風祭文庫・バレリーナ変身の館






「合宿所の怪」



作・風祭玲

Vol.249





ギシギシギシっ

ガチャン!!

大きな物音を立てて窓が開く、

ふぅぅぅ…

「やっと開いたぞ…」

俺は肩で息をしながらそう独り言を言うと、

「お〜ぃ、そっちはどうだ?」

っと声を張り上げた。

すると、

「いよっ!!」

ガチャン!!

かけ声と共にガラスが悲鳴を上げながら窓が開かれた。

サワ…

高原の澄んだ風が部屋の中の隅々まで吹き抜けていくと

部屋の中の澱んだ空気を一気に蹴散らしていく、

「はぁーぃ、ご苦労様っ

 じゃぁ、ここの掃除をするから金子君達は他の部屋の窓を開けてね。

 とにかく今日中に掃除をすべて終えないと夕ご飯、食べられないよ」

やや色気のないトレーナ姿に長い髪をポニーテールに縛り上げた

マネージャの宮本澄香がそう言いながら箒と雑巾を持って部屋に入ってくるなり、

手際よく掃除を始めだした。

「ようし…行こうぜ」

「しかし、骨が折れるなぁ…」

「窓を開けるだけなのになぁ」

彼女の声に金子達はそう言いながら別の部屋へと向かっていく、

「それにしても、良くこんなところが借りられたなぁ…」

開けた窓が入ってくる風によって再び閉まらないように

窓を固定しながら俺が訊ねると、

「まったく…

 休みを前にしていきなり合宿をしようなんて言い出すんだもん、

 何処もみんな押さえられちゃってて、

 やっとの思いでココを見つけたんだからね」

澄香はジロリと俺を睨むなり文句に近いセリフを言った。

「サンクス!!」

俺はそんな彼女に手を合わせるとそのまま頭を下げた。

そんな俺の様子に澄香は「おいおい」

と言う顔をしながら雑巾がけを始めた。

「それにしても、一階にやけに広いホールがあったけど、

 そもそもここってどういう建物なんだ?」

俺は一階にあった周囲に鏡が張られている、

板張りのホールのことが気になって澄香に訊ねると、

「あぁ…あれ?

 実はココ、ちょっと前までバレエ団の稽古場だったらしいのよ」

「バレエ団の稽古場?

 こんなところにか?」

「そうよ、と言ってもバレエ団は東京にあって、

 ここは、夏場などに使う宿泊設備付きの練習場ってところかな?」

「はぁ…道理でね…」

俺はグルリと部屋の様子を眺めた。

確かに部屋の作りはどことなく女性を意識した作りになっているように感じられた。

「ただ、このご時世

 こういう施設を維持していけなくなったらしく手放したそうよ」

澄香は建物の曰くを俺に説明すると、

「はいっ、終わり…

 じゃぁあたしは隣の部屋に行くから、

 気に入らないところがあったら武が自分でやるのよ」

と言い残すと掃除道具を持って澄香は出ていった。

「ふぅーん…」

俺はそう呟きながらガランとした部屋を眺めた。

俺の名は宮原武…

都内にある高校のラグビー部のキャプテンをしている。

とは言っても、

我がラグビー部は入ったばかり1年生から俺達3年生までの全メンバーを

かき集めてやっと公式戦に出られる人数しかいない、

いわゆる弱小部というやつだ…

無論、その最たる原因は俺達3年の不甲斐なさと言うもあるのだが、

しかし、この現状にただ指をくわえているばかりではなく、

とにかくチームとしての士気を高め、

最終目的である花園への第一歩を踏み出すべく、

こうして、この高原に合宿に来たのだった。



「はーぃ、お疲れさまでしたぁ…」

「いただきまーす」

夕方、一階に誂えたリビングで澄香の笑顔と共に俺達は夕食に一斉に箸を付けた。

メニューは時間の関係もあって全員が手分けして作ったカレーである。

「先輩…このカレー美味いですねぇ」

「そうだろう?」

和気藹々の声がリビング内に飛び交う、

すると、一人が

「それにしても、隣の部屋って結構だだっ広い部屋だったけど、

 何の部屋なんですか」

と尋ねてきた。

「あぁ、なんでもバレエ団のレッスン場だったそうだ」

俺が質問にそう答えると、

ピタッ!!

