風祭文庫・バレリーナ変身の館






「覗きの代償」



作・風祭玲

Vol.734





ポローン…

「はいっ」

アンっ

ドゥっ

トワァっ

レッスン場流れるピアノの伴奏に合わせて、

シニョンに髪を結い上げ、

レオタードを身に纏った少女達が一斉に身体を動かしはじめる。

アンっ

ドゥっ

トワァっ

アンっ

ドゥっ

トワァっ

少女達はレッスンは念入りにそして丁寧に小一時間近く続き、

「はいっ

 休憩します」

と休憩を告げる声が上がったときは、

みな息が上がり、

身につけていたレオタードはどれも吹き出した汗で

黒い染みを作っていたのであった。




念入りな基礎レッスンが終わったのち、

一人の少女がレッスン室の窓辺に向かうと、

カラカラッ

風抜き用にわずかに開けていた窓を大きく開け、

「ふぅ…」

と一息つきながら吹き込んでくる風に顔をさらす。

すると、

「どうしたんですか?

 部長。

 浮かない顔をして」

タオルで汗を拭きつつ別の少女が傍話しかけてくると、

「あぁ、涼しい…」

「ほんとう…」

と他の部員達も次々と窓際に集まり、

レッスンで火照った身体を冷やしはじめた。

「みんなぁ、

 涼むのはいいけど、
 
 身体を冷やさないでね」

そんな部員達にバレエ部部長・桑原詩織は注意をすると、

「はーぃ」

と部員達は口を揃え一斉に返事した。

その声を聞きながら詩織は、

さっき声を掛けてきた少女を見ると、

「大丈夫、

 なんでもないわ」

と返事をする。



「はぁはぁ

 はぁはぁ」

丁度その頃、

彼女たちが汗を流すレッスン室を見下ろす位置にある階段の踊り場で、

制服姿の一人の少年が大きく膨らんだ股間を幾度もさすりながら荒い息を吐いていた。

「はぁはぁ

 はぁはぁ

 あぁ…いいですよぉ

 その位置に立っていてください。

 ぼっ僕…

 もぅスグ、イってしまいそうです。

 しっ詩織さん…」

少年は手を小刻みに動かしながら窓辺に佇む少女の名を叫び、

「ぼっ僕…

 あなたのことが…

 あっあっ
 
 あぁぁぁ…」

臨界点に達しようとしている己の肉棒をさらに激しく諌めた。

そして、射精に備えたとき、

「キャッ!

 ノゾキぃ!!」

突然、少女達の悲鳴が下より響くと、

「え!」

声を掛けられたことに驚いてか、

少年は慌てて下を見る。

すると、

バレエレッスン上から複数の女子達が自分の方を指さし、

騒いでいる姿が目に入ってきた。

「やばっ

 見つかった!」

その光景に少年は股間の膨らみもそのままに

逃げ出すようにして駆けだすと姿を消してしまう。



「え?

 なになに?
 
 また出たの?
 
 あのノゾキ魔っ」

窓際に並んで悲鳴を上げる部員達とは対照的に

バレエ部副部長の塚原南はキョロキョロしていると、

「まったく、油断も隙もないわね」

あきれ顔の詩織はそう言うと、

「本当に、

 いつか捕まえてとっちめてやりましょう」

と南は鼻息荒くまくし立てる。

だが、

「そうねぇ…」

なぜか詩織はは同調せずに笑みを浮かべると、

「ねぇ…

 ちょっといいかしら」

南にそう話しかけてきた。



「お前っ

 またバレエ部をのぞきに行ったのか?」

「違いますって」

「悲鳴が聞こえたぞ」

「そう言うワリには

 なにチンポおっ勃てているんだよ」

「だから、ちっちがいますって」

「あんまり露骨にやっていると、

 とっつかまって突き出されるからな」

何食わぬ顔をして写真部に戻ってきた宮沢学を見つけるや否や

次々と先輩達が注意をはじめるが、

だが、当の学は頑として覗きをしていたことを認めようとはしなかった。

こうしてその日が終わり、

そして、

「おーぃ、学っ

 後始末よろしくな」

の声と共に先輩達が皆帰宅していくと、

「はぁ…」

1人部室に取り残された形になってしまった学は大きくため息をつき、

「はぁ…桑原さんって、

 色っぽかったなぁ…」

とレッスン室の窓際で

憂鬱そうにもたれ掛かっていた詩織のことを思い出していた。

そして、

ムクリ…

再び股間を膨らませると、

「そうだ」

学の頭にある考えが浮かんだ。



「えぇ?

