風祭文庫・バレリーナ変身の館






「試着室」



作・風祭玲

Vol.207





学校帰り、僕は幼なじみの友香子と一緒に歩いていた。

別に彼女が俺の恋人だからと言うわけではない。

ただ、子供の頃からの腐れ縁というヤツだと思う。

「ねぇ…誠司…もぅ本当にバレエはやらないの?」

商店街傍の交差点で信号待ちをしていたとき、

突然彼女はのぞき込むようにして聞いてきた。

「はぁ?」

思いがけない問いに僕は聞き返すと、

「あのまま、辞めちゃうなんてもったいないじゃない」

友香子はそう言うと、

「あたしだったら続けるな…」

と空を眺めた。

「…それはお前が女だからだよ」

僕は彼女にそう言うと信号が青に変わった横断歩道を渡り始めた。

「…男や女は別に関係ないと思うけど…」

彼女はそう呟きながら僕の後ろを歩く、

そう、僕は一週間前に友香子と共に

幼い頃から続けてきたクラシックバレエを辞めたばかりだった。

理由は色々あったが、

一番もっともな理由はどんなに頑張っても綺麗な衣装を着て

真ん中では踊れないことに気付いたからだと思う。

無論そんな理由は誰にも言える分けないが、

特に純白のチュチュを着て男性舞踊手(バレリーノ)に、

リフトされたバレリーナの姿に憧れていたのは事実だった。



「あっそうだ、ちょっとつきあって」

駅に続く商店街を歩いていたとき、

ふと何かを思いだしたように友香子が声を上げると、

僕の腕を引っ張り始めた。

「なっなんだよぅ」

彼女の態度に文句を言うと、

「頼んでいたレオタードが出来上がっていると思うから

 これから取りに行くのっ

 だって今日レッスンの日でしょう?、

 みんなに出来たての新しいのを見せるんだ」

にこやかに彼女はそう言うと、

僕を商店街のやや外れにあるバレエ専門店へを引っ張っていく、

「ここで待ってて」

言い残して友香子は店へと入っていった。

「ここで待つのなら、駅で待っていても同じじゃないか」

僕は文句を言いながら店先で彼女が戻ってくるのを待っていた。

しかし、いくら待っても友香子は店から出てこない。

「ったくぅ…いつまで待たせる気だ」

ついにシビレを切らせて僕は店のドアを押して中に入ったとき、

ゴォォォォォォ!!

突然何かが通り過ぎたような大音響が響くと商店街の音がフッと途切れた。

「え?あれ?」

気付くと僕は店の中に居た。

しかし、店内には友香子を含めて客どころか店員の姿も無かった。

「おっかしいなぁ」

頭を掻きながら、甘い香りのする店内を歩き回っていたとき、

ふと綺麗にディスプレイされている一着のチュチュが目に入った。

「チュチュか…

 一度で良いからこう言うのを着て真ん中で踊ってみたかったよなぁ…」

それを見上げながらそう呟いていると、

「御試着なさいますか?」

突然声をかけられた。

「え?」

その声に驚いて振り返ると、

年の頃は20代半ばだろうか、

髪を後ろにアップで纏めた女性店員が一人、

笑みを浮かべながら立っていた。

「え?、いっいや」

僕は慌てて取り繕うと、

「恥ずかしがらなくても良いですよ、

 誰だってチュチュに憧れるのは当然ですから…」

彼女はそう言いながらテキパキとチュチュを取ると、

「さぁどうぞ…」

と言うや否や僕の手を引き試着室の前へと連れて行く。

「いっいや…僕は…いいです」

そう言い訳をしながらなんとかしてこの場を逃れようとすると、

「そんなに恥ずかしがらなくても良いですよ…

 みんな最初はそう言うのですから」

女性店員は僕にそう告げると、

シャッ!!

っと試着室のカーテンを開けた。

クリーム色の壁に大きな鏡が一枚掛けてある部屋の様子が目に入ってくる。

「えっ、いや、あのぅ」

なおも僕がその場を逃れようとすると、

「あっそうだ、タイツとトゥシューズを要りますよね」

ハタと思い出したように店員はそう告げると、

ハイ…

と言って僕にチュチュを手渡すと、

店の奥へと向かう、

「いまなら…」

僕は一瞬そう思ったが、

しかし

「コレを着られるチャンスかも…」

と言う二つの心が葛藤をし始めた。

しかし、時間はあっという間に過ぎ、

「では中に入ってください」

戻ってきた店員にそう催促されると、

「はっはぁ…」

僕は手にしていたチュチュを彼女に手渡すと、

靴を脱ぎそのまま試着室の中へと上がっていった。

正面の鏡に制服姿の僕の姿が大写しで映し出される。

スゥ…

気のせいか幾分華奢に見える。

「では先にコレを穿いてください」

そう言って店員はタイツとショーツを僕に手渡すと

シャッ

背後のカーテンを閉めた。

文字通り更衣室には僕一人になった。

「…もぅ後には引けない」

(ゴクリ)

