風祭文庫・巫女の館






「視聴覚教室の幽霊」



作・風祭玲


Vol.104





キンコーン

ココはどの学校にも大抵一つはある視聴覚教室。

カチャカチャ…ガラッ

鍵が開けられドアが開くと、

そこに掃除用具を持ったセーラー服姿の少女数人が立っていた。

「う゛〜っ、【噂の視聴覚教室】での掃除なんてイヤだなぁ…」

「一昨日も”出た”ってハナシよ…」

「それってホント?」

「先生から口止めされたそうだけど、大騒ぎだったんだって」

「えぇっ、じゃぁ…」

などと彼女達は口々にこの部屋で起きたとされる現象の噂をしていると、

「ほらほら、根も葉もないことを言ってないで、さっさと掃除しよ」

彼女達の後ろから聞こえてきた声に一人の少女が振り向いた。

「春香は怖くないの?」

「何言ってんのっ、ユーレーなんている分けないでしょう」

「でも…」

「さっ、入った入ったっ」

そう言いながら春香と呼ばれた少女は他の怯え気味の少女達を押し込むようにして

視聴覚教室へと入って行った。

「ほらっ、何もいないじゃない」

春香は教室の真ん中でクルリと一回転して部屋の様子を見渡すと、

シャッ

っと閉めてあったカーテンを開いた。

西に傾いた日差しが部屋の中に差し込む。

「さっさと掃除をしてしまいましょう」

春香はそう言いながら、てきぱきとイスを机の上に乗せ、

机の下に溜まっている埃を掃き出すなど作業を始めだした。

「そっそうね…」

そんな春香の様子を見て他の少女達も少しは安心したのか、

彼女に続いて次々と掃除を始めだした。

「だいたいユーレー話なんてね、

 その殆どが作り話なんだからマトモに信じちゃダメよ」

春香はしゃがみ込んで手を動かしながら注意していると、

ポーーーーン

部屋の中に奇妙な音が鳴り響いた。そして

フッ

一瞬人影らしきモノが彼女の横に立った。

「え?」

春香は顔を上げずに目を動かしてその影を見ると、

そこには白いストライプが入った制服のスカートが目に飛び込んできた。

「?」

スカートをよく見ると反対側の景色がうっすらと透き通って見える。

「ちょっとぉ、誰?…へんな悪戯しないでよ」」

春香はちょっとムッとして文句を言うが、誰からも返事が返ってこない…

「??」

そのとき

「はっ春香……まっ前…」

春香から少し離れたところで掃除をしていた少女が引きつった声を上げた。

「はぁ?」

顔を上げた春香の表情が一瞬凍り付くと、見る見る血の気が消えていった…



キャァァァァァァァァァっ

視聴覚教室から文字通り切り裂くような少女の悲鳴が上がったのは、

それから5秒後のことだった。




「また出たんだって…」

「何が?」

「ユーレーよっ、ユーレーっ」

翌日の昼休み、校内は案の定、幽霊出現の噂で持ちきりになっていた。

「ほんと?」

「これで、5回目だってハナシよ…」

「うっそぉ…」

「なんでも昨日掃除をしていた1年生がふと気配を感じて見上げたら…そこに…」

「いやーやめてっ」

「…居たの?」

「うん」

「うわぁぁぁ〜怖いわねぇ」

などと言い合っていると、その中の一人が

「ねぇ…その噂の教室…行って見ない…」

と提案した。

「え?」

「行ってみようか…」

この発言が切っ掛けとなっかは判らないが、

既にその時、視聴覚教室前では押し寄せた生徒達でまさに押すな押すなの大盛況。

「こらっ、ここに入ってはイカンといっとろーが」

「センセーちょっとだけでいいから見せてよ」

「バカモノっ、さっさと教室に戻れっ」

