風祭文庫・モラン変身の館






「夢の世界」
(風子の場合)


作・風祭玲

Vol.863





チー…

チー…

チー…

生い茂る草むらの中より虫の乾いた泣き声が響きわたるとある夏の夕方。

「暑い…」

白い夏セーラーを汗に濡らしながら
]
増戸風子はバス停から自宅に向かって続く道を歩いていた。

日中、この夏一番と言われる猛暑をもたらしていた日差しは既に西の山の中へと没し、

風子が歩く道には夜風となる風が吹き始めて来るが、

だが、

ムワッ!

日中の暑さが厳しければ厳しいほど夕方以降の気温もまた高めとなり、

吹き寄せる風もまた日中の猛暑を思い起こすのに十分すぎる温度を持っていた。

「あーぁ…

 何で補習なんて受けるハメに…」

後頭部に結い上げた髪を汗に濡らし、

空ろな視線で前を見ながら風子は愚痴を漏らしはじめる。



事の起こりは期末テストの返却の日。

「これから名前を呼ぶ者は夏休み中に補習授業があるから覚悟しておけ」

教壇に立つ担任はテストの結果を見て喜ぶ者、

落ち込む者が入り混じるクラスに向かってそう声をあげると、

補習者の名前を読み上げ始めた。

そして、その中に風子の名前があったのである。



「ただいまぁ…」

風子の力の無い声が薄暗い自宅の玄関に響き渡るが、

しかし、その声に返事をする者はなく、

風子の声だけが空しく響き渡っていく。

「って誰も居ないのよね」

反応が無いことに風子はあきらめ半分にため息を付くと、

放り投げるようにして靴を脱ぎ捨て、

そのままキッチンへと向かっていく、

そして手にしていたカバンを放り投げると、

グビッ!

冷蔵庫の中から取り出した牛乳500mlパックを一気に飲み干したのであった。

「はぁ美味しい…

 生き返るわぁ…」

帰宅途中に蒸発した分の水分を補給し、

風子はそう言いと空になってしまったパックをゴミ箱へ放り込み、

さらに着ていたセーラーの上着とスカートを脱ぎ去ってしまうと、

下着姿のままダイニングの椅子に腰掛ける。

「はぁ…」

ため息を付きながら風子は椅子に身体を預け、

そして、テーブルの向こう側の壁に掛けられている予定表を眺めながら、

「お父さんやお母さん、隆たちと一緒に沖縄に行きたかったなぁ…」

とぼやき始める。



「じゃぁ、ふぅちゃん。

 お留守番をお願いね」

「一人だからって寝てばかりじゃなくて、

 ちゃんと、補習授業は受けるんだぞ」

「おねえちゃん、

 お土産買ってくるからね」

その言葉を残して風子の両親と弟が商店街の福引で当てた沖縄旅行へと向かったのは

ほんの三日前のことであり、

旅行の期間に当てはまるかのように補習を受ける羽目になってしまった風子は

自動的に留守番となってしまったのであった。

「あーぁ、

 なんか、何もしたくないなぁ…」

灯りもつけず、

夜の闇が覆ってくるダイニングの中で風子はテーブルに伏せながらぼやくと、

「大体、一介の女子高生がアフリカの地理を知ってなんになるって言うのかしら!

 まったく無意味だし。

 はっきり言って時間の無駄だと思うんだけど」

と愚痴をこぼす。

そして、小一時間近くそのままの格好で居たが、

ツツー…

牛乳を飲んだことによって水分量が増えた風子の身体は多量の汗を吹き出しはじめ、

昼間の空気を抱き続けるダイニングキッチンは風子にとってサウナへと変わり始めていた。

「暑わねぇ!!!!」

流れ落ちる汗を拭いながら風子は声をあげると、

パンッ!

気合を入れるかのように両膝を叩き、

「とにかくプリントをしなきゃぁ」

と放り投げていた制服とカバンを手に取り自室へと向かって行った。



「えーと、なになに?、

 アフリカ大陸東側を南北に貫くナントカは人類発祥と深いつながりがあり?

 ってナントカってなんだっけ?

 まぁいいや、次っ、

 アフリカ大陸で唯一欧州列強による植民地支配を受けなかった国は?

