風祭文庫・モラン変身の館






「預かりし者」


作・風祭玲

Vol.0893





地平線まで続く緑の草原、サバンナ。

そのサバンナを貫くように伸びる赤茶けた一本道を

俺が運転するサファリカーは砂塵を巻き上げて進んでいく。

「ひゅーっ、

 気持ちいい」

未舗装路を驀進していくクルマは

車体を右へ左へと大きく揺らし、

その揺れがかつて走り屋だった俺の血を熱くしてしまうと、

「行くぜぇ!」

アクセルペダルをさらに踏み込みんだ。

そして、クルマの行く手には突然の来訪者に驚いたのか、

まるで蜘蛛の子を散らすようにして、

様々な野生動物が飛び出しては一目散に逃げ出して行く。

「あはは!

 見ろよ、

 ケモノ共が血相を変えて逃げ出していくぜ」

そんな様子を見た俺は笑って見せると、

「おいっ」

との声と共に、

ドンッ!

俺が座る座席が蹴り飛ばされた。

「はっはいっ」

その途端、俺の血圧は一気に下がり、

顔には冷や汗が噴出すとと、

「もっ申し訳ありません」

と声と返事をする。

「はしゃぎたいのはわかるが、

 お客さんが乗っているんだ。

 もっと慎重に運転しろ」

俺の背後の席に座る潮兄貴はそういうと、

隣に座る”人物”の肩に手を回し、

「もうすぐ着くよ」

と声をかける。

すると、

「くっ」

話しかけられた”人物”は唇をかみ締め、

ツーッ

その頬を一筋の涙が流れて落ちていった。

「泣いているのか?

 仕方がないだろう。

 もぅこうなってしまったんだ。

 諦めって言うの必要だと思うぞ」

”人物”に向かって兄貴はそう諭すが、

その”人物”はほんのひと月前まで

夜の繁華街で売れっ子の美人ママだったってことは、

未だに信じられなかった。



それはひと月前の事だった。

下っ端のチンピラヤクザをしている俺が

兄貴分である潮兄貴に呼び出されて組の事務所に顔を出すと、

「猛ぃ!

 こっちだこっち!」

潮兄貴が手を揚げて招く仕草をする。

「遅くなりました」

幾度も修羅場を潜り抜け、

腕力では誰も敵わない潮兄貴の呼びだしに、

俺は緊張した面持ちで向かうと、

「おめぇ、

 パスポートは持っているか?」

と尋ねてきた。

「パスポートですかぁ?

 いやぁ、外国には行ったことが無いので、

 持っていませんが」

兄貴の質問に俺は頭を掻きながら返事をすると、

「そうか、

 じゃぁ今から役所に行ってパスポートとって来い」

と俺に命令する。

「え?

 今からですか?」

思いがけない指示に俺は驚くと、

ジロッ

潮兄貴は鋭い視線で俺を見据え、

「俺の言うことが聞こえなかったのか?」

と凄んで見せた。

「はっはいっ、

 今すぐ取ってきますっ」

兄貴が放つ気迫に押された俺は慌てて事務所を飛び出すと、

その足で役所へと向かって行った。



パスポートの発行に妨げになるような事をしていない俺は

発行されたパスポートを持って事務所に戻ると、

「よーしっ」

潮兄貴は笑顔で俺のパスポートを眺めた後、

徐にケータイを開くとどこかに電話を掛けると、

「おめー、これから俺が言う所に行って、

 荷物、受け取って来い」

と俺に命令した。

「にっ荷物の受け取りですか?」

兄貴の口から出た言葉に俺は驚くと、

ピッ!

