キーンコーン!! 「起立っ…礼っ」 ザワザワ… 「あー終わった終わった」 「んんーんっ」 長かった一日が過ぎやっと迎えた放課後… 真弓が大きく背伸びをしていると、 「久瀬さぁーん」 と千尋が真弓に声を掛けてきた。 「なぁに?」 その声に真弓が振り返ると、 「きょうまた、図書室でやるんでしょう?」 「うん、そうね」 「じゃぁ先に行って場所を取っているね」 真弓と千尋はそう言う会話を交わしたのち千尋が先に教室から出ていった。 そして、真弓が帰り支度をし始めたとき、 タタタタタ… 髪を染めた熊取千香子が足早に教室から出て行こうとするのを見つけると、 「ねぇ熊取さん…」 と声を掛けた。 「なに?」 真弓の言葉に立ち止まった千香子が返事をすると、 「あたしたちこれから図書室で勉強をするんだけど、 一緒に来ない?」 と誘うと、 「え?」 千香子は一瞬嬉しそうな顔をすると、 「いいの?」 と聞き返した。 「えぇ、いいわよ、 みんなで勉強をした方が捗るし、それに楽しいしね」 そう真弓が言うと、 「でっでも…」 千香子は廊下の方に視線を送ると何かを気にする態度をとった。 すると、 ガラッ!! 廊下のドアが勢いよく開き、 「おいっ、千香子っ なにモサモサしているんだ!!」 と隣のクラスの見取裕子が顔を出すなり声を上げた。 「はっはいっ」 その声に千香子はビクッと身体を硬直させると、 教室から飛び出すように出ていってしまった。 「え?、熊取さん?」 「うん、誘ったんだけどね」 図書室でそう言いながら真弓がノートを広げると、 「あぁダメよダメ、 熊取さんって評判が悪いんだもん、 そんな人と一緒になんて勉強が出来ないわよ」 と千尋のノートを書き写している智子がそう言う、 そして、 「そうかなぁ… 熊取さんそんなに悪い人には見えないんだけど」 と真弓が呟くと、 「うん… 千香子は元々そんなに悪くはないんだけど、 ただ、いつも一緒にいる見取さんがねぇ…」 「そうそう、見取さん達って先生からも目を付けられているそうよ」 と千尋と智子がそう言い合うと、 それを聞きながら、 「そうかぁ…(でも、誘ったとき、熊取さん嬉しそうな顔をしていたな)」 と真弓は一人で納得をしていた。 すると、 「ねぇっ、知ってる?」 突然、これまで黙っていた美保が口を差し挟んだ。 「ん、なに?」 全員の視線が美保へと注がれると、 ズイッ 全員の注目を浴びた美保は徐に身を乗り出し、 「この学校のどこかに”赤鬼の面”と言うのがあるらしいのよっ」 と囁いた。 「”赤鬼の面”?」 そこにいるメンバー全員が美保の言葉を一斉に言い返すと、 コクリ 美保は大きく頷き、 「そう、”赤鬼の面”ってね、 いまからずっと昔にこの地で暴れ回って人々を苦しめていた鬼を、 とある旅の僧が持参した”赤鬼の面”の中に封じ込めたモノなんですって」 とお面の謂われを説明をする。 そして、一通り説明が終わると、 「へぇ、そんなのがあったのですか、すごいですねぇ」 としきりに関心しながら真弓がそう言うと。 「え?、 久瀬さん…お面のこと知らないの?」 と身を引くような素振りをしながら美保が驚いた。 「え?」 真弓は美保のそのアクションに驚くと、 「いや、久瀬さんなら気配か何かで察していたと思ってたんだけど」 と美保は真弓をシゲシゲと眺めながらそう呟く。 「いっいや…あっあのぅ」 真弓は突然降りかかってきた事態にどう返事をしていいか困っていると、 「ねぇ…本当にその”赤鬼の面”ってあるの?」 と教科書を置いた智子が聞き返した。 