風祭文庫・モラン変身の館






「割礼」


作・風祭玲

Vol.248





ザワザワザワ…

サバンナを吹き抜けていく風が低い灌木の枝が揺らしていく、

モー…

その潅木の間を大きな角を振りかざしながらウシの一群が通り過ぎていくと、

スグその後を漆黒の裸体に朱染めの衣・シュカを身に纏った若者が数人歩いていく、

そして、あたしはその若者達の中にいた。

村を出てかれこれ一週間以上が過ぎていた。

見渡す限りの広大なサバンナをウシは気ままに歩いていく、

やがて餌場となる叢にたどり着くとにウシ達は動きを止め、

めいめい下を向き赤茶けた大地に根を下ろす草を食み始めた。

「ふぅ…」

ウシの群が止まったので

あたしも立ち止まり浮き出た額の汗を腕で一気に拭うと大きく深呼吸をした。

「どうした?」

同じ年齢組に属するクルカンが声をかけてきた。

「あっ、いえ、ちょっと疲れたかなって…」

あたしはそう返事をすると、

「おいおい、今日は始まったばかりだ、

 これで音を上げるようではモラン失格だぞ」

クルカンは笑いながらそう言うとあたしの露になっている肩を叩いた。

すると、

「まぁそう言うなって、

 キレウはこうして歩いたことがなかったって

 カントト爺さんが言っていたじゃないか

 それにしても、キレウ、あまり歩いたことがないなんて

 お前は一体どういう生活をしていたんだ?」

クルカンの話を聞いていた同じ年齢組のランクンが割って入ると、

赤茶色に染まった髪を結い上げある頭を軽く掻いた。

…キレウ…

そう、数年前に亡くなったはずのマサイの少年の名…

しかし、それが今のあたしの名前になっている。

そして、その名前を言われるたびに

「お前はマサイ…モランだ…」

と言う言葉があたしの心の中に響く。

…違う!!

 あたしはマサイじゃない…

 あたしは…

心の中でそう叫び返すたびに

ギュッ

槍を握る手に力がこもった。

けど…あたしに口から出た言葉はそれに反して、

「うん…まぁ…」

という短いものだった。

そしてそのままあたしは俯いて下を見つめた。

サワッ…

サバンナを渡る風が身体に巻き付けているシュカの中に入ってくると、

軽い悪戯を始めだす。

すると、

ズキッ

割礼の傷がいまだ十分に癒えない股間に痛みが走った。

無意識にあたしの黒い左手が股間を覆うシュカの上を抑える。

「なんだ、まだ痛むのか?

