風祭文庫・巫女の館






「夏の思い出」



作・風祭玲


Vol.313





ミーンミンミンミン!!

下界の街では連日の猛暑にウンザリとしていたこの日、

「うひゃぁぁぁぁぁ!!」

「つめたーぃ」

「きゃはははははは!!」

バシャバシャ!!

真夏の渓谷に歓声が響き渡る。

「おーぃっ、

 何度も言うかも知れないが、

 あの赤い旗が建ててある岩場の向こうには

 発電所の放水口があるから行っちゃダメだぞ」

引率の男性が下流にある旗を指さしながら繰り返しそう注意をすると、

「はーぃ」

と言う返事が響き渡る。



それから小一時間ほどして、

「おねーちゃんも泳ごうよ!!」

身体を水に濡らした嵯峨野竜一が

岸の上でワンピース姿のまま腰掛けている彼の双子の姉・美咲に向かって

そう声を掛けると、

「いやよっ」

美咲はそう返事をするとプイッと横を向いてしまった。

「もぅ…

 冷たくて気持ちがいいよ」

足下の水を指さしながらなおも竜一は美咲を誘うと、

「いやっ」

美咲はそう言ったまま動こうとはしなかった。

「お姉ちゃぁん、

 それじゃぁいつまで経っても泳げるようにはなれないよ

 先生に言われたんでしょう?

 この夏休みに泳げるようにって」

「こらぁっ竜一っ!!

 要らないことを言わないの!!」

竜一の言葉に美咲は顔を真っ赤にして怒鳴ると、

その場を立ち上がるとスタスタと歩いていってしまった。

「あっお姉ちゃん、

 そっちは行っちゃいけないって…」

美咲が放水口のある下流に向かって歩きだしたのを見て竜一が思わず注意をすると、

「判っているわよっ

 あの旗の向こうに行かなければ良いんでしょう?」

と旗を指さして返事をした。

「もぅ…」

美咲の後ろ姿を見ながら竜一が口を尖らせていると、

「隙あり!!」

との声と共に

パシャッ

いきなり彼の顔に水が掛けられた。

「あっやったな!!」

「へへん、返り討ちにしてくれる!!」

友人の奇襲攻撃に竜一はすぐに反撃に移ると

美咲のことは忘れて水の掛け合い合戦に興じ始めてしまった。



「まったく…」

膨れっ面をしながら美咲は赤い旗のある岩場の下に腰を下ろすと、

遠く離れて竜一達の水遊びの様子を眺めながら

「中学生にもなってあんな遊びをして…

 第一、こんなところじゃ泳ぎの練習もならないじゃないの…」

と呟いていた。

とっその時、

『おいっ…』

誰かが美咲に声を掛けてきた。

「え?」

突然耳に入ってきた声に美咲は驚いてキョロキョロとすると、

『こっちだ、こっち』

声は岩の向こう側から響いていた。

「?」

ヨイショッ

不思議に思った美咲はまるで声に誘われるようにして岩場に登ってみると、

ゴォォォォォォォ!!!

岩場の下に大きく口を開けた放水口より、

エメラルドグリーンの濁流が蜷局を巻くように噴き出している光景が目に入った。

「うわぁぁぁぁ…

 これが発電所の放水口か…」

吸い込まれそうな錯覚に陥りながら美咲が濁流を眺めていると、

『こっちだよ…』

美咲のスグ脇で再び声が響いた。

「え?」

慌てて美咲が振り返ると、

ボゥ

彼女のスグ脇に人の形をした緑色の光が立っていた。

「ひぃ!!」

それに驚いた美咲が慌てて引き下がると、

『ふふふ…聞いたぞ聞いたぞ、

 なぁお前(ぐぇこ)…

 泳げるようになりたいんだろう?

