風祭文庫・モラン変身の館






「アクシデント」


作・風祭玲

Vol.994





一瞬何が起きたのかあたしには判らなかった。

しこたまあっちこっちにぶつけてしまい痛む頭を抱えながら顔を上げると、

「え?」

割れたフロントガラス向こうに広がる景色は全て逆さまになっていたのであった。

「なにこれ?」

キョトンとしながらあたしはしばしの間その景色を見ていると、

「うっうんっ…」

あたしの左横からうめき声が聞こえてくる。

「え?

 ママ!」

その声を聞いたあたしはハッとするなり、

さっきまで運転席でサファリカーの運転をしていたママを見ると、

ママはシートベルトに体を支えられた姿で気を失っていた。

「そんな…

 そうだ、久美ぃ」

ママの姿を見た後、

あたしは妹のことを思い出すと後部座席を見るが、

しかし、そこには妹の姿は無く、

代わりに天井に荷物に埋もれるようにして気を失っている妹の姿があった。

「あぁ…」

二人の姿を見たあたしはショックを受けてしまうと、

どうして良いのか判らなくなるが、

「とっとにかく、

 表に…」

と自分の体を支えているシートベルトを外し、

天井に落ちないようにクルマの中を移動すると、

ガンッ!

ドアを蹴り開けて表に出る。

その途端、

サバンナの大地にいま沈もうとする陽の光があたしの足元から長く伸びる影を作り、

まもなくこの一帯が夜の闇に閉ざされてしまうことを物語っていた。

「きれい…」

幻想的ともいえるその光景にあたしはしばしの間、見とれてしまうが、

スグにママと久美のことを思い出すと、

あたしは気を失っている二人を横転した車内から救出し、

「ママぁ!」

「久美ちゃぁん

 しっかりしてぇ!」

声を掛けても体をゆすっても返事をしない二人に向かって

あたしはなおも声を上げて体をゆすり続けてていた。

それから程なくして、

「キッ」

「キキッ!」

赤茶けた道路からこの事故の原因を作った獣の鳴き声が響いてくる。

「うっ、

 お前達のせいだぞ、

 お前達が飛び出してくるから」

それに気づいたあたしは白い綿毛のような毛を夕日に光らせ

キョトンとした顔でこっちを見ている獣に向かって涙目で文句を言う。

そう、サファリツアーの最後の日。

あたしとママと久美ちゃんとでマサイ族の村を訪れたのであった。

そして、その村からの帰り道にあの獣が道端からいきなり飛び出して来たため、

それに驚いたママが急ハンドルを切り、

道からはずれたクルマは瞬く間にバランスを崩してしまい横転してしまったのだ。

「どうしよう…」

瀕死のママと久美ちゃんと共に

夕暮れのサバンナに放り出されたあたしは途方にくれていると、

ガサッ!

ガサッガサッ!

クルマの向こう側から何者かが寄ってくる音が響いてくる。

「!!っ

 誰?」

その音に気づいたあたしはあわてて振り返り声を上げて見るけど、

でも、

ガサッ

ガサッガサッ

音はすれどもその音の主は姿を直接見ることは出来なかった。

「まさか…

 ライオン?

 それともハイエナ?」

一瞬、あたしの脳裏にサバンナで暮らす肉食獣のことがよぎり、

あわてて武器になりそうなものを探してみるが、

しかし、サファリカーの備品であるスコップが車体から外れ、

下に落ちているのが見つかるだけだった。

「こっこれで…」

スコップを手にしてあたしは身構えた時、

『・・・・・・』

突然、人の声がするのと同時に、

ヌッ

と黒い顔が車体の向こう側から姿を見せる。

「ひっ!」

それをみたあたしは思わず縮み上がってしまうと、

『・・・・・・』

顔はあたしに何かを話しかけながら、

その全身を見せたのであった。

「まっマサイ…さん」

そう、あたしのところに来たのはマサイ族の男性…

それも、ちょっとお年を召した…というより、

マサイ族の老人・老マサイであった。

『・・・・・・』

老マサイは横転したクルマの中を興味深そう覗いた後、

あたしがクルマの中から引っ張り出したママと久美ちゃんを続いてみる。

そんな老マサイに向かって、

「お願いっ、

 ママと裕未を助けて」

とあたしは懇願すると、

『んん?

