風祭文庫・モラン変身の館






「姉妹」
(第2話:儀式)


作・風祭玲

Vol.394





マサイの呪術師(シャーマン)に施された肉体をマサイへと変身させてしまう秘術によって

奈津美の身体は逞しいマサイ男性の肉体へと変身させられ、

その姉の変身をまざまざと見せ付けられ取り乱してしまった久美とともに

奈津美はマサイの村はずれにある小屋へと監禁されてしまった。

そして、二人にとってまさに悪夢といってもいい一夜がようやく明けたのだが、

しかしそんな二人を待っていたのは…



「いやぁ!!

 放して!!」

泣き叫びながら奈津美はペニスを剥き出しにした全裸の状態で村の中を引きづられていく、

すると、

『○○○○!!』

そんな奈津美を叱り飛ばすように先頭を行くマサイが怒鳴り声を上げた。

「ひっ」

その声に驚いた奈津美は思わず口をつぐむと、

奈津美は村の広場へと引き出された。

「なっなに?」

奈津美が着いた広場はまるでこれから儀式が執り行われるらしく、

その中心には毛並みのいい牛皮が敷かれ、

そして、その牛皮を取り囲むように村の長を初めとした老人達が陣取り、

その周囲には厳つい表情の戦士=モラン達が固めいっせいに奈津美を振り向いた。

「うっ(また何か始まるの?)」

奈津美がマサイに変身させられた昨夜の儀式とは明らかに違うが、

しかし、何かの儀式を予感させるそのたたずまいに奈津美は思わず声が詰まると、

グィッ

奈津美の肩を抑えていたマサイの手が彼女を突き出した。

「あっ」

その力に押されて奈津美が一歩、また一歩と牛皮へと近づいていく、

そして、牛皮の上に進み出たところで、

『○○○!!』

奈津美と面等向かう位置に居る村の長が声を上げると、

ドン!!

奈津美はその場所に強制的に座らされた。

「うっ」

足を放り出す形で座らされた奈津美が恐る恐る顔をあげると、

『○○○!!』

周りを取り囲むモランたちが一斉に叫び声を上げながら、

リズムを取り、

そして奈津美の退路を塞ぐかのようにその周囲を固めた。

逃げられない…

その達の様子に奈津美がそう思うと、

『○○○!!』

長が再び声を上げる。

そのとき、

周囲を固めるマサイの戦士=モランたちの間から

朱染めの衣・シュカを靡かせた勇ましい様相のマサイが進み出てきた。

「え?

 この人…夢の中に出ていた」

奈津美は自分の前に進み出たマサイが夢の中に出てくるマサイとそっくりなことに驚いていると、

彼も奈津美を見るなり、すこし驚くとじっと奈津美を見つめる。

「なっなに?」

何か物言いたそうなその表情に奈津美が困惑すると、

マサイは奈津美の背後に回り、

そして、

『○○○…

 ○○○○…
 
 ○○○』

と話しかけてきた。

「え?

 ツン?

 弟?
 
 何のこと?」

マサイが話しかけてきたその言葉から聞き取れた意味を求めて奈津美は振り返ると、

コクリ…

彼女の背後に立つモランは大きく頷き、

そして、ゆっくりと未だ変身する前の奈津美の姿を残している髪に手を触れ、

『○○○○』

と話しかける。

『え?

 あたしの…髪を?
 
 止めて」

その声に驚いた奈津美は思わず自分の手でマサイが握るその髪を振り払うと、

『○○○!!』

長のキツイ声が響き渡った。

ヒッ!!

