風祭文庫・巫女の館






「天邪鬼」



作・風祭玲


Vol.280





キュッ!!

早朝の体育館に手具を片手にレオタード姿の一人の少女が

キリリ

と立つと、

スゥッ

っと大きく深呼吸をした。

そして、

クッ!!

閉じていた目を大きく見開くと、

タンッ!!

無地のキャンバスの大きく筆を入れるかの如く舞い始めた。

タンッタンッ!!

力強く彼女が舞っていると、

サァッ!!

黒い影が体育館の中を駆け抜けていくと、

『くくくく…

 頑張っているね、でもね…

 僕にとってはそれだけ頑張っているとこうしたくなるんだよね』

と言う声が響き渡ると、

影は声に驚いた少女に向かって一直線に向かっていった。

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

少女の悲鳴が体育館の中に響き渡る。



「新体操の小池由美?」

「そう…知っているでしょう」

「あぁ…まぁな」

夏を控えた梅雨空の昼下がり、

巫女装束に身を固めた恭平は桜子に連れられて都内の某所を歩いていた。

『誰ですか?、その小池さんって…』

恭平の脳裏で真弓が尋ねると、

『新体操って知っているだろう?』

『えぇ…あたし新体操に憧れていたんです。

 でも、体が弱かったから…』

『そうか、

 んで、その小池由美って子は

 今度のアテネ・オリンピックで金メダル候補とも言われている子なんだよ』

簡単に恭平が説明をすると、

『へぇぇ…すごい人なんですね』

無邪気に真弓がはしゃぐ、

「で、姉貴っ

 その由美ちゃんがどうかしたのか?」

そう恭平が尋ねると、

「まぁ由美ちゃんねぇ…」

桜子はにやりと笑うと恭平を横目で見る。

「わっ悪いかよっ」

顔を赤くして恭平が反論すると、

「実はけさ、その由美ちゃんが練習中に妖怪に襲われたそうなのよ」

涼しい顔をしながら桜子が簡単に説明をすると、

「ぬわにぃ!!」

驚いた顔の恭平がドアップになって桜子に迫った。

しかし、

ピッ!!

桜子は迫る恭平に臆することなく、

素早く懐から取りだした退魔符を突きつけ、

「一発貰う?」

と笑みを浮かべながら尋ねた。

「い…ぇ」

フルフルと恭平が顔を横に振ると、

「まぁっ、あたしも詳しいことは知らないわ、

 ただ、先方さんからは

 小池選手が妖怪に襲われ閉じこめられてしまった。

 スグに助けて欲しい!!

