風祭文庫・バレリーナ変身の館






「バレエ少女」
(健二編)



作・風祭玲

Vol.613





パンパンパン!!

「はいっ、

 そこで回って!!」

パンパン!!

「そっ遅い!!」

「もっと動いて!!」

「見えないよ、見えないよ」

ここはとあるバレエ団のレッスン室。

流れる伴奏の音色と共に振り付け師の手拍子が響き渡る。

公演までまであとわずか、

間近に迫る公演のプレッシャーからか、

団員達のレッスンは厳しさを増し、

緊張感も張りつめていく。

「はいっ、

 じゃっもう一回行ってみよう」

短い休憩ののち、

西に傾いた陽が照らし出す窓を背景にして、

振り付け師が声を張り上げると、

ザッ

散っていた団員達は集合し、

タッタタタン

タンタン!

タタン!

幾度も繰り返し聞かれている伴奏に合わせ、

それぞれのポジションで舞い始める。

それから程なくして、

「止めて!」

フッ!

突然、振り付け師の声が響き渡るのと同時に

流れていた音楽が止まった。

そして、間髪入れずに、

「違ぁ〜う、

 西脇クン、そこはこう」

椅子に座り流れを見ていた振り付け師が立ち上がるなり、

真ん中でレオタード姿のバレリーナを持ち上げていた西脇健二を指さし、

大声を張り上げながら自分の体を使って振りを表現する。

すると、健二はは担ぎ上げていたバレリーナを降ろし、

今度はバレリーナ抜きで指示された舞を踊ってみせるが、

「違う

 違う…

 こう…」

即座に彼の動きは否定され、

再び振り付け師が手本を見せて見るものの、

健二の演技は彼女を納得させることができなかった。

やがて、

「もぅいいっ

 西脇さん、外れて…

 じゃぁ友部さん、替わりに入って」

振り付け師は交代を宣言すると、

ムッ!

その途端、健二の顔は不機嫌になり、

バーに掛けてあったタオルを取るなり

レッスン室のドアへと進んでいった。

すると、

「ニッ」

そんな健二を挑発するかのように

友部隆信が笑みを浮かべながらすれ違っていく、

「くっ」

彼のその笑みに屈辱を感じながら健二はドアを開け、

レッスン室から出て行ってしまうと、

その後、健二に代わり隆信がバレリーナのサポートを始めた。



カチャッ!

レッスン室から出た途端、

健二は廊下の壁にもたれ掛かると

「はぁ、疲れた…」

と呟き、

そのままの姿勢で天井を見上げた。

やがて、レッスン室から伴奏が流れ始めると、

それに合わせるように人影が動き出し、

健二はその影に視線を送りながら、

「やっぱ、バレエを始めるのが遅かったかなぁ」

と呟いた。

そして、

「もぅちょっと早く…

 せめて、学生の頃から始めていれば

 あの程度の振り付けはこなせただろうし

 それに…

 アイツに役を取られることも…」

健二はライバル視していた隆信に自分の役を取られたことに悔しがると、

「はぁ…」

大きなため息を一つ吐き、

そのまま更衣室へ向かって歩き出した。



健二がクラシックバレエを始めたのは

社会人になってしばらく経ってからのことで、

最初に通ったカルチャースクールでメキメキと腕を上達すると、

そこの講師の紹介でこのバレエ団に入ったのだが、

しかし、キャリアの長いメンバーが多いバレエ団の水準についていくのは

容易なことではなかった。

無論、健二自身も弱音を吐かずにがんばり続けたため、

今度の公演では大役を射止めたのだが、

しかし、キャリアの浅さはなかなか埋めることは出来なかった。



すっかりテンションが下がってしまった健二が廊下を歩いてくと、

ポロン…

行く手より柔らかな音色のピアノの音が響き渡り、

程なくして小さ目のレッスン室が目に入ってくると、

そこでは小学生くらいの少女達が

仲良く並んでバレエの基礎レッスンをしていた。

教師の手拍子に合わせて動くレオタード姿の少女達を健二は横目で眺めつつ、

「俺もあれくらいからバレエを始めていれば

 少しは良かったかもなぁ」

とバレエというものに興味を抱かなかった小学校時代を悔やみながら歩き、

そして、

「はぁ…

 出来ることならやり直したい…

 そう、あの小学校低学年くらいから…」

と呟いたとき、

パキン!