その声に思わず奈津美が萎縮すると、

『○○○、○○○…』

そのモランは奈津美の再び髪を手にとり、

そして口調柔らかく奈津美に話しかけると、

長から手渡された器をゆっくりと奈津美の頭の上に持ってくるなり

その中に入っているものを奈津美の頭に掛け始めた。

うっ

バシャバシャバシャ…

奈津美の頭に掛けられたのは紛れも無い牛の乳だった。

「牛乳?」

周囲に立ち上る牛乳の香りに奈津美が驚くと、

『○○○』

再びモランは奈津美に話しかけ、

ヒタッ

手にしていた短剣を奈津美の頭に当てる。

「いやっ」

その感覚に奈津美は反射的に叫び、立ち上がろうとするが、

グッ

奈津美の身体はすでにほかのモランたちによって拘束され

体を動かすことすら出来なかった。

「止めて

 止めて
 
 止めて!!」
 
身体を拘束されながらも奈津美がそう叫ぶが、

ズッ!!

無常にも奈津美の頭に当てられた短剣がゆっくりと動き始めた。

ゾゾゾゾ…

ゾゾゾゾ…

まるで奈津美の髪を食べていくようなその音に、

奈津美の身体は硬くなり、

そして、目から涙があふれ始める。

「あたしの髪を剃っている…

 いやぁぁぁ!!
 
 やめてぇ!!」

ゆっくりと広がっていく冷たさに奈津美は自分の髪が剃られていることに

思いっきり泣き叫んだが、

『○○○!!』

それを見ていた老人の一人がモランの手を止めると、

奈津美を指差し、

そして叱るかのように叫び声をあげると、

パシッ!!

っと奈津美の頬が叩かれた。

「………」

頬の痛みに奈津美は思わず放心状態になる。

すると、その隙を突くかのように、

ゾゾゾゾ…

ゾゾゾゾ…

再び短剣が動き始め、

奈津美の剃髪は進んでいった。

こうして、黒く長い髪が消えた後には褐色色の頭皮が頭を覆いつくし、

ついに奈津美は女の子だった時の面影を残していた髪を失ってしまった。

しかし、それだけでは終わりではなかった。

奈津美を剃髪したモランは改めて牛乳を奈津美の体にかけると

今度は全身の毛を隈なく剃り落としはじめる。

無論、その過程で陰毛もそして眉毛も容赦なく剃り落とされ、

奈津美は体に生える毛という毛、すべてを失ってしまった。

「うっうっうっ

 無いっ
 
 無いよぉ
 
 あたしの髪が無いよぉ」

一旦、拘束を解かれた奈津美はツルツルに髪を剃り落とされた頭を幾度も撫で、

そして泣き叫ぶ。

すると、

『○○○○…』

機をうかがっていた長が奈津美に話しかけてきた。

その声を合図するかのように

モッ!!

マサイたちの向こう側からウシの叫び声が上がると、

程なくして奈津美の開いている足の間に前に真っ赤な液体が注ぎ込まれた器が置かれた。

「………血?

 まさかウシの血?」

奈津美は一目見て器の中の液体がウシの血液であることに気づくと

さっき奈津美の髪を剃り落としたモランが彼女の正面に回り、

そして、

『○○○』

と話しかけながらその器を手に取った。

「なっ何を…」

モランの行動が予測できない奈津美はじっと彼の一挙一動に注目していると、

『○○○!?』

モランは奈津美に何かをたずねた。

「え?

 戦士になる?

