風祭文庫・モラン変身の館






「大安吉日」


作・風祭玲

Vol.224





「綺麗よ…好子…」

「そんな、ヤメテよお母さん」

結婚式場の控え室で母の君枝は娘の好子のウエディングドレス姿を眺めながら

目に涙をためていた。

「そんなことはないわよ」

君枝は好子にそう言うと、

「父さん…間に合わなかったね」

好子はポツリと呟いた。

その言葉を聞いた途端、

君枝はムッとした表情になり、

「あんな男…最初から居なかったと思ってなさい。

 全く、仕事仕事仕事で家庭をホッポリ出して飛び回っている男なんか!!

 あぁ結婚するんじゃなかったわ、あんな男…」

と言い放った。

「そんな…母さん、言い過ぎよ…

 父さんも父さんなりの考えがあってのコト、

 それにきっと遠い所から祝福してくれているわ」

好子は父を庇うように母・君枝にそう言ったとき、

バン!!

突然部屋のドアが開け放たれると、

「おぉ…好子っ

 ココにいたのか!!

 探したぞ!!」

と声を上げながら一人の男性が部屋に入ってきた。

「お父さん!!」

「あなた!!」

髭面で髪もボサボサ、

そしてよれよれのスーツ姿の男性を見て好子と君枝は声を上げた。

そう控え室に入ってきたこの男こそ、

二人の夫並びに父親であり、

そして考古学の権威でもある江藤勝だった。

「あっあなた、何ですかっ、

 その格好は!!」

結婚式場とは縁のなさそうな夫の姿に君枝が声を上げると、

「いやぁ…はははは…

 成田の連中がなかなか通してくれなくてな」

と片手になにやら細長い棒のような包みを持ちながら豪気そうに勝は笑うと、

「ちょっと、

 もうすでにあちら様もお見えになっているんですよ。

 スグに支度してください」

君枝は強い調子で注意した。

「支度?

 おぅそうだそうだ!!

 好子、

 お前が父さんの子で助かったよ」

ウンウンと頷きながら勝は好子の手を握ると、

「さぁ…コレを受け取りなさい」

そう言って細長い包みを好子に向けて差し出した。

「なっなんですか?

 これは?」

父親の言葉の意味が解せない好子は首を傾げながら包みを受け取ると、

「お前にとって大切なモノになるモノだよ、

 さぁ早くその封印…じゃなかった包みを開けなさい」

と勝は好子に勧める。

「はぁ…」

好子はいまひとつ飲み込めないような返事をすると

肘まで覆っている手袋を取りその包みを開け始めた。

やがて中から出てきたのは一本の槍だった。

「槍?」

好子は槍を眺めながら不思議そうな顔をすると、

「そうだ、マサイの槍だ、

 いやぁ…成田の連中を納得させるのに苦労したよ」

と、勝は槍の運搬に伴う苦労を思い出しながら大きく頷いていると、

「あなた!!、

 これから嫁に行く娘に槍を送るなんてどういうコトですか!!」

と君枝が勝にくってかかった。

「嫁にって?

 誰が?」

君枝の言葉に勝が首を傾げながら聞き返すと、

「あなた…

 自分の娘が結婚するってコトも判らずにここに来たのですか?」

君枝が呆れた表情でそう言うと、

「お父さん…

 あたし、今日結婚するんですよ」

槍を抱えながら好子が説明するように続けて言うと、

「え?、そうか、

 好子…お前…結婚するのか?」

勝は好子を指差してそう尋ねた後、

そして、

「そうか、それは…相手さんには残念なことをしたな…」

と呟いた。

「…残念なこと?」

好子は勝が言った最後の言葉が引っかかって聞き返すと、

「そうだ、お前は父さんの発掘を手伝って貰うために

 これからマサイの勇者になって貰うんだぞ」

勝は言い聞かせるようにして好子に告げた。

「え?…あたしがマサイの勇者?」

好子がそう聞き返したとたん、

キィーーン…

彼女が手にしていた槍が鳴ると、

トクン!!

彼女の胸の鼓動が大きく打った。

「え?」

トクン!!

トクン!!

槍を抱えながら好子はその場に立ち尽くすと、

ドクン!!

まるで体の中を突き抜けるような強烈な何かが突き抜けていった。

カッ!!

好子の手から滑り落ちた槍が床に突き刺さる。

と同時に

「あっ」

ガクン!!

好子はその場に倒れるように蹲った。

「好子!!」

君枝の悲鳴が控え室に響いた。

ザザザザザ…

ウェディングドレスのチュールが音を上げる中、

ドクン!!

ドクン!!