 て電話で泣きつかれただけだから…ね」

退魔符を懐にしまいながら桜子がコトの詳細を説明すると、

「じゃぁ、ノンビリと歩いている場合じゃないじゃないか、

 急がないと…」

そう言いながら恭平が駆け出そうとすると、

「何言ってんの?」

呆れかえりながら桜子が窘めた。

「なにって!!」

桜子の言葉に恭平が突っかかると、

スッ

桜子は腕を伸ばしながら、

「もぅ着いたわよ」

とひとこと恭平に告げた。

「なっ!!」

そう、二人の前には目的地である某女子体育大学の校舎が姿を現していた。

「男のままだったらこの敷地には入れななかったね」

「まーな…」

校内に入ってきた二人の女性の姿を見ながら

ヒソヒソ話をする学生達をよそ目に

桜子と恭平が教官室へと出向くと、

半分泣きながら新体操部のコーチが桜子達を出迎えてくれた。

「おっおっお願いしますぅ」

ハンカチを片手にうろたえるコーチに、

「あたし達にお任せください」

桜子はそういって胸を張り、

「で、その被害にあった由美ちゃん…

 じゃなかった、小池選手は何処に?」

と尋ねると、

ピクッ

コーチの顔色が見る見る変わっていくと、

「それが…

 その…体育館に閉じ込められているみたいで、

 出てこれないんです。」

と泣きながら訴えた。

「!!!」

桜子と恭平はお互いに顔を見合わせると、

「判りました、

 では、早速体育館のほうへ向かいます。

 よろしいでしょうか?」

そう桜子がコーチに許可を願い出ると、

「はい、

 ただ、妖怪は体育館全体を人が入れないようにしているみたいで…

 とっとにかくよろしくお願いします」

コーチはそう言うと深々と頭を下げた。

「なぁ…姉貴…」

「なに?」

「妖怪はこんなコトして意味があるのかな…」

そう恭平が尋ねると、

「さぁね…

 ただ、その妖怪…

 なかなかの力があるみたいだね」

桜子は退魔刀・東雲に手を掛けながら周囲に気を配っていた。

「まぁ確かにね」

パリッ!!

恭平の身体の周りにも妖気が反応して起きる放電が発生していた。



「ここね、由美ちゃんが閉じ込められている体育館って…」

そう言いながら桜子が

周囲に立入禁止のロープが張られている体育館に近寄っていくと、

バリバリバリ!!

強烈な放電が桜子を襲った。

「へぇ…結界ぃ…

 アジなマネをするじゃない?」

妖怪の抵抗に桜子は嬉々とすると、

「ンじゃ早速、

 思いっきりいくわよぉ!!」

退魔刀に手を掛けながら桜子がそう言うと、

でぃぇぇぇぇいっ!!

シュパァァァン!!

一気に退魔刀・東雲を振り抜いた。

すると、

ビシッ!!

目の前の結界に一筋の切れ目が走ると、

パァァァァン!!

体育館を包み込んでいた結界は呆気なく破裂してしまった。

「急いで、再生する前に飛び込むわよ」

「おうっ」

駆け出した桜子の声と共に恭平も後を追って体育館へ駆け込んでいった。

バンッ!!

無事結界が再生する前に二人が閉じられているドアにたどり着くと、

「さて…」

桜子はドアの取っ手に手を掛けるとそれを一気に開いた。

その途端、

びゅわっ!!

猛烈な妖気が体育館の中より吹き出した。

「うわっ」

「これは」

たちまち二人は腕を構えると吹き出す妖気に耐える。

そして、

『きひゃひゃひゃ!!』

と言う声と共に

シャッシャッシャッ!!

体育館の中で何かが凄いスピードで動き回ると、

あっという間に消えてしまった。

「逃がしたか…」

退魔符を手に挟み体育館の奥を睨みながら桜子が呟くと、

「(ひゅう)大したものだ、

 あれだけの妖気がまるで無かったみたいだ」

まるで雨が落ちているのを確認するように、

掌を上に向けながら恭平が呟くと、

ゴン!!

桜子の拳骨が恭平の頭を直撃するなり、

「何ノンビリと構えているのよっ」

と怒鳴った。

「いってぇなぁ」

頭を庇いながら恭平が文句を言っていると、

「どなた?」

体育館の中に女性の声が響いた。

「あっ…

 えっと、新体操部のコーチの依頼できた者ですが、

 小池由美さんですか?」

とすかさず桜子が声を上げると。

「あっ

 ここは危ないかですら!!

 スグに帰ってくださいっ!!」

女性の甲高い声が「用具倉庫」と書かれた札のある扉の中から響いた。

「いや、

 あのね、俺達…

 じゃなかった、あたしたちは妖怪の退治を専門している者で、

 コーチから由美さんを妖怪から助けて欲しい。

 って頼まれたんです。

 いま、妖怪の気配はありません。

 その用具倉庫の中にいらっしゃるんですね」

そう恭平が声を掛けると、

「あっあたしのことは構わないでください、

 それよりも…」

「いや…そう言うわけには…」

由美からの問いかけに恭平がそう答えると、

「では、我々の方からそちらに向かいます

 よろしいですか?」

恭平とのやり取りを聞いていた桜子が言葉を挟むと、

「あっ待って…

 あたしから出ます…」

由美のその声が響くと、

カチャッ!!

