風祭文庫・バレリーナ変身の館






「バレリーナへ…」



作・風祭玲

Vol.018





はじめに…

このお話は「第2話:姉のレッスン」の別バージョンです。

ドコが違うのか読み比べてみてください。




アキオが姉のユキコより呼び出され、

彼女が所属するバレエ団のレッスン場に着いたのは

その日の夕方だった。


彼は以前からバレリーナに倒錯した感情をもっていて、

ユキコが公演などで不在なときを見計らっては彼女の部屋に忍び込み、

仕舞ってあるレオタードやタイツをこっそり身につけると、

バレエ教室でレッスンを受けている自分の姿を妄想しながら

自慰行為を行っていた。

そして

「バレリーナになりたい。

レオタードを着てバレエのレッスンを受けたい。」

っと密かに願っていた。

そんなある日、

アキオが学校から帰ると

自分の机の上に1通の手紙が置いてあるのを見つけた。

「なんだろう?」

と思って開けてみると、

差出人はユキコからで、

「アキオに重大な用があるから、

 直ぐにバレエ団のレッスン場へ来い。」

と書いてあった。

アキオは

「え?」

っと一瞬不安になったが、

不安よりも憧れだった

バレエ団のレッスン場に入れる言う期待で、

胸がいっぱいになった。

アキオはスグに家を出ると、

姉が待つバレエ団のレッスン場へと直行した。

しかし、

彼がレッスン場に到着すると、

その建物からは人の気配がなく、

近所の公園で遊んでいる子供達の声が響いているだけだった。


アキオは少し不安になりながらも、

建物に入るとレッスン室へと向かった。

建物の中は彼が小学校の頃に

姉のレッスンの見学に数回来たことがあるので、

レッスン室の位置は大方判っていた。


レッスン室に着くとアキオは大きく深呼吸して

「姉さん、僕だけど…」

と言いながらレッスン室のドアを開けた。

そこにはレオタードにトゥシューズ姿のユキコが一人で立っていた。

アキオは間近に見るレオタード姿の姉に一瞬欲情したが、

それをかみ殺しながら、

「姉さん、ぼくに何か用なの?」

と言いうとユキコは振り返り

そして彼を一瞬キッと睨んだ

「よく来たわね、アキオ」

アキオは姉の意外な目線にちょっとビックリしながら、

「手紙が置いてあったから着たんだけど、用って何?」

と訊ねると、

「あなたをココに呼んだのは、

 あなたにバレエを教えてあげようと思ってね…」

アキオは姉の意外な言葉にドキッっとしながら、

「僕に…バレエを?」

と聞き返した。

ユキコはアキオを再び睨むと、

「あら、あたしが何も知らないって思っているの?」

と言って一冊の本を床に放り投げた、

それは彼がユキコの部屋から失敬して

自慰行為のおかずにしていたバレエのパンフレットだった。

さらにそれには

「バレエを踊りたい、バレリーナになりたい。」

と書いたアキオのメモを挟んでいたのだった。

ユキコはさらに付け加え

「あなたがあたしのいないときに、

 あたしのレオタードでヘンな事をしているのも、
 
 ちゃんと知っているんだからね」
 
と言った。

「バレタ…」

アキオの頭の中にその言葉が響くと一瞬の内に硬直してしまった。

ユキコはアキオの顔色が変わったのを確認すると、

「だから、

 あなたがこれ以上ヘンなことができないように、
 
 あなたにバレエの厳しさをみっちりと仕込んで上げるから、
 
覚悟しなさい。」

と言うと、トゥシューズの音を響かせてユキコは隣の部屋に行った。

そして、

「なにそこで立っているの、早くこっちに着て着替えなさい」

と命令した。

アキオはユキコの言葉に一瞬ビクっとすると、

スグにユキコが入った部屋に向かっていった。

彼女が入った部屋は、更衣室だった。

彼が更衣室に入ると、

そこにはバレエで汗を流した女性達の臭いで満ちていた。

「なにボサっとしているの!」

ユキコの強い声でアキオは我に返った。

彼女は更衣室の中央で白い衣装を持って立っていた。

アキオには姉が持っているのが

クラシック・チュチュであることがスグに判った。

ユキコはアキオの視線が

自分の持っている物に向いているのを見ると、

それをアキオの足下に放り投げ

「これ、なんだかわかるわね。」

と言った。

アキオは姉の質問に答えないでいると、

再び強い声で

「言いなさい」

と命令した。

アキオはやや小さい声で

「チュチュです」

と答えた。

