風祭文庫・モラン変身の館






「代償」


作・風祭玲

Vol.157





ゴァァァァァ…

一台の車がサバンナの大地に1本の筋を刻みながら爆走していく。

「ちょちょっと…裕也っ、そんなにとばさくても…」

助手席に座っていた麻衣子がたまりかねて声を上げた。

「おぉ〜ぃ、見て見ろよっこの大地…

 東京じゃぁなかなかお目にかかれないぜ」

裕也はハンドルを握りながらご機嫌だった。

「あんたは日頃の欲求不満の解消が出来るかも知れないけど、

 新婚早々こんなところで事故りたくはないわよ」

揺れる車内で麻衣子が声を上げて怒鳴ると、

「あんまり喋ると舌をかむぞっ」

グィ…

裕也はそう麻衣子に言うとさらにアクセルを踏み込んだ。

「バカァァァァ…」

麻衣子の悲鳴が車内に響き渡る。



丁度その頃、

朱染めの衣装・シュカを身体に巻きつけた姿のマサイの男と

カンガを身にまとった女が道を歩いていた。

「アシクぅ〜っ、どこに行くのよぉ」

女のマサイが先を歩く男のマサイ・アシクにそう訊ねると、

「え?、ジタ何を言っているんだよ街だよ」

アシクは地平線へと続く道の先を手にしている槍で指した。

「街?」

それを聞いたジタが聞き返すと、

「あぁ…

 あんな村にいても面白くもねぇ…

 街に行けば少しは良い暮らしが出来るに違いない」

アシクはそう言うと歩き始めた。

「そんなこと言ったって、長の許しは得ているの?」

怪訝そうな表情でジタが聞き返すと、

「いや…」

アシクは首を横に振った。

「長の許し無くして村を出てきたの!?…」

それを見たジタはそう叫ぶと来た道を引き返し始めた。

「おいっジタ…」

彼女の様子にアシクが慌てて駆け寄ると、

「悪いけど、あたし帰る…」

とジタはアシクに言うと、そのまま歩き続ける。

「帰るってあの村にか?」

ジタと並びながらアシクが訊ねると、

「そうよ…」

ジタはあっさりと答えた。

「そうってお前…俺の言うことが聞けないのか?」

ジタを引き留めようとしてアシクがそう言うと、

「長の許しを得ない人と一緒には街には行けないわよ」

と叫ぶと彼女はスタスタと歩いて行く。

その時、

ウォォォォォン…

っと遠くからエンジン音がアシクの耳に飛び込んできた。

「車?、珍しいなぁ…」

アシクはその音に気づいたが、

しかし、アシクを置いて戻っていくジタに気づくと、

「おいっ…ちょっと待てよ」

すかさずアシクはジタの後を追った。

「ついてこないで…」

ジタはアシクに向かって言いながら道路の向こう側に走り出したそのとき、

一台の車が坂の上から飛び出してきた。



裕也が運転するクルマは長い坂道を登り切ってようやく下り坂に入ったとき、

道路上を渡る2人の人影を見つけた。

「!!!」

彼は反射的にブレーキを踏み込んだ。

ギャァァァァ!!