 それって、どういうこと?」

モランの言葉の意味を理解できた奈津美が逆に聞き返すが、

『○○○!?』

モランは同じ言葉を再度たずねた。

「そんなこと…出来るわけ…」

奈津美は困惑するが、

しかし、この場の逃げ出すことが出来ない状況では

どうすることも出来なく、そのまま頷くそぶりを見せた。

すると、

『○○○!!』

モランは奈津美を指差し声を上げると、

『○○○!!』

『○○○!!』

それにあわせて周囲を固めていたモランたちが一斉に声を上げ、

そして、リズムを取りながら歓声をあげはじめた。

「うっ!!」

その様子に奈津美は自分が取った行動に問題があったのかと瞬時に後悔したが、

しかし、モラン達の歓声はなかなか収まららず、

それを収めたのは

『○○○!!!』

と長が張り上げた声だった。

さっきまでの喧騒とは打って変わって広場には静寂が支配する。

「なんなの?」

雰囲気の打って変わりように奈津美が困惑すると、

『○○○っ』

彼女の前に屈んだモランは奈津美に向かって話し掛けながら

髪を剃り落とした短剣とは違う別の短剣と取り出すと、

血が注ぎ込まれている器にそれを浸した。

そして、奈津美は何も言わずにただ彼の行為を眺めていると、

『○ッ』

じっと様子を見守ってきていた長が合図を送った途端、

グッ!!

奈津美を肩と両腕、そして両足が再び拘束された。

「やめて、

 これから何をするの?」

マサイ達の手に力がこもることを感じた奈津美はそう叫ぶが、

しかし、その問いには誰も答えなかった。

そして、シンと静まり返る周囲の雰囲気に奈津美が恐怖感を感じたとき、

モランの左手が動くと、

ギュッ!!

っと奈津美のむき出しになっているペニスを掴み、

グイッ!!

っと引き伸ばしはじめた。

「いっ痛い!

 痛い!」

初めて感じるペニスを引き伸ばされる感覚に奈津美は目を瞑り悲鳴を上げるが、

しかし、モランは遠慮なく力いっぱい引き伸ばす。

「痛い…」

引きちぎれるような痛みを我慢しながら

奈津美が薄っすらと目を開け自分の股間を見ると、

そこには膝の近くまで引きのばされた自分のペニスの姿があった。

「うそ…

 おちんちんがこんなに伸びたなんて…」

無論、奈津美のペニスがそこまで長く勃起したわけではなく、

ペニスの周りを取り巻く周囲の皮がそこまで延ばされていたのだった。

すると、

『○○○!!』

モランは声をあげ短剣をかざし、

長く伸びたペニスの皮にその短剣の先を当てる。

「え!!

 ちょちょちょっと!!」
 
モランの行為に奈津美が驚くの同時に、

スッ!!

モランが握る短剣が左右に動いた。

サクッ

「痛ぅ!!」

引き伸ばされた奈津美のペニスの皮に横一文字に白い筋が延びると、

ジワッ

っと血が染み出し筋となって滴り落ちる。

「痛ぁ…っ」

同時に襲ってきた激痛に思わず奈津美は顔を強張らせると、

『○○○!!』

そんな奈津美を戒めるような声が響き渡った。

「痛い

 痛いよぉ」

奈津美は涙を流しながらそう訴えるものの、

しかし、モランはそんな訴えには耳を貸さずに黙々と作業を続けた。

そして、程なくして、

プッ!!

