風祭文庫・バレリーナ変身の館






「二人目のバレリーナ」



作・風祭玲

Vol.024





アン・ドゥ・トワァ…

色とりどりのレオタードに身を包んだ少女達が

手拍子に合わせて体を動かす。

アン・ドゥ・トワァ…

アン・ドゥ・トワァ…

僕はそんな彼女たちのレッスンを

ココから眺めるのが半分日課になっていた。

やがて少女達のレッスンは終わり、

彼女たちの姿がバレエ教室から姿を消えてしばらくすると、

僕が待ち続けていた一人の女性が姿を現す。

その女性は白銀のクラシックチュチュに身を包み、

舞台メイクや頭飾りをビシっと決めた、

まさに本で紹介されているような「バレリーナ」そのものだった。

僕が彼女の存在に気づいたのは数週間前、

いつものように少女達のレッスンを見終わった後、

しばらくしてふとバレエ教室の方を見てみると、

無人になったはずのバレエ教室になにやら動く人影が…

「なんだろう…」

と思い目を凝らしてよく見ると、

それは白銀のクラシックチュチュに身を包んだ

バレリーナが賢明にバレエを踊っている光景だった。

「なぜ?」

と言う疑問はスグに踊る彼女の姿に消され、

やがて僕は彼女目当てに見物するようになっていった。

そんなある日、

「もっとそばで見てみたい」

と言う欲求から、

僕は彼女が出てくる時刻にバレエ教室のスグ脇で待機していた。

やがて、無人になった教室内からトゥシューズの音が響き始めると、

僕はそっとレッスン場を覗いた。

ガラス越しに覗いたレッスン場には、

白銀のクラシックチュチュに身を包んだ

バレリーナが賢明にバレエを舞っていた。

そばで見る彼女の姿にしばし見とれていると、

急に彼女は踊るのをやめ。そして

「誰?」

と言いながら振り向いた。

僕はとっさに隠れようとしたが、

それよりも早く彼女と目が合ってしまった。

彼女は僕の姿を見ると驚きもせず、微笑みながら、

「そんなところで覗かずに、こっちに入ってきなさい。」

と言った。

僕はどうしていいのか判らず、立ちつくしていると、

「さぁ、入っていらっしゃい」

と言って彼女は僕を招いた。

ばつの悪そうな顔をして入ったレッスン場には、

少女達が流した汗の香りが漂っていた。

僕が入ってくると

「あなた…いつもあそこから私を眺めている子ね。」

と言ったので、

「えっ、知っているんですか?」

と訊ねると、

「えぇ、そりゃもぅ…」

と笑いながら答え、

「あなた、なんで私の姿を見ているの?」

と彼女は聞いてきた。

なんでって…そりゃぁ…

僕が悩んでいる様子をみた彼女は

「なにか言えないこと?」

「いっ、いえ…そぅじゃぁないんです」

「えっ?じゃ何?」

「実は…僕は…お姉さんみたいになりたいんです。」

「私みたいに…って?」

「あなた、バレリーナになりたいの?」

「そうです、お姉さんみたいな衣装を着て、お化粧して、そして…」

「って、可笑しいですよね、男がバレリーナになれるわけないのに…」

と笑いながら言うと、

「…………」

彼女はじっと僕を見つめていた。

「あっ、これで失礼します。今日はありがとうございました」

っと言って僕は席を立とうとしたとき、

「ちょっとお待ちなさい」

と彼女が言って僕の背後に回ると手を僕の首に回して

「そぅねぇ…確かにあたしもこの衣装に憧れて…」

と言ったところで

「あなた、本気でバレリーナになりたいの?」

と僕の耳元で囁いた。

僕は黙って頷くと、

「それじゃぁ、あなたはあたしの仲間ね…」

と言いながらレッスン場の奥へと姿を消した。

「仲間?」

僕は彼女が突然言った意味不明の言葉を復唱した。

仲間ってどういう意味なのかなぁ…

などと思っていると、

彼女は一着の衣装を持って再び僕の所に戻ってきた。

そして

「じゃぁコレを着てみて」

と言ってその衣装を僕に渡した。

僕に手渡されたのは彼女が着ている衣装より

