風祭文庫・モラン変身の館






「ボンゴの勇者」


作・風祭玲


Vol.716






ザックッ

ザックッ

最後の街を出てどれくらい経っただろうか、

僕たち一行は現地の人に案内されながら

この奥深いジャングルの中を歩いていた。

ガサッ

深く生い茂った草を踏みしめる度に、

僕はかつてココを歩いていったであろう結衣のことを思い出す。

「どうした…

 立ち止まって」

僕の足が止まっていることを後ろを歩く皆川進が指摘すると、

「あぁ…

 ちょっと考え事をしていた」

僕は振り返りながらそう返事をすると、

「西脇の事を思い出していたか?」

と進はそう尋ねる。

「あぁ…」

彼の言葉に僕は頷くと、

「去年、西脇はココを歩いて、

 この奥に住んでいるという

 幻の部族に会いに行ったんだろう?」

と尋ねながら高井戸健二が顔を出した。

「あぁそうだ」

健二の言葉に僕はそう返事をすると、

「だけど、西脇結衣は行方不明になった…

 無論、彼女が同行していた北沢助教授達と一緒にな」

とその後の顛末について進は言う。

「うん…」

彼の言葉に僕は頷くと、

「んで、僕たちがこうして捜索に来たんだけど、

 みんな生きていればいいけどな…」

と背負っていたリュックを背負い直しながら

健二は最悪の事態を口にした。

「大丈夫だっ

 結衣も北沢助教授たちもみんな元気にいるさ」

そんな言葉をはね除けるようにして僕は声を上げると、

「ちょっと休憩をしてしまったな、

 行こう!」

と自分に言い聞かせながら前へと進み始めた。



ザァァァァァ…

程なくして遠くから水の音が聞こえてきた。

どうやら近くに川が流れている様だ。

その音を聞きながら僕たちは進んでいくと、

次第に音が近づいてくると急に視界が開け、

僕たちは広場に出た。

広場の大きさはは小さめの野球のグランドと同規模であったが、

ジャングルの中を歩いてきた者にとっては巨大な空間に感じられる。

そして、その広場の先には川幅は200m

以上はあろうかとおもわれる大河が

ゴウゴウと茶色い濁流が渦巻きながら流れていて、

そんな河の中を一本の蔓で編まれた釣り橋が渡っていた。

『私たちが案内できるのはここまで…』

案内をしていた現地の人が僕たちに向かってそう告げてきた。

『ありがとうございます』

その言葉に僕は礼を言いながら心付けを手渡すと、

ニコッ

案内人は小さく笑い、

枝などを集めると焚火を起こし狼煙を上げる。

そして、

『しばらくすると、向こうからやってくる、

 私たち、ココにいると攻撃されるので戻るね』

と告げ、

そそくさとジャングルの中に戻っていってしまった。

「ちぇっ、

 現金なヤツだな」

彼の行動に進が文句を言うと、

「仕方がないだろう、

 これから向かう先は危険なんだから」

と僕はさりげなく注意をする。

そして、小一時間ほどしたとき、

ガサガサ

ガサガサ

遙か向こうの対岸の薮の中に人影らしきモノが動きはじめた。

「来たか…」

北沢助教授達が観察をしていたと言う野生部族・ボンゴ族…

僕たちを警戒してかなかなか姿を見せない彼らに僕は警戒をしていると、

程無くして向こう岸の広場に5・6人の人物が現れた。

彼らは200mもの先のために彼らの身なりや表情は伺いしれないが、

僕たちをココに案内してきた案内人達とは違い、

衣服などは着用していないようだった。

「おっやっぱり素っ裸だ。

 でも、みんな男だな」

双眼鏡を見ながら進はそう言うと、

「どれ?」

健二が続いて双眼鏡をのぞき込む。

「やめとけ…

そんな2人に僕は注意をすると、

ギシッ!

やがて一人がこちら側に向かって橋を渡りはじめだした。

「来たぞ…」

向かってくる人物を見ながら僕は呟くと、

「あぁ」

皆一斉に近づいてくる彼を凝視した。

やがて、僕たちの目の前に現れた人物の身なりはほぼ全裸で

身につけているモノと言ったら股間のペニスケースと

腕・脚・首に植物の繊維のようなモノで編んだリング状のモノをはめていた。

また頭髪を剃り落としているらしく坊主頭で、

体中には黒っぽい動物の脂の様なものを塗っているためか、

元から黒い体がさらに黒く輝いていた。

だが、体付きは予想以上の筋肉質のゴツゴツした体付きになっていて、

とても逞しくまさに野生の男と言った面持ちであった。

『・・・・・・・・』

彼は僕たちの目の前に立つと何か話しかけてくる。

現地の人たちがふだん会話している言語とは明らかに違い、

どう対処して良いのか判らないが、

でも、僕は案内人達の協力で作ったアンチョコを取り出すと、

たどたどしい言葉で去年ココを渡ったであろう、

北沢教授達の一行について尋ねた。

すると、ボンゴ族の男は少し考え、

そして、何かに思い当たると僕たちに向かって、

”その男達ならここを既に去っている”