小さな音共に奈津美のペニスの皮が貫通した。

「くっ」

繰り返し襲ってくる痛みに奈津美は再び目を瞑り必死に絶えるが、

けどモランはお構いなしにその傷口を広げていく。

やがてペニスを半周するくらいに傷口が広がったところで、

モランは手を止め、

力を抜くと奈津美のペニスの皮はゆっくりと元の大きさに戻っていく、

そして、ややだれ気味ながら元の大きさに戻ったとき、

モランは自分があけた傷口から指を入れると

皮の中に引っ込んでいる亀頭を引きずり出し、

そして、傷口から亀頭を飛び出させた。

『○○○…』

「うっ」

激痛に翻弄されながらも掛けられたモランの声に奈津美は恐る恐る目を開くと、

そこはペニスに生々しく切り裂かれた傷口とそこから飛び出した亀頭の姿があった。

「こっこれって…」

まるで雄鶏の肉垂を思わせる自分のペニスの姿に奈津美は驚愕すると、

『○○○○!!』

奈津美を取り囲んでいたモランたちが一斉に歓声を上げるが、

それと同時に

「いやぁぁぁぁぁ!」

奈津美の悲鳴が歓声の中に響き渡った。



「ひどいよ、こんなの…」

奈津美が悲鳴を上げてからさらに小一時間が経ち、

ようやく儀式から開放された奈津美は全裸のまま久美が待つ小屋に戻された。

そして、戻ってきた奈津美はその姿に驚く久美に構わずに泣きがら座り込んでしまった。

「お姉ちゃん…」

あまりにも変わり果てた姉のその姿に思わず久美は駆け寄ったが、

しかし、久美の目の前の戻ってきた姉の身体からは血の匂いが立ち上り、

きれいに髪が剃り落とされた坊主頭には呪いの赤土が塗られ、

また、昨夜生えたばかりのペニスには

亀頭から舌の部分の皮膚が真横に切り裂かれ、

血がにじむその切り口からは亀頭が飛び出していた。

「うっ」

あまりにも痛々しい姉の姿に久美は思わず言葉を失うと、

「いやよ…こんなの…」

割礼による傷口を労わるように奈津美はそっと両手で包むと、

『○○○…』

とマサイの言葉を呟いた。

「おっお姉ちゃん、

 今なんていったの?」

姉の口からマサイの言葉が漏れたことに久美が驚くと、

『○○○?』

奈津美はマサイの言葉で聞き返した。

「やめてよ、お姉ちゃん。

 ちゃんと日本語で言って」

『○○?』

「だから、

 ちゃんと」

『○○○○○!!』

「やめて!!」

パシッ

久美はマサイの言葉を言い続ける奈津美の頬を思わず叩いてしまった。

「くっ久美ちゃん?」

叩かれた奈津美は放心した表情で聞き返すと、

「おっお姉ちゃん」

久美はホッとした表情をすると、

まるで泣き崩れるようにして姉にすがると泣き始めた。



「そう…あたし…マサイの言葉をしゃべっていたの…」

久美から事情を聞いた奈津美は妹の頭を撫でながらそう呟く、

「どうしちゃったの?

 お姉ちゃん?」

心配そうに自分を見つめる久美を奈津美はじっと見つめながら

広場で執り行われた儀式のことを思い返した。

ウシの乳で体中の毛を剃られてしまったこと、

ペニスを切られ、その傷口から亀頭を出されたこと、

そしてその後…

昨夜、奈津美の身体をマサイにしてしまった

あの呪術師が再び奈津美の前に姿を見せたことも…

そう、モランの手によってペニスを切られた後、

モラン達の間から昨夜奈津美をマサイにしたあの呪術師が姿を見せた。

「あっお前は!!」

姿を見せた呪術師を指差しながら奈津美が叫ぶと、

「ふふふ…私の名前はシン…

 覚えておくように、

 さて、どうかな?

 マサイの一員となった気持ちは?」

呪術師・シンは自分の名前を告げると奈津美に今の気持ちを尋ねる。

「え?」

奈津美はシンが日本語を喋ったことに驚き、

そして、シンを見据える。

「ほぅ、私がお前達の言葉を喋ったことにそんなに驚いたか?

 なぁに、

 大したことは無い。

 昨日、お前に術を施したときに少し知識を分けてもらった。

 ふふ、

 色々と見せてもらったぞ、

 お前の住んでいるところ、

 お前の両親、仲間、

 そして、お前が好いている者の姿…

 なにもかも…」

奈津美のプライバシーを洗いざらい知っていることをシンが告げると、

「止めて!!!」

奈津美は耳を塞ぎ、坊主頭を左右に振った。

そして、

「ひどい、酷すぎる。

 あたしが何をしたって言うの?

