風祭文庫・バレリーナ変身の館






「姉のレッスン」
(特訓編)



作・風祭玲

Vol.252





「はいっ、第1のポジションから、

 アン・ドゥ・トワァ…

 アン・ドゥ・トワァ…」

パンパンパン

手拍子と共にレッスン室にユキコの声が響き渡る。

そして、その声にタイミングを合わせるようにして

黒いレオタードに淡いピンク色をしたバレエタイツを履いた少女達が、

レッスン室に置かれた可動式のバーに一列に並んで基礎レッスンに汗を流していた。

「アン・ドゥ・トワァ…

 アン・ドゥ・トワァ…」

ユキコは手拍子を打ちながらバーに掴まり足を延ばす少女の一人一人に、

「ここはこうっ」

「ちがうっ、もっと足を延ばして」

「腕はこっち…」

とアドバイスをしながら少女達のポジションを直して行く、

すると、

カチャッ!!

突然レッスン室のドアが開くなり、

「おっ遅れてすみません…」

と囁くような声で挨拶をしながら

レオタード姿の人影がレッスン室に入ってきた。

ユキコの弟であるアキオである。

「アン・ドゥ…」

そこまで言ってユキコは黙ると

ジロリ

入ってきたアキオをにらみ付けるなり、

「何をしていたの?…10分の遅刻よ」

と冷たい声で言った。

「すみません、

 あの…

 ちょっと目を離している隙にレオタードが無くなっちゃって…」

そう恥ずかしそうにアキオが言い訳をしようとすると、

ツカツカツカ!!

ユキコは無言で近づいて行くなり、

パァン!!

片手でアキオの頬をひっぱたいた。

「無くなったとはどういうことです?

 無くしてしまうなら家から着てくればいいでしょう。

 さぁ、あなたが遅れてきたことで、

 ココにいるみんなに迷惑を掛けたのですから、

 スグに謝るのです」

と告げると、

パン!!

っとアキオの尻を叩いた。

アキオは押し出されるようにして前に一歩出ると、

「申し訳ありません、

 今後気をつけます」

と呟くようにして頭を下げた。

しかし、

一人の少女の手が上がると、

「”アキコ”ちゃんがいまなんて言ったのかきこえませーん」

っと大きな声で叫んだ。

すると、ユキコは小さく頷くと、

「そうね、”アキコ”なんです?

 いまの謝り方は、

 もっと声を大きくハッキリと言いなさい」

腕を組んだユキコは俯いたままのアキオにそう告げた。

「ほらっ返事は!!」

ユキコのその一声にアキオが身体を

ビクン!!

と小さく動かすと、気をつけの姿勢になるなり、

「おっ遅れてしまって申し訳ありません!!」

と声を大にして言うと頭を下げた。

そんなアキオの姿を見ながらユキコは微かに笑みを浮かべると、

「じゃぁ”アキコ”ちゃん、

 遅れてきた罰として

 ポアントを履いて第5のポジションで30分間、

 表で立っていなさい」

とドアを指さしながら告げた。

「そんな…」

アキオは泣き出しそうな顔をすると、

トボトボとレッスン室から出て行った。

クスクス…

アキオを見送る少女達の笑い声が耳に突き刺さってくる。



「ねぇねぇ、ホラっあの子よ」

「うわぁぁ、レオタード着ている」

「ポアントで立って、うわぁぁ気持ち悪いわね」

腕を第5のポジションにしてポアント立ちをしているアキオの横を、

軽蔑した眼差しをしながら、

別のクラスを受ける少女達や女性達が通り過ぎていく。

カァーーー

そんな彼女たちの視線を一身に受けながら

恥ずかしさと情けなさで顔を真っ赤にしたアキオは顔を背けて

ただひたすら耐えていた。



そう、バレエに特殊な感情を持っていたアキオは

姉であるユキコのレオタードを身につけて、

バレエのレッスンを受けている自分の姿を妄想しながらオナニーに耽っていたが、

しかし、そのようなアキオの行為が

ユキコに知れていたことにアキオは気づいてはいなかった。

そしてある日、アキオはユキコから呼び出されてバレエ教室に出向くと、

そこに居たユキコより告げられたのは、バレエ教室への強制入学だった。

姉からの意外な命令にアキオは愕然としたが、

そしてさらにアキオを驚かせたのは、

彼の行いがユキコにバレていたことだった。

こうして、ユキコに逆らうことが出来ず

アキオは強制的にバレエ教室へ通わされることになった。



「ちょっとぉ、寄らないでよっこの変態!!」

休憩時間、

ようやく、由紀子の許しを得たアキオはポジションの練習を始めたが、

しかし、そんなアキオにミホが言いがかりをつけた。

「だって、こうしないと…」

と言いながらアキオがプリエをしていると、

ガツッ

ミホの足がアキオの足先に引っかかると、

グイッ!!

