風祭文庫・巫女の館






「人魚の歌声」



作・風祭玲


Vol.265





「断るっ」

昼下がりの校舎内に少女の声が響き渡った。

「なによぉ〜っ

 いいじゃない

 ちょっとで終わる仕事なんだからさぁ」

薄い藤色のスーツにサングラスを掛けた姿の桜子が拝むようなポーズをすると、

フン

セーラー服姿の少女は無言でクルリと背を向けると腕を組んだ。

キラリ

身体の動きに合わせて手入れの行き届いた少女の長い髪が日の光を受け輝く。

「既に2人も背負って居るんだぞ、

 これ以上、新入りが加わるなんて…

 俺はもぅ満室だ」

と少女が叫ぶと、

ヒュゥゥゥゥ〜っ

肌を刺すような冷気が吹き抜けるなり、

『なんの話?』

アイスブルーの髪を靡かせながら全裸の女性が姿を現した。

「サトっ

 いい加減服を着ろっ

 こんな所誰かに見られたら変な噂が立つだろう!!」

そう叫びながら少女が迫ると、

『あら…

 別にいいじゃないっ

 ここには女しか居ないんだから…』

と言いながら雪女・サトは氷の様な笑みを浮かべた。

「はは、一本取られたね」

「姉貴っ」

「でどうする?

 引き受けてくれる?」

笑みを浮かべながら桜子が少女に決断を迫ると、

「あぁ、判りましたよっ

 行きますよ、

 行けばいいんでしょう!!(ったくもぅ)」

とやけくそ気味の返事が返ってきた。

「はいっ、じゃっ決定ね(ぱぁん)」

その答えを聞いた途端桜子は、いきなり少女の頬を叩く、

すると、

「あのぅ…

 もぅちょっと痛くない方法はないのですか?」

叩かれた頬を押さえながら精神が恭平から真弓に切り替わった少女が桜子に訊ねると、

「う〜ん、そうねぇ

 いい加減、呼び鈴代わりにひっぱたくのも可哀想だし…」

そう呟きながら桜子が考える顔をすると、

『なぁ、あたしがコレで殴るのはダメか?』

その様子を見ていたサトが掌の上で氷柱を作ってみせる、

すると、それを一目見た桜子は

「却下!!」

と一言言い渡した。



「えぇ!!人魚さんですか?」

週末を控えた金曜日の夕方、

桜子達は外房線直通の快速電車の乗客になっていた。

空港行き特急の待ち合わせをしている途中駅で

桜子が真弓に依頼内容を簡単に説明すると

それを聞いた真弓が思わず声を上げてしまったのだった。

「こらこら…大声を出さないの」

車内の視線を気にしながら桜子はそうたしなめると、

「あっごめんなさい」

真弓は思わず萎縮する。

「まぁ、あんたのその格好に比べれば大したことはないんだけどね」

缶コーヒーに口を付けながら桜子は真弓の装束を指さすと、

「あっ」

白襦袢に緋袴…

いわゆる巫女装束に身を包んだ真弓の姿は十分車内で浮き上がっていた。

「変ですか?これぇ」

桜子に指摘され真弓が聞き返すと、

「まぁ、いいか、

 あんたのトレードマークだもんね、それ」

桜子はそう真弓に言うと車窓を眺めた。

すると、

ゴワァァァァァ!!

