風祭文庫・モラン変身の館






「憧れ」


作・風祭玲

Vol.178





強烈が日射が降り注ぐ広大なサバンナの大地を、

長い槍と楕円の盾を持ち、

朱染めの衣装・シュカを身にまとったのマサイの勇者が風のように駆け抜けていく。

細身の身体でありながら、

長い四肢には無駄のない逞しい筋肉が張り出し、

黒く輝く肌に覆われたその姿は獲物を求めるハンターの様でもあった。

やがて、勇者はその行く先に大きな鬣を持った一匹のライオンの姿を見つけると、

慎重に風下に回り込み、

ゆっくりと近づいて見せる。

やがて彼の槍の射程圏内にライオンが入るや否や、

彼はスクと立ち上がると、

シュッ!!

渾身の力を込めて手にした槍をシンバ目がけて射った。



PiPiPiPi!!

「ふぁ?」

突然鳴り響いた電子音にあたしは目を覚ますとうっすらと目を開けた。

「夢?…」

無意識のうちにあたしの手は自分の身体を隈無くまさぐる。

しばらくした後、

ふぅ〜っ

あたしは大きなため息を吐くと、

「なんだ…夢だったのか」
 
っと呟き、ムックリと起きあがった。

「はぁ…、

 目が覚めたらマサイの勇者になっていた。

 なんて事は起きないのかなぁ〜っ」

と言いながらあたしはカーテンを開けた。



あたし…友江あずさ、高校2年生の17歳!!

両親は2人とも海外に赴任していて、

自宅のマンションにはあたし一人で住んで居るんだけど、

返って伸び伸びすることが出来て別に寂しくはないよっ。

さて、実はあたしは見た目はごく普通の女の子なんだけど、

でも、ちょっと変わった願い事を持っているのっ

それは…

……マサイの勇者に憧れているんです。

あのサバンナを半裸の姿で生き抜いていく逞しい姿を思い起こすたびに、

あぁ…なんであたしはマサイじゃないんだろう…てね…

もしも、いま目の前にマサイの神様が現れて、

あたしをマサイにしてくれるのなら………



とマサイの勇者となったあたしの勇姿を想像しているとき、

ドンドン!!

