風祭文庫・モラン変身の館






「サバンナへ」



作・風祭玲


Vol.255





カッ…カン

カンカン

きめの細かい赤土が舞う中、

あたしは夢中になって目の前にいる相手に向かって手にしている棒を振り回す。

その一方で戦っている相手も

手にした棒であたしの攻撃を防御をしながら応戦してくる。

ワーワー

そんなあたし達に周囲のギャラリーからは声援とヤジが次々と飛ぶ、

「このっ」

押され気味だったあたしは、

隙を突いて相手が手にしている棒を巧みに絡め取ると、

思いっきり空に向かって飛ばした。

「おぉ!!」

遠くに飛ばされていく棒を追いながらギャラリー達の視線が一斉に移動していくと

「勝者はカイン!!」

と言う声が響いた。

「やった…勝った」

あたしはそう呟くと透き通るような青空を眺めた。

フワッ

風が身体を濡らす汗を冷やしていくのを全身で感じていると、

「あれ…あたし…裸?」

あたしはあることに気づいた。

そして、

「なんで?」

と思いながら自分の身体に視線を落としていくと、

視野の中に現れたのは、

墨のように黒い肌に覆われ、

逞しく筋肉が張り出している肉体だった。

「え?、

 え?、

 なんで?

 だってあたしは女の子…」

そのときになってようやくあたしはさっき自分が負かした相手やギャラリー達皆全員が、

逞しい裸体に腰紐を一本巻いただけの裸族の男達であることに気づいた。

そして、あたしも裸族の男に…

「いやぁぁぁ!!」

むき出しのオチンチンを隠しつつ

あたしが悲鳴を上げると、




「…しのぶ…

 …忍

 しっかりして!!忍ッ」

徐々にはっきりと聞こえてきたその声にあたしはハッ気がついた。

そして、慌てて上体を起こすと周りをキョロキョロと見回した。

いつの間にかあたしは付けていた防具を取られ、

体育館の隅に寝かされていた。

そして、あたしを取り囲むように剣道着姿の女子達があたしを眺めていた。

「だっ大丈夫?」

一人が心配そうにあたしに様子を尋ねたが、

しかし、なぜかあたしは彼女の名前が思い出せなかった。

「えっえ…だっ大丈夫」

彼女の名前を思い出せないまま、

そうあたしが返事をしながら立ち上がろうとすると、

「だめよ、いま先生がくるから、

 そのまま寝てなさい」

と言う声が掛けられてまもなく、

「三枝っ大丈夫か?」

人ごみを掻き分けるようにして30代の男性があたしの前に現れた。

「あっ…だっ大丈夫です」

あたしは自分の事で皆が大騒ぎになっていることに急に恥ずかしくなると、

そう返事をしたが、

しかし、

「とにかく、三枝…

 お前は少し休め、

 高岸、次の試合ではお前が中堅を勤めろ」

男性はそう指示を出すと人ごみの中に消えていった。

すると、

「忍っ、あなたの奮闘、無駄にはしないからね」

と男性から高岸と呼ばれた剣道着姿の女性は

そう言いながらあたしの肩を叩いた。

「うっうん…」

あたしはみんなの名前を思い出せないまま頷くと、

「着替えてくる」

と言い残して更衣室へ向かっていった。

「…最近、人の名前が思い出せない…

 これも…?」

あたしは最近あたしを襲い始めたある不安が頭の中をよぎった。



シャァァァ

更衣室の隣にあるシャワー室であたしは頭からお湯を浴びた。

ジワッ

頭から肩にかけて痛みが湧き出してくる。

「ココを打たれたのか…」

そう思いながらお湯を浴びていると、

ムクリ…

あたしの股間であるものが膨張し始めた。

「あっ」

視線を股間に落としていくと、

プクッ

以前の数倍の大きさに膨らんだクリトリスが勃起していた。

「あっ、こんなになってる…」

そう思いながらそっとクリトリスを摘むと、

ムリムリムリ…

ニュゥゥゥゥッ!!

突然クリトリスはまるでカタツムリが眼を伸ばすように大きさを変えると、

瞬く間に小指サイズに成長してしまった。

「あっだっダメェェェ!!」

見る見る成長していくクリトリスにあたしは驚くと、

慌てて両手で股間を押さえ込むとその場に座り込んでしまった。

シャァァァ!!

