風祭文庫・モラン変身の館






「わたくしの掟」


作・風祭玲

Vol.1048





「それってどういうことですか。

 説明してくださいますか?」

開店前の人気の無い店内に

わたくしの緊張した声が響きます。

「…え?

 菜々美さんが、

 まさか…

 そんな…

 何かの間違いでは…」

わたくしの訴えに応じた黒スーツの男から説明が信じられず、

なおも食い下がろうとしますが、

「お判りいただけましたか」

男から動かぬ証拠を見せ付けられたわたくしは

体中の力が抜けてしまいますと、

その場に崩れるように腰を落としてしまいました。

「うそよ、

 菜々美さんが」

うわごとの様に繰り返すわたくしに向かって、

「申し訳ありませんが、

 本件につきまして”旦那様”より、

 お呼び出しが掛かっております。

 わたくしとご同行願えませんでしょうか」

男はそう言うと、

腰をおろし

座り込んでいるわたくしに向かって手を差し伸べます。

そして、

「菜々美さまに裏切られた。

 というご事情は理解できますが、

 しかし、あなたはこの店の責任者です。

 菜々美さまがされたことは

 あなたが償わなくてはなりません。

 ご覚悟をなさってください。

 旦那様は大変、お怒りですので」

と言います。

「そんな…

 そんな…

 なっ菜々美さん、

 あなたはなんてことを…」

目の前が真っ暗になっていくのを感じながら、

わたくしはただ震えていました。



「ん?

 ここは?」

眠りから醒めたわたくしの視界に

コンクリートがむき出している無機質な天井が飛び込んできます。

「夢?」

天井を眺めながらわたくしはそう呟くと、

「なんで…

 こんなところに居るんだろう」

と記憶の糸を手繰りはじめますが、

しかし、寝起き故かわたくしの頭の中の記憶の糸は大きく乱れ、

整理整頓がまったく出来ていません。

「……

 …そうだ、

 みんなは?」

しばしの間を置いて

ようやく共にサバンナを駆け回っているマサイの仲間達を思い出すと、

体を起こして周囲を眺めてみます。

すると、わたくしがいま居るところは、

工事中の部屋と言う言葉がぴったりと合う佇まいで、

床はコンクリの打ちっぱなしの剥き出し状態、

周囲も壁も建材が露出したままになっています。

その一方で壁には布地のカーテンが閉められていて、

その隙間から明かりが差し込んでいました。

わたくしがマサイ戦士の体に改造された後にすごした

あの病室とどこか似ています。

と、そのとき、

「ウッ」

「ううっ」

わたくしの周りからうめき声が上がりますと、

一つ、

二つ、

と横たわる人影が目に入ってきます。

「どうしたのかしら」

人影を見ながらわたくしはそのうちの一人に

「あの…」

と声をかけますと、

「ひっ!

 ひゃぁぁ!」

声を掛けられた人影は悲鳴を上げて、

部屋の中を逃げ始めたのです。

そして、

「うっ

 うわぁぁ」

連鎖的に他の人影も悲鳴を上げてしまいますと、

皆一箇所に固まって震え始めたのです。



「あ…」

その者たちの姿を眺めているうちに、

次第にわたくしの記憶が整理され、

なぜここに居るのかが理解できました。

そして、腰を上げますと、

チャラ…

首の周りを飾っているマシパイが音を響かせながら、

わたくしは薄暗い中を歩き、

その端まできますと、

グッ

壁一面に下がっているカーテンを引っ張ります。

その途端、

シャッ!

カーテンは軽い音を立てて動き、

溢れんばかりの光が飛び込んできました。

「まぶしぃ…」

光に慣れていない目を掲げた手でかばい、

わたくしは目が慣れるまでしばしの間、

そのままの姿勢で居ます。

もしここがサバンナなら身の危険を招く行為ですが、

でも、ここが何処なのか理解しているわたくしは、

そのままの姿勢で居ることが出来ました。

そして、程なくしてわたくしの眼下に、

文明人達が営む大都市が大きく広がったのです。



「そっか、

 わたくしは、

 帰ってきたのですね」

朝日に輝く大都市を眺めながら

わたくしは小さな声でそう囁くと、

ムクムクムク!