驚く俺の前に一枚のメモ用紙が差し出され、

「くれぐれも粗相の無いようにな、

 それと、絶対に荷物に逃げられるんじゃないぞ。

 仕事が終わるまで命がけで当たれ」

いつもよりも気迫を増して兄貴は俺に命令する。

「はっはいっ」

命が縮む思いで俺はメモを受け取ると、

「では行ってきます!」

タクシーで指示された場所へと向かっていった。



「本当にここなのか…」

メモ用紙に書かれた場所に到着した俺は思わず周囲を見回すと、

そこは高級ホテルの正面玄関であった。

「なんで?」

キョロキョロとしながらホテルのフロントへと向かい、

そして、挙動不審な俺を怪訝そうに眺めているフロントマンに向かって、

「あの…

 xxx号室に宿泊している○○さんに呼ばれたのですが…」

と尋ねた途端、

フロントマンの表情は変わり、

「○○さんの関係の方でいらっしゃいましたか。

 失礼をいたしました。

 そっそれでしたら、

 2番のエレベータにお乗りください。

 xxx号室は20階になります」

とフロントマンは緊張の面持ちでホール向こうのエレベータを指してみせる。

「はぁ…」

はっきり言って場違いな服装で来てしまったことを後悔しながらも、

俺は指示されたエレベータに乗り20のボタンを押した。

クンッ

エレベータは静かに動き始め、

そして、停止すると、

音の無い廊下が俺の前に広がった。

「はぁぁぁ

 なんか凄いな」

感心をしながら俺は一歩前に踏み出した途端。

スッ!

廊下の影からいきなり黒スーツ姿の男達が姿を見せると、

「君の名前と目的は…」

落ち付いた口調で尋ねながらも

男達は手際よく俺のボディチェックをはじめる。

「ひっ、

 あっあの潮兄貴…じゃなかった。

 ××組の者ですが、

 こちらで荷物を受け取るようにと指示されたものでして」

と俺は両手を挙げながら返事をする。

すると、

「大丈夫です」

ボディチェックを終えた男達は

俺の体から持ち出した財布やパスポートを持って、

奥にいるリーダー格の男に結果を告げる。

「ふむ、

 話のあった”使い”か。

 よし、通させろ」

俺の氏名を確認したリーダー格の男はそう指示をすると、

「君には悪いが、

 これらの物は終わるまでこちらで預かります」

と言い、俺の財布等が男たちが持ってきたトレーに置かれた。

そして、

スッ…

瞬く間に男達が姿を消してしまうと、

「お待たせいたしました。

 どうぞ、お入りください」

とまるで初対面の如く残ったリーダー格の男は俺に頭を下げるや、

廊下の奥にある閉じられていたドアを開いてみせる。

「はぁ…」

招かれるまま俺はドアの中へと入ると、

「うわっ!」

思わず声をあげそうになるが、

スグに口を塞き、

目だけをキョロキョロと動かしてみせる。

このホテルの最上階にある高級スィートルームと思えしき部屋は

南国の野性味あふれる王宮のような佇まいに改装されていて、

その中心に敷かれた大型のケモノの皮の上に

南国の王様風の衣装を身に纏った男性が胡坐をかき、

その男性の周囲には褐色肌の女性2人が乳房を露にして、

側女のごとく男性に尽くしている様子が目に入る。



「あっあの…

 その、

 荷物を受け取って来いと…」

男性のまるで突き刺さるような視線に本能的に怯えながら

俺はこの場に来た理由を話すと、

クィッ

胡坐をかく男性は無言のまま顎を動かす。

すると、

「いやっ、

 やめて!」

突然女性の悲鳴が響き渡ると、

「おらっ!、

 さっさとこっちに来るんだ」

の声と共に和服姿の若い女が黒スーツの男達と共に姿を見せ、

俺の前に引っ張り出された。

「え?

