風祭文庫・モラン変身の館






「モランの腕輪」


作・風祭玲

Vol.412





ひゅぉぉぉっ

サバンナを吹き抜けてきた風があたしの足元から

スー…

っと這い上がるようにして下着が無い股間を舐めたと思った瞬間。

バッ

いきなり目の前が真っ赤になると、

『きゃっ!!』

視界を遮るほどにまで捲りあげられた朱染めの衣・シュカに

あたしは悲鳴を上げ慌てて押さえつけると

ムニュッ!

本来あるはずの無い器官の感触があたしの掌に伝わってきた。

ムニ…

その器官をあたしは軽く握りしめんがら、

『おっオチンチン…』

とあたしはつぶやくと、

『そんなことで声を上げるな、みっともない』

あたしがとった行動を嗜めるような女性の声が響いた。

『(はっ)そんな事言ったってぇ

 このシュカって…背中からお尻が丸出しなのよ』

その声に口答えするかのようにあたし裾を押さえながら口を尖らせると、

スッ

あたしの真横に漆黒の肌に坊主頭、

そして、乳房を露にしたマサイの女性・エルだが姿を見せジロリとあたしを見据えると、

『はぁ…

 探し求めてやっとめぐり合えたのに…

 あのウランバがこんな軟弱者になっていただなんて…』

とため息をつく。

『(ムッ)なっ軟弱者ですってぇ?』

彼女の言葉に何故かあたしは腹が立つと思わず食って掛かった。

しかし、

『あたしが愛した男・ウランバは勇猛果敢なモラン、

 それなのにこれしきのことで悲鳴を上げるようになってしまったとは…

 呪術師・ルウの呪詛はそれほどのものなのか』

ツンは冷静にそして、畏怖を漂わせながら

食って掛かるあたしを見ながら、

ルウという名のマサイの呪術師のことを口にした。

『だってぇ』

ツンの言葉にあたしはそう言いながら手にしていた槍に抱きつくような仕草をすると、

どの途端、

『ばか者!!』

ツンの怒鳴り声が響き渡り、

『槍はモランの魂そのものだぞ…』

とツンはあたしにウランバの思い出話を始め出した。

けど、あたしはそんなツンの言葉を右から左に流しながら、

彼女の向こう側に広がる地平線を眺めていた。

そう、ここはアフリカ・サバンナ…

そして、あたしは漆黒の肌に覆われた肉体に

シュカを巻いただけの簡素な身なりのマサイ戦士…

そうモラン・ウランバの姿でそこに立っていた。

『はぁ…

 あの日から何日が経ったのかな?

 パパやママ…そして修一は…』

陽炎が揺らめくサバンナを眺めながらふとそう漏らすと、

あたしがココに来るきっかけになったあの事件のことを思い出した。



「ハッピバースデー!!

 お姉ちゃん」

「おめでとう、彩っ」

「ありがとう!」

その日あたしは、17歳の誕生日を祝ってもらっていた。

あたしの名前は高坂彩、今日17歳になったばかりの高校2年生で、

いま、17本の蝋燭が立つデコレーションケーキを中心に様々な料理が並べられたテーブルを、

あたしとママ、そして弟の修一が取り囲んでいた。

「ねぇ

 パパはまだなの?」

パーティーの準備が終わり、

席に着いたあたしはパパの姿が無いことをたずねると、

「うん、

 2時間ほど前に成田に着いたって連絡があったから

 そろそろ帰ってくるんじゃないかな?」

壁に掛かる時計の方を見ながらママがそう言うと、

「もぅ、駅に着いているんじゃないの?

 さっさと食べようぜ」

我慢の限界に来ているのか、

ご馳走をジッと見つめながら修一が声を上げる。

すると、

「そうね、

 じゃぁ、あと10分待ちましょう」

修一の声にママはそうあたし達に提案すると、

「げっしまった」

ママの言葉に修一は思わず”しまった”と言う顔をした。

「ばか…」

そんな修一に向かってあたしはそう呟く。

あたしのパパは仕事で遠くアフリカまで出かけていて、

ほんの3日前、その仕事に一区切りをつけ帰途についていたのだった。



カチ

カチ

カチ

長いようで短い10分が過ぎていき、

カチッ!!