わたくしの股間が熱くなり、

それに応じて肉棒・イリガが起立してゆきます。

「うふっ、

 どこに居ても

 お前は毎朝元気になるのですね」

痛いくらいに張り詰めたイリガに手を当てながら、

わたくしはそう呟きますと、

クルリ

と振り返り、

そして、

部屋の隅で震え上がっている全裸の少年達を眺めながら、

「さぁ、お前達、

 はじめようか」

と告げながら

グンッ!

わたくしは股間で大きく立ち上がっているイリガを

彼らに見せ付けたのでした。



それは一週間ほど前のことでした。

サバンナにつれてこられて数年と言う時間が過ぎ、

わたくしは

「獰猛なシンバに怯まず戦う、

 勇敢な戦士、オレ・ンベベシノ」

として同じマサイ戦士達から認められ、

彼らより一目置かれる存在となっていました。

そして、わたくし自身も、

体に巻く朱染めの布・シュカを腰を覆う程度にまで小さくし、

戦いによって体に刻まれた無数の傷跡を

幾本ものビーズ紐・マシパイで飾り、

誇らしげに皆に見せ付けるようになっていました。

体に付けられたこれらの傷跡はまさに戦士としての勲章であり

誇りでもあります。

その誇りを守るため、

わたくしはシンバに挑み、

新たなる勲章を重ねていました。



ンモー…

その日は長い遊牧の旅を終えてマサイ村に帰る日でした。

夕暮れ前に牛達を引き連れてわたくしは村に帰ってくると、

「おぉ、帰ってきたか。

 ンベベシノ」

戻ってきたわたくしに長が声をかけてきます。

「いま戻りました」

赤土と脂で選り分け整えた髪を後ろに回して

わたくしは長に向かって頭を下げると、

「その素っ気無い挨拶の仕方はあいかわらずだな」

長は笑って見せます。

その指摘に

「はぁ」

わたくしは困惑して見せますと、

「まぁいぃ、

 オレ・ンベベシノは勇敢な戦士。

 大目に見よう」

わたくしの肩叩きながら長はそう言い、

「お前に珍しい客人が来ている。

 相手をしなさい」

と続けたのです。

「客人?

