず

「丹羽さん、何を言っているのですか?

 君がココへ連れてきてしまったのは僕の責任なんだから

 先に帰るのは丹羽さんあなたです」

と怒鳴った。

すると、翔子はキッと僕の顔を見て、

「あたしのこと気遣ってくれてありがとう、

 でも、智也クンにはやらなくてはならないコトがあるでしょう。

 だから…ね」

と言うとニコッと笑った。

しかし、僕は

「試験なんかどうでもいい、まずは丹羽さんが先に帰るべきだ」

と言ったが、翔子は首を振ると、

「ダメよ、智也クン、チャンスをつぶしては…」

と言うと僕の背中を押した。

「しかし、次に門が開くまでに1年かかる」

僕が次回までの時間の長さを指摘しようとすると、

ピタ

翔子は僕の唇に人差し指を付けると、

「大丈夫、1年なんかアッという間なんだから…」

と言うと翔子は

『じゃぁ、彼をお願いします』

と呪術師に言いって門から吹きだしてている風の中に僕を押し込んだ。

「翔子っ」

振り返りながら僕は彼女の名を叫んだが、

しかし、翔子の姿は巻き上がった砂埃の中へ徐々に消えていき、

やがて砂埃が晴れたときにはと僕はあの公園の片隅の立っていた。

「そんな…翔子…君が居なければ僕は…どうしたらいいんだ」

ヒュゥゥゥゥ…

呆然と立ちつくす夕暮れの公園に一陣の風が舞っていた。



智也の姿が吹きだしていた風と共に消えると、

門の姿は徐々に薄くなっていくと

フッと翔子の前からその姿をかき消してしまった。

こうして”門”は閉まり、翔子はただ一人その場に立っていた。

「智也クン…」

彼女は一言そう呟くとしばらくの間、門があったところを眺めていた。

『さて…どうする?』

ディンガの村に一人残ることになった翔子に長・ンピが声をかけた。

翔子は振り返るとンピに、

『再び門が開くまでココに置いて欲しい』

と辿々しいディンガの言葉で懇願した。

すると、ンピは困った顔をして、

『さて、どうしたものか

 ディンガの習わし上、

 女のお前はココから離れたところにある”女の村”に行かなくてはならない。

 しかし、ディンガの者ではない者を”女の村”に行かせるわけには…』

と困惑していると、

呪術師が何やら占い始めだした。

そして、

『ンピ、この者をこの”男の村”に置け』

とンピに指示をした。

『何故だ?』

ンピは呪術師に尋ねると、

『それは、次期に判る…』

呪術師はそう言うと小屋の方へと戻っていった。

結局ンピは呪術師の言葉に従い翔子に

「この村の者達と一緒に牛などの世話をすること」

を条件に翔子を男の村にいらせることにした。

「智也クン…待ってて、1年経ったらあたしも帰るから…」

そぅ思いながら翔子はディンガの男達と共に牛たちの世話を始めた。


それから一月くらいした後、

翔子は体の不調を訴えるとそのまま動けなくなってしまった。

「はぁ…はぁ」

苦しそうに小屋の中で横になっている翔子の姿を見て、

思案に暮れたンピは呪術師の所を訪れ相談をすると、

呪術師はある提案をンピに耳打ちした。

それを聞いたンピは驚くと呪術師を見つめ、

『そんなことが出来るのか?』

と尋ねた。

呪術師は何も言わずただ頷くだけだった。

やがてンピと呪術師はそろって翔子が病床についている小屋へ向かうと、

ンピに小屋の外で待つように指示をして彼は中へと入っていった。

しばらくして呪術師が詠唱する呪文が中から聞こえ始めた。

どれくらい経っただろうか、

続いていた詠唱の声が止むと呪術師よりンピを呼ぶ声がしたので、

ンピは小屋の中へと入っていった

そして、翔子の頭元で座っている呪術師に首尾の案配を尋ねると、

『上手くいった、この者の病は明日には治る』

と報告をすると、

『それはご苦労だった』

ンピは呪術師の労をねぎらった。

そして、呪術師が立ち去ったあと、

ンピは気を失ったままの翔子が着ている服を脱がせ始めた。

程なくして翔子の裸体が彼の前に姿を現した。

それを見たンピは、

『さぁアピよ私の前に帰ってきてくれ』

と呟くと

彼が手にしていた青色のトンボ球がつながった飾り紐を

翔子の腰に回すとそれを臍の下で結んだ。

そして、トンボ球の飾り紐はさらに腰以外にも胸元と両手首に丁寧につけると、

ンピは翔子の様子をジッと見守りはじめた。

ポゥ…

翔子の身体に付けられた飾り紐のトンボ球が淡く輝き始めると、

ピクッ!!