轟音と共に赤に白のストライプが入った空港特急が快速電車を追い抜いていく。



「きゃぁぁ!!、

 海・海・海!!」

それから1時間近く経って二人は夕暮れの岩場に立っていた。

「真弓ちゃん、

 海って来たことがないんだっけ?」

真弓の後ろから桜子が声を掛けると、

「えぇ…

 ずっと入院していたモノですから、

 あたし海を見るのが初めてなんです」

と顔一杯に喜びを現しながら叫ぶと、

「あんたは浮かない顔をしているのね」

桜子は隣で立て肘に顎を乗せて海を眺めているサトに囁いた。

『…海か、なんか好かないな』

サトはそう呟くとフッと姿を消した。



「へぇ…人魚さんが漁師さん達に迷惑を掛けているのんですね」

漁港の片隅にある漁協の事務所から桜子と共に出てきた真弓は、

改めて桜子に訊ねると、

「まぁそう言うこと、

 あたしも再度説明を聞いて驚いたわ、

 普通、人魚は人間のすることには干渉はしないんだけど…

 でも、数人の人魚が定置網に悪戯するとは困ったものねぇ…

 まぁ、漁協の方でもそれなりの対策を立てて居るみたいだけど、

 でも、相手が相手だけに、

 下手な強硬手段で打って出ればそのしっぺ返しが怖いしね、

 まぁ、だからこそ、あたし達の出番なんだけど、

 果てさて、どうしたものか」

思案顔の桜子を見て、

「あのぅ、こういう場合は

 漁師さんと人魚さんとが直接話し合えばいいんじゃないのですか」

ポツリ真弓がそう指摘すると、

「最初の頃はそうしようとしたみたいだけど、

 でも、あの話じゃ、

 ちょっとしたボタンの掛け違いをやってしまったみたいね。

 こうなったら、当事者同士じゃまずムリよ」

「はぁぁ…大変なんですね」

「まぁね…

 陸は人間の持ち分だけど、

 海は向こうの持ち分だからね」

そう桜子が説明すると、

『…言って置くけど陸は全部人間の持ち分じゃないよ…』

フワリと浮き出てきたサトはひと言そう言うとスグに姿を消した。

ヤレヤレ

サトの消えた跡を横目で見ながらそう言う顔をした。



ザザーン…

深夜、

宿泊先をから抜け出した桜子と真弓は銀貨のような月が照らす海辺を歩いていく、

「んん…」

桜子が大きく背伸びをすると、

「ったくぅ…」

その様子を見て真弓が呆れた顔をした。

そう、いまの彼女を支配しているのは恭平の方だった。

「真弓ちゃんは?」

「グーグー寝ているよ…

 さっきまでは人魚に会うんだ。

 って張り切っていたんだがな」

桜子の問いかけにぶっきらぼうに恭平が答えると、

「まぁいいじゃないの」

と恭平の肩を桜子が叩いた。

「本当に姉貴は真弓には甘いんだな…

 で、人魚は何処にいるんだ?

 さっさと捕まえて痛い目に遭わせれば、

 2度と悪戯はしないんじゃないのか?」

頭の後ろに腕を組みながらそう恭平が言うと、

「こらこら、

 一応は海の精霊なんだから乱暴はしないのっ

 漁師だって本音は穏便に事が済めばそれでいいって言っているんだから」

「要するに生殺与奪権は相手に握られている訳か」

桜子の話に恭平がそう答えると、

「まぁ、端的に言えばそう言うことになるかな?」

「なぁ、姉貴、あれはなんだ?」

何かに気づいた恭平が砂浜の先を指さすと、

そこには砂が小山のように盛り上がっていた。

「あぁ…

 ほらっ、

 半年ほど前にTVで言っていたでしょう

 クジラが集団で砂浜に打ち上げられたニュース」

「?…あぁ…あのニュースか…」

桜子の指摘され少し考え込んだ恭平がハタと思い出すと手を叩いた。

「へぇ…あの事件って、ここだったんだ」

感心しながら恭平が塚を眺めていると、

「そうね…あれ?

 そう言えば人魚の事件が起きたのって半年前からって言ってたよね」

桜子はこの事件と今回の依頼との時間的なつながりが気になった。



ザパーーン!!