 わたしにですか?」

長の言葉を訝しがりながら、

わたくしと共に旅をしてきたキジャーナのヌズリとンカジに

連れてきた牛を柵に入れるよう指示をすると、

その”客人”を探して村の中を歩き始めました。

「いったい、誰だろう」

この奥深いマサイ村にわたくしを尋ねてやってくる客人に心当たりはありません。

「まさか、あの時のヤクザ?」

異常な医師によって体をマサイにされたわたくしを

この村につれてきた二人組みのヤクザのことが思い出されますが、

「そんなことは…ありえません」

わたくしは頭を振ってそれを否定します。



と、そのとき、

村の子供の相手をしている男性の姿が目に入りました。

白い肌にちょっとボサボサ気味のストレートの髪。

小ざっぱりとしたシャツにズボンを履きサングラス掛けた男性は

間違いなくこの村の者ではありません。

「この人が…

 わたしの客人?」

美人ママ・志乃だった頃も含めて

まったくに覚えがない男性の姿に警戒感を持ったわたくしは

彼の後ろを通り過ぎようとします。

すると、

「マサイの兄ちゃん、

 どこに行くんだ?」

と聞き覚えのある声が響いたのでした。

「!!っ、

 この声は…」

間違いありません。

この声はわたくしをマサイの戦士に変身させることを定めた、

あの旦那様の声。

驚いたわたくしは周囲を見回すと、

「ほぉ、

 日本語はまだ通じるみたいだな、

 志乃」

の言葉と共に物陰より旦那様が姿を見せたのです。

「だっ旦那様っ」

旦那様の姿を見た途端、

わたくしはその場にひれ伏すと、

「いつぞやは旦那様には多大なご迷惑をおかけしてしまい、

 真に申し訳ありませんでした。

 しっ志乃は…

 志乃はこうして旦那様より与えられた罰に耐え、

 生きております」

と涙ながらに訴える。

すると、

「お前のことは、

 その体を改造したときより常に報告を受けている。

 美人ママとしての美貌と男を酔わせる豊満な肉体、

 それら全てを奪い、

 代わりにこのアフリカの奥地で、

 裸同然の姿に槍一本で生き抜く野生男の肉体と人生を与えた。

 ふふっ、

 わたしはな、志乃。

 お前がサバンナに出てから1週間以内に猛獣達の餌食となり、

 血を吹き上げ、

 肉を引き裂かれ、

 臓物を洗いざらい喰われた後、

 骨のカケラをわずかに残して消えていく。

 そうなると信じていたし、

 それがわたしが望んだ処刑でもあった。

 が、しかし、

 そうはならなかった。

 お前はわたしが与えたその肉体と槍で、

 襲い掛かる猛獣の首を切り落とし、

 皮を剥ぎとり、

 肉を喰らう。

 その体に刻まれた無数の傷跡、

 お前が何頭の猛獣を倒してきたのだ。

 ふふっ

 はっはっはっ

 実に愉快!

 実に痛快!

 このわたしの意に逆らい

 弱肉強食のサバンナの頂点に立って見せた、

 お前の生命力は実に見事だ。

 改めて惚れ込んでしまったぞ」

と旦那様は豪快に言います。

「はっはい…」

その言葉を聞きながら

わたくしはただひれ伏していると、

クンッ

クンクンッ

首から提げているビーズ紐・マシパイが引っ張られました。

「え?」

その感触にわたしは顔を上げて横を向きますと、

「ンベベシノ…

 この人ってとても強いの」

とさっき男性が相手をしていたマサイの子供が話しかけます。

「え?

 えぇ…まぁ」

その質問にわたくしは答えをはぐらかせてしまうと、

「そうだよ」

わたくしに代わり、旦那様が返事をします。

「うわぁ、

 勇者・ンベベシノよりも強いなんて、

 おじさんすごいんだ」

それを聞いた子供は目を輝かせると、

「ふふっ、

 お前の強さはこんな子供にまで知れ渡っているようだな」

旦那様は軽く笑いながらいいます。

「あの…

 旦那様はどうしてここに?」

そんな旦那様にわたくしはこのマサイ村に来た理由を尋ねると、

「気まぐれだ」

と返事をします。

「気まぐれ?」

その言葉にわたしは驚くと、

「そう、気まぐれなのだよ」

と言いながら旦那様な怒っているような

思慮深い顔をして見せたのです。

こういう時の旦那様は、

何かを確認し何かを伝えようとしている。

と決まっています。

「あのぅ…

 何かお尋ねになりたいことが」

そう言い掛けたとき、

「お話は終わりましたか?」

の声と共にさっき子供の相手をしていた男性が

わたし達に声を掛けてきたのです。

「うむっ、

 取り合えず、わたしの用件は終わった」

その声に旦那様はそう答えると、

2・3歩引きます。

すると、

まだ30代と思えしき男性はわたくしの側で腰を下ろし、

「まぁ、顔を上げてください」

と話しかけたのです。

「どっどちらさまで」

体を起こしてわたくしは男性の素性を尋ねますと、

「ほぉ、日本語が通じるのですね。

 その姿で私と言葉が通じるというのも不思議なものですね」

と言いながら1枚の名刺を差し出します。

「××TV、プロデューサーU…」

名刺に書かれている名前と肩書きをわたくしは読み上げると、

「えっと、オレ・ンベベシノさんと呼んだほうが良いでしょうか」

男性はちょっと困惑した口調で話しかけ、

「実は…」

とここに来た事情を話し始めたのです。



「え?