シャワーのノズルから流れ下ってくるお湯があたしの体を叩く、

ハァハァ…

肩で息をしながら、

あたしは先日会った占い師のことを思い出した。

『…お前さんのその姿はかりそめの物だね…

 間もなくお前さんは本当の姿に戻ることになる。

 まっ、何がおきても慌てないことが肝要だね…』

占い師のその言葉が頭の中を回り始めた。

「あたしの本当の姿って…こいうことなの?」

あたしはそう呟くと、

筋肉が盛り上がり筋を作り始めた身体を眺めた。

「はぁ…筋肉だけでないわ…

 肌も黒くなってきているし…

 それに記憶も…

 あたし…まさか、あの夢の中のあたしになってきているの」

あたしはそう自問自答すると流れていくお湯を眺めていた。



「よう、相手の懐に飛び込んでの捨て身の攻撃、

 大したものだな、

 ただ、あとでぶっ倒れたのが拙かったけどな」

着替え終わったあたしは更衣室の外にある休憩所の中で休んでいると。

紙コップを両手に持った同じくらいの年齢の男子がやってくると、

片方をあたしの前に差し出した。

「え?あっありがとう…」

差し出された紙コップにあたしはちょっと驚くと

それを受け取ると一気に飲み干した。

冷たい飲料が喉を一気に駆け下りていく、

「なぁ、三枝

 このところ、なんか元気がないようだけど、

 どうしした?

 まさか、乙女の悩み事か?」

彼はそぅ笑いながらあたしに言うと、

「えっえぇと…」

あたしは必死になって彼の名前を思い出そうとした。

忘れてはいけない大事な名前だからだ、

しかし、思いだしてくるのは、

シルカとか、ムカジとか

どう考えても日本人の名前ではなかった。

「あのね……ううん、やっぱいいや」

あたしはいま自分の身におきている悩みを思わず彼に言おうとしたが、

でも、とてもいう気にはなれなくなり、

そのまま口をつぐんでしまった。

「なんだよ、その言い方は、

 気になるじゃないかよ

 俺でよければ相談に乗るよ」

彼はあたしの隣の腰掛けると心配そうな表情でそう言ってくれた。

「うっうん…」

あたしはただそう返事をすると下を向く、

「…………」

沈黙の時間が流れた。

「…まぁ、無理にとも言わないけどね、

 ただ、俺としては三枝さんに悩みがあるとしたら、

 その力になれたら…と思っていったんだけどね」

気まずくなってきた雰囲気を察してか彼はあたしにそう言うと

手にしたコップの中身を一気飲みにすると腰を上げた。

「…え?、あっ違うのよっ

 なんていうか、ちょっと信じてもらえ無いんじゃないかってね」

彼の態度にあたしが慌ててそう言うと、

「実はね…」

とあたしは最近あたしを悩ませていることを彼に告げた。



「マサイ?

 マサイってあのアフリカの?」

彼は驚きながらあたしに聞き返すと、

コクリ

あたしは素直にうなづいた。

「でも、信じられないなぁ…

 三枝さんがそのマサイ族の生まれ変わりだなんて…

 あっゴメン」

彼は自分の言葉に気づくとすぐに謝った。

「いっいいのよっ

 あたしもこんな話信じてもらえるなんて思っていないから」

空の紙コップをあたしは手で弄びながらそう言うと、

「それに、本当はマサイじゃないのよ、

 マサイの名前を出したのは判りやすく説明をするため、

 本当はサーマ族って言う、

 その…ほとんど裸で暮らしている裸族らしいの」

とあたしが言うと、

「裸ぁ?

 なんだそりゃぁ?

 じゃぁ何か三枝さんは裸になっちゃうって言うのか?」

彼はそう返事をした。

コクリ…

彼の言葉にあたしは黙って頷いた。

「でも、確証は何もないんだ、

 ただ、毎日見る夢の中で

 あたしはそのサーマ族って言う裸族の戦士になっているし、

 それに格好も裸だったし…

 あっ、でも、あたしの話し聞いてくれてありがとう

 お陰で少しは気が楽になった」

と礼を言いながらその場を立ち上がった途端、

『カインよいつまで寝ているんだ…早く目を覚ませ』

という言葉があたしの頭の中をよぎった。

「え?」

突然の言葉にあたしは驚くと同時に、

ドクン!!