 まっ俺もそうだったが、

 そんなもん、時期に痛くなくなるよ、

 そしたら、一人前のモランだ」

ランクンはそう言って胸を張ると

肩から脇にクロスするようにかけている赤と白のビーズで出来た数本の紐を

誇らしげにあたしに見せた。

無論、あたしにも同じ紐は掛かっているが、

モランとしての経験が浅いあたしには左右一組ずつしか掛かっていなかった。

「なぁ…キレウには好きな娘はいるのか?」

「え?」

クルカンのその言葉にあたしはドキッっとする。

「どこの村の娘だ?」

「判った、赤い木の村のアヤッタか?」

「そっそんなのいない…」

あたしはそう答えると、その場から逃げ出すようにして走り出した。

「おいっ、

 あまり遠くに行くなっ

 もぅスグ出発するぞ」

ランクンの声があたしの後ろから響く、

スグにでも逃げ出したかった。

でも…

この体を覆う漆黒の肌と、

風にはためくシュカの下に隠れているオトコの肉体が、

あたしの居場所はこのサバンナであること告げていた。


…マサイ…モラン…そして、オトコの体…

どんなに否定しても今のあたしはマサイ…

決して、霧島圭子と言う女の子ではない。

ウシの群れの反対側に来たとき、

あたしは走るのをやめた。

群れの向こう側でランクン達が手を上げた。

はぁはぁ…

あたしは潅木の陰に向かうとそこで腰をおろした。

眼下に見える逞しく盛り上がった胸板に汗が光る。

ムワッ…

体中から土と汗が混ざったような匂いが湧き上がってきた。

この体になってからあまり体を洗う機会がないのと、

村を出て以降、寝るときはほとんど土の上だったので、

あたしの体は汗と埃で汚れていた。

でも、このサバンナの乾いた空気がその汚れを目立たなくしていたし、

それに、汚れの概念がここでは違う…

「………」

あたしは無言のまま眼下に見える自分の体を見つめていた。

筋肉が無駄なく張り詰めた長い足と長い手…

くっきりと腹筋が陰影を刻むお腹と盛り上がった胸板。

そして、シュカを下から押し上げる股間に聳える男の証…

ズキ…

「うっ」

股間の盛り上がりを眺めていると再び痛みが走った。

と同時に割礼のあの生々しいシーンが横切った。



元々あたしがこのサバンナに来たのはサバンナの動物の写真を撮るためだった。

それが、ふと立ち寄ったマサイの村でカントトと名乗る老人に出会ってから

あたしの運命が大きく変わっていった。

…神様のクンラ・シンバ…

マサイの村で出会ったカントト爺さんは

あたしにマサイのそう呼ばれる純白のライオンのことを教えてくれた。

『そんなのが本当にいるんですか?』

疑うように訊ねると、

『あぁ本当さ…、

 明日の早朝、ここにくれば

 そいつを見せてあげるよ、

 そいつは毎朝、水を飲みにやってくるんだ』

カントト爺さんは一見、顔に深い皺を刻んだ老人だが

しかし、マサイとして長い人生を生きていただけに目の輝きは鋭かった。

…ふぅぅん、まぁ一度騙されてみるのもいいか

あたしはそう思うと、

カントト爺さんに再び会う約束をして村を離れた。



そして、よく早朝…

「うわぁぁぁ、本当だ…」

あたしは村から離れたところにあるバオバブの木の下で

夢中になってシャッターを切っていた。

目の前にある小さな池で純白のライオンが静かに水を飲んでいた。

カシャッ

カシャッ

何も音のない世界にシャッター音が響き渡る。

『どうだ…』

カントト爺さんがあたしにそう訊ねると、

『すごいよ、こんなライオン見たことがないよ』

興奮した口調であたしはカントト爺さんに向かって小声で叫んだ、

『そうかそうか』

爺さんはそう言いながら大きく頷くと、

『…カントトか…』

突然、低く威厳のある声があたりに響いた。

「え?、なに?」

突然のことにあたしがあたりを見回すと、

「!!」