 いきなりここに連れて来られ、

 男にされ、

 そして、こんな身体にされてしまったのよ。

 戻してよ、

 あたしを元の女の子に戻してよ!!」

奈津美はシンの胸倉を掴み上げそう訴えると、

「ふんっ!!」

シンは手にしていた杖で奈津美をあしらうと、

「いつまでもお前にかまっている暇は無い。

 今日はお前のほかに3人を割礼しなければならないのだ」

と告げた。

「割礼?」

「そう、さっきお前が受けたのはお前達の言葉で言う”割礼”と言うものだ。

 マサイの男子は割礼を受け、

 モランになる第一歩を踏み出す。

 割礼を受けたお前はモランへの道を踏み出したのだ。

 もぅ元には戻れない」

そうシンが奈津美に告げると、

『○○○○?』

奈津美の毛を剃り、割礼を施したモランがシンに向かって何かを尋ねた。

すると、

『○○○○○!!』

シンは奈津美を指差してそう答える。

その途端、モランは奈津美を愛しそうに見つめると、

『○○!!』

と叫びながら奈津美に抱きついてきた。

「いやぁぁぁ!!」

突然のことに奈津美は悲鳴をあげてモランを突き飛ばすと、

『○○○!』

モランは呆気に取られる、

『○○○っ』

その様子を見ていたシンはモランに向かって話し掛けると、

『○○○』

『○○○』

モランとシンは再び会話を交わし、

そして、その後やや落胆したようなそぶりを見せながらモランが腰をあげると、

「よいか、

 明日早朝、

 お前はこの者と共に今日割礼を受ける者達と旅に出る。

 この旅はモランになるための試練だ。

 シンバを探し、

 そして、それを倒す。

 シンバを倒した者のみモランになれるのだ」

「そんな勝手な…

 あっあたしは行きません。

 誰がそんな旅に行くものですか」

シンの話に奈津美は厳しい表情をしてそう返事をすると、

「どうしても嫌か?」

とシンは尋ねる。

「当たり前ですっ

 絶対に行きません!!」

「そうか…

 それならお前の妹に行って貰うか」

「え?」

シンの口から出てきた”妹”という言葉に、

奈津美はハッとした。

「久美をどうするの?」

「ん?