 TVに…」

彼から聞かされた意図にわたくしは驚きの声を上げますと、

「このUプロデューサーはわたしが眼を掛けてきた男でな、

 今ではTV界の坂本竜馬と呼ばれておる。

 その男がな

 志乃、お前のサバンナでの活躍を知り、

 ぜひ自分の番組で使いたい。と申してきたのだ」

と旦那様は男性の事情を話します。

「でっでも…」

思いがけない話にわたくしは困惑して見せると、

「弱肉強食のサバンナで果敢に猛獣に挑み、

 それらを倒していく歴戦のマサイ戦士。

 オレ・ンベベシノ!!

 あなたのその鍛え抜かれた肉体と、

 肉体に刻まれた無数の傷は

 間違いなく視聴者の心を鷲づかみにするでしょう。

 そう、ぬるま湯に漬かり切った現代人に足りないもの。

 それは野生です。

 大丈夫、わたしに全てを任せてください。

 あなたに難しいことはさせません」

そう男性・Uプロデューサーは力説します。

「はぁ」

その言葉にわたくしは気の抜けた返事をしてしまうと、

「オレ・ンベベシノ!!」

旦那様はわたくしの名前を呼び、

「この男に手を貸してくれるな」

と告げたのです。

「はっはいっ」

旦那様の言葉に逆らえないわたくしは二つ返事をすると、

「はい、

 全てはわたくしが手配いたしますので、

 オレ・ンベベシノさんはそれに従ってくれればよいのです」

Uプロデューサーはそのように言い、

そして、

「よろしく頼むよ」

とわたくしに手を差し伸べたのです。

その翌日、

長の許しを得たわたくしは旦那さまとUプロデューサーに連れられて

サバンナから去ったのです。

窓から見下ろす都会の景色はあの時とほとんど変りません。

変ったのはわたくしの姿であり、

ガラス窓に映るのは和服姿の色白の女性ではなく、

漆黒の肌に刻まれた無数の傷、

腰を覆うだけの砂埃まみれのシュカと、

ビーズ紐マシパイを幾重にも巻き、

女を犯すよりも男を犯すことに快感を感じてしまう

オレ・ンベベシノと呼ばれるマサイ戦士です。



「おっ、お願いです。

 助けてください」

「これ以上、

 あなたのお相手は

 むっ無理です」

怯える少年達は口々にそう訴えます。

確かに昨夜からわたくしのイリガを

散々咥えさせられてきた彼らの肛門は限界なのでしょう。

でも、マサイのキジャーナ達は決してそのような弱言は吐きません。

わたくしの許しが出るまでひたすらイリガを咥え続けます。

ドンッ!

手にした槍の石突きの音が部屋に響き渡ります。

「ひっ」

その音に少年達は身を縮めてしまいますと、

「お前達、

 その言葉、サバンナで言えるのか」

とわたくしは問いたずねます。

すると、

少年達は次々と泣き出してしまったのです。

「まったく、

 こんなことならヌズリとンカジを連れてくればよかった」

硬くなったままの股間を押さえながら、

わたくしの性欲を一身に受けてくれる少年マサイを

同行させなかったことを悔いていると、

Uプロデューサーから渡されたケータイが鳴り始めました。



Uプロデューサーは当初わたくしをホテルのスィートルーム宿泊させようとしましたが、

しかし、サバンナで長く時間を過ごしたわたくしとって、

快適な睡眠を得られるのは高級なベッドではなく、

調度も何もされていない無機質な床の方でした。

そして、Uプロデューサーに頼み込んで、

改装途中であり、

調度品もほとんど揃っていないこの部屋を宿泊場所としたのです。

その一方で野生の戦士であり、

また旺盛な性欲を持つわたくしのはけ口として、

Uプロデューサーは相応の女性を用意してくれましたが、

女色よりも男色を好むわたくしはそれを断り、

キジャーナと同じ年齢の少年達を用意してもらったのです。



「はい」

わたくしはケータイをとりますと、

電話口からUプロデューサーの声が響きます。

「はい

 はいはい。

 判りました」

Uプロデューサーからの用件は、

番組の収録は明日であること、

それまでに準備をしてて欲しいとの用件でした。

「準備といっても…

 これと言ってすることがありませんし、

 いつでも大丈夫ですが」

電話に向かってわたくしはそう話しますと、

詳しい時間が決まったら再度連絡をする。

とUプロデューサーは告げて電話を切ります。

「詳しい時間って…

 まだ明日でも十分なのに」

ケータイの時計を見ながらわたくしはそう呟くと、

「はぁ…

 こんなことなら直俊さんの話に乗らなければ良かった」

と少年の一人が呟きます。

「え?」

聞き覚えあるその名前を聞いたわたくしは

手にしていた槍先でその少年を指し、

「直俊って五城郭直俊のこと」

と尋ねます。

「え?

