風祭文庫・モラン変身の館






「皮の中」


作・風祭玲

Vol.952





西の空を茜色に焦がし日が暮れようとしているサバンナ。

ゴワッ!

暮れ行く空に抗するかのごとく煌々と炎が燃え上がると、

「♪〜っ、

 ♪〜っ」

暮れ行く空へぬかって何かを訴えるかのごとく男の声が響き渡る。

するとその声に呼応して、

「うぉっ」

「うぉっ」

「うぉっ」

次々と男達の声が響き渡り、

響き渡る声のリズムは次第にまとまっていくと、

「うぉっ、うぉっ、うぉっ、うぉっ!」

「うぉっ、うぉっ、うぉっ、うぉっ!」

「うぉっ、うぉっ、うぉっ、うぉっ!」

辺り一面に声をとどろかせ、

逞しい漆黒の裸体を炎の明かりに照らし出し、

股間のイチモツを激しく揺らせながら長身の男達が飛び回り始めたのであった。



ボディ族…

サバンナに生き、

サバンナと共に暮らすこの野生部族は服など身につけず、

首や腰回りに巻いているトンボ玉の飾り紐のみの裸体で生きていくのである。

「うぉっ、うぉっ、うぉっ、うぉっ!」

「うぉっ、うぉっ、うぉっ、うぉっ!」

「うぉっ、うぉっ、うぉっ、うぉっ!」

「うぉっ、うぉっ、うぉっ、うぉっ!」

燃え上がる炎の前で繰り広げられる男達の踊りはいつまでも続き、

日中彼らがしとめた獲物が引き出され皆に分配されていく。

そして最後に彼らの中の勇者が単身で挑み、

激しい戦いの末に退治した猛獣の亡骸が運び込まれると、

「おぉぉ!」

踊り狂う男たちは皆足を止めどよめきの声が広がっていく。

男たちを叫喚させた猛獣…

それはこのサバンナにて咆哮を轟かせ、

多くの同胞の命を奪った獣であった。

数多くの勇者たちを切り裂いた爪、

しとめた獲物を噛み砕いた牙…

明かりを受けて鈍く光るそれらに皆は声を失ってしまうと、

「うぉぉぉ!」

そんな男たちを押しのけ、

体中に負った傷も生々しい男が飛び出てくると、

息絶え動かぬ猛獣に向けて手槍を構え、

まるで戦いがまだ行われているような仕草をしてみせる。

その途端、

「うぉぉっ」

「うぉぉっ」

周囲の男たちから声援にも取れる声が響き始めると、

男はひときわ高く槍を夜空に向かって矛先を突き立て、

自らの勝利を誇るかのように声を上げたのであった…………………



「またこの夢…」

チュンチュン

ベッドから上半身を起こした塚田恵は頭を抱えながらそうつぶやくと、

「どうしたの?

 うなされていたみたいだけど」

と隣のベッドで寝ていた夫の正行が心配そう尋ねる。

「え?

 ううん、大丈夫よ」

心配顔の夫の表情を見て恵は明るく返事をしてみせると、

「アフリカ旅行から帰ってからこっち

 うなされることが多いけど、

 なにか心配事であるの?」

と正行は尋ねる。

「大丈夫だって、

 引っ越してきて環境が変わったせいよ」

そう返事をしながら恵はさっさと起き上がったとき、

「あら?」

恵のベッドの中に蒼く光るものが押し込まれていることに気がついた。

「どうした?」

妻の変化に気づいた正行が尋ねると、

「はっ」

かけられた声に恵は慌ててそれをベッドの中に押し込み、

「ううん、なんでもないわ、

 それよりのんびりしていていいの?