 んーん』

老マサイは少し考えるそぶりをして見せたのち、

『・・・・・・』

とあたしに向かって何か話しかけてきた。

「あのぅ…

 何を言っているのか判らないんですが」

言葉が通じないことに苛立ちを覚えながらあたしはそう返事をすると、

老マサイは少し何かを考える素振りを見せた後、

徐に右手をあたしの方へと伸ばし、

『・・・・』

何かを唱えながら、

ピンッ!

っとあたしのおでこを指で弾いて見せる。

その途端、

キーン…

あたしの頭の中を何かが突き抜けていくと、

『わしの言葉がわかるか?』

と言う男性の声が響いた。

『え?

 えぇ?

 誰?』

思いがけないその言葉にあたしは混乱すると、

『どうやら、わしの言葉が通じるようになったようだな、

 ふむ、素質はあるようじゃな』

と老マサイは感心する素振りを見せる。

『うそっ、

 あたしの言葉が判るの?』

老マサイに向かってあたしは声を上げると、

『わしがお前の言葉がわかるようになったのではない。

 お前がわしの言葉を判るようにしたのじゃ』

と老マサイは言い、

『さて、

 それよりもこの者じゃな』

寝かされているママと久美ちゃんを見つめた。

『あの、

 ママと久美ちゃんを助けることは出来るのですか?』

藁をも掴むつもりであたしは老マサイに尋ねると、

『わしは医者ではない。

 オロイボニだ』

と返事をするが、

『オロイボニ?』

老マサイの言葉が判らないあたしは小首を傾げると、

『…人によっては、

 呪術者とか預言者とか言うがのぅ』

とあたしに説明をしてみせる。

『じゃぁ、助けられないんですか?』

それを聞いたあたしは泣き顔になりながら聞き返すと、

『あぁ、

 傷ついた者から直接傷を取り除くことはできない。

 わしが出来るのは命を紡ぐ事だ』

老マサイはそう返事をしてみせる。

『それって一体、

 何が出来るのです?』

無理と判りつつも押し問答に苛立ってしまったあたしは

語気を荒げて聞き返してまうと、

『そうじゃな』

あたしのその言葉を受けて老マサイは考えてみせ、

不意に何かを思い出したような顔をした後、

スッ

徐にあたしを指差し、

『お前の命をこの二人に分け与えることかの』

と言う。

『あっあたしの命を分け与える?』

その言葉の意味を考えながらあたしは聞き返すと、

『そう、言葉の通り、

 お前の体から命を抜き出し、

 瀕死のこの二人にそれぞれ分け与えることじゃ』

『そっそれをすれば、

 ママと久美ちゃんは助かるの?』

『うむ、

 その通りじゃ』

あたしの質問に老マサイは大きく頷いて見せると、

『あっあたしはどうなるのです?』

と命を分け与えた後の自分について尋ねた。

すると、

『それは…

 命を失うたら、死あるのみ』

老マサイは顎をさすりながらあっさりと言う。

『そんな…』

それを聞いたあたしはショックを受け、

ママの横にへたり込んでしまうと、

『どうすればいいの?』

と泣き始めてしまった。

そんなあたしを見かねてか、

『じゃが、

 別の手立てもある』

と話しかけてきた。

『手立て?』

その言葉に聞いた途端

あたしは思わず振り返ると、

チャラッ

老マサイは赤く輝く小さな玉を見せ、

『この中には若くして命を落としたわしの息子の魂が宿っておる。

 この魂をお前が引き受けるのであるなら、

 お前は死なずにすむ』

と話す。

『え?

 おじいさんの息子さんの魂をあたしが?

 それをすればあたしは死なないでいいの?』

それを聞いたあたしは目を輝かせて聞き返すと、

『うむ』

老マサイは大きく頷き、

その後、

『ただし、

 お前が自分の魂を失い、

 その後に息子の魂を受け入れたとき、

 お前はお前で無くなるのだが、

 それでいいのか?』

と問い尋ねてきた。

『え?