突然玄関のドアが叩かれると、

「おぉ〜ぃ、あずさっ、

 そろそろ家を出ないと学校に間に合わないぞ!!」

と言う声が響いた。

隣に住んでいる幼なじみの十河久司だっ、

まったく良いトコだったのにぃ…



「お前…まだ、そんなこと思っているのか?」

通学途中、あたしに面頭向かって久司が声を挙げた。

「別にいいじゃないっ、

 久司には関係ない事よっ」

あたしはそう言ってプイっ横を向くと、

「関係ない…って言ってもなぁ…

 マサイ族が大好き。

 なんて言う女は居ないぞ!!」

と久司が呆れながら言うと、

「うるさいわねぇ…」

あたしはそう言いながら横目で久司を睨み付けていると、

「お嬢さん…」

突然声が掛けられた。

「え?」

掛けられた声の方を見ると、

道路の片隅で奇妙な老人が、

頭から布をすっぽりと被り顔だけ出した姿で道ばたに座り込んでいた。

「あたし?」

あたしは自分を指さして訪ねると、老人は大きく頷き、

「そう、あなたですよ、お嬢さん…」

頷きながら老人はあたしに言った。

「あずさ…早く行こう…」

久司はあたしの制服の袖を掴んで急かすと、

「う…ん…」

そう言って足早に立ち去ろうとしたとき、

「あぁ…お嬢さん…お待ちなさい…

 アナタはちょっと変わっている”望み”を持ってますね?」

と尋ねてきた。

「!!」

その言葉にあたしは思わず立ち止まると、

「実はお嬢さんに差し上げたいモノがあります…

 これを持って行きなさい」

と言いながら老人はあたしにある物を差し出した。

「?」

それを手に取ってみると一体の偶像だった。

「これは?」

あたしの質問に老人は、

「それにアナタの願いを叶えてくれるものです。

 それに願いを込めて枕元に置くと、

 次の日にはその願いがかないますよ」
 
と説明した。

「…あたしの願い……

 それって、どんな望みでも?」

っと聞き返すと、

老人は大きく頷いた。

「おいっ、あずさっ、そんな奇妙なモンは棄ててしまえよっ」

苛立った久司が横から顔を出して割り込んでくると、

「うっるさいわねぇ〜っ、

 久司は黙っていなさいよっ」

あたしは彼を一蹴し、

「判ったわっ、お爺さんっ

 コレ、ありがたく貰っていくね」

と言いながら老人へと視線を戻すと、

いつの間にか老人の姿はまるで最初からそこに居なかったかのごとく消えていた。

「いっ居ない!!…」

「そんなぁ…さっきまでそこに居たのに」

そう言いながらあたしと久司は顔を見合わせていた。



「ふぅ〜っ

 それにしても朝のお爺さんは何だったんだろう…」

夜、あたしはお爺さんから貰った偶像を眺めながらそう呟いていた。

そして、しばらくの間偶像を眺めていると、

「…それにアナタの願いを込めて枕元に置くと、

 次の日にはその願いがかないますよ…」

と言う老人の言葉が頭に響いた。

「あたしの願いか…」

あたしは偶像の前に改めて座り直すと、

「だったら…あたしをマサイの勇者にしてください。お願いします」

とあたしは自分の兼ねてからの望みを偶像に向かって言った。

ふっ…

「…なんてね…

 こんな事でマサイの勇者になれたら誰も苦労はしないよね」

ツン

軽く息を抜いたあと、あたしはそう言って偶像をつつくと、

「さぁっ、寝よ寝よ…」

と言うと部屋の電気を消した。



「………………」

「………あれ?」

「……ここは…」

ふと気がつくとあたしは見渡す限りの荒野を歩いていた。

「ここは…ひょっとしてサバンナ?」

そう思いながら強く照りつける日差しの元、

荒野を歩いていくと、

やがて、一本の大木が目に飛び込んできた。

太い幹にまるで根が天空へと伸びるような枝、

そうこれは…サバンナの木・バオバブの木だ。

「バオバブだ…」

あたしは引かれるように大木に近づいていくと、

『……異境の者、

 …よくぞココへ来てくれた。

 …この木はマサイの聖なる木・ンルン』

という声と共に朱染めのシュカを身にまとい杖をついた老人が姿を現した。

「あなたは…朝の…」

そう私に近づいてきたマサイの老人は今朝あたしに偶像を渡した老人だった。

「お爺さん…マサイだったの…

 全然気がつかなかったわ」

あたしがそう訊ねると、

『儂はこのンルンと共に暮らすマサイの長老…』

と言いながら老人はそっと幹を撫でた。

すると

ポゥ…

っとンルンの幹が光り輝いた。

「マサイの長老?」

あたしはそう返事をしながら長老を眺めると、

『お前の望み…しかと聞いたぞ』

長老はそう言うと鋭い眼光であたしを見た。

「え゛?」

長老の指摘にあたしは一瞬ドキっとすると、

『ふっ、面白い奴だ、

 異境の者でありながらマサイになりたいとは…』

長老は表情を変え、

笑みを浮かべながらそう言うと、

『…お前は本当にマサイになりたいのか?』

と改めてあたしを見つめた。

コクン

あたしは頷くと

『…なるほど…

 …お前が本当にマサイになりたいのなら、
 
 そのンルンの幹に手を触れなさい。

 お前がマサイにふさわしいかどうかンルンの審判が降りる』

そう言いながら、

スッ

長老は持っていた杖をンルンへ向けた。

「審判…」

グッ

そう呟くとあたしはバオバブの木を見つめた。

『さぁ…どうする?』

長老の言葉にあたしは一歩前に踏み出すと、

ゆっくりとンルンに近づき、

そして、幹の正面に立つと、

恐る恐る手を出すと幹に近づけていった。

そして幹に触れる直前、

「…あずさ…」

あたしの脳裏に久司の顔が浮かんだ。

「え?、

 なんで…久司が…」

ビクッ

あたしは一瞬手を止めたが、

しかし、

「えいっ!!」

っと目を瞑って思いっきり幹を触った。

ザワザワ…

ンルンがざわめき出すと、

パン!!

