風祭文庫・尼僧変身の館






「尼僧の誘い」

作・風祭玲

Vol.149




暑かった夏がようやく終わりを告げ、

里に秋風が吹き抜けるようになったある秋の休日、

僕はバイクに跨るとバイクを走らせた。

目的地は決めていない…

どこに行くかはその日の気分。


パパパパパ…

自宅を出て気ままにバイクを走らせて2時間もすれば

まるでついてくる様に点在していたコンビニは姿を消し

周囲の風景はすっかり里山の様相となってくる。

いくつかの小さい峠を越えて同じ数の小さな橋を渡ったとき、

僕はふとハンドルを切ると脇道へと入っていった。

ザザザザ…

珍しくなった砂利道を踏みしめるようにしてバイクは走る。

「!」

道ばたにある物を見つけた僕はバイクを止めると

荷物を担いでそれに向かって歩いていった。

「う〜ん…

 これは雰囲気出ているぞ…」

そう呟く僕の目の前には草に埋もれかかった一体の野仏があった。

「よし…コレにするか…」

そう決めると僕はバックから取り出したお菓子をお供えものにすると、

「仏さん…すみませんが、絵を一枚描かせてください」

と拝むと手頃な石の上に腰掛け、

スケッチブックを開くと鉛筆を走らせた。

ザワザワ…

吹き抜ける風に近くの木が揺れる…

シャッシャッ…

スケッチがほぼ終わりに差し掛かったとき、

ザワ…

周囲の風がかすかに動いた。

「…?」

僕の集中力が途切れた途端、

「…何を描かれているのですか?」

と突然後ろから声をかけられた。

「え?」

思わず振り向くと

いつの間にか僕の後ろに一人の黒衣に黄袈裟をまとった尼僧が立ち

笑みを浮かべながら僕を眺めていた。

「あっ、いや…ちょっとスケッチを…」

予想外の展開に僕は焦りながらそう返事をすると、

「まぁ…野仏のスケッチですか?」

と聞いてきた。

「あっ、はい…そうですね…」

スケッチに描かれた野仏の姿に視線を落としながらそう答えると、

「それを…見せていただけますか」

と尼僧が言うと、

「下手な絵ですが…」

そう言って僕は尼僧にスケッチブックを手渡した。

パラ…パラ…

スケッチブックを一枚一枚確かめるようにしてめくっていく

尼僧は頭を白頭巾で覆っているために詳しい年齢は判らないが

肌が白く、まるで今すぐ消えていきそうな

そんな感じがする若くて綺麗な尼さんだった。

「うわぁぁ…

 すばらしいですねぇ…」

ページをめくりながら彼女が言うと、

「えぇ…まぁ…

 絵を描くのが好きですので…」
 
そう僕が答えると、

「絵を…ですか…

 それはすばらしいですわね」

と僕の方を見てそう言った。

「はぁ…あのう…」

「はい?」

「この近所の方ですか?」

僕は彼女に疑問をぶつけてみた。

「えぇ…少し離れたところに庵を結んでいますのよ」

尼僧はそう言うと奥に見える山を指さして、

「ほら…あそこ…小さな屋根が見えるでしょう?」

と僕に言った。

「え?、あんな所に寺なんてあったかな?」

スケッチをする前にこの周囲の景色を眺めたときには

あのような建物は無かったと記憶していた。

「…あの寺ですか?」

僕がそう言うと

「はい…そうです…

 そうだ、ウチの寺にいらっしゃいませんか?」
 
「え?」

「境内にはいろいろな仏様がありますわ…どうぞ…」

と言うとまるで僕を導くように歩き始めた。

「あっ待ってください…」

僕はそう言うと腰を上げ、尼僧の後を追いかけていった。



「こちらですわ…」

尼僧は山門の前で立ち止まると

振り返りながらそう言うと中に入っていった。

「…はぁぁぁ…立派な山門だな」

僕は山門を見上げながら中にはいると

美しく整えられた境内が目に入ってきた。

「これは…」

僕は思わず目を見張りながら境内を歩く、

「雑然としているでしょう…」

そう言いながら尼僧が僕の横に並ぶ

「いっいえ…凄いですよ」

僕がそう言うと、

「まぁ…煽てるのがお上手ですね」

と尼僧が笑いながら言った。

「いっいやお世辞でなくて…」

「ほら、あの辺のあたりにいっぱいありますわ…」

そう言って尼僧が指さした先には

整然と整列している野仏の姿があった。

「はっはぁ…」

僕は尼僧に勧められるまま、

数体の野仏のスケッチを始めた。

尼僧はその様子をじっと眺めている。

「う゛〜っ、描きにくいなぁ…」

彼女の視線を感じながら鉛筆を走らせてみたが

どうも、自分の思っているような絵を描く事ができず、

結局3・4枚描いたところで僕は立ち上がると

「どうもありがとうございました」

と挨拶をして頭を下げた。

すると、

「いっ、いえ、

 で、どうですか

 良い絵は描けましたか?」
 
と尼僧が尋ねてきたので、

「えぇ…まぁ…」

頭を掻きながら返事をすると、

「そうだ…お茶でも飲んでいきませんか?

