風祭文庫・モラン変身の館






「私の秘め事」


作・風祭玲

Vol.1053





「いってくる」

「いってらっしゃい」

いつもと同じ時間、

いつもと同じように夫は出勤していきます。

そして、夫が帰宅するまでの一日、

この家には私一人しかおりません。



こぉぉぉぉ…

部屋の中に掃除機の音がこだまします。

あの本の一件以降、

私と夫の間にあった蟠りもほとんど無くなり

夫婦の仲はようやく夫婦生活のスタートラインに立った。

と言っていいと思います。

「ふふん、ふんふん」

夫の出勤後、

食事の後片付け、

洗濯に続いて

掃除を始めた私は鼻歌交じりに手を動かします。

時折訪れる義母は赤ちゃんの顔を見たいような事を言いますが、

でも、それはまだまだ先の話です。

「よっしっ」

リビングの掃除を終えた私は大きく息を継ぎます。

残るはあの部屋…そう、夫の書斎です。

私が夫の書斎に入るのは家事の最後と決めています。

なぜなら、あの本があるから…



「えっと、

 誰も…きませんよね」

窓の外を伺い、

これからこの家を訪問する可能性がある人が居るかどうか確かめます。

そして、その可能性が低いことを確かめると、

「よっしっ」

意を決した私は書斎の前に立ちます。

トクン

胸が小さく高鳴ります。

その高鳴りを抑えながら、

手を伸ばしてドアノブを握り締めると、

トクントクン

私の胸の高鳴りはさらに高くなっていきます。

すーっ

大きく深呼吸をして

「えぃっ!」

ガチャッ

勢いをつけて私は書斎のドアをあけると、

一歩、書斎へと中に踏み込みます。

その途端、

ブワッ

私を待ち構えていたかのように、

濃くて熱い空気が私の周りに取り付き、

私の体を裏返すかのように一気に変えていくのです。

熱さと、

息苦しさと

全身をまるで粘土細工をこね回されて様な苦痛。

けどそれは一瞬のことらしいです。

でも、私にとっては長く感じるこの時間が過ぎますと、

ふっと体が軽くなります。

「くはぁ!!!」

それと同時に私は息を吐き、

膝を床に突くと、

伸ばした腕でその床を掴みます。

「はぁ…

 はぁ…」

大きく深呼吸をしながら閉じていた目を開けると、

私の視界には飛び込んでくる自分の腕は様変わりしているのです。

右手は黒く光る肌。

そして左手は黄色い砂が塗りこめられているため黄色に染まっています。

「はぁ…」

吸い込んだ息を吐いて体を起こしますと、

股間に揺れるものがある感触がします。

その感覚を感じながら立ち上がると

グンッ

私の視界は高く広くなります。

「変身しちゃった」

そう呟きながら

腕と同じように黄色の砂が塗りこめられている左肩を眺め、

次に右腕を持ち上げると、

軽く臭いを嗅ぐ仕草をします。

「ちょっと…

 臭うわね」

自分の体臭とはまったく違う臭い。

野生の臭いってこういう臭いなのかなと思いつつ、

私は書斎の掃除を始めます。



もっとも、書斎の管理は夫が行うことになっていますので、

私がすることはさほど多くはありません。

「まぁ、こんなものか」

掃除を終えてこの書斎から出れば私は元の姿に戻ります。

次にこの部屋に入るときは、夜、

夫の目の前で私はこの姿となるのです。

「さて」

夜のことを頭の片隅に置いて私は書斎を出ようとしますが、

ヒタッ

その足が止まると私は振り返り、

書斎にある本棚を見つめたのです。

そう、あの本棚には”あの本”がある。

それを思った私は本棚へと向かい、

中から一冊の本を取り出しますと、

パラパラ

とページをめくり始めました。

それは外国で発行されたアフリカ・裸族を収めた写真集。

夫がネット書店より購入したものなのですが、

私の変身はこの本によって起こされているのです。



夫の本心が知りたい。

その思いで業屋さんと名乗ると怪しげな老人から、

譲り受けたキボウカナエール。

代償は自分が捨てていく未来との引き換えでしたが、

それによって私は”この変身”と共に夫の心を知ることができたのです。

「ふふっ」

本をめくりながら私はあの時の顛末を思い出します。

そして、あるページで手を止めると、

しばしの間、そのページを見入ります。

そして、ページを見つめながら

私は空いている左手で自分の体に指を這わせはじめました。

体のあちらこちらを指先で確かめるように触り、

やがて股間から下がる肉の棒へと指先は動いていきます。

そして、その肉棒を擦るように指を這わせると、

ムクッ

ムクムクムクッ

垂れるように下を向いていた肉棒が膨らむように張りが戻り、

その先端がゆっくりと頭を擡げていきます。

やがて、太さと硬さを得てしまいますと

長さを伸ばし、

被っていた先端の皮を捲りあげていきます。

そして、

プリッ!

その先からツルリとした頭が顔を出してしまうと、

グンッ!