 うーん、

 いいわ、

 それでママと久美が助かるのなら』

老マサイの問いにあたしは深く考えずに答えると、

『よかろう…』

老マサイは満足げに頷き、

あたしに寝かされているママと久美ちゃんの頭元の間に

座るように告げたのであった。

そして始まった老マサイ…オロイボニの呪術。

その呪術によってあたしの魂が抜き取られ、

抜き取られた魂はママと久美ちゃんに等しく分け与えられる。

その後、オロイボニの玉に封じられた息子さんの魂が

あたしに植え付けられたのだが。

でも、なにが起きているのかあたしにはさっぱり判らず、

ただそのとき、

ピクンッ!

と体の中を電気か駆け抜けて行ったようなそんな感じがしただけだった。

『?

 なんか凄いことをされたにしては、

 なにも起きてないけど』

さっきよりも幾分血色が良くなったようなママを見下ろしながら、

あたしは自分の身に何も起きてないことをオロイボニに尋ねると、

『スグには判らない。

 しかし、やがて判る』

オロイボニはそう答え、

『さぁ、日が暮れる。

 この者たちをとりあえず村に運ぼう

 お前も手伝うのだ』

とあたしに言うとオロイボニはママを、

あたしは久美ちゃんを背負い、

オロイボニが住んでいるというマサイの村へと向かい始めた。



オロイボニが住んでいるマサイの村は事故の場所から結構歩いたところにあるらしく

すっかり暗くなってしまった夜道を

あたしは前を歩くオロイボニの姿を見失わないように歩き続けた。

そして、歩き続けながら、

『あれ?

 あたしってこんなに目が良かったっけ?』

と自分の目が暗闇のはずなのにオロイボニの姿を見ていること、

さらに長い時間久美ちゃんを背負っているのに疲れが出てこないことに疑問を持つが、

それと同時に、

ヒタヒタヒタ

あたしの背後や横を着いて歩きはじめたいくつかの気配が感じられてくる。

『やだ、

 なに?

 何かがあたしの後ろをついてくる

 それにしても鬱陶しい。

 久美ちゃんを背負ってなければ追っ払ってやりたい』

最初は不安だったけど、

でも急にムラムラとした気持ちがこみ上げてくると、

あたしはそれを我慢しつつ歩いていった。



やがてあたしたちは村に到着すると、

オロイボニは驚いて出てきた村の長に事情を説明し、

そのままあたし達を自分の小屋へと連れて行く。

そして、

『夜が明け次第、

 この村のワゼーが負傷者を助けていること連絡をするそうだ』

とオロイボニはあたしに言うと、

『ありがとうございます』

それを聞いたあたしはオロイボニに向かって礼を言うけど、

『それよりも、

 ここにくる道中、

 ハイエナたちがわしらの周りをウロウロしていたな、

 お前も感じただろう』

と話しかけてきた。

『そっか、あの感じ…って、

 やっぱり動物だったのですか?』

それを聞いたあたしはそう返すと、

『うむ、

 本来、夜移動するのは危険なことだが、
 
 今回は事情が事情だからな』

とオロイボニは言い、

『それよりもよく我慢したな』

そう笑いながらあたしの肩を叩いて見せる。



ママも久美ちゃんもひとまず安心と言うことで安心してしまったのか、

スグに眠気に誘われたあたしはそのままオロイボニの小屋の中で寝入ってしまった。

そして、夜が更けた頃…

『あれ?』

あたしは草原の中で立っていると、

その向こうから一人の人影が近づいてきた。

『誰?』

迫ってくる人影に向かってあたしは尋ねると、

やがて姿を見せたのは赤い衣と大き目のビーズの紐を体に巻いたマサイの少年だった。

『マサイ?