用具倉庫のドアが静かに開いた。

「?」

恭平と桜子は顔を見合わせる。

すると、

スッ

そこからレオタード姿の女性が姿を現した途端、

「え?」

「うわっ!!」

恭平と桜子の顔から血の気が一気に引いた。

「…………」

呆然とする桜子に、

「あっあっあっ…」

恭平は開いた口がふさがらなかった。

「おっ驚かれました…?」

寂しそうに由美がそう呟くと、

ゴクリっ

桜子は生唾を飲み込んで気持ちを落ち着けながら、

「なるほど…妖怪に閉じこめられただけではなくて、

 被害に遭われたんですねの…」

と落ち着いた口調でそう尋ねた。

すると、

「あっあのぅ…頭に血は上りませんか?」

思わず恭平が尋ねると、

ゴンッ!!

再び桜子の拳が恭平の頭上に炸裂した。

「どうも、すみません、

 常識知らずな者で…」

桜子はそう謝ると、

「いえ…

 確かに、頭に血は上っては来ませんが

 でも…」

そう言うと由美は視線を横に外した。

「う〜ん…

 なぁ、どういう妖怪の仕業なんだこれは」

唸りながら恭平が桜子に尋ねると、

「あたしも、色々な妖怪の被害にあった人を見たけど、

 でも、初めてねぇ…こういう症例は…」

と言うと首を捻った。

そう、二人の前に立つ由美の姿は、

腕が脚になり、脚が腕になった…

つまり、由美の手を足は位置はそのままだけど、

しかし、身体が上下ひっくり返しになっていたのだった。

「そっそんなに見ないでください」

恥ずかしいのか

太股となってパンパンにレオタードの袖が張りつめた腕に

由美は顔を伏せてそう呟くと、

『きゃはははは…

 ひっくり返しひっくり返し』

体育館の中全体に由美の姿をせせら笑う妖怪の声が響き渡った。

「調子に乗りやがって」

ポゥ

左手に光弾を作りながら恭平が悔しそうに呟くと、

「ダメよ」

すかさず桜子が制した。

「なんでだよ、

 由美ちゃんがこんな目にあっているんだよ、

 俺の手で叩きのめさないと気が済まないよ」

恭平は桜子にそう訴えると、

「こらっ、落ち付けって言うの!!

 で、

 その妖怪の被害にあったときのことを詳しく説明していただけますか?」

落ち着いた口調で桜子が由美に尋ねると、

「はい…」

由美は妖怪に襲われたときのことをポツリポツリと話し始めた。

「なるほど…以前から居たわけですね」

「はい」

「配所は気のせいだろうと思って気には掛けてなかったのですが、

 しかし、それがドンドンとエスカレートして…」

「ついには由美さんの身体をひっくり返してしまったと」

由美が言いかけた答えを桜子は先に言う。

「えぇ…

 あたし達も気味が悪いってコーチに訴えたのですが

 ただ、コーチは

 妖怪なんて存在しない。

 そんなモノが見えるのは弛んでいるからだって言うだけで」

「なるほどねぇ…

 科学万能ってアホ教育に洗脳された単細胞バカが陥りやすい罠ね」

由美の言葉に桜子がそう返事をすると、

「あっ姉貴っ、それは言い過ぎだって!!

