風祭文庫・バレリーナ変身の館






「バレエ少女」
(隆信編)



作・風祭玲

Vol.615





パンパンパン!!

「はいっ、

 そこで回って!!」

パンパン!!

「そっ遅い!!」

「もっと動いて!!」

「見えないよ、見えないよ」

ここはとあるバレエ団のレッスン室。

間近に迫った公演に団員達のレッスンは厳しさを増し、

同時に稽古にこもる緊張感も張りつめていく。

「はいっ、

 じゃっもう一回行ってみよう」

短い休憩ののち、

西に傾いた陽が照らし出す窓を背景にして、

振り付け師が声を張り上げると、

ザッ

散っていた団員達は集合し、

タッタタタン

タンタン!

タタン!

幾度も繰り返し聞かれている音楽に合わせ、

団員がそれぞれのポジションで舞い始めるが、

しかし、友部隆信には未だ自分が踊るべきポジションはなかった。

そして、

「くっ…

 西脇の奴…」

真ん中でバレリーナと共に舞う西脇健二を忌々しく見つめると、

「ふんっ

 さっさと役を降ろされればいいんだよ」

と陰口を叩く。

すると、それから程なくして、

「止めて!」

フッ!

突然、振り付け師の声が響き渡るのと同時に

流れていた音楽が止まった。

そして、間髪入れずに、

「違ぁ〜う、

 西脇クン、そこはこう」

椅子に座り流れを見ていた振り付け師が立ち上がると

バレリーナを持ち上げていた西脇健二を指さし、

大声を張り上げながら自分の体を使って振りを表現する。

その声に健二は担ぎ上げていたバレリーナを降ろし、

今度はバレリーナ抜きで指示された舞を踊ってみせるが、

「違う

 違う…

 こう…」

即座に彼の動きは否定され、

再び振り付け師が手本を見せて見るが、

健二の演技は彼女を納得させることができなかった。

やがて、

「もぅいいっ

 西脇さん、外れて…

 じゃぁ友部さん、替わりに入って」

振り付け師は健二の交代を宣言すると、

「え?(やった)」

予想よりも早く回ってきた自分の出番に隆信はほくそ笑み、

タオルを取り不機嫌そうに歩いてくる健二に向かって、

「(ざまあみろ)」

と心の中で叫びながら入れ替わった。

ところが、その翌日、

「ダメダメダメ!!!」

健二に代わってメンバーに入った隆信も、

振り付け師から怒鳴り飛ばされると、

「あぁ、君、もぅいい…

 ちょっと、

 そこの君っ
 
 君が今度やってみて」

とその隆信自身も振り付け師から失格の烙印を押されると、

他の者と交代させられてしまったのであった。



カチャッ!

「くっそう!」

交代させられ、レッスン室から出た途端、

隆信はその悔しさをぶつけるようにして

持っていたタオルを廊下の壁へとたたきつける。

そして、

「なにが、ダメダメダメだ!

 お前の好き嫌いでやるんじゃないよ」

と振り付け師の悪口を言うと、

「あぁっ、もうムカついた。
 
 今日は帰ろう!!」

その言葉を残して隆信は更衣室へと向かって行く。



「ったくぅ…」

隆信には自信があった。

世界で活躍するバレリーナを母親に持ち、

また、父親も映画監督として高い評価を得ており、

そのような家庭環境の中で隆信はバレエダンサーとして育ち、

行く行くは母親が設立したこのバレエ団を率いるつもりであった。

しかし、2年前、

このバレエ団に入ってきた西脇健二によって、

隆信の野望は頓挫してしまったのであった。

入団した当初はそれこそ隆信の足下にも及ばなかったのに、

それがメキメキと頭角を現し、

今度の公演では隆信を差し置いて役を得てしまったのであった。



「ちっ」

あの時の悔しさを思い出し隆信は舌打ちをしたとき、



ポロン…

行く手より柔らかな音色のピアノの音が響き渡り、

程なくして小さ目のレッスン室が目に入ってくる。

「ガキ共のクラスか…」

そこでは小学生くらいの少女達が可愛らしいレオタード姿で

仲良く並びバレエの基礎レッスンをしていた。

教師の手拍子に合わせて動く少女達を隆信は横目で眺めつつ、

「全く、女はいいよなぁ…

 お稽古ごとでバレエを習えるんだから…」

と母親から特訓をさせられていた小学校時代を思い返す。

そして、

「はぁ…

 俺も女だったらどんなに気が楽か」

と呟きながら、

幼児クラスの隣にある更衣室のドアを開けた途端、

パキン!

なにか木の枝を折るような音が鳴り響いた。

「ん?

 気のせい?」

響き渡ったその音に隆信は大して注意を払わず、

そのまま更衣室へと入って行くと、

ガチャッ!

自分のロッカーを開けて着替え始めたとき、

ファサッ…

淡いピンク色をしたある物が隆信の足下に舞い降りた。

「ん?