 なっなんですか?」

野性味あふれる王様姿の男性と和服姿の女性、

あまりにもチグハグな組み合わせに

俺は目を丸くしながら尋ねると、

「君に引き取ってもらいたいもの…

 いや、君の組に引き取ってもらいたいのはこの女だ」

と男性は褐色の女性たちが差し出したキセルを咥え、

紫煙を立ち上らせながら俺に言う。

「こっこの女の人ですか?」

その言葉に俺は驚いて聞き返すと、

「ぼうや、

 この女はねぇ、

 旦那様に多大な恩義がありながら、

 旦那様をだました極悪人。

 海よりも広い心のわたしでも、

 とても許せる話ではないの」

「判るでしょう。

 信じていたのに裏切られことって、

 とても悲しいこと、

 恩を仇で返すなんて、

 堪忍袋の緒が切れてしまうわよね」

と褐色の女たちは俺に事情を説明する。

その途端、

「おっお願いです。

 見限らないで下さい。

 わっわたくしは旦那様のために…」

突然、周囲の男達を突き飛ばして

和服姿の女性はそう訴えながら

胡坐をかく男性に縋ろうとすると、

サッ

男性の周囲に居た褐色の女たちはすばやく動き、

瞬く間に和服の女性を踏み伏せてしまうと、

「旦那様、

 この女は未だ反省していない様子」

「さっさと心臓を抉り出して、

 ワニの餌にしたほうがよろしいのでは」

と男性に話しかける。

すると、

「海っ、

 華っ、

 そいつはもぅ何も出来ない。

 放してやれ」

男性は褐色の女性達にむかって指示をする。

そして、

「志乃っ

 わたしは君を見込んで店を持たせ、

 美人ママの名声をほしいままにさせてきた。

 だけど君がわたしに黙って行っていた株投資のせいで

 わたしは大損をしてしまったのだよ。

 さすがにこれには堪えた。

 残念だけどもぅ君との関係はおしまいだ」

と和服の女性・志乃に向かって優しく声をかけると、

「旦那様っ!」

志乃は涙を流しながら訴える。

すると男性は俺に視線を向け、

「本来なら我々の手でこの女の処分を行うのだが、

 それだけではわたしの気持ちが治まらない。

 君の組には色々目をかけてきたし、

 それに面白い知り合いがいると聞いた。

 わたしが笑って楽しめるよう、

 ひとつ余興をお願いするよ」

と言うと、

ガシャリ!

黒スーツの男達によって志乃の右腕に手錠が掛けられ、

「さぁ立て!」

と強引に抱き起こされる。

そして、俺の傍に寄ると、

ガシャリ!

と今度は俺の左腕に志乃の手錠が掛けられたのであった。

「これは…」

手錠によって志乃と離れることが出来なくなった俺は驚くと、

「まことに申し訳ありません。

 この女が逃げられなくするためです。

 手続きは全て終わっていますので」

黒スーツの男は冷静な口調で俺に説明をする。

そして、男達と共に手錠でつながれたまま

俺と志乃は廊下に出されてしまうと、

「お願いです、

 あたしを見限らないでぇ!」

と懇願する志乃と共に俺はエレベータに入れられたのであった。



「うわぁぁぁ!!

 旦那様ぁぁ!!」

「いや、あの

 ちょっと、

 そんなに泣かないで」

周り気にせずに泣き叫ぶ志乃の姿になす術も無く困惑していると、

ポケットに入っていたケータイが鳴った。

「あっ、潮兄貴」

俺は電話番号から潮兄貴からの電話であることにホッとすると同時に

これまでの事情を早口で話し始めると、

「バカ野郎!

 もぅ空港にいつものだと思ったらまだそこに居るのか、

 荷物を受け取ったらさっさと空港に行かないか!

 飛行機の時間まで無いだろうが!」

と兄貴は俺を叱り飛ばした。

「空港って!」

「もたもたしてないでさっさと行け!」

まるで兄貴に尻を叩かれるようにして

俺は相変わらず泣き崩れる志乃を引きずり、

なんとかタクシーを捕まえると空港に向かって行く、

すると、

「お待ちしておりました」

空港ではあの男の手の者が俺たちを待ち構えていて、

「これがお二方の搭乗券とパスポート」

と丁寧な言葉使いで二人分の航空券と

事務所で潮兄貴に取り上げられた俺のパスポート、

そして、もぅ一つのパスポートを差し出した。

「あっあぁ…」

それらを受け取って俺はパラパラと捲ると、

「あれ?」

志乃の名義のパスポートに書かれている名前が

王様風の男性が言っていた名前と違うことに気づき、

改めて男を見ると、

「なにか?」

男は笑みを浮かべながら問い尋ねる。

「ハッ

 いや、なんでもないです」

男に向かって俺はそう返事をしながら、

パスポートを受け取った。

すると、

「着いた早々ではありますが、

 出発のお時間です、お急ぎを」

俺の耳元で男は囁き、

「向こうではあなた様の組の方がお待ちしています。

 そこで合流してください」

と告げた。



「まさか、本当にアフリカに着てしまうだなんて」

カッと真上から太陽が照りつけるアフリカの某国の某空港。

色々な肌の色の人たちが行きかう空港ロビーで

俺は相変わらず手錠でつながったままの志乃を連れてキョロキョロしていると、

「おいっ!」

っと日本にいるはずの潮兄貴の声が響く。

「え?」

その声に俺は驚くと、

「どこを見てやがるんだ、

 バカヤロウ!