 でも、あんなにワンワン泣いていたコーチがそんな事言っていたなんて

 信じられないな…」

腕を組みながら恭平が唸った。

「人間なんて普段は非常識なんていってせせら笑っても、

 実際にその被害が自分の及んだ途端、

 敬虔な信者になるんだからやってられないわよ、

 ただ、由美さんの話を聞いてわかりました。」

そう言いながら桜子は体育館を見渡すと、

キラリ

と目が光った。



「で、なんで、俺がこんな格好をしないとならないんだ?」

それから小一時間後…

レオタードに身を包んだ恭平が腰に手を当てながら桜子に文句を言うと、

「細かいことは気にしない

 あの妖怪はすばしっこいからね…

 まぁ捕まえるにはこうして餌に針をつけて、

 あとは流しておけば引っかかるわ」

と桜子は気楽に言いながら

退魔符を体育館のそこかしこに貼っていく

その言動に思わず、

「俺は、魚を釣るための餌か!!」

恭平が怒鳴ると、

「はいはいっ、

 取りあえず適当に演技してよ、

 そうしないと妖怪は釣れないんだから」

桜子が恭平の尻を叩くと、

「ったくぅ、こういう仕事はいつも俺がやらされるんだから…」

とブツブツ文句を言いながら恭平はリボンのスティックを手に取った。

そして、

よっ!!

そのスティックを廻しながら華麗に舞う。

「へぇぇ…凄いですね…

 あのぅ妹さんも新体操をなさっているのですか?」

恭平の演技に由美は感心しながら尋ねると、

「まぁね、

 妖怪の退治屋と言う以上

 こう言うことくらいは普通に出来ないとね」

恭平の演技を眺めながらそう桜子が言うと、

「だったら、姉貴がすればいいじゃないか」

その言葉を横で聞きながら恭平は心の中で怒鳴った。

すると、

ゴンッ

急に体育館の空気が変わると、

『ぅたくぅ、下手くそだなぁ…』

と言う声が響き渡った。

「現れたわね…由美さん、こっち来て」

懐の退魔札に手を伸ばしながら桜子が由美に指示をすると、

「はっはい…」

身体をひっくり返しになれながらも由美は普段と変わらない足取り(手取り?)

で桜子の背中に隠れた。

シュルシュルシュル

その一方で、恭平も妖気の気配を察しながら体育館の中を移動していくと、

「どこだ?」

鉄骨で出来た天井の梁を一本一本確かめながら恭平は手具を持つ手を動かす。

すると、

シャッ!!

高速で移動する影か水銀灯の前を横切った、

「居たっ!!」

その瞬間恭平は声を上げると、

ビッ!!

影を追いながら鞭の様にリボンを使うが、

しかし、

恭平の捌き方では質量が軽いリボンで影にダメージを与えることが出来ず、

また、貼ってある退魔札も影が高速で移動するために発動が出来なかった。

「くそっ」

その様子に恭平が臍をかむと、

『ふぅぅぅん、

 なるどほど…

 僕を捕まえる気なんだね…

 しかし、僕は掴まらないよ』

声はそう響くと

ふっ

体育館の中を移動していた影が消えてしまった。

すると、

「恭平!!」

桜子が声を上げると、

「帰るわよ」

と言うなりスタスタと表に向かって歩き始めた。

「へ?」

桜子の行動に恭平は目が点になると、

「さぁお前の好きにすればいいわ、

 何をしても自由よ

 あたしたちは帰らせて貰いますから」

そう桜子が声を上げる。

すると、

「ちょちょっと…

 姉貴!!」

「そんな、あたしの身体はどうなるの!!」

恭平と由美が慌てながら桜子のあとを追い始めた。

その途端、

ヒュン!!

桜子の前に影が落ちると、

「帰さないよ…」

と言いながら、

ギラッ!!

っと丸く見開いた目を輝かせながら、

身長50cm程で黒い毛に覆われ、

頭に二本の角を持つ

一見、猿のような小鬼が現れた。

「なるほど…

 あんたが犯人ね、天邪鬼…」

桜子は天邪鬼を見下ろしながら東雲に手を掛けるようとすると、

ヒュン!!

