風祭文庫・モラン変身の館






「サバンナへ」
(紀之の場合)


作・風祭玲


Vol.634







ゴワァァァァァ!!! 強い日差しが照りつけるサバンナにモーター音共に一筋の砂煙が上がる。 オンオンオン… 次第にその砂煙は近づき、 やがて、 キラ☆ フロントを一瞬輝かせ1台のオフロード車が姿を見せた。 ゴワァァァ… オンオンオン サバンナを左右に切り裂くように伸びる一本の道、 しかし、道と言っても舗装はされてなく、 また、地ならしもさほどされてないために、 僕が運転するクルマは上下左右に激しく揺れる。 「くっ」 「なろっ」 悪路と言う言葉がピッタリと当てははまる道を、 ハンドルを取られないように僕は汗だくになりながら操作する。 「道理で熱いと思ったら  ちっエアコン壊れてやがる。  まったく…  ミ●ビシだと言うから  高いレンタル代を払ったのに…」 利きの悪いエアコンを操作しながら僕が文句を言うと、 「仕方がないわ、  ここはアフリカ・サバンナよ、    日本みたいに整備が行き届いているクルマなんて    あるわけないでしょう」 と隣に座る真子がさりげなく注意する。 「そんなこと言っても…」 室内にこもり始めた独特に臭いに 僕はしかめっ面をしながら口をとがらせると、 スススス! 真子の横の窓が開き、 「ねぇ、  紀之さんも窓を開けたら?  外の風、気持ちいいわよ」 と僕に窓あけを勧めた。 「……」 彼女の言葉に僕は大人しく窓を開けると、 バッ 風圧と共にサバンナの砂が僕の顔に当たり始めた。 「いてぇーな」 パチパチと当たる砂に僕は文句を言うと、 「だったら、  スピード落とせばいいでしょう」 と真子の呆れた声が響いた。 ザザザザザ… 僕が運転するクルマは地平線がくっきりと見えるサバンナの中を突き進んでいく、 見えるのは灌木とブッシュ、 そして、遙か遠くに青く見える山々のみ。 ガイドブックなどでは野生動物の姿が見えると書いてあるが、 しかし、それらの群れから遠い所に居るためか、 ライオンはおろかキリンすらも姿を見ることが出来なかった。 「それにしても、  こうなんにも目印がないとなぁ…  大丈夫かなぁ」 暴れるハンドルを握りしめながら僕は呟くと、 「大丈夫、  ちゃんと向かっているわよ」 と真子の返事が聞こえた。 「まぁ、真子がそう言うなら…」 「うふっ  ありがとう…」 僕達はこの広大なサバンナの中をある場所へ向かっていた。 そしてそこに着いたとき、 僕は隣に座る彼女と別れなければならない。 それを思うと自然とアクセルを踏む足から力が抜けてくる。 「畜生!  えぇいっ」 それを振り払うように再び僕はアクセルを踏むと、 ゴワァァァァ!! 運転するクルマは狂ったように走り始めた。 真子は僕の妻だ。 彼女と結婚してまだ対して日が経ってない。 なぜなら、先週式を挙げ、 このサバンナには新婚旅行できたからだ。 でも、その思い出の地となるサバンナで真子は呪いを受けた。 マサイの呪い… それを受けた彼女の白い肌は見る見る黒く染まり、 手足が伸び、 背は僕よりも高く、 顔つきまでも変わってしまった。 そして何よりも、ショックだったのは、 真子の股間に黒いマサイのチンポが生えてしまったこと。 なんて言ったらいいのか判らない。 チンポと共にぶら下がるキンタマと共に 真子の股間から伸びるチンポは作り物なんかじゃなかった。 チンポをしてちゃんとションベンも出来、 そして、精液も出すことが出来るまさに正真正銘のチンポ… そのチンポを真子は生やしてしまった。 と同時に彼女は女の証を失ってしまったのだ。 もぅ彼女は女性ではない。 盛り上がる胸板を朱染めの衣装・シュカで覆うサバンナの戦士 モランになってしまったのだ… 「紀之さん?」 ふと隣から真子の呼ぶ声が聞こえる。 声色も男独特の低い声だ。 