風祭文庫・尼僧変身の館






「山寺」

作・風祭玲

Vol.223




リーン…

リーン…

暑かった夏が過ぎ、

秋の気配が覆い始めた頃、

わたしは朽ちかけた本堂で今日一日の締めくくりである晩課を行っていた。

「…なーむぅぅぅ…」

時間を掛けて経を読み終えたわたしは白い尼僧頭巾に覆われた頭を深々と本尊に下げると、

『恵信尼や…』

とわたしに呼びかける声がどこからともなく響いた。

「…はい…」

虫の音にかき消されそうなか細い声がわたしが返事をすると、

『…修行はしっかりとしていますか?』

そう言いながらわたしの目の前に一人の尼僧が立った。

「はい…あなた様のお導きで尼となり、

 こうして厳しい修行を積んでいます」

頭を下げたままわたしがそう答えると、

『…そうですか、

 そなたの修行ぶり、

 ここからしっかりと見ています。

 そなたは本当に誠実に修行に励んでおる』

尼僧はそうわたしをほめると、

『…では、日頃の修行に免じてそなたに褒美をあげよう』

と言う声が響いた途端、

パァァァァ!!

私の目の前にある千手観音がまばゆく光ると、

ニュッ

っと組んでいる足の間から光の棒が伸び始めた。

「みっ美咲…」

それを見ながらわたしは人の名前を口にすると、

『ふふふ…

 どうした、それはかつてそなたの股間にあったモノ…』

と尼僧はわたしに言う、

「わたしの股間…?」

ゴクリわたしは生唾を飲み込むと、

ゆっくりと光が消えていくそれを注意深く見据えていた。

パァァァァァァァ…

そして木刈の棒が光の棒から光が完全に消えて無くなると、

まさにそれは勃起したペニスだった。

「こっこれはオレの…」

わたしの口から久方ぶりに男言葉が漏れる。

『どうした…

 そなたのマラぞ…』

尼僧の声は動きが止まっているわたしの背中を静かに押した。

と同時に、

『恵…』

という声が微かに響いてきた。

「美咲?」

わたしは顔を上げて千手観音を見ると、

普段は静かな笑みを浮かべている観音像の顔に生気が宿り、

そしてゆっくりと人の顔へと変化していた。

「美咲…」

わたしはそれを見て再び名前を呼ぶ、

『見ていたわずっと恵の修行を…

 さぁ…お許しが出たわ…

 恵…ここに来て』

観音像はわたしにそう告げると、

ギギギギ…

わたしを招き入れるようにして左右の腕を大きく開けた。

コクリ

それを見たわたしは頷くと、

パサッ

っと着ていた黒衣と黄袈裟を脱ぎ捨て、

己の裸体を観音像の前にさらした。

ジジジ…

灯明の明かりに白い女体が浮かび上がる。

「美咲…」

わたしはそう呼ぶと、

蓮台の上に登りそして観音像にそっと抱きついた。

『あぁ…恵』

観音像はそう言いながら

わたしが逃げたれないようにするかのごとく開いた手を次々と閉じていく、

クチュッ

そうした中でわたしは股間を大きく開くと、

胡座を組む観音像の股間に生えた肉棒めがけて腰を落としていった。

クチュ

「あぁん」

串刺しにされるような感覚で肉棒がわたしの体内に入っていく、

『あぁ…恵…

 熱い…

 …畝ってる』

観音像に浮き出た顔から悶えるような声が挙がった。

「はぁ…美咲…」

クチョクチョクチョ

わたしは腰を動かしながらこの寺に取り込まれたときのことを思い出していた。

そうそれは…



ショワショワショワ…

蝉時雨の中をオレ・片山恵と彼女である山村美咲の二人は山道を歩いていた。

「ちょっと待ってよぉ…」

オレとの間が開き始めたことに美咲がむくれながら声を上げると、

「んだよぉ…もぅ音を上げたのか?

 ココへハイキングに来たいと言ったのは美咲だろう?」

やや意地悪っぽくオレが言うと、

「だからといって、すこしはいたいけな女性をいたわりなさい」

プッ

とふくれながら美咲が文句を言うと、

「はいはい…

 もぅしばらく歩くと展望台があるみたいだからそこで休憩をしよう」

地図を広げながらオレはそう提案すると、

「えぇ…歩くのぉ!!」

と美咲は文句を言った。

「ったくぅ…」

彼女の顔を見たオレは背中の荷物を美咲に持たせると、

そのまま美咲ごと背負った。

「あぁ…楽ちん楽ちん」

オレの背中に揺られて美咲はそう言うと、

「あのなぁ(はぁ)