 いいぜ、俺が泳げるようにしてやろうか(ぐぇこ)』

と言いながら光は美咲に迫ってきた。

「いっいやよ、

 あたしは何も泳げる様になりたいだなんて

 これっぽっちも思っていないんだから、
 
 来ないでよ」

怯えながら美咲が振り払おうとすると、

『(ぐぇこ)人の好意は素直に受けるものだぜ』

光は美咲の手をグッと引くと、

ズルリ…

なんと彼女の体の中へと入っていった。

「あっいっいや…

 やめて!!」

光が美咲の体の中に入った途端、

メキメキメキ!!

美咲の身体が変化し始めた。

『どうだ?

 変身していく気分は(ぐぇこ)

 お前は俺様の下僕・カッパになるんだよ

 へへへ…カッパだから泳ぎは自在だぜ(ぐぇこ)』

美咲の中から響き渡るその声に、

「いやぁぁぁ!!!」

美咲は頭を抱えて蹲るが、

しかし、

メリメリメリ!!

美咲の背中が盛り上がっていくと、

バリッ!!

着ていたワンピースを引き裂いて硬い甲羅が飛び出した。

その一方で、

ジュク…

白い美咲の肌から生臭い粘液を滴らせ始めると、

見る見る緑色の肌へと変わっていった。

そして、

『くっくわぁぁぁぁ!!』

嘴が突き出た口から異様な泣き声を上げた美咲は、

そのまま渦巻く濁流の中へと落ちていった。



「!!っ

 お姉ちゃん?」

何かに気づいた竜一が顔を上げると、

「どうした?」

「お姉ちゃんがいない…」

さっきまで美咲の姿があった岩場を指さしながら竜一が指摘すると、

たちまち、キャンプ場は大騒ぎになってしまった。

そして、すぐに美咲の捜索が始まったが美咲の手掛かりは何処にもなかった。

「とっとにかく、警察に…」

引率の男性が慌てながら警察に連絡をしようとすると、

「待って!!」

何かを感じ取った竜一が男性を止めた。

「どうした?」

「お姉ちゃんの声が聞こえる」

「え?」

竜一の言葉に全員の注目が集まる。

「何も聞こえないが…」

耳を澄ませた男性がそう言うと、

「本当だ…美咲が呼んでいる」

「うん、聞こえる」

竜一の友人達も次々とそう言うと、

「あっちからよ」

一人の女子がそう言って岩場に向かって走り始めると、

「行ってみよう」

と叫びながらバラバラと少年達が走り出していった。

「おっおいっ待て

 そっちは…」

岩場に向かう彼らを見ながら男性は止めようとしたが、

しかし、皆あの放水口の方へと走って行ってしまった。

そして、

ゴウゴウ

と音を立てる放水口を見下ろしながら

「美咲ぃ」

「どこだぁ」

と叫び始めた。


彼らによる呼びかけか小一時間ほど過ぎた頃、

『(くわっ)ここよ』

と言う声と共に

ジャボッ

濁流の中から緑色の肌を妖しく輝かせながら

一匹のカッパが姿を見せて岩をよじ登ってくると、

「かっカッパ?」

カッパの姿を見た竜一達は一斉に引いた。

ピチャピチャピチャ!!

『くわぁぁぁっ』

カッパは竜一達の前に立つと大きく声を上げる。

すると、

「おっおいっカッパだなんて」

竜一達を守るようにカッパの前に立った引率の男性は

カッパを眺めながら驚きの声を上げた。

その時、

『(ぐぇこ)お前の仲間か』

と言う声が周囲に響いた。

「なっなに?」

突然響いたその声に全員が驚くと

『げへへへ…

 尻子玉がいっぱい…だぁ

 さぁ、美咲よ

 そいつ等の尻子玉を集めてこい』

声はカッパに指示を出すと、

『(くわっ)はいっ』

カッパはそう返事をした。

「美咲?

