風祭文庫・モラン変身の館






「モラン・アヤ」
(最終話;モランの花嫁)

作・風祭玲

Vol.114





「父さん・母さん・健司…ありがとう…

  あたし…

  ママイと共にサバンナに行きます。

  もしも…
  
  またあえたら、一緒にご飯食べようね…」

彩がそう言い終えるのを待っていたかのように、

『これを受け取れ…』

ピシっ

木彫りの人形が割れると中から首飾りが出ていた。

チャラ

彩がそれを手に取ろうとしたとき

「それをしては駄目だ、彩っ」

俺は叫んだが、

彩は首を左右に振ると、

首飾りを自分の首に下げて見せる。

『ニヤッ』

ママイの顔が笑った。

ぱぁぁぁぁぁぁ

すると、ママイと彼女の周囲が突如光り輝きだし、

そして、彼女の姿が徐々に光の中に沈み始めた。

「さようなら…」

光の中から彩の声がしたとたん、

俺は無意識に彩の方に向かって走り出していた。

「彩〜っ」

俺が思いっきり叫ぶと、

光の中に手を突っ込んだ。

グンッ!!

「なっ」

強い力が俺の手を引く…

「うっうわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

たちまちのうちに俺は光の中に飲み込まれ

そして運ばれていった。

「彩っ…」




「………………んっ、んん?」

気がつくと俺は草むら真ん中で倒れていた。

「ここは?」

起き上がると、まさに地平線が見える大草原だった。

「サバンナ…」

そう、立ち上がった俺はいま自分が居るのは

サバンナの大平原のまっただ中であることを実感した。

「彩〜っ」

大声を出して綾の名前を呼んだが、

当然、返答があるわけでもなく、


ひゅぉぉぉぉっ

ただ、サバンナを吹き抜ける風の音がしているだけだった。

「彩…何処へ…」

俺は当てもなく広大なサバンナを歩き始めた。

1日目は何とか持ったが、

3日・4日と何も食べずに歩き通していたので

俺の身体はすっかり衰弱していた。

「腹減った…」

フラフラになりながらも歩いていると、

ガサ…ガサ…

いつの間にか俺の後をハイエナが追っていた。

「畜生…俺が倒れたら食べる気か…

 いっとくが俺を喰っても旨くないぞ」

そう言って歩くが、もぅ限界だった。

バタン…

程なくして倒れると、

たちまち数頭のハイエナが俺の臭いをかぎ出した。

「はぁ…死ぬ前にもぅ一度彩に会いたい…」

そう思っていると、ハイエナの口が開いた。

「はぁ…」

静かに目を閉じると、

シュッ

何かが飛んで来る音が聞こえてきた。

そして、

ドッ

っと地面に突き刺ささると、

ギャン!!、ギャン!!