月明かりを頼りにして岬の先へと続く岩場を進んでいった二人は

やがて、岬の先端にたどり着いた。

チカッ

チカッ

暗礁地帯を示す灯台の元に立つと、

ヒュォォォォ

浜風が恭平の緋袴を激しく揺らせた。

「問題の定置網はこの沖…

 ちょうど、あの辺かしらね…」

桜子はそう言いながら月明かりが照らし出す海を指さすが、

恭平はただ頷くだけだった。

「で、人魚が出たらどうするんだよ、

 まさかここから泳いでいけって言うのか?」

海面を指さしながら恭平が訊ねると、

「まぁ、最初はそれも考えたんだけどね」

と桜子は答える。

「おっおいっマジかよ、それ」

桜子の答えに恭平がアップになって迫ると、

「あはは、何ムキになっているのよ

 いまは別の考えがあるわよ」

と桜子はあっさりと受け流した。

「どうせ、ろくな考えではないと思うけどな

 悪いが、俺は寝かして貰うぜ、

 身体がクタクタだからな」

恭平はそう言うと、ゴロンと横になった。

とその時、

パシャッ!!

何かが海面から飛び上がると、

再び海の中へと消えていった。

「人魚っ!!」

「なにっ」

桜子の叫び声と同時に恭平は飛び起きた。

「どこだっ」

「あそこ、定置網の方だわ」

そういって桜子は海面を指さすが、

しかし、恭平はなかなかその場所の見当がつかない。

すると、

再び、パシャッ!!

っとヒトの姿をした魚が高く飛び上がった。

「アレが人魚かっ!!」

ようやく、人魚の位置が判った恭平はすかさず光弾を作る構えをした。

「待って!!

 ここからだと命中率が悪い!!」

桜子は片手を出して、恭平の行動を阻止すると、

「サト、居るんでしょう?」

と声を掛けた。

『あん?、あたしに用かい?』

フワッ

雪女・サトが姿を見せると、

「今度、人魚が飛び上がったら

 あなたのキツイ冷気をあそこに向けて放って!!」

と指示をした。

『なんで、あたしが協力しなければないないのさ』

桜子の言葉にサトが文句を言うと、

バシャッ!!

再び人魚が高く飛び上がった。

「いまよ!!」

桜子の叫び声に

『ハッ!!』

ゴッ!!

釣られるようにしてサトは人魚に向けて冷気を放った。

パキパキパキ!!

サトの放った冷気は瞬く間に海面を氷結させていく。

そして、飛び上がった人魚の下の海面も氷結してしまうと、

『きゃぁぁぁぁぁぁ』

ドサッ!!

人魚は悲鳴を上げながら凍った海面に激突した。

「うわぁぁぁ!!

 顔面モロ…」

その様子を見ていた恭平はアイススケートで転んだ際、

顔面を強打した事を思い出すと身震いをした。

「コレまでの行いの報いと思えば軽いモノよ

 ようしっ

 しばらくの間は動け無いな」

桜子は軽くそう言うと、

そのまま凍った海面の上を歩き始めた。

「おっおいっ、姉貴っ」

恭平も慌てて桜子の後に付いていく、

そして、

「いいのかよ、

 人魚を傷つけるなって最初に言ったのは姉貴だぞ」

と迫ると、

「別に誰も傷は付けていないわよ」

ケロッとした表情で桜子は答えた。

「はぁ?」

「人魚が飛び上がった海面がたまたま凍っただけでしょう?

 あとは人魚の自由意志によるものだから、

 誰も咎めは受けないわよ」

と桜子は言うと、

『コイツ…恐ろしいヤツ…』

サトは桜子を横目で見ながら警戒していた。

やがて、定置網の上にたどり着くと、

そこには血溜まりとその中に俯せに倒れている人魚の姿があった。

「うわっ、本当に人魚だ…」

長く伸びた翠の髪と腰から下を覆う朱色の鱗が

月の明かりに妖しく輝いているのを見た恭平は一歩後に下がる。

「しっ死んでいるのかな?」

「う〜ん、激突だったからね…

 かも知れないわ」

桜子は人魚の傍に腰を下ろすと静かに手を合わせた。

『くっ、だっ誰が死んでいるですってぇ』

鼻血を流しながら人魚が起きあがると、

『貴様かぁ〜っ、

 いきなり海を凍らせたのは!!』

っと桜子に迫った。

しかし、桜子は

スルリ

と東雲を抜くと、

「凍らせたのはあたしじゃないけど、

 でもね、漁師からあなたがこの下にある定置網に悪戯をして困っている。

 って苦情が来ているのよ」

と言いながら人魚の喉元に東雲を突きつけた。

グッ

見る見る人魚の顔から血の毛が引いていく、

「2度とここに来ないと誓うならこの場から逃がしてあげるわ」

そう告げると、

ジロッ!!