 って、まさかお姉ちゃん?」

竜一は目の前にいるカッパの姿に姉の面影を見いだすと驚いた。

しかし、美咲は素早く一番近くの男性に襲いかかると、

手際よく男性から尻子玉を抜き取り、

そして、逃げ惑う竜一の友人達を次々と襲っていった。

「おっお姉ちゃん、止めて!!」

カッパとなった姉が自分の友達を襲う光景に竜一は思わず叫び声を上げると、

『(くわっ)竜一…』

あっという間に竜一を除く全員の尻子玉を抜き取ってしまったカッパは

そう言いながら竜一に迫ってきた。

「お姉ちゃん、止めようよ」

ピチャ

ピチャ

ゆっくりと迫ってくるカッパに竜一は怯えながらそう言うと、

『竜一…お前の尻子玉…』

カッパは水掻きが張った手を竜一に向けてきた。

「お姉ちゃん…」

怯える竜一の目にカッパの姿が迫ってくる。

とその時、

ヒュンッ

一枚の護符が飛んで来るなり、

パシッ!!

カッパの手を大きく弾いた。

「え?」

『くわっ?』

二人が振り向くと、

「変な気配がしたので来てみたら…

 カッパとはご挨拶ね」

と言いながらタンクトップ姿の久瀬桜子と

巫女装束に身を固めた真弓(恭平)が河原に立っていた。

「だっ誰?」

二人を見ながら竜一が尋ねた途端、

「よっ」

シュタッ

カッパの隙をつくようにして飛び出してきた真弓に

竜一は抱きかかえられるとその場から離された。

「おっけーいいぜ、姉貴っ」

くくり上げた髪を揺らせながら恭平が桜子に向かって声を上げると。

コクリ

桜子は大きく頷くと、

「さぁて、カッパちゃん。

 人間界に何しに来たのかは知らないけど、

 オイタはダメよ、

 これで一気に始末してあげるわ」

そう言いながら霊刀・東雲に手をやると、

「待って!!

 その人は僕のお姉ちゃんなんだ!!」

と竜一が叫び声を上げた。

「え?

 それって本当?」

竜一の声に恭平が聞き返すと、

「そう、だから

 変なことはしないで!!」

恭平の言葉に竜一は更に声を張り上げると、

『くぇっ』

カッパは竜一の方を一瞬見て一鳴きすると、

『くぇっ』

『くぇっ』

『くぇっ』

それに呼応するように次々と河原に声が響き渡った。

「なに?」

響き渡った声に桜子と恭平が驚くと、

ズルリ…

いつの間にかカッパと化してしまった竜一の友人達が立ち上がると

一斉に

ササササ…

っと素早く移動をしていくと、

ボチャン!!

ボチャン!!

ボチャン!!

次々と放水口の濁流の中に消えていった。

そして最後に、

『くわっ』

目の前のカッパが声を上げると、

ヒュン!!

ポチャン!

と濁流の中へと消えてしまった。

「あっ…くそ」

桜子は逃げていくカッパを追いかけて見たものの、

全員が濁流の中に消えたのを見て臍をかんだ。



「一体何があったの?」

桜子達の宿泊先である民宿に連れてこられた竜一に桜子が優しく尋ねると、

「実は…」

竜一はポツリポツリと昼間起きたことを話し始めた。

「…お姉さんがカッパになってしまったんですか?」

竜一の話を聞いた真弓はそう返事をすると、

「え?」

竜一は真弓の豹変ぶりに思わず驚いた。

「あっあぁ気にしないで…

 この子はあたしの妹で、
 
 ちょっと変わっているのよ」

彼の表情を見て桜子がそうフォローをすると、

『変わっているとはご挨拶だなぁ…』

真弓の中で恭平が不満を漏らす。

「なる程ねぇ…

 要するに、君のお姉さんに何かが起きてカッパになってしまった。
 
 そして、そのお姉さんが君の友達を襲っていったと言う訳ね」

桜子が竜一の話を手短に纏めると

コクリ

竜一は素直に頷いた。

そして、

「おっおばさん、

 お姉ちゃん…元の姿に戻るのでしょうか?」

と桜子に訴えると、

「おっおばちゃん?」

彼のその言葉に桜子の表情が一瞬、ヒク付いた。

(えぇいっ、子供に怒っても仕方がないか…)