と告げた。

「そんな…」

彼の答えに僕はガッカリすると、

男は僕の顔をジッと見据えていた。

「なっなに?」

男の態度に僕は驚くと、

『ユイ…・・・』

と男は僕の耳元で囁いた。

「なっ、

 おいっ、
 
 じゃなかった、
 
 結衣のこと知っているのか」

彼のその言葉に僕は驚きながら聞き返すと、

ニヤッ

男はまるで誘うかのように橋を渡り、

向こう岸へと向かっていく。

「ちょちょっと待ってくれ」

男を追って僕は橋を波足り始めるが、

だが、橋を渡ろうとしたとたん僕は困惑した、

見た目は橋とは言え橋を構成しているのは

1本の太いロープに2本の補助ロープがあるだけで、

2m間隔程に3本のロープを結んでいる助骨ロープがあるだけの

極めて簡単なモノだった。

「うっ」

下を流れる濁流を見ながら僕は躊躇するが、

直ぐにその場で裸足になると素足で渡り始めた。

ギシッ

ギシッ

3本のロープのみの構造のためかこの橋は良く揺れ、

また、足元では濁流が流れているので生きた心地がしなかったが、

「がんばれよ」

僕の後から進達が声をかけてくれ、

それに励まされるようにして

僕は対岸にたどりつこうとしていた

だが、

ブツッ!

突然、下流側で手を支えていた紐が切れてしまうと、

「うわっ」

僕たちは真っ逆さまに河へと落ち、

濁流に呑み込まれてしまったのであった。



「うぅっ」

目を覚ますと僕の真正面にニヤッと笑うボンゴ族の黒い顔が迫っていた。

「うわっ」

突然のことに僕は悲鳴を上げると、

クイッ

男は指を動かして僕についてくるような仕草をしてみせる。

「え?」

すっかり荷物を失ってしまった僕は起きあがると、

進達の姿を探したが、

だが、川岸で寝かされていたのは僕1人だけのようだった。

進達の安否を確かめるべきかと一瞬迷ったが、

ジャングルへと向かうボンゴ族の姿を見失うわけにはいかず、

僕は濡れた身体を引きずるようにしてジャングルへと入っていった。

「くそっ

 すばしっこい」

ジャングルの中を進むボンゴ族の男達の速度は異常に早く、

ともすれば見失ってしまいそうになりながらも、

僕は懸命に付いて行く。

そして、日が傾いた頃、

僕の前に大きな洞窟が姿をみせると、

男達はその中へと入っていった。

「この中に入れってか?」

訝しがりながらも僕は洞窟に入り、

そして、曲がるくねった中を進んでいくと、

パァァ…

いきなり洞窟から抜け、視界が開けた。

「村?」

そこは大きな広場を中心にして、

その広場を囲むようにして小屋の様な住居が建ち並んだ村であった。

「ボンゴ族の村か?」

そう思いながら僕は進んでいくと、

どういう訳かこの村には老人や女性の姿が見えず、

目にするのは皆、屈強な肉体とペニスケースを晒す若者しかいなかった。

「男しかいないのか?」

彼らを見ながらそう思っていると、

やがて、この村の長であろう巨大な住居がたちはだかった。

ゴクリ…

住居を見上げながら僕は生唾を飲み込むと、

その中から杖をつきながら1人の老人が姿を見せ、

ジッ

と僕を見つめ始めた。

すると、

さっきの男がその老人に近づき、

僕を指さしながら何かを囁き始める。

「なっなんだよ」

その異様な雰囲気に僕は臆するが、

僕の周囲には村の男達が遠巻きにして囲み、

僕の様子を伺っていた。

その時、

老人が耳打ちをしていた男に何かを命じると、

『!!っ』

男は大きな声を上げて飛び出していった。

そして、程なくして、

同じペニスケース姿のボンゴ族の男を引っ張って来るなり、

僕の前へと突き飛ばした。

「え?

 なに?」

一体なんの意味があるのか僕は唖然としていると、

突き飛ばされ倒れた男が顔を上げ、

僕をジッと見つめる。

「?」

他の男達と見分けがつかない位の黒く輝く筋肉質の身体と、

細かく縮れた髪。

そして、眼窩が突き出た顔と厚い唇など

何処をとってもボンゴ族にしか見えない彼を僕が見つめていると、

ふと…

「あれ?