あたしの身体の中を何かが突き抜けていった。

すると、

ムクッ!!

ムクムクムク!!

あたしの体中の筋肉がうごめき始めると、

ビキビキビキ!!

身体が変わっていくのを肌で感じた。

「あっごっごめんなさい!!、

 あっあたし…」

あたしは彼にそう言うと、

脱兎のごとく走り去っていった。

メキメキ!!

「あっあっあっ

 身体が…」

見る見る変わっていく手を見ながら

あたしは人目のつかないところを必死になって探した。

そして、体育館から離れたところにある、

使われてなさそうな用具倉庫を見つけると、

「はぁ…よかったぁ

 あそこに…」

まるで駆け込むようにあたしはその用具倉庫に飛び込むと身を隠した。

メキメキメキ

伸びていく身長とともに、

長くなっていく手足と張り出してくる筋肉、

そしてそんな身体を包む黒檀色に染まっていく肌…

用具倉庫の中でじっと座り込んでいるあたしは

見る見る夢の中のあたしの姿へと変貌していった。

「うぅ…」

変化していく身体を眼下に眺めながら、

ムリムリムリ!!

股間でオチンチンがその存在を誇示していく様子を肌で感じる。

やがて、

ビリビリ!!

体系の変化についていけずに制服が至る所から引き裂けていくと、

すす汚れた擦りガラスから差し込む光の下に

黒檀色をした肌に覆われ筋肉が発達した逞しい身体が徐々に姿を現してきた。

「あぁっ、あたし…

 サーマ族になっていくの…」

すっかり黒檀色の肌に覆われた腕を眺めながらそう呟いていると、

ビクッ!!

股間のペニスが力強く勃起し始めた。

「あぁ…こんなに大きくなっちゃった」

あたしは子供の腕を思わせるようなペニスに手を沿わせると、

シュッシュッ

っと扱き始めた。

ビクッ

初めて触るペニスに手が触れた途端、

身体の中を電撃は走り抜けていった。

「きっ気持いぃ…!!」

予想以上の快感に顎を上げながらあたしは腕の速度を上げていく、

すると、

ジュッジュッジュッ!!

オチンチンの先から透明な液体が吹き零れ始め、

やがて、何かがその根元に溜まり始めた。

「あっ

 あぁ…

 でっ出るぅぅぅ」

扱き続けるオチンチンがしびれて来ると、

ついに

プシュッ!!

っとオチンチンの先から白濁した体液を激しく吹き上げてしまった。

「あぁ…

 出しちゃった…

 あたし…」

手についた体液をそっと口に付けながらあたしが余韻に浸っていると、

ガタッ!!!

「三枝っここにいるんだろう?」

と囁きながらあの彼が倉庫に入ってきた。

ハッ

彼の声にあたしは驚くと思わず立ち上がってしまった、

ギシッ!!