っと外側へと引っ張った。

「あっあぁ!!」

バランスを崩したアキオはたちまち尻餅をついた。

「きゃはは…

 何をやってんのよっ」

「痛い…」

尻餅をついたまま痛がっているアキオを見て美穂はせせら笑う。

そして手をついて立ち上がろうとするアキオの右手を

クスクス

笑いながらミホはトゥシューズを履いた足で踏みつけた。

「いっ痛い!!

 やっやめて」

痛みをこらえるようにしてアキオが声を上げると、

「ねぇ、”アキコ”ちゃん

 あたしのこの足にキスをしたら許してあげる」

とミホはアキオに告げた。

「え?」

驚いた顔でアキオがミホを見上げると、

「ユキコ先生から聞いたわ、

 ”アキコ”ちゃんってこうされることが大好きなんだって?」

と言いながら、

グリグリ

とトゥシューズの先を回す。

「やっやめて!!」

泣き叫ぶようにしてアキオが悲鳴を上げると。

「じゃぁ、キスをして、ほら」

とミホはアキオに迫った。

「………」

アキオは自分の手を踏みつけているミホのトゥシューズを見つめると、

観念したようにそっと口をトゥシューズへと近づけていく、

「やだぁ!!」

その光景を眺めながらレッスン室にいる女の子達は声を上げた。

そして、アキオの口先が一瞬ミホのトゥシューズに触れたとき、

ガツッ!!

ミホはアキオを蹴り上げてしまった。

と同時に、

「あたしのトゥシューズになんてことをするのっ

 この変態!!」

と叫んだ。

ドタン

ミホに蹴飛ばされたアキオは仰向けにひっくり返ると、

「そんな、だって、

 キスをしろって言ったのは…」

そう反論をしようとすると、

「だれが、そんなこと言った?

 え?だ・れ・が」

ミホはそう言うと、

グッ!!

っとアキオの股間を踏みつける。

グニィ…

ミホに踏まれてアキオのペニスがレオタードの下で拉げたが、

しかし、すぐにムクムクと膨らみ始めてしまった。

「え?なに?」

ミホの脚を押しかえるようにアキオのペニスが勃起してくると、

アキオのレオタードにくっきりと亀頭の影が浮き上がってきた。

「いやぁぁぁぁぁ!!

 変態!!」

勃起したアキオのペニスをみてミホが悲鳴をあげた。

「だっ大丈夫?、ミホ」

泣き叫ぶミホを介抱するように少女達が集まると、

「なんてことをするのよっ」

「美穂に謝りなさいよ!!」

と女の子達はアキオを責め立てた。

「そんなぁ…」

女の子に迫られてアキオは泣きそうな顔をする。

「なによっその顔はっ

 あんたがミホを泣かせたんじゃないのっ」

「さぁ謝りなさいよっ」

女の子達は口々にそう言うと、

アキオの身体を蹴り始めた。

「ごっごめんなさい!!」

身体を庇いながらアキオは謝ったが、

しかし、

彼の身体を蹴る女の子達の動きは止まらなかった。



すると、

「ほらっ、そこ

 何をやってんの」

休憩時間が終わりユキコがレッスン室に現れると、

アキオを蹴っていた女の子達を注意した。

「ちぇっ、いいトコだったのに」

注意を受けた女の子達は口惜しそうにそういうと一列に並んでいく、

「こらっ

 ”アキコ”っ

 なにそんなトコで寝ているの?