翔子の身体に変化が起きた。

「うぅぅ〜ん」

さっきまで静かだった翔子が急にうめき声を上げはじめると、

ンピは”始まったか”と言う表情をし、

注意深く彼女の変化を観察し始めた。

翔子のうめき声はやがて悶え声となり、

「アッアッアッアッ…」

と息苦しいのか、盛んに首を振りはじめた。

そのとき

プクッ!!

翔子のクリトリスが女唇から顔を出した。
           


「!!」

それを見たンピは声を殺して様子を見守る。

ムリムリ!!

顔を出した翔子のクリトリスは

まるで植物の種が発芽して伸びていくように太く・大きく成長し、

やがて、子供の腕位に成長するとその先が丸く膨れはじめた。

そして、

プリッ!!

と言う音と共に先端が裂けると、

ニュッ!!

っと中より赤黒い肉塊が飛び出す。

「あぁ…」

翔子は大きく喘ぎ声をあげると、

グッ!!

っと体を海老反らせた。

「あっあっあっ」

翔子は無意識に腰を振ると、

彼女の股間から伸びる肉棒は左右に揺れ、

ペチペチ

っと両股に当たる音が小屋の中に響くが、

ンピは何もいわずに黙って翔子の変身を見つめていた。

ムリムリ

キノコの傘が開くようにゆっくりと肉塊の両側にカリが開き始めた。

ビン!!

こうして翔子のクリトリスはペニスへと変化していった。

そしてさらに、ペニスの付け根の両側が盛り上がりはじめると、

2つの睾丸を納め皺を刻んだ陰嚢が姿を現し、

一方で女唇は静がに口を閉じた。

彼女の変化は股間だけではなく、

ジワッ

焼けたとはいえディンガの人たちと比べると未だ白い肌をしていた肌が

まるで炭で染めていくように黒く染まり、

また、お椀を伏せたように盛り上がっていた乳房は

成長していく胸板へと飲み込まれ、

そして、

乳首も萎縮し発達する胸板の上に小さくついているだけの姿になってしまった。

さらに、なだらかな腹部には”田”形の溝が現れると

険しい表情をした腹筋が盛り上がっていく、

ミシミシ

骨がきしむような音ともに翔子の手足、特に足が長く伸び、

それに付随する筋肉も盛り上がっていった。

『アピ…』

その様子を見ていたンピは一言そう呟く、

こうして翔子の変化が終わった頃、

そこには女性の姿はなく

ディンガと同じ漆黒の肌の男性の姿をした翔子が静かに横たえていた。

『アピ…』

ンピは再びそう言うと、

なおも勃起したままの彼女のペニスをそっと包むように触れた。

その瞬間、ビクっと彼女の身体が反応した。

それを見ながらンピはペニスを握ると、ゆっくりと手を動かした。

シュッシュッ!!

「アン…アン…」

それに合わせるようにして翔子がうめき声を上げはじめた。

しかし、ンピは翔子のペニスを扱くのを止めることなく構わず続けた。

シュッシュッ!!

シュッシュッ!!

「アン…アン…」

ンピの手の動きに逢わせて、うめき声を上げる。

やがてンピの手の動きは徐々に早くなり、

翔子のうめき声もそれに合わせて早くなっていった。

そして、

「アッアッアッ……アァン」

と大きなうめき声とあげると、

シュッ

と言う音と共に、翔子のペニスは精液を激しく吹き上げた。

『……そうだ、お前はもぅディンガの男…そうワシの息子アピだ』

翔子いや、ディンガの勇者アピが吐き出した精液の臭いを嗅ぎながらンピは一言そう言うと、

そのまま立ち去っていった。

こうして、翔子はディンガ族の男のアピに変身したが、

しかし、それを翔子自身、それを知る由もなかった。
           



翔子が目を覚ましたのは、日が昇り集落が騒々しくなったころだった。

「あれ?、あたし、どうしたんだろう?」

病が癒え目を、覚ました翔子はコレまでの経緯を思い出しはじめた。

たしか、長・ンピとあの呪術師をここに来て

…そして、なにやらあたしに術を掛けて…

と言うことろまでを思い出した。

「で、…急に目の前が真っ暗になって…それで…」

と思い出したとき、ふと、身体が妙に軽く感じられた、

「あっあたしの病気…治った…みたい…でも…なにこれ?」

と同時に股間に妙に突っ張った感覚がしたので

「?」

翔子はソッと股間に手を伸ばそうとしたとき、

自分が裸…全裸になっているコトに気づいた。

「やだ…あたし…裸なの?」

それに気づいた翔子は急に恥ずかしくなった。

が、股間の感覚が気になったので手を股間に持っていくと、

ヒタッ(ビクン)

