風祭文庫・モラン変身の館






「モラン・アヤ」
(第2話:モランとして)

作・風祭玲

Vol.113





拍手と声援を受けてあたしの演技が始まった。

そして…

ドクン…

ドクン…

時間の経過とともに私の身体の中に生まれたそれは確実に成長し始めると、

ドクン…

ドクン…

まるであたしの中からあたしを食い破ろうと身体の中に触手を伸ばして行く、

「ダメ…

 お願い…

 まだ…だめなの」

それらを感じつつあたしは必死になって止めようとするが、

しかし、

『アヤ…』

ママイの声がしたとたん、

ビシッ…

こん棒の演技中それは容赦無く私の左肩を襲った。

「!!」

危うく放り投げたこん棒のキャッチにミスるとこだったが、

何とか受け取るとあたしは演技を続ける。

しかし、

「ん?神代さん…どうしたのかしら…」

あたしの演技を見ていたコーチが呟いた。



パチパチパチ

演技が終わって、戻ってきたあたしに、

「神代さん、どうしたの?

 顔が青いけど、どこか具合でも悪い?」

声を掛けてきたコーチに

「すみません」

あたしはそういって頭を下げると、

「ちょっと、トイレに行ってきます」

と言う言葉を残してそのままトイレに駆け込んだ。

パタン!!

個室に入り、恐る恐るレオタードを左肩からずらしてみると、

あたしの左肩の筋肉が盛り上がり、また肌の色も浅黒くなっていた。

「マサイへの変身が始まったんだ…」

それを見たときにはショックだったが、ついに来るものが来た…

とあたしは変化し始めた自分の左肩をみながら覚悟を決めていた。



「身体、具合悪いの?」

「ううん何でもない」

トイレから戻ってきたあたしにチームメイトが心配しながら訊ねるが、

あたしは精一杯何でもないというそぶりをして答えた。

しかし、レオタードは普通のユニホームと違って体の線がそのまま出るから

さらにあたしの変化が進むと、ここには居られなくなる。

焦燥感がジリジリと頭を持ち上げてきた。


そして、次の変化はフープの演技のときに、

再びママイの声がすると、

こん棒のときよりも大きくそれはあたしを襲った。

ミシミシミシ!!

あまりのの激痛に持っていたフープを落としそうになったが

あたしは必死でこらえた。

「痛ぅ……」

しかし、集中力が途切れために曲が体から離れていった。

「まずい…演技を続けなければ…」

体を庇いながらあたしは演技を続けた。

「はやり、神代さん体…おかしいですわね」

コーチがあたしの体の異変に気づいた。


演技が終わって、

戻ってくるとコーチはいきなりあたしの両肩をグッと握ると、

「…神代さんっ、ちょっと来て」

そう言ってあたしを更衣室に連れていった。

そして、更衣室に着くなり

「神代さん…その体…どうしたの?」

っとあたしの肩を指差して尋ねてきた。

ドキン!!

あたしは肩を隠すように両手を置くと

床を見つめながらうな垂れていた。

「いえないの?」

コーチの言葉にあたしは肯いて見せる。

「どうして?」

長い沈黙の後、

「コーチ、これからあたしが言うこと信じてくれますか?」

と尋ねると

「分かったわ、一体、何があったの」

とコーチは尋ねる。

その言葉を受けてあたしはレオタードを肩からはずすと、

そのまま上半身をさらけ出した。



「!!!