 担いでいるこっちの身にもなって見ろ(はぁ)」

顔を真っ赤にして大粒の汗を流しながらオレは文句を言う。

「あっ見えてきた。アレが展望台ね」

まるでオレの文句をかわすかのようにして美咲が声を上げたが、

しかし、足下しか見ていないオレには見ることが出来なかった。

「くっそぉ、このまま谷底に捨ててやろうか」

ふとそんな考えが浮かんだとき、

「え?、いま何か言った?」

まるでそれを感じ取ったかのように美咲がオレに尋ねてきた。

「(ぎくっ)いいや別に!!」

慌ててオレが顔を上げて返事をした途端。

ズルッ

オレの左足が草の上を滑ると、

「うわぁぁぁぁ」

「きゃぁぁぁぁ」

スザザザザ…

オレと美咲は山道から滑り落ちていった。



「うっ」

どれくらい経っただろうか気づくと薄暗い竹藪の中にオレは倒れていた。

イタタタタ…

滑った拍子に股関節の筋を痛めたらしく、

ズキ

ズキ

と股間が痛む。

「そうだ美咲…」

背負っていた美咲のことを思い出し慌てて周囲探してみると、

オレから少し離れたところに彼女は倒れていた。

「おっおいしっかりしろ!!」

痛む足を引き吊りながらオレは美咲の元によると、

そう言いながら彼女の頬を2・3回叩く。

「うっうん…」

程なくして気づいたらしく美咲が目を開けると、

「あれ?、恵…」

とキョトンとした表情で尋ねた。

「よかった…何処も痛いところはないか?」

大した怪我をしていない様子にオレはホッとした途端。

パァン

いきなり美咲がオレの頬をひっぱたいた。

「あにすんだよぉ」

叩かれた頬を押させながら文句を言うと、

「恵のバカァ!!

 怖かったんだからねっ!!」

美咲は目に涙を溜めて抗議をした。

「悪い悪い…」

オレは彼女の背中を叩きながら謝った。

そして、謝りながら周囲を改めて眺めると、

「さて、ココは何処だ?」

と呟きながらいま自分が居る所を考えた。

「どうしたの?」

不安そうに美咲がオレを見つめる。

「いや…なんでもない、とにかくココを離れよう」

そう美咲に言うとオレは腰を上げた。

「恵…怪我をしているの?」

ビッコを引きながら歩くオレの様子を見た美咲が聞いてくると、

「まぁな…」

オレは軽くそう返事をすると、

「ごめんね」

美咲は一言謝った。

「まぁ気にするな」

ポンポン

そう言いながらオレは彼女の頭を軽く叩き、

そして荷物を拾い上げると山の尾根めがけて歩きはじめた。



「やばいなぁ…」

「どうしよう…」

あれから数時間後、

すっかり日が落ち暗くなり始めた山中をオレと美咲は歩き続けた。

「こっちの方向で良いの?」

不安そうに美咲が訊ねると、

「あぁ、遭難した場合は出来るだけ尾根を登っていくのが良いんだ

 尾根を登っていけば必ず登山道に当たるし、

 人と遭遇する可能性も高い…

 が、こうなるとちょっとやばいかもな」

と言いながらオレは紫色に変わりつつある空を眺めた。

「う〜ん…ねぇアレ何から」

そのとき美咲はある方向を指さしてオレに言う。

「ん?」

彼女が指した方向を見てみると、

瓦屋根の建物が木立の中に見えた。

「建物だな…」

目を凝らしてオレが言うと、

「じゃぁ、誰か住んでいるのかな?」

目を輝かせて美咲が叫ぶと、

そこへと進み始めた。

「おっおいっ」

オレは怪我をした脚をかばいながら彼女を追いかけると、

「とにかく事情を話して泊めて貰いましょう」

とオレに言った。

「…仕方がないな…」

オレも美咲の提案に乗ると建物目指して歩き始めた。



やがて、オレ達の目の前に現れたのは一軒の山寺だった。

「ごめんくださぁーぃ

 どなたか居ませんか?」

お堂をのぞき込むようにして美咲が声を上げたが、

しかし、中からはなにも返事はなかった。

「誰も居ないみたいだな…」

彼女の後ろからオレが呟くと、

「どうしよう…」

美咲はオレの顔を見る。

「とにかく、今夜はココに泊まろう」

オレはそう決断をすると朽ちかけたお堂の中に入っていった。

ミシ…ミシ…

歩く度に床が鳴り、

そしてパラパラと

天井から埃が降ってくる。

「なんだかお化けが出そうね」

そう言いながら怖々とオレの後を付けながら美咲が言うと、

「どっこいしょ」

とオレは腰を落とすと持ってきた携帯ラジオのスイッチを入れた。

たちどころにお堂の中に陽気なパーソナリティの声がこだまする。

「これで、お化けは出てこない」

美咲を見ながらオレはそう言うと、

「まったく…恵ったら…」

軽く笑い、

そしてそれで緊張感が解れたようにオレの横に座り込んだ。

「なんだかキャンプしているみたいね」

美咲はオレに身体を預けると

「あぁ…そうだな」

オレはそう言うと彼女の身体をギュッと抱きしめると、

そのままキスをした。



「んっく…」

「はぁ」

月明かりがお堂の中を照らし始めると、

その中ではオレと美咲は互いに抱き合い愛し合っていた。

「いっいい…」

オレの上で騎乗位になって腰を動かす彼女の身体を月明かりが照らし出す。

オレは幻想的なそのシーンを見ていたとき、

パシーン!!

お堂の中に生木が割れる音が響いた。

「え?なに?」

その音に驚いた美咲が腰の動きを止める。

「なにか折れたのかな?」

顔を動かしてオレが言うと、

再び

パシーン!!