僕は唾を飲み込むとを決めると上着のボタンに手をかけた。

フワッ

香水だろうか、そのとき店内に漂うにおいが一瞬きつくなった。

そしてその中で僕はシャツ・ズボン・パンツを脱ぐと、

「え?

 そんなぁ…」

鏡に映し出された自分の姿に声を上げた。

そう、胸こそ膨らんでいないモノの鏡に映し出された僕の姿は、

体毛は薄く、そして白い肌に、華奢な四肢と、

まるで思春期に入り始めたばかりの女の子の様な体つきになっていた。

「なんで…?」

そのような自分の姿に僕は驚いたが、

しかし、それと同時に心の中の抵抗は無くなっていた。

ドクン…

心臓が高鳴った。

僕は手渡されたショーツに足を通すと、

スゥ…

足のむだ毛が消えていき、さらに足そのものが細く白くなっていく、

ピチッ!!

そしてショーツが股間に収まった途端、

僕の股間から男の象徴が消え、

スルリ

とした股間に変わってしまった。

「あっ…」

それを見た僕の口から思わず声が漏れた。

そして、さらにバレエタイツに脚を通すと、

今度はタイツに覆われた脚にムクムクっと筋肉が付き、

僕の下半身は文字通りカモシカのような鍛え上げた女の子の下半身に変身してしまった。

「………」

しばしの間僕は白いタイツに覆われた見入っていた。

そして、いつの間にか

プクッ!!

っと膨らみ始めた乳房が僕の胸を飾っていた。

「…女の子に…なっていく…」

柔らかく膨らんだ乳房をそっと抱きしめながら呟くと、

「如何ですか?」

といいながら店員がカーテンを開けた。

「きゃっ」

僕は小さく悲鳴を上げた。

「あらごめんなさい…

 でも…綺麗な肌ですね」

「え?」

彼女にそう言われて僕は改めて自分の腕を見ると、

色白のスベスベとした肌が目に入る。

「では、コレを…」

そう言って彼女は僕に再びチュチュを手渡した。

カサッ!!

チュールのスカートが軽く音を立てる。

「コレを着れば僕は…」

そう思いながらユックリと片足ずつチュチュに脚を通した。

スルスルスル…

脚を通したチュチュを引き上げると、

タイツに覆われた脚の上をチュチュの感触が通り抜けていく、

やがて股間に達したチュチュはそこで止まったが、

さらに延びるようにチュチュは僕の身体を覆っていく、

左右の肩ひもを肩に掛けると、

フワッ

チュチュは優しく膨らみ続ける乳房を覆った。

サッ

サッ

サッ

手際よく外れていたホックを掛けていくと、

下腹部の方から

クッ

クッ

クッ

っとチュチュが僕の身体を締めてきた。

「あんっ」

思わず声が漏れる。

「ぴったりですね」

背後から店員が声を掛けると、

僕はなんだかうれしくなり、

体の向きを変えながらチュチュ姿の自分を眺めていた。

「では、トゥシューズを」

そう言われて僕の手に膠の香りがするトゥシューズが手渡されると、

スッ

まずは右足からタイツに包まれた足をトゥシューズに入れた。

スポッ

っと言う感じで僕の足がトゥシューズにフィットする。

「見た目は小さかったのにピッタリだ」

そう呟くと、

「あなたの足がトゥシューズに合わされているのですよ」

と彼女は言う。

キュッ!!