部員達のスプーンが一斉に止まった。

「バレエ団?」

「女…?」

「れっレオタード…」

1・2年生の部員達がそう呟きながら顔を見合わせると、

ガタッ

一斉に腰を浮かした。

すると、俺は彼らが一瞬見た夢を打ち壊すかの如く、

「おいおいっ、

 バレエ団と言ってもバブルの頃の話だから

 10年くらい前のことだぞ」

と呆れ半分に口にすると、

「はぁ………」

まるで空気が抜けるようなため息が一斉に漏れると、

ドッ

とそのままイスに座り込んでしまった。

「なんだなんだ、お前等っ

 ここに何しに来たと思って居るんだ?

 ったくぅ、タルんでいるぞ!!

 明日からはビッチリと鍛えてやるからなっ」

俺は彼らにそう言うと皿に残っているカレーを素早く口の中に放り込んだ。



「おうっ、宮原…なんだ…明日からの予定か?」

夜、俺が明日からの練習メニューと睨めっこしていると、

俺と同じ部屋で過ごす3年の竹内俊哉が部屋に入ってきた。

「なぁ竹内…確か、近くに合宿に来ている学校があったよなぁ」

彼の姿を見るなり俺はそう言うと、

「あぁ、あるみたいだが」

「この合宿の終わりに、そこと練習試合できないかな?」

「おいおいっ、練習試合?、ちょっと無理じゃないか?

 いや、スケジュールじゃなくて、

 いまのウチの状態知っているだろう?

 8人いる1年なんてロクにパスも出来ないんだぞ」

「やっぱ、無理かなぁ…」

「う〜ん、やりたいのは山々だけどな」

等と話していると、

コンコン

っとドアがノックされた。

「開いているよ」

ドアに向かって俺が声を上げると、

カチャッ

部屋に入ってきたのは澄香だった。

「なんだ宮本、夜這いか?」

澄香の姿を見ながら俊哉がそう言うと、

「何をバカなことを言っているのよっ

 ねぇそれよりも1階にあのホールに誰かいるみたいなのよ」

と澄香は半ば怯えるような口調で俺達に言った。

「え?」

「何だって?」

俺と俊哉は顔を見合わせるとスグに腰を上げた。

「どうしたんですか?、先輩?」

俺達の様子に気がついた2年の片島がドアを開けて訊ねると、

シーっ

俺は口に人差し指を当てて彼に部屋の中に入るように手で指図した。

ギシッ

ギシッ

1階へと降りる階段を下り、

澄香が寝泊まりしている部屋を過ぎてそのホールに差し掛かると、

コトン…

確かにドアが閉められているホールの内に誰かがいる気配がした。

「ねっ居るでしょう?」

俺の後ろから澄香がそうささやく。

「泥棒か?」

「さぁな…ただどっちにしろ運が悪いヤツだ…

 取り押さえてフクロにしてくれる」

俺はそう言うと、

ギュッ

っとココに来る途中で持ってきた箒の柄を握りしめた。

一歩、

また一歩

とホールに近づいていく、

「!!」

突然背後に大勢の気配を察した俺は立ち止まって振り返ると、

「え゛?」

いつの間にか1・2年生が俺達の後ろに数珠繋ぎになって続いていた。

「おっお前等っ」

「まぁまぁ先輩、細かいことは気にしないで…」

「いざとなったとき、大人数要ると心強いですよ」

呆れる俺に向かって練習は口々にそう言った。

ココン!!

その時、一際大きな音がホールから響くと、

反射的に俺は走り出した。

そして、

「誰だ!!」

と叫びながらホールのドアを思いっきり開け放った。

ザワッ

「え?」

一瞬、俺は信じられない光景を目にした。

真っ暗なホールの中央にはスポットライトが当てられ、

そしてその下では白いバレエの衣装に身を包んだ

大勢の女性達が顔を背けるポーズをとりながら横一線に並んでいた。

「なっなんだ?。これは」

呆然としている俺に向かって女性達は手を円を描くようにまわすと軽くお辞儀をした。

「おっおう…」

それに応えるようにして俺も頭を下げる。

すると、

『お待ちしておりました。当バレエ団へようこそ』

と言う声と共に、

白いバレエ衣装に身を包んだ女性が俺の目の前に立つと、

そっと手を差し伸べてきた。

フワッ

彼女から女性特有の甘いような汗の香りが俺の鼻をくすぐる。

「え?、いっいや…」

思わず彼女にそう返事をしながら手を差し出そうとすると、

「ちょっと、どうしたのよっ」

澄香の声と共に俺の肩が激しく揺らされた。

「え?…あっ!!」

ハッ我に返った俺はホールの中に視線を戻すと思わず声を上げた。

そう、スポットライトはいつの間にか消え、

また、中にいた女性達の姿もまるで最初から居なかったかのように消え失せていた。

「そんな…」

俺は澄香の手を払ってホールに飛び込んでいく、

「先輩、どうしたんですか?」

片島達も俺に続いてホールに入ってきた。

「バカな…」

俺が呆然としていると、

パッ!!