 今日は会議じゃないの?」

と恵は夫にそう告げたのであった。



「行って来ます」

慌しく資料が詰まったカバンを抱きかかえて正行が出勤していくと、

「はーぃ、

 いってらっしゃいっ

 ほらほら、

 久美ちゃんもTVばかり見てないで、

 早くご飯を食べなさい」

夫を見送った恵はテーブルで食事中の愛娘に向かってせかすと、

「わかってまーす」

幼稚園に通う久美は急いで出されていたものを食べ始める。

そして、

「ママ、行ってきまーす」

その声を残して娘が迎えに来た幼稚園バスに乗って出かけていくと、

「さて…」

一人残された恵は腕まくりをするなり家事を始めだす。

食事の後片付け、洗濯、掃除と恵は手際よくこなし、

そして、寝室のベッドの片づけを始めたとき、

ジャラッ…

恵のベッドからあの蒼く光るものが零れ落ちてきた。

「あっ忘れていた…」

軽い音を立てて床に落ちたそれを見て恵は拾い上げると、

それは蒼い輝きを放つガラス球を糸のようなものでつないで作った紐であり、

長短それぞれ4本を拾い上げてみせる。

「なにかしら、これ?」

不審に思いながら恵は日の光を受けて輝く紐を目線まで上げ、

そして匂いを嗅いで見ると

脂に土、そしてアンモニアと何かの体臭を混ぜたような悪臭が恵の鼻腔を刺激し、

「臭っ!!」

その刺激に恵は一言そう言い放ち、

紐を放り出してしまったのであった。

「もぅ、何かしらこれぇ」

鼻を摘み見上げながら恵は文句を言い、

そして、紐が落ちてきた自分のベッドを見ると、

ピンクがかったシーツに擦ったようにして黒褐色の汚れが付着していたのであった。

「えぇ!

 お洗濯終わったばかりなのに…もぅ!」

それを見た恵は怒鳴りながらシーツを剥ぎ取るが、

さらに掛け布団カバーにも汚れがついているのを見つけると、

「なによなによなによ!

 これぇ!」

予想以上に広がっていた汚れは結局、恵が着ていたパジャマにも付いていて、

「もぅ!!」

恵は怒鳴りながら布団カバーを引き剥がすと、

「お前のせいだ!

 ばかぁ!!」

こみ上げてきた怒りをぶつけるようにして床に落ちる紐を思いっきり蹴飛ばし、

カシャンッ

紐は壁に大きな音を立ててぶつかり音を立ててみせる。

だが、

ドクン…

ドクン…

あの匂いに刺激されたのか、

シーツや布団カバーを洗濯機へと運ぶ恵の胸の中では彼女の心臓が高鳴り、

同時にムラムラとした感情が彼女の胸の奥を支配して行ったのであった。

「ふぅ…」

遅れながらも家事に区切りをつけ、

恵が遅い昼食を摂ったのは昼の1時を過ぎたころであった。

「あーぁ、

 余計な仕事を増やされちゃったからすっかり遅くなったわ」

軽快なテンポの司会で有名な情報番組を見ながら

食事を終えた恵は愚痴をこぼしていると、

番組の中でテレホン身の上相談のコーナーが始まる。

【相談者は美容院経営の30代女性…

 中学2年生の娘が親友とともに学校帰りにアクセサリー店に入りびたり、

 そこの店長がイケメンで彼が目当てらしい。

 しかも、店長は娘さん達の学校の担任と大親友。

 最近になってどういうつながりなのか芸能活動をしている1年生の子と

 3年生の生徒会委員長とその友人と遊ぶようになったが、

 親に言えない事をしているみたいで心配…】

「娘かぁ…

 うちの子が中学生になるのはまだ先の話ね」

湯気が立つお茶をすすりながら恵はそうつぶやくと、

2つ目の相談が始まる。

【40代男性。

 転職をしたものの新しい職場になかなか馴染めず、

 上司からはすぐに結果を出すようにと責め立てられる毎日。

 さらには業務妨害も常に受けるため、

 その度に報告書を書かされ…】

と言う内容であった。

「もぅ、なんかじれったいわねっ、

 そんなものいちいち相談なんかしないで、

 邪魔する奴なんてねじ伏せればいいじゃない」

相談を聞いていた恵は次第にいらだち、

「あーっ、腹が立ってくるわねっ」

そう呟くや否や、

手元にあったフォークを手に取ると、

シャッ!

っと投げつけて見せる。

すると恵の手を離れたフォークは窓の隙間を通り抜け、

さらにブロック塀の上で転寝をしていた猫の毛を刈り取りながら突き抜けていくと、

カッ!

塀の向こう側で生い茂る木の幹へと突き刺さったのであった。



毛を刈り取られてしまったことに気が付かないのか

直線状に地肌を見せる猫はスヤスヤと眠り続け、

「にや…」

それを見た恵は狩猟者に似た笑みを浮かべる。

だが、

「あら?

