風祭文庫・モラン変身の館






「モラン倶楽部」
(桜子の場合)


作・風祭玲

Vol.880





西の空が茜色に輝く中。

「あっいっけなーぃ。

 もぅこんな時間!

 そろそろ帰らなきゃぁ」

公園のベンチに座っていた日高桜子は不意に顔を上げてそう言うと、

自分を優しく抱き押せる井山翔を見た。

「え?」

桜子のその申し出に彼女を抱き寄せていた翔は驚いて聞き返すと、

「もぅ帰らないと、

 家に着くの八時を回っちゃうから」

と肩に軽く掛かる髪を揺らして桜子は小さく笑って見せるが、

「うーん

 なぁ、今日ぐらいもぅちょっとゆっくりしていかないか?」

そんな桜子に向かって翔は提案する。

だが、

「ごめん。

 どうしても帰らないといけないの…」

と今度はすまなさそうに桜子は言うと、

「そうか…

 家の人が厳しいんだね。

 判ったよ、

 じゃぁバス停まで送っていくよ」

小さくため息を付き膝を叩いて翔は言い、

「本当にごめんなさい」

そんな翔に向かって桜子は頭を小さく下げてみせる。

「ううん、

 君の事情も考えなかった僕が悪いんだよ」

謝る桜子の姿に翔が驚きながら言うと、

「今度うめ合わせしてあげるから…」

「いいよ、そこまでしてくれなくても…」

などと離しながら

二人は立ち上がり公園の隅のバス停へと向かって行く。

そして

「じゃぁ、また明日ね」

「うん、じゃぁ、また明日」

バスの乗降口から桜子は翔に向かって手を振ると、

プシュッ!

二人の間を引き裂くようにしてバスのドアが閉まりバスは発車して行く。



「ただいまぁ!!」

桜子の自宅は公園前のバス停よりバスに乗ること約1時間ほどのところにあった。

「って誰かが居るわけでもないか…」

両親共に責任者的立場の仕事を持ち、

共に帰りが遅い事を熟知している桜子はため息を付くが、

スグに気を取り直すと、

トタトタと階段を上がり自室にこもる。

そして、高校への進学祝にと買ってもらったパソコンのスイッチを入れると、

軽快なメロディーと共にオペレーションシステムが立ち上がり、

程なくしてパソコンは使用可能な状態になったのであった。

桜子と家族と共にこの戸建の家に引っ越してきたのは2年前のことだった。

だが、両親とも多忙のためもあって、

自宅に先に帰るのはいつも桜子となっていたのであった。

「さぁーて、

 今日は何を狩ろうかなぁ」

パソコンの状態が安定したこと確認した後、

桜子は舌なめずりしながらそう言うと、

着ていた制服を脱ぎ壁に掛ける。

そして、下着姿のまま徐に1枚のDVDを取り出すと、

それを光学ドライブに読み込ませ始めた。

”モラン倶楽部”

程なくして画面が黒一色に塗りつぶされ赤文字でこの文字が表示されると、

トントコトントコ…

とスピーカーを通して部屋の中に太鼓の音が響き始める。

フワッ!

それと同時に部屋の空気が変わり、

次第に温度が上がっていくと、

ジワ…

桜子の肌に汗がにじみ出てきた。

「ふふっ」

変わっていく部屋の空気と太鼓の音を聞きながら桜子は笑みを浮かべると、

カチッ!

カチッ!

さらに机の上のマウスを滑らせ、

画面に表示される指示のまま操作を行っていく。

そして、

「うーん」

小首を傾げながら桜子が一瞬悩んだ後、

「うん、今夜はこれにしよう」

と何かを決めると、

カチッ!

画面の中の選択ボタンをクリックする。

その途端、

”ご利用ありがとうございます。

 ただいまより、環境をカスタマイズいたします”

の文字が画面に表示されると、

ブワッ!

いきなり部屋の中に白い灰埃が舞い始め、

サラサラサラサラ…

新建材にクロスが張られた壁からも白い砂のような物体がこぼれ始めた。

舞い踊る灰埃を一身に浴びながら桜子は

「はぁ」

ペタンと息を吐きながら床に座り込み、

そのまま力を抜いていくと次に来るものに備える。

すると、

メキッ!

桜子の体から骨が軋む音が響くと、

続いて体中を引き裂くかのような激痛が走る。

「くっ!」

その激痛に彼女は歯を食いしばり、

タラ…

体中から汗が噴出す。

メリッ

メキメキメキ…

ゴキッ!

耐える桜子を弄ぶかのように激痛は強弱を繰り返しながら絶え間なく襲い、

それにあわせるようにして彼女の体つきが変わり始める。

白く決めの細かい肌が覆う細い手足がまるで筋肉を詰め込まれるかのように張り出し始めると、

不変のはずの手足の長さが伸び始め、

桜子にとって不釣合いな姿へと変わり、

さらに、手足の変化を後追いするかのように体中の筋肉が盛り上がり鎧のように硬く引き締まっていく、

「あはんっ」

安産型の腰が小さくなって凹みが出来ると、

肩幅を広げながら桜子は思わず喘ぎ声を上げてしまう。

「いけない…」

皮膚の色が黒く染まっていく手でその口を覆うが、

ドクンッ!