一回り小さそうなクラシックチュチュと

バレエタイツ・トゥシューズだった。

「コレは?」

僕が訊ねると、

彼女は

「あなたのその願い、実現させてあげる…」

と囁いた。

「でも…」

「恥ずかしがることはないよ、あなたと私は秘密を共有したんですから」

と言って僕の服を脱がし始めた。

バレエタイツを履いたのちに、チュチュを着てみると、

小さく見えたチュチュは僕の身体にピッタリとフィットした、

また、トゥシューズも履いてみるとコレも足のサイズにピッタリだった。

あまりにも出来過ぎているような状況に僕はちょっと不安になると、

「かわいぃわよ、じゃぁ、バレエの基礎から始めましょうか…」

と彼女が言い、そして

「1番のポジションから…って出来る?」

と聞いたので

僕は黙って頷きポジションを見せた。

「あら、出来るの?、じゃぁ2番のポジション」

僕は、2番のポジションを取った。

「じゃぁ、3番…4番…」

僕は彼女の指示に従ってバレエのポジションを次々とこなした。

「すっごぃ、君ってバレエの基礎が出来てるじゃない」

っと感心した。

「はぁ、バレエを習っているつもりで

 入門書を見ながらいつも練習をしていましたから」

と僕が言うと

「大したモノねぇ…」

と彼女は感心しながら、

「じゃぁ早速踊ってみましょうか?」

と言った。

「えっ、でも僕はまだバレエの踊りは…」

と言うと

「うふふふふ…あなたにはバレリーナになれる素質があるのよ」

と言いながら彼女は僕をレッスン場の真ん中に引っぱり出した。

そして

「あたしと同じようにすれば、バレエは踊れるわ」

と言いながら舞い始めた。

僕は彼女の踊り方をマネしながら体を動かすと、

不思議にも体は軽く動き、

そして徐々にバレエが踊れるようになっていった。

「美しいわよ…あなた…」

そう言いながら彼女は僕のウェストに手を持っていくと、

「でも、ウェストはもっと細い方がいいわね」

と言ってグッと手に力を加えると、

僕の腰は見る見る細くなっていった。

僕は驚いて踊るのを止めようとすると

「バレエを止めてはダメ」

と諭すと

「バストとヒップは大きい方がバレリーナらしく見えるわよ」

と言って僕の胸と腰に手を当てると、

手が当てられた胸はムクムクと膨らんで見事なバストとなり、

チュチュを下から押し上げた。

またお尻もググっと大きくなると、女性のヒップへと変化した。

「肩幅はもっと狭い方がいいわ」

と言って、両肩に手をおくと僕の肩はなで肩へと変わり、背中を美しく表現し始め、

「手足は細く白く…」

と言うとまるで粘土細工のように僕の腕や足は細くなった。

こうして僕はバレエを踊りながら、

バレリーナの身体へと作り替えられていった。

そして、髪が綺麗に伸ばされて頭の後ろにお団子が作られると、

レッスン場の鏡にチュチュに身を包んだ

二人のバレリーナの姿が映し出されていた。

「これは…」

僕はバレリーナとなった自分の姿に驚いていると、

「どぅ、念願のバレリーナになった気分は…」

と彼女が囁く、そして

「実は、あたしもこうしてバレリーナにされたのよ」

と付け加えた。

「え?」

と彼女を見返すと、

「さぁ、あなたが踊る舞台ここじゃないわ

 私があなたにふさわしいところに案内してあげる…」

と言うと、僕の手を引っ張ってレッスン場の奥へと消えていった。



翌日

「あれぇ?」

一人の少女がレッスン場の奥に掲げられている

数枚の絵の中の1枚の絵を見て首をひねる。

「どうしたの?」

他の少女が訊ねると、

「この絵のバレリーナは二人だったっけ?」

と言うと

「ん〜?」

その子は毛をしげしげと眺め、そして

「よく分からないけど、いたんじゃないの?」

と言うと、

「さっ、レッスンが始まるから行こう」

と言って少女の手を引っ張って行った。


絵にはクラシックチュチュを身にまとった二人の女性が

バレエを踊っている様子が描かれていた。



おわり