ハイエナ共が悲鳴を上げて逃げていく…

「助かったのか?」

薄目を開けると、逃げていくハイエナに替わって、

人間の姿が目に入った。

「彩?…」

俺にはそれが槍を持った彩の姿に見えた。



パチ、パチ、パチ

気が付くと、俺はどこかで寝かされていて、

すぐ横で誰かがたき火をじっと眺めていた。

「マサイ?…彩?」

炎に照らされたその人物がマサイ特有の朱染めの衣装・シュカを

身につけているコトに俺は気づくとあわてて飛び起きた。

そして、

「彩っ」

マサイに向かって思わず声をあげると、

「!!」

マサイは驚いた顔でこっちを見る。

しかし、

「あっ彩じゃない…」

マサイの顔つきが彩とは似ても似つかないことに俺は気づき、

その場にへこたれてしまうと、

すっ

マサイは肉汁が滴る骨付きの肉の塊をさしだした。

「え?」

マサイは微笑むと”食べろ”と言う仕草をした。

「俺にくれるのか?」

俺はマサイから肉の塊を貰うと我を忘れてかぶりついた。

そして、全てを平らげたのち、

「………」

マサイは何か言ってきたが、

俺には彼が言っている意味が分からなかった。

ただ、唯一判ったのは彼の名前は”センテウ”と言うことぐらいだった。



それ以降、俺はセンテウとともにサバンナを旅することになった。

最初は意味の分からなかったセンテウの言葉も、

徐々に判るようになり、

彼は成人したばかりのマサイで、

モランの経験を積むためにサバンナを一人で旅している。

と言うことらしい。

もっとも俺も彼と旅をしていくうちに、

少しづつ彼からこのサバンナで生き抜く方法を教えて貰った。

けど、俺は俺の知識の中で彼がココで生き抜く方法を

教えてあげることが出来なかった。

「俺の知識ってなんだろう…」

日本にいるときは考えることもなかったそのことに真剣に考えるようになっていた。

「アヤ…と言うマサイを知らないか?」

センテウが他のマサイの村を訪問する度に俺はマサイ達に聞き回った。

しかし、有力な手がかりは見つからなかった。



「そうだ、ケンジ…、そろそろ俺の村に行ってみるか」

ある日、センテウがそう提案してきた。

「え?…いいのか?」

俺が聞き返すと、

「あぁ…構わないよ」

っと彼はそつなく言う、

俺も彼の村には興味があった。



それから3日後の昼過ぎに俺はセンテウの集落に到着した。

いざ集落に入ってみると、

集落の佇まいや住民達の身なりなど、

まさに典型的なマサイの集落だった。

「ここが、センテウの村か?」

俺が彼に訊ねると、

「そうだ、俺はココで生まれ育った」

と胸を張って答えた。



「よう、センテウ…久しぶりだなぁ」

「あぁ…」

集落のマサイ達とそんなやり取りをしながらセンテウは進む、

「おい、何処に行くんだ?」

集落の中をズンズンと進んでいく彼に俺が訊ねると、

「予言者のアド爺さんのところだ」

と叫んだ、

「予言者?」

俺が聞き返すと、

「そうだ、ケンジ…お前、人を探しているだろう…

 そう言う場合は予言者に聞くのが一番だ」
 
とセンテウは説明した。

予言者かぁ…なるほど

俺はその言葉に納得した。



しばらく歩くと集落の外れに一軒の小屋があり傍に人影があった。

俺は”あれがセンテウが言っていたアドさんか”と思うと、彼に

「あの人が、そのアドさんか?」

と訊ねると、

「そうだ…あの人がマサイで一番の予言者のアド爺さんだ」

と指さして説明をした。

やがて、アドの傍までくると、

「お〜ぃ、俺だ…センテウだ元気にしていたか?」

とセンテウはアドに大声を出した。

アドはジロリとセンテウを見るなり、

「なんじゃっ、生きて返ってきたか、

 しばらく音沙汰がなかったから、
 
 てっきりシンバに喰われたしまったかと思っていたわい」

「ご挨拶だなぁ、

 どうせ、今日ここに俺が来ることが判っていたくせに」

「ふん、やっかいな客も連れてな」

「あっ、それも判っていた?」

「当たり前じゃ、儂を誰だと思っている」



そんなやりとりの後、アドは俺をジロっとみると、

「ふん、あんたか、わしの厄介になりたいというヤツは…」

と言うなり、アドは俺の目をじっと見つめた。

「なっ…」

いつの間にか俺はアドの視線に釘付けになり、

そして、俺の心の中にアドが入り込んできたような錯覚に陥った。

「ふん…」

アドのその言葉にハッと我に返ると、



「なるほど…

 お前の国にいた恋人が…

 ん?
 
 これは…
 
 ママイの呪いだな…」
 
アドが考える顔をして言うと、

「ママイ?、

 ママイって…」

俺は隣に座っていたセンテウに尋ねた。

「えっと、ずっと大昔にいたマサイのモランだよ」

そうセンテウが俺に説明すると、
 
「そのママイの呪いを受けマサイとなり…

 で…このサバンナに…
 
 お前は、その恋人を追ってココに来た。
 
 と言うかママイに引きずられて来てしまったみたいだな」

っとコレまでの経緯を俺に聞かずに喋った。

「すごい…」

俺が驚いていると、

「だから言ったろ、アド爺さんはマサイ1の予言者だって」

「確かにやっかいだな…

 で、お前さんは儂に何を聞きたいのだ?