と鳴り響き、

同時に

『ホホホホ…

 久々に人の気配がすると思って起きてみたが…』

と言う声が響くと、

まるで能面のような面持ちの黒衣に黄袈裟姿の尼僧がお堂の中に浮かび上がる。

その途端、

「いやぁ…お化け!!」

驚いた美咲が近くに転がっていた石を尼僧にめがけて放り投げた。

カンカーン

石は尼僧を突き抜けると壁に当たって音を立てる。

『なっなんと無礼な…』

ひるんだ尼僧はそう言いながらまるで般若の顔に変わると、

『女…お前にはこうしてやる!!』

と叫ぶと手を振った。

ブワッ

「うわっ」

「きゃぁぁぁ!!」

それによって巻き起こされた風がオレ達を包み込んだ。

すると、

メキメキメキ

美咲の背中や脇が盛り上がると、

ベリベリベリ

と言う音と共に、

幾本もの手が伸び始めた。

「うわぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁ!!」

オレ達はそれに驚き悲鳴を上げる。

「なっなんだこれは…」

ウネウネ

美咲の身体から伸びた幾本の腕にオレが驚くと、

「助けて…恵!!」

泣き叫びながら美咲が飛びついてきた。

しかし、

それもつかの間、

「あっ!!」

瞬く間に彼女の身体に天衣が巻き付くと、

ストン!!

その場で美咲は座禅のような胡座を組んだ。

「みっ美咲…」

「やだ、助けて…」

ウネウネ

と蠢いていた腕もそれぞれ動きを止めた途端、

パキパキパキ…

見る見る美咲の脚が木彫へと変化していった。

「そんな…」

「いやぁぁぁぁ…」

オレはどうすることもなく美咲の変化をただ眺めていた。

『ほほほほ…

 新しい本尊が出来たぞえ…』

尼僧は高らかに笑うと、

仏像へと変身していく美咲に近づき、

顔だけが辛うじて残っている美咲の頬を撫でながら、

『ふふふ…

 仏としてじっと現世の行く末を見ていくがいい』

と告げた。

そして、その瞬間、

パキン!!

美咲は静かなほほえみを浮かべる千手観音像になってしまった。



「そんな…

 お願いです。
 
 美咲を元に戻してください」

オレは尼僧の足下にすがりつくように懇願すると、

『……』

尼僧はにぃ〜と笑みを浮かべると、

『…お前がこの寺で修行を積めば考えても良いぞ』

と言った。

「ここで修行?

 オレに坊主になれと言うのですか?」

オレは尼僧に聞き返すと、

『いやか?』

尼僧は氷のような瞳でオレを見据える。

「……判りました、ここで坊さんになって修行をします。

 だから美咲を…」
 
と言うと、

『ほほほ…

 ここは尼寺…

 男のそなたが得度することは出来ぬ』

尼僧はそう冷たく言い放った。

「そんな、さっき修行を…

 って言ったじゃないですか」
 
そう言ってオレが食い下がると、

『そう…だからそなたは尼になるのじゃ』

尼僧はオレを見据えてそう言った。

「尼に…?」

尼僧の言葉をオレが復唱していると、

突然、

ムク…

ムクムク

オレの胸が膨らみ始めた。

「うわぁぁぁ、なんだコレは」

見る見るボリュームを増していく胸に驚いていると、

『ほほほ…

 どうした…』
 
尼僧は笑みを浮かべながらオレを見つめていた。

「わわわわ」

オレの身体の変化は胸だけではなく、

鍛え上げていた身体の筋肉が消え、

さらに、腕や脚も細く白くなっていく、

そして

「いっいやぁぁぁ!!」

声も女性の高い声色へ変わっていった。

「あぁん…あぁん…」

程なくしてわたしは

男根の代わりに股間に刻まれた縦溝を月明かりにさらしている姿になっていた。

『さぁ…剃髪をしてやろう』

女の身体になったわたしに尼僧はそう言うと、

スゥっと

頭を軽く撫でた。

と同時に髪が次々と消えていくと、

ヒヤ…

それに合わせるように冷気が頭を包み込んでいく、

『うふふふ…

 可愛い尼が出来たよのぅ』

尼僧はまるで獲物を見据える蛇のような眼でわたしを見つめると、

ファサッ

毛の無くなったわたしの頭に白い布がかぶせた。

「………」

わたしは何も言えずただ尼僧を見つめていた。

『さぁ…しっかりと修行をしてこの寺を守るのですよ』

尼僧はわたしに向かってそう言うとゆっくりと離れていった。

「はい」

わたしは尼僧に向かって正座をすると、

そのまま頭を下げた。



「あっあっあぁぁーーん」

わたしは絶頂を迎えるとヒシッと観音像にしがみついた。

ハァハァ…

ふと気づくと観音像に浮き上がっていた美咲の顔は消え、

そして胡座の中に生えていたわたしのペニスも消えていた。

『ほほほ、どうじゃ?

 じゃが、まだまだ修行をせねばならぬの』

消えていく尼僧の言葉がわたしの耳に響いていた。



おわり