 あなた』

マサイの少年に向かってあたしは話しかけると、

『くすっ』

少年は小さく笑い、

『はじめまして、

 僕はナナク…オレ・ナナクって言うんだ。

 まだキジャーナだけどね』

とあたしに自己紹介をし、

そして、

『君には礼を言わないとならないね』

そうあたしに向かって言うと、

『礼って?』

あたしはその言葉の意味を尋ねた。

『決まっているだろう、

 僕をあの狭苦しい玉の中から出してくれたお礼だよ。

 まったく、父さんと来たら、

 新しい体が見つかったらすぐに出してあげるからと言って、

 僕をあの中に封じ込めたのはいいけど、

 いつまで待っていても出してくれないんだから』

とナナクは父親の悪口を言う。

『お父さんって…

 ひょっとして、

 あたしのママや久美ちゃんを助けてくれたオロイボニのおじいさん?』

それを聞いたあたしは質問をすると、

『そうだよ、

 父さんもすっかり年をとっちゃったな、

 でも、僕が表に出られたら、

 これまで守ってくれていた分、

 僕が守ってあげないとね』

とナナクは笑って見せ、

そして、あたしに一歩近づくと、

あたしの肩や腕、そして脚などを触り始めた。

『ちょちょっと、

 何をするのよ』

ナナクの手を払いのけてあたしは抗議をすると、

『何って…

 既に君は僕になっているんだよ、

 だから僕が君の体を調べるのは勝手だろう』

とナナクは言う。

『何を言っているの?

 なんであたしがあなたにならなければならないの?』

それを聞いたあたしは怒鳴り返すと、

『あはは…

 面白いことを言う。

 君は既に自分の魂を失い、

 僕の魂を受け入れているんだよ』

ナナクはそう言いながらあたしの背後に回ると、

ヒシッ

と後ろからあたしを抱きしめ、

『ふふっ、

 この体は僕の体さ…

 長く待った甲斐があったよ』

そう囁いて見せる。

『誰が…

 ちょっと離れなさい!』

体を左右に振ってあたしはナナクを振り払おうとするが、

『…さぁ、こんなものを着るのはよそう。

 マサイはマサイらしくシュカを身にまとわないとね』

とナナクが呟くと、

ボロッ

ボロボロボロ…

あたしが着ていた服は見る見るボロボロに崩れはじめ、

瞬く間にあたしは一糸纏わぬ全裸となり、

『キャッ!

 やだぁ!!!』

黒い肌のナナクとは対照的な白い肌を晒してしまったことに悲鳴を上げる。

すると、

『白くて綺麗な肌だね…

 君が僕のお嫁さんになるのならそれでいいけど、

 でも、僕にはその肌は白すぎる』

そうナナクが言った途端。

ジワッ

あたしの肌が見る見る色が濃くなり黒く染まりだした。

『やっやめてぇぇ!』

それを見た途端、

あたしは悲鳴を上げると、

『だーめ、

 さっきも言っただろう。

 君は僕なんだよ。

 だから、君は僕にならなくっちゃならないんだ。

 僕のイリガを生やし、

 僕と同じ体になって、

 そして、僕のシュカを巻き、

 ムクキとルングをもって駆け抜けていくんだ』

諭すようにナナクはあたしに告げ、

そして、その言葉を聴くあたしの体には、

股間から起立する肉の棒が体に巻かれた朱染めの布を押し上げ、

布から覗く肌は黒く光り、

槍と棍棒を手に持ったあたしが立っていたのであった。

『やだ…

 やだよ、こんなの…』

赤土が練り込められ結い上げられた髪を震わせてあたしはそう呟くと、

『何を言っているんだ。

 君は僕、

 そして僕はマサイ…

 そう、君はマサイなんだよ』

とあたしの耳元でナナクは囁く。

それを聞いた途端、

『いやぁぁぁぁ!!!!』

あたしは思いっきり声を張り上げ、

そして、

バッ!

飛び起きたのであった。



『はぁはぁ

 はぁはぁ

 ゆっ夢?』

まだ夜は明けきってないのか。

小屋の外からは白いながらも弱弱しい光が中へと入り、

起き上がったあたしの足元を照らしている。

『あはは…

 そうよね、夢よね。

 あたしがマサイになんて、

 なれるわけ無いじゃない』

夢の中のこととはいえ、

マサイ族になってしまったことに背筋を寒くしながら

あたしは乾いた笑いをしてみせると、

スッ

と腕を伸ばし両腕を自分の前に突き出してみせる。

けどその途端、あたしは思わず息を呑んでしまうと、

『え?

 え?