幹で何かが弾けるとあたしの中にそれが飛び込んできた。

「くぅぅぅぅ〜っ」

突然襲ってきた苦しさにあたしは思わず跪づくと、

『…ふっ…そうか…

 …ンルンはお前をマサイのモラン(勇者)として認めた。

 お前はもぅ…マサイのモランだ』

と言う長老の声があたしの耳に入ってきた。

「あたし…マサイ?」

顔を上げながらそう言うと長老は、

『そうだ、お前はマサイだ。

 経ったいまンルンよりモランの魂を授かった。

 しかし、異境の者よ、

 その身体ではまだモランとして認めるわけには行かない』

そう言うと長老はあたしの目に跪くと、

右手をあたしの額に当て

「…………」

呪文を唱えた。

ブブブブブブブブ…

あたしはまるで長老の手からあたしの体の中へ向かって

エネルギーが注ぎ込まれる錯覚に陥った。

「なに…これ?

 あっあたしの身体に力が注ぎ込まれる…」

そう感じながらあたしの意識はユックリと消えていった。

『…新しいモランよ、

 お前の身体がモランに相応しくなったとき、

 再び会おう…』

消えゆく意識の中でその声だけがあたしの頭の中を駆けめぐっていた。



チュンチュン!!

窓の向こうで雀の鳴き声が響いている。

「夢?」

目を覚ましたあたしは起きあがって偶像を置いた枕元に視線を移すと、

「あっ」

寝る前までは人の姿をしていた偶像が粉々に砕け散っていた。

「…あれは夢じゃぁないの?

 …じゃぁ…あたしは既にマサイの勇者に!!」

そう思うと同時にあたしは飛び起きると自分の体を眺めた。

しかし…

眼下に見えるあたしの身体は昨日とまるで変わらず、

細い腕に色白の肌に覆われた女の子の身体が目に飛び込んできた。

「女の子…」

それを見たあたしは、

ドッ

っとその場に座り込んだ…

「なんだ、やっぱり夢か…

 そうだよね…

 マサイになれるはずはないのに…」
 
そう呟くと、

「学校の準備をしなくっちゃ…」

窓から見える青空を見ながらそう言った。



「マサイになった夢を見たぁ?!」

登校途中にばったりであった久司があたしの夢の話を聞いて声を挙げた。

「うん…」

あたしは素直に頷くと、

「夢の中にあの爺さんが出てきて、

 で、その爺さんがマサイで…

 で、お前をマサイにした。と…

 おいおいっ

 お前、そんなにマサイになりたいのか?」

そうしみじみと久司はあたしの顔を見ながら言うと、

「…よく判らない…」

あたしは答えると走りはじめた。

「おっおい…待てよっ」

後ろから久司の声が追っかけてきた。

タッタッタッ

別に走りたかったわけではないけれど、

ただ無性に走りたくなったのだ。

しばらく走るとあたしの視界に学校の正門が飛び込んできた。

「え?、もぅ学校?」

いつもは歩いて30分以上かかる学校までの道のりが、

今日は10分も満たない時間で着いてしまった。

そして教室に入ってから大分経って、

「はぁはぁ…」

肩で息をしている久司が教室に入ってきた。

「久司…どうしたの?」

驚いたあたしが声を挙げると、

「おっお前なぁ〜っ」

フルフルと震えながら久司はあたしの横に立ち、

「マサイに憧れるのは良いが、

 マサイになるなよなっ」

と突き刺すような口調で言うと自分の席に着いた。

「…マサイになるな…

 って言われても…」

そう思いながらあたしは自分の手を眺めた。



「友江さんっ!!」

「はぃっ…」

3時間目のバスケットボールで飛んできたボールを受け取ったあたしは、

タン!!