なにか木の枝を折るような音が鳴り響いた。

「ん?」

響き渡ったその音に健二は大して注意を払わなかったが、

しかし、

ビシッ!

ビクン!

健二の身体になにか電気ショックに似た衝撃が走ると、

「なっ、なんだ?」

健二はその場に立ち止まり辺りを見回した。

しかし、健二の周囲には

健二に何らかのいたずらをした者や

また、他に物が落ちた様な形跡はなかった。

「なっなんだ?」

まるで狐につままれたような状態に健二は首をひねり、

再び歩き出そうと来たとき、

ビクッ!!

「あっ」

今度は身体の中を衝撃に似た何かが走り抜けて行く。

「なっ何なんだよ、

 おいっ」

度重なる異変に健二は得体のしれない何かが自分の回りにいるのでは、

と言う妄想に駆られるが、

ブンブン

頭を左右に振ると、

「きっ気のせいだよ、

 きっと」

そう自分に言い聞かせ、

そして、自分の手を見たとき、

「え?」

健二は思わず自分の手を凝視してしまった。

「なっなんだこれ?」

シュワシュワシュワ…

まるで萎んでいく風船のように健二の手は萎縮し、

腕も細くなっていたのであった。

「え?

 え?

 えぇ?」

これまで経験をしたことがないこの状況に健二はただ混乱をするが、

しかし、細くなっていくのは手や腕だけではなく足も細くなり、

グググ…

その身長も少しずつ小さくなっていく。

「おっおい」

変化していく身体の様子に健二は恐れおののき戸惑うが、

股間でモッコリ膨らんでいるタイツの膨らみも小さくなってゆくと、

ついにはその影が消えてしまった。

そして、厚手だったバレエタイツは薄手のタイツへと変わると、

腰に括れが現れ、足が内股になっていく。

また、筋肉が隆起していた胸や肩からも筋肉が萎むように消えると、

代わりに胸には2つの膨らみが現れ、

健二の肩は女性のなで肩へと変化して行く、

こうして健二が女性化してゆくと、

短髪の髪もいつのまにか伸び、

その先端は小さくなった肩にかかる。

さらに、着ていたTシャツの裾が伸び始めると股の下で繋がると、

程なくして健二が着ていたTシャツは

ピンク色の光沢を放つレオタードへと変化してしまった。

「うそだろう…」

すっかりレオタード姿の女性に変身してしまった健二は、

変身した自分の身体を見るが、

彼の変身はコレで終わりではなく、次の変身が始まった。

シュルルル…

細くなった手足が徐々に縮みだすと、

健二の身長はみるみる低くなり始めた。

「なっなっ」

身体が小さくなるにつれ、

健二の膨らんだばかりの胸の膨らみや、

腰の括れはなくなり、

顔の表情も幼くなって行く。

そして、大人の胸の高さまで背丈が小さくなってしまうと、

レオタードの腰のところより小さなスカートが現れ、

さらに伸びた髪が両耳のところでスッと括られると、

小さなリボンがちょこんとつく。

「どうなったんだ、俺は」

すっかり少女化してしまた健二が

いまの自分の姿に驚愕していると、

「なにごとです?」

廊下での物音に気づいた教師がドアを開け、覗き込んだ。

すると、

「あっ…いえっ」

10才くらいの少女の姿になってしまった健二が

慌てながら教師を見つめ返した。

すると、

「あら、あなた

 何をしているんですか、

 そんなところで」

と少女に向かって教師が声を掛け、

「もぅレッスンは始まっていますよ、

 早くレッスン室に入りなさい」

と促しながら健二の手を引くと、

空いているバーに捉まらせレッスンを再開した。

アン・ドゥ・トワァ

アン・ドゥ・トワァ

「え?

 あっあの…ちょっと…

 あっあたし…

 ちが…」

そう言いかけたまま、

健二は他の少女達と共にレッスンをすることになり、

バレリーナとして新たに成長していったのであった。



おわり