 なんだ?」

視界に入ったそれに気づいた隆信が手に取ると、

「これは…

 レオタードじゃないか」

と隆信は驚きの声を上げる。

サイズは大人でも着れるくらい大振りだが、

しかし、そのデコレーションは幼児用を思わせるようなフリルがあしらわれ

そのサイズと明らかにミスマッチを起こしていた。

「だっ誰かの忘れ物か…?」

レオタードを手にしながらコレがどこから押してきたのか探すが、

しかし、隆信の周囲にはこのレオタードが落ちてきそうな心当たりはなく、

また、更衣室も男子用のためにレオタードが存在すること自体あり得なかった。

「うーん、誰のだ?」

困惑しながらも隆信はついそのレオタードの匂いを嗅いでしまうと、

「あっ

 なにか…

 いい香り…」

レオタードから漂う微かな香りが隆信の鼻腔を心地よく刺激し、

思わずその快感に浸ってしまう。

そして、

「あぁ…

 なんだろう…
 
 これを着てみたいような…」

ムクムクとわき上がってきたレオタードを着用したくなる誘惑に駆られ、

更衣室に自分以外誰もいないことを確認すると、

スッ

隆信は着ていたシャツを脱ぎ捨て、

男性用のタイツが覆う足をレオタードに通した。

そして、レオタードを腰まで引き上げたとき、

キュッ!

隆信の腰回りがレオタードによって締め付けられた。

「あっ」

男のタイツだけでは得られない締め付け感に、

「おっ女ってこんな感じなのか…」

と隆信は女性が毎日このような感覚の中で踊っていることに、

驚くのと同時に羨ましくも感じてしまった。

その中、隆信の手がさらにレオタードを上へと引き上げていくと、

ピチッ!

レオタードは隆信のウェスト・胸回りを締め付けていき、

「はぁはぁ

 はぁはぁ

 気持ちいい…」

締め付ける快感に揉まれながら隆信が最後に袖を腕に通すと

ギュッ!

身体全体が引き締まった。

「(ビクッ!)

 あぁんっ!!」

レオタードの光沢が輝く身体を抱きしめながら、

隆信は身体の中を突き抜ける快感に酔いしれる。

そして、

「はぁはぁ

 はぁはぁ

 いっいいよぉ…
 
 凄くいいよ」

可愛くフリルがあしらわれたピンク色のレオタードを身につけた隆信は

その場に崩れるようにして座り込んでしまうと、

モリッ!

その股間からは固くなってしまった隆信の男性自身が

まるでレオタードの締め付けに抵抗するかのように下から持ち上げる。

そして、レオタードの上から隆信がその男性自身をさすっていると、

「うっ!」

思わず射精しそうになってしまった。

しかし、

「だっダメっ

 そんなことをしてはダメ!」

我に返った隆信は慌てて手を除けるが、

そんな隆信を包み込むレオタードの刺激はさらに責め立てた。

すると、

スッ

そんな隆信の前に人影が降り立ち、

『あら、あなた、

 そんなところで何をしているの』

と声を掛けた。

「え?」

その声に隆信は顔を上げると、

彼の前には白いタイツにレオタードを来た女性が立ち、

優しく微笑みを浮かべていた。

「あっあなたは…」

女性に向かって隆信は尋ねるが、

『あなた…

 何しに来たの?』

と隆信の質問には答えずに女性は逆に尋ねてきた。

すると、

「はぁはぁ

 はぁはぁ
 
 あぁ…
 
 あっあたし…
 
 あたし…バレエを習いに来たの…」

女性の目を見つめながら、

隆信はその言葉を口にすると、

キュッ!

突然、隆信の腰回りが絞られるように細くなり、

また同時に胸回りが膨らむと、

ムリッ!!

隆信の胸に小さな膨らみが姿を見せる。

『バレエを習いに…

 じゃぁバレリーナになりたいのね』

隆信の言葉に女性はそう尋ねると、

「あっ

 はいっ

 あ・あたし…バレリーナになりたいの…
 
 です」

と隆信は答える。

すると、

シュルンッ!!

穿いていたタイツが薄手の女性用に姿を変え、

それと同時に、タイツから透けて見えだした足には、

すね毛が全て消え失せていた。

「せっ先生…

 あたし…
 
 一生懸命レッスンをしますから、
 
 バレリーナにして下さい。
 
 お願いします」

目の前に立つ女性に向かって、

懇願するように隆信が呟くと。

ムリッ

シュルルル…

彼の背丈はみるみる小さくなり、

また、腕や足も細くなっていった。

そして、股間から突きだしていた男性自身も、

まるで空気が抜けていく風船のごとく小さくなっていくと、

縦に刻まれた溝がレオタードに影を作る。

『そうなの…

 じゃぁ、頑張りなさい。
 
 大丈夫、
 
 あなたなら、立派なバレリーナになれるわ』

そう囁きながら女性が手を差し伸べると、

隆信の手を取った。

すると、

シュルルルル…

短く刈り上げていた隆信の髪が伸びて行き、

その先端が背中まで届くと、

今度はまとめ上げられ、

キュッ!

綺麗なオダンゴをなってその頭を飾ると、

そこには可愛らしいレオタードを身につけたバレエ少女が座っていて、

『さぁ…』

女性のその声と共に立ち上がると、

「あっ

 いけない、
 
 レッスンの時間だわ」

と声を上げ、更衣室から飛び出していった。

そして、

「遅れて申し訳ありません!!」

そう叫び声を上げながら、

隆信、いや、バレエ少女は少女達が汗を流すレッスン室へと飛び込んでいった。



アン・ドゥ・トワァ

アン・ドゥ・トワァ

バレリーナの卵達は今日もレッスンに汗を流す。

アン・ドゥ・トワァ

アン・ドゥ・トワァ

その中には隆信より1日前にバレエ少女になってしまった健二の姿もあり、

そして、バレエ少女となった隆信もまたレッスンに汗を流す。

舞台の上で華麗に舞うバレリーナを夢見て…



おわり