風祭文庫・バレリーナ変身の館






「レオタードレッスン」
第3話:新たなる贄


原作・りゅん(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-079





(1)

「アンドゥトワァ…」

「アンドゥトワァ…」

ある日の午後。

バレエ教室のレッスン室ではいつものようにバレリーナ達が

レオタード姿でレッスンに励んでいた。

しかし、彼女達は窓の外からの何者かの視線には気づいてはいなかった。

その視線の主は小学生と思われる一人の少年だった。

学校帰りなのか、ランドセルを背負っている。

彼の視線はレオタードに身を包んだ彼女達に吸い寄せられているかのように動くことなく、

また、喉は唾を飲み込んでいるかのようになんども上下していた。

もしも、彼の心臓の鼓動は隣に誰かがいれば、

その音が耳に入ってしまうかのように高鳴っていた。

ポン!!

とその時、何者かの手が少年の肩をつかんだ。

「!!」

「そこで何してるの?」

とっさに振り向いた少年は凍りついた。

声の主は秀男だった。

レッスン帰りか、前なのか、彼は普段着姿である。

少年の動きを読むように、彼は言った。

「逃げたら学校に知らせるよ。

 怒らないからこっちにおいで。」

あくまで穏やかな物言いだった。

それがかえって少年を観念させたのだろうか。

彼はおずおずと、秀男のあとに続いた。



(2)

バレエレッスン場の一室。

秀男と少年が向き合って座っていた。

少年は秀男の問いに素直に応じていた。

秀男の物腰が優しいお兄さんに映っていたからかもしれない。

少年の名は直貴。五年生だった。

「女の子達の中に好きな子がいるの?といっても皆中学生以上だけど。」

「そ、そういうのじゃ ないです。」

「じゃあ、バレエに興味があるの?」

「そ…それは…」

直貴は肯定とも否定ともちがう答え方をした。

すると、秀男は視線を近づけた。

「踊ってみたいのかな?……それとも……?」

秀男はそう言うと、直貴をじっと見つめた。

「そ…それ…それともって…」

いつの間にか直貴の視線が定まらなくなっていった。

「レオタード…?」

「え……!」

秀男の声に直貴の顔がぽっと染まった。

もう秀男にはごまかせなかった。

「レオタードに興味があるの?」

「…………」

「誰にも言わないよ………そうなんだね?」

「ぼ・僕…」

「よく話してくれたね。

 恥ずかしくなんかないよ。

 君くらいの男の子はみんなそういった何かに惹きつけられるんだから。」

秀男は優しく諭すように言った。

「もう今日は帰っていいよ。

 学校には黙っててあげる。」

「え?」

「良かったら今度の土曜日、僕のうちにおいで。

 見せたいものがあるんだ。」

直貴はうつむいてまっすぐ出ていった。

その後姿を見ながら秀男は思った。

「かわいい男の子だな。

 バレエに興味を持ったら輝きそうだな…」

だが、すでに秀男は”調教”されていた。

そのことが今の言葉の中に絡みつくように潜んでいるのに、

直貴は気づくはずはなかった。



(3)

マンションの一室にベルが鳴った。

秀男がドアを開けると、直貴が立っていた。

「よく来たね。お入り。」

秀男は優しく彼を迎え入れた。

ドアが閉まり、しばらくして、鍵のかかる音が廊下に響いた。

直貴はまだ緊張が解けぬ様子だった。

「楽にしてね。直貴君。」

そう言いながら秀男は少年を座らせた。

部屋の中にはバレエ関係の写真やポスターがいくつも貼られている。

「僕もバレエをやっているんだ。

 一応この間話したよね。」

「はい…」

「レオタード。興味があるんだろう?」

「は…で、でも…あれは女の人が着るものなんでしょう?…」

まだ直貴は恥ずかしげに答えた。

「そんなことないよ。

 もともとレオタードは男の人が着る物だったんだよ。
 
 セーラー服だってそうだろう?」

「そ、そうなの?」

「そうだよ。僕だって今着てるんだ。」

「ええっ?」

直貴の驚く声が部屋に響くと

スッ

秀男はシャツのボタンを外し始めた。

そして、シャツが床に落ちると、

そこには黒い長袖レオタードに包まれた秀男の上半身が現れた。

思わず直貴は息を飲んだ。

黒布は美しく秀男の体を包みこんでいた。

男とも、女ともつかぬ色香が漂っていた。

「……」

「ね。これを着ると、とても体が動かしやすいし、

 なによりも、着ていて、とっても気持ちがいいんだよ。」

明らかに直貴の表情が変わり始めた。

それを見て取った秀男はサッと再びシャツを身につけ、

黒布をその下に隠してしまった。

(もう終わりなの?)

とでも言い出しそうな直貴の目を見つめて秀男は言った。

「直貴君もレオタード、着てみない?」

「……え……?」

動揺と興奮の入り交じった声で直貴は答えた。

「着てご覧よ。僕も着てるんだ。」

「……」

「誰にも言わないよ。」

「……」

「君の体に合うレオタード、借りてきたんだ。」

秀男は袋から取り出した物を直貴の目の前にかざした。

ジュニア用の長袖レオタードだった。

色は黒。

秀男とおそろいだった。

「ぼ……ぼ…僕…」

「さあ、服を脱いで、着てごらん…」

秀男は底光りのする目で直貴をみつめながら両肩に手を乗せた。



(4)