「ケチぃ」

そしてついには、野次馬根性丸出しの生徒と、

騒ぎを大きくしたくない教師との攻防戦へと発展していた。



「なんの騒ぎですか?」

その視聴覚教室の1階下にある応接室で大勢の人間が出す足音をきにしながら

一人の女性が上を見ながら言った。

彼女は青を基調としたスーツに腰まである長い髪を後頭部で縛っただけの姿だが、

どこか神々しい雰囲気に包まれていた。

「いやなに、どこの学校にもある騒ぎですよ」

彼女の目の前に座っている教師がその疑問に答えた。

「はぁ?」

彼女が教師のセリフの意味が判らない表情をしていると、

「ほら、良くあるでしょう学園の七不思議って奴ですよ」

「まぁ…トイレの花子さんとか言うのですか」

「あはは…そんなものですよ」

教師の乾いた笑い声に彼女の目が一瞬輝くと、

「それでしたら…」

と口を開いたところで、

ゴホンッ

隣に座っていた俺が咳払い一つした。

「姉貴…ここで商売はやらない約束だろう…」

俺は小声で横にいる姉貴に言う。

「そんなこと言ったって…」

「”卒業まであっちのことは持ち出さない”と言う約束、忘れたわけではないだろう」

と俺が言うと、姉貴は

「判ったわよ」

ちょっと膨れた顔して返事をした。

「どうかしました?」

俺と姉貴との会話に教師が疑問の表情で尋ねてきた。

「いっいや、何でもありません」

「はぁ、そうですか」

俺達は笑顔を取り繕ってそう返事をすると、教師は

「では、弟さんには明日から登校していただくとして…」

「何かご質問は?」

そう言う教師の問いかけにしばらくの静寂が流れたとき、


キャーっ

突如、女子生徒の悲鳴が上がった。

ガタン

姉貴は思わず腰を上げた。

ユラリ…

一瞬、校内の”気”が揺らぐ…

「マジで出たな…」

俺は視線を上に投げかけながら、

その”気”の揺らぎからあるモノの出現を感じ取った。

「ちょ…ちょっとすみません」

教師は腰を上げると、

ドアを開き、

「何事だ」

と声を上げながら廊下を駆けていった。

「やっぱり出たわね」

姉貴も俺と同じように上を眺めながら言う。

「決まりね」

「え?」

姉貴は俺の方に顔を向けてニッコリと微笑みながら、

「お掃除…」

と一言言った。


………

「(マズイっ)…ちっちょっと待った」

俺がすかさず口を開くと、

「あら、待ってって…

 コレ掃除しなくっちゃ、恭ちゃんの楽しい学園生活が台無しでしょう

 弟のために最高の環境を用意するのが姉である私の役目ですから、
 
 それくらいのことは当然よ。

 あっそうそう
 
 今回のお代は恭ちゃんの復学祝いと言う事で只にしてあげるわ」

と姉貴はアッケラカンとして言うが、俺には別の不安があった。

「姉貴ぃ、掃除はいいけど”落とせる”見込みはちゃんとあるのかよ」

俺は一番の気がかりを姉貴に尋ねた。

「そりゃぁやってみなくっちゃ判らないわよ」

「”やってみなくっちゃ”って、俺は”落とせる”見込みがない仕事はイヤだぞ」

すると姉貴は”まぁ”と言う顔をすると、

「何言ってんのっ、平安の昔からコレ(お化け退治)を生業としている久瀬の人間が

 そんな事でガタガタ言うんじゃないのっ」

などと強い調子で俺に言うが、

「そうは言ってもリスクは俺の方に無茶苦茶あるんじゃないか」

俺も思わず反論する。

「つべこべ言わない、早速今晩やるわよ」

そう言った姉貴の表情には仕事とは違う別の表情が浮かんでいた。

「はぁ…ようやく静かな生活に戻れると思っていたのに…