消えていた電気が灯され、

ホールの隅々の様子が手に取るように見える。

しかし、あの女性達の存在を証明するモノは何処にもなかった。

「一体何があったんだ?」

俊哉が俺に訊ねると、

「あっあぁ…疲れているのかな?」

俺はそう答えながら頭を掻いた。

「いや、何でもない…

 どうやら、建物が軋んでそう言う音を出していたんだろう?」

俺はそう理由をつけながら

ギッギッ

っと脚で床を鳴らせると、

「なぁんだ…」

1・2年生達は残念そうな台詞を言いながら三々五々部屋へともどっていき、

ホールには俺と俊哉・澄香の3人が残った。

「ねぇ…それって本当?」

澄香は心配そうに上目遣いをしながらそう訊ねると、

「判った判ったっ

 じゃぁ俺は今夜ココで寝るから、

 それなら心配はないだろう」

と澄香の肩に両手を乗せながらそう言うと、

彼女はジトッと俺を見たあと、

「明日の朝、あたしの隣で寝息を立てていたらお仕置きだからね」

と言い残すとホールから出ていった。

「だっ誰が!!」

思わず怒鳴る俺に、俊哉がポンと肩を叩くと、

「作戦失敗だったなっ、

 じゃぁ、後はよろしく!!」

と言うと引き上げていった。

「けっ!!」

俺は一人ホールの床に座り込むと腕を組むと、そのまま仰向けに寝転がった。

ギシッ!!

俺以外が誰も居ないホールの床が微かに鳴る。

「それにしてもさっきには一体何だったんだ?」

俺の脳裏にさっきの光景がよぎった。

「う〜ん…」

考え込んでいると睡魔が俺の頭の中を包み込み始め、

瞼が重くなっていくと俺の意識は深い闇へと引きずられて行った。



『え?、あっあれ?』

ふと気がつくと

ホールには靄が立ち込め、

またその広さも数十倍にも広く感じられた。

『どうなってんだ?』

俺は不思議そうに歩いていると

フッ

目の前にあのバレエ衣装を身につけた彼女が俺の目の前に姿を現した。

そして、

『先ほどはどうも失礼をいたしました』

と俺に言うと片膝を下げながら頭を下げた。

『いっいや…

 ところで君は誰なんだ?