 こっちだ」

と再び兄貴の声が響き、

人ごみの中から紛れも無い潮兄貴が姿を見せた。

「うわっ、
 
 いつの間に来てたんですか?」

まるでドラえもんのどこでもドアで先回りしていたかのように

登場してきた兄貴の姿を見て俺は飛び上がると、

「バカヤロウ、

 お前の飛行機がノンビリと大回りしている間に先回りしたんだよ」

と兄貴は説明をする。

確かに俺たちが搭乗した飛行機は直接アフリカには行かずに、

ぐるりとアチコチ回って来たけど、

まさか、兄貴が先回りしていたとは思っても見なかった。

そして、驚いたままの俺を押しのけて兄貴は志乃を見ると、

「よう、志乃さん。

 いや、今は違う名前か、

 いつぞやはすばらしい接待をしていただきありがとうございました」

と丁寧に挨拶をするが、

しかし、志乃は無言で兄貴を睨みつけると、

「色々あったかもしれませんが、

 旦那様に感謝してください。

 本来でしたらあなたは心臓を抉り出されて、

 ワニの餌にされたのですから」

と警告をする。

「あの、ところでこれからどうするんですか?」

潮兄貴に向かって俺は手錠を見せつつ今後について尋ねると、

「黙って付いて来い」

と俺に向かってそう指示し、

俺は志乃を引き連れながらロビーを抜け、

潮兄貴と共にタクシーに乗車した。



連れてこられたのは空港から離れた病院だった。

「病院?」

薄汚れた病院の建物を見上げながら俺は立ち止まると、

「何をしている、

 さっさと入れ!」

と兄貴の怒鳴り声が響き、

その声に従って病院へと入ると、

「随分と遅かったですね」

の声と共に白衣姿の日本人ドクターが俺たちを出迎えた。

「いやぁ、

 毎度のことですが飛行機が遅れてしまってね」

ドクターに向かって兄貴は笑ってみせると、

「この方ですか」

身を乗り出して俺が連れてきた志乃を見る。

すると、

「あぁ、そうだ。

 本来なら即座に処分するところを旦那様の気まぐれが起きてな。

 自分がしてきた事がどれだけ大きなことか、

 判らせて欲しい。ということで君の力をカを借りることになった。

 まぁ一つ頼むよ、ドクター」

と兄貴はドクターに向かって話すと、

ツカツカツカ、

いつの間にか俺たちの回りに現地人の看護婦が固めるように集まってくる。

「えぇっと…」

真っ黒肌の看護婦たちに囲まれて俺は困惑していると、

看護婦達に向かってドクターは何かを合図をした。

すると、

カチャリ…

俺と志乃を繋いでいた手錠を外れ、

「あっ、

 やめて!

 いや、

 助けて!」

その声を残して志乃は看護婦達によって連れ去られてしまった。

「患者は確かに預かりました。

 最初この話を聞いたときは眉をひそめましたが、

 でも、実際にこうして会って見みてとても創作意欲が湧きましたよ。

 くくっ、美しい女性の変貌。

 くくっ、実に楽しいことです。

 いやぁ、旦那様の想像力には脱帽します」

ドクターは小さく笑いながらそう囁くと、

「一ヵ月後にまたいらして下さい。

 それまでに仕事は終えておきますので」

と俺達に向かってドクターは告げたのであった。



「あっあの、

 一体、志乃さん、

 いや、彼女になにをされるのですか?」

病院から出た途端、

俺は潮兄貴に状況を尋ねると、

「あのドクターはな凄腕の整形外科医でな、

 あははっ、

 ちょっと色々やりすぎて日本に入られなくなったのよ。

 だけど、そのまま捨て置くにはもったいないということで、

 俺たちが面倒を見ているのよ、

 なぁに、あの男の手に掛かればどんな奴でもどんな姿に自由自在よ」

と兄貴は紫煙を昇らせながら俺に説明をする。

「どんな姿に自由自在って…」

その言葉を聞いた俺は思わず背筋を寒くすると、

「一ヵ月後が楽しみだな」

潮兄貴はそういい残して自分は日本へ帰り、

一方俺にはここに連絡役として居残りを命じたのであった。

こうして観光にも自由に遊びにもいけない退屈な一ヶ月が過ぎ、

「おうっ、

 留守居役ご苦労さん」

再び潮兄貴がこの国の空港に姿を見せると、

俺たちはあの病院へと向かっていったのであった。




「やぁ、

 お待ちしてましたよ」

一ヶ月前と変わらない姿でドクターは俺たちを出迎えると、

「おう、

 今回は世話になったな」

サファリカーで病院に乗りつけた潮兄貴は

相変わらずの態度でドクターをねぎらう。

「では、早速お見せいたしましょう、

 僕の傑作を。

 さぁこちらです」

という言葉共にドクターは俺たちを病室へと連れて行く。

古びれた病室が続く廊下を歩き、

やがてとある部屋の前に立ち止まると、

「どうぞ」

の言葉と共にそのドアを開けた。

すると、

「おいっ、

 お前が先に行け」

と兄貴は俺の背中をつつくと、

「はっはい」

俺は言われるままに中へと入って行った。

病室の中は薄暗く、

獣のような匂いが鼻を突いてくる。

「臭ぁぁ…」

この国に一ヶ月滞在して、

ある程度の匂いには絶えられるはずだが、

しかし、病室に立ち込める匂いは段違いだった。

この中に志乃さんはいるのか?