 お前がモランにならないというなら、

 あの者が代わりになってもらうしかない」

「うそ、

 まさか、

 久美をあたしと同じ姿にしてしまうと言うの?」

「そうだ」

「止めて!!」

「ならぬ」

「お願いだから久美には手をつけないで」

「ではお前が行くのだな…」

「うっ」

「ふふふふ…

 よいな、お前の妹はわが手中にある。

 私の指示ひとつであの者をどうすることも出来る。

 さぁどうする」

シンは実質上久美を人質にして奈津美に決断を迫った。

「うっ

 くっ」

自分がモランニなるのを拒否をすれば久美がマサイにされる。

その選択を迫られた奈津美はがっくりとうな垂れた。

「そうだ、

 お前はモランとなるのだ。

 さぁ、お前に次の術を施してやろう、

 昨夜の術はお前の肉体を変えるのが目的で見た目はマサイになっても、

 会話などは不自由だからな、

 ふふ、

 さぁこれを施せばお前はここのマサイたちと自由に話すコトが出来るようになる。

 しかし、スグには喋れるようにはならない。

 ゆっくりと、一歩一歩お前はマサイに、そしてモランへとなっていくのだ…」

シンはそう言いながら器に入ったウシの血を奈津美の身体に塗りつけ、

そして模様を描くと、

『○○○○…』

奈津美に呪術を施した。



「あたしがモランになれば、

 久美には危害が及ばないかもしれない…」

奈津美は久美を見つめながらそう思うと、

「ごめん久美ちゃん、

 じつはあたし、

 シンに…

 あの呪術者・シンに新たな呪いを掛けられたの」

と久美に広場で行われた儀式のことを話し始めた。

シンが久美のことを人質にとっていることには触れずに…



「お姉ちゃんそれって…」

「そうなの、

 あたし、割礼を受けたのよ、

 モランの手によって髪を剃り、

 そして割礼を受ける。

 これらは、あたしがモランになるための行事の一つ」

「そんなぁ

 いやよっ

 お姉ちゃんがモランなって言うのになるだなんて、

 ねぇ、

 お姉ちゃんを男にしてしまったあいつを探そう、

 そして、お姉ちゃんを元の女の子の身体に戻してもらおう」

「無理よ」

「なんで?」

「だって会ったのよ、

 あたしを男にしたあの呪術師に…」

「えぇ!!」

「あいつあたしに新しい呪いをかけたのよ、

 昨日は身体をマサイの男にする呪い、

 そして今日は、あたしの頭をマサイにする呪い…

 そう言っていたわ、

 ゆっくりとマサイになっていくって、

 だから、さっきあたしがマサイの言葉になったのもそのせいだと思う」

「そんなぁ!!

 じゃぁ、お姉ちゃんとはもぅすぐこうして話せなくなるの?」

「そうかもしれない…

 だって、術を掛けられているとき、

 あたしの頭の中に次々とマサイ達の言葉が響くと、

 それが、あたしの心の奥にまるで染み込むようにして入ってきたの

 まるで…あたしをマサイに染め上げていくように…」

と喋ったところで、

ズキッ!!

奈津美の頭が痛み出した。

「うっ」

思わず奈津美は坊主にされた頭を抱えると、

「どしたの?

 お姉ちゃん?」

姉の様子の変化に久美は慌てる。

「大丈夫

 大丈夫よ、久美・ちゃん…」

こめかみを押さえながら奈津美は妹を安心させようとするが、

しかし、彼女の頭の中にはマサイの言葉が響き渡り、

誰のかは判らないが、

マサイの少年らしき者の記憶が流れ込んできた。

「違うっ

 あたしツンなんかじゃない。

 やめて、話し掛けないで

 うっうぅ!!」

奈津美はうめき声を上げると、

『○○○○』

マサイの言葉を思わず口走る。

すると、

「お姉ちゃん、

 しっかりして」

マサイの言葉を再び喋り始めた奈津美に久美は抱きつくと、

必死になってそう叫んだが、

けど、

『○○○○…』

奈津美はマサイの言葉を呟きながら次第に身体の力が抜けていくと、

崩れるように久美の腕にもたれ掛かってしまった。

「ひどいよね、

 お姉ちゃんばかりこんな目に遭うだなんて」

そう囁きながら久美は意識を失った奈津美を抱き上げると、

そのまま小屋の隅に横にさせ、

そして、その横で付き添うように久美はじっと姉の身体を見つめていた。

もはや奈津美の身体からは以前の面影を残すものはほとんど消えうせ、

かろうじて顔つきを残すのみになっていたが、

しかし、その顔つきも厚くなってきた唇と突き出してきた眼窩のために崩れ、

奈津美の顔は次第にマサイの顔つきへと変化していた。

こうして、奈津美そして久美にとって忘れられない1日が過ぎていった。



『ツンっ無理をするなっ』

『大丈夫だよ兄さん

 ほら、シンバだ、

 大丈夫だよ』

『引き返せ!

 お前には無理だ』



「あぁ、またこの夢だ…

 あたし…」

そのとき夢の中で奈津美は冷静にマサイの兄弟の様子を眺めていた。

そして、なぜ少年が危険を犯してまでシンバを追っていたのか、

その理由が手にとるように良くわかった。

「そうか、ツンって子…

 モランになるために割礼を受けたんだ。
 
 だからあぁしてシンバを追っていたのね…」

奈津美はそう思いながらこれから起こる惨劇をしっかりと見据えた。



『○○○!!』

朝もやが立ち込める村にモランたちの叫び声が響き渡ると、

途端に村は慌しくなった。

「まっまた?」

マサイたちの様子に久美はおびえるが、

しかし、奈津美の様子は昨日とは打って変わって、

早々と起きていた奈津美は

小屋の隅で体育座りをしたまま膝に顎をつけながらブツブツと何かを呟いていた。

「お姉ちゃん…」

そんな奈津美の様子を久美が心配そうに見つめると、

ビクン

奈津美の下に見える股間からは

昨日、割礼を受けたばかりのペニスが半勃ちをしていた。

「大丈夫?