 国に帰る方法か?」
 
「いえ、違います。

 彩…そのマサイになった恋人が今どこにいるのかが知りたい」

「知ってどうする」

「会いに行きます」

「止めとけ」

「なぜです?」

「わからんのか、

 お前の恋人はママイの掌中にあり、

 そこで、モランになろうとしている。

 ママイはモランになった恋人の身体を乗っ取る気だろう、

 いまさら会っても無駄じゃ」

と言った。

「モランにってケンジの恋人は男なのか?」

センテウが首を突っ込んできた。

「いや、俺の国では女だった…

 それがママイと言うマサイ呪いを受けマサイの男になって、

 ココに来た」

とセンテウに彩の経緯を説明した。
 
「ふ〜〜ん、呪いで男になったり女になったりすることが出来るんだ」

センテウが感心していると

「比較的高等な術じゃがやって出来ないことはない」

アドが言うと、

「乗っ取るって…それじゃぁ彩は…

 あぁ…ママイはマサイ一勇敢なモランだったが度が過ぎた…

 殺戮を好み、彼によって多くのマサイが命を絶った。
 
 そして、それが元で殺された。

 いま、やつの怨霊がやろうとしているのは、
 
 間違いなく新しい身体を手に入れることだろう…
 
 どういう経緯でお前さんの恋人が呪いを受けたのかは聞かないが

 ヤツの目的はそれだ」


時間がない…

俺の心に焦りが出てきた。

「アドさん、彩…いや、その人の居場所を教えてくれるのか」

俺はズィッとアドに迫ると、

「そう焦るな…

 それに、いまお前が行ってどうする。

 ママイの術はすでに成就し、

 もはや恋人とママイが一体化するのは止められないぞ、

 それに、お前が会いに行ったところで
 
 ママイによって指一本触れることが出来ない」

と突き放すように言った。

「悪いことはいわん、大人しく国に帰ることだ、

 それならわしも手伝ってやる」

「イヤです…

 俺…彩と約束したんです絶対に離れないって…」

「それは無理だ、

 どうやってママイを誤魔化す?