  杉本さん!!、あなた…」

コーチは目を丸くして驚いた。

そうあたしの上半身は筋肉が盛り上がり、胸板も出て、

そして肌の色が更に黒くなっていた。

「………呪いなんです」

あたしは答えを言った。

「呪い?」

「えぇ…信じられないでしょうけど

  実はあたし…

  マサイの戦士…ママイの呪いを掛けられたんです」

「マサイ?…戦士…?」

コーチはなおも信じられないような顔をした。

「これまで色々な方があたしに掛けられた呪いを解こうとして来たのですが

  どれも駄目で…

  それで…

  もぅすぐにあたしはマサイになってしまうんです」

そういうと、あたしは床に座り込んでしまった。


「確かに…

  信じられないけど…

  あなたのその体を見たら信じるしかないみたいね」

コーチはそっとあたしを抱きしめるなりそう言った。

「で、もぅ駄目なの?」

「え?」

「もぅ演技できない?、

  まだ…あなたはマサイなどではなく誰が見ても神代彩だけど

  もぅ駄目?」

と聞いてきた。

「でも……」

「あんなに練習してきたんじゃない、残りは最後のリボンだけどどうする?」

いつも怒鳴られてばっかりったコーチがその時ばかりはやさしく言ってくれた。

「いいんですか?」

「もちろんよ。

  ただし、それ以上変身が進んでしまったら駄目だけどね」

そうコーチはそう言うと、

「さっ早くレオタードを上げなさいっ、

 リボンの演技が始まるわよ」

というと、更衣室を後にした。

「ありがとうございます」

あたしはそういうと頭を下げた。



そして、あたし…神代彩にとって、最後のリボンが始まった。

幸いコーチを除いてまだあたしの変化に気づいていない。

でも、

ミシ・ミシ・ミシ

体の変化のスピードは徐々に増している。

音楽が流れ、演技が始まった。

泣いても笑ってもこれが最後…

しかし、演技をしているうちにあたしの股間から肉が盛り上がり始める。

「あっ、男のオチンチンが生えてきたんだ。」

さらに、髪が徐々に抜け始め、

そして、身長が伸びてくる。

筋肉が更に盛り上がり、

体全体の肌の色が黒ずみ出してきた。

「お願い、最後まで持って…」

あたしはひたすらそう願いながら演技をつづけた。

「なぁ、あの選手の体おかしくないか?」

目のいい人があたしの変化に気づき出した。

やがてフィニッシュとともにあたしの演技は終わった。

しかし、あたしの変身は一気に最終コーナーへと走り始めていた。

あたしはコーチへの挨拶もそこそこに脱兎のごとく会場を出ると、

人目のつかない低い木の陰をマサイへの変身の場として決めた。



ミシミシミシ…

ビリ…ビリ…

伸びる身長と、張り出す筋肉に着ていた試合用のレオタードは引き裂け、

髪も手の行き届いた髪が全て抜け落ちてしまうと、

縮れた硬い毛が伸び、

見る見る細く簾のように束ねられて行く。

さらに、

ック…

引き伸ばされるように身長は伸び、

ック…

膨らむように筋肉が発達していく

あたしはひたすら体の変化に耐えていた。

どれくらい時間が経ったのだろうか、

あたしの体を取り巻いていた苦しみが消えると

ふぅぅぅぅぅ

あたしは大きく息を吐き、その場に倒れた。

何時の間にかマサイの朱染めの衣装・シュカと

赤や青のトンボ球をつないだマシパイが体に巻きついていた。

それを感じながらあたしはゴロリと仰向けになると、

オレンジ色に染まっている空をぼんやり眺めた。



眺めながら両手を翳すとその黒い肌を見ながら

「はぁ…あたし…マサイに…」

そう思っていると不意に股間の突っ張った感覚がはしった。

それは男性の生理の一つだったが

男になったばかりの私にとっては何かの異変の様に思うと、

急いで起き上がると股間を眺めた。

”ぶるんっ”