 あたし何を…」

急に恵は表情を返えて我に戻ると、

「うーん、

 旅行から帰ってからなんか変なのよね…

 時々体が痒くなることもあるし」

そう訴えながら、

人の目がないことをいいことにポリポリと体をかきむしり始めた。

やがて、

「あっ久美を迎えに行く時間」

時計の針が娘の久美が返ってくる時間をさしていることに気づくと恵は飛び出し、

娘が乗る幼稚園バスを迎えに行ったのであった。



「でねー、さきちゃんったらおかしいんだよぉ」

バスから降りてきた愛娘の報告を聞きながら、

自宅に向かって恵は歩いていると、

ワーッ

キャァ

突然叫び声と悲鳴が響き渡る。

「え?」

その声に恵が振り返ると、

ルルルルル…

大人ほどもある大きな土佐犬が背後から恵たちへと近づいていたのであった。

「ママ、怖い!」

土佐犬を見て久美が恵の体にしがみついてくると、

「おーぃ、

 そこを動くな、

 じっとしてろ!

 もうすぐ警察が来る」

と二人を見て近所の人たちが声をかけるが、

「ふるるるる…」

だが、娘を抱きかかえる恵は怯えるどころか向かってくる土佐犬をじっと睨み付け、

そして、

ニヤ…

口元に笑みを浮かべると、

土佐犬から目を離さずにゆっくりと腰を落としてみせる。

グルルルルル…

狭いところにつながれっぱなしだっただろうか、

鬱積がたまっている土佐犬は獰猛な目つきで恵を見るが、

「ふるるるる」

恵もまた土佐犬から目を離さずに見つめ、

そして、体に力を入れる。

とそのとき、

めりっ!

恵の股間から何かが飛び出した感触が走ると、

ムクムクとそれが成長をし始めてくる。

しかし、その感覚に恵は惑わされることなく落ちていた棒を拾い上げると、

「ぐわっ!」

住宅街に人の声とは思えない叫びが響き渡り、

その直後、

「キャンキャンキャン!!!」

土佐犬の絶叫がこだましたのであった。



「ヒィン

 ヒィン!」

巨体を仰向けに倒され

かすれた声を上げて泣き叫ぶ土佐犬の首元には一本の棒が突き立てられ、

その棒を握る恵は

『○○○○っ!』

と男を思わせる低い声で日本語とは違う言葉を犬ぬ向かって浴びせながら、

グッ!

土佐犬に突き立てる棒に力を入れる。

もはや土佐犬には勝機はなかった。

そのときになってようやく、

「めぁりぃぃぃぃ!!!」

犬の飼い主と思える男性が飛びだしてくると、

「申し訳ありません。

 メアリーを許してください」

と跪き許しを請い始める。

だが、

『○○○○っ!』

飼い主に向かって恵は何かを叫ぶと、

「ママぁ、ワンちゃんを許したあげて」

と久美が恵に向かって話しかける。

「はっ!

 あたしって…」

娘のその言葉に恵は我に帰り、

カラン

握っていた棒を落とすと、

「キャンキャンキャン!」

それを合図にして土佐犬は尻尾を下げながら逃げ出し、

「あぁ、メアリーっ

 待ちなさい」

逃げる土佐犬を負って飼い主も走り去って行く。



「ママたら強いんだ!」

自宅に帰ってからも久美は興奮した口調で恵を称えると、

「もぅ、久美ったら、

 いいこと、さっきのことはパパに言ってはいけませんからね」

と恵はほほを染めながら娘に警告をしてみせる。

「なんで?」

恵の警告に久美は小首をかしげて聞き返すと、

「パパに余計な心配をかけさせないためです」

と恵は言い切る。

「はーぃ」

恵の言葉に久美は返事をしながら抱きついてくると、

「あれ?

 ママ…

 ママのこれって何なの?」

と恵の股間から飛び出しているものの存在に気づくと、

久美はそれを撫で回しはじめた。

「あっ、

 あはっ、

 んぅっ、

 だめよ久美ちゃん…

 そこはママの大事な…」

娘に股間をいじられる快感に身悶えながら恵は注意するが、

「すごいよママぁ、

 どんどん大きくなってくるっ」

ムクムクと膨らみスカートを持ち上げていく。

それを見た恵は、

「ひっひぃぃぃ!」

悲鳴を上げながらスカートをたくし上げ、

慌てて股間を覆う下着を下ろすと、

ビンッ!

恵の股間から漆黒のイチモツが勢い良く勃起したのであった。

「なっなっなにこれぇ!」

黒く輝く肌を見せる陰茎とツルリとした褐色の亀頭に恵は声を失ってしまうが、

「うわぁぁ、

 ママのオチンチンっておおきいい!!」

それを見た久美ははしゃぎながら母親の股間から伸びるイチモツを掴んでみせる。

「あっ、

 だめよ、久美ちゃん

 てっ手を離して…」

イチモツを掴まれる感触に恵を身を捩じらせながら注意をするが、

「ねぇねぇ、

 ママのオチンチンって真っ黒でとっても硬くて長いよぉ」

と無邪気に感想を言う。

「やめて!