あの白いライオンがじっとあたしの方を見ていた。

思わずライオンと視線が合う。

するとあたしはまるで金縛りに会ったみたいに動けなくなってしまった。

『はい…』

カントト爺さんはその声に返事をするとゆっくりと木の陰から出て行った。

『おっお爺さん、ダメッ危ないよ!!』

あたしはそう叫ぼうとしたが、

しかしまるでセメントで固められたかのように体が動かない。

『して、望みはなんだ』

再びあの声が響くと、

『はいっ、あなた様の下に参りました

 私の孫のキレウとお返ししていただきたく…』

とカントト爺さんはそういって跪いた。

『………』

沈黙の時間が流れる、

『よかろう…、

 貴様のこれまでの行ないとくと見てきた。

 それに免じてキレウを帰そう、

 が、しかし、キレウの体はすでに滅しているが』

と声が訊ねると、

『はい、器を用意しました。

 あそこに控えている者の中にキレウをお返しいただけたら結構です』

カントト爺さんはあたしを指差すとそう告げた。

「え?それって何?」

あたしの頭の中は混乱した。

すると、

ジワッ

あの白いラインが見る見る人の姿に形を変えると、

一人のマサイの少年へと変身した。

『おぉ…キレウよ!!』

カントト爺さんはその少年の姿を見て喜びの声をあげた。

『……』

しかし、少年は何も答えず、

スス

っとあたしに向かって歩いてくる。

「なっなによ…」

じっとあたしを見据える少年の目がまるであたしを飲み込むかのようにみえた。

ガチャン…

動かない手からカメラが滑り落ちる。

しかし、キレウはそれに動じることなくあたしに迫ってくると腕を大きく広げた。

「いやだ、来ないで

 お願いだから

 来ないで!!」

あたしは心の中で思いっきり叫んだ。

しかし、

目の前に迫っていたキレウが

見る見る少年の姿から逞しい青年のマサイの姿に変わると、

彼の手はあたしを抱きしめるようにして包み込んだ。

そのとき、

フッ

あたしを包み込もうとしていたキレウの姿は、

その直前、まるで拭き消すかのごとく消えてしまった。

「え?」

意外な展開にあたしは呆気にとられていると、

『これは…どういう事でしょうか?』

というカントト爺さんの声が響いた。

すると、

『では、お前の希望どおりにキレウを帰した、

 いまキレウの魂はその者の中にいる、

 まもなくその者の肉体はキレウとなるが、

 しかし、魂はその者がモランとなったときにならないと目覚めぬ』

声がそう告げた途端、

「あっ」

まるで氷を溶かすかのように体の自由が戻ってきた。

ドサッ!!

あたしはその場に尻餅をつくと、

「いっ一体何なのよぉ〜っ」

と叫んだが、

しかし、あたしの口から出てきたのは、

まるで、男のような低い声だった。

「え?」

その声に驚いたあたしは思わず口をつぐんだが、

ゴリッ

何時の間にかあたしの喉に喉仏が盛り上がっていた。

「え?あっ…あっ」

自分の体に起きた変化に戸惑っていると、

カントト爺さんがあたしのそばに立った。

『こっこれはどういうこと?』

男の声でカントト爺さんに訊ねると、

『さぁ、キレウよ…

 お前の新しい体だよ、

 早く目覚めるかいい』

とやさしそうな顔であたしに告げた。

『なっ何を言っているの?

 あたしはキレウなんかじゃないわ』

あたしはそう反論しようとしたが

しかし、

ムリムリムリ!!

突如、股間に突っ張った感覚が走ると、

見る見るあたしの股間が盛り上がっていった。

「いっいやっ、なによっこれっ」

それに驚いたあたしは慌ててズボンを脱ぎ捨てると、

ビン!!

あたしの股間から太くて黒い肉棒が元気よく飛び出した。

「えっ?えっえっ、なにこれぇ…」

ビクンビクン!!

あたしは混乱する頭のまま脈を打つ肉棒を呆然と眺めていると、

ミシッミシッ!!