トゥシューズから出ているリボンを甲の上で交差させて足首で縛ると、

いくら足を回してもシューズは僕の足から外れることなく付いてくるようになった。

それを一通り眺めた後、

もぅ一つのシューズを左足につけた。

コト…

両足に付いたシューズの音を響かせると、

「では、メイクをしましょうか」

店員は僕にそう告げると、

ショーケースから銀色に輝くティアラと

羽の髪飾り、そしてメイク道具を持ってきた。

そして、

「さぁ…こちらへ」

っと僕を試着室から出すと、用意したイスへと座らせた。

そのときの僕はボーっとした表情で彼女の作業を眺めていた。

膨らみ続ける乳房がチュチュを下から押し上げ始めた。

グッ

と微かに息が苦しくなる。

程なくして彼女は手にしたブラシで僕の髪を、

サッ

サッ

っと梳かし始めると、

スルスル

スルスル

僕の髪は細く柔らかくそして延びていった。

サワッ

程なくして肩の下まで延びると、

「柔らかくて綺麗な髪ですね」

店員はそう誉めながら、

今度はその髪を引っ詰めてまとめ上げると、

髪留めで綺麗に整えた。

モコッ

僕の後頭部に髪で出来たお団子が盛り上がった。

「さてと、飾り付けの前に…」

店員は僕にそう言うと、

僕の顔にパフを叩くと下地を作り始める。

そして丁寧に大きく濃くアイラインにノーズシャドー、

頬紅を入れると、

最後に唇に赤いルージュを差した。

見る見る変わっていく僕の顔に僕はただ驚いていた。

フアサッ

羽根飾りがまとめ上げた髪に乗せられると、

丹念にピンで止めていく、

そして、頭上にティアラが乗せられると、

僕の変身は終わった。



「では、改めまして…」

そう彼女が言うと、

すぅ…

僕は立ち上がると右手を顔の前で大きく円を描かせながら、

片膝を軽く曲げるバレエの挨拶を自然としてしまった。

「はい…」

それを見た店員は笑みを浮かべると、

「では…」

と言いながら僕に手を差し出した。

すると、僕は彼女の手に片手を差し出すと、

クィ

っと僕の手を引く。

「あっ」

コトン!!

僕の右足は小さくトゥシューズの音を立てると、

クッ

すべての体重をつま先の上に乗せた。

クゥゥゥッ

っと視界が高くなり、

それに合わせて左足が高く上がる。

カサカサカサ

スカートのチュールが軽く音をあげた。

「如何ですか?」

僕の姿を鏡に映し出しながら聞いてくると、

「…これが……僕?」

っと鏡の中の白銀の衣装に身を包み大きく脚をあげた白鳥姫を見て呟いた。

「…ホント、美しいですわ…」

まるで白い華が咲いたような僕を見ながらそう囁く、

「あっあのぅ…」

僕が尋ねようとすると、

「あぁ、ここはあなたの願いを叶えるお店です。

 お代は要りませんよ」

そう告げると、

ポン

と僕の肩を叩いた。

その途端

ゴワッ

忘れていた音が戻ってきた。

ハッと我に返ると僕はバレエ専門店の前に立っていた。

「アレは夢だった?」

思わずキョロキョロしたが、

道行く人はみな僕を好奇心の目で見ながら通り過ぎていく、

そして気付いた。

僕はバレリーナの姿のまま立っていることに…



「うそ…」

ポアントで立ち上がりながら自分の姿に驚いていると、

キィ

店のドアが開き、

「お待たせ!!」

と言いながら友香子が中からでてきた。

そして僕の姿を見るなり、

「あっあなた…誰?」

と信じられない者を見るようかの声を上げた。

「友香子…いやっコレは…」

僕はバレリーナになってしまったこの姿をどう説明していいのかとまどっていると、

「きゃっ何?」

友香子が叫び声を上げると、

スルスルスル…

突然、彼女の脚を光沢のある厚手のタイツが覆うと

ムキムキムキ!!

見る間に筋肉の陰影がタイツに刻まれていった。

「あぁ…」

驚く友香子をよそに

制服のスカートが消えるとタイツに覆われた股間が露わになる。

彼女の変化はさらに進み、

ググググ…

肩幅が広くなると、制服の上着が消えていく。

「きゃっ」

突然裸になった上半身を友香子は屈みながら両手で隠したが、

しかし、露わになった彼女の身体は女性の面影はなく、

鍛えられた筋肉と筋の影がハッキリと付いた男の身体だった。

しかし、スグに金の装飾が施された黒色の上着がそれを隠す。

長かった髪が短くなり、

ユックリと立ち上がり僕を見た友香子はすっかり男性ダンサーの容貌になっていた。

ムクッ

股間が盛り上がると見る見る肉棒の影が現れた。

『これはサービスです』

僕の耳に女性店員の声が響いた。

「…そんな」

そう呟きながら友香子の変身に僕が驚いていると、

ソッ

僕の腰に友香子の手が当てられると、

「さぁ…僕と一緒に踊ろう…」

彼女いや、彼は僕にそう告げると、

フワリ

僕の身体は高くリフトされた。

「あぁ…これをしてほしかったんだ」

そのとき僕は幸福感に包まれていた。



おわり