 どこか、結衣に似ているような…」

とこのボンゴ族の男が結衣に似ているような錯覚に陥ってしまった。

「あれ?

 あれ?」

僕は幾度も目を擦り、

改めて彼を見ようとしたとき、

『タッタケオ…

 ワタシ…

 ユイ・ヨ…』

と男は僕を見つめながら呟いた。

「え?」

思いがけない彼からの言葉に僕は驚くと、

『コンナ・スガタダケド…

 ワタシ・ユイ』

と男は顔を伏せながら起きあがる。

「うそだろう…

 結衣がなんでボンゴ族なんかに…

 なんで男になっているんだよ、

 やめろよ、
 
 お前俺をからかっているのか?」

女の子だった結衣がボンゴ族に、

しかもペニスケースを晒す男になってしまったことが信じられず、

僕は声を上げると、

『聖域を侵した罰だ…』

と言う声が僕の頭に響き渡った。

「なに?」

その言葉に僕は聞き返すと、

『ここは神聖なる所だ、

 この者はそれを犯した。

 無論、この者と一緒にいた者達も同罪だが、

 そのもの達は事もあろうかここから逃げ出したので、

 河の神によって始末をした』

「始末ってまさか…」

その声に僕は驚くと、

『セッセンセ…ニゲタ…

 デ・デモ・アタシ…

 トチュウ・ツカマッタ』

と男は北沢助教授達のことを僕に言う。

「まさか…

 本当に君はゆ・結衣なのか?」

男に向かって僕は尋ねると、

コクリ…

男は静に頷いた。

「そんなぁ」

とても信じられない事に僕が驚愕していると、

『お前のような侵入者を生かしてもとの世界には帰さん、

 ここで、ボンゴ族となるがよい』

と声は僕に言う。

「なっなんだとぉ!」

その声に僕は怒鳴り返すと、

ザザザッ!

取り囲んでいた裸の男達が一斉に槍を手にして、

僕に向かって構えた。

「うっ」

向けられた無数の槍に僕は固まってしまうと、

バッ!

結衣だと名乗った男が僕の前に立ちはだかり、

「・・・・・っ!」

と男達に向かって声を上げる。

「なっ」

男のその行動に僕は驚いていると、

『タケオ、

 ココ・フミイレタ、
 
 ボンゴ・ナル』

と呟く。

「うっ」

それ以外の選択肢など全くない状態に僕は視線を下へと向けてしまった。



その日の夕暮れ、僕はボンゴ族になるための第一関門である。

衣を共にする(裸族になる)洗礼を受けた。

日が暮れようとした頃、

男達の監視下に置かれている僕の所に結衣が現れて、

自分に付いてくる様に言ってきた。

なかなか動かない僕に男達から槍で突っつかれると、

「判ったよっ」

と声を上げて僕は立ち上がり結衣の後ろに付いて行く。

歩きながら結衣に、

「何をされるんだ?」

と尋ねると、

『コレ・ツケル』

結衣は言葉短く僕に言った。

そして僕は結衣に連れて行かれるまま、

村外れにある小屋へと向かい、

そこ小屋に到着すると

僕に中にはいるように指示をする。

「ここに入ればいいのか」

『ソウ』

結衣に言われるまま小屋へとに入って行くと

そこには数人の男達が僕たちを待ちかまえていて、

僕が入ってくるなり、

着ているモノを全て脱ぐようにまた指図をした。

「わかったよっ」

ここから逃げ出すわけにも行かず、

僕は悪態をつきながらも着ていた衣服を脱ぎ捨てる。

すると、男達は僕の腕をグイと掴みと、

小屋のさらに奥へと連れて行かれた。

そして、奥に行くとあの老人が大きな瓶の前に座っていて、

その横には先回りしていた結衣がペニスケース姿で座っていた。

「・・・・・・・っ!」

裸の僕が座らされるのと同時に、

僕の周囲に座った男達が一斉に声を上げる。

儀式が始まった様だ。

その声の中、

結衣が老人の前に置かれた瓶に手を入れると、

瓶の中からネットリした液状のモノをすくい、

それを手にして僕の傍に座るなり、

ベチョッ!