 ったくぅ…余計なことをしやがって…」

俺はがっくりと肩を落としながら、応接室の天井を恨めしく眺めていた。


あっ、紹介が遅れたけど、俺の名は久瀬恭平、姉貴は久瀬桜子と言って、

俺達、久瀬の人間は平安時代から続く陰陽師の家系で、

もっぱら”お化け退治”を専門にしている。

しかし、問題なのは一言”お化け退治”と言っても、

男と女とでは役割が違っていて、

男は”祟られ屋”と言い、

もっぱら暴れている霊を自分の体内に取り込み押さえ込む一方で、

一方、女は”落とし屋”と言って男が取り込んだ霊を安全なところで始末する。

と言うわけだ。

結果、どうしても男の方にリスクが伴ってしまい、

そのリスクから身を守るために常にきつい修行をしているわけなんだけど

その修行があけてようやく楽しい学園生活に戻れる。

とほっとした矢先のこの幽霊騒動。

まったく、ついてない…



日が落ち、丸い月がポッカリと春の夜に浮かび上がるころ、

ザッ

白衣に緋袴の巫女装束を身につけた姉貴と学生姿の俺が校内に居た。

「う〜ん」

姉貴はぐぃっと背伸びをすると、

「それじゃぁ、そろそろ始めますか…」

そう言うと、灯りのない廊下をスタスタと進み始めた。

キ……ン……

俺も姉貴の後を追いながら、感度を最大にしてヤツの気配を探査する。

ザーーーッ

今のところ感じるのはノイズ程度の低出力霊(ザコ)のみばかり

「えっと、例の視聴覚教室は…」

姉貴からの問いかけに

「そこを左に曲がった先…」

と俺は機械的な返事をする。


グ…グ・グン……

「おっと、これは…」

角を曲がり教室のドアが視界に飛び込んでくると、

俺は強力な霊波動を感じ取った。

「なるほど…大したモノね」

姉貴もしきりに感心する。

「さぁて、この世にウラミを残したヤツか、

 それとも未練がましくふらついているヤツか、

 その顔、とくと拝んでやろうじゃないの」

まるで沸騰しているヤカンの蒸気の様に、

霊気が漏れだしている視聴覚教室のドアの前に立つと、

「い〜ぃ、行くわよ」

姉貴は俺にひとこと確認すると、

カチャン

教室の鍵を開け、

ガラッ!!

っと勢いよくそのドアを開けた。

が、しかし、

ヒュボッ

それに合わせるようにして充満していた霊気が一瞬のうちに爆縮するようにして消滅した。

「なにっ…」

「チッ、逃げたか…」

姉貴は教室の中に入っていく、続いて俺も入っていった。

し〜〜ん

低出力霊(ザコ)からのノイズも途切れ、まさに完全な沈黙が部屋を支配していた。

「マジで、逃げたのかな?」

俺の問いかけに姉貴は、

「ふふん…」

と鼻で笑うと、

「上手く隠れたつもりだけど、この久瀬桜子を騙そうなんて100万年早いわよ」

そう言って懐から数枚の”札”を取り出すと気配を察知し始めた、

やがて教室内の一角を見据えると、

「そこっ」

っと叫び声を上げ、手にした”札”を投げつけた。

パァァァーン

姉貴の手から放れた”札”は等間隔に開くと同時に緑色のオーラの線が現れ、

そして、それによってそれぞれの札が結びくと

一種の結界となってその一角を囲ってしまった。


「あっ”束縛術”…まっコレ喰らってはどんな霊でも逃げたれないな」

俺が成り行きを見ていると、

『…いやぁぁぁぁぁぁ…』

叫び声と共に一人のセーラー服姿の少女が浮かび上がってきた。

「みっけ…」

姉貴は結界に束縛されたロングヘアの幽霊少女の前に立ちはだかり、

「このあたしから逃げられると思ってんの?