そう思いながら俺は中を見回していると、

主の無いベットが並ぶ中でただ一つ、

壁際のベッドに毛布にくるまれた何がが居るのが見えてきた。

「しっ志乃さん?」

毛布の塊に向かって俺は恐る恐る声をかけると、

ビクッ!

俺の声に反応するかのように大きく動いた。

そして、

もぞっ

毛布の中から右腕と思えしき黒い腕が伸びると、

「…で、

 …こないで」

の声と共に白く開いた手のひらが左右に動いて見せる。



「こっ声が」

腕の色よりも志乃さんとは思えない野太い声に俺は驚くと、

「声帯を弄らせてもらいました。

 あんなに甲高い声ではいけませんので」

とドクターは説明する。

「声帯を…?

 いったいどういう事をしたのですか」

俺は聞き返すと、

ズイッ

兄貴が俺の前に出るなり、

毛布に向かって歩み寄っていく、

そして、

「おいっ、

 観念しろ!」

の声と共に、

バッ!

毛布が一気に剥ぎ取られると、

薄暗かった病室に一気に外の光が入ってくる。

ドクターが閉じられていた窓のブラインドを開けたのだ。

そして俺はベッドの上で毛布を剥ぎ取られ、

震えている人物の姿をハッキリと見ることが出来た。

だが、

「うわぁぁぁ!」

大声をあげて腰を抜かしてしまうと、

「おーっ、

 確かにこれは凄いものだなぁ」

驚く俺とは対照的に

兄貴はその人物の姿を見て感嘆の声をあげる。

「いやぁ、

 弄りがいがありましたよぉ」

そんな俺達を見ながらドクターは笑ってみせると、

「ほっ本当に

 しっ志乃さんなんですか?」

ドクターに尋ねた。

「あぁ、本当だよ。

 僕が腕によりをかけて整形をした」

俺の質問に胸を張ってドクターは答えると、

「そんなぁ」

その言葉に俺は驚き、

そして、改めて志乃さんを見た。



「こっこれがあの志乃さん?」

驚く俺の声が聞こえたのか、

「クッ」

志乃さんの厚い唇が口惜しそうにゆがみ、

視線は下を向く、

全身を覆う黒く光る漆黒の肌。

横に広がり盛り上がる胸板。

見事に割れている腹筋。

体脂肪がそぎ落とされ発達した筋肉の筋が浮き上がる手足。

突き出した眼窩。

厚く捲れ上がる唇。

短く借り上げられた頭。

どこから見ても美人ママと呼ばれた志乃さんの面影などは無く、

一見するとこの国にどこにでも居る男性にしか見せなかった。

「信じられない。

 あの志乃さんがこんな姿になってしまうだなんて…」

和服が似合う美人ママの変貌ぶりに俺は目を丸くしていると、

「くくっ、

 如何ですかな?