 どっどうして直俊さんの名前を知っているんです」

わたくしの質問に少年は驚きますと、

「なるほど…

 まだこの業界の近くをうろついていたんだ、アイツは。

 ところで、その直俊って男には菜々美って女は居ない?」

再度質問を致しますと、

「あの九条川菜々美さんですか?」

と別の少年が返事をします。

「菜々美の居場所、

 知っているのねっ」

それを聞いた途端、

わたくしの心に怒りがこみ上げてきますと、

少年に喉元に槍先を突きつけて怒鳴り声を上げます。

すると、

「ひっ、ひぃひぃ」

少年は涙を流し、

小便を漏らしながら首を横に振ります。

「ちっ」

それを見たわたしくは軽く舌打ちをして少年から槍先を離し、

他の者を見ます。

そのとき、

【それならわたくし達がご案内いたしましょうか】

という声が部屋の響いたのです。

「この声は…」

聞き覚えのある声、

間違いありません。

旦那様のボディガードをする二人の女性、”華”と”海”の声です。

「だっ旦那様は菜々美たちの居場所を知っているんですか?」

姿が見えない二人に向かってわたくしは問いかけますと、

【はい、ご存知です】

【旦那様がサバンナまで行かれたのは】

【あなた様が見事生き延びられた褒美と】

【そのことを伝えるためでした】

【いかがなさいますか】

声はわたしくに問いかけます。

「きっ決まっていますっ、

 わたくしは…

 わたくしは、

 サバンナに連れて行かれ。

 無理やりこの体にされ。

 幾度も死に掛けました。

 この悔しさを晴らしたいです」

ワナワナと体を震わせながら、

わたくしは胸の内を明かしますと、

【わかりました】

【本来ならUプロデューサーの案件が終了した後】

【ご案内するはずでしたが】

【あなた様の意向に従うよう指示が出ていますので】

【ご案内いたします】

【ただし、マサイ戦士としての身だしなみはしてください】

”華”と”海”の声はイリガを晒したままになっていることを指摘します。



キッ!

周囲に夕闇が迫るころ、

街の中を3つの影が走ります。

一つは無論、わたくしではありますが、

残る2つは”華”と”海”の影です。

忍の末裔…

旦那様から二人についてその様に伺ったことがあります。

「まさか、忍者なんて…

 いまどき居るわけない」

話を聞かされたときわたくしは半信半疑でしたが、

でも、いまこうして彼女達を見ると、

その言葉に偽りはないことを確信します。

「このことは旦那様はご存知で?」

走りながらわたくしはそのことを尋ねると、

【私どもは】

【旦那様の言いつけで】

【動いています】

【あの二人の処分については】

【責任者である】

【あなた様に一任するとのこと】

と返事をします。

「そうですか、

 旦那様のお許しが出ているのですね」

そのことを聞いたわたくしは安心するのと同時に、

旦那様の後ろ盾を得ていることに気を大きくします。



連れて行かれたのはわたくしが店を構えていた繁華街から

そう遠くない別の繁華街の一角でした。

開店前の店のドアが開くと、

トッ

わたくしは中へと入っていきます。

懐かしいこの感じ。

わたくしは以前自分が美人ママとして働いていた頃を思い出しますが、

ガラス戸に映る自分の姿を見た途端、

現実に引き戻されます。

「わたくしがこの体にされたのは

 すべては菜々美のせい」

わたしはそう呟くと、

店の奥へと向かっていきます。

わたしから持ち逃げした資金のおかげか

店のつくりは贅沢で、

羽振りも良いように見えます。

槍の石突きで床を叩きながらわたくしは進んでいきますと、

「タオル屋さん?

