風祭文庫・モラン変身の館






「モランの魂」


作・風祭玲

Vol.947





ブッ

ブブッ

虫の羽音が耳元で響き渡り、

サ…

サッサッ

ササササッ

剥きだしとなっている肌の上を何匹もの虫が這う感触が動いていく。

「…っ」

体中から感じてくるその感覚に”ぼく”は深い眠りの奥底より呼び覚まされてしまうと、

無意識に体を揺すってしまう。

その途端、

ブンッ!

ブブブッ!!

飛び上がっていく羽音が一斉に響き渡り、

同時に虫が這いまわる感覚が消えていくが、

しかし、それもつかの間、

一度が消えたはずの這い回る感覚が1つ、2つと戻ってくると、

また”ぼく”の体の上を移動し始めた。

「う…んっ」

ジワジワと肌の上を這いずり痒くなってくるその感覚に”ぼく”は再び眠りにつけることが出来ず、

ついに我慢できなくなってしまうと、

手でそれらを払いのけるようにして疼く場所を掻きはじめた。

しかし掻けば掻くほど体のあちこちで痒みが沸き起こり、

”ぼく”の手は体の求めに応じて方々を掻き始めた。

すると、

ムクムクムク…

萎えていた”ぼく”のオチンチンが急に突っ張り始め、

そして、

ビンッ

と突き出してしまうと、

身体のあちこちを掻いていた手が自然と股間へと向かっていき、

ギュッ!

その股間の真ん中で痛い程に固く伸びきっているオチンチンを握り締めると、

シュッ…

シュッ…

いきり立つ諌めるがごとく手を動かし始めた。

「ふんっ

 ふんっ」

手を動かすごとにオチンチンから響いてくる快感を感じつつ、

次第に鼻息を荒くしながら”ぼく”はさらに手を動かして行くと、

ジワッ

オチンチンの付け根に熱いモノが溜まってくる。

「んふっ

 んふ

 んふ」

鼻息をさらに荒くしながら一気にそれを吐き出そうと、

オチンチンを強く握り締めて扱こうとした途端、

『ンタァム!』

人の声が”ぼく”の耳元で響き渡り、

ピシャリ

と肩が叩かれたのであった。

ハッ!

その途端、

”ぼく”は慌てて飛び起きると、

周囲は漆黒の一字がぴたりと似合う暗闇であり、

その真っ暗な世界の真ん中で

ジジジ…

所々から赤々とした光を漏らしほぼ燃え尽きている焚き火が目に入った。

「あれ?」

焚き火の光を見つめながら”ぼく”はキョロキョロしていると、

『ンタァム!』

少し離れた所からさっきの男の声が響く。

『はいっ!』

その声に急かされるようにして”ぼく”は立ち上がった途端、

カシャッ

チャラ…

首に巻かれているビーズの首飾りと

両肩から胸で交差し脇に伸びて行くモランの証・マシパイが触れ、

軽く音を立てた。

「うっ」

その音に”ぼく”はいま自分が置かれている身上と、

立ち上がった身体には飾り以外何も身に着けていないことを知らされる。

「あぁ…」

それに気付いた”ぼく”は慌てて寝床にしていたシュカを探し始め、

地面の砂に半分埋もれていた2枚のシュカを見つけ出すなり、

それを拾い上げると、

パンッ

と砂を叩いてみせる。

『グズグズするなっ!

 もぅすぐ日が昇るぞ』

モタモタしている”ぼく”を嗜める声が響き、

「はぁぃっ」

シュカを身にまといながら”ぼく”は返事をする。

そして、近くに突き刺していた槍を引き抜いて、

『遅くなりました』

の声と共に僕は声の主の所へと向かって行くが、

合流した僕を待っていたのは、

ゴツ!