 未承認の男性ホルモン剤を投与して筋肉の早期発達を促し、

 肌は色素の増殖作用をもたらす薬をたっぷりと注射、

 顔は腕によりをかけて整形し、

 胸はご覧の通り乳房の組織を切除し、

 筋肉組織を盛り上げる、

 それでも足りない部分は下駄代わりのジェルを注ぎ込んだ。

 だけど、さすがに骨格だけは弄れませんが、

 一応、骨格成長促進剤を埋め込んでおきましたので、

 背丈についてはゆっくりと変っていきます」

とドクターは志乃さんの整形点を説明をする。

「なるほど」

その説明に潮兄貴は感心しながら頷くと、

「で、股はどうなっている?」

そう質問をすると、

「良い質問です」

ドクターの顔が笑みで歪み、

俺達に向いていた視線を志乃さんに向け、

「さぁ、お迎えの方が見えられたんです。

 もぅそのようなものを穿いてなくていいでしょう」

といまの志乃さんが唯一身に着けている衣装、

女性モノの下着を指摘すると、

「こっこれだけは許して」

大きく膨らんでいる下着を黒い手で隠した。

「うわっ

 股があんなに膨らんで…

 ってまさか」

それを見た俺はさらに驚くと、

「ちゃんとペニスも作ってあるよ」

ドクターはそう説明しながら下着に手を掛ると、

無理やり引きおろしはじめた。

「やめてぇ」

野太い声が響くが、健闘むなしく。

ブンッ

下着が剥ぎ取られ、

俺のよりも一回りも二回りも大きな黒いペニスがそそり立ってしまうと。

「ほぉ、デカイな。

 ちゃんと勃つのか?」

直立するペニスを眺めながら潮兄貴は尋ねる。

「もちろん」

その質問にドクターは答え、

看護婦達に顎で指図をすると、

コクリ

2人の看護婦がうなづき、

志乃さんに近づくと、

「○△◇」

その耳元で何かを囁く。

そして、

「いやっ!」

悲鳴を上げる志乃さんを一人が背後から羽交い絞めにすると、

もう一人がその股間に跪き、

シュッシュッ

シュッシュッ

志乃さんのペニスをしごき始めた。

シュッシュッ

シュッシュッ

「やめっ

 いや、

 離して」

最初のうちは体を捩って抵抗していた志乃さんだったが

「うっ

 あっ

 うぐっ

 あぁぁぁん」

看護婦の手の動きに感じてしまったのか、

顎を上げて喘ぎ始める。

そして、

「うわぁぁぁぁ!!!」

突然悲鳴に似た声をあげてしまうと、

ビクンッ!

プシュッ!

シュシュシュシュッ!