スグに激しい動悸が桜子を襲いかかると、

ムリッ!

ムリムリムリ!!!

級の股間がムズムズしはじめ、

さらにクリストスがその割れ目から顔を出してしまうと、

まるで成長していくキノコの如く突きだしてくる。

小ぶりな胸のふくらみが筋肉に飲み込まれるように消えてしまい、

桜子の胸は筋肉の膨らみを残すのみの平らなものになってしまうが、

ムリムリムリ…

キノコのように伸びつづけるクリストスが男性の性器・ペニスへと変化してしまうと、

ボロン…

そのペニスの後ろに睾丸を収めた袋も姿を現わした。

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

厚くなってしまった唇を盛んに動かしながら、

キュッキュッ

桜子は生えたばかりのペニスを弄ると、

ビクビク!!

彼女の股間のペニスはますますその長さを伸ばし、

硬く太くなっていく。

「あぁぁぁ…」

喉仏を突き出して桜子は声をあげると、

その声は男のような低い声になり、

さらに髪も赤味を帯び、縮れて行く。

すると、

サラサラ…

部屋の中をほぼ埋め尽くした灰に包まれるようにして、

漆黒の肌に野獣の雄力を持った桜子はしばしの間寝入ってしまうが、

だが、

ムクッ!

その股間から逞しく黒い肉棒が伸びていくと、

シュッシュッ

シュッシュッ

桜子は無意識のまま出来上がったばかりの肉棒を扱き始めた。

シュッシュッ

シュッシュッ

黒い肌を輝かせる手で同じような黒い肉棒を桜子は扱き続ける。

そして次第にその手の動きを早めていくと、

「あぐぅぅぅ!!!

 ふぐっ!」

全身に力を込めて何かを堪えた。

刹那

プチュッ!

シュシュシュシュッ!!!

その途端、上を向くペニスの先から栗花の匂いを撒き散らしながら、

桜子は白濁した粘液を吹き上げるのと同時に

「うおぉぉぉぉ!!!」

自分の口から雄たけびを猛々しく吼え、

シュッシュッシュッ!

急速に元気をなくしていくペニスを扱き、

中に溜まっていた粘液を全て吐き出し続けていたのであった。



ハァハァ

ハァハァ

小一時間ほどが過ぎ、

桜子は黒く輝く筋肉質の肉体をようやく起こすと、

ギュッ!

目の前に突き刺さっている木遣を手に取り、

ゆっくりと起き上がった。

「はぁぁ…

 あたし…

 モラン…

 モラン・ヌルバ…」

そう呟きながら桜子は立ち上がり、

漆黒の野獣となった肉体で第一歩を踏みしめながら表へと出て行く、

すると、

典型的な郊外の風景は一変していて、

灼熱の太陽が照らし出す赤土の大地がどこまでも広がり、

その大地の中で桜子、いや、モラン・ヌルバは立ち尽くしていたのであった。

『ヌルバ!』

そんなヌルバを突然呼ぶ声が響くと、

『モラン・ロロア!』

声を聞いたヌルバは振り向き声をあげる。

すると、

『ヌルバ兄!』

タッタッタッ!

その声と共に向こうよりヌルバと同じ漆黒の肉体を晒しながら裸体の男が駆け寄ってくると、

その場で二人は硬く抱き合ってみせ、唇と唇を重ね合わせた。

そして、そのまま長く抱き合っていると、

『さっ、

 兄弟揃ったようだな、出発するぞ』

と二人に向かって裸体の男達が話しかけると、

『はいっ』

『はいっ』

ヌルバとヌルバの弟のロロアは互いに頷き、手槍を握る。



モラン倶楽部

それは秘密のチャット倶楽部である。

そのチャット参加者は全員女性であり、

そして、チャットに参加をすると

桜子のようにモランとなってしまうチャットなのであった。

一度、モランの味をせしめてしまった女性は二度と元の生活に戻ることはない。

チャットを重ねるごとに心のなかもモランとなり、

最後にはモランとして生きることを選択してしまうのであった。



『はぁ…翔にもあたしのこの姿、見せたいな…』

サバンナの中を走る道を歩きながらヌルバこと桜子はついそう呟いてしまうと、

『え?』

その言葉が聞こえたのか周囲は一斉に振り返る。

『あっ、

 なんでもない。

 行くぞ!』

思わず周囲の反応にヌルバは逃げ出すようにして赤茶けた大地に向かって走り始めると、

『あっ待って』

すかさず弟のロロアが追いかけたのであった。



おわり