その途端、 「うっ… まっまぁ… あたしも…うわさ話でしか聞いていないから」 鼻の頭を掻きながらそう美保が返事をすると、 「はぁ… だろうと思ったわっ 久瀬さんが気が付かない分けないんだから、ねぇ」 と智子は真弓の肩に手を置きながらそう言う。 「あのぅ…」 『なんだ?』 それから程なくしてトイレに向かった真弓が自分の中に居る恭平に話しかけると、 『”赤鬼の面”のことか?』 と恭平が聞き返した。 「うん…」 『あのな、この学校の7不思議に関しては その7不思議の一つだったお前のほうが詳しいんじゃないか?』 「そうだけど… でも、”赤鬼の面”だなんてあたし聞いたことがないです」 と恭平の言葉に真弓が言い返すと、 『まぁ…お前が聞いたことが無いんじゃぁ 本当に無いんじゃないのか?』 と突き放したように恭平がそう言うと、 「うん…でも…」 そう言って頷く真弓の表情はどこか引っかかっていたような顔だった。 その頃、 パァァァン 「キャッ!!」 体育館裏で何かを叩く音共に千香子の悲鳴が上がった。 「なんだとぉ、 もういっぺん言って見ろっ」 千香子を取り囲むようにして、 数人の少女が代わる代わる千香子を突き飛ばす。 そしてその中からリーダー格の見取裕子が息巻くと、 「あたし達から抜けたいだってぇ? 調子に乗るんじゃねぇぞ、こら!!」 と叫びながら裕子の横に立っていた香川美咲が千香子を突き飛ばすと、 馬乗りになって殴り始めた。 「おいっ あんまり顔を殴るなよ、 親に見つかると後が厄介だからな」 その様子を眺めていた裕子が美咲にそう注意すると、 「あぁ判っているよっ」 オラオラっ!! 美咲はそう返事をするなり、 千香子の胸や腹など目立たないところを殴り始る。 すると、 「ごめんなさいっ ごめんなさい、 もぅ二度とそのようなことは言いません」 千香子はそう言って身を庇いながら謝ると、 「ちっ興醒めちまった(根性がない奴だな) おいっ、千香子っ 気分を悪くした罰としてなにか面白い芸をしろよ!!」 千香子の身体を踏みつけながら裕子がそう言う。 「あぁ…それだったら面白いのを持ってきたよ」 息を切らせながら美咲が千香子の上から立ち上がると、 紙袋に入った包みを裕子に見せた。 「なんだ?」 「まぁ見てみ」 「ん?」 美咲に勧められるまま裕子が紙袋を開けると、 その中から年代物のような古びた木箱が出てきた。 「資料室の奥に置いてあったのを拝借してきたんだけどな」 「?」 美咲の話を聞きながら裕子がよく見てみると、 木箱の4隅に施してあった封印と思われる紙が既に剥がされていた。 「ん、美咲の仕業か?」 解かれた封印を指さしながら裕子が尋ねると、 「へへへ…」 美咲は愛想笑いをする。 「ったくぅ… 既に封が開けられているのを見るのは好きじゃないんだがなぁ」 そう言いながら裕子が箱の蓋を上げると、 ムワァァァァァ〜っ 何とも言いようにない重苦しい空気と共に 箱の中から赤い顔をした鬼の面が出てきた。 そして、それを見た途端、 「うわっ」 裕子は思わず声を上げた。 「あはははは!! 裕子でも怖いモノがあるんだな」 美咲はそう言いながら箱に手を伸ばすと”赤鬼の面”を手に取る。 そして 「千香子にこの面を着けて貰って、 鬼ごっこをするのはどうかな… って思ってね」 と理由を話した。 すると、 「なぁるほど、鬼ごっこか、 それは面白そうだなぁ」 裕子はそう呟くとゆっくりと千香子へと視線を動かしていく、 そして、 「ふふ…」 と笑みを浮かべると、 「よしっおいっ、千香子を押さえとけよ」 と呟くと、 美咲から”赤鬼の面”を受け取ると それを手に持ってゆっくりと千香子に近づいていった。 