手にしたボールをたたき落とそうと伸びてきた手を払いのけながら、

思いっきり飛びあがった。

すると

グーン!!

たちどころに視界が開けると、

眼下にさっきまであたしの視線の上にあったみんなの頭が見える。

「え゛?」

あたしは思わず視線の変化に驚いたが、

さらにゴールのリングに視線を移すとクッキリとリングが見えた。

「………」

あたしはそのままボールをシュートすると、

手を放れたボールはリングの中にすっぽりと収まり床へと落ちていった。

テンテンテン…

一瞬、静寂が体育館を包み込んだ、

そして、スグに

「ナイスっシュート!!」

「…すっごぉーぃっ、友江さん!!」

「どうしたの!!」

と口々に叫びながらみんながあたしの周りに集まってきた。

「…そんな…」

あたしは自分の手を眺めながら身体に起きている変化を感じ取っていた。



昼休み…

久司があたしの傍に来ると、

「あずさ…バスケの話、聞いたぞ、

 お前…まさかと思うけど…
 
 本当にマサイになっていっているんじゃないのか?」

と心配そうな顔で尋ねて来た。

「久司ぃ……実はあたしの身体…変わってきているのよ」

あたしは久司の顔を見上げながらそう言うと、

「変わってる?」

彼は真剣そうな眼差しであたしを見つめた。

「うん…実はさっきから身体の様子が変なのよ」

「……別に変わってきている様子はないけど…」

あたしの訴えに久司はそう言うが、

ムク…ムク…

しかし、あたしの身体は確実に変化し始めていた。



放課後、あたしは友達からの誘いを断ると、

スグに学校から飛び出していった。

ミシ・ミシ…

身体の変化のスピードは確実に上がり、

制服の下の身体は女の子で無くなりつつあった。

「…あずさ、待てよっ」

校門で出たところで久司があたしを追って出てきた。

「久司…部活は良いの?」

あたしが訊ねると、

「馬鹿野郎!!、

 お前の一大事は俺の一大事だろうがっ

 部活なんかやってられるかっ」
 
と言うと、あたしの隣に並んだ。

「!!っ

 あずさ…お前…背が…
 
 …それに、肌の色も…」

驚きながら久司はあたしを見上げた。

そう、既にあたしの身長は久司を追い抜いていた。

それだけではなく、肌の色も徐々に黒味が増してきていたのだった。

「……うん…」

あたしは頷くと視線を下へと落とした。

そして、

「久司っ、行こう」

と言うとあたしは彼の手を引っ張ると学校から離れていった。

これ以上あたしの姿を他の人に見られたくなかったからだ。



ムク・ムク…

歩いていてもあたしの身体の変化は続き、身長も伸びて行く。

すると突然、

グィ!!

あたしの股間で膨らみを増していた肉球が一気に伸び始めた。

「あっ!!」

その変化にあたしは声を挙げて立ち止まると、

「どうした?」

久司が心配そうに尋ねてきた。

そして、

「あずさっ…お前…」

彼はそう言いながらあたしのスカートを指さした。

ググググ…

彼が指さした先にはあたしの股間から姿を現した肉の棒が

制服のスカートを下から押し上げ始めだした。

バッ

あたしはスカートを押さえると自宅へと急いだ、

道行く人が皆驚きの顔であたしを見る。

いつの間にか人相が変わり、胸の筋肉が大きく張り出し始め、

さらに手足が長く伸びはじめ、

いつの間にか漆黒色の染まった肌は黒光りし始めていた。

あたしの身体は猛烈な勢いでマサイへと変化していった。

そして人目を避けるように自宅のマンションに転がり込んできたときは、

あたしの身体はもはや女の子ではなく、

まさにセーラー服を窮屈そうに着たマサイの姿になっていた。

「…マサイ!!」

鏡にはあたしが憧れていたマサイの姿が映し出されていたが、

しかし、セーラー服を着たこの勇者が自分の姿であることは

信じたくなかった。

「…あずさ…」

続いて入ってきた久司があたしに声をかけた。

「…見ないで!!…」

咄嗟に叫ぶと、あたしはその場に座り込んだ。

すると、

ビシッ!!