 レッスンは始まっているのよ!!」

女の子達からの攻撃を避けるようにアキオは身体を丸めていたが、

しかし、ユキコは容赦なくアキオには容赦はなかった。

ヨロヨロとアキオは立ち上がると、

女の子から蹴られながらその間を通っていくと、

一番後ろに空いていたバーに手を置いた。



「さて、みんなにお知らせがあります

 今度の発表会でこのクラスが演じる演目が決まりました」

ユキコが女の子達にそう告げると、

「ホントですか?」

女の子の一人がユキコに聞き返す。

するとユキコは大きくうなづきながら、

ガラガラ

っと白板を動かすと、

ペタッ

っと一枚の紙を白板に貼り付けるとその四隅を磁石でとめた。

”白鳥の湖”

紙にはそう書いてあった。

「えぇ!!」

それを見た女の子達から一斉に驚きの声が上がる。

「ほらっ、静かにっ

 ”白鳥”とは言っても全幕をやるわけではないし、

 それにコレまでのレッスンをちゃんとしてきたあなた方なら

 十分に演じられます」

とユキコは胸を張って言った。

そして、

「で、配役はあたしが決めさせてもらいました。」

と続けると、

配役表をその下に貼り付けた。

「ええぇ!!」

その配役表を見てさらに大きな声が上がる。

そして、少女達の視線は一斉に後ろにいるアキオへと注がれた。

「先生っ、納得がいきません!!」

真っ先に声を上げたのはミホだった。

「なぁに?」

ユキコは訊ねると、

「なんで、”アキコ”さんがオデットなんですか?」

とキツイ目線でアキオを見ながら美穂は質問をした。

「ふむっ、なるほど、

 ”アキコ”のオデットは不服というわけ?」

そうユキコが聞き返すと、

「そうです」

レッスン室にいた少女の大半がそう返した。

ウンウン…

ユキコは数回うなづくと、

「あたしが”アキコ”さんにオデットをしてもらおうと思ったのは、

 彼女が一番のデットにふさわしいと思ったからよ、

 ほらっ見て御覧なさい…”アキコ”さんを

 悪い魔法使いに白鳥にされたお姫さまにはぴったりでしょう」

とアキオを指差して言うと、

「なるほど…

 ユキコ先生にそういわれてしまえば仕方がないわ

 でも、白鳥じゃなくて、醜いアヒルの子だけどね」

ミホはそう言うと背を向けた。

そして、ミホが抗議から降りてしまったので、

少女達はアキオのオデット役へのクレームは皆取り下げてしまった。

こうして、白鳥に向けてのレッスンが始まった。



「ほらっ、何をしているのっ

 じっとしてなければリフトが出来ないでしょう」

レッスン室にユキコの怒鳴り声が響き渡る。

「あぁ…許して…」

相手役のヒロコに身体を持ち上げられたアキオは

そう泣き叫びながら白銀のチュチュを揺らせていた。

「ほらっ、ジュッテの要領でするのっ」

なかなかリフトが決まらないアキオにユキコの苛立つ声が響く、

ハァハァ

すでにアキオはびっしょりと汗をかき、

床の上にはポタポタと滴り落ちていた。

「あぁもぅ…じれったいわねっ」

ユキコは怒鳴り声を上げると、

「ねぇ、ロープを持ってきて」

と少女の一人に声をかけた。

「あっはい」

少女はレッスン室を飛び出すと、

しばらくして一掴みのロープを持ってくるとユキコに差し出した。

そして、ユキコがロープを受け取るや否や、

アキオの身体を縛り上げていく、

「やっやめて!!」

アキオは悲鳴を上げるが

しかし、ユキコは容赦はしなかった。

やがて身体の要所要所を縛り上げられたアキオの体が床の上に転がった。

「さっこれでいいわっ

 ヒロコさん、練習再開よ」

ポーズをつけたまま転がるアキオを見ながら

ユキコが満足そうに言うと、

「はいっ」

王子役を引き受けた体格のいいヒロコがアキオの腰をつかむと、

アキオの体がふわりと浮き上がった。

「あっ…」

腰をつかまれたアキオは思わず声を上げる。

すると、

「なに赤くなっているのっ

 さっそれがリフトのポーズよ」

とユキコが怒鳴った。

けど、アキオはそんなユキコの声など耳に入らずに

「あぁ…僕はいま飛んでいるんだ」

と恍惚感に酔いしれていた。



おわり