そこにはまるで小さな子供の腕のような黒光りした太く長い肉の棒が、

聳え立っていた。

あたしにとてにとって初めて見る自分自身のオチンチンだった。

「うわぁぁぁ、これが男のオチンチンなの」

あたしは自分のいきり立つ黒いオチンチンの姿に思わず驚いたけど、

でも血管が浮き出しパンパンに張ったオチンチンをそっと手で包むように触り、

「あたし…男…なんだ」

と一言呟く。

その時、あたしは彩という女の子ではなく、

マサイ族の男に変わってしまったことを実感した。



「お〜ぃ、彩っ、どこに居る〜っ」

突然、健司の声…

「健司っ」

あたしは嬉しさのあまり思わず飛び出そうとしたが、

自分がマサイになってしまったのを思い出すと思わずためらってしまった。

やがて、すぐ側に来たときに

「けんじ…」

あたしは小声で呼びかけた。

しかし、あたしから出た声は男の低い声色の声だった。

「!!」

あたしは自分の声に驚いた。

「彩?」

あたしの声が通じたのか手前で立ち止まると覗き込んできた。

「ここよ、ココ…」

あたしは声を殺してそっと手を挙げた。

「彩っ、かくれんぼは無しだよ」

健司の言葉にあたしは立ち上がると、

グンっ

視界が一気に高くなった。

「えっ」

視界の変化に驚くと同時に

「うわっ…」

目の前に居た健司が声を上げて腰を抜かしていた。

「バカっ、いっ、いきなり出てくる奴がいるかっ」

「ごっ、ごめん…」

あたしは謝ると、

「彩…、

 くっそう、本当にマサイになっちまうなんて」

健司はしきりに悔しがった。

「仕方ないよ…

 ママイの呪いなんだから…」

あたしがそう言うと、

「はぁ…

 目の前のマサイがあの彩だったとはとても信じられ無いなぁ」

そう言って健司はあたしを眺めると、

「そっ、そんな眼で見ないでよ」

身につけている衣装が朱染めのシュカ一枚だったので

思わず股間を隠すとそう言った。



「まったく…

 先生、彩ここにいたよぉ…」

「え?」

健司が顔を向けた方を見るとコーチが立っていた。

「コーチ…」

コーチはあたしの姿にちょっと驚いた顔をしたが、傍に来ると

「はいっ、5位入賞おめでとう!!」

と言ってあたしに賞状を手渡してくれた。

「これは…」

あたしが驚くと、

「神代さん、頑張ったわね…次がもぅ無いのは残念だけど

  で、これからどうするの?」

コーチがあたしの今後を訊ねると、

「…迎えが来るんです、サバンナから…」

あたしはそう答えると

「じゃぁ、もぅ会えないんだ」

「………」

あたしは黙って肯くと、

「お父さんと、お母さんにはお別れの挨拶はしたの?」

「えぇ…彩の姿のときに…」

「そう…」

「迎えはいつ来るの?」

「今夜、満月が一番高く昇った頃」

「……じゃぁ…もぅ一度挨拶できるじゃない。

  ちょっと待ってて、クルマこっちに廻すから」

そう言って、コーチがその場を離れてしばらくすると、

1台にクルマがあたしの目の前に横付けされた。

「さっ、乗って…家まで送るわ、ほら大沢クンも」

「えっ、でも」

あたしが躊躇していると

「ほらっ、早くしないと迎えが来ちゃうでしょう」

「さっ、彩っ、ここは先生の好意に甘えて帰ろう」

健司は無理矢理あたしをクルマに押し込むと、

クルマは市立体育館を出発した。

車中ではあたしはずっと黙っていたけど、

コーチは色々と神代彩の思い出話をしてくれた。

無論、健司もその話に乗り盛り上がっていた。



キッ!!

家の前で止まるとあたし達はクルマから降り立ち、

そして、人目を気にしながら玄関先へと向かっていく、

しかし、玄関のドアを開けようとしたとき、

あたしの手が止まった。

「なにやってんの」

健司が覗き込むと、

「ほれっ、自分の家だろうが」

と言って、

ガチャッ!!

とドアを開けた。

パタパタパタ

「彩?」

母さんがスリッパの音をさせながら出てきた。

「!!」

慌ててドアの陰に隠れると、

「あっ、おばさんこんばんわ」

「あら、健司君じゃない、彩は?」

「えぇ、居るんですけど、こら、そんな所で隠れるなよ」

健司があたしの手を引っ張っていると、

コーチが先に玄関に入り、

「はじめまして…」

と言いながら頭を下げた。

「あなたは…」

「はい、学校の新体操部の顧問をしている桜沢と言います」

と自己紹介をした。

「学校の…」

母さんはハッとすると

「このたびはとんだご迷惑を掛けてしまったようで」

その場に跪くと頭を下げた。

「いえいえ、彩さんが、

  今日の大会で見事5位入賞を果たしたので、その報告にね」

コーチは玄関の外に居るあたしを見るなり、

「ほら、おかあさんに、入賞の報告をしなきゃぁ…」

そう言うと

「彩…おまえの元気な姿…母さんに見せて」

と言ってきた。

「………」

あたしは鼻の頭を掻きながら姿を見せた。

「!!」

母さんはハッとした顔をしたが、

すぐに、

「よく帰ってきたね、母さん嬉しいよ」

と言って抱きしめてくれた。

「母さん…」

「いいの…いいの…」

「じゃぁ、あたしはこれで失礼します」

コーチがそう言って玄関から出ていくと、

「じゃぁ…俺も」

と言って健司も出て行こうとした。

「健司…待って…」

「え?」

「離れないって約束でしょう?」

「………いいのかい?」

「当たり前じゃない」

その日の夕食はあたし達の他に健司を含めた4人で食べた。

しかし、マサイになってしまったあたしには和食は少々きつく

もっぱら牛乳を飲んでいた。


「いつ来るのかな?」

「え?」

「サバンナからの迎え」

「さぁ…」

夕食後、あたしと健司はあたしの部屋で月を眺めていた。

月の光が筋肉が発達し肌が黒光りしているあたしの身体を照らしている。

「彩っ」

「ん?」

「姿はすっかり変わったけど、目は昔の彩のままなんだね」

 と笑った。

「え?

