風祭文庫・尼僧変身の館






「尼僧の誘惑」

作・風祭玲

Vol.153




「!!」

俺がその尼僧の存在に気づいたのはある週末の駅前だった。

階段を下りた所にポツンとひとり黒衣に黄袈裟をまとい、

白い尼僧頭巾で頭を包み込んだ

彼女の存在はひときわ目立っていた。

「尼さん?

 …か…」

静かに経を上げている彼女を見ながら俺がそう呟くと

「ねぇ…啓介ったらっ」

隣にいる香澄が俺の横腹をつついた。

「ん?

 あぁ…」
 
と生返事をすると

「どうしたの?」

そう言いながら香澄が俺の顔をのぞき込んできた。

「いっいや…」

「変なの…」

「そうか?」

しかし、受け答えをする俺の目はその尼僧に釘付けになっていた。

すると突然

『ねぇ…あなた…』

と俺の頭の中に女性の声が響いた。

「誰?」

『あたしよ…』

「え?」

『あなたさっきからあたしを見ているでしょう…』

ハッ

として尼僧の方を見ると尼僧は俺を見るなり

フッ

っと笑みを浮かべた。

ゾクゥ

氷の微笑みと言った方がいいのか、

それを見た俺の背筋に悪寒が走った。

『そう、あなたよ…

 ねぇ…あたしと一緒に来ない?』
 
「え?」

『退屈…しているんでしょう

 良いところに連れて行ってあげるわ
 
 あたしについてきて』
 
尼僧は目で俺にそう言うとふらりと歩き始めた。

「ねぇ…さっきからなにボケっとしているのよっ」

「あっ悪いっ、

 俺…ちょっと急用が出来たから…
 
 先に行ってて…」
 
俺は香澄にそう言うと尼僧の姿を追って駆け出した。

『うふふ…こっちよ…』

尼僧は笑みを浮かべながら俺を誘う

「待って…何処に行くんだ」

すでに俺の視界から街の景色は消え失せ

先を歩いていく尼僧の後ろ姿しか見えてなかった。

『うふふふふ…』

『ほほほほ…』

尼僧の笑い声がまるでメロディーのように奏でる。



ギャァギャァ…

鳥の鳴き声にはっと気づくと

いつの間にか俺は寺の境内にいた。

「え?、ここは何処だ?」

『…ここはあたしの寺…

 あたしを見失わないでここまでこることが出来るなんて
 
 大したモノね…』
 
その声に振り向くと

俺のすぐ後ろにあの尼僧が立っていた。

「え?、

 いやっあのうっ…」

返事に窮していると

『いいのよ…

 尼寺は男子禁制だけどあなたは別…
 
 だって、あたしの誘いにここまで来られたんですからね
 
 啓介クン…』
 
「えっ、何で俺の名前を…」

『だって、彼女にそう呼ばれていたでしょう…』

「あっ…」

見られていたのか…

俺は思わず恥ずかしくなると俯いてしまった。

『うふふふ…

 可愛いわ…』
 
「で、あのぅ…」

『こっちに来なさいよ…

 さっきあなたに話した”良いこと”してあげるから…』
 
そう言うと尼僧は本堂の中へと入っていった。

「………良い事ってまさか…」

俺は期待と股間を熱くしながら尼僧の後を追って寺の本堂の中に入っていった。

ヒヤ…

本堂には冷気が満ちていて俺の体温を次々と奪っていく、

「尼さん…どこに行ったんだろう」

尼僧の姿を見失った俺は本堂の中をひたすら歩いていった。

「それにしても見かけとは違って大きいお寺だなぁ…」

行けども行けども続く建物に半分嫌気がさしたとき

ポゥ…

ひときわ大きい仏像の下にあの尼僧が居るのを見つけた。

「ひどいですよ…俺を置いていくなんて」

文句を言いながら尼僧に近づいていくと、

『覚信って呼んでください』

尼僧は俯きながらそう呟いた。

「あっ、じゃっじゃぁ覚信さん……」

『はいっ』

そう返事をして覚信尼が俺を見上げると

ドクン

近くで見る彼女の妖美さに俺の胸は高鳴った。

スッ

覚信尼が音もなく立ち上がると

俺に近づきそっと頬をなでると

『ねぇ…あたしを抱いてみない…』

と囁いた。

ドクン!!

また一つ胸が高鳴った。

「いっいいんですか?」

カラカラに干上がった喉を鳴らしながら覚信尼に訊ねると

『尼はいや?』

と聞いてきた。

「そっそうじゃないけど…」

『うふふふ…』

パサッ

覚信尼は含み笑いをしながら頭の白頭巾をおもむろに取った。

ツルリとした青い剃りが姿を見せる。

グッ

それを見た俺は思わず体を引いてしまった。

『………』

覚信尼はさらに黄袈裟と黒衣を脱ぎ捨てるといきなり抱きつき、

『ねぇ…啓介…尼ってどう?』

と俺の胸に手を入れながら尋ねてきた。

「どっどうって…」

氷のように冷たい手が俺の胸の上で踊る。

その感じに

ゾクゾクゾク…

っと背筋が寒くなると、

「ちょちょっとほか行きませんか?」

と言うと

『どうして?』

と聞き返してきた。

「どっどうしてって…

 …こんな仏像の下では…ちちょっと…」

俺がそう答えると、

『うふ…だから萌えるんじゃない…』

覚信尼はさらに俺の首に手を絡ませてきた。

ドタ…

俺と覚信尼は絡み合いながら横になった。

『ねぇ…やっても良いわよ…』

覚信尼が耳元で囁いた。

ドクン!!

