風祭文庫・海女の館






「褌海女」



作・風祭玲


Vol.489





キーンコーン!

今日1日の終わりを告げるチャイムが鳴り響く中、

「さようなら!」

ホームルームもそこそこに僕は学校を飛び出すと、

一路浜に向かって駆け下りていく、

タッタッタッ!!

ハァハァ

ハァハァ

高台にある学校より波が押し寄せる浜まで駆け足でやく10分、

鞄を抱きかかえるようにして僕は浜へ降りると、

ザッザッ

浜を敷き詰める砂利の上を慎重に歩き、

やがて磯の近くに建つ一見の小屋へと向かっていった。


「海女小屋」


そう、港の漁師からはその小屋はそう呼ばれていた。

「遅いよ」

小屋にたどり着いた僕に小屋の前で準備をしていた海女2人のうち

塩入一恵がそう声を掛けてくると、

「すっすみません」

その声に僕は小さく返事をした。

「ほらっ

 早く着替えて」

返事をした僕にもぅ一人の海女・内田美佳が指図をすると、

「はっはい」

僕はそう言い残し、男子禁制の海女小屋の中へと入っていった。



ギッ!!

木の扉をあげて海女小屋の中にはいると、

パキッ!!

ムッ!!

暖炉にくべられた木が赤々と燃えさかり、

その熱気と、

ムワッ…

壁に掛けられた海水がしみこんだ海女の道具や、

海女達が体を拭くのに使う手ぬぐいやタオルよりわき上がる潮の香りで

小屋の中にあふれかえっていた。



その臭いと熱気の中、僕は手にしていた鞄を置くと、

徐に手を胸へともっていき、着ていた学生服を脱ぎ始めた。

パサッ…

学生服の上着を脱ぎ、続いてYシャツを脱ぎ捨てる。

そして、その下に着ていたTシャツを脱いだとき、

ムリッ!!

まるで何かを封じ込めるかのようにさらしが巻かれた僕の胸が姿を見せる。

「………」

Tシャツを脱ぎ終わった後、ふと手を止めた僕は自分の胸に手を持って行くと、

サワッ…

さらしが巻かれた胸をそっと触った。

すると、

「あっ」

左右にある敏感な部分に手が触れたとき、

ゾクッ!

僕は良いようもない快感を感じると、思わずあえぎ声を漏らしてしまった。

「はっ!」

自分の口から出たあえぎ声に僕はハッとすると、あわてて周囲を見る。

パキッ!!

パチパチ!!

暖炉の木が燃える海女小屋の中には僕しか人は居ず、

さっき上げてしまったあえぎ声を聞いた者は誰も居なかった。

自分以外誰も居ないことを再確認すると、

「……」

僕は黙って胸のさらしを取り始めた。

スルスルスル

巻き付けてあったさらしが説かれてゆき、

その締め付けが緩んでくるごとに、

モリモリ!

と僕の胸は膨れていった。

そして、ハラリ…

さらしが僕の胸から離れていくのと同時に、

プリン!!

まるではじけ飛ぶかのように、

僕の胸から左右1対の乳房が勢いよく飛び出した。

「あぁ…」

まるで水を得た魚のごとく胸で元気よく揺れる乳房の感触に僕は思わず声を上げると、

スッ

それに惑わされることなく、ズボンのベルトに手を掛け、

ズボンを脱ぎ、下着を下ろした。

ところが、

下着の中より出てきた僕の股間には、

薄いアンダーヘアの中より飛び出してくるペニスの姿はなく、

代わりにアンダーヘアを左右に2分割するような縦の溝が股間に彫られていた。

そう、僕にはペニスは無かった…

いや、生まれたときにはちゃんとペニスはあり、僕は男の子として育てられてきた。

けど、いまは長年共に成長してきたペニスは僕の股間から消え失せ、

代わりに女の子の溝…オマンコが僕の股間に付けられていたのであった。

「はぁ」

着ていた服をすべて脱いだ僕は小さくため息を吐くと、

「えっと…」

と呟きながら小屋の壁に視線を這わす、

やがて、ある一点に視線を止めると、

「あった」

と言いながら手を伸ばし朱染めの布を手に取った。

パサッ

それは赤フンこと六尺であった。



「えぇっと」

手に取った六尺の長さを測りながら片方の端を肩に掛けると、

シュッ

シュルリ…

ペニスが消えた股間に六尺を廻し縦褌とすると、

大きく張り出した腰に横褌を巻き

ギュッ!!