あたしの体中から身の毛もよだつ音が響き始めた。

そして、それにあわせるようにして体が熱くなっていく、

「あっ暑い…

 いやっ」

滝のような汗を流しながらあたしは上着を脱ぎ捨てて行った。

そしてすべてを脱ぎ捨てたとき、

あたしは自分の体の変貌していく様子に愕然とした。

白い肌は見る見る黒く染まり、

体中の筋肉は蠢くようにして次々と盛り上がっていく、

そして、体全体がまるで膨れるかのごとくその大きさを変え始めていた。

「いやだ、やめてぇ!!」

あたしは頭を抱えてうずくまってしまった。

しかし、体の変化は容赦なくあたしの形を変えていったのであった。



どれくらい時間がたっただろうか

ファサッ…

大きな布があたしの体にかけられた、

汗と土の混ざった匂いが鼻につく。

それを嗅ぎながら顔を上げると、

「さぁ…キレウよ、

 それはお前が身に付けていたシュカだ

 それを身体に巻くがいい」

カントト爺さんはそうあたしに告げた。

掛けられたものを改めて見ると、

それはマサイ達が体に巻いているあの朱染めの衣装の布・シュカだった。

「いやよっ、

 なんであたしがマサイの格好をしないといけないの?」

あたしは強い口調で叫んだが、

けど、起き上がったあたしの目に飛び込んできた自分の体は

勃起したオチンチンを股間に立たせている男性化した体だった。

「そんな…」

あたしはシュカを抱きしめて泣き出してしまった。

「キレウよ、何を泣いている。

 モランとなるお前がそんなんでどうする」

カントト爺さんの厳しい言葉が響いた。

「違うっ、あたしはキレウなんかじゃないっ

 桐島圭子よっ

 返してよっあたしの体を!!」

あたしはそういって食って掛かったが、

しかし、

パン!!

カントト爺さんはあたしの顔を叩くと、

「悪いな、お嬢さん。

 私は孫のキレウを取り戻したいんじゃよ。

 体は見ての通り取り戻した。

 後はお嬢さんの中で眠りについているキレウの魂を目覚めさせるために、

 モランになってもらうよ

 さぁ、それを体に巻け」

っとあたしに命じた。

クスン…

あたしはヨロヨロと立ち上がるとシュカを体に巻きつけた。

「ふむっ」

シュカを体に巻いたあたしの姿をカントト爺さんは満足そうに眺める。

そして、

「さぁ、これから村に行こう」

とあたしに告げるとカントト爺さんはあたしの手を引いて歩きだした。

「あっ…」

引っ張られるようにしてあたしも歩き始める。

圭子としてココに来たときとは違い、

裸体にシュカを身に纏っただけ姿で歩くのに抵抗を感じたが、

しかし、気のせいか徐々にそれがあたりまえのように感じ始めだした。

まさか、あたしの中に眠っているというキレウの魂が

あたしの心すらも作り変えているようにも感じられた…

やがて、カントト爺さんに手を引かれてあたしはあのマサイの村にたどり着いた。

すると、カントト爺さんは大声を張り上げると、

村の者達に孫のキレウが帰ってきたことを触れ回った。

爺さんの声を聞いてゾロゾロと村に住むマサイが

表に出てくるなりあたしの周りを取り囲んでいく、

その中でカントト爺さんはあたしを指差しながら、

あたしが爺さんの孫のキレウであること、

キレウは遠い村で今まで過ごしてきたことを告げた。

その話を聞いていた村の長があたしの前に出てくると、

「お前は今日からこの村の一員だ」

と言うと一人のマサイを呼んだ、

ズイッ

人ごみの中から出てきた彼は逞しい肉体と鋭い眼光をもち

まさにモランという言葉がぴったりの男だった。

長は彼の名を名前をクルカンと紹介し

そしてあたしと同じ年齢組の者だと教えてくれた。

年齢組…

そう、モランとなったマサイは同じ年齢ごとに年齢組と言うグループを作り、

そのもの達でウシとともにサバンナを移動しているのだった。

「クルカンだよろしく」

彼はそう言いながらあたしの顔に軽くつばを掛けた。

それがマサイの挨拶だという、

「で、カントトよ、

 キレウの割礼は終わっているのか?」

そう長がカントト爺さんに訊ねると、

「いや、キレウがいた村では割礼は行われていなくてまだしていない」

と返事をした。

「なに、マサイなのに割礼をしていないのかっ」

カントト爺さんの返事に、長は驚くと、

「判った。では、すぐにしよう…

 割礼をしていないのではモランとは呼べない」

と告げるなり村の中はあわただしくなっていった。

「あの…割礼をするのですか?」

恐る恐るカントト爺さんに訊ねると、

「そうだ、お前はモランとなる、

 そのためには割礼を受けなくてはならない」

カントト爺さんはあたしにそう告げた。

「そんな…」

その言葉にあたしは愕然とした。

しかし、そんなあたしの様子にかかわりなく割礼の準備は進んでいった。

牛皮で出来た敷物がカントト爺さんが住んでいる小屋の前に敷かれ、

割礼を行う呪術師が招かれる。

こうして、すべての準備が整うとあたしは呪術師の前に座らされた。

…やめて…

そう言いたかったが

しかし、あたしの口からはその言葉は出てこなかった。

呪術師の手で身に纏っているシュカが脱がされると、

あたしの裸体がマサイたちの目前に晒された。

「おぉ…これは逞しいな…」

「立派なモランになりそうだ」

あたしの体を見てマサイたちが囁きあう。

…違う…あたしは本当は女の子なのよ!!