 そっそう?」

一つでも彩だった自分のものが残っていた。

あたしにとってそれが嬉しかった。

月の高さが更に高くなる…

「そろそろね」

「あぁ、そろそろだね」

健司の手があたしの手をぎゅっと握った。

あたしも握り返す。

『アヤ…』

ママイの声が部屋に響いた

『アヤ…迎えに来たぞ』

カラカラカラ…

ベランダに続く窓がひとりでに開くと

ふっ、

ベランダに一人の人影が立った。

ママイだ…

「ようやく来たか…」

健司が立ち上がるとママイの傍へと歩いていく、

「健司やめて…」

あたしは思わず声を上げた…

「お前をやっつければ彩はもとの彩に戻るのか」

健司はママイを睨み付けた。

すっ

ママイは槍を構えた。

「やめて…健司」

あたしが健司とママイの間に入ると、

「さっ、ママイ…あたしをサバンナに連れていって

  そして、みんなには手を出さないで」

と叫んだ。

「止めろ、彩っ

  俺はこいつをぶっ倒す」

「健司やめて…じゃないと健司が死んじゃう…

  あたし…そんなのは嫌っ」



ドタドタドタ

あたしの叫び声を聞いた父さんと母さんがあたしの部屋に駆け込んできた。

「彩…」

「父さん・母さん・健司…ありがとう…

  あたし…

  ママイと共にサバンナに行きます。

  もしも…またあえたら、一緒にご飯食べようね…」

あたしがそう言い終えるのを待っていたように

『これを受け取れ…』

ピシっ

木彫りの人形が割れると中からマシパイが出て来た。

チャラ

あたしがそれを手に取ると

「それをしては駄目だ、彩っ」

健司が叫び声を上げる。

しかし、その声にあたしは首を左右に振ると、

マシパイを自分の首に下げた。

『ニヤッ』

ママイの顔が笑う、

ぱぁぁぁぁぁぁ

すると、あたしの周囲が突如光り輝きだし、

周囲の様子が徐々に光の中に消え始める。

「さようなら…」

あたしは思いっきり声を上げた。

「彩っ…」

健司の声がいつまでも響いていた…



…ンモー…

夕暮れ…

あたしはウシ達とともにマサイの村に帰ってきた。

戻るなりアタンダはあたしが持っているシンバの鬣を指差しながら

あたしとシンバとの戦いの様子を長老や村人たちに話しまわっていた。



そして、もぅ一人。

未だ気を失ったままのレナナと言うマサイの女性も一緒だった。

「それにしてもこの女性は一体誰なんだろう…」

あたしは、背中に背負っている女性をちらりと見るとそう呟いた。

「よう、どうしたんだ、その女」

レナナを見るなり集落の男数人が寄ってくる。

「よせよせ、その女はママイを尋ねに来たんだ

 気を失っているのはママイが倒したシンバに襲われたからだよ」
 
アタンダはそう彼女の説明をすると、

「へぇ…それにしても結構美人じゃないか

 こんな女が尋ねてくるなんて、

 お前、ココに来る前何をやっていたんだ?」
 
にやけながらあたしの胸を次々とつつく



「ママイ…」

男達をかき分け長老があたしの前に出てきた。

「長老様…」

「ママイ…シンバを一人で倒してしまうとは

 お前は誰もが認める立派なモランだ」
 
長老はあたしに向かってそう言うと、

チャラッ!!