『!… この気配は…』 図書室へ向かって真弓が廊下を歩いていると、 急に中の恭平が声を上げた。 「なに?」 『魔の気配… 校内か… おいっ感じないのか?』 異変を察知した恭平がそう真弓に正すと、 「そう言えば…」 恭平に言われて真弓もようやく気配を感じた。 すると、 『おいっ俺に代われ!! 場所は体育館の裏だ!!』 と恭平が声を上げた。 「いやっ…」 迫ってくる裕子に千香子が怯えながら尋ねると、 「なぁに、 ただの鬼ごっこだよ、 んで… そう、アンタが鬼」 と笑みを浮かべながら裕子がそう言うと、 ゆっくりと”赤鬼の面”を千香子に近づけていった。 「いやっヤメテ!!」 そう言いながら千香子は迫る面から逃げようとしたが、 しかし、 ガッ!! 千香子の両手足は美咲達によってガッシリと押さえつけらてしまい 全く身動きがとれなくなっていた。 「暴れても無駄よ…」 勝ち誇ったように裕子はそう言って、 グッ ”赤鬼の面”を千香子の顔のすぐ傍に近づけたとき、 スルッ 「え?」 ”赤鬼の面”が独りでに裕子の手から放れると、 ピタッ っと千香子の顔に張り付いてしまった。 「なに?」 突然起きた予想外のことに裕子は驚いたが、 しかし、 『ぐもぉぉぉぉ(いやぁぁぁぁ)』 ”赤鬼の面”が張り付いてしまった千香子が潜ったような声を上げると、 「あははははは!!! 見て見ろよ、 千香子の奴が鬼になったぞ!!」 必死になって顔を振る千香子の姿を見ながら裕子が腹を抱えて笑い声を上げた。 すると、 ガクッ 突然項垂れるように千香子がグッタリした様子に、 「なに猿芝居しているんだよ、 さっさと鬼ごっこを始めようか」 と言いながら千香子を蹴り上げ、 「あははは、 じゃぁな がんばれよ、 あたし達を捕まえることが出来たらその面を外してやるからな」 と言いながら美咲達も立ち上がって次々と千香子を蹴り上げ、 そして立ち去ろうとしたとき。 ガッ!! いきなり千香子の腕が伸びると美咲の足を鷲掴みにした。 「おっおいっ なんだよっ こら離せッ!!」 ギリギリ まるで美咲の足を握りつぶすかのように握りしめてきた千香子の手に 美咲は驚きながらそう叫ぶと思い切り引っ張った。 すると、 『おいっ、 お前等で勝手にルールを作るなよ』 と”赤鬼の面”の口が動くと まるで、低く唸るようなそして獣のような声が響き渡った。 「なんだ?」 その声に美咲は驚くと、 「だっ誰なんだ、お前は!!」 と叫んだ。 『誰って? 何を言うんだ?。 お前が俺様を起こしてくれたんだろう? へへ、礼を言うぜ』 「え? 一体どういうこと?」 『あはは、俺はこの面に封じられていた鬼だよ、 人間共に封じられてはや300年、 ついに表に出られたわ、 わはははは!!!』 ”赤鬼の面”はそう言って高笑いをする。 そして、 ユラリ… と千香子が立ち上がると フンッ!! っと全身に力を入れた。 すると、 メキメキメキ!! 千香子の体中から彼女の骨が軋む音が響き渡ると、 ボコッ モリッ 千香子の体中から筋肉が盛り上がり、 見る見るそのシルエットが大きくなっていった。 「あっあっあっ… なんだよっ!!」 その様子を裕子達は呆然と見ていると、 やがて、 バリバリバリ 盛り上がっていく身体に追いついていけなくなった制服が無惨に引き裂かれ、 その中から剛毛が生えた赤い肌に厚い胸板と太い手足、 そして頭に2本の角を生やした赤鬼がそびえ立った。 「ひっひぃぃ!!」 