 部長っ
 
 マジですか?」

詩織よりあることを告げられた南は驚いた声を上げると、

「ふふっ

 懲らしめるより、
 
 こっちの方が楽しくない?」

と悪戯っぽく詩織は笑う。

「でっでも…」

そんな詩織を南は不安そうな顔で見つめると、

「大丈夫だってぇ

 科学部から面白い物を提供して貰ったから

 それを使わせて貰うわ、

 ふふっ

 実際に目で見たかったのよ、

 男が女の子になるところってね」

と詩織は言うと、

「そんなこと…

 本当に出来るのですか?」

詩織に告げられた言葉が信じられない南は納得をしないようだった。

しかし、

「出来るのよっ

 それが…」

そんな南にダメを押すようにして詩織は告げ、

そして、

「ねぇ…

 痛んで使わなくなったチュチュとトゥシューズがあったわよね?

 ちょっと、それを出してきて」

と詩織は南に指示を出した。



カチャッ!

「誰もいませんよねぇ」

その日の夕方。

すでに灯りが消され、

薄暗くなっているバレエ部の部室のドアが

その声と共に静に開いた。

そして、

「誰もいない…」

人の気配を察するようにして、

学は部室に入り込むと、

スゥゥゥゥ…

その中にこもっている空気を思いっきり吸い込んだ。

「はぁ…

 これがバレエに青春を燃やしている少女達の匂いかぁ

 あぁなんて良い匂いだ…」

股間の膨らみをさらに増しながら学は

部屋に籠もる匂いについて感想を言うと、

「へへっ

 じゃぁ始めますか、

 誰かのレオタードがあればいいんだけど」

と呟きつつ

「えぇーと、

 僕のアイドル、

 桑原詩織さんのロッカーは…」

と学はさっき覗いていたときに窓際に居た詩織のロッカーを探し始めた。

そして、

「くふふふ…

 大丈夫大丈夫、

 詩織さんのロッカーはちゃぁんと把握しているから、

 これくらいの暗さでもバッチりだよ」

と既に裕香のロッカー位置を把握していたのか、

学は含み笑いをしながら狭い部室の中を巧みに動き回り、

程なくして”桑原詩織”と名前が入っているロッカーの前に立った。

「ふふふっ

 詩織さん。

 君の烈々なファンである僕がこの扉を開けることを許してね」

と言いつつ、学は腕を伸ばすと、

ガチャッ!

閉じられている扉を開ける。

すると、

キラッ!

なんとロッカーの中に淡い輝きを放ちながら、

一着のチュチュがハンガーに掛かっている様子が学の目に飛び込んできた。

「うそっ

 これってまさか、
 
 ちっチュチュじゃないかっ
 
 詩織さんのですか?
 
 そんな…
 
 なんで、チュチュがロッカーに入って…
 
 うぉっ、
 
 しかもトゥシューズまでも
 
 でも、なんで?
 
 置き忘れたのかな?」

ゆらりと揺れる純白のクラシックチュチュと

ロッカーの壁に掛かるサテンのトゥシューズを前にして、

学は思わず恐れおののくが、

だが、

ニタァ…

瞬く間に学は満面の笑みを浮かべると、

「へへっ

 ここに置いてあると言うことは、

 誰が着ても良いんだよね。

 誰が着ても…
 
 なら、当然僕が着ても…」

と無茶苦茶な論理展開をすると、

徐にチュチュ取り出すと、

ギュッ!

と抱きしめた。

ガサッ!

抱きしめるのと同時にチュールのスカートが音を上げ、

甘い匂いが学の鼻腔をクスグリ始める。

「あぁ、詩織さんが僕に抱かれている」

チュチュ水の感触を感じつつ

学は思わず悦に浸るが、

「あっそうだ、

 やっぱり本当に詩織ちゃんのか確認をしないと…」

と言いながら学はチュチュに持ち主について確認し始める。

すると、

”オデット・桑原詩織”

と書かれたタグが貼り付けられているのを見つけるや否や、

「うふっ、

 やっぱり、詩織さんのだ…すげー」

学は歓喜の声を上げ、

見る見るえびす顔へとなっていった。



こうして、憧れの詩織のチュチュをまんまとせしめた学であったが、

「そ・う・だ…」

何を思ったか、いそいそと制服を脱ぎ去ると、

手にしている詩織のチュチュに足を通しはじめるが、

「あっ、

 タイツ!!
 
 肝心のを忘れていた!」

と白タイツが無いことに気がつくと、

慌ててロッカーを物色し始める。

そして、

「あったぁ!

 詩織さんのバレエタイツ!」

と言いながら汗で湿っている白いタイツを見つけ出すと、

鼻息荒くそのタイツを穿き、

ザザザザ…

シュールの音を響かせながら学はチュチュを身につけていく、

そして最後に、

キュッ!

軽い音を立てながら学は己の脚にトゥシューズを履くと、、

「うわぁぁ

 詩織さんが着ていたものがみんな僕に…」

と少々くたびれがきている物の

純白学のチュチュが学の胸からウェストを覆い、

腰回りからはチュールのスカートが花が咲くように伸びている様子を

眺めつつその感覚に感じ入っていた。

そして、

ムクリ!