縋るような竜一の表情を見ながら桜子はそう呟くと、

「判ったわ

 とにかくこの事は”お姉さん”達に任せてね」

と桜子は”お姉さん”を思いっきり強調すると竜一にそう言った。



「カッパ…ですか?」

民宿に主人の声が響き渡ると、

「はいそうです

 この辺にカッパに関する伝承とか昔話ってありませんか?」

と真弓が主人に尋ねると、

「そうだなぁ…」

そう答えながら宿の主人は考える表情をした後、

「あぁ、そう言えば」

と何かが思い当たった台詞を言った。

「何かあるんですか?」

主人の言葉に思わず真弓が乗り出すと、

「いやねぇ

 昔の話なんですが、

 ほらっ、キャンプ場の少し下流に発電所の放水口があるでしょう。

 あそこって、昔は河童淵って呼ばれていたんですよ。

 なんでも、大昔に源のナントカとか言う武将が河童を退治して、

 そこに河童を鎮める祠を建てたのですが、

 ただ、戦後すぐに発電所の建設が始まって、

 ちょうど河童淵に放水口が作られてしまってね

 祠は前もって移転したのですが、

 この間の台風でちょうど祠のあたりで起きた土砂崩れが原因で

 祠が川の中に沈んでしまったのですよ」

と主人は説明をした。

すると、

「それだ!!」

主人のその話を聞いた桜子と真弓はお互いに顔を見合わせると声を上げた。



そして、よく早朝。

ドォォォォォォォ…

「すごぉぉぉぃ」

渦巻くエメラルドグリーンの水を眺めながら、

桜子と真弓は放水口の真上に立っていた。

「恐らく、祠が水の中に沈んでしまったために」

「…中に祭られていた河童が目を覚ましたという訳か」

真弓からチェンジした恭平が答えを言う。

「まぁ、そう言う事ね」

「で、どうするんだ姉貴?」

恭平が善後策を尋ねると、

「うふっ

 決まっているじゃない」

と桜子は恭平を見る。

「へ?」

桜子の言葉に恭平が思わず桜子を見ると、

ポンっ

桜子は恭平の肩を叩き、

「大丈夫だって、

 第一あんた、人魚の能力を持っているんでしょう?

 そういうのはね、使かわなきゃぁ損よぉ

 はいっ頑張って行ってらっしゃーぃ」

と桜子は恭平に言うと、

ドォォォォン!!

っと彼の身体を思いっきり突き飛ばしてしまった。

「え?、

 うわぁぁぁぁぁぁ!!」

ドボォォォォン!!

絶叫を残して白と朱色の恭平の身体が渦巻く川面に吸い込まれていくと、

たちまちその姿は水面下に没してしまった。

「うわぁぁぁぁぁ」

ガボガボガボ!!!

渦巻く水の流れは容赦なく恭平の身体を川底へと押し込んでいく、

そしてさらに脱水機に掛けられたように幾度も回転していたために、

恭平にとって水面が何処なのかが判らなくなっていた。

「苦しい…もぅ持たない!!」

と観念をしたとき、

ビリッ!!

彼の身体に電撃が走ると、

グググググググ!!

見る見る髪が伸びると、

その色が翠色に染まり、

そして、緋袴の中から魚の尾鰭が姿を見せると、

シュルリ!!

恭平は銀鱗を輝かせる人魚へと変身してしまった。

「ゴボッ」

肺の空気をすべて抜いた恭平は、

ガシッ

っと傍の岩場に思いっきりしがみつくと

ゆっくりと影の部分へと移動していった。

『はぁ…なんとかなったな…

 だけど、巫女装束を着たまま濁流に突き落とすか?』

そう文句を言いながら恭平は水中で巫女装束を脱ぎ捨てて身軽になると、

ゆっくりと岩場の影から顔を出した。

ドォォォォォン!!