倉庫の中にきしむ音が響き渡る。

「しまった!!」

そう後悔する間もなく彼があたしの前に姿を現した。

「三枝っそこに居るのか

 うわっ!!」

彼はあたしの姿を見るなり驚きの声を上げた。

「うっ」

あたしは咄嗟にそばにある棒をつかむと思わず構え、

「お願い、こっちには来ないで!!」

と叫んだ。

あたしの姿を見てひるんだ彼は両手を上げると、

「お前…本当に三枝なんだな…」

と確認するようにたずねると、

コクリ…

あたしは素直に頷いた。

「そっか、あの話は本当だったのか…」

彼は感心しながらあたしの姿を頭の先から足の先へと視線を動かしていく、

「そんな風にして見ないでよ、

 あたし、恥ずかしいんだから…」

彼の態度にあたしは恥ずかしさを感じながら叫ぶと、

「取りあえず、これを羽織れ!!」

彼はそう叫ぶと、着ていた上着をあたしに向かって放り投げた。



「で、どうするんだこれから…」

あたしと彼は倉庫の中で並んで座っていた。

「判らない…

 ただ…

 あたし…さっきは言わなかったけど

 実は頭の中もサーマ族になってきているの…」

「頭の中?」

彼は首をかしげながらあたしを見る、

コクリ

あたしは頷くと、

「徐々に忍としての記憶がなくなってきているの…

 そして、サーマ族の勇者カインと呼ばれている勇者の記憶が

 あたしの頭の中を埋め尽くしてきているのよ」

と訴えた。

「そんな…」

あたしのその話を聞いて彼は驚いた顔をする。

「あたし…もぅみんなの名前を思い出せなくなっているの

 そう、あなたの名前も…」

あたしは彼の顔を見ながらそう言うと、

「そんな…お前、俺の名前が判らないで、

 この話をしていたのか」

彼の質問にあたしは黙って頷くと、

「おっ俺だよっ

 佐々木博だよ、

 忍っ

 お前とは小学校の時に通っていた剣道道場からの腐れ縁なんだよ」

と自分を指差して博が言うと、

「あっ、

 そうだ、佐々木君だ…

 あたし、それも忘れていたんだ」

あたしは博の名前を忘れてしまったことに嫌悪感を感じると

そのまま俯いてしまった。

「とっとにかくだ、

 それ…何とかしないとな…」

博はあたしの身体を指差してそう言うと、

「無駄よっ

 あたしはもぅ勇者なんだから、

 ほらっ、オチンチンもこんなに大きくなっちゃったのよ

 それに、さっきオチンチンを扱いたら
 
 こんなのが出ちゃったのよ」

と言いながら股間で棍棒のように勃起しているペニスと

ペニスから吹き上げた体液を博に見せた。

そして、

「あたし…好きでこの身体にになったわけではないし、

 第一、あたしは…本当は女の子なのよ…

 でも、オチンチンが生えてしまったし

 それに身体も勇者になっちゃった。

 だから、行くしかないの」

そうあたしが訴えると、

「行くってどこに?」

すかさず博が聞き返してきた。

すると、あたしは遠くを見つめながら、

「あたしをサーマ族の名であるカインと呼んでくれるところ…」

あたしはそう博に言うと、

スクッ

とその場に立ち上がり、


『○▽■□!!』

『○■▲☆…』


とさっきから頭の中で繰り返す言葉を唱え始めた。

すると、

グニャ

目の前の壁がひしゃげて行くと、

フッ!!

青空の下、荒涼とした大地に円形をした土壁に小さな円錐形を屋根を持った、

どちらかといえば小屋に近い建物が立ち並んでいる風景が見えてきた。

「こっコレって…

 アフリカの…」

博は景色を指差しながらあたしに尋ねた。

「サーマ族の村…

 あたし…ここで生きていくわ」

あたしは博にそう告げると一歩前に踏み出した。

「そんな…

 じゃぁお前本当にあそこに行くのか?」

信じられない表情をしながら博が呟くと、

「うん、だから

 あたし…行かなくっちゃ…
 
 みんなが待っている…」

そうあたしが言うと村へ向かって歩き始めた。

「待てっ

 行くなっ、

 あそこはお前が行くトコろじゃない!!」

あたしの後ろから博の声が響くと、

あたしの腕がつかまれた。

「え?」

思わず振り返ると博が

「さぁ、こっちへ戻るんだ!!」

と言ってあたしの腕を引く。

しかし、あたしは

「だっダメ…よ」

そう言いながら1・2歩後ずさりをした。

「三枝っ何をしているんだ、こっちに戻ってくるんだ」

あたしに向かって博はそう叫びながら手を伸ばしてきたが、

でも、あたしは胸の前で右手の拳を左手で握りしめ、

そして、首を静かに横に振ると、

「ダメ…あたしはもぅそこには居られないのよ…」

と博に向かって叫ぶとさらに距離を置いた。

「何を言っているんだよ、

 お前はお前じゃないか」

「そんなこと言ったって、

 あたし…サーマ族の勇者なのよっ

 もぅ博を見上げることも出来ないし、

 それに…

 こんなオチンチンをぶら下げた身体では

 もぅそこでは生きて行けないよぉ」

あたしはそう叫ぶと、

「忍っ!!」

と言う声を振り切って走った。

フワッ…

風の匂いが変わると、

あたしは広いサバンナの中に立っていた。

「あっ」

慌てて振り返ってみたがさっきまでいた倉庫も博の姿もそこにはなかった。

「あたし…裸のまま…ここで…」

そう思うと

あたしはいつの間にか手にしていた紐を腰に付けると、

村へ向かって歩いていった。

もぅ忍としての記憶はほとんど残っていない。

あるのはサーマ族の勇者としての記憶があたしを支配していった…



おわり