いきなり降ってきた鉄拳と、

『バカ野郎、

 何時まで時間が掛かっているんだ!』

と響く怒鳴り声だった。

『すみません』

殴られた頭を手で押さえながら”ぼく”は声の主である影に向かって謝ると、

『今度寝坊したら、

 お前が一人でウシの柵を退けるんだ』

と影は言う。

『はい』

その指示に僕は返事をすると、

『おーぃ、

 お前達、

 何を遊んでいるんだ』

別の所から声が響き、

『おぅ』

その声に向かって影が応えた。

そして、

『行くぞ!』

僕に向かって指図すると、

クルッ

僕の目の前に立つ影が動き、

”ぼく”は無言でその影の後を付いて行く。



痛む頭を時折押さえながらふと周囲を見ると、

頭上の空には星が瞬くもの

しかし、夜明けが近いのか東の空が白み始めていた。

「…………」

歩きながら”ぼく”は刻々と色を変えて行く空を眺めていると、

『ンタァムっ!』

”ぼく”の名前が呼ばれた。

『はいっ』

その声に”ぼく”は振り返ると、

ンモー…

モー

と静かに啼き声をあげるウシの群れが前に迫っていた。

そして、そのウシの群れの一角では影絵のように動く人の姿があり、

ザザッ

ザザザッ

ウシを狙う獣を除け、

さらにウシの脱走を防ぐために周りを取り囲んでいた茨の枝が徐々に動かされていた。

それを見た”ぼく”はすぐにその場に駆けつけると、

一緒になって枝を動かし始めた。

やがて、地平線から光が差し込み夜が明けてくると、

ンモー…

ウシの群れはゆっくりと動き出し、

その群れを挟むようにして

黒い肌を輝かせ、

朱染めの衣・シュカを身にまとい、

手に槍を持つ痩身の男達が歩いて行くと、

その男達の中に”ぼく”の姿があった。



マサイ…

皆からそう呼ばれている野生部族の元に来て、

既に3ヶ月が経とうとしていた。

それ以前に”ぼく”はこの部族のことを全く知る機会も無かった。

しかし、ある事件が”ぼく”とマサイを結びつけたのであった。

それは…

”ぼく”にとって大切な人が姿を消してしまった事件であった。

『行って来るね』

その書置きを一枚残して”ぼく”の前から姿を消した女性…美保。

小さいころからいつも一緒に居て、

そしていつの頃からか気に掛かるようになっていた女性。

その彼女が忽然と姿を消してしまったのであった。

無論、その事を知った”ぼく”は直ぐに彼女の所在を求めて探し回ったが、

だが、いくら探しても”ぼく”が知りえる範囲で美保の姿を見つけることは出来なかった。

そんなとき、ひとつの手がかりが”ぼく”に提示されたのであった。

それは美保が姿を消す直前。

とある博物館にいたという事実。

その事を知った”ぼく”は急いで彼女が最後に目撃されたという博物館に赴き、

美保がじっと見つめていたという展示物を見たのであった。

それは1枚の古風な鏡であった。

博物館の館員の人に由来を尋ねても、

何故か皆、知らないと言う答えしか返ってこない。

その奇妙さに”ぼく”は惹かれ確信した。

「美保の失踪とこの鏡は関係ある」と

その日から”ぼく”は美保とこの鏡とのつながりを求め、

程なくしてこの鏡が100年前、

当時の大英帝国が支配していたアフリカ東海岸から持ち出されたこと、

そして、鏡にはある呪いが掛けられていると言うことを知った。

呪い…

そう聞かされて”ぼく”はこれ以上踏み込んで良いのかと、

気持ちが一瞬萎えたものの

しかし、美保の失踪とつながりが見えているだけに

このまま手を引くことは出来なかった。

そして”ぼく”の思いが通じたのか、

ある日、頑なに沈黙を守っていた鏡は発動し、

まばゆく光る鏡に吸い込まれた”ぼく”がそして気が付いたとき、

”ぼく”の前には広大なサバンナの景色が広がっていたのであった。

何も準備がなくいきなり放り出されたサバンナ…

最初の数日間はまさに死ぬ思いの日々であった。

そして、何とか生き残ることができた”ぼく”はついに美保と再会を果たしたのだが、