 裏に回ってくれますか?」

と奥から菜々美の声が響きました。

「!!っ」

彼女が男・直俊と共に失踪したとき以来に聞く声に、

わたくしの心臓は高鳴ります。

そして、奥から着物姿の菜々美が姿を見せると、

わたくしの姿を見るなり、

「ひっ、

 なっなんですかっ

 あなたは!」

と目を丸くして声を上げたのです。

その途端、

クワッ!

わたくしは菜々美を見据えると、

槍を振り上げ、

その石突きで彼女のお腹、

締められた帯を思いっきり突きました。

「ぐえっ!」

ドタン!

店の中に菜々美の声が響くと、

彼女が飛ばされた音が追って響きます。

そして、

ゲホゲホ

纏め上げていた髪が解け、

乱れた髪を振りながら菜々美は咳き込むと、

わたしは腰をかがめ彼女の髪を掴み上げると自分に向かせます。

「ひぐぅ」

お腹を突かれ激しく咳き込んだせいでしょうか、

菜々美は涙を流し、

鼻からは鼻水が流れ落ち、

口元は唾で溢れかえっています。

そんな彼女の顔を見たわたくしは笑みを浮かべながら、

「お久しぶりですね、

 菜々美…」

とやさしく声をかけます。

「だっ誰よっ、

 わたし、

 あなたのような人、

 知り合いにはいっ居ません」

かつての面影を失い、

マサイの顔になってしまったわたくしの顔を見て、

菜々美はそう答えますと、

「菜々美を離せっ、

 この変態野郎!」

の声とともに棒の様なものでわたくしの後頭部が叩かれました。

しかし、その力は弱く、

わたくしを痛めつけるほどではありません。

「いま、何かしました?

 直俊君?」

後頭部をさすりながらわたくしは腰を上げると、

「このぉ!

 出て行け!」

敵意を見せながら直俊は手にしたモップの柄を振り回します。



「あら、そんな棒使いでは、

 サバンナでは直ぐにシンバの餌食よ」

彼に向かってわたしはそういいますと、

すばやく手を伸ばし柄の先端を掴みあげます。

「うっ」

振り回していた柄を制された直俊は何度も腕に力を入れますが、

でも、わたくしの手から柄を離す事ができません。

すると、

「手を離しなさい。

 この変態。

 あなた、

 わたし達に何の恨みがあるの?」

今度は包丁を持ち構えた菜々美がその刃先をわたしに向けて声を上げたのです。

「恨み?

 恨みならいっぱいありますわ。

 菜々美さん。

 あなたがこの男と共にお客様から預かった資金を持ち逃げしてくれたおかげで、

 わたくしは旦那様にお仕置きをされたのですからね」

菜々美に向かってわたくしはそう告げると、

「!!っ、

 あなた、まさか

 しっ志乃さん?」

わたくしの返事を聞いた途端、

菜々美の体は震え始めます。

そして、そんな彼女の姿を見たわたくしは、

「ふふっ、

 どうなさいました?

 えぇ、志乃ですわ。

 もっとも、その名前はとっくに捨てられてしまい。

 いまではオレ・ンベベシノという、

 マサイ族の戦士…だけど」

そう言いながら、

腰を隠すシュカをめくり上げ、

その下で硬く持ち上がっているイリガを見せます。

「そんな、

 志乃は…旦那様に責任を取らされたって、

 ねっねぇ

 そうでしょう、直俊っ」

菜々美は震える声で直俊に尋ねると、

「おっ俺は事情を知っているヤツからそう聞いたまでだよ。

 まさか、こんな姿になって生きて居ただなんて」

相変わらず柄を自由にできない直俊はそう返事をします。

すると、

「ふふっ、

 ねぇ、直俊っ、

 いい身体していますね。

 ちょうどいいですわ、

 わたくしのお相手をしてくださいません」

直俊を流し目で見つめながらわたくしはそう話ますと、

「ふんっ」

掴んでいたモップ柄をねじり挙げると、

直俊を自分へと寄せます。

そして、彼のズボンに手をかけますと、

それを一気に引きおろしたのです。

と同時に、

「なにを!