 マサイならいざ知れず、

 お前はマサイではない」
 
「え?、アドさん今なんて…」

俺はアドのセリフの中に意外な言葉があったことに気づいた。

「あっ………」

アドはしまったと言う顔をすると、俺はすかさず

「…マサイならいざ知れず…

 と言うことならマサイなら会えると言うことですか」
 
俺は尋ねた。

「ふん…

 まぁ確かにそうじゃ、

 ママイの目的がそれならマサイには甘いじゃろから…
 
 現に、その恋人はマサイの村でマサイとして生活しているようだし」

と言いながらアドは外を眺めた。

「じゃぁ、アド…俺をマサイにしてくれ」

「なっ…何を出すんだ」

「俺…マサイとして彩の所に行く、

 そして、彩の身体を狙っているママイとか言うマサイの怨霊を叩きつぶす」

「ママイは強い、

 お前が勝てる相手ではないぞ」

「判っている、

 でも、これまで何も出来なかった、

 しかし…」

俺が思わす悔し涙を流すと、

「お前の恋人をママイから取り返す手段なら、

 一つあることはあるな…」

アドがポツリと呟いた。

「なんですか?、それは」

「ケンジ…お前、女になるか?」

アドは俺をジロリと見るとそう言った。

「おっ女に?」

聞き返すと、

「あぁ、お前を女になれば、

 いまお前が持っている男の勇気を短刀に込める。

 そして、ママイも女ならさらに油断するだろう、

 その恋人に近づき、

 隙を突いてその短刀でママイを切るんだ、

 そうすれば恋人はママイの呪いから解き放つコトが出きる」
 
アドの話を聞いた俺は大きく頷いた。

そして、

「判ったアドさん、

  俺を女に…マサイの女にしてくれ、彩を助けたいんだ」

と言うと


「ケンジ…女になってもいいことはないよ

 水くみはしなければならない、
 
 乳搾りをしなければならない
 
 大変なことだらけだ」

やり取りを聞いていたセンテウが声を上げた。
 
「センテウは黙っていろっ」

アドはセンテウを黙らせると、

「どうやら、決心は固いようだが

 その願い簡単には叶えてやるわけには行かない」
 
「えっ」

「まずは、お前の決心を私に見せて見ろ、話はそれからだ」

そう言うとアドは俺に背中を見せた。



「クスクス…

 ケンジ…似合うよその格好…」

「うるせー」

俺は着ていたモノを全て脱ぎ捨て、

替わりにシュカを身につけ、

胸にはトンボ球で出来た飾り・マシパイを下げていた。

さらには頭にはダチョウの羽で作った大きな飾りをつけた

そう、マサイのモラン見習いと言う姿でサバンナを歩いていた。



「ホラ…ウシが行っちゃうよ」

センテウが指摘すると、

「あっ、もぅ」

俺はセンテウと共にアドから与えられた牛飼いの仕事に悪戦苦闘していた。

しかしそれは、俺の決心の固さを見せる場でもあった。

「やれやれ、諦めるかと思ったが、芯の強いやつめ…」

そんな俺をアドはじっと眺めていた。



そして、それから数回の満月を迎えた頃、

俺はアドに呼ばれた。

「いよいよか…」

俺はアドの小屋に入ると

「ケンジ…

 マサイの女になって後悔はしないか?」
 
と聞いてきた。

「あぁ、後悔しない」

そう返事をすると

「よし、お前をマサイの女にしてやろう」

「頼む」

俺は頭を下げた。

「幸い、お前の恋人にはまだ無事だ、

 ママイも邪魔がないと思って、
 
 ゆっくりとその恋人をモランにする気だろう」
 
と言うと、

一緒にいたセンテウを小屋の外へ出ていくように言った。

「ケンジ…、これまで楽しかったよ…」

「センテウには色々と世話になったな」

「うん」

センテウはそう呟くと小屋の外へと出ていった。

「で、どうすればいい」

アドと二人っきりになった俺は訊ねると、

「まぁそこに座れ…」

俺は言われたとおりアドの前に座ると

「術は今夜、月の力を借りて行う、

 かなり力を使うから、
 
 いまのウチに寝て置くんだな」

そう言うとアドは立ち上がり

そして小屋から出ていった。

「どこへ…」

俺が行き先を訊ねると、

「身体を清めにだ」

と言う言葉を残してアドは行ってしまった。



夜、満月が中空に掛かる頃、

俺はアドと共に小さなオアシスにいた。

「じゃぁ、始めるが、本当にいいんだな」

「お願いします」

「この術は1回掛かると死ぬまで解けない…

 マサイの女になったら一生女として生きていくんだぞ、
 
 それでもいいんだな」
 
改めて念を押されると

「はい」

と言って俺は頷いた。

「じゃぁ身につけている物すべてを脱ぎ捨ててこの泉に浸かれ」

アドは俺にそう命じると、

俺は身につけていた物をすべて取ると、

裸になって泉の中へ入っていった。

「………」

アドが呪文を唱え始める。

ふわっ

微かに風向きが変わった。

水面に映った月の陰が揺らぐ…

「………」

徐々に呪文の声が大きくなってきた。

トクン…

俺の身体の中で何かがうごめき始めた。

「コレは…」

トクン…

サッー

風が舞い始める。

ふっ

水面に写っていた月の陰が突如消えた。

ドクン!!