なおも好子の鼓動は収まることはなく力強くうち続ける。

ハァハァ

「くっ苦しい…」

胸を掻きむしりながら好子は苦しさを訴える。

すると、

『モランよ…』

と好子に話しかける言葉が彼女の頭の中に鳴り響いた。

「だっだれ?」

『モランよ…

 さぁ、その古い身体を脱ぎ捨て、生まれ変わるのだ』

言葉はそう続ける。

「生まれ変わる?」

『さぁ…』

「あぁぁ…」

話しかけてくる言葉に好子が頭を抱えて声を上げた途端、

ビクン!!

ムリムリムリ!!

彼女の身体に変化が起きた。

ドレスから露出している腕や肩に筋が張ると、

柔らかな皮膚の下から次々と筋肉が盛り上がり始めた。

そして、それと同時に、

ミシミシミシ…

彼女の骨格が見る見る骨太になり、そして伸びていく、

「あぁぁぁ…」

ビリビリビリ!!

好子の身体の変化に付いていけなくなったドレスが肩の周りから引き裂けていくと、

さっきまでその下にあった好子の乳房は消え、

代わりに筋肉が盛り上がり逞しい胸板を形作っていく。

「いやぁぁぁぁ!!」

その様子を目の当たりにした好子は悲鳴を上げたが、

しかし、身長は160cmそこそこだった好子の身体は、

メキメキメキ!!

と言う音共に伸びていき瞬く間に2mを越すような長身と化していった。

「やめてやめて!!」

そう叫び続けながらも、

好子の細く伸びた手足や身体からは脂肪の柔らかさが消え、

盛り上がった筋肉の瘤と筋の陰影がしっかりと刻まれていった。

「あぁぁぁ…うぅぅぅぅぅ」

変化していく肉体の苦しみから逃れるように好子は転げ回るが、

その間にも彼女の身体は作り変えられ、

色白だった肌は黒く染まっていくと、

程なくして黒光りする黒檀色の肌へと変わり、

さらにドレスが脱げ落ちた腰には朱染めの布・シュカが巻き付き、

そして股間からは

ニュッ…

っとキノコのような肉の棒が姿を現すとたくましく成長していった。

こうして好子の身体はすっかり漆黒の肌に覆われた逞しい男の身体と化したが、

しかし、彼女の首から上は肌が幾分黒くなったモノの、

以前の面影はなんとか健在だった。



コンコン!!

突然ドアがノックされると、

「好子さん…お父さんが帰国なされた…って聞いたけど」

そう言いながらタキシード姿の青年が顔を出した。

「ん?

 君は?」

彼の登場に気づいた勝が訊ねると、

「あっ、好子さんのお父さんですか、

 初めまして、

 わたし好子さんと結婚することになりました…日塚敏夫と…

 うわっなんだ?」

敏夫は勝にそう自己紹介する途中、

部屋の真ん中で蹲る人物に気づいた。

そして、

「うっぅぅぅう…」

うなり声を上げながらゆっくりと起きあがると、

「ひぃぃぃぃ!!」

変身した好子の姿を改めて見て君枝は悲鳴を上げた。

「なっ、だっ誰?

 え?、

 好子さん?」

敏夫は立ち上がった人物の顔に残っていた好子の面影に気づくとそばに寄り、

「なんで…」

と信じられないような顔で尋ねた。

「あぁ…彼か

 たったいまマサイのモランとなった好子だよ」

勝は俊夫にそう説明するのだが、

「モランになったって

 そっそんな…

 だってこれは…」

驚きながら敏夫は聞き返すと、

「イヤっ!!」

ようやく彼の存在に気づいた好子は思わず両手で自分の胸と股間を隠したが、

しかし、両腕から来る感覚は普段とは違ったモノになっていた。

胸を隠した手からはプクリとした乳房の感覚ではなく、

平たく固い胸板の感触が、

そして、股間を隠した手からはシュカ越しに固く締まった肉棒の感覚が感じられた。

「あぁ…

 あたし…何が…起きたの?…」

頭の中が混乱しながら好子は姿見の方を向くと、

サァァァァ!!