彼が答えるとユキコは無表情に

「はい、これがタイツと、これがトゥシューズ」

と言って次々をアキオの足下に投げた。

そして

「チュチュはちょっと古くて飾りも取れちゃっているけど、

 あなたの体のサイズには合うはずよ

 さっ、それに着替えなさい」

と再び命令した。

「え?」

彼が驚いていると、

「そんな格好じゃぁバレエはできないでしょう」

とアキコは言う、

「でも…」

アキオが躊躇していると

「さっさとするっ」

ユキコの怒鳴り越えが更衣室に響いた。

アキオはためらったものの、観念して着替え始めた。

彼は着ている物を全て脱ぐと、

タイツ・チュチュと身につて行ったが、

チュチュの背中のホックがなかなか止められなかった。

「なにやってんのっ」

ユキコは呆れながら彼の様子を見ていたが

作業が捗らない様子に痺れを切らせると

「まったく、もぅ、貸しなさい」

と言ってホックを止め始めた。

そして、ぴったりと彼の体に収まったチュチュを見ると

「へぇ、サイズぴったりじゃない」

と感心しながら言う。

なんとかチュチュを着終わると、

今度はトゥシューズに足を入れ

シューズの紐を足首に巻いて止めた。

彼が着替え終わると、ユキコは

「さぁ、レッスン場に行きなさい」

と命令した。

チュチュ姿になったアキオは、

慣れないトゥシューズの音を立たてながら

レッスン場へと出て行った。

後からユキコがレッスン場に行くと、

チュチュ姿になったアキオが

ばつの悪い顔をして待っていた。

ユキコはそんなアキオに容赦なく、

「さぁ始めるわよ!!」

と言って

アキオにバレエの初歩であるポジションを次々を教えていった。

彼は大汗をかき、

ヒィヒィ言いながら姉が要求するポジションをこなしていった。

やがて日は落ち満月がレッスン場の窓を飾る頃、

アキオはようやくバレエのポジションを覚えると

ユキコは続いてパを教え始めた。

そしてアキオがパをこなす様になると、

ユキコはこれでもかと今度はバリエーションを教え始めた。

月の光を受けながら、アキオは賢明にバリエーションを踊った。

ところがユキコは全くのシロウトであるアキオが、

完璧なバリエーションをこなしているコトに疑問を持ち始めた。

「変ねぇ…なんで、あの子がこんなに踊れるの?

 それに、体もあんなに柔らかくなって」

そぅ、アキオがユキコから最初にポジションを教わっていた時は、

ろくにポアントで立つことも出来ず足も満足に開かなかったのが、

いまでは楽々と開脚ができ、

アラベスクも優雅に決まるようになっていた。

アキオもまた同じようにバレエを踊れる自分を不思議に思っていた。

「…一休みしましょう」

と言うユキコの声で

アキオは踊ることから解き放たれた、

そして、その時になって自分の胸が膨らんでいるのに気づいた。

「えっ」

アキオは手を自分の胸に持っていった。

すると

フニッ

とチュチュ越しに柔らかい感触が手に広がった。

その感触にアキオは驚いた。

そして

「おっ、お姉ちゃん」

とアキコを呼んだ。

しかし、その声色はアキオのではなく鈴のような音色の少女の声だった。

ユキコは意外な声にビックリしてアキオを見た、

すると彼が着ているチュチュが月の光を受け、

優しく真珠色に輝きだした。

そして、その輝きの中でアキオの体が徐々に丸みを帯び、

肩幅が狭くなっていった。

アキオはその場にへたり込んだチュチュはさらに光を増し、

やがて彼の体は光の中へ沈んでいった。

しばらくすると光は徐々に弱まり、

まぶしさのために目をつむっていたユキコが目を開けると、

彼女の目の前には細かい羽根飾りと宝飾が施された真珠色のチュチュを身につけ、

頭には羽根飾りと王冠を飾ったバレリーナが立っていた。

「…あの話って本当だったんだ…」

可憐なバレリーナへと変身したアキオの姿を見たユキコはそうつぶやき、

そして、アキオに着させたチュチュにまつわる話を思い出した。

「まさか、こんなことになるなんて」

ユキコが呆然としていると、

「お姉ちゃん?」

アキオが不安そうな顔をしてユキコの表情を見ている。

「えっ?あぁ…」

ユキコはアキオに気づくと返事をした。

「大丈夫よ…

 アキオ、あなたは念願のバレリーナになれたのよ」

といいながらバレリーナになった彼を抱きしめた。


それから、数ヶ月後ユキコのバレエ団による公演が開かれた。

そして、メンバーの中にバレリーナ姿のアキオがいた。



おわり