それを見た裕子達はたちまち逃げ出そうとするが、 しかし、彼女たちの足は恐怖で一歩たりも動かすことが出来なかった。 『ふはははは!! ついに俺の身体を手に入れたぞ!!』 赤鬼の面は自分の身体の具合を確かめて高らかに宣言をしすると、 裕子達を一目見るなり、 『さぁて、まずは… この女…お前達に大分虐められていたそうだから、 そのお礼をしなくてはなっ』 と言うと、 ズシン ズシン と裕子達に近づいていった。 「ひっひぃぃぃ!!」 「助けてぇ」 その時になってようやく蜘蛛の子を散らすかのように、 裕子達が逃げ出すが、 ヒュンッ 赤鬼の手から放たれた鋭い爪が もの凄いスピードで一人一人を追いかける様に伸びていくと、 サクッ サクッ っと次々と裕子達の身体を貫いた。 「あっ」 文字通り胸を貫かれた裕子は呆然と自分の体を見る。 『ふははは!! どうだ、心臓を一突きにしてやったぞ』 そんな裕子達の耳に赤鬼の声が響き渡る。 「そんな… たっ助け…」 藻掻くように裕子がそう言うと、 パキッ パキパキパキ 赤鬼の爪に貫かれた裕子の足下から身体の石化が始まった。 「そっそんな…」 見る見る色を失いそして石になっていく身体に裕子は驚くと、 『俺には時間が無いんでな』 赤鬼はそう言うなり、 ズボッ 爪を引き抜くと今度は貫かれて胸の周りが石化し始めた。 「いやぁぁぁぁぁ!!」 『ははははは!!』 裕子達の絶叫が響く中 赤鬼は高らかに笑い声を上げた。 そして、 パキン!! ついに裕子達が完全に石化してしまったのを見届けると、 『どれ、最後の仕上げをしてやろうか』 赤鬼はゆっくりとさっきまで裕子だった石像に近づくと、 シャキンっ っと5本の爪を伸ばし大きく振りかぶった。 すると、 『だめぇぇぇ』 赤鬼に体の中から千香子の声が響くと、 ピタッ っと赤鬼の腕が止まる。 『なっ 何をする気だ』 千香子の行動に赤鬼が声を上げると、 『裕子を殺すのはダメ』 と千香子は声を上げる。 『貴様っ、俺の邪魔をする気か? ならば、お前を!!』 赤鬼はそう叫んだとき、 シュパァァン!! 放たれた光弾が赤鬼の横っ面に炸裂すると、 その巨体がバランスを崩し、 ガクッ と片膝を付いた。 『何者だ!!』 赤鬼の声が響くと、 シュタッ!! セーラー服を靡かせながら真弓が石像の前に立ちはだかると、 「へへ…久世恭平参上!!」 と声を上げた。 『なんだぁ?貴様は…』 体勢を立て直した赤鬼が恭平を睨み付けると、 「なるほど…やはりあの”赤鬼の面”の話は本当だったのか…」 と恭平は転がっている箱を見ながらそう呟く、 すると、 『邪魔をするなっ!!』 ブンッ 赤鬼は声を上げると腕を振り回した。 しかし、 「おーっとっ」 恭平は軽く身をこなすと、 風を切って迫ってくる鬼の腕をかいくぐり、すぐに間合いを取る。 「ほぅ…こりゃぁ… 手強そうだなぁ…」 そびえたつ鬼を見ながら恭平はそう呟くと、 『ねぇ…』 いまは恭平の中にいる真弓が話しかけてきた。 「なんだよ」 赤鬼を警戒しつつ恭平が聞き返すと、 『石にされている人って、 あの見取さん達みたいだけど、 でも、千香子の姿がないよ』 と声を上げた。 「一足先に逃げたんじゃないのか?」 『でも、千香子だけが逃げ出すなんて…信じられないよ』 「さぁ、人間っていざというときは素早いからな」 そう恭平と真弓が話し合っていると、 ブンッ 再度赤鬼の腕が恭平を襲った。 「ちっ」 チリッ!! 身体よりワンテンポ遅れて動く髪が赤鬼の腕に触れるなりその一部が切れる。 『ふふ、独り言を言っている暇があるとは余裕じゃないか』 腕を振りきった赤鬼は恭平にそう言うと、 『ならばこれではどうだっ』 と声を上げると シャシャシャ!! 