風祭文庫・モラン変身の館






「モランへの誘い」


作・風祭玲

Vol.102





散々むずかっていた娘がようやく寝付いたのを確認すると、

添い寝をしていた僕はそっと起き上がり、

彼女を起こさないようにベランダへと歩いていった。

星空には銀の皿のような満月がかかり、

秋の夜の街を照らし出していた。

「ふぅ…」

僕は大きく深呼吸すると、月をぼんやりと眺める。

「あぁ、直海が行ったのもこんな月の晩だっけなぁ…」

月を見ながら僕はふと妻・直海のことを思い出していた。


そう、あれは今から一年前のことだった。

夏に長女”まりあ”を出産したころから、

妻の直海が妙に塞ぎこむ事が多くなりはじめていた。

僕はなかなか笑顔を見せてくれない彼女の様子に心配して、

出来る限り彼女の不安を取り除こうとしていたが、

しかし、直海は

「あなた…

 そんなに僕に気を使わないで…」

と言うだけで、なかなか元の明るさを取り戻してくれなかった。


「直海…

 悩みがあるなら何でも言ってくれないか、

 僕達夫婦だろう…」

夕食後、意を決した僕は直海にそう言うと、

「………」

彼女はじっと僕を見つめ、

そして、口を開いた。

「あたし…あなたにもぅすぐ”さよなら”を言わなければならないわ」

「え?」

突然の直海が切り出した話に僕はビックリした。

「いったい、どういうことだ?

 僕に何か問題があるのか?」

思わず聞き返すと、

「違うのよ、あなたには何も落ち度はないわ」

「じゃぁ、なんで?」

「ごめんなさい。

 これまで黙っていたけど

 実はあたし…

 呪いを受けているの…」

「呪い?」

直海の口から予想にもしない言葉が出てきた。

「呪いって…どんな…」

僕の問いに直海はしばらく黙っていると、

「………あたし…

 もぅすぐマサイになってしまうの…」

そう小さい声で答えた。

「マサイ?

 マサイってアフリカの?」

僕が聞き返すと、

「そぅ…」

彼女は俯きながら頷いた。

「これまで、あなたには黙っていたけど

 ……実はあたし
 
 …中学生のころ親といっしょにアフリカ旅行に行ったの」

「えっ、それは初耳だなぁ…」

コクリ

直海は頷くと、

「で、そのとき事故に合って、

 あたし一人がサバンナの真中に取り残されてしまったのよ」

「なに?」

「大怪我をして、

 動けなくて、
 
 ”もぅダメかなぁ…”

 と観念していたときに
 
 一人のマサイのお爺さんに助けてもらったの」

「マサイの…」

「えぇ…ナズアって言ってたっけ、

 そのお爺さん…

 お爺さんはあたしを親身になって手当てしてくれたわ、

 でも、あたしの怪我はお爺さんには手に負えないものだったの」

「で?」

「困ったお爺さんは、

 マサイ村で医者を兼ねている呪術者のえっとなんて言ったっけ…

 もぅ忘れてしまったけど、
 
 その呪術者をつれてきたわ、

 そして、呪術者とお爺さんは何やら話をした後に

 あたしをお爺さんのとこから運び出すと、

 呪術者の所に運びこんだの」

「で?」

「そこには、大怪我をして瀕死のマサイの少年が運び込まれていたわ、

 体中の引っかき傷と大きな噛み千切られた傷を見て、

 何か大きな動物を格闘をした様子だったわ、

 お爺さんは彼の隣に僕を置くと、

 呪術者が呪文を唱えだしたのよ、

 歌のような、詩のような不思議な呪文…

 それを聞いているうちに、

 なんだか眠くなって…

 はっと目を覚ましたら、

 隣にいた彼の姿はなく、

 僕一人がそこに寝かされた居たの」

「大怪我をしたマサイの少年はどうしたんだ?」

「あたしも気になっていたけど、

 お爺さんは何も言わなかったわ

 ただ、”あの少年は別のところで生きている”としか言わなかった。

 それから、あたしの怪我は急に良くなって、

 そして、あたしを探していた人たちに発見されたのよ」

「なるほど…

 しかし、それと呪いとどういう関係なんだ?

