風祭文庫・バレリーナ変身の館






「バレエ学校の秘密」



作・風祭玲

Vol.407





白鳥バレリーナ学園…

創立30年を迎えたばかりの全寮制のバレエ専門学校で、

内外の数多くのバレエ団と提携しているために、

バレリーナを志す者にとって憧れのバレリーナになれる最短コースでもあった。




キーンコーン!!

朝の白鳥バレリーナ学園に授業の開始を告げるチャイムが鳴り響きわたると、

「ねぇねぇ…」

「えぇ、本当?」

「やだぁ…」

そんな話声と共に飾り気の無い黒レオタードと白のバレエタイツという姿で生徒達が更衣室から出てくると

朝日が差しこむレッスン室へと集まり、

これまで静寂が支配していたレッスン室に

授業の備え、念入りに柔軟運動をする者や

会話に勤しむ者達でつかの間の賑わいを見せる。

やがて、時計の長針がカチリと動くのと同時に、

ガラッ!!

勢いよくレッスン室のドアが開くと、

「おはよう!」

と挨拶の声を上げながら20代半の女性がTシャツにスパッツという軽快な出で立ちで入ってきた。

その途端、

バタバタバタ!!…

これまでおしゃべりをしていた生徒や柔軟運動をしていた生徒は一斉に走り出すと

バーに沿って列を作り

「先生に礼!!」

という掛け声と共に一斉にシニョンに纏め上げたお団子頭を下げる。

「はいっ」

先生と呼ばれた女性は背筋をピンと張りそれに応えるようにして返事をすると、

ポロン…

レッスン室にピアノの音が響き渡り、

「1番、プリエからぁ

 はいっ

 アン

 ドゥ

 トワァ

 アン

 ドゥ

 トワァ」

ピアノの音に合わせるように声を上げ、

クラシックバレエ課教師・工藤里香はバレエの基礎であるプリエを始める様に告げると、

バーの横に立つ生徒達は流れる音楽にあわせながら一斉にプリエを始めだす。

そして、その生徒の一人一人の傍に里香は立つと

彼女達に指導をしていった。



そして、丁度その頃、

「ここか…」

白鳥バレリーナ学園の正門前に一人の男が立っていた。

隠岐稔、先日までとあるバレエ団で活躍していた若手バレリーノである。

実は隠岐は先日そのバレエ団主催の公演に出演していたのだが、

しかし、なかなか信念を曲げない彼の性格が周囲と軋轢を生んでしまい、

その結果、ついに役から降ろされてしまうと、

稔はそのままバレエ団を辞めてしまったのだった。

けど、捨てる神あれば拾う神あり。

バレエ団を辞めた稔に手を差し伸べた人物が居た。

そう、このバレリーナ学園の学園長である。

学園長は稔の後輩に対する指導の力を高く評価し、

バレリーナ学園の講師にと彼を呼んだのであった。

「へへっ

 今日から俺は先生か…」

赤レンガの壁が美しい校舎を見上げながら嬉しそうに稔は鼻の頭を掻くと、

ザッ!

敷き詰められた砂利を鳴らしながら敷地内へと入っていった。



「はーぃ、10分休憩します」

念入りな基礎レッスンの終わりを告げる里香の声があがると、

「ふぅ」

これまで張り詰めていたレッスン室の緊張感が一気に時ほぐれ、

バーに掴まりレッスンをしていた生徒達は額に流れる汗をタオルで拭きながら思い思いに散りはじめた。

とそのとき、

「遅れてすみません!!」

少年の声が響き渡るのと同時にレッスン室のドアが開くと

「着替えに手間取ってしまって…」

と言い訳をしながらTシャツに白タイツ姿の江藤卓がレッスン室に入ってきた。

「何をしていたのですか?

 授業が始まってだいぶ時間が経っているのですよ」

遅れてレッスン室に入ってきた卓に向かって里香はそう叱ると、

「あっあのぅ…

 じっ実は…

 そのぅ…」

気が弱い卓は里香の剣幕に押されシドロモドロの返答をし始める。

ところが、彼のその姿勢が里香の怒りに油を注いでしまい、

「なんですかっ

 言いたいことがあればはっきりと言いなさい」

レッスン室に里香の雷が鳴り響くと

「すっすみません!!」

卓は反射的に身縮こまらせながら謝った。

すると、

「先生!」

ジッと成り行きを見ていた生徒の真田ミキが声を上げると、

「なんですか?

 真田さん?」

「あのぅ…

 そろそろ10分が過ぎるのですが…」 

振り返らずに返事をした里美にミキは休憩時間が終わろうとしている事を指摘する。

すると、里香はチラッと壁に掛かる時計に視線を送り、

「あっ時間ですね」

そう返事をすると、

スッ

レッスン室のバーを指差し、

「早くバーにつきなさい」

と卓に指示をした。

「はいっ」

里香の指示に卓がバーの方に行こうとすると、

「ちょっと待ってください、先生」

今度は柴山マイが抗議の声を上げた。

「なんですか?