鬼の手から鋭い爪が一斉に恭平に襲いかかってきた。 「うわっ くっ」 赤鬼の猛攻に恭平は徐々に劣勢に立たされると、 ついには防戦一方になってしまった。 「くっそう… コイツ、見かけに寄らず素早い」 赤鬼の力の差を思い知らされた恭平が思わずそう口走ると、 『どうする? お姉さんの力を借りる?』 と真弓が尋ねると、 「あほかっ、 一度でも姉貴の力なんか借りてみろ、 未来永劫これをネタに揺すられ続けられるんだぞ」 恭平はそれをスッパリと否定した。 『でっでも…』 「いいから、もぅ話しかけるなっ いまだっ これでどうだっ!!」 赤鬼の一瞬の隙をついて恭平は懐に潜り込むと、 光弾を赤鬼の顎の真下から放った。 『ぐぉぉぉっ』 「やった!!」 光弾の直撃を受けた勢いで赤鬼が仰け反ると、 そのまま仰向けになって倒れた。 「よしっ 封印っ!!」 そう叫びながら恭平が封印符を取り出そうとしたとき、 『まって!!』 真弓の声が響いた。 「なんだ、邪魔をするなって言っただろう!!」 真弓の声に恭平が怒鳴ると、 『恭平っ、 あっあれ!! …千香子の制服じゃない?』 っと鬼の傍で引き裂かれ散り散りなって落ちている制服を指摘した。 「えっ、 どうなっているんだ?」 その様子に恭平が驚くと、 『ひょっとして… ”赤鬼の面”に身体を乗っ取られているのって、 千香子じゃぁ…』 「なに?」 『千香子が”赤鬼の面”に乗っ取られたとしたら、 うん、間違いない。 必ずそうよ!』 と真弓は自信を持って返事をした。 「じゃぁなにか? 俺が闘っているこの鬼って、 熊取が化けた物だとでも言うのか?」 『うん、恐らく…』 「畜生っ これじゃぁ封印が出来なくなったじゃないか」 悲鳴にも似た声を恭平があげると、 『ぐふふふ… そうだ、この身体は千香子とか言う女の身体だ…』 と言いながら赤鬼がムクリと起きあがると、 シャッ っと爪を恭平に向けながらゆっくりと近づいてきた。 「こいつ…俺達の話を聞いていたのか」 次第に追いつめられていく恭平。 そのとき、 『ねぇ…あの箱の中…なにかある』 と放置されたままになっている”赤鬼の面”が入っていた木箱を真弓が指摘した。 「箱?」 『鬼の足下!!』 「あっあれか」 真弓に箱の位置を教えられて恭平が箱の在処を把握すると、 「よしっ」 恭平は間近に迫ってきた赤鬼を見据えた。 『ふふ どうした。 もぅ逃げられないぞ』 赤鬼はそう言うって右腕を掲げたとき、 「いまだ」 恭平はダッシュで赤鬼の足下に走り込むと、 口が開いたまま、放置されている木箱を奪い取ると、 そのまま勢いにのって鬼の後ろに回り込むと、 すぐさま木箱の中を覗き込んだが、 しかし、 木箱の中には何も入っては居なかった。 「なっ何もないじゃないか!!」 木箱をひっくり返しにして恭平が怒鳴ると、 『そんな… 何かあったような気がしたんだけど…』 と真弓が言う。 「あのなぁ!!」 真弓の返事に恭平が声を上げると、 『おのれっ!!』 振り返った赤鬼が恭平に迫ってきた。 「うわぁぁぁぁぁ!!」 『きゃぁぁぁぁ!!』 その様子に木箱を掲げて恭平と真弓が悲鳴を上げると、 キーーーン!! 突如、木箱が光り、 ゴワッ!! 迫ってくる赤鬼を吸い込み始めた。 『しまったぁ!! まだ、あの坊主の力が残っていたのかぁ!!』 必死に踏ん張りながら赤鬼が悲鳴を上げるが、 しかし、 グングンと赤鬼は顔から木箱へと吸い寄せられていく、 そして、赤鬼の顔が木箱の間近に迫ったとき、 ベリベリベリ!! 