 そんなの知らないわよっ

 現在、スーダン南部ダルフール地方ではイスラム系民兵組織による

 地元住民への重大な人権侵害があり…欧米各国並びに国連は…

 あーだめだ、こういう問題って聞いただけで頭が痛くなる。

 アフリカ中央部のサバンナには数多くの野生動物が生息し、

 各国政府は自然保護区を設け、動植物の保護に務めています。

 サバンナに生息する主な動物の名前を上げよ。

 あっこれは簡単そうね、

 えっとぉ、ライオンでしょう、アフリカゾウに…」

夜。

相変わらず冷め切ってない夜風が吹き込む自室の中で風子は机に向かい、

補習の宿題として渡されたプリントに答えを書き込んでいく、

そして、答えの大半を空白のままにして、

「はぁ。もーだめ!」

その声と共に風子は座っていた椅子から転げ落ちるようにして床の上に寝転がってしまうと、

「なんでエアコンが壊れたのよっもぅ」

と昨夜故障をしてしまったエアコンへの八つ当たりをするかのように、

自分に向けて風を送っていた扇風機を脚で小突いて自分の方に向かせる。

「あぁ…

 そういえばまだ夕ご飯食べてなかったな…

 セブンで何か買ってこようかぁ、

 それにシャワーも浴びてないし、

 はぁ、ダメ…

 もぅ何もやる気は起きないよぉ」

日中の疲れもあってかぐったりと寝転ぶ風子は額に汗だくの腕を乗せたとき、

フワァァァ…

そんな風子の宥めるかのように汗だくの頬を風が吹き抜けていくと、

ハラリ…

机の上に置かれていたプリント用紙の一枚が風に飛ばされ、

ぺタリ

と風子の顔に張り付いてしまった。

「なによっ」

張り付くプリンを鬱陶しく思いながら風子はそれを引き剥がすと、

「えーと、

 アフリカのサバンナでは家畜と共に遊牧生活を送る部族が居ます。

 特に戦士として有名なマサイ族は他の部族と違い、

 かたくなに自分達の生活スタイルを守っていて…」

とプリントに書かれている内容を読みあげ、

「マサイの戦士かぁ…

 なんかピョンピョン飛んでいた気がしたけど、

 でも、なんか憧れちゃうなぁ…

 はぁこんな補習に追われないで、

 手にしている槍一つで生きていけるだなんて、

 なんか羨ましい」

と風子はそう漏らし始め、

そして、

「夢でいいから、

 なれるものならなりたいな…マサイに」

と呟いたのであった。



サァ…

その瞬間、彼女の言葉に答えるかのように風が吹き抜けると、

グゥ…

風子のお腹から空腹を訴える音が響き渡り、

「あぁ

 なんか食べなきゃ…

 でも、食欲無いんだよね」

おなかを押さえながら風子は起き上がり、

再びキッチンへと向かっていく。

そして、

「これで、済ませるか」

と言葉と共に冷蔵庫から買いだめていた500ml入りの牛乳パックを取り出した。

「全くお母さんたら安かったからってこんなに牛乳を買い込まなくても良いのに

 うちは牛乳屋かっていうの!」

そんな文句を言いながらも風子は牛乳に口をつけると、

またしてもパックごとのみ干してしまう。

そして、

「はぁ、この味ってなんか牛乳とは違うんだけど、

 でも、なんか癖になるのよね」

と言いながらシゲシゲとパックを見つめ、

そのままパックをゴミ箱に放り込むと、

”アフリカ原住民の低脂肪体質を徹底的に科学しました。”

と言う文字がパックに躍っている。

しかし、風子はそんな文句を気にせずに、

「さて、プリントの続きをしようか」

そう言いながら自室へと向かっていったのであった。



サラサラ…

サラサラサラ…

深夜、明かりが消えた風子の部屋に細かな砂と土が入り込んでくる。

サラサラ…

サラサラサラ…

窓から入ってくる砂や土は窓際のベッドの上で寝ている風子の体の上を乗り越え、

床に積もると風の流れにそって文様を描いていく、

すると、

「うっうーん…」

寝ていた風子の口から声が漏れ初め、

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

次第にその声は苦しそうな息遣いへと変わって行く。

そして、

サラサラサラ…

窓から砂が吹き込む中、

風子は苦しい息遣いを続けると、

パサッ…

身体にかけていたタオルケットが床に落ちてしまううが、

ジワッ…

そのタオルケットは赤茶に染まる木綿布へと変化してしまい、

ススス…

吹き寄せられるように壁際へと向かっていった。



翌朝。

「なっなにこれぇ!」

目を覚ました風子は部屋の中を埋め尽くす砂と土に驚くと、

「なっ何がおきたの?

 え?