っと締め上げた。

その途端、

グイッ

股間に通した縦褌が僕の股間に食い込み、

その褌が縦に口を閉じている僕のオマンコを強引に押し広げると、

敏感な中へと割り込んできた。

「うっ

 くっ」

ピンク色をした肉を裂くように進入してきた縦褌の感覚に

僕はあえぎ声をかみ殺しながらさらに締め上げる

男の時には感じることが無かった快感に似た痛みに僕の意識は思わず飛びかけるが、

しかし、それを必死で繋ぎ止めながら、僕は自分の股間に褌を締めた。

「はぁ…

 ハァハァ
 
 ハァハァ」

暖炉の明かりにほんのりと照らし出される僕の柔らかくて白い肌に幾筋もの汗が流れ落ちていく、

しかし、僕はそんなことに構うことなく、

頭に手ぬぐいを巻くと、

カタン!!

壁に掛けてある磯ミノを褌に挟み、

手ぬぐいを撒いた頭に磯メガネを被せた。

そして、空いている磯桶を手に取ると、

そこには学生服を着た男子生徒ではなく、

乳房を露わにし、褌を締めた一人の海女が立っていた。



「うっうんっ

 大丈夫…」

海女となった僕は自分の格好に問題がないことを確認した後、

プルン

と揺れる乳房もそのままに表へと出て行った。



「あら、

 やっと、着替え終わったの」

海女小屋より表に出てきた僕に

黒いウェットスーツで身を固めた海女・塩入さんと内田さんの2人が、

僕の傍によるとまるで点検するかのように僕の格好を見る。

「あっあのぅ」

僕が締めた褌の締まり具合を確認する塩入さんに声を掛けると、

「なぁに?」

塩入さんは優しく聞き返した。

すると、

「あのぅ

 僕もウェットスーツを着るのはダメですか?
 
 この格好では寒くて…」

彼女たちと比べるとまさに全裸といっても良い姿に

恥ずかしさを寒さを感じていた僕はそう切り出した。

すると、

グイッ!!

僕が締めていた褌が問答無用で思いっきり引き上げられ、

「あっ!!」

さらいにオマンコに食い込んできた縦褌の感覚に僕はあえぎ声を出してしまった。

と同時に

「何を言って居るんだよ!

 お前、あたし達と同じ格好が出来ると思っているの?」
 
「いいかい?
 
 お前はあたし達とは違って、フンドシ海女なんだよ。

 禁を犯し、磯神様にオチンチンを取られて海女にされてしまったお前は、
 
 その褌を締め磯神様に海の幸を献上するのが仕事、
 
 まったく、お前のお陰でこっちまでがとばっちりを受けるんだから、
 
 ちゃんとしてよね」

と塩入さんと内田さんはそう警告をした。

「はっはぁ

 すっすみません」

二人の剣幕に僕は返事をすると、

「判れば良いんだよ、

 ほらっ、
 
 そんなところでボヤッてしてないで、
 
 さっさと磯神様へ献上するアワビやサザエを捕ってくるんだよ」

内田さんはそう言うと、

ピシャリ!

と僕の形の良いお尻を叩いた。

「きゃっ!」

お尻を襲う痛みに僕はそんな悲鳴を上げると、

「はいはい、

 女の子みたいな悲鳴を上げてないでさっさとする!」

手を叩きながら塩入さんはそう言った。



「はっはい、

 では失礼します」
 
磯桶を持ち、僕は返事をして、

砂利の浜を進んでいくと、

ザバッ!

近くの波打ち際より海へと入っていった。

「うっ冷たい…」

冬の海は冷たくたちまち僕の体から体温を奪い始めた。

普通の人間ならそのまま溺れてしまうところなのだが、

しかし、フンドシのお陰だろうか、

僕はその感触が気持ちよく感じると、

そのまま沖へと泳いでいく、

そして、沖に出たところで、

ヒュッ!

っと磯笛を吹くと、

ジャボン

海の中へと潜っていった。



「え?

 磯神様を見るって?」

1週間前の夕方、

学校帰りの僕にクラスの小田が話しかけてきた。

「おう、そうよ

 一度見て見たかったんだ、

 付き合え」

小田は一方的に僕にそう命じると、

さっさと浜辺のほうへと向かっていった。

「ちょちょっと、

 小田君、

 それはよくないよ、

 だって、みんなから聞いているだろう?