クルマは悲鳴上げると砂埃をあげながら

一回転するとようやく止まった。

「……やっちまったか…」

恐る恐る裕也は自分の視線をクルマの外に向けると

クルマの陰に朱染めの衣装を纏った男と女が

道路脇に倒れ動いている様子が目に入ってきた。

二人ともその姿からマサイと思えるが、

しかし、身動き一つしていなかった。



「…もぅ、だから注意してって言ったじゃない」

麻衣子が涙声を上げながら顔をあげてきた。

裕也は彼女に事故のことを気づかせまいと、

いきなりアクセルを踏むとクルマを走らせ始めた。

「ちょっちょっと…誰かはねたんじゃないの?」

動き出したクルマに麻衣子が驚くと、

「…いっいや、人じゃなかった………動物をはねた」

っと裕也は思わずウソを麻衣子に言う。

「戻ろうよ…可愛そうじゃない…」

それを聞いた麻衣子はそう反論して振り返ったが、

クルマの上げる砂埃に二人のマサイの姿はかき消されていた。

「こんなサバンナの真ん中じゃぁ、

 仮に戻ってもどうすることも出来ないよ」

宥めるようにして裕也は麻衣子に言うと、

「でも……」

麻衣子の顔は不満そうだった。

「…まさか…あいつら死んでないだろうなぁ…」

裕也はバックミラーを眺めながら倒れていたマサイの事を案じた。



夕方、ようやく予約していたロッジの前にクルマを止めると、

「おぃ着いたぞ…」

と麻衣子に言いながら裕也はクルマを降りた。

「あっ待って…」

そう言いながら麻衣子が助手席から降りたとき、

「あ痛っ」

と声を上げるとその場にしゃがみ込んだ。

「どうした?」

急いで裕也が麻衣子の元に駆けつけると、

「いたたた…」

そう言って麻衣子は太股を見せると、

彼女が穿いていたズボンは無惨にも切り裂かれ、

そしてそこから赤い血が流れ落ちていた。

「なにこれぇ…」

彼女が降りてきた助手席の方を見ると

クルマの車体の裾の方に槍の剣先のような物が突き刺さり、

刃の先には麻衣子のものと思われる血が付いていた。

「途中で引っかけたんだな…」

それを見ながら裕也はそう言うと、

「ねぇ、さっきのアレ本当に動物だったの?」

と麻衣子が彼に尋ねた。

「なんで?」

「だって…これって槍か何かの刃先じゃない?」

不安そうに麻衣子は裕也に聞き返すと、

「それは考えすぎだよ…

 来る途中結構道が荒れていたから、

 その際にクルマに刺さったんだろう」

と裕也は答えると、

「そう…」

そう返事をする麻衣子の表情はどこか暗かった。

「なぁに、気にしない気にしない…」

裕也は彼女の肩をポンと叩くと荷物をボーイに任せると、

先にロッジに入っていった。



食事後…

「はぁぁぁ…疲れたぁ…」

裕也はそう言うとベッドの上でゴロンと横になった。

「夕食、美味しかったね…」

いつの間にか機嫌を取り直した麻衣子がにこやかに答える。

裕也はポンっと自分お隣の場所を叩くと、

麻衣子は彼の横にちょこんと座った。

「………」

無言の時間が過ぎていく、

ピクッ!!

微かに動いた裕也の手が麻衣子の肩に触れたとき、

「あぁん…まだ駄目よ」

麻衣子は裕也を押しのけた。

「なんで…」

「シャワーを浴びてから…」

裕也の問いかけに麻衣子はそう答えると、

先にシャワー室へと駆け込んでいった。

「………」

裕也は昼間の事はすっかり忘れて、

ただ彼女の後ろ姿を眺めていた。



「じゃぁ、明かりを消すぞ…」

お互いシャワーを浴び、

ベッドに潜り込むと裕也は麻衣子にそう告げると主灯を消した。

予備灯のみの薄暗い中で彼は麻衣子を抱き寄せた。

「いたっ」

その時うっかり裕也の足が彼女の傷に触れると麻衣子は思わず声を上げた。

「ごめんごめん…

 まだ痛む?」

謝りながら彼女を優しく抱きしめると

ふわっ

麻衣子から石鹸の香りではなく土の香りが漂ってきた。

「!?」

裕也の手が一瞬止まると、

「…どうしたの?