天邪鬼の姿がまた消えてしまった。

「姉貴、天邪鬼って…」

「そー、何でもかんでも反対にしないと気がすまない鬼よ」

と桜子が説明する。

「じゃぁ、あたしを逆さまにしたのも…」

「なんで、由美さんを逆さまにしたのかは知らないけど、

 間違いなくあいつの仕業よ」

「どうやって捕まえるんだよ」

「策はあるわ、

 だって、天邪鬼って正反対にしか行動できないんでしょう?

 その癖、バカ正直だからねぇ…」

そう言いながら桜子はニヤリと笑うと、

腰を下ろすなり、

(ぽしょっ)

っと由美に耳打ちをした。

「え?そんなことが…」

「えぇ、間違いなく引っかかるわよ」

と囁きあう、

「なんの相談をしているんだか…」

それを恭平が横目で見ていると、

「さ・て・と、由美さん、

 どうする?」

どこかに潜む天邪鬼に聞こえるように桜子が声を張り上げると、

「そうですねぇ…

 あたしも、この身体でいいかなぁ…

 って考えるようになりました。

 このひっくり返しの身体って

 新体操では審判員の目を引いて有利だと思うんです。

 天邪鬼さん、ありがとう!!」

腕となった脚を大きく広げて由美がお礼の言葉を言うと、

『そうはさせないよ!!』

と言う言葉と共に

ヒュン

天邪鬼の影が床の上に舞い降りると、

ヒュンヒュンヒュン

っと由美の方へと向かってきた。

すると、

サッ

桜子が一歩前に出ると、

「恭平には一歩と触れさせないよ!!」

と声を張り上げる。

『くっなるほど…』

天邪鬼はそう呟くと、

ヒュン!!

高く舞い上がると、

シャッ!!

由美に襲いかかった。

「きゃぁぁぁぁ」

ぎらりと光る爪を見て由美が悲鳴を上げると、

ぶんっ!!

瞬く間に由美の身体は元の姿に戻ってしまった。

『くくっ、

 どうだ、それならお前の企みも水の泡だろうが』

天邪鬼のせせら笑う声が響くと、

『さぁ、次は貴様だ』

天邪鬼は次の狙いを恭平に定めると、

猛スピードで飛びかかってきた。

「うわぁぁぁぁ」

体育館に恭平の絶叫が響き渡る。

ザンっ

天邪鬼の爪が恭平を襲った瞬間、

ビシィ!!

体育館内に張り巡らせてあった、退魔符が一斉に反応すると

ババババババ

『うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!』

天邪鬼にめがけて一斉に電撃を放った。

「ふふ…どう、天邪鬼…

 退魔符陣の味は…」

勝ち誇ったように桜子が告げると、

『くっくそう!!、うぎゃぁぁぁぁぁ!!』

天邪鬼は悔しそうな顔をしながらさらに悲鳴を上げる。

「おバカさん…

 なんでも、正確に正反対の行動をとるんだから、

 由美ちゃんがあの身体で良いなんてことないでしょう?

 まぁ、あなたほど素直な妖怪ってホント貴重なんだけどねぇ…」

桜子はそう言いながら束縛符を取り出すと、

ピッ!!

っと天邪鬼めがけて投げつけた。

すると、

ビユワァァァァ!!

天邪鬼の身体は束縛符に吸い込まれるようにして消えていった。



しーん…

静寂が体育館を包み込んだ。

「終わったのですか?」

恐る恐る由美が桜子に尋ねると、

「えぇ、この通り妖怪は封印したのでもぅ大丈夫ですよ」

笑みを浮かべながら桜子が由美にそう告げると、

「あっ姉貴ぃ」

恭平が声を上げた。

「なによ、そんな情けない声で呼ばないで…え?」

「きゃっ!!」

恭平の姿を見た桜子と由美が軽く悲鳴を上げると、

「ううぅ…」

身体をひっくり返しにされてしまった恭平が、

涙を額の方へと流しながら立っていた。

「ありゃりゃ…ワンテンポ遅かったか…」

恭平の姿を見て桜子は天井を仰いだ。



おわり