時計の長針が10分の経過を告げると、

「よしっ

 じゃぁ食べよう!!」

この時を待ってましたとばかりに修一が声を上げた。

しかし、

ガチャッ!!

「ただいまぁ!!」

修一の声が響き渡るのと同時に、

玄関のドアが開く音と共にパパの声が響き渡った。

「残念だったわね」

ガックリとうなだれる修一の肩を叩きながらあたしは玄関に向かうと、

「17歳の誕生日おめでとう、彩」

真っ黒に日に焼けた顔のパパがにこやかに微笑んだ。




「はいっこれ」

「え?あたしに?」

「あぁそうだよ」

ご馳走をがっついて食べる修一の横で、

パパはあたしに小さな包みを手渡した。

「あっいいらぁ…おねえひゃん、

 もくにはあいののぉ?」

口いっぱいに食べ物を詰め込んで修一が羨ましがると、

「ちょっとぉ、修一、

 食べるのか、

 喋るのかどっちかにしなさい」

そんな修一に向かってあたしは注意する横で、

「あけてごらん」

「うん」

パパに促されるようにあたしは包みを取ると、

やがて中から年代物の装飾が施された細長い木箱が姿を見せた。

「うわぁぁ…」

木箱を目にしてあたしは思わず声を上げると、

「気に入ったかい?」

パパはあたしに感想を尋ねた。

「うんっ

 あたしこういうのが欲しかったの!!」

年代モノの重厚な木箱の蓋を開けながらあたしはパパに向かってそう返事をすると、

「うんっ

 それは良かった」

パパは満面の笑顔をあたしに見せた。



コトッ!

あたしを祝うパーティがお開きになったあと、

自分の部屋に戻ったあたしはパパから貰った木箱を机の上に置き、

うっとりと木箱を眺めたあと、

徐に手を伸ばすと木箱を手に取った。

「一体、いつ作られたものなのかなぁ…

 この装飾って木彫りみたいだし…」

木箱をクルクル回しながら、

あたしはこの箱が作られた時代のことを思いをはせる。

すると、

カタン!!

突然木箱から小さな音が響くと、

パカッ

っと箱の側面が開いた。

「やばい!!

 壊した!!」

突然の出来事にあたしは慌てていると、

キラッ!

ポトッ!

木箱の中から光を輝かせながら2つの物体があたしの太股に落ちてきた。

「え?

 なに?」

手にしていた木箱を机の上に置いて、

自分の太股に落ちてきたものを拾い上げてみると、

それは細かいトンボ玉で出来た腕飾りのようなものだった。

「へぇぇ

 こんなのが入っていたんだ…」

赤・青・白、

その3色のトンボ玉が綺麗な幾何学模様を描く腕飾りをあたしは感心しながら見つめると、

「ちょっとつけてみよう」

何を思ったのかあたしはその腕飾りを自分の両腕の手首に付けてみた。

「へぇぇ…

 意外と大きいのね…」

そのまま二の腕にまであがってしまうのでは?

と思えそうな大きさの腕飾りをあたしは改めて見ていると、

『…見つけたよ…』

突然女性の声があたしの部屋に響き渡った。

「え?

 っだっ誰?」

響き渡ったその声にあたしは背筋を寒くしながら聞き返すが、

しかし、

『………』

声は再び響くことはなかった。

「気のせい?

 でも、はっきりと聞こえたわよねぇ」

首を捻りながらあたしが立とうとしたとき、

グイッ!!

いきなりあたしの両腕がねじり上げられると、

グッグッグッ!!

あたしの両腕はゆっくりと目の前に上がってきた。

「なっなによこれぇ」

目の前に並べられた両腕にあたしは悲鳴を上げると、

『見つけたわ…
 
 ウランバ…

 あたしよ、ツンよ…』

という声が響くと、

スー…

あたしの目の前にあたしの腕を握る人物が姿を見せてきた。

「いやぁぁぁ!!

 幽霊!!」

影なのか黒い姿をしている人物にあたしは思わず悲鳴を上げると、

グンッ!!!