 もぅ…焦らさないでよ…」

っと麻衣子は文句を言った。

「うん、ごめん…」

裕也はそう謝ると麻衣子を抱きしめた。

「…愛しているよ麻衣子…」

「あたしも…」

彼女の手が裕也の首筋に絡まる…

裕也も無言のまま麻衣子を見つめた。



そのとき、

『俺の身体…返して貰うぞ…』

と言う声が部屋に響いた。

「?、誰だっ」

「誰?」

パッ

声に慌てた裕也は明かりをつけるとすかさず辺りを見回したが

声の主は見あたらなかった。

しかし、ザワザワザワ…

人の気配が部屋の中を歩き回る。

『見つけたぞ…

 さぁ、俺の身体を返せ…』

と再び声が響くと、

「痛ぁーーいっ」

麻衣子が声を上げた。

「どうしたっ」

「きっ傷が…」

「え?」

見ると彼女の傷口から血が滴り落ち始めていた。

「なんだこれは」

そう言いながら裕也が彼女の傷口に触ったとたん。

「いやぁぁぁ〜っ

 やめてぇ〜っ」

麻衣子が叫び声をあげると、

グリッ

突如彼女の下腹部が盛り上がった。

「なっ」

突然のことに裕也が驚くと、

「やだ…入ってこないで…」

麻衣子は両手で頭を押さえながら叫び声をあげる。

すると、

ミシッ

彼女の腹に一直線の筋が走ると

グリグリグリっっっ!!……

下腹部から胸に向かって腹筋が次々と逞しく盛り上がっていく、

「いやぁぁぁぁ…」

麻衣子は泣き叫び始めたが、

彼女の異変はさらに続き、

ビキビキビキ…

胸に血管が浮き出ると、

見る見る逞しい胸板が盛り上がり始めた。

グイグイと盛り上がっていく胸板に彼女の乳房が飲み込まれると

ピンク色をして隆起していた乳首は黒ずみ萎縮し、

胸板の下に小さく張り付いた。

「おっおい…」

「ヒィヒィヒィ…」

麻衣子は泣き声にならない声をあげているが、

裕也はどうすることも出来なかった。

ビキビキビキ…

骨が鳴るような音が彼女の体の中から鳴り響くと、

グィ…と彼女の身長が伸び始め、

それに合わせるようにして手足も細く長く伸びていった。

「あぁぁぁぁ…」

自分の身に起きていることが信じられないような顔で麻衣子が裕也を見ると、

「うっ…」

突然彼女が股間を押さた。

ニュル…

彼女のクリトリスがまるで雨後の竹の子の様に

彼女の手を押しのけて伸びていく。

ニュゥゥゥゥゥ…

クリトリスは太くなりながら伸びると

ゆっくりとその先端がくびれ始めた。

そして、キノコの傘のようなカリが大きく広がると、

それは逞しいペニスになった。

「…そっそんな…麻衣子…お前…」

「いっいやぁぁぁ…

 見ないでぇ…」

両手で顔を覆い絶叫する彼女の身体は筋肉がさらに発達し、

それどころか、振り乱している髪が徐々に赤茶色へと変わっていくと、

変わったところから簾のように編まれ始めていた。

「…うぅぅぅぅ…」

麻衣子の泣き声がまるで男のうめき声の様な声色に変わる。

そのとき裕也は彼女の肌が傷口あたりから褐色に染まり始めていることに気づいた。

「おっおい……

 ちょっと手をどけて見ろ…」
 
恐る恐る裕也は彼女に言うと、

「え?」

麻衣子は男のような低い声で返事をすると、

顔を覆っていた手をどけた。

「なっ…まっ麻衣子…お前…」

「どうしたの?」

「その顔…マサイ…」

そう手をどけた彼女の顔はマサイと見まごうばかり顔付きに変わっていた。

麻衣子の肌はさらに濃さを増し褐色から黒檀色へと変わっていった。

「あっ…あなた…あたし…」

ビクンビクン

ペニスを勃起させながらすっかり男性化した身体を見せながら麻衣子は裕也に迫ってくる。

「…あたし…」

茶褐色に変わった髪が結いあがると、

チャリン…

首周りや手首、足首に次々とビーズ細工のひもが巻かれていく、

「…あたし…」

バッ

突然現れた朱染めの衣装・シュカが麻衣子の身体に巻き付いた。

「…あたし………うぐっ…