 それにこれはどうなっているんだ?』

と俺は彼女に素性とホールの異変のことを尋ねた。

すると、

彼女まるで妖精を思わせるかのようなつま先立ちで跳ねるようにして歩き始めると、

『ココに集うのは皆、バレエのために身を捧げたものたちです』

と説明をした、そしてそれと同時に

次々と彼女と同じバレエの衣装を身につけた女性達が

俺の間の前に繰り出してくると、華麗にバレエを舞い始めた。

『…綺麗だなぁ…』

俺はすべてを忘れて彼女たちのバレエを眺める。

『いかがですか?』

『いっいや、綺麗だなぁってね…』

彼女の問いかけに俺はそう答えると、

『ふふ…』

彼女は軽く笑った。

唇の紅が光を受けて七色に輝く。

『なっ何が可笑しいのです?』

彼女のセリフに憮然として返事をすると、

『あぁごめんなさい…

 誰だってこのように舞うことが出来るのに、

 あなたは舞もしないでただ眺めてそう言うんですもの』

と彼女は俺に言った。

『舞う?、だってバレエは女がすることだろう、

 男の俺が出来る分けないじゃないか』

そう反論すると、

クスッ

彼女は再び小さく笑い、

『そんなことはないですわ、

 だってあなたはホラッ…』

彼女がそう言って俺の手を取ると、

ビシッ

シュルシュル…

彼女の手に握られた俺の手は見る見る小さく細くそして白くなっていくと、

文字通り彼女と同じ女の手になってしまった。

『そんなバカな…』

まるで白魚のような手を間近に見て俺は声を上げる。

『大丈夫…そんなに怖がらないで…

 あなたもスグにバレエを舞えるようになれますよ』

彼女がそう言うと、

ジワッ

俺の胸が急にくすぐったくなると、

乳首の周りが急にジンジンとしてきた。

『なっなんだ…え?』

身体の変化に俺は声を上げたが、

しかし俺の口から出てきた声は声変わり前の少年のような声色だった。

いつの間にか喉仏が消えている。

『そんな…』

俺の声は少年の声色から更に変化し、

そして、少女の声へと代わっていった。

『ふふふ…綺麗な声ね…嫉妬しちゃいそう』

俺の声を聞いた彼女がそう呟く、

『やっやめてぇ』

俺は鈴の音のような声を上げて熱く熱を帯びた胸を両手で隠した。

すると、

ビリッ!!

盛り上がっていく乳首が手の圧迫感に激しく反応した。

『あっあぁっ』

電撃のような快感が俺の背筋を走っていく、

『そう、おっぱいが膨らみ始めた女の子はみんなそうなのよ』

彼女はそう言いながら俺に背後から覆い被さるようにすると

俺に手の上に自分の手を重ねた。

『なにを…』

『可愛いわ…ほらっ手を退かしなさい…

 じゃないとおっぱいの形が悪くなるわ…

 バレリーナはプロポーションにも気をつけないとね』

と言いながら俺の手を握るとそっと胸を開けさせた。

すると、着ていたシャツやズボンがまるで煙のように消えてしまうと、

俺の裸体が彼女の前に曝け出されてしまった。

『みっ見ないで!!』

俺は自分の裸体を隠そうとしたが、

しかし

ムリムリムリ!!

俺の胸がまるで風船を膨らませるように膨れ始めると、

ボリュームのある果実が俺の視界の中で生長し、

プルンプルン

身体の動きに半歩遅れるように揺れ始めた。

『ふふ…どう?』

彼女の手がまるで果実の出来具合を確かめるかの如く

腫れて勃起状態になっている乳首を扱き始めた。

『あっ、だめっやめて、感じちゃう…』

乳首から来る言いようもない快感が俺の身体の中を突き抜けていった。

『ふふ、綺麗なおっぱいね』

彼女が俺の耳元でそう呟くと、

カッー

俺は顔を真っ赤にすると、

『いっいや、そんなことを言わないで…』

と叫ぶと耳を塞いで座り込んでしまった。

『大丈夫…

 あなたなら、綺麗なバレリーナになれるわ、

 さぁ、あたしに身体を任せなさい…

 素敵なバレリーナにしてあげるから…』

彼女は俺にそう囁くと、

スッ

っと座り込む俺の両肩に手をあてた。

そして、クッと力を入れると、

ググググ…

俺の肩はまるで萎むようにその肩幅が狭くなり、なで肩へと姿を変えていく。

俺の身体は文字通り彼女の手によって見る見る女性の姿へと変えられてしまうと、

『さぁ立ちなさい…』

その言葉に操られるように俺は立ち上がる。

『そう、良い子ね』

彼女の手は俺の両脇を通り過ぎるとそのまま腰へ宛われた。

すると、

シュルシュル…

俺の鍛えたウェストが見る見る小さくなり、

逆にヒップは逆に大きくなっていく。

『そんな…』

『さぁ、あとはコレだけね…

 こんなのはバレリーナには要らないわ』

彼女はすっかり女の姿になった俺を後ろから抱きしめると、

手を俺の股間へと回し、股間で小さくなっている俺のペニスを掴んだ。

『おっお願いです。

 オチンチンだけは許して…

 オチンチンがなくなったらあっあたし女の子になちゃう!!』

俺はそう言って懇願したが、

しかし、彼女は、

『うふっ、こんな物をつけてはバレリーナにはなれませんよ

 さぁ、取っちゃいましょうねぇ』

と言うなり俺のペニスを思いっきり引っ張った。

すると、

プチッ

小さな音を立てて俺のペニスは身体から離れていった。

『そっそんなぁ…』

俺は驚きながらペニスがついていた跡に目をやると、

ムリムリムリ、

その跡は蠢くように形を変え、

真ん中に一筋の窪みが出来ると膨らみながら

プリュッ!!