 お姉ちゃん?」

奈津美に向かって久美が恐る恐る尋ねてみると、

しかし、奈津美からの返事は返ってこなかった。

「………」

相変わらず呟きつづける姉の様子に久美が一抹の不安を抱いたとき、

『○○○○!!』

小屋の外でマサイの声が響き渡った。

「ダメッ!!」

その声に驚いた久美が、

そう叫びながら小屋の戸を全身の力をこめて抑えていると、

スッ

立ち上がった奈津美が久美の傍に寄り、

「久美ちゃん、そこを開けて」

と告げた。

「え?

 いいの?お姉ちゃん。
 
 きっとまたあいつらお姉ちゃんに悪いことをするよ」

奈津美の思いもよらない言葉に久美は驚きながら聞き返すと

「いいの…

 開けて、
 
 じゃないと、今度は久美が非道い目に合わされるから」

と奈津美は久美をみつめながらそう答える。

その奈津美の目は既に迷いが無いように久美には見えた。

そして、

「あたしのことは構わないで

 それよりも駄目よ、

 表に出て行っては」

久美は必死になって表に行こうとする奈津美を押しとどめようとするが、

しかし

「開けて…久美ちゃん」

奈津美はそう言うと、

久美の体を押しのけ戸に手をかけた。

「ダメっ

 お姉ちゃん、
 
 行ってはダメ!!」

久美の声を背中に受けなら

しかし、奈津美はためらい無く戸を開けると、

「だって、あたし…マサイだもん」

と一言答えて表へと出て行った。



「お姉ちゃん!!」

小屋の中から響く久美の声を断ち切るかのように奈津美は戸を閉めると、

『おはようございます』

と奈津美はマサイに向かって朝の挨拶をすると頭を下げ、

そして見上げたとき。

ピクッ

奈津美のこめかみがかすかに動いた

そう、いま奈津美の前に立っているマサイは

昨日奈津美の剃髪と割礼を施したあのモランだった。

『起きたか、ツン』

モランは奈津美の態度に動じずにそう告げると、

『もぅすぐ出発をする。

 支度をしろ』

と奈津美に告げ、

手にしていたシュカとダチョウの羽で作った顔飾りを差し出した。

『これは…』

モランが差し出したものを怪訝そうに奈津美が見つめると、

『これを着ろ、

 その姿でサバンナに出ることは私が許さない』

モランはそう言い、奈津美に突きつける。

『はぁ』

奈津美は仕方なくそれを受け取り開くと、

それは1枚の大きな布で、

長辺の端2箇所を結ぶように一本の紐で結ばれていた。

『………』

ただそれだけの布・シュカに奈津美は困惑をすると、

『なんだ、着方も知らないのかお前は』

モランはそう言い、

『いいか、こうして着るのだ』

と説明をしながら紐を首に掛け身体に巻きつけるようにシュカを着せる。

そして着終わると、

顔飾りを奈津美の顔につけた、紐で固定する。

『よし、

 お前の名前はツンだ

 わかったな』

モラン・シリンは奈津美に言葉短めにマサイとしての名前を与えると背を向けた。

「ツンって

 あなたの弟の名前?

