風祭文庫・バレリーナ変身の館






「バレエ部」



作・風祭玲

Vol.047





「ねぇ…君、バレーやらない?」

長かった受験生活がようやく終わり、

なんとかこの大学に滑り込めたのはほんの2ヶ月前、

「さて、どのクラブに入ろうか」

っと新入生の獲得に燃える各クラブの勧誘活動を見ながら

学内をふらついていると、

不意に声をかけられた。

声がした方を振り返ると、

お団子に髪を後ろにまとめてジャージ姿

と言った出で立ちの女性が笑みを浮かべて立っていた。

「バレー…ですか?」

と僕が聞き返すと、

「えぇ、いまバレー部の部員を捜しているのよ」

と屈託のない笑顔で答えた。

「バレーかぁ」

としばらく考えていると、

彼女は僕に近づき小声で、

「…じつはね、うちの部、部員不足で存亡の危機なの。

 だからね君が入ってくれれば人数的に何とかクリアできるのよ、
 
 だからお願い…」

と半分懇願するように僕に囁いた。そして、

「そうそう、”部”だからと言って堅く考えないで、

 人数が少ないからほとんど同好会のようなものだから…」

僕は中学・高校とバレーボール部に所属していたので、

部活の厳しさは平気だったし、

またこんな美少女に懇願されると、

イヤとは言えず。

「う〜ん、そこまで言われると…」

「じゃぁ入ってくれる?」

と彼女は上目遣いで僕を見る。

結局彼女に押し切られるようにして

「まぁ、いいかな…」

と返事をした。

すると、彼女は大喜びで

「じゃ、この入部届けに学部と名前を書いて」

と言って用紙と筆記用具を渡した。

僕が一通り書いて彼女に渡すと、

「それでは明日の午後、

 ここでレッスンをするから、
 
 必ず来てね、絶対よ」

と言うと、

僕に集合場所を書いた紙を渡すと人混みの中へ消えていった。

「やれやれ、元気な娘だなぁ、

 でもレッスンなんて変な言い方するな…」

と思い渡された紙を広げてみると、

指定された場所は学内の外れの所だった。


翌日、僕が受ける講義は午前中で終わったので、

午後、彼女に指定されたところに

高校で使っていたユニホーム等をもって行くと、

そこは小さなプレハブ小屋が一軒立っていた。

渡された紙と照らし合わせて

「う〜ん、ここかなぁ…」

っと辺りを見回したが、

何処にもバレーのコートやネット等は無く

「あれぇ?、これではいったい何処で練習をするんだろう?」

そう思いながらプレハブに近づくと、

出入り口のところに

「バレ……」

と一部が見にくくなった看板が掲げられていたので、

「どうやら、ここが部室のようだな」

と判断して中の様子を伺った。

すると

「見学の方ですかぁ〜…遠慮しないで入っていいですよ」

と声をかけられたので思い切ってドアを開けてみると、

中は着替えやらゴミでごちゃっとした部室を想像していた予想と違って、

広々とした磨き上げられたフローリングの床に

ジャージ姿の4人ほどの人たちが二人一組になって柔軟運動をしていた。

そのうちの一人が僕に気づくと

「見学の方ですか?」

と訪ねたので、

「あっ、あのぅ、バレー部の方ですか?」

と僕が聞き返すと

「あぁそうだけど、君は」

と再び聞かれた、

僕は

「あっ、あのぅ、新入部員の矢上です。」

と答えると、

すると他のもぅ一人が、

「あぁ、君かぁ、

 部長がようやく見つけた新入部員と言うのは」

と言いながら近づいてきた。

「矢上です。よろしく」

と言って頭を下げると、

しかし、この人達って男なのかなぁ…

女の人のようにも見えるけど

と中性的な雰囲気がする彼らを眺めた。

そして、僕は周囲を見ながら、

「あのぅ、どこでで練習をしているんですか?、

 バレーをするには随分と天井が低いんですね」

と言うと練習場の様子を伺った。

カチャッ

するとドアが開いて、昨日の女性が入ってきた。

「あっ、部長!!」

部員達が一斉に女性に注目する。

「へぇぇぇ…バレー部の部長なのかあの人は」

僕は意外な事実を知って驚く

「あっ、矢上君来てくれたのね」

と女性は嬉しそうに言った。

僕は

「よろしくお願いします」

と挨拶をすると、

彼女は

「そんな堅苦しい挨拶はいらないわよ」