 葉山さん」

「先生、

 あたしたちがレッスンに遅刻してきたときは

 それなりのペナルティーがあるのですが、

 工藤君はそれがないのですか?」

とマイは里香に迫る。

「あっそうよ」

「うん、そうねぇ」

マイの言葉にレッスン室に居る生徒達が大きく頷くと、

「そんな…

 僕だって好きで遅れたわけじゃないよ、

 誰かが僕のレッスン着を隠したから遅れたんだよ」

とそれを聞いていた卓が声を上げた。

「隠した?

 誰がやったの?

 どこに証拠があるの?」

卓の言葉にマイが迫ると、

「そんなの判らないよ、

 でも、僕のレッスン着が袋ごとゴミ箱に捨ててあったんだよ」

と卓は自分のレッスン着が悪戯されていたことを告げた。

しかし、

「ふーん、

 で、それをしたのがあたしとでも?」

卓の言葉にマイがそう言い返すと、

「べっ別に…

 まだ…誰がやったまでは」

途端に卓の旗色が悪くなる。

「ほら見なさい、

 大体ねっ

 あなたはいつまでそのレッスン着を着ているの?」

「うっ…」

「ねぇ、みんなっ

 そろそろ江藤に”儀式”をやってあげようよっ
 
 もぅ江藤だけだよ」

卓を追い詰めたマイがあることを提案すると、

「あっさんせー」

「そうね」

「やっちゃおうか」

レッスン室に居た生徒達から一斉にその声が上がると、

「先生っ

 いいですね」

っとマイは里香に許可を求めた。

すると、

「まぁ、止めてもどうせやってしまうし

 好きにすればいいわ」

里香は生徒達を止めることなくそう言うと、

”割れ関せず”のし草をする。

「そんなっ」

里香の態度に卓は絶望感を感じると、

「ふふっ覚悟しなさい」

怯える卓に生徒達が見る見る迫ってきた。

そのとき、

「いやだっ」

追い詰められた卓が悲鳴を上げながらレッスン室から飛び出していくと、

「追いかけるのよ!!」

マイのその言葉と共に、

「まてぇ!!」

レッスン室の生徒達が一斉に飛び出し、

逃げる卓を追いかけていく、

そして、

「ふぅ…

 これで、また男の子は居なくなったか…」

誰も居なくなったレッスン室で里香はそう呟きながら見送っていた。



ドタタタタ!!

ハァハァハァ…

人気の無い廊下に飛び出した卓だが、

しかし、スグその後をマイたちが追いかけると、

丁度更衣室のところで卓はマイに掴まってしまった。

「やっやめてぇ!!」

「覚悟しなさい」

「いやぁぁぁ」

暴れる卓をマイは組み伏せると、

他の者達に手伝わせながら卓を更衣室へと連れ込む、

そして、

ピシャン!!

更衣室のドアが閉められると、

「うっ」

卓の周りに白タイツに覆われた脚の林が迫って来た。

「うふふふ…」

マイの笑い声が更衣室に響き渡り、

「はいっ、じゃーん!!」

と言う声と共に卓の目の前に一着のレオタードが下げられると、

「さぁ、これが今日からあなたが着るレッスン着よっ」

とマイは卓に告げた。

「いっ

 イヤだよっ
 
 誰が女の子になるものかっ」

見せられたレオタードにを見据えながら卓はそう怒鳴ると、

「あら、可愛くないのっ」

「そうよっ

 ここに来た以上、これを着てバレリーナになるものなのよ」

「いやだっ

 誰が着るか
 
 ぼっ僕は男の子なんだ」

「ふーん

 あっそう」

卓の返事にマイは不快そうな顔をするなり、

ニヤッ

その口元が緩むと、

「みんなっ

 やっちゃえ!!」

と声を張り上げた。

その途端、

「キャァァ!!」

更衣室に喜ぶような声が響き渡ると、

「いやぁぁぁぁ」

間髪居れず卓の悲鳴が響き渡った。



それから10分近くが過ぎた後、

「ふぅーん、可愛くなったじゃない」

「うぅぅぅぅ」

いたずらっぽく言葉で攻めるマイの目の前には、

バレエ部員達と同じ黒のレオタードに、

白のバレエタイツを身につけ、

そして、薄いピンクのトゥシューズを穿いた卓の姿があった。

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのよ」

「ホント、

 レオタードが似合うわぁ

 背の高さもあたしたちと変わらないし」

ミキと香芝ヒロミそう言いながらスルッと卓のお尻を撫でる。

「きゃっ」

その感触に思わず卓が悲鳴を上げると、

「ねぇ聞いた?