 え?」

思わず頭を抱えてしまった。

そして、

「とっ、とにかく学校に…」

そう思いながら腰を上げたとき、

「うそっ、

 あたし、裸…」

その時になって風子は自分が全裸になっていることに気づいたのであった。

「ちょちょっとぉ

 どうして

 どうして?」

全く理解不能な事態に陥りながらも風子は壁にかけてあるセーラー服を見るが、

しかし、そこには昨日まで着ていたセーラー服の姿は無く、

代わりに赤や青・白・黒のトンボ球を組み合わせた飾り紐がいくつも掛かり

その下には赤茶けた木綿布が落ちていたのであった。

「そんな、制服が…ない!」

それを見た風子はショックを受けると、

「ないっ

 ないないないっ

 制服が…

 そんな…」

と探しまくるがいくら探しても砂だらけの部屋のどこにも制服が無かった。

しかも、制服だけではなく風子の私服も下着すらもタンスやクロゼットの中から着え、

風子の身体に着せる物はどこにも無かったのであった。

「どうしよう…

 着るものが無い…」

立つ力を失ったかのように風子はペタリとベッドの上に座り込んでしまうと、

パタッ

そのままベッドの上に仰向けになって倒れこんでしまった。

そして、

「困ったな…学校どうしよう」

と呟いていると、

グラァ…

急な眩暈と激しい頭痛を感じ、

「あっ

 頭が…痛い」

風子は呟きながら気を失ってしまったのであった。



サラサラサラ…

風子が気を失ってから砂や土は吹き込むことを再開し、

さらに赤茶けた土が混じり始めると、

徐々に彼女の部屋の壁を土壁へと変えていく、

そして、

バサァ…

砂と土まみれになっていた机が土人形の如く崩れ落ちてしまうと、

部屋の中にあったものは次々と崩れ落ち、

風子の部屋は土壁に囲まれた土間のような姿へと変わり、

家具に代わって獣の毛皮や素焼きの丸壷がいくつも姿を見せてきた。

「ハァハァ

 ハァハァ…」

一方でベッドの上で気を失っている風子の口から苦しそうな息遣いがもれ始め、

ミシッ

ミシッ

ミシミシッ

彼女の体から特に関節の辺りから不気味な音が響き始めると、

ググッ

ググググッ

風子の体が縦に引き伸ばされるように伸び始めた。

「くはぁ

 はっ

 はっ

 はっ

 苦しい…

 誰かぁ

 体中が痛い…」

声を濁らせ、

細く長く伸びていく手を持ち上げて風子は訴えるが、

しかし、その声を聞きつける者は誰も無く、

サラサラサラ…

風子は砂と土にまみれながら姿を変えていった。

あまりに日に焼けてなく白い色を見せていた肌は赤茶色に染まった後、

急速に黒味がかり墨のような黒い色へとなっていく、

さらに手入れが行き届いていた髪が抜け落ち、

細かく縮れた新しい髪が頭を覆うと、

その髪は赤者色に染まりながら無数の細いひも状により分けられ簾のような姿へとなっていく。

さらに鼻が幾分高くなっていくと、

唇は厚くなり、

眼窩と頬骨が突き出してくると、

風子の顔から以前の面影が全て消え去ってしまった。

また、変化は体全体にも同時進行で起きていて、

小さな乳房があった胸は肩幅が広がっていくのにあわせて横に広がる厚い胸板が盛り上がり、

それに続くお腹には腹筋の溝が刻まれていく。

そして、まだ異性を知らない股間から、

ムリムリムリ!!!!

肉の棒が突き出し伸びていくと、

女の穴は閉じ、

代わりに精を作り出す器官を治めた袋が股間に下がって行く。

「うぅ

 はっはっ

 はっはっ」

厚いくちびるが開き、

そして、野太い声が風子の口から漏れ響き始め、

グググッ

突然、出来たばかりの肉棒が力を得たように勢い良く伸び始めると、

プリッ!

ついに先端が剥け、

中からツルリとした頭を表に飛び出させた。



シュッシュッ

シュッシュッ

「うぅ

 うぅぅぅ…」

黒い肌に覆われた手で風子は肉棒を握りしめるとそれを扱き始め、

次第に手の動きを早めていく、

「あぁぁ…

 うぅぅ…

 あぁぁ…

 はっはっはっ」

身体を丸めながらも風子は扱き続け、

そしてついに、

「うっあぁぁぁぁぁ!!

 出るぅぅぅ!!」

その声と共に、

シュシュシュシュッ!!!

風子の股間から弾けるようにして白い精が吹き上がったのであった。



「はっはっはっ…」

初めての射精を経験してしまった風子はしばらくの間その余韻を味わうが、

ハッ!

と目をけると身体を起こし、

「ここは…」

周囲を見渡した。

そして、

「あたし…

 あれ?

 あたしってなんだっけ?

 あたし、ムカンバ?

 ムカンバがあたし?」

と頭を抱えながら呟くと、

「あっ」

何かに気づいたのか慌てて立ち上がると

壁際に置かれていたトンボ球の飾り紐を手に取り、

それをを次々と肩から脇に回すようにしてつけると、

付着した精液が垂れる腰に赤茶色の木綿布・シュカを巻いていく、

そして、

チャラッ

簾のような髪を纏め上げると、

槍と牛追いの棒を手に取ると慌てて表へと飛び出していった。



ンモー

ンモー

「遅いぞ、ムカンバ!

 寝坊か」

表に飛び出した途端、

ムカンバの目の前に十数頭もの牛と、

ムカンバと同じ裸体に腰布を巻き、ビーズとトンボ球の飾りをつけ

槍を手にするマサイの男達がニヤニヤ笑いながら迎えた。

「ごめん、

 寝坊していた」

男達に向かってムカンバはそう詫びると、

「モランが寝坊とは呆れるな、

 さっさと行くぞ、ムカンバ!」

と男達はムカンバに命じると、

「はい…」

ムカンバはそう返事をし、

手にしていた牛追いの棒を振り上げると、

「なんか変な夢を見ていたみたいだ。

 僕がどこかの女の子になっていたような…」

とつぶやき、

「さぁ、行け!」

そう声を上げながら牛を追い立て始めたのであった。



おわり