それは直貴の目の前にあった。

今まではテレビや、遠くからしか観ることの出来なかった

レオタードが手を伸ばせば届くのだ。

「レオタード、レオタード…」

直貴の耳元で秀男がささやいた。

直貴の全身が鼓動におおわれた。

「あ、あっちで服脱いできます…」

「ここで脱ぎなよ。男同士だろう?恥ずかしがらなくていいって。」

あくまでせかすことなく、ゆっくりと、優しい口調で秀男は話した。

やがて、直貴は意を決したように服を脱ぎ始めた。

そしてパンツ1枚になった。

「どうしたの、直貴君。パンツも脱がなきゃ。」

「えっ?」

さすがに直貴はためらった。

「パンツを脱いで、まずこれを穿くんだ。」

秀男が直貴のに渡したのは黒いバレエタイツだった。

「これならおかしくないだろ?」

もちろん、秀男の「罠」だった。

直貴はタイツに足を入れ、上まで引き上げた。

その瞬間に、秀男の指がタイツ越しに直貴の股間をちょっとだけ触れた。

「あ…」

「ごめん、ごめん」

秀男は何もなかったかのようにレオタードを直貴に渡した。

レオタードだ…僕…とうとうレオタードを着るんだ…着るんだ…

直貴の両足をくぐったレオタードは彼の股間にピッタリと貼りついた。

やがて下腹部が、胸が黒布に覆われていく。

「さあ、最後に袖に腕を通して。」

細い長袖を直貴の両腕が通り抜けた。

えもいえぬ怪しい感覚が直貴を襲った。

レオタードは完全に直貴を包み込んでいた。

「鏡の前に立ってご覧。」

秀男にうながされて直貴は直立して鏡の前に立った。

「あ……」

そこには夢にまで出ていたような、

黒い長袖レオタードと、黒いバレエタイツに身をつつんだ少年(少女?)が

立ちすくんでいた。

「とっても似合ってるよ。どう?着心地は…」



(5)

「こ…これ、僕?

 レ、レオタード着ちゃってる…」

直貴の声は次第にかすれはじめていた。

「うん。

 ピッタリだよ。

 どうだい?
 
 女の子の体を包むはずのレオタードを身につけるのは」

「…なんか、変だよ…変な気持ちになってきたよぅ…」

「そう?

 …でも、もう少しレオタードを君の体にフィットさせようね」

そう言うと、秀男は直貴の体をレオタード越しに触り始めた。

肩、腕、脇の下をさするように、もむように優しく触れた。

その度に直貴は脈打つように反応した。

「あ、ああ…」

秀男の指は直貴の胸をゆっくりと這い、やがて両乳首に近づいていった。

「あれえ、乳首が大きく固くなってきたよ。」

「ああ…あ…く…くすぐったいよぅ…」

「くすぐったい?

 大丈夫。

 だんだん気持ちがよくなってくるから」

直貴は今までに味わったことの無い快感に覆われ始めた。

レオタードの上から触られるのがこれほどのあやしい快感だとは思わなかった。

直貴は立っていられず、膝をつき、やがて床に転がった。

はたで見ていると、兄が小さな弟か妹をくすぐっているようにしか見えない。

直貴から発せられる喘ぎ声をのぞいては…

レオタード姿の少年は床の上で悶えながら、股間の膨らみを大きくしていった。

「へ、変だよ……おかしいよ…た…助け……」

その瞬間、マンションの一室に男の子の叫び声が響いた。

しかし、厚いドアの外の廊下にまではそれは届くことはなかった。

初めて経験する快感にむせぶ直貴を秀男は妖しく微笑みながら見ていた。



(6)

直貴は床に横たわったまま、朦朧としていた。

男としての快感をレオタードによって目覚めさせられてしまった彼はなおもその余韻に浸っていた。

秀男はそんな直貴をじっと見つめていた。

「どうだい、とっても気持ちよかったろう?直貴君…」

「はぁ……はぁ…」

「僕は先生に無理矢理こういう格好にさせられて、

 レオタードが好きになったんだよ。

 とっても恥ずかしいことを沢山させられたけどね。」

「…」

「でも、君は違う。とても気持ちの良いことをして、

 そしてレオタードの虜になっていくんだ。

 そうすればきっと僕よりも素晴らしいバレリーナになれるよ。」

「…」

「さあ、今度は君の番だよ。」

「え…?」

「君の手で、お兄さんをレオタード1枚にしてごらん。」

「え…いい…の?」

秀男は無言で微笑んだ。

直貴の胸の奥に秘められていた何かが彼の手を動かし始めたかのようだった。

直貴の指が秀男のシャツのボタンを外し始めた。

シャツの中に隠された、もう一人のレオタードをすこしづつ露わにしていった。

秀男はされるがままにふるまった。

やがて直貴の手によって秀男も黒の長袖レオタード1枚にされた。

「さあ、僕を直貴君の好きにしていいよ。」

「お兄さん……」

やがて、直貴は秀男にポーズを取るように命じた。

言われるままに、秀男は体を仰け反り、

大の字になり、

後ろ手をくむ姿勢になったりした。

黒い長袖レオタードに包まれた青年は直貴の思うがままになった。

「お兄さん…ぼ…僕…へ…もっと変に…なっちゃいそうだよぉ…」

その瞬間、2度目の叫び声が上がった。

直貴はさらに快楽の底に沈んでいくかのようだった。

今度も彼は床に横たわっていたが、

両腕は後ろ手にリボンで結ばれ、目隠しがされていた。

レオタード姿のままで。秀男はゆっくりと、妖しく訊ねた。

「直貴君、この後レオタードを脱いで、家に帰ったら、

 おうちの人に何て言えばいいのかな?」

「……ば…バレエを…習いに行かせて……ください…」

「よく出来ました。

 じゃあ、これからご褒美だ。」

自分の考えていたとおりの返事をした直貴を秀男は舐めるような視線でそう言うと、

そっと直貴の体に触れた。



おわり