「ぐっ…」

ばしゃっ

強烈な一撃が俺を襲った。

「ぐはっ」

四つんばになってこらえた。

ググググググ

身体に異変が起きる。

「おっ女になるのか…」

俺は食いしばってこらえた

日に焼けた手足が徐々に細くなり、

水中の手も小さくなっていった。

さらに、体中の筋肉が薄く柔らかくなると

脂肪がうっすらと乗り始める。

プク…

胸に小さな膨らみが現れてきた。

乳首も膨らむ

「くぅぅぅぅぅ」

肩が小さく…

腰が大きくなり…

俺の身体の線はゆっくりと男から女へを変化していく、

「あっ彩はコレを耐えたのか…」

俺は、雷雨の神社、そして体育館の木の陰で女から男に

耐えながら変身していった彩のことを思い出していた。

「くぅぅぅぅはぁはぁ」

すでに水面に映っている俺の顔は男と言うより

女…そうマサイの女の顔になっていた。

股間から男根の感覚が消えた。

「あぁぁぁ、俺は女に…なる」

男の射精感とは違う絶頂を迎えると俺は気を失った。



パキーーーン

俺が気を失うと同時に

泉から青白い煙が立ち上ると

アドの元へと流れ始めるた、

そして、

その煙がアドの前に置かれていた短刀へと吸い込まれて、

キーーーン

最後に月の光が短刀を封印した。


すぅぅぅぅぅ

水面に再び月の姿が映し出されると、

泉の水面に一人のマサイの女が浮かんでいた。

「ふぅぅぅぅぅ」

アドは呪文を言い終えると、

「やれやれ…」

アドは短刀を大事に懐に入れると泉に入り、

浮かんでいる女性を担ぐようにしてそっと運んでいった。




「ん?」

気がつくと、朝になっていた。

「ココは…」

俺は起きあがって周りをみた。

「おう、お目覚めか…

 ふん、なかなかの美人になったな」
 
姿を表したアドが俺を見ながらそう言った。

「え?美人?」

視線を自分の身体に落とすと、

茶褐色の肌に、細い手足、

胸にはきれいに膨らんだ膨らみが二つ

そして、縦の筋が走っている股間…

そう、女の身体が俺の目に飛び込んできた。

「これは…」

驚きの声を上げると、

少女と女性の間と言っていいようなハイトーンの声が響いた。

「!!」

俺はあわてて口を閉じた。

「術は成就した、お前はもぅマサイの女だ…ケンジ

 いや、ケンジはおかしいか…
 
 よし、お前はレナナだ、マサイのレナナ、
 
 それがいまからのお前の名前だ」
 
アドは俺に女としての名前を与えるとご満悦の様子だった。

そして、

「コレを身につけろ」

と言うと、アドは俺に丈の長い女物のカンガと、

トンボ球で出来た美しい色彩のマシパイを身につけさせていった。

「よぉし、コレでいいだろうレナナ…」

満足げに俺を眺めていると、



「アド、どうなった?」

センテウが息を切らせながら小屋に入ってきた。

そして俺を見るなり

「わわっと、失礼」

っと言って、小屋から飛び出していった。

「あははは、センテウ、

 俺だよ、ケンジだよ」
 
俺はセンテウの後を追って小屋の外に出る。

サバンナの強い日差しが俺を照らし出した。

「うぁぁぁぁ…

 昨日まではあまり感じなかったけど、

 日差しがこんなに強烈だなんて…
 
 これも、女になった証かな…」
 
そう思いながら周囲を見ていると。

「いやぁ、なかなかの美人になったじゃないか」

センテウがそう言いながら近寄ると

ポン

と俺の肩を叩いた。

ゾクゥ

電気ショックが俺の身体を駆け抜けていった。

「どうした」

センテウがのぞき込む

「いっいや…なんでもない」