コレまで存在しなかった太い肉の棒がそびえ立っていた。

「えっ?」

翔子は驚き、そして両手でその肉の棒の様子を探ると、

そこには太く・長く・そして先にはキノコの傘のような突起物。

そう、このディンガの村で暮らしてきた翔子が散々見させられたものが彼女の股間より突き出していた。

「これって…まさか、おちんちん…」

そのことに気づき、ハッとした翔子はあわてて手を両胸に持っていくが、

しかし、そこには柔らかい乳房の感触はなく、

変わりに

ムリッ!!

っと横に広がった男の胸板の感触がするだけだった。

「あたし…男?」

分厚い胸板を触りながら翔子がそう思ったとき、

入り口より一人の人影が入ってきた。

『おぉ、目が覚めたか』

人影はそう翔子に声を掛けてくる。

『ンピ…』

顔は見えないが翔子は声で人影が長・ンピで有ることがわかった。

『ンピ…わたし…男に』

翔子は混乱しながらもンピに問いかけた、

すると、彼女の口から出てきた声色はまるで変声期を過ぎた男性のような声だった。

ンピは何も言わず翔子のそばに腰を下ろすと、

『お前の病を治すために、お前をディンガの男にした。』

と短く告げた。

『え?』

ンピの意外な言葉に驚いた翔子が聞き返すと、

『いいか、お前はディンガの勇者だ

 よってお前にディンガの名前を授ける…

 いいか、お前はワシの息子のアピだ、よいな』

と言うと、小屋から出ていってしまった。

「そんな…あたしがディンガの男に…

 そんな…なんで…」

ンピの言葉が信じられず翔子は表に飛び出すとそのまま河へと向かっていった

そして川面に自分の姿を映し出したとき、

「ひっ」

翔子は思わず悲鳴を上げた。

そう、川面には肌の色がほかのディンガの男たちと比べてまだ幾分白いものの、

しかし、その股間には立派な肉棒・ペニスが聳え立ち、

スラリと長く伸びた手足と、

腰に掛かる青いトンボ球が繋がった腰紐と

体脂肪が薄く無駄なく筋肉が盛り上がった

そう、ディンガ族の男の肉体が映っていた。

「そんな…こっこれがあたし?

 …どっどうしよう…

 智也クン…あたし…ディンガ族の男になっちゃったよぉ」

翔子、いやアピは変わり果てた自分の姿に思わず叫ぶと

その場に座り込も咽び泣いた。



それから1年が過ぎた。

しかし、この1年の歳月は翔子の身体と心を

ディンガ族アピのものへと作り替えるのに十分すぎる時間だった。

1年前のあの日、ディンガ族の勇者・アピとして生まれ変わった翔子が

長・ンピの元で生活をするようになると、

変身してもまだ幾分柔らかさが残っていた彼女の肌は

厳しい環境の中での全裸の生活ため次第にに強くて堅い鎧へと変化して翔子を守り、

また、自慢の長かった髪も1本2本と抜け落ちてしまうと、

その下から硬くて短い縮れ毛が飾るようになった。

そして、人相もゆっくりだが確実にディンガ族の男へと変化してしまったので、

もはや翔子は他のディンガ族の男達と見分けがつかなくなってしまっていた。
           


セヤッ!!