志乃さんは腰を細かく痙攣させながら

白い粘液を吹き上げてしまったのだ。

「あぐぅぅぅぅ」

「すげーっ」

なおも射精を続ける志乃さんの姿に俺は只驚くと、

「本物の精液ではないけどね。

 でも、睾丸にそれに近いモノを生み出す生体組織を埋め込んである。

 ペニスを勃起させ、射精をする。

 誰が見ても立派な男です」

とドクターは俺達に告げ、

「身体の中も弄ってあります。

 熱射にも強くしてありますし、

 伝染病にも抵抗力をつけました。

 このままサバンナに放り出しても、

 すぐに死ぬことはありませんよ」

志乃さんがこの国の環境でも十分生きてゆけることを説明する。

すると、

「うぅ…」

それを聞いていた志乃さんがその場に蹲ってしまうと、

「うわぁぁぁん!」

野太い声をあげながら大声で泣き出してしまったのであった。

あの高級和服を身に纏い清楚なイメージだった女が、

たったひと月の間に黒い肌を輝かせ、

ペニスから精液を吹き上げる野生の男に…

あまりにもののギャップに俺は驚くのと同時に股間を硬くしていたのであった。

「なるほどな、

 確かに神の手がなせる業…だな。

 よーし、

 これなら大丈夫だろう」

兄貴は満足そうに頷き、

泣き崩れる志乃さんの肩を叩いて見せる。

そして、

「退院だ、ドクター

 今からマサイの村に行くぞ、

 長老には話を通してある」

俺に向かって兄貴は声を上げると、

「じゃぁ、こいつは連れて行くからな」

とドクターに言う。

「どうぞ、ご自由に…

 またのご利用をお待ちしております」

ドクターは事務的な台詞で退院の許可を出すと、

俺は看護婦と共にベッドの上で抵抗する志乃さんを

無理やり病室から引きずり出すと、

何も着せないまま乗ってきたサファリカーへと押し込んだ。

そして、そのままクルマを発進させると、

野生動物が闊歩するサバンナへと向かっていく。



サファリカーのエンジンが一段とうなり声を上げて、

荒れた道を一気に上っていくと、

俺達の目の前に土で出来た村が姿を見せる。

マサイ村だ。

「ふぅやっと着いたな、

 おいっ、

 お前もさっさと下りろ」

真っ先にクルマから兄貴が下りると、

そう言いながら志乃さんの腕を引っ張り、

「あぁ」

全裸のまま志乃さんはクルマから降ろされた。

「あっ熱い

 熱い、

 熱い」

素足のまま熱く焼けた地面に足を下ろされた志乃さんは悲鳴を上げながら、

飛び上がる仕草をして見せると、

ピョンピョンとジャンプを始める。

しかし、

「ほぉ、

 たいした筋力だ」

そんな姿を見た兄貴は褒めると、

確かに…

志乃さんが見せているジャンプ・垂直とびは

バレーボール選手でも敵わない高さであった。

「すげー」

自信満々のドクターの思い出しながら、

クルマから下りた俺は志乃さんを見ていると、

マサイ村より朱に染めた衣装に身を包んだ男達が槍を携えて次々と出てきた。

そして、

「熱い、

 熱い」

と熱さから逃げようとして飛んでいる志乃さんの姿をしばらく眺めた後、

その周りを囲むと、

次々と同じような垂直とびをはじめだした。

「見ろよ、

 早速、連中に仲間だと認められた見たいだぞ」

その姿を兄貴は笑いながら指差すと、

同じ姿をした老人が俺達に近寄ってくると話しかけてきた。



兄貴は老人の方を見るなり、

「○××△△」

と彼らの言葉で何か話し始める。

「兄貴って…すごい」

日本から遠く離れた現地人とサシで話が出来る潮兄貴の姿を、

俺は尊敬の目で見ていると、

「おいっ、

 早速、あいつの入族の儀式を始めるそうだ。

 さっさと連れて来い」

と俺に指示をした。



マサイ村の真ん中にある広場、

そこに敷かれた牛の毛皮の上に全裸の志乃さんが座らされると、

不安げに周囲を見回しはじめる。

そんな志乃さんの前に兄貴は腰を下ろすと、

「なぁ、旦那様はあなたのことを大切に思っていたんだよ。

 だけど、

 あなたはそんな旦那様の心を手玉に取り踏みにじってしまった。

 あなたにとってはあそこで殺してもらえたら

 どんなに意味楽だっただろう。

 だけど、旦那様は命を取らないかわりに

 もっとも残酷な罰をあなたに課したんだよ。

 美人ママとしての美貌と女性としての肉体を取り上げ、

 見ての通り、真っ黒な肌の野生男に整形し、

 さらに裸に槍一本で生き抜く野生男の達・マサイの一員として、

 このサバンナを生き抜かせる。

 判るか、ここではな、

 人間は知恵の力で動物の頂点に立っている。

 だけど、知恵の力の使い方を間違えた途端、

 強い動物の餌だ。

 生きていくこと、

 ただそれだけのために皆は必死だ。

 ふふっ、旦那様が下したあなたへの罰はな、

 裸に槍一本で獰猛な野生動物と生存競争をすることなんだよ。

 努力にもかかわらず野生動物に喰われてしまえばそれでお仕舞い。

 だが、ここの連中は皆それをして生き残っている。

 あのドクターがあなたの体を弄って、

 ここの連中と同じ力を与えてくれている。

 まぁがんばる事だな。

 それにしても、

 こんなことを可能にしたあの先生の腕も去ることながら、

 そのこと自体を思いついた旦那様の…想像力には脱帽するがな」

と兄貴は志乃さんを諭すと、

兄貴と入れ替わってさっきの老人、

いやマサイの長が座り、

志乃さんの顔を上げさせる。

そして、志乃さんの体の隅々を眺め、

さらに筋肉のつき方を手で触って確認する仕草をしたのち

「△△○◇…」

と呪文のような言葉を投げかけると、

志乃さんの股間に手を差し込み、

シュッシュッ

シュッシュッ

と志乃さんのイチモツをしごき始めた。

「あっ

 だっだめっ」

たちどころに志乃さんは身を捩り、

息を荒くすると、

グンッ

その股間から勢い良くペニスが勃起する。

「◇◇○っ!」

それを見た長は大きくうなづくと、

ベッ

ペッ

と志乃さんの顔に向けてつばを飛ばした。

「うわっ、

 きたねーっ」

俺はついその言葉を発してしまうと、

「あれがマサイの挨拶だ。

 志乃は合格したようだな」

と兄貴は頷く。

この後、志乃さんはマサイの長の手によって、

体に牛乳をかけられ、

長が手にした短剣で体中の毛をそり落とされてしまうと、

朱染めの衣と皮草履が与えられた。

しかし、儀式はそこで終わりではなく、

続いて、志乃さんを一人前のマサイとして認める儀式、

そう志乃さんの股間に生やされたペニスの皮の切除を行う、  

割礼の儀式が始まった。

「うぐぅ」

口に木の枝を横に噛まされ、

両腕を後ろに廻された志乃さんが、

長に向かって股を開かされる。

「これを受けないと、

 一人前のマサイとして認めてくれないからな」

その様子を見て兄貴は呟くけど、

ゴクリ

俺は生唾を飲み込むのが精一杯だった。

そして、

ブッ

長く伸ばされたペニス皮に剣先が刺さると、

血を滴らせながら切り裂かれていく。

「お前もしてもらうか?