俺…本当に女になったんだ…

乳房や股間以上に俺はいま自分が女になっていることを実感していた。

「センテウっ、もぅケンジではない、レナナだ」

アドが小屋から出てくるとセンテウに注意した。

「さて、レナナ…

 お前のが探していた恋人の居場所を教えてやる」

 ここからあの山に向かって10日ほど歩いた村に
 
 お前の探す者はいる。

 ただし…
 
 モランになるために村を離れている可能性があるから
 
 旨く巡り会えるかどうかは判らないぞ」
 
と言い、

「で、これがママイを切る短刀だ…

 ヤツは、恋人がしているマシパイの中にいる」

その言葉を聞いたとき、

木彫りの人形から出てきた首飾りを思い出していた。

「あれか…」

「そのマシパイをそれで切るんだ。

 ただし、チャンスは一回だけ、

 もしも失敗すれば

 ママイは間違いなくお前を殺す」

と言いながら一本の短刀を俺に差しだした。

そして、さらに小さな包みを手渡すと、

「もぅ一つ、これは媚薬の効果も併せ持つ魔法薬だ、

 恋人にあったら見計らってコレを嗅がせろ」

「え?」

「お前が女になったもぅ一つの利点は、

 男と情事が出来るという点だ、

 無論、男同士でも構わないが、

 やはり、男と女が一番いい、

 それに、まだ恋人の身体を完全に乗っ取っていないママイは

 情事の際、どううしても無防備になる。

 そこを突くんだ、いいな。

 レナナ…」

アドはそう言うと、

「がんばれよ」

と言って俺の肩を叩いた。

「ありがとう」

俺は短刀と包みを受け取るとサバンナの彼方にある山をみて

「あの山に向かって10日歩いた村だね」

「あぁ、そうだ…」

アドはそう答え、

「センテウ!!」

っと彼を呼んだ、

「なに?」

「レナナがその村につくまでお前が守ってやれ」

アドが俺を指さしながら彼にそう言うと

「えっ……うん、わかった

 さっ、レナナ…行こうか」

俺はセンテウに手を引かれるように彼の村を後にした。

「ありがとう、アド爺さん…」



それから10日後、

村まであと少しと言うところであたしとセンテウはシンバに襲われた。

ザ・ザ・ザ・ザ

草をかき分け、あたし達は走っていた。

ハァハァハァ

「くっそう…なんでこんなに走るのが大変なんだ」

あたしは、暴れる首輪を手で押さえながら叫ぶ、

「話をするな、それよりも走れ!!」

ハァ…

「もぅ駄目」

「くっそう、なかなか離れないな」

センテウはあたし達の後を追うシンバを見ると、

その場に立ち止まり、

「レナナ…お前は先に行けっ」

そう言って槍を構えるとセンテウはシンバと対峙した。

「待って…あたしも一緒に闘う」

あたしが言うと、

「バカヤロウ!!、女は足手まといなんだよ」

「!!!」

そうだ、女になって10日が過ぎあたしは、

もはや肉体だけではなく

身体の内面も女性化しつつあった。

「いいから先に行けっ」

ドンと

センテウはあたしを突き飛ばすと、

「しっ死なないで…」

思わずあたしの口からその言葉が出てしまった。

そして、先を行こうとしたとき

グワッ

目の前から黒い固まりとなって別のシンバが飛び出してきた。

「レナナっ!!」

「キャァァァァァァ…」

その時、槍を構えたマサイの男が飛び出すと、

襲いかかろうとしていたシンバに槍を放った。

あたしが覚えているはココまでだった。




「うっうぅぅぅぅぅん」

目を覚ますとあたしはマサイの小屋の中で寝かされていた。

「ここ、どこ?

