風祭文庫・バレリーナ変身の館






「レオタードレッスン」
第2話:悪魔の晩餐


原作・りゅん(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-078





…薄暗い地下室。

天井からは2本のロープが降り、

その先には空中ブランコのように棒が横に吊され、

そして両端には左右の手首が革ひもでくくりつけられていた。

そこには一人の少年が立った状態で、大の字に磔にされていたのだった。

彼の両足は大きく開かされ、

そして、それぞれの足首に重石がつながれていた。

少年は首をだらりと下に向け静かに眠っていた。

そう、彼は眠っているうちにここに連れてこられてた

というのが妥当かもしれない。

彼の姿は…

「あの時」と同じシャツとジーンズ、

まくられた袖と開いた胸元からは

黒の長袖レオタードが見えていた。

あれから何日すぎたろうか…



ガチャン!!

部屋のドアが開く音がした。

そして、それに気づいたのか、

「んん…」

と、少年の頭がかすかに動いた。

「秀男君、目が覚めた?」

あの先生の声だった。

「先生!?」

少年は顔を上げると声がした方に顔を向けた。

薄暗い灯りに人の姿が浮かび上がった。

「よく眠っていたわね。ふふ。」

「こ、これは…」

「どう?磔での寝心地は?

 さあ、レッスンの仕上げの時間よ。」

「え…?」

「貴方は今日まで、プリマになるためのレッスンを積んできたわ。

 今日はその仕上げ。」

「仕上げって…」

「女の子の心になりきるレッスンよ。

 ……さぁお入りなさい。」

彼女の呼び声と共にドアが開き、一人の男が入ってきた。

「今夜はこの方と二人で過ごすのよ。」

そう彼女は紹介するが、

しかし、その時、秀男はすぐに状況が把握できなかった。

すると男が口を開いた。

「秀男君だね。

 先生から聞いていると思うけど、

 これからここで僕は君を自由にしてもいいって

 許可を先生から頂いたんだ。

 よろしく。」

「……!?」

秀男はようやく事態を悟った。

「先生!」

「彼は貴方の熱心なファンなの。

 発表会にも欠かさず来てくれたし、

 練習もこっそり見に来てたのよ。

 秀男君はこれから彼に女の子にしてもらうのよ。

 じゃあね。あとはごゆっくり。」

バタン!

そう言い残して女性が部屋から去ると、

二人きりになった地下室にしばらく沈黙がただよった。

カチッ!!

秀男の頭上に明かりがともされた。

パッ!!

薄暗い部屋の中に浮かび上がった秀男の姿は

舞台の上で孤独に舞う白鳥姫のようだった。

男はゆっくりと秀男に近づくと、目の前に立ち止まった。

「待っていたよ、この時を。」

その言葉を聞いたとき秀男は全身が凍り付いたようになった。

「ぼ・僕を…どうするんですか…!?」

「……」

男は何も答えず秀男の全身をなめ回すように視線を巡らせた。

それは秀男の着ている服を素通りし、肌にからみつくかのようだった

「君は本当に素晴らしいバレリーナだよ。

 君こそプリマになるにふさわしい人だ。

 私の手でそのお手伝いが出来るなんて、いまだに信じられないよ。」

と男は秀男に告げた。

「ま…待ってくださ…」

「さあ、まず、その服を脱ごう。」

そう言いながら男は悪魔・ロッドバルトを彷彿させるかのごとく

秀男のシャツに手を掛けた。

「プレゼントの包みをほどく様な気分だね…

 女の子は男にこうやって脱がされていくんだよ。」

ニヤッっと笑う悪魔の手がボタンを一つ一つはずしていく。

「うっ!くっ!!」

秀男は必死に悪魔の手から逃れようとするが、

しかしそれは無駄な行為だった。

ボタンは全て外され、裾が引き抜かれた。

「さあ、この先は鋏を使わないと、手をほどくわけにいかないものね。」

悪魔は秀男にそう告げると、

一本の鋏を取り出すなりシャツの袖を袖口に向かって切り進んでいく。

シャッシャッ!!