人魚は桜子を睨み付けると、

『何を言うかっ

 そもそも人間がここに魚を捕る仕掛けを置いたのが悪いんだ』

と言い放った。

「なに?」

その言葉に桜子の表情が硬くなる。

『その刀であたしを切るなら切れっ

 しかし、そんなことをしたらどうなるか判っているんでしょうねぇ…』

「ほぅ…あたしを脅す気?」

桜子と人魚は一気に緊張していく、

そして、その様子を見ながら恭平は一人ハラハラしていた。

「………」

長い時間が過ぎていく、

しかし、この緊張を破ったのは以外にも人魚だった。

『アヤっ、そんなところで何をしているの!!

 大変なのよ!!、

 またクジラの群がこっちに向かってきているわ』

氷結していない海面から別の人魚が顔を出すと声を上げた。

『ホント?、それ?

 急がないと!!

 また陸に上がっちゃう!!』

桜子が東雲を突きつけていた人魚はそう返事をすると、

スルリ

まるで蛇のように東雲の切っ先をくぐり抜けると、

そのまま海へと飛んでいった。

「あっ逃がすかっ!!」

反射的に桜子が東雲で斬りつけようとしたが、

しかし、人魚は間一髪凍って居ない海面に飛び込むと、

『言って置くけど、

 わたしはこの仕掛けを壊す気なんて全然ないよっ

 ただ移動させたいだけだ!!

 第一、これがここにあるためにクジラが道に迷う。

 陸の人間に伝えてくれ、

 もしも、この間のことが起きて欲しくなければ

 この仕掛けを動かすことに同意をしろ、

 そうすれば私達でこの仕掛けをクジラが迷わないところに移動する。

 しかし、同意が無ければ破滅が待つのみだ』

と告げると、そのまま海の中に消えていった。

「あーぁ、逃げちゃったな…

 で、どうする?

