風祭文庫・モラン変身の館






「野生の証」


作・風祭玲


Vol.655






「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

灼熱の日差しが照りつけるサバンナ…

そのサバンナの中に生えているブッシュの中に”あたし”は居た。

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

シュッシュッ

シュッシュッ

赤茶けた土の上に座るあたしの身体には、

身体を覆う衣服と呼べるような布は一切ない。

そう、あたしは素っ裸だった。

いや、何も身につけていないわけではない。

腰。

胸元。

そして手首と足首には

青く輝くトンボ玉を数珠繋ぎにして作った飾りが輝いている。

この青く澄んだ輝きを放つトンボ玉は遠くの山で取れるらしい。

そのトンボ玉に穴を開け、

細い紐にしたなめし革に一つずつ通した飾り。

その飾りを一本ずつ身体に巻く。

それだけである。

これが、いまのあたしが着ている服と呼べるもの。

無論、それだけでは何も隠すことは出来ない。

だから、あたしは裸のままだ。



けど、このような裸で居ることを

すでに恥ずかしいと思うことなくなっていた。

ううん、どうやら感じなくなってしまったみたい。

ここへはこの裸の姿のまま歩いてきた。

何十キロもの道のりをあたしは裸で歩き通した。

容赦なく照りつける日差しの下、

あたしは裸で、

そして裸足で歩いてきた。

ちょっと前までのあたしだったら、

1時間もしないうちに日射病で死んでしまっただろう。

でも、いまのあたしは何時間歩いても倒れることはない。

いや、一日歩き通してもへっちゃらだと思う。



だってあたしはこのサバンナの住民になってしまったのだから…

上下に動かしていた手を止め、

ふと見下ろすと

赤茶けた肌が目に入る。

でも、それはいまのあたしの肌の本当の色ではない。

ひとたび水につかればたちまち赤茶色が取れ、

その下から姿を見せるのは真っ黒な色。

そう、まるで墨を塗ったかのような漆黒の肌。

そのはだには脂を多く含んだ汗が流れ、

すぐに周囲に漂う砂埃を肌に吸い付かせる。



さらに、肩や腰から伸びる手足も長くなっている。

以前の倍近い長さだ。

だから立ち上がると地面が小さく見えるので

いつも立ち上がったときは困惑してしまう。

恐らくいまの身長は2mを超えていると思う。

前は1m50cmもないチビちゃんだったからなおさら、

そして、その脚に挟まれたお股には

女の子だったあたしには考えられないモノが下がっている。



男の子には必ず付いているオチンチン…

いまのあたしにはオチンチンがついている。

しかも、黒くて長いオチンチンがあたしのお股から伸びているのだ。

シュッシュッ

再びあたしは手を動かし始めた。

その手の中には固くなり長さを伸ばしたオチンチンがある。

「うっ」

ビリビリ

一瞬、オチンチンに電気に感電したような感覚が流れる。

”あぁあれが近いんだ”

シュッシュッ

シュッシュッ

次第にあたしの手の動きが速くなってきた。



あの日、無理矢理覚えさせられた快感。

そう”射精”と言う快感。

あたしはそれを求めてオチンチンを扱いている。

シュッシュッ

シュッシュッ

長い手が上下に動き、

ジワ…

赤茶けた砂は覆う肌に黒い染みが浮き上がってくる。

「はぁはぁ」

「はぁはぁ

 くはぁ
 
 うぐっ」

荒い息をしながらあたしはさらにオチンチンを扱いた。

ピッ!

シュシュッ!!

真っ黒なオチンチンから吹き上がる真っ白な粘液。

辺りに漂う生臭い臭いに初めあたしは顔を背けたが

でも、いまはそんなに嫌な臭いには感じられなくなっていた。

身体から漂う独特の体臭の方がキツイかもしれない。

それとも毎日嗅いでいるので慣れてしまったかかも知れない。

でもあの白い粘液…

そう精液を出す度にあたしはバカになっていた。

忘れるのである。

学校で習ったこと…

本を読んで覚えたこと…

友達と遊んだこと…

お父さん、お母さんのこと…

あたしは射精をする毎にそれらを一つ一つ忘れて行くのである。

もぅどれだけ忘れたのだろうか?

文字を読むことも、

数を数えることも出来なくなっていることも何となく判っていた。

唇が厚くなった口から漏れる言葉も変わっていた。

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

シュッシュッ

シュッシュッ

でも、あたしはそれでもオチンチンを扱くことは止めなかった。

いや、止めれないのである。

あの快感を知ってしまったから、

あの突き抜けるような快感の虜にあたしはなっていた。



乳房が消えても、

胸板が盛り上がっても、

お腹が6つに分かれても、

このまま土人になってしまうことが判っても、

あたしは真っ黒なオチンチンを扱き続ける。

牛のウンチとオシッコにまみれ、

無数のハエがたかるボディ族の男…それがいまのあたし。



剃り上げた頭を振り、

あたしはオチンチンを扱く、

段々その時が近づいてくる。

ジワッ…

「うっ

 出る…」

オチンチンの根元に貯まる感覚が限界に近づき、

身体の奥からこみ上げてくるあの感覚、

「あぁ

 出る
 
 出る
 
 出る
 
 あぁ
 
 あぁ
 
 あぁぁぁぁぁ!!」

身体を強ばらせながら、

あたしはオチンチンを扱くのを止め、

その先で膨らむ肉の固まりを指で刺激した。

その時、

ビュッ!!!!!

あたしの目の前で白い花火があがった。



「あぁぁぁぁ…」

身体の中を快感というモノが駆け抜け、

見る見る力が抜けていく、

「あぁ…あたし

 …またしちゃった…

 また出しちゃったんだ…」

虚脱感と後悔に似た感情があたしの頭の中を駆けめぐる。

「あぁ、忘れれいく…

 亜紀としての思い出を…

 言葉を…

 あぁ…

 なにもかも忘れていくぅ…

 いや、忘れたくない…」

一つ一つ頭の中から記憶が消えていくのを感じながら、

あたしはただベトベトに濡れているオチンチンを弄っていた。

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

「あぁ…湧いてくる…

 ヌッンガとしての記憶が…

 狩を…

 闘いを…

 あぁダメッ

 違うっ

 あっあたしは…

 ヌッンガじゃない。

 あたしの名前はあっあっ…

 あぁ…名前が思い出せない。

 いやっ、

 ヌッンガなんかになりたくない。

 だれか、誰か助けて…」

強い日差しが照りつけるブッシュの中、

1人の男が剥き出しのペニスから精液を流しながら悲鳴を上げた。

名前はヌッンガ。

裸の肉体を晒して生きる野生部族・ボディ族の男である。



おわり