 今の?」

「キャッだってぇ」

「きゃははは、おかしい」

卓があげた悲鳴を聞いてミキ達が吹き出すと

お腹を抱えて笑い始めた。

カァァァ…

ミキたちのその言葉に卓は顔を真っ赤にして俯くと、

「さてと、

 じゃぁ、卓ちゃん。

 レッスン室に戻ってバレエのレッスンをしましょうか」

笑い涙を拭きながらマイがそう言うと、

「うっ」

その声に卓は思わず顔をあげた。

すると、

「ふふっ」

ズイッ

卓を取り囲むようにミキ・ヒロミ・葉山チカが立ち、

そして、

「さぁ!」

と言いながら卓の腕をねじり上げた。

「いっ痛い!!」

腕をねじり上げられ、卓が悲鳴を上げると、

「こらっ、

 お前らそこで何をしているんだ!」

突然更衣室のドアが開けられると隠岐稔の声が響き渡った。

「きゃぁぁぁぁ!!」

突然のことにマイ達は悲鳴を上げるが、

しかし、

「なんだ、

 あんた誰よ?」

と稔を見ながら聞き返した。

「はぁ?」

マイ達の豹変ぶりに稔は思わず呆気に取られると、

キーンコーン!!

丁度授業の終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響いた。



「授業終わっちゃったな…」

「さて、着替えるとするか」

「なぁ、次ってなんだっけ」

「解剖学だろう」

「あっそうか」

更衣室に居たマイ達はまるで男のような口調でそう言うと、

それぞれ自分のロッカーのところで着替えを始めだした。

「あっおっおいっ」

まるで稔の存在を無視するかのように着替えをするマイ達の姿に稔本人があせるが、

けど、マイ達は一向に気にせずにレオタードを脱いでいった。

白い肌、

柔らかそうな肩、

プルンと震えるバスト…

レオタードの下から大人と少女の中間のような肉体が飛び出してくると、

「うっ」

稔の目は思わず釘付けになる。

しかし、

スルリ…

レオタードがバレエタイツを巻き込みながらマイ達の股下まで下げられたとき、

「んなっ」

稔は思わずわが目を疑った。

プルンっ

そう、マイ達の股間には小さく萎縮しているとはいえ、

全員に男のシンボル・ペニスが付いていたのだった。

「なっなっなっ

 お前達…男だったのか?」

股間で揺れているペニスを指差し稔が声を上げると、

「はぁ?、

 それがどうかしたか?」

とマイは言い返す。

「なっなんで?」

「教えてあげましょうか?

 隠岐先生?」

呆気に取られる稔の背後から里香の声が響き渡った。

「え?」

その声に稔が振り返ると、

彼の後ろには腕を組み、笑みを浮かべる里香の姿があった。

「あなたは?」

「あぁあたし?

 あたしはこの学校でバレエの実技を教えている者よ」

「じゃぁ、私の同僚ですね、

 いっ一体これは何ですか?
 
 なんで、男性が胸を膨らませ、
 
 そして、レオタードを…」

着替えているマイ達を指差しながら稔はそう尋ねると、

「ふふっ

 このバレリーナ学園は呼んで字のごとくバレリーナを養成している学校…
 
 と言うのはご存知でしょう?」

「えぇ」

「そう、バレエを愛し、

 バレリーナになりたいと思うのは女にも男にもある。
 
 しかし、男がバレリーナになるのは並大抵のことではない。
 
 そこで、この学校の校長はバレリーナに憧れながらも、
 
 それを果たす事が出来ない男の子を救うためにこの学園を作ったのよ、
 
 そう、この学園に入学できるのはバレエを愛する男性のみ、
 
 そして、在校中にバレリーナにふさわしい肉体と技術を身に付け、
 
 バレリーナとして旅立っていく…

 どう?すばらしいでしょう?」

「そっそんな…」

里香から告げられてた衝撃の事実に稔は棒立ちになると、

「そうなのよ

 あたし達はバレリーナになるためにこの学校に入ったのよっ」

という声が響き渡ると、

真珠色のクラシックチュチュに身を包んだマイ達がそう返事をした。

「え?」

マイ達のその姿に稔が驚くと、

「あぁ、それはこのバレリーナ学園の制服…

 身も心もバレリーナになるために学園長がレッスン以外のときは
 
 チュチュとトゥシューズを身に付け
 
 常にバレリーナで居る事を義務付けたのよ」

と説明をする。

「憧れだったわ…」

「えぇ、こうして毎日チュチュを身に着けて居られるだなんて…しあわせ」

マイ達はそう返事をすると、

「では、失礼します」

と里香に頭を下げるとトゥシューズの音を響かせて更衣室から出て行った。

「なっ…

 なんていう学校に俺は来たんだ?」

呆気に取られながら実はそう呟くと、

「ふふっ

 先生もバレリーナになって見ます?
 
 先生なら、美しいバレリーナになれますわっ」

と言う里香の声が稔の耳元で囁いた。



おわり