 人魚が言っていたこと伝えるのか?」

恭平はジッと海面を見据えている桜子に今後のことを尋ねた。



翌朝…

「そうですか…」

桜子から事の詳細を聞いた漁協の役員達はみなため息を吐いた。

「ここは、人魚の指示に従った方がいいと思いますが」

そう桜子が切り出すと、

「しかし…定置網の移動は金と時間が掛かる…」

「それに漁獲量も…」

そういって役員が難色を示すと、

「けど、人魚があの場所に定置網があることによってクジラが迷う、

 と言っている以上、

 場合によっては第二第三のクジラの打ち上げ事件が起きるのでは」

桜子がそう指摘をすると、

「まぁ…確かにクジラの事件はこの間ので懲りたしなぁ」

「あぁ、国からの支援は微々たるものだし

 また起きるとその処理費だけでも町は破産だ」

役員はそう言うと頭を抱えた。

「では、漁協としては定置網の移設と言うことには賛成なんですね」

役員たちの様子を見ていた桜子はそう訊ねると、

「まぁな…

 人魚の方で漁獲量を保証してくれるというのなら、

 我々は定置網が何処にあっても問題はない。

 ただ、あの場所以上に網を置く適所があるというのかね?」

そう役員が訊ねると、

「判りました。

 では人間側の要求は以上と言うわけでよろしいですね」

桜子は判断を求めた。

「う〜ん…」

役員全員の頭が縦に動いた。



そして、夜…

「…と言うわけ…

 それと、何度も言うけど漁獲量の保障はちゃんとしてくれること、

 以上が人間方の要求よ

 これ以上はびた一文たりとも譲歩は出来ないわ」

灯台の下で昨夜の人魚にあった桜子はそう伝えると人魚の返事を待った。

『そうですか…

 つまり人間は仕掛けの移動には反対じゃないのですね』

人魚の問いかけに、

「まぁそういうことかな」

桜子が人魚にそう告げると、

『判りましたっ、

 では明日、

 この仕掛けをあたし達の手で移動させてます』

人魚は桜子にそう告げると、

どこかさっぱりとした表情で海の中に消えていった。

翌朝…

「おぉぃ大変だ来て見ろ!!」

休日の漁港に声が響き渡った。

「なんだ?」

寝ぼけ眼で起きあがった桜子と真弓は窓を開けると

定置網のある方向で盛んに水しぶきが上がっていた。

たちまち慌てるようにして数隻の漁船が出航していく。

「始まったか…

 それにしても随分と派手だねぇ…」

宿の窓枠に腕を乗せながら桜子と真弓は高みの見物をしているが、

しかし、網の所に向かった漁船は

さらに信じられないモノを見せつけられていた。

「ばっばかな…」

「こんな事が…」

何十本のロープと固定アンカーによって

海底にしっかりと固定されていたはずの定置網は

集まった人魚達によってアンカーを外され、

さらに網の中に入った無数の魚たちによって確実に移動させられていた。

「これで、一件落着かな?」

桜子がそう呟くと、

ブスッ

真弓は膨れっ面をしていた。

「どうしたの?」

桜子の問いかけに、

「俺の活躍が全然ないぞ!!」

何時の間にか真弓は恭平に入れ替わっていた。

「まぁいいじゃないの、

 たまにはこういうことがあっても…」

そう言いながら桜子が恭平の肩を叩いた。



「はぁ…なんか今ひとつ燃えなかったな今回の仕事」

海岸線を駅に向かって桜子と恭平が歩いていくと、

パシャッ!!

水が跳ねる音が響いた。

「え?」

「ん?」

二人が視線をその方向へと動かすと、

『やっ』

翠の髪を垂らした人魚が岩場の上にのって手を振っていた。

「……」

無言で桜子が手を振って答えると、

♪〜っ

海の方から歌声が流れて来た。

「あら…

 へぇぇ、コレが人魚の歌声か…」

桜子は歌声に聞き入っていた。

「ほぅ…」

恭平もその声に聞き入る。

すると、

ドクン!!

恭平の心臓が大きく高鳴った。

「あっあれ?」

「どうしたの?」

ガックリと膝をついた恭平の様子に桜子が訊ねると、

「なんか、身体が変…」

胸に手を置いて恭平はそう訴えた。

「?…

 あっ、恭平っあんた髪の毛が…」

「え?、え?、

 うわっなんだこりゃぁ!!」

桜子に指摘されて恭平が自分の髪を見ると、

黒かった髪の毛が見る見る翠色に染まり始めていた。

そして更に、

ジワッ

緋袴に覆われているの脚に鱗が生え始め、

さらに左右の脚が一つにつながり始めだした。

「わったっ助け…」

足が尾鰭へと変化してきたために草履が脱げ落ちると、

ドサッ恭平はその場に倒れ込んだ。

ピチッピチッ!!

すっかり朱染めの鱗に覆われた尾鰭を叩きながら恭平が叫ぶと、

「あっ!!

 恭平?、あなたまさかあのとき人魚の血に触った?」

と桜子が訊ねると、

「まっまぁ…」

大きく張り出した鰭を叩きながら恭平が答えた。

「それだ…

 しまった、あの血には人魚の呪いが掛けられていたのか」

やや悪戯っぽく桜子が恭平に告げると、

「ちょちょっと待った、

 なんだそれ、
 
 俺は初めて聞くぞ!!」

恭平は思わず怒鳴り声を上げた。

「まぁ、いいか、

 その方が色々と虐め甲斐もあるしぃ」

桜子は妙に浮き浮きした表情でそう言うと、

「畜生!!

 結局こうなるんじゃないか!!」

恭平の絶叫が海原にこだました。



おわり