一気に彼女の頭から血の気が引いて行った。

そう、姿見にはウェディングドレス姿の女性の姿はなく、

変わりに股間の肉棒を大きく勃起させた

筋骨逞しい裸体のマサイの戦士が立っていた。

「そんな…

 こっ、コレがあたし?」

信じられない表情で好子が呟くと、

「そうだ、好子…お前はマサイの戦士、モランになったのだ」

と勝が胸を張って告げた。

「そんな…あたしが、男になったなんて」

股間で固く勃起する肉棒を両手で感じながら好子がその場にへたり込むと、

ビクッ

股間に聳える肉棒・ペニスが大きく盛り上がった。

すると、

「あっ…はっ」

無意識のうちに好子の両手はシュカの中から、

大きく膨張しているペニスを取り出すと握りしめた。

「うっ」

経験したことがない快感に好子は声を漏らす。

『さぁ…お前のモランの証を見せて貰うぞ』

再び声が好子の頭の中に響くと、

シュッ

シュッ

シュッ

っと好子はペニスを握りしめた手を動かし始めた。

ゾクゾク…

ゾクゾク…

その度に彼女の背筋に悪寒に似た快感が走っていく、

「だっダメ!!」

快感に身をよじりながら好子は手を離そうとしたが、

しかし、好子は手を離すことは出来なかった。

シュッ

シュッ

シュッ

好子の手の動きは徐々に早くなっていき出来たばかりのペニスを攻める。

「あぁ…」

「いやっ」

「うぅ…」

「うぉぉぉぉ」

やがて、快感に感応するかのごとく好子は吠えるようにして声を上げはじめた。

「なに…

 なにかが…あたしの…
 
 オレの中に溜まっていく…
 
 あぁ、出したいの、
 
 ダメ、出しちゃぁ

 でも、出したい
 
 出させてくれぇぇぇ」

口をパクパクさせながら

好子は何かが彼女の奥深くから突き破ろうとする感覚に必死に耐えていた。

「あぁ…」

目を瞑り、脂汗を流しながら眉間に皺を寄せ耐える、

『さぁ、お前の手で生まれ変わるのだ』

声は好子にそうと告げると、

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

シュッシュッシュッシュッ!!

まるでピストン運動のようにして好子は己のペニスをしごき続けた。

「あぁ…

 あぁ…

 ああ!!」

やがて、股間の奥深くに熱く溜まったそれは出口を求めて暴れ始めると、

ジンジンという感覚がペニスの根本から伝わって来た。

「あんあんあん

 ダメ、
 
 出ちゃうぅぅぅ

 あぁぁぁぁぁん」

プシュゥゥゥゥゥゥッ!!

好子が大きく声を上げた途端、

まるで射出するかのごとく白濁した液体がペニスから噴き出した。

ピチャピチャ

ペニスから吹き出した液体は放物線を描きながら床や壁に付着していく。

「あぁぁぁ…

 あたしは…」

射精した後の脱力感に酔いしれながら好子がそう呟いていると、

グググググ

モリモリモリ!!

放心状態の好子の身体が再び変化し始めた。

プクッ

好子の唇の周りが膨らみ始めると

見る見る膨らみ顔のアクセントとなり、

ビシビシビシっ

頬骨が張りだし始めると、

鼻も横に平たく変化していく。

そして好子の肩にかかっていた髪も見る見る縮れていくと細かく編まれ、

赤褐色へと染まっていく。

「アァ…」

喉に喉仏が盛り上がり、

好子の口からはトーンの低い男の声が漏れ始める。

『お前は立派にモランの証を立てた

 さぁ…サバンナにくるがいい』

と言う声が響いた。

「モラン?…アタシガ?…」

好子はそう呟きながらゆっくりと立ち上がると、

「あっ、あなた!!

 好子を何処にやったんです!!

 さっさと返してください!!」

と母親の君枝が父の勝に抗議している様子が目に映った。

「かっ、母さん…何を言ってんの?」

好子はそう言いながら母親に近づいていくと、

「えぇい、汚らわしい!!

 あたしに近寄らないで!!」

君枝はまるで毛嫌いするかのように好子を追い払う素振りをする。

「そんな…」

母親の態度に好子が驚くが、

しかし、勝は、

「さぁ、好子…いや、マサイよ、

 ここはお前の住むところではない

 さぁ、早くサバンナへ行くんだ。

 その槍に念じればたちどころに連れて行ってくれるぞ」

と叫んだ。

「サバンナ…

 アタシ…

 マサイ…」

好子は完全にマサイと化した自分の姿を見ながら、

突き刺さっていた槍を引き抜くと手にしたそれを見つめた。

すると、

「おっいう好子、どうする気だ」

と呆気にとられながら彼女の変身を見てしまった敏夫が声を上げた。

「アァ…

 トシオ…サン

 ソンナカオデ アタシ ヲ ミナイデ」

と言いながら好子は敏夫を見ていると、

好子の心に次々とマサイの魂が注ぎ込まれてきた。

「アァ…サバンナニ…ハヤク…サバンナニ イキタイ」

そう思うのと同時に、

「……トシオサン…

 アタシトイッショニクル?」

と彼に尋ねた。

「え?」

好子の意外な提案に敏夫は驚くと、

「行くって何処に?」

と聞き返した。

「…サバンナヨ…

 …アタシハコレカラ”モラン”トシテイキルノ

 ダカラ トシオサンモ イッショニキテ…」

好子は敏夫にそう告げた途端、

ビクン!!