やがて白いシャツはボロ布となって秀男の体からずり落ちていった。

彼の上半身は黒の長袖レオタード一枚になった。

「ああ…」

見られたくないモノを見られた恥ずかしさからか秀男は顔を伏せる。

「素敵な体だね。

 やはり本物のバレリーナはちがう。

 レオタードがとても似合ってるよ。」

と言う悪魔の囁きに秀男は胸がドキッとするのを感じた。

先生に何度この言葉を投げつけられただろうか。

彼は確実に調教されつつあったのだ。

「股間は苦しくない?」

悪魔の声に

「な…何を言ってるんですか!」

そう秀男は言い返したが、

「苦しくなったら言ってね。

 そしたらジーンズも脱がせてあげるから。」

秀男の心を見抜くような言葉だった。

黒の長袖レオタードは大の字になった秀男の腕、肩、脇の下、胸、腹、背中に

ピッタリと貼りついていた。

スコープネックの襟は秀男の鎖骨とその回りを美しく見せている。

その反面、彼の乳首は黒布に完全に覆われながら、

かつそのシルエットをくっきりと浮き立たせていた。

が、それはいつもの先生のレオタードとは少し違うように秀男には思えた。

すると悪魔は秀男を見ながら、

「ぴったりだね。僕のレオタード。」

と告げた。

その言葉を聞いた秀男は絶句した。

今、自分の体を包んでいる黒布が、目の前の男の物であったとは。

それを知った瞬間、激しい嫌悪感と屈辱の思いがこみ上げてきた。

「な…なぜ、なぜ!?」

「僕の願望がかなったのさ。

 何度も夢想したよ。

 僕のレオタードを着た君の姿を。

 思っていた通り、いや、それ以上さ。

 君の美しい体を僕のレオタードが包み込んでいるんだから。」

もはや秀男は悪魔にとらわれた白鳥同然だった。

「や…やめて、脱がせてください…!」

そう叫びながら秀男は懇願したが、

「秀男君、うそをついちゃいけないよ。

 本当は気持ちがいいくせに。」

「ち…ちが…」

そう言いかけたところで悪魔は秀男の股間をジーンズ越しに触れた。

「こんなに固くなってる。体は正直だね。」

「ちがう…」

必死に否定する秀男の背後に悪魔が回った。

彼の息吹が秀男の背に当たった。

「さぁ…ジーンズも脱がせてあげる。」

悪魔の手が腰の後ろから両手が回り込み、ベルトに取り付いた。

「後ろから脱がされるのっていいだろう?」

「や…やめてください…」

抵抗も空しくベルトが外されると、ファスナーが下ろされた。

ジーンズも股間が見える位置まで引き下ろされた。

そこには秀男の一物がパンパンに黒布を張り上げているさまが丸見えになっていた。

「ああ…」

秀男は頬を赤く染めた顔をそむけた。

「体は正直だね。

 気持ちが良くてたまらないって言っているじゃないか。

 だめだよ、ウソついちゃ。」

悪魔はそう言うと、背後から秀男の上半身をレオタード越しにまさぐり始めた。

「あ…あああ…」

磔にされたレオタード姿の踊り手は悪魔の指に反応するように体をよじらせた。

レオタードに染み込んだ「男」によって

どろどろにされていくような快感に絡め取られるように

秀男は何度ものけぞりながら喘いだ。

それがさらに悪魔を興奮させていった。

秀男の体は汗にまみれていった。

それはレオタードにシミを作り、やがて全面に染み込んでいった。

「ああ…あああ…はう…ううん……ううう」

「可愛らしいな、秀男君。

 声は女の子と同じだよ…」

悪魔がそう囁くと濡れたレオタードの股間がさらに別な何かで濡れ始めた。

絶頂に達するまであとほんのわずかだった。



ギィ…

薄暗い地下室でレオタード姿の白鳥姫が磔にされた姿でたたずんでいた。

その上気した顔はこれまでにない快感と恥ずかしさにさいなまれ、

震えと、荒れた呼吸が絶え間なく黒布を怪しく光らせていた。

「僕の手で3回も果てるなんて…うれしいよ。

 秀男君。

 見た目はきゃしゃだけど、厳しいレッスンに耐えて鍛えた体なんだね。

 でも、どんなに鍛えても、快楽には抗えないんだよ。」

悪魔はそう秀男に囁くが、

「はあ…は……」

もはや秀男には悪魔の囁きに口答えする気力は残ってはいなかった。

「これで、男の子としての快感は味わい尽くしたね。

 これからは女の子に生まれ変わる為の快感を教えてあげるよ。

 秀男ちゃん。」

「え……?」

悪魔の声に秀男は汗まみれの顔をあげた。

「もうジーンズも要らないね。」

男は再び鋏を入れると、両サイドを切り抜いていった。

やがてジーンズもボロ布となって秀男の足から剥がれ落ちた。

「眠る前にシャワーを浴びたとのことだけど、念のためにね…」

見ると、男は手に手術用の薄いゴム手袋をはめていた。

秀男にもこれが何を意味するのかが分かった。

「やめて…やめてください…お願いだから…」

顔を真っ青にして秀男は懇願したが、

「君はもうすでに負けているんだよ。

 快楽の誘惑に。
 
 先生に絡め取られて、調教されて、そして僕の手に落ちたんだよ。

 もぅ元に戻れないところまでね。」

悪魔は秀男にそう告げた。

「あっ」

その時秀男は白鳥にされた姫と同じように悪魔の手中に完全に堕ちていた。

手足さえ自由ならば簡単に引き裂いてしまえるような薄い薄い黒布が

蜘蛛の糸のように秀男にからみつき自由を奪っていた。

さらにその濡れ具合、汚れ具合が秀男の心の奥底の姿を現していた。

「僕のプリマ…」

悪魔は秀男に近づくと口づけをした。

「んん…」

遠目には短髪の踊り子が唇を奪われているようにしか見えなかった。

しかし、悪魔の手が秀男の股間に迫り、股布の中に潜り込んだ。

すると悪魔は秀男の手足を縛っていた革ひもをほどいた。

その途端、秀男は泥人形のように崩れ落ちた。

今まで経験したことのない快感に押しつぶされたかのようだった。

目はうつろに開いたまま天井を見上げていた。

悪魔は秀男を抱き上げると、

部屋のすみにあるベッドへと運び、あおむけに横たえた。

「夜はまだこれからだよ。

 さぁ、これからたっぷりかわいがってあげる。

 もちろんレオタードは着たままだよ…」

まるでこれから晩餐を楽しむかのような悪魔の笑みが秀男の視界いっぱいに広がった。



おわり