「どうしたの?  紀之さん?」 再び響いた声に、 「え?  あぁ、ちょっと考え事をしていた」 僕はそう返事をしながら振り返ると、 黒い肌に浮かび上がるように白目が映える目が僕を見ていた。 淡い茶色をした盛り上がった唇と、 頭の上から下がる赤茶けた髪が黒い肌に彩りを添える。 マサイ… その言葉がピッタリと当てはまる真子の顔を僕はジッと見つめていると、 彼女の唇が徐に開き、 「あの…  クルマ止まってますよ」 と指摘した。 「え?」 その声に僕が驚いて前を見ると、 いつの間にかクルマは止まり、 ブブブブブ… エンジンはアイドリング状態になっていた。 「あっイケねっ」 その様子に僕は慌ててクルマを出そうとすると、 チャッ いきなり真子はドアを開け、 窮屈そうにしていた車内から表へと降りた。 「あっおいっ  真子っ」 彼女の突然の行動に僕は慌てると、 「うん、  ありがとう、    ここで良いわ」 と真子は僕の横に回りそう告げた。 「良いって言っても、  こんな何もないところで良いのか?」 その言葉に僕は聞き返すと、 「うん、  マサイ達はすぐ近くに着ているわ、  大丈夫、    ここからはあたし1人で行けるわ」 バッ… マサイ化した後、 マサイ達から渡されたシュカを腰に巻いた姿の真子はそう返事をすると、 僕は運転席から降りる。 「紀之さん…」 「ごめん、何も出来なくて」 僕がクルマから降りたことに驚く真子に向かって僕は頭を下げると、 「いいのよ、  あれは事故…なんだから…」 と真子は僕に言う。 「でも…」 「うふっ  それよりも夕べは凄かったわね、    紀之さんたら…    ひょっとしてホモの毛ある?」 と真子は昨夜のコトを指摘した。 「そっそんなコト、ないよ」 マサイ化した真子のペニスをしゃぶり、 そして、その精液を飲み干したことを恥ずかしく思い出しながら僕は返事をすると、 「いいのよっ  あたし嬉しかったんだから…    てっきり、嫌われたかと思っていた。    だって、そうだもんね。    マサイ族になってしまった新妻なんて誰も寄りたがらないよね、    でも、紀之さんは何も変わらなかった。    それだけで十分…」 真子はそう言うと、 僕をゆっくりと抱きしめた。 マサイ独特の匂いが僕を包み込む。 トクン トクン 露わになっている胸板から彼女の心臓の音が聞こえてくる。 そうだ、真子は死んだわけではない。 生きて居るんだ。 マサイとして、 モランとして生きて居るんだ。 そう思うと僕の中に希望が湧いてくる。 「じゃぁ行ってくるね、  こんな身体じゃ日本には帰れないしね」 僕を抱きしめながら真子はそう囁くと 「真子…」 僕は彼女の名前を思わず呼んだ。 「紀之さん…」 僕と真子はしばらく見つめた後、 静かに唇を合わせた。 ンモー… 遠くから牛の鳴き声が響き渡る。 真子を迎えに来たのか牛を引き連れたマサイ達がゆっくりとやってきたのであった。 「じゃぁね」 「あぁ…」 僕たちは引き裂かれるようにして別れると、 「がんばれよ」 真子に向かって僕は声を掛ける。 すると僕の声が良く聞き取れなかったのか 「え?  いまなんて言ったの?  心配?  あはは、大丈夫だって、  これでもあたしれっきとした”モラン”なんだから、    サバンナなんてへっちゃらよ。  だから心配してくれなくても大丈夫よ」 と返事をした。 そして、 「あたしもこの身体にされたときはイヤだったわ、  でも、  マサイに…モランとなったいま、  あたしはマサイであることを誇りに思っているの。  安心して、  モランとなってもあなたことは決して忘れないから、  うん、じゃっ、  みんなが待っているから行ってくるね。  うふっ  逞しくなって帰ってくるからね」 と僕に向かって叫ぶと真子は走り去っていった。 おわり