 うっ

 うがぁぁl!

 やめろ!

 いっ痛い!!」

「いやぁぁぁ!」

店の中に直俊と菜々美の悲鳴が響き渡り、

「おふっ

 おふっ

 おふっ」

わたくしは鼻息と共に

赤土と脂で選り分けた髪を振り乱しながら腰を前後に振りはじめます。

そのわたくしの下では肛門をイリガで貫かれた直俊が

声にならない悲鳴を上げながら激痛に苦しみます。

「やめて、

 やめて、

 やめて!」

愛する男が嬲られている姿を見せ付けられた菜々美は

涙を流しながら懇願しますが、

わたくしは腰を振るのを止めません。

「やめてよっ、

 直俊が壊れちゃうっ、

 男を犯すのが気持ち良いの?

 この変態!」

業を煮やした菜々美はそう口走ってしますと、

「えぇ、

 わたくしは変態ですとも。

 あぁ気持ちいいですわ。

 旦那様の手によって

 わたくしがマサイにされて良かったと思うのは、

 こうして男を犯すとき。

 ふふっ、菜々美さん。

 わたくしはね。

 あなたがわたくしをこんな姿にしてしまったのよ」

と返事をして見せます。

「そんなぁ」

「ふふっ、

 あぁ、いいよ、直俊。

 お前、これまでわたくしが犯してきたどんな男よりも良い」

腰を振りつつ、

直俊のお尻をさすりながらわたくしはそう話しかけますと、

「あぐっ

 ぐっ

 うぐぅ」

わたくしの腰の動きに動きに合わせて直俊は声を上げます。

そして、

「あぁ、
 
 出る

 出る

 出るぅ」

身体を小刻みに震わせながらわたくしはその声と共に、

彼の体内奥深くに精を放ちました。

そして、

「菜々美さん、

 これで終わりではありませんよ。

 始まりなのですから」

と放心状態の彼女に向かって告げたのです。
 


翌日、

わたくしが出演したUプロデューサーが手がけるTV番組は

世界中から猛者を連れてきてのトーナメント形式の格闘技大会でした。

打ち合わせの際にわたくしの槍は殺傷力があり過ぎるということで、

わたくしは槍無しの格闘になってしまいましたが、

「まぁ…

 槍はトドメに使うから良いか」

確かに槍は人と人との格闘には不向きであり、

マサイ村でマサイの少年達に槍での格闘を教えるときは

棍棒を使っていたので、大した影響はありません。

「おぉ…」

「すげー」

収録スタジオにてわたくしの名前が呼ばれると、

対戦者が待ち構えるリングに向かって行きます。

そして、わたくしの体に刻まれ傷が皆の前に晒された途端、

出演者達から声が漏れます。

「まったく」

そんな彼らを横目に見てわたくしは小さくため息をつきますと、

試合開始を告げるゴングが鳴り響いたのです。



TV番組ですのであらすじと言うのは最初から決まっていました。

だけど、表向きは本気での格闘でしたので、

わたくしも本気モードで戦わせてもらいましたが、

でも、サバンナのように命を掛けて…と言う格闘とは程遠い格闘です。

その中で、わたくしは順調に勝ち進み、

決勝の相手として現れたのは、

身の丈以上の大男でした。

股間に履いた青いパンツをもっこりと膨らませ、

わたくしと変らない漆黒の体からは

筋肉がはち切れんばかりに張り詰めています。

「スーパー・マッチョマン」

とTプロデューサーは彼を呼んでいました。

「殺してやるぜ」

自信満々にマッチョマンはわたくしに向かって言いますが、

「その台詞、

 サバンナでも言えますか」

そうわたくしは返しますと、

「おっ」

マッチョマンは一瞬驚いた表情を見せました。

「言葉が通じるのに驚いているのかな」

そんな彼を見ながらわたくしは腰を落とすと、

目の前のマッチョマンを獰猛なライオンに見立てます。

その途端、

クワッ

わたくしの体にスイッチが入いりました。



ドォン!