赤茶けた大地に男達のかけ声が上がる。

他部族との戦い、

そう、ディンガ族にとって聖なる戦いであるレスリングである。

無論、オリンピックなどで行われるスポーツ化されたレスリングとは違い。

ディンガのレスリングは原始の戦いであり、

他部族との小競り合いの多いディンガにとって、

槍を用いた殺し合いにならないためのガス抜きの意味合いもあったし、

無論、娯楽であった。

レスリングが行われる日取りは呪術者の託宣をそれぞれの族長が受ける

という形式で決まるというのがしきたりであった。

『はっ』

『たぁ!!』

『うくっ』

『うぉりゃぁ!!』

日取りが族長よりもたらされた後、

アピ(翔子)もふくめて村の男達は村の外、

互いに組み合い、砂埃舞う赤土の上でお互いの技を突き詰めていく、

黒く長い手足が絡まり、

そして、相手の隙をついて先に地面に倒そうと組み合う。

無論、アピ(翔子)もレスリングの練習をする男達の中におり、

汗と砂まみれになって練習試合を行っていた。

練習試合とは言えども実戦さながらの戦いが繰り広げられ、

組倒される毎に脂が塗られた肌は裂け、

その間より血が流れ落ちる。

『くっ』

『参った!』

組倒した相手からの降参を告げる声をが響くと、

『ふぅ…』

アピ(翔子)は大きく息を吐き、

ゆっくりと立ち上がる。

ダラ…

体のあちらこちらから血を流しながら立ち上がったアピ(翔子)の姿は

逞しく鍛え上げられた体に塗られた黒脂と、

戦意高揚のための黄砂で幾何学的に描かれたボディペインティング。

そして、型くずれしないよう、粘土を練り込み固めた髪。

誰が見てもアピ(翔子)は一人前のディンガの戦士だった。

『ははは…

 アピは強い…』

アピ(翔子)が戦いを勝ち抜いたことを他のディンガ達が褒め称えると、

『そうか…』

アピ(翔子)は言葉短く返事をすると、

顔の上を滴り落ちる汗を手で拭う。

かつてのの様な無色透明な汗とはすっかり無縁となり、

濁を見せる汗をまるで忌み嫌うかのようにアピ(翔子)は振り払った。

そして、練習試合が終わると同時に

ムクムクムク!!

アピの股間のペニスは大きさと硬さを増し始めると、

『!!』

それに気づいたアピは素早く近くのブッシュの陰に飛び込み、

そして周囲の様子を素早く伺うと、

腰を落とし盛んに腕を動かし始めた。

ハァハァ

シュッシュッ!!

ポゥ…

腰を飾る黒脂まみれのトンボ球を日の光に輝かせながら

荒い息をする彼の手の中には棍棒のように勃起したペニスが握られ、

そしてそれが上下に激しく移動していく、

シュッシュッ

シュッシュッ

次第に腕の動きが速くなっていくと、

彼の顎は次第に上へと向いていった。

シュッシュッ

シュッシュッ

『くはぁ』

何かがこみ上げてきたのか、

彼の口が大きく開いたとき、

『うっ!!』

彼は軽い呻き声を上げると、

シュシュン!!

軽い音を立てながら彼のペニスから幾本もの白い筋が伸びていった。

『あぁぁ…

 あたし…また…』

赤茶けた地面に黒いシミが次々と出来ていく様子を見ながら

アピは自分の手にベットリとついている精液を眺めながらそうつぶやいた。

『はぁ…あたし…

 ダメ…
 
 レスリングの練習をしていると興奮して来ちゃって

 もぅ何回オナニーをすればいいんだろう…

 それに、オナニーをする度にあたしがあたしで無くなっていくような…
 
 そんな感じが…する』

手についた精液を眺めながらアピ(翔子)はそう考えていると、

『お〜ぃ…アピ…そろそろいいか』

ブッシュの表から練習仲間がアピ(翔子)に声をかけた。

その声にアピ(翔子)は返事をしながらブッシュから飛び出すと仲間達に合流する。

『ふふっ

 アピは強い上に

 精も旺盛だな』

『そうか』

『あぁ、

 きっと戦いのあとは女達がわんさと押しかけてくるぞ』
 
『噂になってるからな

 女達には』

『それどころか、

 我慢できずにお前の子供が生みたいと長に掛け合うのもいるとか』

『羨ましい奴め』

『………』

仲間達にこづかれながら歩くアピ(翔子)の肉体は、

盛り上がった胸板、

くっきりと割れた腹筋、

無駄無く張りつめた手足の筋肉、

そして、それらによってもたらされる敏捷性、

どれもディンガに取って理想の体型となっていた。

『どうした?』

『いやぁ、ちょっと考え事、

 そういえば、さっきから何を持っているんだ?』

仲間達の元に戻ったアピ(翔子)が仲間の一人が一冊の本を持っていることに気づくと、

『あぁこれか?