その言葉がキーになってついに俺の理性が弾け飛んだ。

そこから先はどうなったかは判らない…

俺はただ覚信尼にむしゃぶりついていた。

『あぁ…いいわ…若い男の精気って美味しい…』

悶えながら覚信尼が声を上げる。

俺は本能の赴くままいきり立つ男根を彼女の中へと押し込んだ。

ヒヤリ…

俺の男根を冷たい感触が包み込む、

「うっなっなんだ…おっお前…」

燃え上がっていた欲情が一気に醒めた俺は覚信尼を眺めた。

『うふふふ…

 どしたの?
 
 もぅ終わりなの…』
 
ギュッ!!

覚信尼はそう言いながら俺の男根を締め付けてきた。

「はっ離せっ!!」

大慌てで俺は引き抜こうとしたが

『おほほほほ…

 無駄よ…
 
 いま私とあなたとは一つ…
 
 さぁ私の中においで…』
 
ギュッ

覚信尼はそう言って俺をきつく抱きしめた。

「はっ離せぇ〜っ」

俺は抵抗したがゆっくりと包み込まれていった。

冷たい彼女の肌が俺を包み込む…

『あぁいいわ…

 男の精気…
 
 はぁ…
 
 これよ…』
 
覚信尼はそう言いながら徐々に悶えてゆく…

『あん…

 いぃ…
 
 いいわあなた…』

「やめろぉ〜っ」

俺の体から力が徐々に抜けていくことを感じながらも必死で抵抗した。

しかし…

『あぁぁぁぁぁん』

覚信尼が絶頂に達すると同時に

ズン!!

俺の体の中にあったありったけの精気を覚信尼に吸い取られてしまった。

「うっ…」

薄れゆく意識の中…

『良かったわよ啓介クン…

 じゃぁ…
 
 お礼にあたしの尼の魂をあげるわ…
 
 受け取ってね…』

覚信尼は言うと朦朧としている俺の口に口づけをした。

ドク…

それと同時に何かが俺の体の中に注ぎ込まれてきた。

ググググググ…

突然、体が何か別のモノに変わっていく感じがしてきた。

体が徐々に小さくなっていく感覚と

胸の上に何かがゆっくりと成長していく感触。

肌が徐々に敏感になっていく…

「あん…」

俺の口から女の声が漏れた。

「なに?、俺の…声?」

そう思うと同時に、

『おほほほ…

 どう?、尼になっていく気分は…』

覚信尼の声が響いた…

「尼に…それってどういうこと」

俺はやっとの思いで覚信尼に訊ねると、

『どういう事って…

 それはこういうことよ』
 
覚信尼は俺の股間に手を這わせた。

ビク…

一瞬電撃が走るのと同時に、

くすぐったいような奇妙な感覚が走る。

「あん…」

俺は思わず声を上げると、

『うふふふ…

 気持ちいい?
 
 じゃぁお礼にもっと気持ちよくしてあげるね』

覚信尼は俺の上にのしかかってくると、

俺の股間を攻め始めた。

「んっく…いや…

 やめて…」
 
俺の口から信じられないような声が出てくる。

『うふふ…どう?

 気持ちいいでしょう』
 
「あ…ん…」

『我慢しなくても良いわ、

 もっと声をあげなさい』
 
覚信尼に誘われるようにして俺は声を上げた。

「あん…

 あん…
 
 あぁん…」

『いいわ…

 その声…
 
 もっとあげなさいホラっもっと…』
 
覚信尼の攻めは徐々に激しくなっていく…

そしてやがて俺は

「いっいくぅぅぅぅ〜っ」

と言う声を残して絶頂に達した。



はぁはぁはぁ…

グッタリとしてまだ息が荒い俺を見ながら

『うふふふ…

 ほら見てぇ…
 
 これ…あなたの中から出てきたのよ』
 
と覚信尼は手に付いた透明な液体を俺に見せた…

「そっそれは…」

俺は覚信尼に尋ねたとき、

頭が妙に涼しい事に気づいた。

「えっ髪が…」

頭に髪がないことに気づくと、

『うふ…

 秋月…お前は既に私と同じ尼になっているのよ』
 
と囁いた。

「しっ秋月って…」

『あなたの名前よ…良い名前でしょう』

「そっそんなぁ…」

『嘘じゃないわ…

 ホラ見てみなさい…
 
 あなたの身体…』
 
そう言って覚信尼は俺に手鏡を手渡した。

「こっこれは…」

鏡に映った俺の身体は

膨らんだ胸に

くびれた腰

なで肩の型に

細面の顔

そして、白く輝く肌に覆われた髪の毛のない頭…

そうまさしく尼の姿になった俺が次々と映し出された。

『うふふふ…

 綺麗だわ秋月…』

「…………」

呆然としている俺の頭に白い尼僧頭巾がそっと被せられた。



「まったく…

 啓介ったらどこに消えちゃったのかしら」

香澄は文句を言いながら駅の階段を下りてくると、

階段の下に一人の白頭巾に黒袈裟姿の尼僧が立ち

経を読み上げていることに気づいた。

「あっ、尼さんだ」

香澄は尼僧を横目で見ながら彼女の前を通り過ぎていく。

『…香澄…

 …俺だよ…
 
 俺だ…啓介だよ…
 
 お願いだから…
 
 気づいてくれ…』
 
尼僧はそう思いながらも経を上げ続けていた。



おわり