赤鬼の顔が引き剥がされると、 スポン!! っと木箱の中に収まってしまった。 『うぉぉぉぉぉぉ!!!』 木箱の中で赤鬼の面がガタガタと揺れるのを見ながら、 「よっよしっ」 恭平はそう言いながら大急ぎで木箱のふたを閉じた。 「………はぁ〜っ」 ようやく訪れた静寂に恭平はその場に座り込むと、 『きゃぁぁぁぁぁ!!』 っと悲鳴が上がった。 「え? あっ」 悲鳴に気づいて恭平が顔を上げると、 身体はあの赤鬼のままの姿だが顔だけが戻った千香子が、 胸と股間を隠した姿で悲鳴を上げていた。 「そうか、 こっちを片付けてからだな…」 頭を掻きながら恭平が立ち上がると、 「熊取さぁん、 落ち着いて、 その身体すぐに元に戻してあげるから」 と声を掛けると、 『いやっ見ないでぇぇぇ!!』 千香子はその場に座り込むと厳つい鬼の両手で顔を覆った。 「大丈夫だよ、 鬼はこの通り封印したし、 それに誰も見ていないから、 それでさ、まだ鬼の力が残っているうちに、 この石にされた見取さん達を元に戻してあげて欲しいんだけど」 と恭平が声を掛けると、 『え?』 その言葉に千香子が恐る恐る手を顔から退かした。 それを見た恭平は 「まぁ…熊取さんがコイツ等をこのままで良いと思うのなら、 それでもいいんだけどね」 そう言いながら コンコン っと怯えた表情のまま石化している裕子を叩く。 すると、 ズシン!! 千香子は立ち上がると、 次々と石化した裕子達をその爪で再度貫いた。 その途端、 シュウゥゥゥ… 石化していた裕子達は解けるようにして元の姿に戻ると、 「えっ?」 「あっ」 っと声を上げる。 そして、 『あのぅ…』 っと声を掛けてきた千香子を一目見るなり。 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」 と悲鳴を上げるなり、 その場に全員が座り込むと、 「ごめんなさい。 ごめんなさい。 もぅ二度と虐めませんし ちょっかいも出しません。 だから命だけはお助けを!!」 と拝むようにして泣き叫んだ。 「それ、本当だな…」 その様子に恭平が念を押すと、 「ほっ本当です!!」 目から滝のような涙を流しながら裕子が恭敬に縋る。 「だってよ、 どうする? 熊取さん?」 そんな裕子達を軽蔑の眼差しで見ながら恭平が千香子に尋ねると、 『判ったわ、許してあげる。 その代わり2度とあたしを虐めないでね』 千香子はそう言ってその巨体で裕子に迫ると、 「うわぁぁぁぁぁ」 裕子達は這い出すようにして逃げていった。 「ははは…なかなかの役者じゃない 熊取さんって」 逃げ出していく裕子達の後ろ姿を見ながら、 恭平はそう言うと、 『はぁ…なんかスッキリしたと言うか、 ちょっぴり寂しい感じ…』 と千香子は呟いた。 「おはよー」 翌朝… 「あれ熊取さんっ どうしたのその髪?」 登校してきた千香子にクラス中が驚きの声を上げた。 「なに? 普通にしちゃ悪いの?」 驚くクラスメイトにそう千香子が返事をすると、 「いっいやっ そう言う訳じゃないけど…」 そう言いながらクラスメイト達が恐縮する。 すると、 「うわぁぁぁ 似合ってますよ、熊取さん」 登校してきた真弓がそう言って千香子の肩を叩き、 「放課後、一緒に勉強しようね」 と言うと、 「うんっ」 千香子は力強く返事をした。 「それにしても本当かねぇ… この”赤鬼の面”を恭平と真弓ちゃんだけで封印しただなんて」 そう呟きながら桜子は、 ”俺の成果だ、どーだ!!(あたしも手伝ったんだよ)” と言う紙が貼られた木箱を眺めていた。 おわり