 ふふふ…

 返して貰ったぞ…俺の身体…」

マサイ化した麻衣子が突然男言葉で裕也に話しかけてきた。

「おっお前は…」

「そうさ…昼間お前達にひき殺されたものさ」

とマサイは麻衣子の口を借りて裕也に言う、

「そっそんな…まっ麻衣子を帰せっ」

裕也は思わず怒鳴ると、

「ふっ、出てこい…ジタ…」

マサイは含み笑いをしながらそう言ったとたん、

「…は…い」

裕也の口が開くとそう返事をした。

そして、

チクン…

ムズムズ…

突然裕也の両胸の乳首に虫が刺したような痛痒みが走ると、

ムリムリムリ…

胸がゆっくりと膨らみ始めた。

「あぁぁぁぁぁ…」

マサイが裕也を見下ろしているなか、

胸の膨らみに合わせるようにして、

裕也の身体から筋肉が消え代わりに脂肪がつきはじめると、

徐々に彼の身体は女性の体型へと変化していく、

プルン…

大きく膨らんだ裕也の乳房をマサイは腰をかがめながら、

グィっ

っと握りしめた。

「あん…」

裕也の口から女の声が漏れる。

「ジタ…早くしろ」

マサイが裕也の耳元で囁くと、

「あっ待って…」

裕也は女の言葉でしゃべると、

パサ…

パサパサ…

彼の頭から髪の毛が次々と抜け落ち、

程なくして裕也の頭は髪の毛のない坊主頭になってしまった。

するとマサイは無言で裕也を抱き上げると、

ポン

っとベッドの上に放り出した。

「ジタ…こういうトコロでヤるのも良いかもな」

マサイはそう言いながら裕也の上に覆い被さると、

ムギュッ

お互いの唇を重ね合わされた。

「ん…ん…」

裕也はうめき声を上げると、

マサイの手が彼の股間をまさぐり始めた。

『やめろ…』

裕也は抵抗しようとしたが、

彼に覆い被さるようにして別の者がマサイの行為を受け入れようとする。

『誰だお前は…』

『あたしはジタ…

 あたしの体も返してもらうよ』

女の声が裕也の頭の中に響いた。

チュチュ…

マサイの舌が裕也の乳首を弄び始めた。

裕也は心では抵抗したものの

しかし、身体から伝わってくる快感に酔い始めていた。

「…きて…アシク…」

彼の口はそう言うと、マサイの首に手を回した。

「ふふ…行くぞ…」

その声と共に裕也の股間に激痛が走った。

『うぐっ…いてぇ…』

ググ…

痛みは棒のようになって裕也の体の中に入ってくる。

「あぁぁぁぁん…」

彼の口からは悶える声が発せられるが、

しかし、裕也にはただに激痛にしかなかった。

すると、ゆっくりとそれは水平動を始めだした。

『いて…止めろぉ…いたい…』

裕也は声を上げようとしたが、

しかし、彼の口はそれとは違う言葉を吐く

「なっなんだ、この感覚は…」

徐々に裕也は痛みの奥から来る奇妙な快感に酔い始めていた。

『…うぅ…もっと…もっとこっちに来て…』

知らず知らずのウチに裕也は開くのを抵抗していた股を開き、

マサイを受け入れ始めていた。

『あん…もっと…こっちに…』

はぁはぁはぁ…

マサイの動きは激しくなっていく…

『いっ…いぃ…いく…いっちゃう…

 あぁ………』
 
その言葉を残して裕也の意識は溶けて消えていった。



「どうだ、ジタ…その身体は…」

乱れた衣をなおしながらマサイ・アシクが訊ねると、

ベッドからゆっくりと起きあがった坊主頭の女性ジタは

「えぇ…凄く良いわ…」

と答えると、

汗が輝く黒檀色の身体にカンガを巻き付け

「さぁ、アシク…ココに長居する事はないわ…

 遅くなっちゃったけど早く村に帰りましょう」

と言うと窓を開けた。

「あぁ…」

アシクはそう返事をして立ち上がると、

「だから街に行くのは止めた方が良かったでしょう」

とジタは言い、

「そうだな…街に行くのはしばらく止めとくか」

「それって、また行く気なの?」

「まぁな」

その言葉にアシクは答えるとニヤリと笑ってみせたのであった。



おわり