力強く反り返って見せたのです。

「あふんっ」

股間から起立するそれの感覚に私はつい声を漏らしてしまいます。

女性では感じることがない男性独特の感覚、

こうなるとなかなか元には戻らないのは経験済みです。

「あらら、

 おっきしちゃったね」

それに手を添えながら私は呟きますと、

シュッシュッ

と軽くなでて見せます。

すると、

さらに肉棒は硬さと太さを増し、

ズキンッ

ズキンッ

と鼓動にあわせて揺れ始めます。

学校の授業で使う物差しほどに伸びてしまったそれの姿は

まさに太竿。

「こんなの挿れられたら、

 どうなっちゃうのかな…」

そう呟きながら自分の女性器にこの太竿が挿入されて時のことを

ついイメージしてしまいますと、

ズッグンッ

さらに太竿が張り出し、

「っ痛ぅぅ」

それによって生じた激痛に私は股間を押さえながら、

しゃがみ込んでしまいました。

「はぁはぁ、

 はぁはぁ、

 あぁ、

 だっ出したい…」

激痛と共に自分の股間に猛烈に何かが溜まってくるのを感じると、

シュッシュッ

シュッシュッ

太竿を激しく扱き始めます。

「あっ

 あっ

 あっ」

扱くたびに突き上げてくる衝動に私は顎をあげて、

声を張り上げてしまいます。

そして、

股間の奥からこみ上げてきた塊を吐き出そうとしたとき、

「あっ

 はっ

 はぁぁぁぁ…」

私は寸止めで止めてしまいました。

このまま出しても構わなかったのですが、

でも、それでは夫の書斎を汚してしまいます。

それではつまりません。

私は腰を上げると、

硬く伸びている太竿から手を離します。

途端に、

トロー

”先走り”と言うのでしょうか、

握っていたために竿の中で溜まっていた粘液が滴り落ちてきます。

「あらいけない」

それに気づいた私はティッシュでそれを受けてみせます。

そして、床に置いたままのあの本を拾い上げると、

栞の様にそのページに指を挟みます。

そして、本を携えながら書斎を出て行くと、

そのままリビングへと下りていったのです。



私がリビングへと下りて行くと、

トタタタ

リビングの奥から一匹の子犬が姿を見せました。

先日、ペットショップで購入したヨークシャテリア。

子犬は足音がした方へと駆け寄ってきますが、

私の姿を見た途端、

ピタリと止まり、

フーッ

と威嚇し始めます。

無理もありません。

きっと侵入者と判断したのでしょう。

「いいこ、いいこ」

そんな子犬のまえで私は腰を屈めて声を掛けてあげると、

「?」

子犬は不思議そうな顔で私を見上げ、

臭いを嗅ぐ仕草をします。

子犬の臭い嗅ぎは私の手から足、

袋が下がる股間を執拗に嗅ぎ、

やがて嗅ぎ終わると

立っていた尻尾を下げます。

そして、クルリと向きを変えると、

リビングの奥へと戻ってしまいました。

「うーん、

 番犬にはまだ力不足か」

戻っていく子犬の後姿を見送った後、

私はリビングの壁に掛かる大きな鏡に自分の姿を映し出します。



真っ黒な肌と体半分に塗られた黄色い砂。

土で塗り固めらた髪。

長く伸びた手と足。

そして、股間に下がる太竿は夫のモノよりも大きいです。

そこに映る自分の今の姿は文化的な部屋の佇まいとは

まったく正反対のアフリカの野生裸族の戦士の姿で、

今の私を他の人が見たら、

きっと卒倒してしまうことでしょう。



「ふふっ、

 あたし、いまこんな姿なの」

今の自分の姿を確認しながら私はそう呟くと、

「へへ…」

小さく笑って見せます。

ふと、学生時代の友人達を呼んで、

この姿のご披露会でもしようか…

と言う考えが浮かびましたが、

でも、そんなことをしては騒ぎになることは必至、

我ながらの妙案もすぐにお蔵入りです。



「さてと」

そう呟きながら持ってきた本を床に置き

鏡に向かいながら長く伸びた手を自分の体に這わせます。

土で固められている頭、

厚みを増した唇、

ふくよかな膨らみがなくなり筋肉が盛り上がる胸板、

腹筋が割れているお腹、

股間から下がる太竿。

それらを順に触っていくと、

ムクリッ

下を向きかけていた太竿が再び硬くなるのと共に、

長さを伸ばし始めます。

ビクン

ビクン

心臓の鼓動ををもに揺れ始めた太竿を私は

ギュッ

と右手で握り締めると、

シュッ

シュッ

扱き始めたのです。



男性のオナニーの方法は知っていました。

でも、それを実際に自分がするだなんて…

私が手を動きにシンクロするように

鏡に映る裸族の男も同じ動きをして見せます。

シュッシュッ

シュッシュッ

「くはぁ」

擦るごとに痺れるように襲ってくる快感に私は身をゆだねるように、

近くのソファに腰を下ろします。

そして、

サラサラ

体から砂が零れ落る音を響かせながら、

私はさらに激しくシンボルを擦ると、

トロ…

先走りがその先より垂れ始めました。

「うぅ

 うぅ」

うなり声の様な声を鏡の男は上げ、

私もまた同じ唸り声を上げます。

シュッシュッ

シュッシュッ

シュッシュッ

裸族の男が放つ臭気が部屋に立ち上り、

その匂いに包まれながら、

「あっ、

 ふんっ、

 んっ

 あっ

 あぁぁん

 んぉぉぉっ」

私は喘ぎ声をあげながら、

その頂へと突き進んでいきます。

今度は遠慮することはありません。

思いっきり頂へと上り詰め、

こみ上げてくる塊を吐き出すまでです。

そして、

ビクビクビク

体を痙攣させると、

ポッ

シュシュッ!