 なっなにこれぇ!!』

と困惑した声を上げながらあたしは突き出した手の肌の色を調べ始める。

そう、あたしの両手の肌の色がいつの間にか褐色に染まり、

さらに腕だけではなく肩も足も

そしてお腹の色も染まっていたのであった。

『なっなんで…』

小屋の外でシャツをめくり上げ、

薄暮の下、

目に入る全ての肌の色が染まっていることにあたしは呆然としていると、

ジワッ…

次第にあたしの胸の奥にモヤモヤとした感覚が沸き起こり、

それと共に、

ズクン

ズクン

ズクン

とお股の中が疼き始める。

『なに、これ?』

これまで感じたことが無かったその感覚にあたしは座り込んでしまうが、

しかし、モヤモヤした感覚と股間の疼きは収まるどころか、

時間の経過と共に強くなってきた。

『はぁはぁ、

 はぁはぁ、

 なによこれぇ!!

 あぁ…

 なにか…

 じっとしていられない…

 くぅぅぅ!!』

止め処も無く沸き起こってくる疼きを諌めようとして

あたしは股間に手を居れ、

クニクニとその真ん中にある溝を弄ってみると、

クチャァ…

溝の周囲はすでに湿っていて、

指を動かすだけで粘性を持った音が響いてくる。

『うん…

 うーん、

 んくぅ』

声をかみ殺してあたしは唸り声を上げるていると、

ミシッ

ミシミシミシッ

今度は体中の骨が軋むような音が響き始め、

メリッ!

メリメリメリッ

っと体格が変わり始めたのであった。

ギシギシ!

メリッ!

メリッ!

『あうっ

 んぐっ』

音と共にまるで真綿で首を絞められるような息苦しさに、

あたしは両手を地面につけ必死に耐えるが、

次第に呼吸さえもままならなくなったとき、

ジワッ!

『熱い…

 熱い…』

体の奥から蒸し焼きにされるかのような熱さが沸き起こり、

それにあたしは苦しみ始める。

そして、

『くはぁ

 はぁはぁはぁ

 死ぬぅぅぅ

 死んじゃうよぉぉ』

身を横たえ口を大きく開けながらそう訴えていると、

ギシッ

ギシギシッ

変化していく体に着ていた服のサイズが合わなくなってきたのか、

見る見る突っ張っていくと、

『うんっ!』

何かの拍子で体に力をこめた途端、

ビシッ!

ビリビリビリ!

と音を立てながら服が引き裂けてしまった。

しかし、服が引き裂けたのと合わせて急に呼吸が楽になってくると、

『はぁ…』

あたしは大きく息を吸って呼吸を整え、

しばしの間、

苦しみを忘れて朝の空をじっと見つめていた。



『そんなところで何をしている』

不意にオロイボニ声が響き渡ると、

『はっ!』

あたしは飛び起きるなり、

声が響いたほうを見る。

すると、

オロイボニが険しい顔であたしの方を見ていたが、

急にその表情が緩んでしまうと、

『おぉ…

 一晩でそこまで変わったか、

 すっかりキジャーナらしくなったではないか、

 ナナクよぉ』

とうれしそうに声を掛けながらあたしを抱き寄せてみせる。

『変わった?』

オロイボニのその言葉にあたしはハッとすると、

急いでオロイボニの腕を振りほどき、

自分の両腕の肌を見る。

すると、

あたしの肌は褐色からさらに濃さを増し、

黒く光るようになっていた。

『うそぉ!!!

 なっなにこれぇ!』

オロイボニの肌の色とどちらが濃いかと思えるほどの自分の肌の色を見て

あたしは悲鳴を上げてしまうと、

『どうした?

 なにをそんなに驚いておる』

オロイボニは尋ねる。

『あっあっあっ

 こっこれ…』

その声にあたしは両腕をそろえてオロイボニに見せると、

『ん?

 何か問題でもあるのか?

 マサイは皆その色をしているぞ』

とオロイボニはさらりと受け流してみせる。

『問題がって…

 はっ肌を見てください。

 こんなに黒くなっているだなんて、

 それに体も…

 あぁ…なにこれぇ、

 体がまるで男の人みたいになっている』

そう訴えながらあたしはオロイボニを見ると、

『だからなんだと言うのだ。

 昨日、お前はわしの息子…

 勇者の魂を受け継いだんだ。

 それが作用しているだけのことだろう』

とオロイボニは言い、

『下も見るといい、

 モランのイリガが生えているはずだ』

そう指摘してきたのであった。

『イリガって?

 まさかオチン…』

それを聞いたあたしは青くなりながら

縫い目からバックリと裂けているズボンに手を掛け、

急いで引き降ろしたとき、

プルン!