と言い、そして、

「じゃぁレッスンを始めましょうか?」

と言ってジャージを脱ぐと、

白いタイツに包まれた足と、

小さいフリルのスカートが着いたピンク色のレオタードが

僕の目に飛び込んできた。

「え?」

僕が驚きの声を上げてほかの部員達を見ると、

彼ら次々と白タイツにピンクのレオタード姿になっていった。

さらに、よくよく彼(彼女?)らの体を見ると

顔は男の様な顔つきだけど

レオタード越しに見る体つきは

女性と見分けがつかないほど女性型になっていて、

胸には2つの膨らみがくっきりと浮き出ていた。

しかし、フリルのスカート越しに見える股間には、

かすかな膨らみがあるのでどうやら彼らは男の人のようだった。

「あっあなた方は男の人なんですか?」

と聞くと

「えぇ、一応あたし達は部長を含めて全員男ですよ」

と答えた。

「え?部長もオトコなんですか?」

僕が驚きの声を上げると

「そうよ、だってココは「バレエ部」ですもの」

「バレエ部?…バレエ?バレーボールじゃないんですか?」

と聞き返すと、

「えぇそうよ、踊るバレエよ…だけど部員はみんな男

 だから、女の子になってレッスンをしているのよ」

と答えた。

「すみませんが、入部の話は無かったことにしてください」

と言って僕が荷物を持ってそそくさと出ようとしたとき

たちまち部員達に両腕をガッシリと握られると

「うふふふ、心配しないで大丈夫よ、

 卒業までにあたし達があなたを立派なバレリーナにしてあげるから…」

とささやいた。

「さっ、部長、新入部員にバレエ部恒例の儀式を…」

と部員が催促すると

「えぇ、判ってますわ」

と言いながら部長が奥の棚から

意味ありげな一足のトゥシューズを取り出してきた。

「これは、このバレエ部に代々伝わるトゥシューズ…

 なんでもその昔、バレエを踊っている途中で息絶えた
 
 バレリーナの怨念がこもっているのよ

 故にこれを履いた人はみんなバレリーナの呪いを受けてこの身体になるのよ

と言うと、

部長は手を自分の胸に持っていくと2つ膨らみを強調して見せた。

そして、一足づつ取ると僕の足に丁寧にそれを履かせ始めた。

「やっ、やめろ!!」

僕は足をばたつかせて逃れようとしたが、

手足を押さえつけられているので身動きが出来ず、

「スグに終わるから、そんなに怖がることはないわよ」

と部長は言うと

縛の両足にトゥシューズを履かせた。

「あぁぁぁ…」

僕は両足に履かされたトゥシューズを見ながらおびえていると

しばらくして体中が火照るように熱くなるとムズ痒くなり、

モジモジしはじめるた。

「始まったようですね」

部員の一人が言う

「なんだろう…この感覚は…

 体の中で何かが蠢いているような感覚は…

 くぅぅぅぅぅ…」

僕の顔が見る見る赤くなる

「ねぇ、踊ってみたい?」

部長がささやく、

僕は首を振る。

「ねぇ、バレリーナになりたい?」

再び尋ねてきた。

白いバレエ衣装を身につけ踊っている自分の姿が目に浮かんだ

「…りたい…バレリーナになりたい…」

次第にそんな感情が沸き上がってきた。

「もう一度聞きます、バレリーナになりたい?」

そう尋ねられたとき僕はうなずいた。

「いいわ、矢上クンを自由にしてあげて、

 彼はもぅこのバレエ部の部員だから」

と言うと、僕の身体は自由になった。

意識がもうろうとしている僕に部長は

「じゃぁ、レッスンをしましょう、この練習着に着替えて…」

と言って僕にピンク色のレオタードと白タイツを渡した。



「部長、着替えてきました…」

着替え終わりレッスン場に現れた僕の姿は

なで肩になった肩、

胸には2つのふくらみ、

括れた腰、

張り出したヒップ・

美しい脚線美の足…

そう、僕の身体はバレリーナの呪いを受け女性の身体になっていた。

しかし、女性の身体のなっても

フリルのスカートから覗くの小さな膨らみが

唯一僕がオトコであることを主張していた。

「きれいですわ、矢上さん

 さぁ、レッスンを始めましょう、
 
 卒業までたっぷり時間がありますから」

「えぇ」

と僕はうなずくと、バーに掴まるとレッスンを始めた。

これが、僕がバレリーナへとなる第一歩だった。



おわり