 まさか、そのマサイの少年とお前が合体したとでも言うのか」

僕の言葉に直海はしばらく黙っていた。

その様子に

「おい、まさか…」

「えぇ、そうなの…、

 あたしはあのとき、
 
 そのマサイの少年を取り込んでしまったのよ」

「そんなことがあるのか」

「あたしが発見連れ出される直前、

 お爺さんは言ったわ

 ”お前の中にはマサイ・ナミが生きている、
 
  ナミが目覚めたときお前を迎えに行く”

 って」

「信じられない…」

僕が信じられない表情をしていると、

「証拠を見せてあげるわ、これをみて」

そう言いうと直海は立ち上がり、

そして履いている下着を下ろしスカートをたくし上げた。

「そっそれは…」

直海の股間にはあるはずのない黒光りした男のペニスが下がっていた。

「ねっ、見ての通り…

 あたしの変身は始まっているのよ…」

「そんな…」

「それだけじゃないわ」

直海は、着ている服を脱ぎ捨てると、

僕の前で全裸になった。

「いっ」

何時の間にか彼女の体は肌は白いものの女性的な柔らかさは消え、

筋肉質の男性的なゴツゴツとした体つきになっていた。

「これでわかったでしょう、

 僕の中に入ってきたナミは目を覚まして

 見てのとおり、
 
 あたしの体を徐々にマサイにしているのよ」

そういう、直海の目にはうっすらと涙が溜まっていた。

「でっ、でも…

 ここは、日本だし、僕は君が男になってもかまわないが」

と言うと、

「だめよ、

 さっき言ったとおりあたしがマサイになったらサバンナから迎えがくるわ」

と言った途端、

「うっ…」

直海の身体が小さく動くと、

「やっ

 そんな…お爺さんが…」

と呟いた。

「どうした?」

突然変わった彼女の様子に僕が驚くと

「そんな…なんでお爺さんの声が…」

直海は両耳を塞ぎながら頭を振る、

「おっおいっ」

僕はどうしたらいいのか判らずにオロオロしていると、

「はぁ…はぁ…」

直海の息が徐々に荒くなっていくと、

腕を降ろすなり、そっと股間のペニスに手を添えると、

シュッ

シュッ

っと扱き始めた。

「お前…何を…」

彼女の行為に僕が驚くと、

「はぁはぁ…

 お爺さんの声を聞いたらなんだかこう胸がムラムラしてきたの…

 あたしにも判らない…

 でも、こうしていないと落ち着かないのよ」

と訴えるような表情で言った。

「そんな…

 それは男のオナニーじゃないか」

僕は直海の手を止めさせながら言うと、

「いやっ、離して!!」

直海はそう叫ぶなり

ドン!!

と僕を突き飛ばした。

イタタタ…

腰をさすりながら僕が直海を見ると、

「ハァハァ…」

直海は血走った目で僕を見ながら盛んに股間のペニスを扱いていた。

そしてさっきまでは僕のとさほど大きさが変わらなかった彼女のペニスは

まるで棍棒を思わせるようなサイズに勃起していた。

「ハァ…見てぇあなた…

 あたしのオチンチン…

 こんなに大きくなっちゃた」

オナニーをしながら直海はそう言いながら僕を見る。

シュッシュッ

シュッシュッ

漆黒の棍棒のようなペニスに手を絡め付け

ピストンのように直海は手を動かし続けていた直海はほどなくして、

「あぁ…

 痺れてきたわ…

 だめっ・出る・出る・出ちゃう!!」

と譫言のように叫んだ途端、

シュシュシュッ!!!