猛烈な水圧が恭平の顔にかかる。

『うわぁぁぁ…

 流れがキツイ!!

 こりゃ祠を探すどころのことではないな』

再び影の部分に顔を引っ込めた恭平はそう呟くと、

『それにしてもカッパはどうやってこの流れをくぐり抜けているんだ?

 幾らカッパでもこの水の流れをねじ曲げることは出来ないだろうに』

と考えていると、

サッ

恭平の視界を何かの影が横切っていった。

『!』

それに気づいた恭平が影を追ってみると、

ヒュン

ヒュン

ヒュン

カッパ達は昨日カッパになったばかりだというのに

水の流れを巧く掴んで水の中を飛ぶようにして移動していった。

『すっすげぇ…』

カッパ達の動きを見ながら恭平は驚くと、

『ようし…アソコに行けば…いいんだな』

と判断をすると、

ダッ!

っと流れの中に躍り出た。

しかし、

ドォォォォォ!!

たちまち恭平の身体は濁流に押し流されていく、

『うわぁぁぁ…

 どうやってこの流れに乗っているんだ!!

 カッパ共は!!』

流されながらそう怒鳴ると、

ガシッ!!

恭平の両手と尾鰭に次々とカッパが群がり始めた。

『うわっ、ヤメロ!!

 コラッ
 
 溺れるだろうが!!(あっいまは水の中だっけ)』

自分の身体を束縛し始めたカッパに恭平は声を上げるが、

しかし、カッパ達はそんな恭平を川の奥深くへと連れて行った。



「なんだここは?」

恭平が連れてこられたのは

放水口からさほど離れていない所にある半分水没した洞窟の中だった。

ボゥ…

発光する苔によって洞窟の中がほんのりと照らし出される中

パシャッ!!

恭平は洞窟の様子を探ったのち、

「なるほど…出入り口が完全に水没していたから見えなかったのか」

と呟く。

すると、

『クワクワクワ!!』

水面に頭を出したカッパ達が一斉に鳴き始めた。

「うわぁぁぁ、

 うるせー」

洞窟内に響き渡るカッパの泣き声に恭平は耳を塞ぎながら声を上げると、

突如

ザバァァァァァァ!!

水面が大きく盛り上がると何かがゆっくりと恭平の前を横切っていくと

そのまま洞窟の壁からせり出した台の上へと乗っかった。

「なっ」

それを見た恭平は思わず呆気にとられる。

『グェコッ』

何で見ても見間違える訳はない、

巨大なガマガエルが台の上に悠然と乗っかっていた。

「がっガマガエル?」

ガマガエルを指さして恭平が尋ねると、

『(ぐぇこ)

 面白い物を捕まえたと聞いたのでどんな物なのかと思ってみれば、

 なんだ、コイツは(ぐぇこ)』

とガマガエルは言うと、

ピュルッ

っと舌を伸ばすと恭平の頬を軽く撫でる。

「うわっ、テメエっ

 きたねぇのを俺の顔になすり付けるな!!」

ザパッ!!

恭平はそう文句を言いながら慌てて顔を洗うと、

「お前が、カッパの親玉か」

と聞き返した。

すると、

『そうだ、わたしはいまから千年前に人間によって退治させられた河童だ。

 あれから千年の間じっと祠の閉じこめられ、

 ただ、流れていく川の流れを見つめるだけの日々は本当に辛かった。

 しかし、天は私を見捨ててはくれなかった。

 いまこうして新しい身体を得たのだからな

 ふっふっふっ、

 増やすぞぉ、

 愚かな人間共をみな私の下僕にして私の天下を作るのだ』

と言ってガマガエルは演説をした。

と同時に

クワクワクワクワ!!