「きゃっ」

突然、強烈な衝撃があたしを襲い、

そのまま突き飛ばされたように後ろへと飛ばされると、

バサッ

ベッドの上に仰向けになって押し倒されてしまった。

無論、腕はねじり上げられたままの状態で…



「ひぃぃぃ!!」

捻り上げられたあたしの腕から伸びる2本の黒い手にあたしは声を失っていると

『ウランバ…

 あたしよ…』

とあたしに幾度もあたしに話しかけながら、

その影はゆっくりと固まっていくと、

ヌッ…

腰に朱染めのカンガを巻き、黒い肌と形の良い乳房を露にした坊主頭の女性…

そう、以前TVで見たマサイ族の女性と同じ姿をしていた。

「だっだれ?」

マサイの女性にジッと見据えられたあたしは本能的に怯えると、

『!!』

あたしの何かに気づいたのか、

ツンと名乗るマサイ族の女性は慌てたように離れ、

『ウランバっ

 おっ女になっていたの!!』

とあたしを指差し叫んだ。

「はぁ?」

ツンのその言葉にあたしは呆気に取られながら、

「失礼ねぇ

 あたしは生まれてずっと女よ」

あたしはベッドから起き上がりながらツンに向かってそう言うと、

『そんな…

 あのウランバが、

 こんな白い女になっていただなんて

 くっそう、呪術師・ルウめぇぇ』

ツンはショックを受けたらしく、

悔しそうにそうつぶやくとその場に跪りガックリとうなだれる。

「あっあのぅ…」

そんな彼女の姿を見たあたしは気の毒に思いながら思わず声をかけると、

キッ!!

ツンはあたしを見据え、

そして立ち上がると、

『いいわっ

 あたしが取り戻してあげる。

 ウランバ、
 
 思い出して、

 あなたはサバンナの勇者だったのよっ

 そんな女の身体ではない、

 逞しい勇者だったのよ』

と言いながらあたしに近づいてきた。

「そんな…

 ちょっと待って!!

 あ、あたしはウランバなんかじゃないわっ

 彩という名前の女の子よ!!」

近づいてくるツンにあたしはそう言って聞かせるが、

けど、

グィ!!

ツンはあたしの腕をまた捻り上げると、

その唇をあたしの唇に重ね合わせた。

「うっぷっ」

いきなりのキスにあたしは目を白黒させると、

ズズズズズズズ…

ツンの口からあたしの中に何かが流れ込み始めた。

そして、それと同時に、

ジンッ

あたしのアソコが火照ったように熱くなってくると、

「あっあぁ…

 なに?

 アソコがへ…ん…よ」

ジュクジュクと疼き始めたアソコの感覚に困惑する。

すると、

スッ

ツンの黒い腕があたしの股間へと伸びると、

クニクニ

とアソコを刺激し始めた。

「あんっ」

彼女のその行為にあたしは思わず喘ぎ声を上げると、

『さぁ、ウランバ

 思い出して、

 サバンナの勇者であった頃を…』

ツンはそうあたしに告げ、

そして激しくアソコを刺激した。

「あんあんあん

 いやっ

 かっ感じちゃう」

ツンが繰り出す指技にあたしは翻弄され、

そして、それと同時に

ムリッ!!

何かがあたしの股間で成長し始めた。

ムクッ

ムクムク!!

次第に大きくなってくるそれを感じながらあたしは

「あっなに?

 何かが…

 んっく…

 出てくるぅ」

顎を上げながらそう呟くと、

『目を覚ませ!!

 ウランバ!!』

ツンがあたしの耳元で叫び声を上げた。

と同時に、

ズンッ!!

股間の奥で成長していたそれが一気にあたしの身体を突き抜けると、

グィッ!!

あたしの股間で何かが勢いよく飛び出し、

ビンッ!!

っと突っ張った。

「なに?

 何が起きたの?」

最初は何が起きたのか判らなかったが、

しかし、ツンに、

『ほらっ

 ウランバ見て、

 あなたのカアリィよっ』

興奮した口調でツンがあたしのスカートを捲り上げた時、

ビンッ!!