そう言いたかった。

しかし、儀式はそのまま進み、

あたしの体に絞りたてのミルクが降りかけると、

呪術師の手であたしの髪を含む体毛がすべてそり落とされてしまった。

空気がひんやりと感じられる。

そして、いよいよ割礼の儀式が始まった。

呪術師はあたしに向かって、

どんな困難にも怖気づかない強い心と、

決して倒れることのない強靭な肉体を持つこと

などを誓うように告げると、

「はいっ」

あたしはそれに素直に答えた。

すると呪術師は大きく頷き、

ナイフを手に取るとそれにミルクを軽く掛けた。

そして、あたしの股間に手を入れると、

すっかり萎縮してしまっている股間のオチンチンをつまみ出すなり、

その中にナイフを入れた。

サクッ

そんな音が聞こえたような気がした。

あたしの生えてまだそんなに時間がたっていないオチンチンから激痛が走る。

真っ赤な血が

ボトボト

と滴り押してくる。

「うっ」

激痛に思わず声を上げそうになるとカントト爺さんがあたしの肩をつかみ、

「声を上げることはマサイとして一生の恥…

 耐えるんだ」

と囁いた。

…そんな…だってあたしこんなの耐えられないよぉ

あたしは泣き叫びたかった。

しかし、カントト爺さんがあたしの肩をギュッと掴む力に押されて

あたしの口は開かなかった。

真っ赤な血を滴らせながら呪術師のナイフがオチンチン中を一周すると、

ズルリッ

折り畳まれるようになっていた皮が中から飛び出してきた。

「くぅぅぅ」

さらに強い激痛にあたしは口を真一文字に結ぶと顔を背けた。

「ちゃんと見るんだ」

カントト爺さんの手があたしの顔を元の位置に戻す。

「………」

呪術師は何も言わず、ナイフを引くと今度は外側の皮に斬りつけた。

長引く劇痛にあたしのオチンチンの感覚はすっかり麻痺をしていた。

やがて外側も一周したとき、

ポト…

亀頭を包み込んでいた皮は静かに身体から離れていった。

「良く耐えたな…」

カントト爺さんは割礼に耐えたあたしを湛えたが、

しかし、その時のあたしはすっかり放心状態になっていた。

皮を切られたオチンチンに古くから使われてきた薬が塗られると、

あたしに黒く染められたシュカが渡された。

カントト爺さんはこれは割礼の傷が癒えるまでの衣だと説明した。

その日から一週間ほどの間、

あたしはカントト爺さんの小屋の籠もり割礼で受けた傷を癒した。

そして一週間が過ぎ、ようやく傷がいえ始めた頃、

あたしは長に呼ばれると、

長より真っ赤なシュカとトンボ玉で出来た飾り・マシパイを授けられた。

それはトンボ玉の飾りはモランとしての証で、

ウシを襲うシンバ(ライオン)を倒したり、

または襲い掛かってきた敵を倒したときにもらえる一種の勲章のようなものだった。

こうして、あたしは黒染めのシュカから、

モランの真紅のシュカを身にまとう出で立ちとなった。

「お前はもぅ、モランだ、

 さぁ、サバンナに出て行くがいい」

カントト爺さんはあたしにそう告げると、

あたしをサバンナへと送り出した。



「はぁ…」

あたしはコレまでのことを思い出していると、

ビクッ!!

いつの間にかシュカから飛び出してきたオチンチンが硬く勃起していた。

ズキッ!!