 チンポ、ズル剥けになって男が上がるぞ」

声を失っている俺に向かって兄貴は囁くが、

「けっ結構です」

そう答えるのが精一杯だった、

けどその場から逃れることが出来ない志乃さんは

「ふぐぅぅ」

坊主にされた頭を幾度も振り、

苦痛に顔をゆがめながら、

股間を血だらけにしていく。

「これで、志乃さんは一人前のマサイか、

 もぅ元には戻れないな。

 はぁ、志乃さんとはもぅ一度寝たかったな」

割礼されていく志乃さんを見ながら、

兄貴はかつて志乃さんより受けた”接待”を思い出している様子だった。



すべての儀式が終わり、

赤土で志乃さんの体が彩られると、

志乃さんには”オレ・ンベベシノ”と言う舌を噛みそうな名前と、

一振りの槍が渡された。

「まぁ、頑張れよ。

 生き残れば何とかなるって、

 ンベベシノさんよ」

儀式で体力を使い果たし、

ぐったりと倒れこんでしまった志乃さん、

いや、オレ・ンベベシノの黒い肩を叩くと、

兄貴は腰を上げた。

そして、

「さて、行くか」

すべてが終わったことを見届けた兄貴は俺に指図すると、

俺と兄貴はサファリカーに乗り、

マサイ村から離れていく、

「………」

クルマのハンドルの握る俺は無言であったが、

程なくして前方に牛の群れを見つけるとブレーキに足を乗せた。

ンモー

モー

牛の群れはサバンナを貫く赤茶けた道を横切り、

その群れと共に朱染めの布から黒い肌を覗かせるマサイ達が歩いていく。

「彼らみたいになるんですね。

 志乃さん」

マサイ達を眺めながら俺はそう呟くと、

「まぁな、

 チビなマサイになるだろうが」

と兄貴は言う。

「上手くやっていけますかね」

「どうだかな、

 なぁ、知っているか。

 マサイ達がどうやって結束しているか。

 それはな、やつらには厳しい上下関係があるんだよ。

 下のものは上の命令には絶対服従。

 まぁ、俺たちもそうだが、

 地球どこに行ってもこれはあるみたいだな。

 ははは…

 でな、上下関係を知らしめる方法もまた似たようなものでな、

 新米となったマサイは上の奴からたっぷりとケツにチンポをぶち込まれるそうだ。

 それによって自分の立ち位置を思い知らされるのよ。

 志乃もこれからケツにチンポいっぱいぶっ挿されて、

 自分の立ち位置を教えられるだろう。

 大方、一番下っ端の牛の世話役だろうけどな」

と兄貴は笑いながら言う。



それ以降、

俺は志乃と呼ばれた元美人ママがどのように生き抜いていったのかは知らない。

ただ、それから数年後、

兄貴に連れて行ってもらった店で、

志乃さんと再会したのであった。

数年ぶりにあった志乃さんは…

体中に無数の傷を持つ筋肉隆々の野性味あふれる姿に変貌して

数年前まで、日本人の美人ママだったとはとても思えなかった。

そして、何よりも驚かされたのは、

志乃さんがこの店のオーナーであり、

彼が見せる野生味あふれるショーは大当たり、

この店のウリになっていたことだった。

無論、彼の収入は美人ママだった頃よりも数段に増し、

背負っていた借金はすでに完済。

捨てられたはずの旦那様から再び目を掛けられる存在になっているとか…

「だから、言ったろ、

 生き残れば何とかなるって…」

生き生きとショーに舞台に立つ志乃さんを眺めながら

兄貴は満足そうに言うと、

「ねぇ、兄貴。

 俺にも店を持たせてくれませんかね。

 志乃さんと一緒にアフリカに行ったんですけど」

と俺は兄貴の耳元で囁やいた。

すると、

「なら、

 あのドクターにお願いして整形してもらうんだな」

俺を横目で見ながら兄貴はそういうと、

「そしてマサイ村でちゃんと割礼してもらうんだぞ、

 無論そこでマサイになってもらうけどな」

と付け加える。

「えっと、結構っすっ」

そう答えるのが精一杯の俺だった。



おわり