あたしにトンボ球で出来た2本のマシパイを差し出した。

「これは…モランの証…」

それを見たあたしは思わずそう呟くと、

「そうだ、これをお前に授ける。

 これを身につけ、モランになったからには
 
 堂々と生きよ」

とあたしに告げ、

「さぁ、皆の者っ、ママイがモランになったのを祝おうではないか」

と周囲を見渡しながら叫んだ。

すると、

それに呼応するかのように

「おぉ…!!」

集まっていた男達・マサイから一斉に雄たけびが木霊する。

そしてその夜、

村はあたしがモランになった祝いで盛り上がっていた。

宴席には普段は食せない、牛の肉や、乳で作った酒などが振る舞われた。

そして、宴も酣…になったころ

「ママイ…あの女はどうした?」

あたしが属しているクランを収めているシシバが尋ねてきた。

「取りあえず、あたしの所で寝かしてあります…」

と答えると

「手はつけたのか?」

「いえ、まだ…」

「駄目だなぁ…

 モランになった以上、もぅ遠慮はいらないんだぞ、

 俺の時は……」

とシシバは自分の武勇伝を話し始めた。

未だこういった話が苦手なわたしは頃合いを見計らって席を立った。

ふと夜空を見上げると、月はまだ昇っていなかった。

「はぁ…、

 今度の満月の時、
 
 間違いなくママイはあたしの身体を狙ってくる。

 でも、あたし一人じゃママイは倒せない…

 健司…
 
 あたしを守って…」

あたしはそう思いながら手をギュっと握りしめた。

とそのとき、何故か健司ではなくレナナの姿が思い浮かんでしまった。

「なんで…レナナが…

 まだ、話もしていないのに…」

あたしは不思議に思いながら自分の小屋へと向かっていった。

中にはいると、囲炉裏の炎に照らされてレナナが寝ていた。

綺麗に剃り上げられた坊主頭に、

体をすっぽりと覆うマサイの女の衣装・カンガ、

そして円盤状に作られたトンボ球のアクセサリー・マシパイを身につけている彼女を見ていると

なぜか、健司のことを思い出した。

「確かにこうしてみると美人だなぁ」

あたしは傍らに腰掛けると彼女を見入っていた。

「あたしを追いかけて、サバンナを旅してきた…

 本当に誰なんだろう?
 
 ママイの知り合い…?
 
 と言うわけでもないし…」

パチン!!

囲炉裏の中の木が弾けた。

すると

「うっうぅぅぅぅぅん」

レナナが気づいた。

「えっえぇっと」

彼女にどう対処していいのか判らず、

オタオタしていると、

レナナは起き上がると周囲を見回しながら、

「ここ、どこ?

 センテウ!!」

と人の名前を呼んだ。



「ようやく目を覚ましたね」

と言うと、

「え?」

彼女はきょとんとした顔をしてわたしを見た。

あれ?レナナの目…

健司に似ている…

あたしは、一瞬彼女の目が健司に似ていることに気づき

動揺した。

あたしはなんとか取り繕いながら、

「セっセンテウって言うんですか

 あなたを連れてきた男の人は…
 
 彼はあなたを私に託すと自分の村に帰りましたよ
 
 あなたのことをよろしくって」

そう、あたしと出会ったときの経緯を話すと、

彼女は驚いた顔をした。

あたしはさらに続けて

「私には何のことだかよく分かりません、

 日が昇ったら、あなたをあなたの村にまで送ります。
 
 今夜は寝てください、疲れたでしょう」

と言うとあたしは囲炉裏の炎を眺めた。

「あなたの名は…」

彼女が聞いてくると、

「ここではママイ……と呼ばれています。

 でも昔はアヤと呼ばれていました。

 わたしもこの方が好きです」

となぜか、余計なことまで言ってしまった。

そして、あたしは、

「そう言えば、センテウから聞きましたが

 あなたは私のことを捜していたようですけど、

 どこかでお会いしましたか?」

彼女への一番の疑問を口にした。

するとレナナは立ち上がると

スル…

彼女は身につけていたカンガを脱ぎ裸になった。

炎の光が彼女の裸体を照らす。

すらりと伸びる手足に

ふっくらと美しく盛り上がった乳房、

綺麗にくびれた腰

大きく張り出したヒップ、

彼女の体は女だった頃のあたしよりも彼女は女性らしく美しかった。

あたしが思わず見とれていると、

タン…

レナナはあたしに抱きついてきた、

「えっ?あっ?」

彼女の意外な行為にあたしが驚いていると、

「スキです…」

レナナはそう呟やくと、

フッ…

あたしは何かを嗅がされた

ドン!!

彼女を突き飛ばすと、

「なっ、何をした」

と鼻を押さえながら叫ぶが、

ドクン!!