チュールのスカートの上から、

股間で痛いほどに勃起している自分のペニスの所へと手を移動させると、

ピタッ

っと股を閉じ、

ギュッ

ギュッ

と扱くように手を押し始める。

「あはっ

 いいっ
 
 詩織さんのチュチュが僕を…
 
 あぁ
 
 詩織さん。
 
 詩織さん。
 
 詩織さん。
 
 ぼっ僕…
 
 もぅ限界です。
 
 出していいですか?
 
 出しちゃっていいですか?」

バレリーナの証であるチュチュに包まれる幸福感に浸りながら

学は爆発の時を迎える。

そして、

「あぁっ

 でっ出るぅぅぅ」

デコレーションが飾る胸を揉みつつ、

股間を扱きながら学がそう訴えた瞬間。

スッ

影から二本の手が伸びると、

「うぐっ」

学は突然背後から口をふさがれ、

何かを嗅がされてた。

「うっあっ

 うぐぐ…」

次第に意識が遠のくを感じながら学は倒れてしまうと、

「ふぅ、

 間一髪ね」

と安堵する声が静かに響き渡った。



「うっ」

意識を失っていた学が目を覚ますと、

ザザッ

彼はいつの間にかレッスン室に寝かされていた。

「ここは…」

起きあがりながら天井を見上げると、

「目がさめたかしら、

 学君」

と言う声が響く。

「え?」

その声に学が振り向くと、

「ふふっ」

「うふふふっ」

学が寝かされた場所から少し離れたところで、

バレエ部のレオタード姿の桑原詩織の姿があった。

「え?

 あっ
 
 こっこれは!」

憧れの詩織の姿に

学は困惑しながら事情を説明しようとすると、

「え?」

その口から出てきたハイトーンの声に学は驚き思わず口を噤んだ。

そしてさらに自分の身体を見たとき、

「うそっ」

学の口からこの言葉が漏れる。

「うふっ

 うふふふ…
 
 どうしたの?
 
 さぁ、バレエのレッスンをしましょう。
 
 ここにいるのはバレエ部員だけよ」

とレオタード姿の詩織はそう言いながら学に迫ると、

「うふっ

 チュチュの着心地は如何?
 
 可愛いバレリーナさん?」

と尋ねながら腰を下ろし、

チュチュを突き上げている学の乳房を指で押した。

「きゃっ!」

詩織の行動に学は悲鳴を上げて胸を隠すと、

「可愛い…」

そんな学の姿を見て詩織はニコリと笑い、

そして、

ススーッ

っと学の胸から下に向けて指先で撫でる。

「あっ、

 いやっ」

指先の動きに合わせて体中が痺れてくる感覚に学は思わず身を捩ると、

「君は女の子になったのよ」

と香織は囁き、

チュールのスカートを捲り上げると、

閉じている学の股を自分の手で開かせた。

「そっそんなぁ!」

気を失う前には確かに膨らみを作っていた肉棒の影はなく、

いま学の目に映るのは膨らみが消えたツンが目に入る…

「そんな…

 おっ女の子に…」

とても信じることが出来ない事実に学は困惑すると、

「ふふっ、

 これまでオイタをしてきた罰よ、

 あなたはバレエ部員。

 写真部には退部届を出しけ上げるわ」

と詩織が囁く。

「え?」

その言葉に学は驚き、

詩織を見ると、

「ふふっ

 楽しくなりそうね

 貴方のような人を無理矢理バレリーナに仕立ててみたかったのよ、

 あぁなんかゾクゾクしちゃう」

と詩織は目を輝かせながら言い、

「さぁ、早くバレリーナになれるように、

 特訓開始よぉ

 ふふっ、

 心もじっくりとバレリーナにして上げるから

 覚悟しなさいよ
 
 ねっ」

そう声を上げると、

詩織は後ろを見る。

すると、

「まさか…

 本当に男が女の子になって仕舞うだなんて…」

自分の目の前で起きた事実を信じるコトが出来ない南が呆然と立っていて、

それを見ながら、

「あら、まだ信じられないの?

 無理もないか…

 そうだ、

 ねぇ、この薬って女の子を男の子にすることが出来るのよ?

 塚原さん…使ってみる?

 今度の学園祭で上演する白鳥の湖で王子役が居ないのよ」

と詩織はそう言うと、

ゆっくりと立ち上がった。



そして、迎えた秋、

毎年恒例となっているバレエ部の発表会では、

逞しい肉体を持つ王子が誇らしげに舞い、

その傍らでは白チュチュに身を包んだ白鳥姫が

その魅惑的な肉体を大きく開花させていたのであった。



おわり