大きな音を立ててマッチョマンが尻餅をついてしまうと、

タンッ!

すかさずわたくしはマッチョマンの上に跨り、

その首元を右腕で押さえます。

本当ならここの場で槍を突き刺しているところでしたが、

しかし、それが封じられているため、

腕で押さえるのが精一杯です。

「勝った…」

つい心の中ではそう思ってしまいましたが、

「あっいけませんわ」

Uプロデューサーとの打合せを思い出しますと、

腕を緩め、

マッチョマンの首を持ち上げる仕草をします。

そして、

「どうぞ」

と囁くと、

「うごぉ!」

息を吹き返したマッチョマンはわたくしの体を持ち上げると、

そのままリングの外へ…

「すべてはシナリオ通り…

 ですわね」

試合が終わったわたくしはリング状で雄たけびを上げている

マッチョマンを見上げながらそう思っていながら腰を上げ、

割礼を受けたオチンチンが見えかけているシュカを手早く直すと、

控え室へと引き上げていきます。

「さぁて、

 終わったわ」

控え室で大きく背伸びをしていますと、

「もぅ帰り支度をするのか、

 志乃。

 サバンナに帰ってどうする?」

という言葉と共に旦那様が控え室に入ってきました。

「旦那様!」

反射的にわたくしは三つ指をついて伏してしまうと、

「なかなかの役者ぶりだったな、

 結構本気を見せながらも、

 土壇場でシナリオどおりに動きおって」

旦那様はそう褒めます。

「はぁ…」

その言葉にわたくしは返事に困ってしまいますと、

「”華”と”海”から報告を聞いた。

 菜々美と直俊をサバンナに連れて行くそうだな」

と旦那様は言います。

「はいっ、

 それで、お願いがあります」

旦那様に向かってわたくしはそう申し上げますと、

「既にあのドクターとは話はついている。

 あとはお前に任せる。

 ところで話は変わるが、 

 いま新しい店を計画していてな、

 店のテーマは”野生”

 ふふっ、

 どうかな、

 サバンナとこっちの二重生活になってしまうかもしれないが、

 君のサバンナでの経験を役に立てて見る気はないか?」

と告げたのです。

「旦那様?」

「お前の事情は判っている。

 ただサバンナで見せたお前の生命力に

 もう一度チャンスを与えようと思ったまでだ」

旦那様はそう言うと、

『まぁ、頑張れよ。

 生き残れば何とかなるって…』

あの日、

マサイにされたわたくしに向かって

ヤクザの男が言った言葉が頭の中に響きます。

「よっよろしくお願いします」

その声を思い出しながら、

わたくしは旦那様に返事をしました。



それから一ヶ月後、

サバンナに戻ったわたくしはマサイ村に帰りますと、

村の広場には毛皮が敷き詰められ、

村人達に見つめられながら、

坊主頭にされ口枷を噛まされた二人のマサイの股間に

長が手にした短剣が刺さろうとしていたところでした。

割礼の儀式。

「ひぐつ」

「ふぐぅ」

イリガの皮を切り取られていく二人は身を捩り、

声無き悲鳴を上げますが、

しかし、それをとめることはできません。

割礼はマサイの戦士になるための大切な儀式です。



ひと月前、

菜々美と直俊はアフリカに連れてこられると、

あの医師の手によって、

菜々美は性転換させられた上にマサイの男性に整形されてしまいました。

一方、直俊は性転換はされませんでしたが、

でも、整形によって同じくマサイに整形されてしまいました。

男同士となった二人は以前のように愛し合うことはできませんし、

わたくしがさせません。

なぜなら、二人の肛門は既にわたくしのものであり、

自由にはさせません。



さぁ割礼が終わりましたら、

わたくしがサバンナに連れて行ってあげます。

そしてたっぷりとここの掟を教えて差し上げますわ。

だってサバンナの頂点に立つわたくしがここの掟なのですから。



おわり