 いま支度をしますので」
 
「あっ、そんな…もぅ帰りますから」

と言って尼僧の申し出を断ったが

しかし彼女のの姿は既に消えていた。

「……まっ、仕方がないか…」

僕は表に回ると尼僧の薦めに従って寺の中に上がり込んだ。

「お時間を取らせてしまってごめんなさいね

 なにぶん、人がこないところですので
 
 少しの時間話し相手になってください」

とお茶を出しながら尼僧は言った。

いろいろと話していくウチに、

尼僧の名は”妙香”と言う名であることは判ったが

尼僧になった理由については詳しく教えてくれなかった。

どれくらい経っただろうか、

ふと日が傾いている事に気づくと

「あっ、そろそろ帰らなくては…」

そう言いながら僕が腰を浮かすと、

「あっ、もぅ少しここにいてくれませんか?

 いえ、できればずっと居てくれても…」
 
と言って立ち上がった妙香尼の足下を見て

「!!っ、なっ?」

僕は驚きの声を上げた。

そう、そのとき妙香尼の足下が薄くなり

向こう側が透けて見えていた。

「みっ妙香さん…足が…」

「あら…行けないわ…」

妙香尼はそう言うだけで、

そのことには大して気にとめていないようだった。

「妙香さん…あっ…あなたは…」

僕が後ずさりしながら言うと、

妙香尼は上目遣いに、

『孝さん…

 実はあなたにお願いがあるんです…』
 
とまるで地獄からわき上がるような声で言ってきた。

「ひぃ…」

『私は500年…

 この庵を守ってきました…

 …しかし…もぅ限界なんです…
 
 …それで、あなたにこの庵を託したいのですが、
 
 お願いできますか?』
 
と言うと、

ふわっ

と浮き上がり

スィ…

僕の目の前に立った。

「ゆっ幽霊っ!!」

僕はそう叫ぶと大慌てで寺から逃げだそうとしたが、

しかし…

ギュッ

何かが僕の足をつかんで離さない…

恐る恐る自分の足下に視線を移すと、

畳から伸びた手が僕の足を掴んで離さなかった。

「ぎゃぁぁぁ…」

思わず声を上げると

『孝さん…

 お願いできますか?』
 
そう言いながら妙香尼の顔が迫ってくる。

「こっこんなとこを貰っても、

 僕には何も出来ませんよ…
 
 それに、ここは尼寺ではないですか」
 
と僕が言うと、

『…それは大丈夫よ、

 あたしがあなたを尼にしてあげます』
 
「そんな…僕はオトコですよ

 尼になんかなれません」

『大丈夫…安心して…

 さぁ…孝さん…
 
 ちゃんとあなたを得度させてあげますよ…』

妙香尼はそう言うと僕に覆い被さった。

「たっ助けてくれぇぇ!!」

思いっきり声を張り上げたものの

『うふ…無駄よ…

 さぁ、おとなしく得度して尼になりなさい』
 
と妙香尼が耳元で囁いた。

「いっいやだ!!

 離せっ」
 
なおも抵抗すると、

『…あきらめが悪いわね』

と言いうと、僕が着ている服を脱がせ始めた。

「やめろっ!!」

抵抗するものの、あっという間に僕は脱がされてしまった。

「………」

幽霊とはいえ尼さんに僕の裸を見られていることを

意識すると僕は思わず顔を背けてしまった。

『うふ…怖がらなくて良いわ…』

そう言うと妙香尼は僕の胸に手を置いた。

ヒヤッ

言いようもない冷たさが胸に伝わる。

恐る恐る見てみると、

ズズズズズ…

妙香尼の体は足の方から僕の体にめり込んでくると

ゆっくりと腰・腹・胸の順番に潜り込んできた。

「やっやめろぉ!!」

『うふふふ…』

妙香尼は笑みを浮かべながら

そっと僕にキスをすると

グググ…

妙香尼は完全に僕の体の中へと潜り込んでしまった。

パサ…

妙香尼が来ていた着物が僕の上に力無く落ちる。

「いっいやぁぁ…」

思わず声を上げたが

僕の声はいつの間にか少女を思わせるトーンの高い声になっていた。

さらに…

ムリムリムリ…

見る見る胸に2つのふくらみが現れると、

見事な果実へと成長し

プルン…

と震える乳房になった。

「ひぃ」

揺れる胸に驚いていると、

そこそこの太さがあった腕が細くなり

また足もそれにあわせるようにして変化した。

キシキシキシ…

きしむ音に似た音を立てながら僕の体が一回り小さくなり

また、肩も女性のような狭いなで肩へと変化していった。

「あああああ…」

声にならない声を上げていると

ハラハラハラ…

髪の毛が次々と抜け落ちると

僕の頭はあっという間に坊主頭になってしまった。

ヒヤリ…

部屋の冷気が頭を包む

やがて、股間にあったオトコのシンボルが体の中に飲み込まれると

その跡に女の唇がゆっくりと口を開けた。


ズズズズズズズ…

妙香尼が僕の体から現れると、

『うふふ…すっかり美しい尼になりましたわね』

とまるで花を愛でるように満足そうにして言う。

「………」

僕は呆然として妙香尼を見つめていると、

『では、この庵のこと頼みますよ…』

と妙香尼は言い残すと静かに消えていった。



「……どっどうしよう…

 おっ俺…尼…さんになっちゃった…」

呆然としている僕の坊主頭にそっと白頭巾がかぶせられた。



おわり