 そんなこといわないでぇ!」

娘から浴びせられるその言葉に恵は顔を手で覆うってしまうと、

「だったら、そんな皮。

 さっさと脱いじゃえば良いじゃない」

と恵に向かって久美は言ったのであった。

「え?」

その言葉に恵は顔を上げると、

二コッ!

恵に向かって久美は笑みを浮かべ、

「あたし、脱いじゃうっ」

と言うや否や来ていた園服を脱ぎ捨て、

さらに下着までも脱いでしまうと、

ぷるんっ!

裸になった久美の股間から黒い肉棒が飛び出していたのであった。

「久美ちゃんっ、

 それどうしたの?」

それを見た恵は声を上げて尋ねると、

「どうしたのって、

 オチンチンよっ

 久美のオチンチン。

 ママのに比べるとちっちゃいけど、

 でも、大人になるとママみたいに大きくなるんだよね」

と久美は答え、

さらに、

「んしょっ」

自分の体の皮を引っ張りはじめると、

ミシッ!

メリッ!

と言う音を立てて久美の皮膚が引き伸ばされ始めた。

「くっ久美ちゃん…」

クニューッ!

腕の動きにあわせて皮膚を伸ばしていく娘の姿に恵は声を失うが、

ぴしっ!

ついに背中から裂けてしまうと、

ズルリ…

久美の皮膚は剥けてしまい、

その中から漆黒色の肌と縮れ毛が覆う頭が姿を見せる。

「んしょっ」

「んしょっ」

「え?

 え?

 え?」

娘の皮を脱いで出てきた少年を見て恵は混乱するが、

「何をぼけっとしているんだよ」

と黒い肌を見せる少年は恵にそう話しかけてきた。

「だっ誰?」

娘の皮の中から出てきた少年を指差して恵は尋ねると、

「もぅ、そんな皮をかぶっているから忘れるんだよっ」

じれったそうに少年はそう言い、

「ほらっ!」

そう言いつつ恵の首を掴みあげると、

一気に皮を引っ張って見せた。

その途端、

ぴしっ!

恵の背中から皮が裂ける音がこだまし、

ズルリ…

一気に恵の皮が剥けていくと、

その中より黒々とした肌を光らせ、

突き出した眼窩。

厚い唇。

縮れ毛に土を練りこめて赤茶色に固めた頭。

そして、手足が長く筋骨たくましい男の肉体が飛び出したのであった。

「あっあっあっ…」

黒い顔を幾度も手でなでながら男は困惑していると、

「あっ…

 あ…そうだ、おっ俺…

 俺…

 俺達は村にやってきた白い女と子供を乗っ取ったんだっけ」

と男は過去を思い出しそう呟く。

「そうだよっ、

 あんな何もない村から出るために俺が仕組んだんじゃないか、

 皮を脱いで思い出したか」

腰に手を当てて少年は男に向かってそう指摘すると、

コクリ…

男は小さくうなづき、

「まったく、ボディ一の勇者がそんな様ではどうするんだよ」

と少年は指摘すると、

「しっ仕方がないだろう、

 ここはなれないんだから」

男は口を尖らせながら言い返し、

「お前、ひょっとして夕べ、

 その姿になって遊びまわったか?」

と問い尋ねる。

「あぁ、朝になって急いで皮をかぶったので、

 俺がしていた飾り紐、

 お前の所に置きっぱなしだったみたいだな」

その質問に少年はこう答えると、

「まったく、汚すなよ」

と男は文句を言う。

そして時計を見ると、

「そろそろ旦那が帰ってくる。

 さっさと皮をかぶれ!」

そう注意をすると、

「ちぇっ、

 せっかく息抜きができたのに…」

と文句を言いながら少年と男は脱いだばかり皮を被ったのであった。



「ただいまぁ!」

夜の帳が下りた家に夫・正行の声が響き渡ると、

「お帰りなさい、あなた」

「パパぁ、お帰りなさい」

愛妻と愛娘のうれしそうな声が響き渡る。

「あぁ、

 どうだった、幼稚園は…」

愛する二人に迎え入れられ、

上機嫌の正行は着替えを済ませると、

夕食が用意された食卓へと座る。

そして、

ジャラ…

蒼い色を放つトンボ球が掛かる壁を背にして恵が席に着くと、

家族の楽しい団欒が始まったのであった。



おわり