と小さな小さな肉の突起があたしの股間から突き出したのであった。

『そんなぁ…』

驚愕の光景を見たあたしはへたり込んでしまうと、

『ほぉ、立派なイリガではないか。

 まもなくお前はマサイになる。

 わしの息子・ナナクとなるのだ。

 ふふっ、

 そのイリガもそんな大きさではなく、

 長さも太さも硬さも増し、

 さらに精も通うようになうぞ、

 どれ、ひょっとしたら既に精は通っているかも似れないな』

そういいながらオロイボニは手を伸ばし、

あたしの股間をまさぐって見せると、

グィッ!

っと生えたばかりの突起をひっばり出したのであった。

『はぅっ、

 お願い、

 手を離してください

 かっ感じちゃって』

顔を出したばかりの突起を乱暴に握られたことで、

あたしは許しを請うおうとするが、

『何を言う、

 モランたるものはじっと我慢をするものだ』

とオロイボニは言うなり、

キュッ

キュッキュッ

と扱き始める。

『あぐっ、

 んあっ、

 だめ、そんなにキツクはだめ』

弄られる快感をビンビンと感じながらあたしはそう訴えるが、

『耐えるのじゃ。

 そして胸の奥に抱えているモヤモヤしたものを、

 ここへと押し込むのじゃ』

とあたしに言い聞かせた。

『え?

 知っているの?

 このモヤモヤしたものを』

それを聞いたあたしは思わず聞き返すと、

『そうじゃ、

 我が息子・ナナクの魂が根付いたお前の胸の奥には

 モランの熱き力が湧き出ておる。

 さぁ、その力をイリガへと注ぎ、

 そして、勇者の証を立てるのじゃ』

とあたしに言う。

『そっそんなことを言われても、

 あんっ、

 だから、強く握らないで、

 あはっ、

 んくっ』

キュッ

ムギュっ

ギュゥゥ…

オロイボニに肉の棒を引っ張られながらもあたしはそう訴えるが、

ググッ

ググググ…

次第に肉の棒は伸び、

そして太さと硬さを増していくと、

『おぉ…

 だんだんイリガらしくなってきたぞ、

 太さも

 長さも

 硬さも

 うん、さすがはわしの息子じゃ』

とオロイボニは褒め称える。

その一方で、

『あんっ

 はぁんっ

 あぁぁっ

 なに…

 お股が熱く…

 何かが溜まってきた…』

次第に強くなってくるその力を感じつつあたしは身悶えると、

『限界に来ているのだろう。

 わしには判るぞ。

 思いっきり吐き出すがいい。

 そして、

 モランの雄たけびを上げるがいい!』

と言いながらオロイボニは思いっきり肉棒を掴みあげる。

その瞬間。

パチン!

あたしの中であたしが弾け飛んでしまうと、

プッ!

シュッ!

シュッシュッシュッ!

あたしは思いっきり白いオシッコを飛ばしてしまったのであった。

そしてジンジン響いてくる余韻に浸りながら、

ミシミシミシ

体中が一気に作り変えられていくのをただ感じていたのであった。



『いま戻った』

その日の夕方、

オロイボニが小屋に戻ってくると、

『おっお帰りなさい。

 父さん…』

なれない言葉を言いながら、

腰にシュカ1枚を巻いただけのマサイスタイルとなっているあたしは出迎えた。

『ほぉ』

それを聞いたオロイボニは少し驚いた顔をして見せると、

『ついに私の息子になる決心がついたか』

と嬉しそうに言いながらあたしの頭を2・3回叩いて見せる。

『うっうん…』

その言葉にあたしは頷くと、

『そうか、

 わしの占いでは

 ”今日中にお前が決心する”

 と出ていたからな。

 すでにその準備をしておいた』

とオロイボニはあたしに言う。

『え?』

そのことにあたしは驚くと、

『そんな顔をするでない。

 既にイリガをもっているであろう。

 お前はマサイのキジャーナじゃ』

とオロイボニは指摘する。

『僕はキジャーナなのですか』

いつの間にか勃起したのか

ペニスが突き上げている股間を思わず押さえてあたしは聞き返すと、

『さっ、

 わしの息子となる儀式を始めるぞ、

 そして、その儀式の後はモランとなるための最初の儀式、

 割礼を行う』

そうあたしに告げてオロイボニは小屋の奥へと行くと、

ほぼ牛一頭分と思える一枚の毛皮を持ってくるなり、

バサッ!