 センテウ!!」

あたしは辺りを見回しながらセンテウの名前を呼ぶと、

「ようやく目を覚ましたね」

すぐ傍で男の声がした。

「え?」

あたしは男を見ると

男はちょっと動揺した素振りをした後、

「セっ、センテウって言うんですか

 あなたを連れてきた男の人は…
 
 彼はあなたを私に託すと自分の村に帰りましたよ
 
 あなたのことをよろしくって」

そう言う彼の声に聞き覚えがあった。

「!!!、彩?」

彼は更に続けて

「私には何のことだかよく分かりません、

 日が昇ったら、あなたを村にまで送ります。
 
 今夜は寝てください、疲れたでしょう」
 
そう言いながらマサイの男はあたしに背を向けた。

「あなたの名は…」

あたしが訊ねると

「ここではママイ……と呼ばれています。

 でも昔はアヤと呼ばれていました

 わたしもこの方が好きです」

「彩………本当に彩なのか…」

やっと会えたと言う喜びで

あたしの目から大粒の涙が流れる。

「そう言えば、センテウから聞きましたが

 あなたは私のことを捜していたようですが、

 どこかでお会いしましたか?」

そう言いながら振り向いた彼の胸元であの首飾り・マシパイが

キラリ

と光った。

「あれだ…間違いない、彼は彩だ、

  そしてあの中にママイがいる」

そう決心するとあたしは、

無意識にカンガを脱ぎ捨てると彩に抱きついた。

「えっあっ」

あたしに抱きつかれた彩が困惑する。

「スキです…」

あたしがそう言うのと同時にアドから貰った媚薬を彩に嗅がせた。

途端に

ドン

と私は突き飛ばされた。

「痛いっ」

尻餅をついていると

「なっ、何をした」

鼻を押さえながら彩が叫んだ。

しかし、そういう彩の表情が徐々に変わり

鼻息も荒くなってきた。

アドの薬が効き始めた。

ハァハァハァ

彩が股間に手を持っていくと、

シュカ越しに彼の男根がムクムクと大きく勃起していた。

犯される…

あたしは直感的に悟ったが、

でも、あたしは

「きて…」

と言いながら、股を開いた。

「ここが勝負どころ…」

あたしはそう思って覚悟を決めた。

ドッ

彩があたしに飛び掛かってくると

乳房を揉み、乳首に舌を這わす

「んく…」

あたしは目を瞑りこらえた。

チュク…

股間が湿ってくる。

ハァハァ

彼の荒い鼻息が聞こえる。

「まだだ…まだ早い」

一度は取った短刀を手放す。

やがて、彼の肉体の一部があたしの中に入ってきた。

くぅぅぅぅぅ

破瓜の激痛が走った。

グチョクチョ…

彼の男根が私の中を往復し始める。

それと一緒に淫らな音が私の股間から聞こえてきた。

アン…アン…アン

快楽に溺れそうにもなりながら、あたしはチャンスを待った。

そして、その時が来た。

チャリンチャリン

腰を動かす彼の胸元でマシパイが揺れ始めた。

「今だ…」

あたしは、短刀を取り出すと

すかさずアヤの胸元にあるマシパイに突き立てた。

『ぎゃぉぉぉぉぉぉっ』

ママイの絶叫が響いた。

『女ぁ…貴様っ』

ママイの叫び声が響いた。

「…油断したな…ママイっ

  彩は返してもらうぞ…」

あたしはそう言いながら短刀に力を込める。

『そうか…きさまは…あの時の…』

「いえぃっ」

あたしは短刀に渾身の力を込める

『おのれっ…』

ビシビシビシ…

マシパイに亀裂が入り出す。

もぅ少しだ…

『やっ、止めろ…止めるんだ…』

ママイの悲鳴が上がる。

「くたばりやがれ!!、この野郎!!」

私のすべての力を短刀に注ぎ込んだ。

キシキシ

パッキーーン

『ガァァァァァァァ……』

ママイの悲鳴と共にマシパイが真っ二つに割れると、

ドォォォォン!!

「ぐっ」

「ぎゃっ」

あたしと彩は思いっきり床に叩きつけられた。




………

終わったのか?

………

俺は死んだのか?

………

彩はどうなったんだろうか?

「……健司…」

ふと、彩の呼ぶ声がした。

「彩?」

「…健司…」

「無事だったのか?」

「健司!!」

「!!」

誰ががあたしに口付けをしている。

「うっうん?」

うっすらと目を開けると、

マサイの姿をした彩があたしに口付けをしていた。

「良かったぁ」

彩はそういうとあたしに抱き着いてきた。



「ママイ?」

あたしは彩のここでの名前を呼ぶと

「ううん、アヤでいい…ありがとう健司…」

彩はそう言うと、短刀をあたしに手渡した。

その柄にはあたしと彩とのプリクラが一枚貼られていた。

そう、それはアド爺さんの所から旅立ったあと、

”お守り”と言って、

たまたま残っていたヤツを柄に貼ったものだった。

「健司…あたしのためにそんな姿になって…」

彩は泣きながらあたしにギュっと抱きしめてきた。

「そっか…あたしの正体ばれっちゃったのか」

あたしは思わず天井を眺めた。

終わったな…でも…



ンモー…

あれから一ヶ月が経ったが、

ママイが消えても彩の体は元の姿に戻ることはなかった。

あたしはアドの呪術を受けた際に元に戻ることは出来ない。

と言うことを知っていたので、覚悟は出来ていたけど、

でも、彩の事を思うと気が気でなかった。

しかし、それは杞憂に過ぎなかった。

そう、彩の方も自分のためにあたしが犠牲になったということを

気にしていたのだった。

その事が判ってからあたしと彩との垣根はなくなり、

そして…

あたしと彩は結婚した。

これまで想像もしなかったマサイの花嫁として

モランとなった彩に嫁いだとき彩は

「これからはずっと一緒だね」

と言ってくれた。

あたしは

「うん」

と肯くと彼の体に身を預けた。



おわり