シュシュッ!

私は鏡の男に向けて塊を…

精を放ってしまったのです。



「あうぅぅぅ

 ぅぅぅぅぅ」

部屋の中に獣の遠吠えのを覆わせる声が響き、

「はぁー

 はぁー」

私は何かを抉り取られたような虚脱感を感じつつ肩で息をします。

あれほど張り詰めていた太竿は今ではすっかり萎んでいます。

そして、萎んだ太竿から鏡へと伸びていく精液を眺めると、

「すごい…」

とその量と粘性に驚き呟いたのです。



夫との性交渉で彼が放った精液と、

野生裸族の男として自分が放った精液とでは、

臭いと量(粘り気も)がまるで違います。

鏡にべっとりと付いてしまった精液を掬いあげ、

それをネチャネチャと弄りながら、

「これなら子供が直ぐにできそうね…」

と呟きながら、

精液が付いた指先を股間に押し込む仕草をして見せますが、

「こんなことをしても子供ができるわけないか、

 私、いま男だし」

そう呟くと、

股間から垂れ下がる袋をはじいて見せます。

「あらら、

 また掃除しなくっちゃ」

汚れてしまったリビングを眺めながら、

泥で固めてある頭を軽く叩くと腰を上げますが、

その際にテーブルの上に置かれていた新聞が目に入ってきました。

出勤前に夫が読んでいた今朝の新聞。

しかし、

「あれ?」

その新聞に書かれてる字がまったく読むことができないのです。

「なんて書いているのかしら…」

新聞を手にしながら私は首をひねりますと、

ついTVのリモコンを押してしまいます。

すると、TVが点き、

再放送のドラマが映し出されますが、

しかし、俳優達が話す言葉が理解できないのです。

「え?

 何を言っているのこの人たち…

 やだ、あたしったら、

 ひょっとして頭の中まで野生戦士になっているの」

このとき私は自分の知能も野生化していること気づいたのです。

見れば、壁に掛かる時計の数字も、

カレンダーの文字も読むことができません。

「これは」

自分の知能の変化に恐怖を感じた私は

本を持って急いで夫の書斎へと戻ります。

そして、

「元に戻れますように…」

と念じながら本を本棚に戻すと、

2・3歩下がり、

書斎の外へと踏み出します。



すると、

ブワッ

いきなり冷たい風が私の体を包み込みと、

ピシッ

私の体に幾つも亀裂が入ります。

そして引き剥がされるように皮が剥がれてしまうと、

フワッ

一糸纏わぬ肌に布がまとわり付いてきます。

「はっ」

閉じていた目を開けると、

「あっ」

私は元の私の姿になって廊下に立っていたのです。

トタトタ

足音を立てて私はリビングに下りて行きますと、

リビングにはさっき私が吐き出した精による

青臭くそして生臭い臭いが立ち込めています。

「くっさーっ」

その臭いに鼻を押さえながらも、

精液が掛かる鏡に自分の姿を映し出して、

元の姿に戻っていることを確認すると、

改めて付けっぱなしのTVを見ます。

すると今度はちゃんと台詞の意味がわかりますし、

新聞も読むことができます。

「よっよしっ

 私の頭は大丈夫!」

それらを再確認した私は大きく頷き、

大急ぎで後片付けを始めました。



「まったく、

 さっき掃除をしたばかりなのに」

換気のため窓を開け放ち、

床や鏡に付着している精液をふき取りながら私は文句を言いますが、

でも、これらは全て自分がしたこと、

ちょっとスッキリした気持ちで片付けていると、

ネバッ

精液をふき取っている雑巾から糸が引いてきました。

「あらら」

それを見た私はすぐに雑巾を水洗いします。



野生戦士と化した自分が放った精液、

この精液を自分の胎内に注げば、

野生戦士の子供を生めるかも…

水洗いしながら再びそんな考えが浮かびますが、

「なぁに、馬鹿なことを考えているの」

私は頭を横に振りその考えを否定すると、

掃除に取り掛かります。

そして、

「ただいま」

「おかえりなさい」

夫が帰宅した夜。

私は夫の前であの本に掲載されている

裸族戦士に変身してみせるのです。

「ねぇ、あなた。

 これが終わったらたっぷりと愛してね」

「あっあぁ」

変身を終えた私は太竿を突き上げてねだると、

「そうだ、

 あしたも…またしよ」

ふとそんなことを考えたのでした。



おわり