 さぁて、どうやって始末してあげようか」

と考える素振りをし始めた。

『…お願いです、見逃してください…』

幽霊少女は訴えかけるような表情で姉貴に懇願し始めた。

「ダメよ、この世にどういう未練があるかは知らないけど、

 死んだらさっさとこの世から退場する。それがルールよ、

 それにアナタのせいで、迷惑を被った人も沢山いるし…

 さっ、あたしがアナタを導いてあげるわ。

 貴方の名前と生きていたときのクラスを教えなさい」

そう姉貴が言うと幽霊少女はシュンとして、

『…名前は真弓……クラスは…ありません…』

とか細い声で返事をした。

「え?、ありませんって…あなたこの学校の生徒ではなかったの?」

姉貴は驚いて幽霊少女に聞き返すと、

『…実はあたし…学校に行ったことがないんです…』

「はぁ?」

『…あたし…生まれつき身体が弱くって…それで…』

そう幽霊少女が言うと、

「なるほど…生きているときに行けなかった学校に憧れて、

 それで死んでからこうして学校に来ているワケね」

『…はい』

『…あっ、驚かせてしまった生徒さんには悪いことをしたと思っています

 でも、こうして生きている人達の中にいると、

 それだけで幸せな気持ちになってしまって…』

「なぁるほどね…」

俺が幽霊少女の説明に納得していると、

「じゃっ、もぅ気が済んだんじゃないの?」

そう姉貴が訊ねると、

『………』

幽霊少女はしばらく沈黙した後、

『…判りました…成仏します。

 …ただその前に一つだけお願いがあります』

「なに?、あたしに出来る範囲で言ってね」

『…一度で良いですから…

 ココに来るみんなと同じように一緒に勉強や遊んだりしてみたいんです。

 あたし…生きているときは、ずっと病院の中だったので…

 だから…この世から去る前に、一度で良いからみんなと一緒に…』

幽霊少女からの願いを聞いた姉は、

「う〜ん」

しばらく考え込んだあげく、俺の方をチラリを見ると、

「判ったわ、あなたのその願い叶えてあげるわ」

と言った。

『…え?』

「おっおぃっ、願いを叶えるって姉貴そんなこと出来るのかよ」

俺は姉貴の耳元でそう囁くと、

姉貴はは俺の顔をじっと眺め、

ポン

と手を俺の肩に置き、

「恭平っ、コレも”祟られ屋”としての修行の一つだからね」

と言った。

「へ?」

俺が姉貴のセリフの意味を飲み込めないでいると、

「えっと、真弓さんって言ったけ…」

『…はい…』

「もぅ一度聞くけど、本当に学生生活をエンジョイ出来ればこの世に未練は無いのね」

『…は…はぁ…』

「よぉしっ、お姉ぇさんに任せなさいっ」

そう言うと胸を張った。

「姉貴…何をする気だ…」

俺は言いようもない不安に駆られていると、

「うふっ、ちょうど新しい”術”を試してみたかったのよ…」

そう言いながら姉貴は懐から新たな”札”を取り出すと、

ハッ

っと気合いを入れる声を上げた。

すると、一瞬霊気を帯びた”札”はビシッと直立し、

さらに呪文を唱え始めると、

『…キャッ…』

幽霊少女の姿が急速に崩れ”札”へと飲み込まれ消滅していく、



「ヤ……


 …バ…


 ……イ」



俺は直感的に自分の身の危険を悟ると、

その場からそっと離れ、

ドアの方へと移動していった。

そして、ドアまで来ると一目散に教室から逃げ出した。

「逃がすかぁっ」

幽霊少女の全てが”札”の中に収まったのを見届けると、

姉貴は俺の後を追いかけ始めた。

「こら恭平っ、往生際が悪いぞ」

「いやだ、この身体は俺のモノだ!!」

「お待ちっ!!」

こうして、夜の校舎の中で俺にとって命懸けの鬼ごっこが始まった。

が、しかし…

姉貴が繰り出した式神達に追いつめられ俺は屋上に通じるドアの前で包囲された。

ガチャガチャ

「くっそう…」

俺は鍵のかかったドアを前にしてなす術がなかった。

「うふふふ、もぅ逃がさないわよ…」

その声と同時に俺を包囲していた式神達の一角が開くと、

巫女装束の姉貴が姿を現した。

「うわぁぁぁぁぁ、用務員さん、警備員さん、誰でもいいから助けて…」

俺は思いっきり叫び声を上げたが、

「助けを呼んでも無駄よ、だってみんなあんたの”術”で眠むらせたじゃないの」

と呆れた声で姉貴が言う。

「しまったぁ…日が昇るまで誰も起きないんだったぁ」

俺は自分の行いを恨んだ。

「さぁっこっちにいらっしゃい」