しかし、再会した美保は”ぼく”が知っている姿とはまったくかけ離れた姿になっていた。



『ホーッ』

『ホーッ』

”ぼく”がサバンナに来たときのことを思い出していると、

突然、周りがそのような声を上げ、

次々と槍を持つ手を掲げてみせる。

その声を聞いて”ぼく”は顔を上げると、

”ぼく”達の向かう先には手に槍を持ち、

持ち上げた片足を地面についている足の膝に当てる仕草をしている人影があった。

”ぼく”達のキャラバンを纏めているマサイの戦士・モランである。

皆からは”ホー”と呼ばれる痩身の戦士は実は”ぼく”達が出発する以前に先に発ち、

コースの様子を見てきたのであった。

「美保…」

朝焼けの中に立つモランを見ながら”ぼく”はふとそう漏らす。

倒したライオンの数を示すビーズの飾り・マシパイ幾重にも巻き、

無駄なく発達した筋肉とそれを覆う漆黒の肌に、

伸びた髪の毛を選り分け赤土を練り合わせて紐状にした髪を美しく束ねたモランの姿は

ある意味、神々しさをも感じられる。

でも、そのモランこそあの美保が変身した姿なのであった。

美保がマサイの男となり、

さらに戦士・モランとなっていた。

サバンナをさ迷い歩いてやっとの思いで美保を見つけ出し再会を果たした”ぼく”にとって、

この事実は言いようもないくらいにショックな出来事だった。

でも、いくら否定しようとしても、

”ぼく”の前で恥ずかしげに顔をそらしてみせる美保は

頭から足の先まで見事なくらいにモランとなっていたのであった。

『ごっごめんなさい…』

割礼っていうのだろうか、

強引に皮を切り取られ、

亀頭が剥き出しになってしまったオチンチンを”ぼく”に見せ付けながら、

美保はそうつぶやくと、

『見て…あたしの体…

 どこから見てもモランでしょう…

 モラン達からお尻にいっぱい魂を注ぎ込まれたの…』

と彼女、いや彼は”ぼく”に向かってマサイに変身した理由を告げたのであった。

そして唖然とする”ぼく”に向かって、

マサイの呪術師がよってくるなり、

『この者を元の姿に戻したいと思うのであるなら、

 お前がこの者からモランの魂を受け継ぐのだ』

と”ぼく”言ったのである。

美保を元の姿に戻すには”ぼく”が代わりにマサイになる…

その衝撃の事実に”ぼく”は困惑し、

そして悩んだ。

どうやったらあの博物館に戻れるのか、まったく見当もつかない状態の中、

”ぼく”は考え抜いた末、

意を決してモランとなった美保に懇願したのであった。

「ぼくが美保の代わりにマサイになると…」

無論、美保は即座に断ったが、

しかし、”ぼく”は諦めることなく彼を口説いた。

そして、それが通じたのか、

ある晩。

美保はいきり立つオチンチンで僕のお尻を犯したのであった。



美保が”ぼく”の前から姿を消してから、

そして”ぼく”が鏡を通じてサバンナに来たのはひと月後だった。

しかし、美保からすると、

鏡のサバンナに着てから3年の月日が過ぎているのだという。

気づかない間に”ぼく”と美保との時間が大きく開いてしまっていた。

そして、その時間の間に美保は漆黒の肌を輝かせ、

真っ黒なオチンチンを持つマサイの戦士に変身してしまったのだ。

美保が大勢のモラン達から注ぎ込まれた魂を、

”ぼく”もお尻で感じてしまったとき、

”ぼく”もまたモランへの道を歩み始めたのであった。

オチンチンの皮は美保に犯された次の日に切り取られ、

服は朱染めの衣・シュカへと変わり、

そして、髪の毛に赤土が塗りこめられるとそれを縒られる。

だいぶ黒味を増してきた自分の肌をふと見ると、

タタタッ

”ぼく”達の到着を待っていたモランは”ぼく”の元へと走りより、

『今夜…

 判っているな』

と言葉短めに耳打ちをした。

『はい…』

”ぼく”の口からその言葉が漏れたとき、

ジワッ

”ぼく”の肛門は疼きはじめていたのであった。



おわり