っと真ん中が裂けた。

そして割れ目の中でピンク色に輝く肉の襞が成長していく

『まぁ、可愛いオマンコね…』

俺の股間に出来たオマンコをみて彼女は俺にそう言った。

『あぁ、あたし…女の子になっちゃった』

『そうよ、あなたはバレリーナ』

彼女がそう告げると、

キュッ!!

俺の足にピンク色のトゥシューズがいつの間にかつけられた。

そして、そのトゥシューズからまるでツタが建物を覆っていくように、

白いバレエタイツがすね毛がなくなりツルリとした俺の足を下から覆っていく、

『止めて!!』

俺は声を上げながら脚を覆っていくタイツを抑えたが、

しかし

ピチッ!!

脚を覆いつくしたタイツがそのまま腰を覆ってしまうと、

シュルシュルシュル…

腰の周りからパニエが次々と伸び始め、

瞬く間に俺の腰には笠のようなパニエが広がってしまった。

『そんな…』

俺はつま先立ちをすると横に広がったパニエを上下に揺らす。

変化はそれで収まったわけではなく

スルリ…

白銀に輝くベストが俺の腰から胸を覆うと、

ギュッと身体を締め付けた。

『うっ』

胸を圧迫され俺の口から声が漏れた。

ピシピシピシっ

飾りがなく無地だったペストやパニエに次々と華麗な装飾が現れたると、

ヒタヒタ…

今度は俺の顔がメイクされ始めた。

下地が顔から首・胸元へと塗られ、

更に、目の周りにはアイライン、

鼻筋にはノーズシャドウ…

頬には頬紅が重ねられていった。

そして、伸ばされた俺の髪の毛がシニヨンにまとめられると、

羽を模した飾りが俺の頭に乗った。

『うん、いいわ…

 ホラ鏡を見て…』

彼女に言われて俺は目の前に姿を現した鏡を眺めると、

そこには恥ずかしそうにはにかんだバレリーナが佇んでいた。

『綺麗よ…

 はいっあたしの冠を上げるわ、

 あなたは今日からはオデット姫よ、

 さぁ、みんなが待っているわ…』

『え?…みんなって…』

その言葉に驚いた俺が振り返ると、

『武っ!!』

澄香の声が俺に耳に響いた。

『澄香?』

その声を聞いた俺が声を上げると、

すぅっ

俺の目の前に澄香が姿を現した。

『すっ澄香っ

 え?、なに?』

俺の目の前に姿を現した澄香の身体はまるで鍛えた男のように逞しく、

更に厚手のタイツに覆われた股間には

男の逸物を意味する肉棒の影がクッキリと浮かんでいた。

『どっどうしたの、それは…』

口を押さえて俺が驚くと、

『お前…武なの?

 おっ俺…男の子になっちゃったよっ』

澄香は泣きながらそう言うが、

しかし、

ゴリッ

彼女の喉元に喉仏が出っ張ってくると、

その声はたちまち男の低い声色へと変わっていった。

『そんな…澄香が男に…』

しかし、それで終わりではなかった。

『せっ先輩!!』

と言う声が響くと、

次々とバレエ衣装に身を包んだ女性が俺の目の前にあられてきた。

『まっまさか…』

『おっ俺達バレリーナにされちゃった!!』

泣きながらラグビー部の部員達が俺に向かって叫んだ、

『さぁ、ココはあなた達の舞台よ…

 思う存分踊りなさい…』

彼女の声が響くと、どこからか調べが流れてくる。

すると、俺の腰に逞しい手が宛われた。

『あっ…』

振り向くと、すっかり男顔になった澄香が俺を見つめ、

『踊りましょう…』

と告げると、軽々と俺をリフトした。

そしてその周りをバレリーナになった部員達が華麗に舞い始める。

『あっあぁ…

 そう、あたしはバレリーナ……』

そう思いながら俺は空中高く舞い上がった。



翌朝…

「あれ?、今日は確か…」

高原につながる駅前の駐在所で何かを思いだした駐在が独り言を呟くと、

パラパラと書類をめくり始めた。

「そうか、10年前、土砂崩れでバレエ団の研修所が飲み込まれたんだっけ

 悲惨な事故だったなぁ…

 あれ?、

 そう言えば昨日の何処だっけか、

 ラグビー部の連中が合宿にと…

 え?、そんなのが居たっけか?

 はは俺もどうかしたな」

駐在はそう呟くと静かに書類を閉じたのである。



おわり