朱染めの腰巻きの中から大きく勃起したペニスが鎌首を擡げ始めた。

「おっおい、好子っ、何をする気だ」

好子に追いつめられていく敏夫はそう言って後ずさりしていくが

しかし、程なくして壁に背中が当たり逃げ場を失ってしまった。

「ネェ…アタシタチノ アイハ フメツダヨネ」

逃げられないように大きく手を広げて好子は敏夫に迫っていき、

「だっだから…?」

目の前に黒々と立ったマサイの戦士に怯えながら敏夫が返事をすると、

グン!!

マサイとなった好子は敏夫の肩を掴むなり、

思いっきり下へ押した。

「うわっ」

ドシン

敏夫は尻餅をついてその場に座り込んでしまい、

「サァ…トシオニモ マサイノタマシイアゲル」

好子は見下ろしながらそう言うと、

ズィ

っと自分のペニスを敏夫の顔の前につきだし、

「コレヲ ナメテ…」

と続けた。

「なっ、え?」

目の前に迫るペニスに敏夫が顔を背けると、

「トシオ…アタシノコト アイシテイルヨネ」

それを見た好子は確認するようにして訊ねると、

グィッ

好子は敏夫の顔を両手で持ち、

そして、口をこじ開けさせると

グイッ!!

勃起した己のペニスを敏夫の口の中へと押し込んだ。

その途端、

モゴォォォォ!!

口の中に進入してきた肉のかたまりを吐き出そうと敏夫はうめき声を上げるが、

「アァ…イィ…イクゥ」

全身を快感に振るわせながら好子はそう呟き、

腰を激しく振り始めた。

そして、何回か腰を振ったところで、

敏夫の喉の奥にペニスを深く押し込むと、

ドプッ!!

と彼の中に大量の精液を放出した。

ウグッ!!

ブハッ!!

ゲホゲホゲホ!!

放出した精液を飲まされた敏夫がスグにペニスを吐き出し咽いでいると、

その姿を眺めながら

「サァ…トシオモ マサイニ…」

と好子が囁いた。

「(ゲホ)なっなにを…」

それを聞いた敏夫が言い返すと、

ムズッ

突然彼の両胸がむず痒くなり始めた。

と同時に、

ムリムリムリ…

敏夫の両胸は膨らみ始めると、

ブッ

彼の胸のシャツのボタンが弾け飛び、

シャツの中から見る見る黒い肌に覆われた膨らみが姿を現してきた。

「うわぁぁぁ!!

 なんなんだこれぇ!!」

表に飛び出してきた乳房をプルプルと震わせながら、

敏夫が驚いていると、

メキメキメキ

今度は彼の臀部が大きく膨らみ始め、

両肩や腰の幅がゆっくりと狭まっていく。

「やっやめてくれぇぇ!!」

敏夫はそう叫びながら頭を抱えて転げ回るが、

しかし、彼を襲う変化は容赦なく身体を作り替えていく。

さらにスポーツで鍛えた腕や脚から筋肉が落ちて細くなっていくと、

穿いていたズボンが脱げ落ち股間が露わになった。

そう彼の股間からは男の象徴であるペニスは消え、

代わりに縦方向の溝・女陰が口を開けていたのである。

程なくして身体全体が丸みを帯びてくると、

そして全身を黒い輝きを放つふっくらとした肌に覆われた彼の姿は

まさにマサイの少女になっていたのであった。

「あぁん…」

喉仏の膨らみが消え、敏夫の口から少女の声がこぼれる。

「トシオ…」

すっかり変身してしまった敏夫を見ながら好子はそう呟くと、

ソッと彼女の身体に朱染めのシュカを巻き付けさせると抱き上げ、

「サァ…コレカラトシオハ ワタシノツマニナルンダ」

と言い聞かせるようにして言うと、

彼女の首と耳、そして、脚にそれぞれ装身具を身に着けさせた。

「アァ…ヨシコ オレハ…アタシハ アナタノツマニナッタノ?」

自分の両肩を抱きしめながら敏夫がそう訊ねると、

「ソウダ…アタシ…オレタチハ ケッコンシタ

 サァ サバンナニイコウ」

好子はそう言うと槍を大きく掲げた。

その途端、

ブワッ

控え室内に砂塵を伴う大きな風が巻き起こると、

二人の姿はその中に消えていった。

そして…

『勝…世話になった…

 村を守るモランとその妻を得ることができ、感謝している。

 お前が入りたいと言っていた禁断の地へ入ることを許可しよう』

と言う声が響くと、

フッ!!

まるで何事もなかったのかのように消えてしまった。

「…さて、では急いで成田に戻るとするか…

 これでマサイ達が禁断の地としているところの発掘が堂々と出来るぞぉ」

勝は二人が消えた跡を眺めながら

そう言うと浮き浮きとした表情で支度室から出ていった。



「なに…?

 なんなの?

 一体何が起きたの?」

一人取り残された君枝は目の前で起きたことが未だ信じられず、

ただ呆然としていたのであった。



おわり