引っ張られた割礼の傷が痛み出す。

「いっいつの間に…」

あたしはそう呟くとそっと腫れ物を触るようにしえオチンチンに手を触れた。

ビクッ!!

「あっ」

割礼を受けむき出しの状態になったままの亀頭に手が触れた途端、

身体の中を電撃のようなものが走った。

そして、何かがあたしの胸の奥で蠢きだした。

「なっなに…このモヤモヤした感覚って…」

あたしは徐々に胸を覆い始めたモヤモヤ感に困惑した。

「…うぅっ…」

ドクン…ドクン…

静かだった心臓が次第に高鳴っていく、

「はぁ…なんなの…

 あぁ…出したい…」

あたしはその場にゴロンと横になると

無意識に両手が股間のオチンチンを握りしめた。

ズキッ!!

傷の痛みが心地いい…

「はぁ」

あたしは大きく息を吸い込むとゆっくりと手を滑らせ始めた。

シュシュッ

硬く勃起しているオチンチンをあたしの手が往復する。

「あぁ…なに…これって…気持いい…」

この行為が男のオナニーであることを知らないあたしは

傷をいたわりながら手を滑らせていく。

ジュルッ

オチンチンの先から透明な粘液がこぼれ始めた。

そして、その粘液がオチンチン全体を濡らすと痛みは和らぎ、

あたしは徐々に激しく自分のオチンチンを扱く、

ジュッジュッ

「あっあっ…

 いっいぃ…

 気持良いよぉ…」

脚を突っ張り顎を上げたあたしは夢中になってオチンチンを扱き続けた。

やがて、

オチンチンのその根元に何かが溜まってくるのを感じてくると、

次第にオチンチンが痺れてきた。

「あっ、なに?

 あぁ何かが…

 何かが出てくるぅ!!」

その瞬間、あたしの脳裏にアニヤッタと呼ばれるマサイの少女の姿が映った。

と同時に、

シュッシュシュ!!

あたしのオチンチンはまるで爆発するかのごとく、

熱い白濁した液体を高く噴き上げると、

ピチャピチャ

噴出した液体があたしの張り出した胸板に付着する。

ムワァ…

液体から湧き上がった生臭く青臭いそんな匂いがあたしの鼻をついてきた。

…はぁはぁ…

あたしは肩で息をしながら手て液体を掬うと、

「うっ…こっこれって…まさか…」

そのときになってあたしはその液体が男性の精液であることにようやく気づいた。

「そんな、あたし…射精…しちゃったの?」

自分が吐き出した精液を眺めていると、

急に恥ずかしさがこみ上げてきた。

その途端、

「おいっ、キレウっ、

 もぅ出るぞ!!

 あっお前、

 そんな所で”勇者の証”を立ていたのか!!」

ランクンが潅木の間から顔を出すなり声を上げた。

「え?、あっ…」

見られたくないものを見られてしまったような気持であたしは慌てて立ち上がると、

シュカについた埃を叩きながら、

「いっいきなり声をかけないでよ」

と文句を言うと潅木の中から出た。

「はは…

 俺達に教えられなくてもキレウは立派に”勇者の証”を立てたか、

 いいか”勇者の証”を立てるのなら、

 女を抱いているときにするようにしろ、

 こんなところで出しても子供は作れないぞ」

ランクンはそういうとあたしの頭を軽く小突いた。

「勇者の証…」

この放牧の旅に出てあたしは初めて男のオナニーの味を知った。

そして、

あたしの心の中が少しづつマサイらしくなってきていると感じるようになってきた。

恐らく、あたしの中で眠っているというキレウの魂が

あたしの心を少しずつ蝕んでいるのではないかと思う。

こうして徐々にあたしの心がマサイになっていくと、

このたびが終わる頃にはあたしの心はマサイのモラン・キレウと一体となり

霧島圭子と言う女の子はこの世から姿を消してしまう…

これから向かう自分の運命がおぼろげながら見えてきたけど、

でも、全然怖くはない。

だって、俺は…マサイのモラン・キレウなんだから…



おわり