カッパ達が一斉に声を上げる。

しかし、恭平は

「ちっ、そう言うことかよ。

 カッパの親玉がどんなのかと思ってきてみれば…

 ただのガマガエルの化け物だったとは…」

フルフル

肩を振るわせながらそう呟くと、

『ぐぇこッ』

ガマガエルはシゲシゲと恭平の姿を見るなり、

『ほぅ…これは珍しい。

 半分が人間で半分が魚とは随分と中途半端な妖怪だのぅ』

ガマガエルは喉を鳴らしながら恭平の容姿についてそう言った。

ところが、

「(ピクッ)なに?」

その言葉を聞いた途端、恭平のこめかみがヒク付いた。

『ぐぇこッ

 ふんっ、そんな半端な奴では…生きていくのが…』

なおもガマガエルはそう言うと

ヒタッ

「…俺の何処が半端だってぇ…あぁん?」

ガマガエルの目の前に迫った恭平はその頭を握りしめながら迫ると、

『ぐぇこ?』

恭平の迫力押されたガマガエルの身体から油が滴り落ち始めた。

「てめぇ!!

 人魚が半端とはよくも言ってくれたなぁ…ちょっとツラ貸せや」

『ぐぇこ?

 こらぁ、お前っ

 わたしを何だと思っているっ

 恐れ多くも…』

恭平の態度にガマガエルが怒鳴ると、

「ガマガエルの副将軍風情が調子コクんじゃねぇ!!

 いいから来い!!」

恭平はそう怒鳴るとガマガエルの頭を握りしめがら一気に洞窟の外へと向かっていくと、

『クエッ』

恭平の後を追ってカッパも皆ついてくる。



「おぉーぃ、恭平っ生きているかぁ?」

濁流を眺めながらなかなか浮き上がってこない恭平の姿に

桜子が岩場の上から声をかけていると、

「姉貴っ!!」

やや上流側から恭平の声が響き渡った。

「なんだ、そっちか」

そう言いながら桜子が恭平の声の方向に向かうと、

チャポン!!

澱みの中から恭平が濡れた緑色の髪をかき分けながら声を上げていた。

そして、

「カッパ共の親玉をしょぴいてきたぜ」

と桜子に向かって言うと、

「おいっガマガエルっ

 人魚の恐ろしさ

 その身にシッカリと刻んで置くんだな」

と水面に向かって言うなり、

ポーン!!

水の中から何かを空中に放り投げると、

ザバッ!!

「往生せいや!!」

のかけ声と共に恭平の身体が高く空中に舞った。

ヒュンッ

オーバーヘッド気味に勢いを付けた尾鰭が

風切り音を立てて思いっきりガマガエルを直撃すると、

スパァァァァァン!!

『ぐぇぇぇぇぇこぉぉぉぉぉ!!』

歪んだ声を上げながらガマガエルが桜子に向かってすっ飛んできた。

「なっ」

シュパ…

桜子は反射的に霊刀・東雲を抜くと突っ込んでくるガマガエルを一刀両断する。

バラバラバラ!!

真っ二つに切り裂かれたガマガエルの体内から紫色の玉がこぼれ落ちると、

『無念…ぐぇこ』

の声を残して

シュボッ

ガマガエルの身体から煙が吹き出ると瞬く間に消えてしまった。

こうして、カッパにされていた竜一の友人達は皆無事に元の姿に戻ったのだが、

しかし…

バシャッ

「お姉ちゃん、早く人間に戻ってよ」

『クワッ、ダメよ、

 折角泳げるようになったんだもん、

 あたし…もぅ少しカッパのままでいるわ』

美咲は竜一にそう言うと渦巻く川の中へと沈んで行った。

「お姉さん…泳げなかったの、結構気にしていたみたいね」

「そっそのようですね」

そんな姉弟の姿を桜子と真弓は後ろから眺めていた。



おわり