握りしめた赤黒い亀頭より白濁した液体を天井に向けて吹き上げた。

強烈な精液の臭いが部屋の中に立ちこめる。

「うっ、コレはたまらない!!」

臭いを出すために僕が窓を全開にすると、

「はぁはぁ…

 あたし…」

直海は床に付着した精液を眺めながら呆然と立ちつくしていた。

「お前…自分が何をしたのか判っているのか?」

僕が彼女にそう問いただすと、

彼女は座り込むなり、

「突然、あのお爺さんの声が響いてきたの…

 もぅスグ迎えに行くって

 そしたら急に胸の奥が変な感じになって…

 あたし、どうしたらいいの?」

直海はそう言うと僕に縋ったが、

しかし、彼女に縋られた僕もどうしていいのか判らずただ困惑をしていた。



直海の変化は日を追うごとに進み、

肌は黒く染まると黒光りするようになり。

手足と共に身長が伸びて僕よりも背が高くなると、

体の筋肉もさらに発達をしていく。

そして顔も女性の柔らかいマスクからマサイの精悍な顔つきへと変化し、

筋肉が盛り上がった胸からは乳が出なくなり、

オナニーの回数も徐々に増えて行っていたのであった。

そんな、直海の胸をまりあは一所懸命吸うが、

「ごめんなさい、もぅママのオッパイは出ないのよ」

と困った顔をして娘に言うけど、

娘は母親の体の変化がわからなかった。

「どれ、まりあを僕に貸してみ」

僕はそう言うとすっかりマサイ化した直海からまりあを抱き直すと、

用意した哺乳瓶でミルクを与えた途端、娘は元気にそれを飲み始めた。

「ごめんなさい…」

直海はそういってただ僕を見るだけだった。

直海の変化は外見だけではなく、内面も変え始めていた。

彼女に取り込まれたマサイの少年ナミの意識が、

徐々に直海の心を侵し始めていた。



それはしばらくたったある日、

直海と何気ない会話をしていると、

突如彼女が立ち上がるとその場でジャンプを始めた。

「おいっ、どうしたっ」

慌てた僕が彼女の体を縋って揺すると、

直海は

ハッ

とした表情になると、崩れるようにして座り込むなり泣き出した。

「あなた…怖い…あたし…マサイになんかなりたくない」

泣きながらそう訴える直海を

「いいから、何もいうな」

と言って僕は介抱するが、

彼女の心は確実にマサイに侵されていき、

やがて、言葉も通じにくくなっていった。



そんなある秋の夜、

僕と直海は久しぶりに寛いだ一時をすごしていた

もぅ直海の体はすっかり筋骨逞しいマサイと化し、

裸体の僕の白い短パンを身に付けた彼女の妙にコミカルな印象を与えていた。

そのとき、

「…ムカエニキタヨ…ナミ」

突然その言葉が部屋に響いた。

僕と直海はハッとすると周りを見回した。

するといつの間にかベランダに2人の人影が立っていて、

ジッとこちらを見ている様子だった。

「誰だ」

僕が声を出すと、

「マッテ」

直海は僕を静止させると、

彼女はそっと閉めてあったカーテンに近づくと

シャッ

カーテンを思いっきりあけた



マサイ…

そうベランダには朱に染めたマサイの衣装であるシュカを体に巻きつけ、

トンボ球で出来たマシパイが首周りや腰周りを飾り、

槍と盾を手にした正装したマサイのモランが2人立っていた。

そして直海の姿を見るなり、

『お前の迎えに来た』

『さぁ、ナミよ長・ナズアの所の所に来い』

マサイの男達はそういうと手を差し出した。

「行くな!!」

僕はそう叫んだが、

しかし、直海はそのままマサイ達の方へと歩き始めた。

「なぜ…」

彼女の行動に僕がそう呟くと、

クルリ

直海は突然振り返ると僕の方を見た

そして、彼女の表情が一瞬緩むと、

「だめよ、お爺さんが待っている」

そう言うと、マサイ達の所へと向かっていった。

「直海…」

彼女の後ろ姿を呆然と眺めていると、

フッ…

直海が身につけていた唯一の衣装である短パンが姿を消し、

黒檀色の男の裸体が一瞬姿を見せた後、

シュルッ!!

まるで湧き出すようにマサイ達と同じ朱染めのシュカが直海の体に巻きつくと、

フッ

直海の周囲に現れた光点が彼女の身体へ向かって落ちた後、

トンボ球のマシパイとなって直海の黒い身体を彩り、

そして、髪の毛が赤茶に染まり、結い上げられると、

彼女の姿は徐々にマサイのそれへと変わっていった。

「あぁ…」

マサイの姿になった身体を味わうかのように直海は自分の身体を抱きしめると、

『よし、ではナミよ、我らの前でモランの証を立てろ』

マサイ達は直海を満足げに眺める、そう指示をした。

「はいっ」

それを聞いた彼女はそう返事をすると、

スッ

自分の股間に手を持っていくと、

ムクッ!!

っと勃起を始めたペニスを握るなり手慣れた手つきでそれを扱き始めた。

シュッシュッ

装飾が施された腕輪が規則正しく上下する。

「んんっ…」

直海は何かを堪えるようにしてギュッと目を瞑ると唇に力を込めた。

シュッシュッ

シュッシュッ

徐々に手の動きが早くなっていく

そして、

「うっうぉぉぉぉ!!」

直海は身体を大きくゆすり、

口が大きく開け雄叫びのような声を上げるのと同時に、

シュシュシュゥゥゥゥ!!

棍棒のようなペニスから大量の精液を吹き上げた。

『よぉし、お前は立派なモランだ』

射精をした直海を眺めながらマサイ達は交互にそう言うと、

『これはサバンナでお前を守るモノだ…』

と言って盾と槍を直海の前に差し出した。

「………」

股間のペニスを勃起させたまま直海はマサイから槍と盾を受け取ると、

振り返って僕を見た。

「直海…」

そこには妻・直海ではなく、

朱染めのシュカを押しのけるようにペニスを勃起させた

マサイのモラン・ナミが立っていた。

「じゃぁ、あなた…行ってきます、

 ”まりあ”のことくれぐれもよろしくお願いします」

直海はひとことそう言うと

マサイの男達の横に立った。

ぱぁぁぁぁぁぁん

それとほぼ同時に直海を含めた3人の男を光が包むと、

僕の前から消えていった。

そして消える直前、

一瞬だが直海がこれから暮らすことになるサバンナの風景が僕には見えた。

ふわっ

直海が消えたベランダで僕はじっとその跡を眺めていた。


「元気にしているかな、アイツ」

あの日の晩と同じ月を眺めながら僕は

遠くサバンナの大地で生きているであろう

直海のことを想っていた。



おわり