 なぜそれをあたしに…」

シリンの言葉に奈津美は困惑するが、

『なにをしている』

立ったまま動かない奈津美を急かすようにシリンが声をあげると、

『はっはい』

奈津美はそう返事をしてシリンの後を追い始めた。

すると、シリンは奈津美をエスコートするかのように広場へと向かって行く、

「さようなら、久美ちゃん…」

広場へと歩き始めた奈津美は一瞬振り返ると、

小屋の中に居る妹に向かって別れの言葉を呟いた。



村の広場には真新しいシュカを身にまとい、

そして顔には楕円の顔飾りをつけたマサイの少年3人と、

もぅ一人のモランがシリンと奈津美を待っていた。

そう、少年達は昨日奈津美が割礼の儀式を受けた後、

相次いで儀式を受けた、奈津美と同じ年齢組となるマサイの少年達だった。

『いま戻った』

広場に戻ったシリンが戻ってきたことをもぅ一人のマサイに告げると、

『そうか』

広場で待ていたもぅ一人のモランは短めの返事をする。

『おいっツンが来たぞ』

『本当だ、よくこれたな』

『昨日儀式で泣き叫んだ軟弱者』

少年達は奈津美の姿を見るなり口々に悪口を言うが、

しかし、奈津美は彼らの悪口には言い返すことなく遠くを見つめている。

やがて、シンを従えた長が奈津美たちの前に姿を見せると、

『これからお前達はモランとなるための試練を受けなければならない、

 何をするのかは判るなっ』

これからの行動の意味を尋ねる長の声が響き渡ると、

『はいっ、みなで協力してシンバを仕留めるか、

 それができない場合はシンバの尾に触れることです』

と少年たちは口をそろえ

モランとなるために自分達がしなければならないことを声高に叫んだ。

『うむ、そうだ。

 これはマサイとして生を受けた者にとって必ず成し遂げなければならないものである。

 私もかつて槍を片手にシンバの姿を追い求めたし、

 ここにいるモラン・シリンとモラン・ケルヤも同じように試練を受けた。

 私は信じている。

 お前たちが見事シンバをしとめ、
 
 そして、立派なモランとなってここに帰ってくる日を』

『はいっ』

『よいな

 これはお前達の試練である。

 モラン・シリンとモラン・ケルヤが同行するからといって

 それに甘えるのではなくて、

 しっかりと自分達の力でシンバをしとめてくるのだ。
 
 シンバをしとめ、真のモランとなるまでこの村に戻ってくることは許さない』

と長はそう告げ、少年達と奈津美と見渡した。

けど

「違う…

 マサイに生まれたんじゃない、
 
 無理やりマサイにされたのよ、
 
 あなたの後ろにいる呪術師・シンによって…」

奈津美はそう呟くと、

ジッ

と長の後ろにいるシンを見据えていた。

すると、奈津美の視線を感じたのか長の言葉が終わると、

シンが一歩前に出て、

『これは私が成就を込めて呪いをかけた槍だ、

 これを持ち、見事シンバをしとめてくるように』

というと、一人一人にシンが呪いをかけた槍を手渡していく、

そして、シンが奈津美のところに来た時、

『お願いがあります』

と奈津美はシンに声をかけた。

『なんだ?』

『妹を…久美を帰してあげてください。

 あたしはモランになります。

 ですから、あたしがモランになる代わりに久美を…』

シンに向かってそう奈津美が懇願すると、

『よかろう…』

シンは大きくうなづきそう返事をした。

『本当ですか?』

シンの返答に奈津美は表情を明るくして聞き返すと、

『しかし、

 それはお前に心がけ次第だ』

とシはが奈津美に告げる。

『心がけ?』

『そうだ、なぜ、お前はココに来たのか、

 そして、私の手によってマサイの肉体を与えられたのか、

 シンバを追う旅で考えるが良い』

『そんな…』

『ふふ…お前の妹は私の手の内に留めておく、

 さぁ行くがいい、

 そして、見事、モランとなって帰ってきたとき、
 
 あの女はお前の希望するとこへと帰してやろう』
 
シンはそう告げると奈津美に槍を押し付け背を向けた。

『あっ、

 待って』

去っていくシンの後を奈津美が追おうとすると、

『ツン、

 何をしている』

ケルヤの怒鳴り声が響き渡った。



つづく