小屋の入り口の前に敷いてみせる。

そして絞ってきたばかりのミルクが入った甕を持ってくると、

『さっ、

 何をしておる。

 シュカを取りこの上に座るのだ』

とあたしに指示をする。

『これを取るのですか?』

それを聞いたあたしは驚きながら聞き返すと、

『当たり前だ。

 さっきも言った通り、

 私の息子の魂を取り込み、

 そしてイリガを持ったお前はマサイだ。

 さぁ、それを取りここに座るのだ』

とあたしに指示をする。

『………』

オロイボニの言葉を聞いてあたしはしばし無言でいたが、

しかし、この場から逃げ出すことも出来るわけも無く、

『はい』

小さくうなづいて見せると、

シュカを取り去って全裸となりオロイボニの前へと進んでみせる。

『ふむ…

 まだまだじゃが、

 でも立派な体になったな…』

乳房の代わりに胸板を盛り上がらせ、

さらに腹筋や体中の筋肉を発達させたあたしの体を見ながら

オロイボニは感心してみせると、

『…僕の体、

 さらに変わるのですか?』

とあたしは問い尋ねる。

すると、

『あぁ…

 いまは貧弱じゃが、

 だが、さらに段々と大きく、

 そして逞しくなっていく、

 さぁ、座りなさい。

 お前の体をミルクで清め、

 そして古い毛を全てそり落とす』

とあたしに告げると、

あたしは言われるままオロイボニの前に座り、

その直後、

バシャッ!

あたしの体にミルクが掛けられ、

掛けられたところに刃物が当てられると、

オロイボニはあたしの体を剃り上げていく。

そして唯一残っていたあたしの証である髪が剃り落とされていまうと、

髪の代わりに牛乳で溶いた赤土が剃られた頭に塗られ、

さらに顔の周りから胸元首筋へと塗られてしまうと、

あたしの首から上は真っ赤に染まってしまったのだった。

『うむ…

 キジャーナになったな』

赤土の朱を頭の先から胸元に掛けて見せるあたしを見ながら、

オロイボニは大きくうなづいて見せると、

『さぁ、

 続いて割礼をするぞ、

 これを行えばナナク、

 お前は男となり、

 モランの道を進むことになる』

とあたしに言い聞かせ、

刃物を替えると、

まだ生えて間もないあたしのペニスの皮を大きく引き伸ばして見せたのであった。




『ハァハァ

 ハァハァ』

赤茶けた道が伸びていく道の脇で荒い息が響き渡ると、

すっかり骨太になった体を晒しながら、

あたしは股間から伸びるオチンチンを扱いていた。

割礼を受けてから既に数ヶ月が過ぎ、

無論傷はすっかり癒えていた。

そして、キジャーナからモランの一員となっていたあたしは、

生え始めた縮れ毛を赤土で練り込めている頭を振り、

モリッ!

筋肉を盛り上げ痩身ながらも

見事な逆三角形を描く体を見せ付けるようにして扱き続ける。

「ハァハァ

 ハァハァ

 ママぁ…

 いまどうしているの?

 事故の怪我は治ったの?」

扱きながらあたしは数ヶ月前にこの場所での出来事を思い出しながらそう呟くと、

「あのね…

 あたし…マサイになっているのよ、

 黒くて逞しいこんな体になっているの』

と言いながらさらにオチンチンを掴む手を早めていくと、

「あぁ…

 はぁぁ…

 はぁぁぁん…

 でっでるぅぅぅ!!!」

顎を上げ、

体全体の力を大きく入れた。

そして、

プッ!

シュシュシュシュッ!!!

赤茶けた道路にめがけて白い放物線を描いてみせると、

「ふーっ」

事を終えたあたしは大きく息を吐きながら立ち上がり、

そして、脇に置いていた朱染めの布・シュカを体に巻いてみせる。

「ママ…

 久美ちゃん。

 お姉ちゃんのことは心配しないでね。

 このサバンナで立派なモランになって見せるから」

道路上に点々と残る跡に向かってあたしはそう呟くと、

ムクキとルングを手にし歩き始めた。



おわり