あたしの股間で勃起する長くて太いイ漆黒のペニスの姿が飛び込んできた。

「そんな…

 いやっ

 何であたしにオチンチンがぁ」

痛いくらいに勃起するペニスの存在にあたしは思わず悲鳴を上げると、

『さぁ、カアリィを取り戻した、

 もっと

 もっと』

そう呟きながらツンは生えたばかりのあたしのオチンチンを握り締め、

ゆっくりと扱き始めた。

シュッ

シュッ

「ひぃ!!」

初めて味わうその感覚にあたしは目を剥き、歯を食いしばる。

シュッシュッ

シュッシュッ

『さぁ思い出すのよ

 ウランバ…

 そして身体を乗り戻すのよっ

 さぁ…

 さぁ!』

「いやぁぁぁぁ!!」

ツンに生えたばかりのオチンチンを扱かれるうちに、

ムキッ!!

あたしの体の中から新しい自分が盛り上がり、

そして、体の至る所が突っ張り始め出すと、

ボムッ!!

ついに古い体を食い破るようにあたしの内側から一気に新しい体が飛び出してきた。

「いや

 いや

 いやぁぁl!!」

体中がバラバラに引き裂かれるようなそん感覚にあたしは悲鳴を上げると、

バリバリバリ!!

着ていた服が引き裂ける音が響き、

グンッ!!

あたしの体が一気に膨張していった。

クハァ…

「あっあぁ…」

服を引き裂いたあたしは裸の姿のまま呆然としながら天井を眺めていると、

ヌッ

ツンがあたしの視界に入ってくるなり、

『ウランバ…

 喜んで…

 身体を取り戻したわ』

と嬉しげに告げた。

「身体を取り戻した?」

彼女の言葉にあたしはハッとすると、

急いで飛び起き、

そして、壁に掛かる姿見に自分の身体を映し出すと、

「ひぃ!!」

鏡に映った自分の姿に思わず悲鳴を上げた。

そう、鏡に映っていたのはツンよりも黒い肌に覆われ、

長い手足

硬く盛り上がった胸板、

そして深い谷を刻んだ腹筋を持った男の肉体だった。

「なっなんで…」

鏡を前にしてあたしは座り込むと、

ミシッ

マサイの男になってしまったあたしの中で

未だ女の子のあたしのままだった顔が変形し始めた。

「いやっ

 やめて!!

 顔は変わらないで!!」

厚くなっていく唇、

突き出してきた眼窩を目の当たりにしてあたしは手で顔を覆うが、

しかし、

ググググ…

あたしの顔は掌の中で変化していった。

「うっうっうっ」

ズルズルズル…

顔の形がわかり、

長い髪の毛が抜け落ち、

そして、喉仏が盛り上がっていくのを感じていると、

スッ

顔を覆っているあたしの手にそっと別の手が添えられ、

『さぁ

 ウランバ…

 その顔をあたしに見せて…

 あたしが愛した男の顔を…』

と囁いた。

『なっなんで、

 あたしがあなたの男にならなければならないのよ!!』

ツンの言葉にあたしは食って掛かると、

『まだ…

 記憶は戻らないの…?』

ツンは驚き、

そして、あたしを見据えると、

『さぁ

 サバンナに行きましょう。

 そして、ゆっくりと記憶を取り戻しましょう』

と言いながらあたしの手を引いた途端。

ブワッ!!

周囲の景色が一変すると、

『うそっ』

あたしは広大なサバンナの一角で座り込んでいた。

そして、いつの間にかあたしの身体にはツンが腰に巻いているようなカンガが巻かれ、

首にはトンボ玉で作られた首飾りが掛かり、

髪は染められ結い上げられていた。

『どう?

 思い出した?

 ここがサバンナ…

 そう、ウランバ、あなたが住んでいたところよ、

 さぁ行きましょう…』

ツンはそう言いながら一本の槍をあたしに手渡すと

あたしの手を引き走り始めた。

その途端、

フワッ

サバンナの香りがあたしの鼻を突く、

『あぁ…

 この匂い…嗅いだことがある…』

鼻腔をくすぐるその香りにあたしは妙な懐かしさを感じると、

フッ…

はるか昔、

この大地を駆け回っていたような気持ちになった。

『え?

 なに?

 いまの…』

その気持ちにあたしは思わず驚くと、

『ウランバ…

 いま、一瞬思い出したでしょう、

 そう、

 そうやって思い出しましょう、

 あたし達のこと…

 そして、マサイのことを…』

ツンは笑顔で振り向きあたしにそう告げた。



『マサイに…』

17歳の誕生日、

あたしはその事実にただ翻弄されていた。



おわり