心臓の鼓動が高鳴る。

しかし、あたしの中に徐々に欲情する気持ちが頭を擡げてきた。

ハァハァハァ…

欲しい…

あの女が…

…あの、女が欲しい…

何時の間にかあたしは自分の股間に手を入れる。

そのときすでにあたしの男根は大きく勃起し、

痛いくらいになっていた。

「きて…」

レナナがそう言って股を開いたとき

あたしはまるで彼女に導かれるように無意識に飛びかかると、

レナナの乳房にむしゃぶりついた。

彼女も抵抗する気配は見せなく、

黙ってあたしを受け入れた。

あたしはレナナの乳首に舌を這わせながら、

彼女の秘所に手を持っていく、

レナナの秘所は濡れていた。



『待て、アヤ、これはワナだ…』

レナナの何かに気づいたママイは声を上げてあたしの行為を阻止しようとしたが

すでに男の本能に支配されているあたしは、

そのまま、自分の一物をレナナの体内へと挿入していた。

アァァァン

レナナは声をあげると絡み付くようにあたしを締め上げはじめた。

「くぅぅぅぅ…これが男の感覚…」

あたしは無意識に腰を動かし始めた。

グチョグチョ

淫らな音が耳をつく

『やめろ…やめるんだ…早くその女から離れるんだ』

ママイが声を上げるが、

あたしは行為を続ける。

アン…アン…アン…

声を上げながらレナナがあたしに抱き着いてきた。

その時…

レナナが隠し持っていた短刀であたしの胸元を突いた。

「なっ」

『ギャァァァァァァ』

悲鳴を上げたのはママイだった。

そう、レナナが持つ短刀はあたしではなく、

レナナの魂が宿っている胸元のマシパイを突き刺していた。

『女ぁ…貴様ぁ…』

ママイの叫び声が響く、

「…油断したな…ママイっ

  彩は返してもらうぞ…」

突き刺しながらレナナが声を上げる。

『そうか…きさまは…あの時の…』

「えっ何?」

私には何がなんだか分からなかった。

ググググググ

レナナの力が強くなる。

『おのれっ…』

ビシビシビシ…

マシパイに亀裂が入り出す。

『やっ、止めろ…止めるんだ…』

ママイの悲鳴が上がる。

「くたばりやがれ!!、この野郎!!」

レナナがそう叫んだとき、

キシキシ

パッキーーン

『ガァァァァァァァ……』

ママイの悲鳴と共にマシパイが真っ二つに割れると

ドォォォォン!!

「ぐっ」

「ぎゃっ」

あたしとレナナは思いっきり床に叩きつけられた。



パチパチ…

気がつくと、何も無かったかのように囲炉裏で火が燃えていた。

「何があったんだ?」

起き上がると、傍にレナナが倒れていた。

「…そうだ、マシパイ…」

レナナを見てマシパイの事を思い出すと、

離れたところに2つに割れたマシパイが落ちていた。

触ってみたが、そこからはママイの気配は感じられなかった。

コトン…



倒れている彼女の手から短刀が落ちた、

「?……!!!!」

その短刀を拾って見てみると

短刀の柄に一枚のプリクラが張られていて、

そこには女の子だったあたしと健司の姿が映っていた。

それは、雷雨の帰り道、

途中立ち寄ったゲーセンで撮ったものだった。



「なぜ……あなたが…

  はっ、まさか…レナナ…あなたは健司なの?」

あたしは彼女の正体に気づくと

「レナナ、起きて、お願い起きて」

そう言いながらレナナの体をゆすったが、

彼女は目を覚まさなかった。

「…起きて…お願い…健司…」

涙を流しながら、そっと彼女に口付けをすると、

「うっう〜ん」

レナナはうっすらと目を開けた。

「良かったぁ」

あたしは安堵感から思いっきりレナナに抱き着いた



「ママイ…?」

レナナがあたしの名を口にすると、

「ううん、アヤでいい…ありがとう健司…」

あたしはそう言うと、短刀を健司に手渡した。

そして、健司があたしのためにサバンナに…

マサイの女になってあたしを助けてくれたことに

嬉しいのと同時にすまないと言う気持ちで

あたしは泣きながら彼女をギュッと抱きしめた。



ンモー…

あれから一ヶ月が経ったが、

ママイが消えても俺の体は元に戻らず、

また健司もレナナの姿から戻れないことを知った俺は、

レナナの希望もあって彼女を娶ることにした。

「いってらっしゃーぃ」

極彩色のトンボ球で出来たマシパイとカンガを身に着けたレナナが

牛を連れて出て行く私を送り出す。

「よ、アヤ…熱いじゃないか…」

アタンダが私の横腹をつつく

「ふん、悔しかったら、

  アタンダも嫁をもらえばいいじゃないか」

そう俺がいうと

「バカ…それこそ余計なお世話だ」

アタンダが言うと、

「さて、行きますか…」

そう言うと俺は歩き始めた。



父さん母さんのところには帰れないけど

でも、ここにはレナナがいる

俺はそう思うと足取りが軽くなっていた。



つづく