姉貴は優しく手招きするが、

「イヤダ…」

そう言って俺は拒否する。

「大丈夫、全てをおねぇさんに任せて…ね

 痛くしないから…」

「痛くなくても、イヤなモノはイヤだ」

俺の精一杯の抵抗に、

「もぅ…」

姉貴が一瞬呆れた顔をすると、

”あっ”っと窓を指さすと、

「UFOっ」

と叫んだ。

「え?」

姉貴の指先に釣られて俺が窓を見たとき、

「スキあり」

姉貴の手を放れた”札”が俺の身体に貼りついた。

「しまったぁ…」

俺は姉貴の罠にはまったことを後悔したが、

スグに俺の身体に異変が起きた。


ハラリ…

身体に貼られた”札”がはがれ落ちると


ガクン

「えっ」

っと体中の力が急に抜け、

ググッ

視界が徐々に床に近くなりはじめた。

そして、着ているガクランが急にだぶついてくると、

フサァァァァ…

俺の頭から栗色の髪が吹き出すように伸び始めた。

「いっ…」

俺は変化していく自分の身体にどういう術が掛けられたのか必死に頭の中を検索する。

いつの間にか胸には柔らかい2つの膨らみが現れ、

さらに、日に焼けた色黒な肌は少女のような白い肌へと替わり、

手も細くなりはじめた。

そして、着ていた黒のガクランが変化していく体に合わせるようにして

赤い色のセーラー服へと変化していく…

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

シュルシュル…

すでに右半分がセーラー服に変化したとき、

「…あっ姉貴ぃ…」

俺はやっと声を出すことが出来たが、

その声色は少女のそれになっていた。

「へぇ…可愛くなっていくじゃない」

姉貴は涼しい顔で俺が変身していく様子の感想を言っている。

「…そんな…」

思わず右手でズボンの変化を止めようとしたが、

その皆無なしく、ズボンはプリーツのスカートへと変化し

靴下は脚を包み込むソックスへと変化した。

そして、上着も程なくセーラー服のそれへと替わってしまった。

やがて伸びた髪の毛の一部が三つ編みに編まれると、

シュゥゥゥゥゥ…ンンンン

俺の変身が終わった。



「恭平…じゃなかった真弓ちゃん、どう、感想は…」

姉貴が聞いてきたので、

『冗談じゃない』

俺はそう言おうとしたが、

「はい、嬉しいです」

俺の口は俺の意志とは違うことを喋った。

『なんで…』

驚いていると、

「あぁ、言い忘れたけど、恭平。

 いまアンタに掛けた術はねぇ、

 彼女・真弓ちゃんの意識に合わせて身体を作り替えた術だから、

 当然、身体の優先使用権は真弓ちゃんにあるから注意してね、

 で、悪いけど彼女がこの世に飽きるまでつきあってあげて」

と人ごとのように言う。

『なっ、おっおいっ、じゃ俺はどぅすればいいんだ』

心の中で大声を上げると、

「う〜ん、そうだねぇ…寝ているときとか気絶しているときとか、

 要するに真弓ちゃんの意識が無くなると、

 あんたがその身体を自由に操ることが出来るけど…

 まぁ、しばらくの間はそれで大人しくしていることだね」

『そんなぁ…』

「さて、真弓ちゃん」

「はい?」

「ちょっと窮屈かも知れないけど、取りあえずそれで我慢してもらって…

 明日からは恭平の替わりにこの学校に通ってね」

と言いながら姉貴は片目を瞑って微笑むと、真弓は

「はいっ、ありがとうございます」

そう言って頭を下げた。

『おっおい…』



「では転校生を紹介する、入ってきなさい」

翌日、担任の教師がそう教室の中で言うと

ガラッ

とドアが開き、

セーラー服によく手入れされた栗色のロングヘアを靡かせた一人の少女が

しずしずと入って来た。

おぉっ

教室のあちらこちらからどよめきの声が漏れ聞こえる。

「今日からキミ達と一緒に勉強することになった久瀬真弓君だ」

『くっそう、姉貴め、一夜のうちに先生達を洗脳しやがったなっ』

「久瀬真弓です…よろしくお願いします」

少女は頬を赤らめながらやや線の細い声で自己紹介するとぺこんと頭を下げた。

「転校生は男だと聞いていたけど、結構可愛い娘じゃないか」

「趣味は何かな…」

男子生徒達から漏れ聞こえてくる声に

『バカヤローっ、

 いいか俺は男だっ、お前等とは一切つき合う気はないからなっ

 …ったくぅ…おっ俺の学園生活を返せっ』

真弓の頭の中では俺は声にならない声を上げていた。



おわり