ビリビリビリ!!

既に大きく張り出した身体に張り付き引きつっていたセーラー服が、

悲鳴を上げながら下着と共に引き裂かれ、

マサイと化したあたしの裸体が久司の目の前にさらけ出された。

「………」

静寂が部屋の中を支配する。

すると、

『……モランよ…迎えに来た』

と言う声が部屋の中に響いた。

「!!っ、

 長老?」

あたしは立ち上がると周囲を見回した。

すると、

フッ

と言う音共にあのマサイの長老があたし達の前に姿を現した。

『ほうっ、異境の者よ、

 立派なモランになったな』

長老は満足そうにあたしを眺めると、

「よしっ、ではこれからお前をマサイの仲間にするための儀式を始める」

と長老はあたしにそう言った。

「ちょちょっと待った!!」

それを聞いた久司が叫びながらあたしと長老の間に割り込んできた。

『なんだ…お前は!!』

長老は久司を睨み付けると、

『ここはよそ者が来る所ではないっ。去れっ』

と言う言葉と共に杖を振ると

ブォッ!!

猛烈な風が久司を襲った。

「うわっ!!」

久司はまるで風に吹き飛ばれされたアリのように転がっていく、

「久司ぃ…っ」

 あたしはそう声を出そうとしたが、声は出ず

 ただそれを眺めていた。

『では儀式を始める…』

と言う長老の声がするとあたしは長老の前に跪いた。

すると、バシャッ!!

あたしの身体に牛乳が浴びせられた。

「うわっ!!」

あたしは思わず声をあげると、

今度は牛乳を浴びせた所からあたしの体毛をそり始める。

「長老っこれは…」

驚いたあたしが長老に訊ねると、

『異境の者をマサイとして迎えるための神聖な儀式…

 こうしてマサイの乳で身を清め、
 
 毛を剃ることでお前は本物のマサイとなる』
 
と答えた。

やがてあたしは体中のすべての体毛をそり落とされてしまった。

坊主頭になった頭をあたしは恥ずかしげに触っていると、

バッ!!

あたしの身体にマサイのシュカが巻きつけられ、

さらに顔にダチョウの羽で作った鬣を付けられると

あたしは新入りの勇者の姿になってしまった。

『ほぅ凛々しいぞ…

 これでシンバをしとめれば、その鬣は外すことが出来る。

 よし、ではお前にマサイの名を授けよう、

 お前はいまからムクスと名乗るがよい』

長老はあたしにマサイに名を与えてくれた。

「マサイ・ムクス…

 …久司っあたし…ついにマサイの勇者になれたよ」

あたしはそう言いながら倒れている彼の方に行くと、

「そうか…」

久司は起きあがるとふてくされるように一言そう言った。

さらに、

「よっ、良かったじゃないか、

 お前がなりたかったマサイの勇者になれて…

 で…これからどうするんだ?

 その姿では学校には行けないし、

 それに生活も大変だぞ…」

と彼はあたしを見ながらそう言うと、

『ムクスはココにいることはないっ

 私と一緒にサバンナに行くんだ』

長老は久司にそう言った。

「サバンナに?

 どうやって…」

と久司が質問をしたとたん。

『さぁ、モランよ…

 儂といっしょにマサイの住むところに行こうか』

長老の声が響くと、

ぶわっ

部屋の様子が一変した。

「そんな…」

その様子に久司は驚きの声を挙げた。

そう、部屋の様子は一変しサバンナ風景になっていた。

『モランよ…』

長老の声と共にあたしは立ち上がると、

「じゃぁ…久司っ行って来るねっ」

そう言って槍と盾を手にすると、

サバンナの大地へと一歩を踏み出した。

「あずさっ!!」

久司の声にあたしは振り返ると彼の姿はそこにはなかった。

「久司…」

あたしは彼がいた所を見ながらそう呟くと、

タッタッタ

シンバの姿を求めてサバンナの中へと走り始めていたのであった。



おわり