 さっき、俺達のことを写真に撮っていた観光客から貰ったんだよ』

仲間はそう説明するとその本をアピ(翔子)に見せた。

『あっこれは…』

本は英文の雑誌で、

その表紙を見た途端、アピ(翔子)には懐かしい思いがこみ上げてきた。

かつてアピ(翔子)が英語の勉強にと使った雑誌だったからだ。

『へぇぇ』

アピ(翔子)はまるで昔を懐かしむようにペラペラとページを捲り始めた途端、

『え?』

その顔が微かに引きつった。

『そんな…

 全然読めない…』

そう、本に書かれている文字のウチ、市場などで見かける綴りなどは読めるが、

しかし、本全体に書かれている文章を読み解くことは出来なくなっていた。

『しばらく頭を使っていなかったからな?』

そう思いながらもアピ(翔子)がページを捲ると、

簡単な数学の公式が出てきたが、

しかし、それすらアピ(翔子)には理解が出来なくなっていた。

『う…そ…

 あっあたし…

 そんな…』

…風や水の匂い、

…ウシの世話、

…危険な動物

…狩の方法

…そしてレスリングの戦い方

1年の間にディンガ族として生きていく知恵はいつの間にか身に付けたアピ(翔子)だったが、

しかし、それ以外となるとことごとくアピ(翔子)の頭の中からは消えてなくなっていた。

『あっあたし…

 あたしの名前ってなんだっけ?』

ふと頭を抑えながらアピ(翔子)はそう呟くと、

『あはは、

 何を言っているんだよ、
 
 お前はアピだろう?』

という返事がスグに返ってくる。

しかし、

『違うっ!!』

アピ(翔子)はそう叫ぶと、

『あっあたしには…

 そんな…あたしの名前が思い出せない…』

と呟くとその場に座り込んでしまった。

『あたし…って誰なの?』

そのときになってアピ(翔子)は初めて翔子だった頃のことを忘れていることに気づかされた。



夕刻…

仲間と共に村に戻ってくるなり長・ンピがアピ(翔子)を自分の元へと呼び

『アピよ、もぅすぐ”門”が開く』

とアピ(翔子)にひとこと告げた。

そうこれはアピ(翔子)がものと世界に帰れると言う意味を持っていた。

『どうした、嬉しくはないのか』

『………』

ンピの言葉にアピ(翔子)は返事をせずに席を立つと、

自分の小屋へと向かっていった。

ディンガ族にとって当たり前の普通の小屋…

しかし…

その中は少し他のディンガの者達とは様子がちがっていた。

小屋に戻ったアピ(翔子)は

自分がこの村に来たときに着ていた服や持って来たものを次々と広げると、

自分が何者であったのか丹念に探し始める。

そして、見つけたノートを食い入るように眺めると、

そこに書いてある”丹波翔子”と言う文字を見つけた。

『こっこれよっ

 これがあたしの名前。

 でも、なんて書いてあるの?』

アピ(翔子)は自分の名前をしばらく見つめていると

ポンッ

その肩に軽くンピの手が乗せられた。

すると、

ビクンっ

アピ(翔子)の身体が小さく跳ねるとンピの顔を見つめながら

『ンピ…

 あっあたし、忘れちゃった…

 自分の本当の名前を忘れちゃったのよ、

 うぅん、
 
 それだけじゃないっ
 
 数学も、英語もみんな忘れちゃったのよ』

と涙を貯めながら訴えた。

すると、

『アピよっ

 もぅお前は立派なディンガだ、

 仲間達からも聞いておる、
 
 ディンガに取ってもっとも尊いレスリング、
 
 もはや負け無しと言うではないか、

 さぁ、そのようなものは今のお前には必要ない』

と首を左右に振りながらアピ(翔子)に言い聞かせるように告げた。

しかし、

『違うっ

 あたしは…
 
 あたしは…
 
 アピ…違う、あたしはアピなんかじゃない。
 
 ディンガじゃない。
 
 あたしは元の世界に戻るのよっ
 
 そう…あぁダメ思い出せない
 
 あたしを待つ人の名前を!!』

忘れてはいけないことまで記憶から消えていることに

アピ(翔子)は苛立つようにして両手で頭を押さえながらそう怒鳴ると、

『そうか、

 それなら、門を潜り、

 自分の世界というところに戻ってみるがよい、

 アピよ、

 そこでお前は自分がディンガであることを思い知らされるであろう』

とンピはアピ(翔子)に告げた。

『あたしが…

 ディンガであることに思い知らされる?』

ンピの言葉にアピ(翔子)が振り返ると、

コクリ

ンピは大きく頷く。

『あたし…

 もぅディンガになっちゃっているの?
 
 翔子ではなくなって…』

アピ(翔子)は幾度もそう呟きながら漆黒の身体を見つめていた。



そして数日後…

ついに”門”は開いた。

ゴワッ!!

開いた門より吹き出した風は、

その前に立っていたアピ(翔子)を包み込むと

一年前、智也を連れ帰ったように門の中へと連れ去って行った。



つづく


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