 磯神様に手を触れてはいけないって、

 罰が当たるよ」

浜辺へと向かう小田に僕はそう言うが、

しかし、小田は僕の警告に聞く耳は持たず。

「おらっ

 何をしているんだよ、

 さっさと来い」

と命じるだけだった。


「あの先か…」

浜に到着するなり、

小田は海女小屋の先に突き出している小さな岬を指差してそう言うと、

さっさとその岬へと向かっていく、

いつもならこの辺に居るはずの海女さんたちは皆漁に出ているのか誰も居ず、

僕は無人の海女小屋を横目にしながらその脇を通り過ぎていく、

そして、

「戻ったほうが良いよ」

と先を行く小田に向かって言うが、

しかし、小田はそんな僕を無視して、

結界をあらわしているしめ縄を潜り抜けると

岩が織り成す磯を進んでいった。

「もぅ!」

ブツブツと文句を言いながら仕方なく僕も彼の後を付いていくと、

「!!」

何かを見つけたのかふと小田の足が止まり、

「おいっ

 見ろ!」

と言いながら海を指差した。

「え?

 なに?

 なにかあったの?」

小田が指差すものに興味がわいた僕は思わず駆け寄ると、

「あっ」

彼が指差した先に海中から突き出すようにして、

2本の石の塔が姿を見せていた。

「へぇぇぇぇ…

 あれが磯神様かぁ…」

この浜の海女達の信仰を集めている磯神様の姿に僕は驚くと、

「おいっ」

小田は僕に話しかけた。

「なっなに?」

いやな予感をしつつ返事をすると、

「お前、ちょっとあそこに行って、

 下を見て来い」

と僕に指図をした。

「え?

 えぇ!!」

彼のその言葉に僕は悲鳴をあげると、

「なんだ?

 俺のいうことが聞けないのか?」

小田は僕を脅すように凄みを利かせた。



「ちぇっ

 結局はこうなんるんだよなぁ…」

それから10分後、

サブン!!

服を脱いだ僕は磯神様の傍の岩場より文句を言いながら海へと飛び込んだ。

「あっ暖かい…」

外の気温とは違って海水には温度があり、

それを感じつつ僕は磯神様へと泳いでいく。

そして、

「ふぅぅん…

 コレが磯神様ねぇ」

間近に迫った磯神様を仰ぎ見ながら、

「どれ…

 下はどうなっているんだ?」

と思いながら潜っていくと、

磯神様の下にはこれまでに海女達が豊漁と安全を祈願して捧げた経文を書いた石が積み上げられていた。

「うわぁぁぁ…」

そんな様子に僕は驚きつつ、

そして、一つを拾い上げた時、

『男が何用だ…』

という低く唸るような声が響いた。

「え?」

その声に僕は驚くと、

『ここは男子禁制…

 それを破るとは…

 おろかな奴…』

「え?

 えぇ!!」

『海女となるがよい』

「えぇ!!」

海女になれと声が響く中、

僕は慌てて浮かび上がり、岸へと泳いでいくが、

しかし、岸から這い上がった僕の目に映ったものは…

そう、膨らんだ2つの乳房に括れた腰、

そして、男のシンボルが消えた股間だった。

「うそっ!!

 おっ女に…」

見事に膨らんでいる乳房を抱えながら僕は驚いていると、

『もし、男に戻りたければ

 お前はわしに収穫物を献上をするんだな、

 そうしなければ、お前は永遠に海女のままだし、

 さらにはここに者全てに災いを降らせてやろう』

声は僕にそう告げた。

「そんなぁ…」

その声に僕は呆然としていると、

張本人の小田の姿はいつの間にか消え、

女に…海女にされた僕だけが岩場に座り込んでいた。



それからが大変だった。

声を聞きつけて集まってきた海女さんたちに僕は説教をさせられ、

さらに、禁忌の場所へ踏み込んでしまった罰として、

声の言うとおりに、僕は海女として海へもぐり、

そして磯神様の怒りを納めるために献上する貝採りを命じられたのであった。


ジャポッ

海女として海底より浮き上がった僕は

磯笛を鳴らしながら呼吸を整えつつ、収穫物を磯桶に入れる。

「よしっ

 今日はコレくらいで良いだろう」

収穫物を見ながら僕はそう思うと、

バシャッ!

海の中を岸へと泳ぎ始めた。



最初の頃はイヤだった海女の仕事も最近馴染んできたような気がする…

「いまから磯神様へ?」

「えぇ」

「大変ねぇ」

「いえ」

浜辺に戻ってきた僕に先に戻っていたウェットスーツ姿の他の海女達が話しかけると、

僕はちょっと俯きながら返事をする。

そして、

「はぁ、僕もウェットスーツを着たいなぁ…」

と思いながら磯神様へのところへと向かおうとしたとき、

キュッ!!

海水で湿った褌が僕の股間を締め付けた。

「あっ」

股間を引き裂くようなその感覚に僕は小さく声を漏らすと、

「褌海女…

 そう、僕は”褌海女”なんだ」

と呟き、

そして、

「このまま、褌海女のままでも…いいかも…」

と僕は思うようになっていった。



おわり