と僕の体に塗り始めた。

「うっ」

悪臭が漂うそれを良くみると黒く変色した脂の様だった。

結衣が僕の身体に脂を塗るヌチャヌチャと言う音が小屋の中に響く中、

『タケオ…

 カラダ・タクマシイ

 ユイ・ウレシイ』

と呟いた。



結衣と僕は幼なじみだった。

そして、身体が貧弱でいつもいじめの対象だった僕を、

結衣は守ってくれていたのであった。

だからこそ僕は結衣を助け出したかったのだが…

まさか、結衣がボンゴ族の…

しかも、ペニスケースをつけた男になってしまっていただなんて…

そう思っていると、

涙が僕の頬を伝っていた。

その間にも僕は頭の上から足の先までベットリと黒い脂が塗られてしまうと

老人は立ち上がり、

手に持った石のナイフで僕の頭髪と陰毛を全て剃りはじめた。

ザザザザ…

ザザザザ…

良く研ぎ澄まされたナイフは僕から体毛を奪っていき、

暫くすると僕の体から毛はすっかり剃り落とされてしまうと、

身体中丸坊主と言う感じになってしまった。

そして、全てが剃り終わると老人は古びたペニスケースを差し出した。

「なっなんか…

 結構使われているみたいだけど」

ペニスケースを見ながら僕はそう呟くと、

『ワタシ・イッショ…』

と結衣が嬉しそうな顔をしながら、

ペニスケースを手に取り、

そして、まだ触られたことがなかった僕のペニスを掴むなり、

ゆっくりとそのペニスに近づけそして被せはじめた。

「うっ、

 結衣がこんなことを…」

かつて女の子だった頃の思い出した途端、

僕のペニスは急速に伸び、そして固くなっていく。

そんなペニスの姿に恥ずかしさを感じながらも、

チラリと結衣を見ると、

結衣は気に止めずにペニスケースを被せ、

そして、僕のペニスがスッポリと中に収まると、

巻き付けていた紐を解き、

それを丁寧に吊紐を僕の腰にまわして結んでくれた。



すると、それを見ていた男の一人が

葉っぱに黒っぽい半固形状のものを乗せてきて持ってくると

それを飲むようにつげる。

「なんだこれは?」

それを指さしながら僕は結衣に尋ねると、

『ソレ…ノム…

 イロンナモノ・タベラレル』

と結衣は僕に説明をした。

どうやらコレが第二の洗礼ようだ。

僕はチラっと結衣を見ると結衣は黙って肯き僕に催促をする。

「ココまで来てしまったら…」

そう覚悟を決めて僕は一気にそれを飲みこんだ。

喉にズルリとした感触がして酷い嘔吐感がしたが

とにかく胃に押し込んだ。

再び老人の前に座らされられると、

また脂を塗られ、

さらに結衣や男達が僕のからだに顔料で様々な模様を書きはじめた。

そして書きおわったときには、

僕のからだ中全体に幾何学的とも取れるような模様で

いっぱいとありさまになってしまった。

最後に村人達と同じ様な植物で編んだアクセサリー類を付けさせられると、

一連の儀式は終わりであり、

僕は結衣に連れられて彼女が寝泊まりしている小屋へと連れて行かれたのであった。



小屋に入って驚いた。

そこには既に他のボンゴ族の男達が身を横たえていて、

黒々した体がいくつも転がっていたのであった。

そして、結衣は僕の手を引きながらその中を掻き分け、

日頃身を横たえている場所へと僕を連れて行った。

「結衣…

 いつもこうしているのか」

男達と共に身を横たえた僕が尋ねると、

コクリ

結衣は静に頷いた。

「怖くはなかったか?」

「恥ずかしくはなかったか?」

と立て続けに質問をすると、

スッ

結衣は僕を指さし、

『タケオ・キタ。

 アタシ・コワイ・ナイ』

と呟き、

小さく笑った。

「結衣…」

どういう術をかけられてボンゴ族に、

しかも、男にされてしまったのか判らないが、

でも、たった1人でココを生き抜いてきた結衣の事を思うと、

自然と僕の手が動き、

サワッ

結衣の身体を触ると、

ギュッ!

っと抱き寄せる。

「結衣…」

『タケシ…』

お互いペニスケース姿になってしまったが、

でも、僕と結衣は目を見つめ合うと、

そのまま唇を遭わせた。

そして、この儀式を受けたためか、

その翌日から

僕の身体は急速にボンゴ族の肉体へと変貌しはじめ、

胸板は厚みをさらに増し、

体中の筋肉もまた以前よりも発達してゆくと、

僕は勇者へと変身していった。

そして、同じく勇者に変貌していた結衣とともに、

このジャングルで生き抜いていったのであった。



シュッシュッ

シュッシュッ

『イイカ・ユイ

 イクトキ・イッショ』

『ウ・ウン

 イクトキ・イッショ』

ジャングルの奥。

狩りに遠出した2人の勇者がペニスケースを外し、

互いのペニスを扱き遭っている。

やがて、

『ウォォ』

『クォォ』

お互いに雄叫びを上げながら、

ビュッ!

ビュビュッ!

っと精液を天高く噴き上げると、

固く抱きしめ合い、

確かな愛を確かめ合っていた。



おわり